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2023年3月 2日 (木)

ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』

61pollbop9l 『労働新聞』に毎月寄せている書評、今回はジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』(ハヤカワノンフィクション文庫)です。

https://www.rodo.co.jp/column/145984/

 原題は「The Rebel Sell」。これを邦訳副題は「反体制はカネになる」と訳した。ターゲットはカウンターカルチャー。一言でいえば文化左翼で、反官僚、反学校、反科学、極端な環境主義などによって特徴付けられる。もともと左翼は社会派だった。悲惨な労働者の状況を改善するため、法律、政治、経済の各方面で改革をめざした。その主流は穏健な社会民主主義であり、20世紀中葉にかなりの実現を見た。

 ところが資本主義体制の転覆をめざした急進左翼にとって、これは労働者たちの裏切りであった。こいつら消費に溺れる大衆は間違っている! 我われは資本主義のオルタナティブを示さなければならない。そこで提起されるのが文化だ。マルクスに代わってフロイトが変革の偶像となり、心理こそが主戦場となる。その典型として本書が槍玉に挙げるのが、ナオミ・クラインの『ブランドなんかいらない』だ。大衆のブランド志向を痛烈に批判する彼女の鼻持ちならないエリート意識を一つひとつ摘出していく著者らの手際は見事だ。

 だが本書の真骨頂は、そういう反消費主義が生み出した「自分こそは愚かな大衆と違って資本が押しつけてくる画一的な主流文化から自由な左翼なんだ」という自己認識を体現するカウンターカルチャーのあれやこれやが、まさに裏返しのブランド志向として市場で売れる商品を作り出していく姿を描き出しているところだろう。そのねじれの象徴が、ロック歌手カート・コバーンの自殺だ。「パンクロックこそ自由」という己の信念と、チャート1位になる商業的成功との折り合いをつけられなかったゆえの自殺。売れたらオルタナティブでなくなるものを売るという矛盾。

 しかし、カウンターカルチャーの末裔は自殺するほど柔じゃない。むしろ大衆消費財より高価なオルタナ商品を、「意識の高い」オルタナ消費者向けに売りつけることで一層繁栄している。有機食品だの、物々交換だの、自分で服を作るだの、やたらにお金の掛かる「シンプルな生活」は、今や最も成功した消費主義のモデルだろう。日本にも、エコロジーな世田谷自然左翼というブルジョワ趣味の市場が成立しているようだ。

 彼ら文化左翼のバイブルの一つがイヴァン・イリイチの『脱学校の社会』だ。画一的な学校教育、画一的な制服を批判し、自由な教育を唱道したその教えに心酔する教徒は日本にも多い。それがもたらしたのは、経済的格差がストレートに子供たちの教育水準に反映されるネオリベ的自由であったわけだが、文化左翼はそこには無関心だ。

 本書を読んでいくと、過去数十年間に日本で流行った文化的キッチュのあれやこれやが全部アメリカのカウンターカルチャーの模造品だったと分かって哀しくなる。西洋的合理主義を脱却してアジアの神秘に身を浸して自己発見の旅に出るインド趣味のどれもこれも、伝統でも何でもなくアメリカのヒッピーたちの使い古しなのだ。その挙げ句がホメオパシーなど代替医療の蔓延による医療崩壊というのは洒落にならない。

 しかし日本はある面でアメリカの一歩先を行っているのかも知れない。反逆っぽい雰囲気の歌をアイドルに唱わせてミリオンセラーにする、究極の芸能資本主義を生み出したのだから。

Silentmajority

 

 

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コメント

これ面白そうですね。早速購入してみます。文化左翼というか、意識高い系左翼への皮肉ということですな。

書評にあるカート・コバーンらオルタナティブ・ロック勢はシアトルが中心地でした。
そのシアトルにはあのAmazonが本社を置いてますね。
そのAmazonにようやく労働組合が出来ました。
文化左翼は本来の左翼の支持者層だったはずの地元の労働者の権利をどう考えていたのか、考えさせられました。

 この本、原著は2004年の刊行ですね。当時の文化左翼全盛時代のアメリカを理解するための古典的著作だとは思いますが、さすがにアメリカ左翼の現状を知るには少し古すぎます。
 
  その後、リーマン・ショック(2008年)を経て、2011年には「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動が起こり、2016年大統領選の民主党予備選では、学生時代から民主社会主義者として、その生涯にわたって「カネにならない」アメリカの労働者階級のための戦いを継続している、バーニー・サンダース上院議員が多数の若者の熱狂的支持を得て大善戦(にもかかわらず、本選挙では共和党極右派のトランプが当選)、2020年大統領選では「トランプ打倒」で一丸となることができた、民主党の勝利、と今現在に至るまでの過程を正確に理解しておく必要があると思います。ちょうど、「狂騒の20年代」のアメリカと、大恐慌発生後の30年代のアメリカとが全く違った社会になってしまったこととも、結構似ていますね。

 サンダース議員は今81歳、上院の予算委員長を経て、現在は保健衛生・教育・労働・年金委員長の要職にありますが、つい先日も「It's OK to Be Angry About Capitalism (資本主義に腹を立てても大丈夫)」という本を出版するなど相変わらず意気盛んです。
 2018年に当時の最年少女性下院議員となった、AOCの略称で知られる、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)、昨年初当選した、現在の最年少下院議員マックスウェル・フロスト(Maxwell Frost)を初めとする、後継世代も着実に政界に進出しています。アメリカ民主党下院では、彼らの所属する左派の「Congressional Progressive Caucus (CPC) (革新主義議員連盟)」が最大派閥になっていますし、AFL=CIOを初めとする、労働組合も戦闘性を強めていますね。

 日本における左派・革新派の著しい思想的低迷が原因なのでしょう、サンダースに代表されるアメリカの左派・革新派の動向はほとんど報道されていないと言っていい現状ですが、その中では、「『社会主義化』するアメリカ   若者たちはどんな未来を描いているのか(瀬能 繁著、日経新聞出版)」がよくまとまっていると思います。こちらの本についても、一読をお勧めしたいですね。

 

 
 

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