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2023年4月25日 (火)

労働政策研究報告書No.226『労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析』

Shinpan 労働政策研究報告書No.226『労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析』が刊行されました。

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2023/0226.html

解雇無効時の金銭救済制度について、厚生労働省「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が令和4年4月に報告書を取りまとめ、同月より労働政策審議会労働条件政策分科会における審議が始まったところであるが、同分科会における審議に資するため、厚生労働省からの緊急調査依頼に基づき、平成26年にJILPTが実施した調査(平成調査)に倣って調査を行った。

研究の方法
令和2~3年の2年間に終局した労働審判の調停・審判事案、裁判上の和解事案、計1200件程度について、1地裁本庁内にて閲覧し、その場で調査項目についてデータ入力する。

そのデータをもとに、労働者の属性、企業の属性、時間的コスト、請求金額等請求内容、解決内容・金額等について分析するとともに、解決金額の決定に影響を及ぼす要因等について分析・考察する。

今回の調査対象
労働審判:2020,2021年(暦年)に1地裁で調停又は審判(異議申立てがないものに限る。)で終局した労働審判事案(「金銭を目的とするもの以外・地位確認」)785件(平成調査は4地裁452件)。裁判上の和解:2020,2021年(暦年)に1地裁で和解で終局した労働関係民事訴訟事案(「金銭を目的とするもの以外・地位確認」282件(平成調査は4地裁193件)。 

この内容の一は、既に昨年10月と12月に、労働政策審議会労働条件分科会に報告されていますが、そこに出ていないいろいろな詳細なデータもこの報告書には載っていますので、この問題に関心のある方々は是非ご一読下さい。

1 労働者の属性

(1)性別

裁判上の和解では男性に係る案件が174件(61.7%)、女性に係る案件が108件(38.3%)であり、労働審判でも男性に係る案件が494件(62.9%)、女性に係る案件が291件(37.1%)と、いずれも男性6割強、女性4割弱という比率になっている。前回の平成調査との比較では、今回、女性比率が急激に上昇したことが分かる。

(2)勤続期間

平成調査と令和調査の間で最も大きな落差を示しているのが労働者の勤続期間である。このわずか7~8年の間に、裁判上の和解においても労働審判においても勤続期間はほぼ半減している。

(3)役職

平成調査と令和調査であまり大きな変化は観察できない。裁判上の和解ではいずれにおいても役職なしが8割弱であり、部長・工場長級が1割弱、課長・店長級が7%程度である。また労働審判においては、役職なしが9割弱から8割強へ若干減少し、その分部長・工場長級と課長・店長級が若干増えている。

(4)雇用形態

裁判上の和解、労働審判いずれも無期が8割弱と多数を占め、有期が2割弱であり、派遣は2%弱にとどまる。

(5)賃金月額

賃金月額の分布は、前回よりも若干上昇している。裁判上の和解においては、平成調査では20万円台が最も多かったが、令和調査では30万円台が最も多い。また労働審判においては、平成調査でも令和調査でも20万円台が最も多いことに変わりはないが、その前後の分布状況が大きく高額の方にシフトしている。

2 企業規模(従業員数)

裁判上の和解も労働審判も想像以上に中小零細企業の労働者が活用しているという事実が明らかになった。

3 時間的コスト

訴訟の提起や労働審判の申立から解決までの制度利用に係る期間は、前者の方が後者よりも相当長期にわたるという傾向は平成調査と令和調査で変わらない。しかしながらそのいずれにおいても、平成調査よりも令和調査においてやや長期化の傾向が見られる。

また、制度利用に係る期間の長期化に伴って、解決に要した期間も若干長期化の傾向が見られる。

4 請求金額

中央値で見た場合、裁判上の和解における総請求金額は約840万円であるのに対して、労働審判における総請求金額は約290万円である。

5 解決内容と解決金額

(1)解決内容

解決内容を雇用存続の有無と金銭解決の有無で見ると、裁判上の和解で272件(96.5%)、労働審判で758件(96.6%)と、いずれも96%以上が雇用存続せずに金銭解決しており、これが圧倒的大部分を占めている。

(2)解決金額

平成調査に比べて、令和調査では裁判上の和解と労働審判のいずれも解決金額がかなり上昇している。

図表1 解決金額の分布(和解令和)

  件数
1-5万円未満 - -
5万-10万円未満 2 0.7
10万-20万円未満 7 2.5
20万-30万円未満 4 1.5
30万-40万円未満 4 1.5
40万-50万円未満 2 0.7
50万-100万円未満 33 12
100万-200万円未満 54 19.6
200万-300万円未満 28 10.2
300万-500万円未満 54 19.6
500万-1000万円未満 45 16.4
1000万-2000万円未満 26 9.5
2000万-3000万円未満 6 2.2
3000万-5000万円未満 6 2.2
5000万円以上 4 1.5
275 100
平均値(円) 6,134,219  
中央値(円) 3,000,000  
第1四分位(円) 1,200,000  
第3四分位(円) 6,000,000  

図表2 解決金額の分布(審判令和)

  件数
1-5万円未満 1 0.1
5万-10万円未満 4 0.5
10万-20万円未満 13 1.7
20万-30万円未満 16 2.1
30万-40万円未満 23 3
40万-50万円未満 25 3.3
50万-100万円未満 149 19.6
100万-200万円未満 219 28.9
200万-300万円未満 109 14.4
300万-500万円未満 107 14.1
500万-1000万円未満 62 8.2
1000万-2000万円未満 19 2.5
2000万-3000万円未満 7 0.9
3000万-5000万円未満 3 0.4
5000万円以上 2 0.3
759 100
平均値(円) 2,852,637  
中央値(円) 1,500,000  
第1四分位(円) 800,000  
第3四分位(円) 3,000,000

 

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コメント

裁判上の和解、労働審判は中小企業に雇用されている人が多い、と言う辺り、日本の労働運動および関係者が見落としていた部分ではないでしょうか。

だから労働運動関係者に金銭解決導入反対の人が多いのでしょうかね。
彼らにしてみれば「見たくない現実」はあくまで見たくないのでしょうね。

そういうわけではないと思います。金銭解決制度導入反対の人が多いのは、金さえ払えば解雇自由となるのは許されない、労働運動の原則は金銭解決ではなく現職復帰である、という活動家はやはり多いです。その傾向は中小零細相手であれ、大企業相手であれ変わらないように見えます。中小零細の労働者を対象とすることが多いコミュニティユニオンの場合でも建前は変わりません。実際には柔軟に対応する組合のほうが多いのですが、今でも金銭解決を蹴って断固現職復帰という方針を強行して当該が疲れ果て勝手に金銭解決して脱落するというケースを少なからず耳にします。それを裏切りだと憤慨するのを見ると、進歩がないな、とは思いますが。

すみません、ここでの記述は、そういう議論よりも、私自身もややもするとそう思い込んでいたところの、行政機関の斡旋は中小零細企業の労働者がほとんどだが、裁判所に労働審判やましてや訴訟を起こすのは大企業の労働者が多いという認識に対して、実態は必ずしもそうではなく、中小零細企業の労働者も多く裁判所の門をくぐっているという事実発見を示したものです。

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