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2023年7月24日 (月)

EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意@『労基旬報』

115351 『労基旬報』7月25日号に、「EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意」を寄稿しました。

 去る6月12日、EUの労働社会相理事会で、プラットフォーム労働指令案について、議長国スウェーデンの妥協案に合意が成立しました。27か国中22か国の賛成多数で、エストニア、ドイツ、ギリシャ、ラトビア、スペインの5か国が棄権しただけでした。本指令案については、本紙2022年1月5日号でかなり詳細な紹介をしたところですが、2021年12月9日に欧州委員会が指令案を提案してからほぼ1年半で、EUの2つの立法機関のうちの1つがゴーサインを出したことになります。今後、もう一つの立法機関である欧州議会との間で、提案者の欧州委員会も含めて協議が行われていくことになります。
 今回の合意されたテキスト(「一般的アプローチ」)は、元の欧州委員会提案に比べるといくつか修正されています。どこがどのように修正されたのかをざっと見ていきましょう。
 まず、第2a条として、仲介業者を利用したからといってプラットフォーム労働遂行者の保護が縮減されることのないようにせよという規定が挿入されています。仲介業者とは下請も含めてプラットフォーム労働遂行者やデジタル労働プラットフォームとの契約関係を成立させる個人又は法人を指します。この規定を設けた理由は前文第18aにあり、プラットフォーム労働遂行者がデジタル労働プラットフォームと直接契約関係を持たず、仲介業者を介しているケースが見られ、その場合三者間関係のために責任の所在が曖昧になりがちだが、雇用上の地位や自動的意思決定などのリスクには同じように曝されるので、共同責任を含む適切な措置をとるべきだとされています。
 本指令案の最大の目玉商品はもちろん雇用関係の法的推定規定(第4条)ですが、原案の5要件のうち2つ満たせば雇用関係を推定するというのが、7要件のうち3つ満たせば推定するという風になっています。もっとも、新たな要件が加わったわけではなく、原案の第d号が3つに分かれただけです。
(a)デジタル労働プラットフォームが報酬の水準の上限を設定していること、
(b)デジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の規則を尊重するよう要求すること、
(c)デジタル労働プラットフォームが、電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督すること、
(d)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、労働時間や休業期間を選択する裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(da)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、課業を受諾するか拒否するかの裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(db)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、再受託者や代替者を使うかの裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(e)デジタル労働プラットフォームが、顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を制限していること。
 こうした労働者性の判断基準は日本でも違和感のないものですが、7つのうち3つで労働者判定というのは、原案の5つのうち2つで労働者判定に比べて、やや厳格になったといえるかも知れません。
 一方、本条では原案の第2項以下がすべて削除され、代って第1a項として、本条が雇用関係の存否の確認に関する国内裁判所及び行政当局の裁量権に影響しないという規定が盛り込まれており、実質的にかなりの骨抜きが可能になっています。第4a条では、この法的推定が行政及び司法手続に適用されると原則を述べた上で、税制、刑事及び社会保障の手続に適用されないこと、さらに権限ある国内行政機関が自発的に法遵守を確認するような場合には法的推定を適用しないことができるとしています。こういった点に関して、ベルギー、オランダ、スペインなど8か国は批判する共同声明を発しています。一方フランスは雇用の安易な法的推定に極めて否定的な声明を発しています。フランスは司法府の破毀院は労働者性の認定に積極的ですが、行政府は自営業者を自営業者として保護するという政策を追求しているようです。
 本指令案のもう一つの柱であるアルゴリズム規制はより強化されています。第3章の章題も「アルゴリズム管理」から「自動的なモニタリング又は意思決定システムによる管理」となり、原案はまず雇用関係を有するプラットフォーム労働者について規定をした上で、それを雇用関係のないプラットフォーム労働遂行者にも適用していた(旧第10条)のを、はじめからすべてのプラットフォーム労働遂行者に適用される形で規定し直しています。また、両概念については、第2条に定義規定を置き、「自動的モニタリングシステム」は「電子的な手段によりプラットフォーム労働遂行者の個人データを収集し、その労働遂行を監督又は評価するために用いられるシステム」と、「自動的な意思決定システム」とは「とりわけ課業の提供又は割当、報酬、労働安全衛生、労働時間、訓練機会及び契約上の地位(アカウントの制限、停止、解除を含む)においてプラットフォーム労働遂行者に重大な影響を与える意思決定をしたり支援するのに用いられるシステム」と定義されています。
 まず原案第6条第5項は独立の第5a条として、デジタル労働プラットフォームは、自動的なモニタリング又は意思決定システムにより、①プラットフォーム労働遂行者の感情的又は心理的な状態に関する個人データ、②労働者代表との意見交換を含め、私的な会話に関する個人データ、を取り扱ってはならず、③プラットフォーム労働遂行者がプラットフォーム労働を提供又は遂行していない間に個人データを収集してはならないと定めています。
