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2023年3月24日 (金)

カール・マルクス『一八世紀の秘密外交史』

621504_lrg カール・マルクス『一八世紀の秘密外交史 ロシア専制の起源』(白水社)をお送りいただきました。

https://www.hakusuisha.co.jp/book/b621504.html

と、書くと、えっ?と思われる方も多いかも知れません。

いや、正真正銘の、あのひげのおじさんのマルクスの本です。ただし、浩瀚なマルクス・エンゲルス全集には収録されていない稀覯論文です。

なぜ収録されていないか?それは、レーニンや、とりわけスターリンの逆鱗に触れるような中身だからです。

タタールの軛がもたらしたものは? なぜロシアは膨張したのか? クリミア戦争下構想され、数奇な運命を辿ったマルクスによるロシア通史。

「ロシアが欲しいのは水である」

資本主義の理論的解明に生涯を捧げたマルクス。彼はこの『資本論』に結実する探究の傍ら、一八五〇年代、資本の文明化作用を阻むアジア的社会の研究から、東洋的専制を発見する。
他方、クリミア戦争下に構想された本書で、マルクスはロシア的専制の起源に東洋的専制を見た。ロシア社会の専制化は、モンゴル来襲と諸公国の従属、いわゆる「タタールの軛」(一二三七―一四六二)によってもたらされたと分析したのである。
このため、マルクスの娘、エリノアの手になる本書は歴史の闇に葬られ、とりわけ社会主義圏では一切刊行されなかったという。
とはいえ、東洋的専制という問題意識は、その後、本書の序文を書いたウィットフォーゲルによって深められた。
フランクフルトの社会研究所で頭角を現した彼は、『オリエンタル・デスポティズム』(一九五七年)に収斂していく研究で、専制の基底に大規模灌漑を要する「水力世界」を見出し、さらに、ソ連・中国の社会主義を東洋的専制の復活を見た。
ウクライナ戦争が長期化する中、ロシアの強権体質への関心が高まっている。本書収録「近代ロシアの根源について」は今こそ読まれるべきだ。

そう、マルクスを崇拝していると称するロシアや中国といった諸国の正体が、まごうことなき東洋的専制主義であることを、その奉じているはずのマルクス本人が、完膚なきまでに暴露した本であるが故に、官許マルクス主義の下では読むことが許されない御禁制の書として秘められていた本というわけです。

そういうクリミア戦争を見ながら書かれた19世紀の本が、いま新た日本訳されて出版されるのは何故かと言えば、いうまでもなく、歴史は繰り返しているからです。今目の前で進行しつつあるウクライナ戦争を理解する上で最も役に立つのが、19世紀のマルクスの本だというのは何という皮肉でしょうか。

そして、本書のマルクスが書いたあんこの部分を包む皮の部分を書いているのが、70ページに及ぶ序文を書いているのが、あの東洋専制主義の大著を書いたカール・ウィットフォーゲルであり、40ページ近い解説を書いているのが、中国の専制主義を論じた福本勝清さんであり、その後の10ページ弱のあとがきを書いているのが本ブログでも何回も登場している石井知章さんという風に、いずれも中国の専制主義に強い関心を持っている人々である、というのも、まさに今日のアクチュアルな関心にぴたりと対応していると言えましょう。

序(ウィットフォーゲル)
 Ⅰ ロシア—どこへ? 人類—どこへ?
 Ⅱ マルクスのロシアに関する発見をめぐる深くかつ矛盾だらけの根源
 Ⅲ ピョートル大帝への再評価と世界史の新しい視点への切り口
 Ⅳ ロシア政治に関するある新しい歴史草案──大掴みで不安を煽るようなもの
 Ⅴ マルクスの『一八世紀の秘密外交史』を超えて──「アジア的復古」
 Ⅵ 「偶然」と「自由」──マルクスが残した最高の遺産
第一章 資料と批判 一七〇〇年代のイギリス外交とロシア
第二章 北方戦争とイギリス外交──『北方の危機』
第三章 イギリスのバルト貿易
第四章 資料と批判 イギリスとスウェーデンの防衛条約
第五章 近代ロシアの根源について 
第六章 ロシアの海洋進出と文明化の意味
 解説(福本勝清)
 あとがき(石井知章)
 人名索引/関連年表

 

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コメント

 カール・マルクスは後世「反面教師として一番偉大な哲学者・経済学者」として記憶されるのではないだろうか、と私は考えております。
 もしかしたらこの本は「反面教師として一番偉大な哲学者・経済学者のマルクスが唯一まともな事を言っている著書」として評価されるのでしょうか(^^;

 この本を「世に倦む日々」氏やもう一人の似た事を言っている御仁がどう評価するか、見ものですね(^^;

まさかこの本が取り上げられるとは思っていませんでした。しかしこの表題で損をしているような気もします。『18世紀の秘密外交史』ではマニアックな諸外国における外交のやり取りのようなものが連想されてしまいイマイチ関心がわきそうにないわけでして。

希流様

>しかしこの表題で損をしているような気もします。『18世紀の秘密外交史』ではマニアックな諸外国における外交のやり取りのようなものが連想されてしまいイマイチ関心がわきそうにないわけでして。

 マルクスはネーミングセンスが秀逸なタイトルが多いですね。
 「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」「哲学の貧困」など。
 それに比べると「18世紀の秘密外交史」はあまり秀逸なタイトルとは言えない。
 もっともそれが逆に内容の正しさを示唆している、と言えなくはないでしょうか。

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