梅崎修・南雲智映・島西智輝『日本的雇用システムをつくる 1945-1995』
梅崎修・南雲智映・島西智輝『日本的雇用システムをつくる 1945-1995 オーラルヒストリーによる接近』(東京大学出版会)をお送りいただきました。
https://www.utp.or.jp/book/b619360.html
戦後からはじまる日本的雇用システムの構築過程について、制度構築の当事者たちへのオーラルヒストリーを作成しながら分析をする。日本の雇用関係史を、企業内民主化の過程として把握し、日本社会の「内」にいた当事者の思考と行為の過程を解き明かす。
これは500ページを超える大冊であるとともに、中身もびっしり詰まった本です。
序章 日本的雇用システムの歴史的パースペクティブ
第I部 職場の新秩序への模索
第1章 起点としての身分差撤廃交渉
第2章 賃金の支払い方をめぐる論争
第3章 「家族賃金」観念の形成
第II部 日本的雇用慣行の生成と変容
第4章 労使関係の中の「相互信頼」の獲得
第5章 高度成長期における人事制度改革の説得
第6章 企業内労働市場の拡大と完成
第7章 産業別賃金交渉における内部労働市場の論理
第8章 日本的能力観の構築
第9章 新しい人事方針への変革
第III部 地域・産業・政策の労使関係
第10章 企業を超えた地域労使交渉
第11章 産業レベルの労働組合運動の役割
第12章 労働法政策決定における議論の場所
終章 雇用論議を始める起点
資料紹介 日本における労働史オーラルヒストリー
終戦直後から1990年代までの日本型雇用システムの形成と変容のプロセスを、日本の労働オーラルヒストリーを牽引してきた梅崎さんらが一冊にまとめた本といえば、そのすごさが窺われるでしょう。一つ一つの章が、いくつものオーラルヒストリーの語りと、多くの場合語り手がもたらした原資料とによって、生き生きと構築されていく様は見事です。
どのトピックをとっても、私には大変興味深いことがらです。そのいくつかは、オーラルヒストリーの報告書自体をお送りいただいた時にこのブログで紹介したりもしていますが、そうでないものも結構多く、改めて通読していろいろなことを感じました。
一点だけ気になったのは、第1章と第2章で終戦直後の労使関係が日本的な「企業内民主化」と日本的な賃金思想を生み出していく有り様を描き出しているのですが、その企業名がA社なんですね。
巻末のオーラルヒストリー一覧を見ればこれが住友重機であることは分かるし、特に第2章の次の補論を読めば、総評全国金属の下で過激な運動をしていたのがその後造船重機労連に移ったと書いてあるので明らかなんですが、これは一応匿名にするというお約束だったのでしょうか。
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