 自動的なモニタリング又は意思決定システムの透明性(第6条)の規定ぶりも整理され、加盟国はデジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働遂行者に対し、①自動的なモニタリングシステムに関しては、(i)かかるシステムが用いられ又は導入過程にある事実、(2)かかるシステムにより収集されるデータ又は監督、評価される行動類型(サービス受領者による評価を含む)を、②自動的な意思決定システムについては、(1)かかるシステムが用いられるか又は導入過程にあること、(2)かかるシステムにより行われ又は支援される意思決定の類型、(3)かかるシステムが考慮に入れる主要なパラメータと、自動的意思決定システムにおけるかかる主要パラメータの相対的重要性(プラットフォーム労働者の個人データや行動がその意思決定に影響を及ぼす仕方を含む)、(4)プラットフォーム労働者のアカウントを制限、停止、解除したり、プラットフォーム労働者の遂行した労働への報酬の支払を拒否したり、プラットフォーム労働者の契約上の地位に関わる意思決定の根拠、について情報提供すべきことを求めなければなりません。デジタル労働プラットフォームは上記情報を電子媒体を含む文書の形で、遅くとも労働の開始日までに簡潔かつ分かりやすい文言で提供しなければなりません。この情報はプラットフォーム労働者の代表や国内当局者にも要請に応じて提供されます。
 次の第7条は人間によるモニタリングの原則です。加盟国は、デジタル労働プラットフォームが定期的に労働条件に関する自動的なモニタリングと意思決定システムによってなされたり支援される個別の意思決定の影響をモニターし、評価するよう確保しなければなりません。加盟国はデジタル労働プラットフォームが上記個別の意思決定の影響をモニターするための十分な人員を確保するよう求めなければなりません。このモニタリングの任務を負った者は、自動的な意思決定を覆すことも含め、必要な能力、訓練、権限を持たなければならず、その役割を果たしたことを理由とする解雇、懲戒処分その他の不利益取扱いから保護されなければなりません。この評価に関する情報は、プラットフォーム労働遂行者及びプラットフォーム労働者の代表や国内当局者にも提供されます。
 これとよく似た発想ですが、第8条は重大な意思決定の人間による再検討を要請しています。加盟国は、上述のプラットフォーム労働遂行者に重大な影響を与える自動的な意思決定システムによってなされたり支援されたいかなる意思決定についても、プラットフォーム労働遂行者がデジタル労働プラットフォームから説明を受ける権利を確保し、特にデジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働遂行者に対して当該意思決定に至る事実、状況及び理由を明らかにする窓口担当者を指名し、この窓口担当者が必要な能力、訓練、権限を有するようにしなければなりません。
 デジタル労働プラットフォームはプラットフォーム労働遂行者に対し、そのアカウントを制限、停止、解除したり、プラットフォーム労働遂行者の遂行した労働への報酬の支払を拒否したり、プラットフォーム労働遂行者の契約上の地位に関わるいかなる自動的な意思決定システムによる意思決定についても、書面でその理由を通知しなければなりません。
 プラットフォーム労働遂行者がその説明や書面による理由に納得しない場合や、その意思決定が自らの権利を侵害していると考える場合は、デジタル労働プラットフォームに対してその意思決定を再検討するよう要請する権利があります。デジタル労働プラットフォームはかかる要請に対し、遅滞なく2週間以内に実質的な回答をしなければなりません。その意思決定がプラットフォーム労働遂行者の権利を侵害していた場合には、デジタル労働プラットフォームは遅滞なくいかなる場合でも2週間以内にその意思決定を是正しなければならず、それが不可能な場合には十分な補償をしなければなりません。そして将来かかる意思決定が起こることのないよう、自動的意思決定システムの修正を含む必要な措置をとらなければなりません。
 労働安全衛生に関しては第8a条として独立の条項となり、デジタル労働プラットフォームは、①自動的なモニタリングと意思決定システムのプラットフォーム労働者の安全衛生に対するリスク、とりわけ作業関連事故や心理社会的、人間工学的リスクに関して評価し、②これらシステムの安全装置が作業環境の特徴的なリスクに照らして適切であるかを査定し、③適切な予防的、防護的措置を講じなければなりません。自動的なモニタリングと意思決定システムがプラットフォーム労働者に不当な圧力を加えたり、その心身の健康を損なうような使い方は許されません。第9条はプラットフォーム労働者の労働者代表への情報提供と協議を確認的に規定しています。
 以上が本指令案の核心的な部分です。以下第4章(プラットフォーム労働の透明性)では、使用者たるデジタル労働プラットフォームが労働・社会保障当局にプラットフォーム労働を申告すべきこと(第11条)、プラットフォーム労働者数やその労働条件、仲介業者などの情報をこれら当局や労働者代表に提供すべきこと(第12条)を定めています。
 第5章(救済と執行)では、有効な紛争解決機関と権利侵害の場合の救済(第13条)、プラットフォーム労働遂行者のために活動する機関(第14条)、プラットフォーム労働遂行者のコミュニケーション・チャンネル(第15条)、証拠開示(第16条)、不利益取扱いからの保護(第17条)、解雇又は契約終了からの保護(第18条)、監督と罰則(第19条)などが規定されています。第18条は原案では解雇のみでしたが、今回の妥協案では契約終了又はそれと同等のものも追加されています。
 今後、理事会サイドと欧州議会サイドの間で指令採択に向けて協議が進められていくことになりますが、その焦点が労働者性の判断基準をどういうふうに規定するかにあることはいうまでもなく、とりわけ今回の妥協案で盛り込まれた国内裁判所及び国内行政当局の裁量の余地をめぐって議論が交わされることになると思われます。

 

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