道幸哲也さんと労働教育
北海道大学で長く労働法を担当された道幸哲也さんが亡くなられたというニュースが流れました。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/896048
北大名誉教授で、労働法の第一人者、道幸哲也(どうこう・てつなり)さんが20日午前8時54分、心不全のため、札幌市北区の北大病院で死去した。75歳。
道幸さんはもちろん労使関係法に情熱を注がれた方ですが、晩年の十数年間は労働教育の必要性を倦むことなく説き続けていました。
若者の労働法の知識が乏しいためにブラック企業が横行しているという議論が出始め、半世紀ぶりに労働教育の必要性が論じられるようになってきた15年前、私も若干立ち上げに関わって、厚生労働省に「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」が設けられました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudouseisaku_129263.html
その第2回目の会合に、NPO法人職場の権利教育ネットワーク代表理事として道幸さんが出席され、この法人設立の経緯や労働教育として何が必要なのかといったことを語られています。
https://www.mhlw.go.jp/content/2008__10__txt__s1003-3.txt
○道幸氏 いま紹介いただいたようにNPO法人職場の権利教育ネットワーク代表理事なのですが、本業は北海道大学で労働法を教えております。去年の暮に法人を立ち上げて、少しずつ仕事をやり始めているのですが、どれだけのことをやっているかというと、いまひとつ頼りない状況ですので、むしろなぜこういう問題で立ち上げたかということを中心に、かなり私的な思い入れもありますが、それを中心にお話させていただきたいと思います。資料は、レジュメでなくて文章にしておきました。・・・
次に、NPOを作った経緯をお話したいと思います。3頁ですが、北海道労働審議会というのがあって、これは知事の諮問機関です。(1)の「本道における個別的労使紛争解決システムの整備について」は、北海道労働委員会で個別あっせん制度を導入するかということを議論した委員会です。この委員会で導入を決めたわけですが、その際に最後に個別的労使紛争の予防という観点からは、労働教育にも一層力を入れることが必要だということが書いてあります。これは私が審議会の会長で入れてもらったのですが、これからはこういうことが重要ではないかということです。・・・
2番目が一番の問題だと思うのですが、学校です。特に高校への働きかけは非常に難しいです。だんだんわかったのは、これは当たり前かもしれませんが、学校行事が目白押しのために、なかなか機会を持つのは難しいということです。それから、教育委員会が熱心ではないということ。さらに、自分もやってよくわかったのですが、こういう高校生を相手にする講演のスキルとか適切な教材はどういうものがあるか。それがいま緊急の課題ではないかということです。・・・
3番目は、やはり権利教育の制度化は一定程度必要ではないか。カリキュラムを入れるのは難しくても、進路指導とか、総合学習の中の1つのモデルとして作るとか、ある種の括弧付きの義務化みたいなものは考える時期ではないか。特に我々は北海道、地域にいると、文部科学省本体が何かを言わない限り、地方の教育委員会はほとんど動かないということです。そのために、ある程度、全国的なレベルの制度化をする必要があるのではないかと考えました。以上をもちまして、半分は決意表明的な話なのですが、終わりにします。
この研究会は翌2009年2月に報告書をまとめ、その後2015年の青少年の雇用の促進等に関する法律に、第26条として労働教育に係る努力義務規定が設けられました。
(労働に関する法令に関する知識の付与)
第二十六条 国は、学校と協力して、その学生又は生徒に対し、職業生活において必要な労働に関する法令に関する知識を付与するように努めなければならない。
その後、超党派の議員連盟でワークルール教育推進法案の検討が進められ、2017年の通常国会に議員立法として提出する寸前まで行きましたが、政治情勢のためその後動きは止まったままです。
一方上記NPO法人は毎年ワークルール検定を実施するなど、活動を続けています。
道幸さんのご冥福をお祈りするとともに、労働教育の動きが再度盛り上がることを期待したいと思います。
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