売春/性労働をめぐる欧州議会の二つの認識
一昨日(9月14日)欧州議会でEUにおける売春規制に関する決議が採択されたのですが、その元になった報告案を見ると、欧州議会の女性議員たちの間で売春/性労働をめぐる認識に鋭い対立があることが分かります。
この最後に説明的声明(EXPLANATORY STATEMENT)としてつけられているのが多数派議員の認識で、売春とは女性に対する暴力だというものです。
Prostitution is a form of violence and both a cause and a consequence of gender inequality. The gender-specific nature of prostitution reflects the prevailing power relations in our society. Prostitution reproduces and perpetuates stereotypes about women and men. This clearly includes the view that women’s and girls’ bodies must be for sale in order to satisfy the male demand for sex, and the view that men must and have a right to live their sexuality with another person. This also has a clear impact on gender equality and the further realization of women’s rights.
売春は暴力の一形態であり、男女不平等の原因でもあり結果でもある。売春の性別特有の性質は、私たちの社会に蔓延している力関係を反映している。売春は女性と男性に関する固定観念を再生産し、永続させる。これには明らかに、男性の性的欲求を満たすために女性や少女の身体は販売されなければならないという見解と、男性は他者とセクシュアリティを享受しなければならず、またその権利を持っているという見解が含まれている。これは、男女平等と女性の権利のさらなる実現にも明らかな影響を及ぼす。
一方で、その後につけられている少数派意見(MINORITY OPINION)では、全く異なる認識が展開されています。
The terms used in this report, i.e. “prostitution”, “women in prostitution”, denote value judgements, carry connotations of criminality and immorality, and stigmatise a marginalised community; people who sell sexual services prefer the term “sex workers” because the use of “prostitute” contributes to their exclusion from society, including access to health, legal and social services;
We see that the criminalisation of any element of sex work often compromises the safety of people selling sex, leading them to work covertly and preventing them from organising and effectively addressing exploitation in the sex industry.
この報告書で使用されている用語、つまり「売春」、「売春中の女性」は、価値判断を示し、犯罪性や不道徳性の意味合いを含み、社会から疎外されたコミュニティに汚名を着せるものである。性的サービスを販売する人々は、「売春婦」という用語を使用することが、健康、法律、社会サービスへのアクセスを含む社会からの排除につながるため、「性労働者」という用語を好む。
性労働のあらゆる要素が犯罪化されると、性を販売する人々の安全が損なわれることが多く、彼らが秘密裏に働くようになり、性産業における搾取に組織的に対処したり効果的に対処したりすることが妨げられると考える。
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人種とか、世代とかも、そうですが、「自発的結社ではない集合体」を前面に打ち出すのは、
「一部の(場合によっては多くの)人達はそうなのかもしれませんが、私は知りませんよ」と
いうのを抑圧する運動ではありますね
投稿: たく | 2023年9月17日 (日) 13時53分
買春を女性への暴力として批判的に考える見解のほうが欧州でも多数派なのですね。ただこの場合の女性議員というのは右から左まですべてということでしょうか。左派の中だと少数意見のほうが主流となっていそうです。
投稿: 希流 | 2023年9月18日 (月) 10時39分
本文リンク先の一番下に、賛成票、反対票、棄権のそれぞれを投じた議員の所属政党別一覧が載っていますが、ざっと見た感じ、政党の色分けがある一方で、同じ政党の中でも票が分かれたりしており、欧州でもこの問題がなかなか難しいことを示しています。
まず、保守系のPPE(欧州人民党)は7人そろって賛成で、性労働派はいない。社会民主党は6人が賛成ですが、一人が反対に回り、一人が棄権しています。一番悩んでいる党派かもしれません。
左翼党は二人とも賛成で、これに対して右翼のID(アイデンティティと民主主義)は3人とも反対で、政党として明確です。
社民党と同様党派内で分かれているのが緑の党ですが、賛成一人、反対3人と、反対に傾いています。
あと、刷新が3人とも反対、保守改革グループが二人とも棄権となっています。
投稿: hamachan | 2023年9月18日 (月) 13時32分
「刷新」という会派がよくわからなかったのですが、経済的自由主義を中心とした、古典的自由主義(リベラリズム)を志向し、宗教倫理を政治に持ち込むことに反対する、自由主義政党の会派ですね。
この論点については、キリスト教民主主義にルーツがあり、宗教倫理をベースとする、パターナリスティックな人権保障を重視する、欧州人民党(保守党)とは完全に対極の立場を取ることになりましたね。
しばしば、この両派は社会主義政党に対する、右派・保守政党とひとまとめにされることがありますが、論理的に考えると、確かにこの論点で両派の見解が180度相違する、というのは必然的で、そのことが明確になった、という点でたいへん興味深い投票結果でした。
投稿: SATO | 2023年9月22日 (金) 20時31分