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« ILOが『生成AIと仕事』報告書を公表 | トップページ | EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議@『労基旬報』2023年8月25日号 »

2023年8月23日 (水)

それはベーシックインカムじゃなくって最低所得

31f57aheptl ようやく、ピケティの『資本とイデオロギー』の最終章までたどり着きました。第17章「21世紀の参加型社会主義の要素」は、ピケティの理想社会像を全面展開しているところで、ゲルマン型の労働者の経営参加制度と、累進所得税、累進資産税に加えて、「ベーシックインカム」を推奨しているんですが、ここに違和感が。

少なくとも日本で過去十数年間議論されてきている「ベーシックインカム」というのは、その人の所得の如何に拘わらず、どんなお金持ちにも一率に配分されるものという風に理解されていると思うのですが、少なくともここでピケティが言っているのは、そういうベーシックインカムではありません。その証拠に、邦訳898ページでこう述べています。

・・・ここでは、社会国家と公正な社会の要素としてのベーシックインカムの役割に専念しよう。ベーシックインカム(または最低所得保障)が多くの国、特に西欧諸国に存在しているのは素晴らしい。・・・

現に多くの西欧諸国に存在しているのは、いわゆる「ベーシックインカム」ではなく、最低所得制度です。これについては、昨年10月にEU最低所得勧告が採択され、私が簡単な紹介記事を書いています。

EUの最低所得勧告@『労基旬報』2023年2月25日号

・・・ここでいう「最低所得」とは、「十分な資源に欠ける人の最後の手段(last resort)としての非拠出型(non-contributory)で資産調査型(means-tested)の安全網(safety nets)」と定義されています。日本で言えば生活保護に相当する社会扶助のことです。

ただ、生活保護のことをベーシックインカムと訳すなんて訳者が悪いと罵倒したいわけではありません。だって、原文にはちゃんと「basic income」になっているからです。その意味では本書は忠実な訳です。でも、文の趣旨からすると、意味がずれてしまっているのですね。

ピケティ自身この「ベーシックインカム」について、

・・・たとえば、表17-1に示したそれなりに野心的なベーシックインカムを考えよう。他にまったくリソースのない個人への最低ベーシックインカムを、平均税引き後所得の60%に設定してある。この金額は、他の所得が増えたら減る。・・・

と、補完的制度として設計しています。

こういうのはなかなか難しいところですが、気がついた人が指摘をしておくべきだと思うので、メモ代わりに書き付けておきました。

 

 

 

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コメント

「何か(例えば、就労に向けての努力)と引き換えに」という側面を強調するか、
あるいは、それとも、逆に、できるだけ、ないものとするか、という違いで議論
されることが多かったような気がするのだけど

 私は今日入手しました。

 ベーシックインカムですが、訳者の山形先生はベーシックインカムはあまり好きではなさそうですね。
 この辺りの事情は山形先生がご自身のブログで「資本とイデオロギーを訳するにあたっての苦労話」として話してくれることを期待しましょう(^-^)

実は私も、もう14年近く前に、『日本の論点2010』(文藝春秋)に、いわゆるベーシックインカム論を批判するエッセイを書いたことがあります。

http://hamachan.on.coocan.jp/basicincome.html

ただ、それはあくまでも、一律給付のベーシックインカム論に対する批判であって、ここでピケティが言っているような最低所得保障は必要だと思うし、日本の生活保護の現状は到底それに値しないとも思いますが、それにしても、「お金持ちにも一律給付」という意味で通用してしまっているベーシックインカムという言葉をここで不用意に持ち出してしまうのは、あんまりうまくないよなあ、と感じてしまいます。

本書は既にあまりにも分厚いためか、あとがきのたぐいがまったくついていません。おそらくそのうちどこかで、あとがき代わりのエッセイが書かれるのでしょうが、そこで訳語についての説明もあれば望ましいと思います。

ついに、と言うか、ようやく、と言うべきか、訳者の山形先生のブログに解説がアップされました。

https://cruel.hatenablog.com/entry/2023/09/18/043105

しかしさすがは山形先生、容赦ない解説ですね。

う~ん、やっぱり格差問題は難しい、と言う事でしょうかね。
カール・マルクスは格差問題に生涯かけて取り組んだはずだったけど、主著「資本論」は未完成に終わりましたし。
格差問題は倫理、あるいは宗教とのかかわりも深い問題でもあります。

最近読み直した「歴史の終わり」でフランシス・フクヤマ氏は近代社会は「理性と欲望」で動いている、と言う事を言っています。
そう言う社会ではなおさら格差問題の解決は難しくなったのでしょうね。

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