栄剣『現代中国の精神史的考察』
栄剣著、石井知章監訳『現代中国の精神史的考察 繁栄の中の危機』(白水社)を、石井さんからお送りいただきました。
ハンナ・アーレント、ハイデガーの思索を導きに、あるいはロナルド・コースの経済学を頼りに、現代中国を俯瞰する、精神史的考察
序
自序
I 「重慶モデル」批判
第一章 重慶に馳せ参じる学者たち
第二章 「重慶モデル」は左右の争いを超えることができるか
第三章 強者政治と権威主義政治
第四章 重慶の神話化と脱神話化
II 時務評論
第五章 中国の国家主義はこの先どこまで進むことができるか
第六章 新民主主義への回帰は可能か
第七章 「ポスト紅」の憂患意識と経路依存
第八章 憲政と中国共産党の政治的合法性の再建
第九章 中国共産党のアキレス腱
III 社会批判
第十章 中国における道徳の困難
第十一章 革命家の勝利は何を意味するのか
第十二章 汪暉と「ハイデガーの時」
第十三章 特異な時代における道徳的事件と道徳的実践者
補章 日中関係三論──東京大学での講演
監訳者あとがき/訳者略歴
オビに「新全体主義の時代経験」とあるように、以前『労働新聞』で取り上げた張博樹『新全体主義の思想史』にも登場していた栄剣さんの現代中国論です。
【GoTo書店!!わたしの一冊】張博樹『新全体主義の思想史 コロンビア大学現代中国講義』
本書の最後に収められた「補章 日中関係三論──東京大学での講演」の最後の方の一節が痛切です。
一方中国を見ると、愛国主義の旗印の下、二つの主義が非常に高まっている。ナショナリズムとポピュリズムであり、これと相応する二つの感情が非常に高まっている。つまりは革命の感情と戦争の感情だ。ナショナリズムの旗印を掲げ、街をデモし、日本に抗議し、日本製品をボイコットし、さらには破壊行為をする人々は、大多数は中国の底辺で生活し、国家の発展からいかなる利益も得ていないのであり、彼らは内心では、戦争や革命により現有の権力や利益構造を転覆したいと思っており、現有体制では変えることができない生活の状態を再び変えたいと思っているのだ。
それゆえもし誰かがナショナリズムやポピュリズムを利用しようとするなら、そのリスクは非常に大きなものであり、今日日本に向けて点けられた怒りの火が明日には尖閣諸島ではなく、中国の政府の建物に引火するかも知れない。民意を利用できると考えてはならず、真の民意はそれを操ろうとする者の手にはないのである。
この一節を読んで、「丸山真男をひっぱたきたい」赤木智弘氏を思い出した人もいるのではないでしょうか。
« 熊沢誠『イギリス炭鉱ストライキの群像』 | トップページ | 芸能人が自営業者だというのならこの方が当然? »
コメント