西村純子・池田心豪編著『社会学で考えるライフ&キャリア』
最近、社会学者といえば現実を知らない空理空論を並べる奴みたいな妙な印象操作が流行っている一方で、マックス・ウェーバーも読まないで云々とやたらに高邁なことをぶつ御仁もこれあり、まことに困ったことじゃのうと思っておられる方々も多いのではないかと拝察しますが、いやいや社会学というのはまさに現実社会と真正面に向き合って、その内在的論理を掴もうとするものなんだということを、大変わかりやすく解説してくれる本がこれです。
オビにも「今こそ社会学は役に立つ」とありますが、「はじめに」の冒頭でも、
https://www.biz-book.jp/book_data/browse/978-4-502-46401-0/index.html?pNo=2
社会学を勉強しておくと、卒業後の人生を歩んでいくうえで大いに役に立ちますよ、これが本書のメッセージです。・・・
と、大学生向けに宣伝していますね。
目次は下にコピペしておきますが、各章の冒頭にイントロとしていろんな会話みたいなのが置かれていて、第4章の「なぜ就活しないといけないのか」(福井康貴さん執筆)では、こういうやや作ったような先輩と後輩の会話から始まります。
後輩A「わたし、大学を卒業したら世界を放浪して、それから世界を変えるような仕事をしたいんですよ!」
先輩A「何を夢みたいなこと言ってるの。就活の時期を逃したら人生台無しだぜ?」
先輩B「そうそう。日本の会社はね、本音では出る杭を求めていないのよ」
後輩B「やっぱり学生のうちに就活しないといけないんですか?」
先輩A「世の中には2種類の人間しかいない。新卒かそれ以外かだ」
先輩B「履歴書に空白があるとまずいって聞くね」
後輩A「そんなのおかしくないですか?大事なのは仕事ができるかですよね。履歴書に空白があると何かまずいんですか?」
先輩A「会社の人に言ってくれよ。俺に言われても困る」
先輩B「夏休みに行けばいいじゃない。それから休学したら」
後輩B「そういう先輩たちはどんな仕事をするんですか」
先輩A・B「まだ決まってない」
後輩A「決まっていない?就活は終わったんですよね?」
先輩A「お前は何も知らないんだな・・・。あのな、日本の会社では仕事は上が決めるの。俺たちは配属先で頑張るわけ」
後輩B「日本は就職ではなく就社だってどこかで読んだことがあります」
先輩A「まあ、そんな感じかな。職業を選ぶんじゃなくて会社を選ぶわけだから」・・・
この様に労働社会学、教育社会学のネタが(わざと)てんこもりで、これらを一つ一つ解説していくわけです。それは世間知らずの大学生には「役に立ちます」ね。
こういう調子で、仕事と生活に焦点を合わせた全14章でまともな社会学をするっと勉強できます。
はじめに
プロローグ やりたいことが見つからない? 池田心豪/西村純子
イントロダクション
1 今という時代を生きる
2 産業化の帰結―安定型ライフ&キャリアの社会的背景
3 多様化の模索―ライフ&キャリアのニューウェーブ
4 変化の時代を生きる
ブックガイド◀第1部 現代社会で人生を歩むということ▶
第1章 資本主義社会日本で働くということ 山下 充
イントロダクション
1 日本の資本主義社会で働くということ
2 日本的雇用慣行の形成(黎明期:1945年-1950年代)
3 雇用システムの形成(1960年代-1980年代)
4 経営環境の変化と雇用システムの転換
(1990年代-2020年代)
ブックガイド
第2章 福祉社会日本で生きるということ 山下 充/池田心豪
イントロダクション
1 誰と助け合って生きていくか
2 日本における社会保障・社会福祉の形成(戦前から高度成長期まで)
3 リスク社会を生きる
4 縮小する福祉社会を生きる
ブックガイド
第3章 階層社会日本で生きるということ 竹ノ下弘久
イントロダクション
1 格差社会とライフコース
2 社会階層論の基本的な考え方
3 高度経済成長期と社会階層
4 近年の階層構造の変化
5 階層構造の変化とライフコース
ブックガイド◀第2部 就職して「社会人」になるということ▶
