岡村優希「〔書評〕濱口桂一郎著『新・EUの労働法政策』」@『EU法研究 第13号』
信山社から出ている『EU法研究 第13号』を、岡村優希さんよりお送りいただきました。
https://www.shinzansha.co.jp/book/b10031409.html
というのも、この号に岡村さんが、拙著『新・EUの労働法政策』の書評を書かれているからです。
◆〔書評〕濱口桂一郎著『新・EUの労働法政策』〔岡村優希〕
Ⅰ はじめに
Ⅱ 本書の構成と内容
Ⅲ EU法政策をめぐる他の研究との関係性―本書の方法論的特徴
Ⅳ おわりに―EU労働法研究の多様性と今後の発展
この書評、7ページにも及ぶ本格的なもので、目次でも他の諸論文と並ぶほどの扱いになっています。
本書はタイトルにもあるように、決してEU労働法のテキストブック(古くはブランパン、最近ではキャサリン・バーナードなどのような)ではなく、まさに労働法の政策過程を詳細に跡づけることを目指した本です。
岡村さんはそのことを次のように明晰に述べています。
・・・とりわけ、本書には、政策過程についての動態的な分析が充実している一方で、EU労働法の解釈論的側面における法理論的な分析が充分に展開されていないところがある。
例えば、経済的自由権と労働基本権の調整が問題となった、Lava-quartetとも称される一連の欧州司法裁判所の裁定・判決について見ると、本書は、EUにおける労働基本権保障に係る法的状況を踏まえつつ、それぞれの事実概要と判断の内容自体については簡潔な紹介に留めた上で、その後、それらがどのような政策上の展開を生じさせたのかという分析に注力している(332-334頁)。これに対して、他の研究においては、法理論的により踏み込んだ検討が行われており、具体的には、第一次法上の権利の衝突という観点からすると本問題を規範の位階性によって理解することは困難であるとの認識を出発点とした上で、市場参入制限アプローチや相互的な比較衡量を用いた理論的な分析が行われている。
このことが意味するのは、本書に不足があるということではなく、EU労働法研究には多様性があるということである。すなわち、本書の研究は、主として政策的な側面からEU労働法の全容を解明するところにあるため、欧州司法裁判所の判断はそれに資する範囲で検討対象とされている。いわば、政策的な展開をもたらすファクターとして欧州司法裁判所を捉えているのであって、本書はそれ自体の理論的な検討を主目的とはしていないのである。・・・
まさしくその通りで、本書に出てくるいくつかの指令については膨大な欧州司法裁判所の判例があり、通常の労働法のテキストであればその重要度に従ってそれらを紹介するはずですが、本書では、その後の立法政策に影響を与えていないものは一切出てきません。
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