転ジョブと転社の間
今朝の日経新聞に、例によって経産省の広告欄代わりの記事が載っていますが、
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA197YH0Z10C23A6000000/(在職者の学び直し、転職成功で最大56万円補助 経産省)
経済産業省は企業で働く人を対象に、転職を目的とした学び直しを支援する。プログラミング講座などを受講して転職に成功した場合、受講費用として1人あたり最大で56万円を補助する。在職者のスキル向上と転職を後押しし、賃上げにつなげる。
近く制度の詳細を発表する。
補助対象となるのは、企業と雇用契約を結んでいる正社員や契約社員、パートやアルバイト、派遣社員。スキル向上の講座を受講するだけで、転職を目指していない人は対象から外す。経営者や個人事業主、フリーランスも含まない。
支援を受ける人は,キャリアコンサルタントの資格を持つ専門家に相談した上で、必要な講座を受講する。受講期間は1年以内で、プログラミングやビジネススキル、医療・介護などの内容を想定する。
経産省は40万円を上限として受講費用の半額を補助する。
受講者が転職に成功し、転職先で1年間継続して働いている場合には、最大16万円を追加で支給する。転職成功時のインセンティブを設けることで,学び直しの効果を高める。
経産省が経産省がと主語がやたらにでかいのですが、財源は当然経産省の独自のお金なんでしょうな。まさか雇用保険2事業の教育訓練給付ですなんてことにはならないよな。どうみても、転職を要件とした教育訓練給付の改造案にしか見えないのですが、だったら主語が経産省にはならないはずですからね。
と、とりあえずいつものようなご挨拶をした上で、それはともかく、気になる中身について。日本社会では正社員というのはジョブの限定がないので、会社の中でどんなにジョブが変わっても転職だとは意識されない。社内転ジョブは転職に非ずで、雇い主が替わる転社のことだけを「転職」と呼んでいる。それは、就社でしかないものを「就職」と呼んでいる学生と同じなんだが、日本社会にどっぷり浸かったメンバーシップ型感覚の人にとっては当然のこと。そして、そういう感覚にどっぷり浸かっていながら、自分ではジョブ型の感覚になったつもりの人が、終身雇用じゃ駄目なんだ、転職しなきゃいけないんだ、とばかり熱を入れると、こういう制度設計になるという典型のようなものになっている。
ジョブ型社会では、社内であれ社外であれ、新たなジョブに就くためにはそのジョブを遂行できるスキルを身につけなければならず、そのための教育訓練を国が援助して、その結果、社内や社外の公募に応募してめでたく転ジョブして給与アップというストーリーがまことに素直に描ける。大事なのは、新たなスキル→新たなジョブ→新たな給与、であって、そのジョブが社内か社外かは本質ではない。
ところが、そもそも日本では社内配転でそのつど転ジョブし、配属されてからスキルを身につけ、一方で定期昇給で給与が上がるという仕組みなので、そもそもこういうジョブ型社会のスキル政策がうまく噛み合わない。という話は今までも繰り返ししてきた。スキルがあっても転ジョブしないし、スキルがなくても転ジョブするのが当たり前。
そういう中で、せっかくお金を出してスキルを身につけたのに転職しないなんておかしいじゃないか、転職するいい子だけにお金を上げる仕組みを作ろう、と、まあ、思ったんでしょうね。たしかに、日本の教育訓練給付というのは、転ジョブにつながりにくい。それはそもそもジョブ型社会ではないからなんだが、それを制度設計をどうにかして変えようと考えると、こういう発想になるのかも知れないな。
でもそうすると、これは転職予定の在職者への給付ということなので、辞めるつもりの社員を抱えている在職中の会社との関係をどう考えるのかということになる。もしこれを喜んで受け入れる会社があるとしたら、それはその社員に早いとこ出ていってほしい会社であり、この制度は要するにアウトプレースメントの道具ということになりそうですね。
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