第4章 なぜ就活をしないといけないのか 福井康貴
イントロダクション
1 新卒一括定期採用という謎
2 日本型雇用システムと大衆教育社会
3 「失われた20年」と新卒採用
4 横並び型「シューカツ」のゆくえ
ブックガイド
第5章 異動や昇進はしなくてはいけないのか 佐野嘉秀
イントロダクション
1 昇進・異動をめぐる企業と人
2 長期雇用と昇進・異動
3 昇進・異動の変化と企業内キャリア
4 昇進・異動とキャリアの選択
ブックガイド
第6章 転職・独立という選択肢 福井康貴
イントロダクション
1 会社を辞めるという選択
2 高度経済成長期の転職と自営業
3 安定成長期以降の転職と自営業
4 これからの転職と独立
ブックガイド
第7章 ずっとパート・アルバイトではいけないのか 佐野嘉秀
イントロダクション
1 非典型雇用と非正社員
2 正社員と非正社員
3 雇用システムと非正社員の基幹化
4 正社員と非正社員のキャリアのちがい
ブックガイド
第8章 なぜ貧困は生きづらさにつながるのか 森山智彦
イントロダクション
1 日本に貧困はあるのか
2 こうして貧困から抜け出した―戦後からバブル期までの日本の貧困
3 こうして貧困がまた生まれた―バブル崩壊から現代までの日本の貧困
4 貧困にどう立ち向かうのか
ブックガイド
第9章 地域に密着して働くことは楽しい? 土居洋平
イントロダクション
1 地方移住やコミュニティへの注目の高まり
2 拡大と成長の時代―都市で働くことを通じて自己を実現する時代
3 拡大と成長の時代の終焉―自己実現の場はどこか?
4 おわりに―何のために働くのか
ブックガイド◀第3部 「普通の人生」はあるのか▶
第10章 未婚のままでいることは気楽か 大風 薫
イントロダクション
1 未婚期間の長期化と親子関係の変化・リスク
2 結婚適齢期からの解放とパラサイト生活
3 重なり合う親子のライフコースとキャリア選択
4 リスク社会における個人の自立と格差
ブックガイド
第11章 結婚は幸せか 西村純子
イントロダクション
1 近世の結婚から「近代家族」へ
2 「結婚=幸せ」の時代
―高度経済成長期から1980年代ごろまで
3 「結婚=幸せ」への疑問
4 これからの結婚を考える
ブックガイド
第12章 親になるということ 三部倫子
イントロダクション
1 「母親らしさ」「父親らしさ」って何?
2 出産と子育てのための(異性)結婚
3 女性カップルの子育て
4 親になることの多様性
ブックガイド
第13章 ひとり親として日本社会をどう生きるか 藤間公太
イントロダクション
1 はじめに
2 ひとり親家庭を「例外」とする日本社会
3 ひとり親家庭が経験する困難
4 離婚を「不幸」につなげない社会を作るために
ブックガイド
第14章 働きながら親の介護をすること 池田心豪
イントロダクション
1 年老いた親の介護は誰が担うのか
2 女性にとっての介護問題
3 多様化する介護問題
4 柔軟な発想で介護に対応することが重要
ブックガイド
エピローグ ライフ&キャリアはいつまで続くのか 池田心豪/西村純子
イントロダクション
1 人生100年時代のライフ&キャリア
2 定年退職からライフ&キャリアを考える
3 超高齢社会のライフ&キャリア
4 年齢にとらわれないライフ&キャリアは可能か
ブックガイド
索 引
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コメント
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社会学はいまいちよく分かっていませんでしたが、これなら世の中がまともに見えてきそうです。
それからこのブログでも登場する井手英策さん。
井手さんのご専門は「経済学」と言われていますが、最近は「財政社会学」が専門である、と言うようになりました。
この本がそうです。
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641166127
投稿: balthazar | 2023年9月29日 (金) 19時14分