宮里邦雄さんの最後の事件
日本労働弁護団の『季刊・労働者の権利』2023年夏号は、追悼特集と銘打って、弁護士宮里邦雄が遺したものについて多くの弁護士や労働法学者が寄せ書きをしていますが、
その中で、中野麻美さんが書かれた「大学の自治と団体交渉権」という文章は、宮里さんが亡くなる直前まで担当していたある事件について熱っぽく論じていて、大変面白く感じました。
・・・学問の自由と大学の自治も、有期雇用法制の教職員への適用とともにその在り方が問われるようになっている今日、公募手続をめぐって提起されたこの事件は、大学や研究機関における学問研究の在り方を根底から問いかけるものと受け止められる。
労働法学会に向けて先生が構想された講演はついに実現しなかった。先生の構想も私たちにはわからない。学術会議人事への政府の介入の動きもあって、学問の自由をめぐる問題が学界・大学の自治とともに労働問題として浮上するところで、歴史は、私たちが何をしたのかを問うことになるのだろう。ユニオンと組合員は、上告等の手続とあわせて,改めてこの情報開示・説明義務に関して新しい角度から団体交渉に挑戦している。機会があればその内容を紹介させていただくとして、宮里先生のご冥福を心よりお祈りして本稿を閉じる。
というのも、実は私はわりと最近、この事件を東大の労働判例研究会で評釈したところだったからです。
http://hamachan.on.coocan.jp/rohan230512.html
労働判例研究会 2023/5/12 濱口桂一郎大学教授の採用選考情報開示拒否学校法人早稲田大学事件(東京地判令和4年5月12日)(判例集未搭載)Ⅰ 事実1 当事者X1:Yの専任教員募集への応募者(政治学者)X2:X1が加入している組合(東京ユニオン)Y:大学等を設置している学校法人(早稲田大学)
この評釈をしたときには、既に宮里さんは亡くなっておられたので、評釈の冒頭でこうコメントしていました。
Ⅲ 評釈 判旨に反対するのは困難だがいくつか論点がある1 本事案の射程本判決を通常の労働法の感覚で評釈するならば、「判旨賛成、原告の訴えには無理がある、以上。」で終わるような事案であろう。しかしながら、それで済ませて良いのか、多くの人に何らかの違和感が残るのではなかろうか。ここでは、その違和感の依って来たるところを少し突っ込んで考えてみたい。一つ目は、募集採用に係る日本の判例法理として半世紀前に確立している三菱樹脂事件最高裁判決の射程がどこまで及ぶのか、言い換えればどのような募集採用に対しては及ぼすべきではないと考えられるのかという論点である。もう一つは、これはもはや労働法の範囲を逸脱するとも言えるが、一定の学問的・政治的対立が存在する中における一定の地位をめぐる争奪戦がどこまで法的紛争として救済の対象となり得るのかという論点である。本事案はこういった論点を考える上でいくつもの素材を提供してくれる事案である。以下は、厳密な意味での判例評釈というよりは、これら論点をめぐって思いついたことを書き連ねたエッセイに類する。なお、本件の原告側弁護士は宮里邦雄と中野麻美であり、被告側弁護士は木下潮音、小鍛治広道らであり、両陣営の大物が登場している。宮里は本件控訴審判決(令和5年2月1日)の直後の2月5日に亡くなっており、彼が最後に携わった事件ということになる。・・・・
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