なぜフランスは・・・・?
いまヨーロッパの各国ではイギリスでもドイツでも賃上げを求めてストライキだらけで、争議がほぼ絶滅した日本と好対照をなしていますが、そのヨーロッパ諸国ですらいぶかしげに見ているのが、マクロンの年金改革法案への反対でデモが暴動にまで発展しているフランスのようです。
例によってソーシャル・ヨーロッパの記事ですが、「Why is France unable to reach social compromises?」(なぜフランスは社会的妥協に到達できないのか?)は、問題の根源はそもそもフランス革命にあると云います。
https://www.socialeurope.eu/why-is-france-unable-to-reach-social-compromises
It’s a long story that goes back to the French revolution. Contrary to what many think, the revolution was above all a great liberal moment, economically and socially. One of the first tasks of the revolutionaries was to abolish the guilds holding back economic dynamism. But with the d’Allarde decree and the Le Chapelier law adopted in 1791 they also banned all forms of nascent unionism and contractual negotiation. As Isaac Le Chapelier put it, ‘no one is allowed to inspire citizens with an intermediary interest, to separate them from the public thing by a corporate spirit’. Between the state and the citizen, the republic does not want to recognise any ‘intermediate body’.
これはフランス革命に遡る長い物語だ。多くの人が考えるのと違い、この革命は何よりも経済的にも社会的にもリベラルな事件だった。革命家たちの最初の任務の1つは、経済活力を失わせるギルドを廃止することだった。1791年のダラルド令とルシャプリエ法により、彼らはあらゆる形態の組合運動と団体交渉を禁止した。イサク・ルシャプリエが言うように、「何人も、市民に対して中間の利益を吹き込み、コルポラシオンの精神で以て公共の事柄から市民を引きはがすことは許されない」。国家と市民の間には、共和国はいかなる「中間的集団」をも容認しようとはしない。
この辺、前に一度勉強したことがありますが、中間的利益集団としての労働組合に対して極めて猜疑的で、労使の利害の妥協としての労使関係の発達が極めて遅れているのがフランスの特徴なんですね。
For two centuries, France has therefore remained a country where social issues are mainly settled by law or in the streets and on the barricades. This has its charm and may appear romantic from afar. But from the point of view of economic and social efficiency, there is little doubt that its Nordic and Germanic neighbours benefit from their ability to reach social compromises more easily and more regularly. They are thus able to develop their societies without major clashes. It is thanks to this that their economies are more innovative and resilient, particularly in industry, despite high labour costs.
それゆえ二世紀にわたって、フランスは社会問題が主として法律か街頭かバリケードで解決される国であり続けた。これはこれなりに魅力があり、遠くから見ればロマンチックに見える。しかし経済的社会的効率性の観点から見れば、北欧やドイツといった隣国がより容易かつ定期的に社会的妥協に到達する能力から利益を得ていることは疑いない。それゆえ彼らは大きな衝突なしに社会を発展させることが出来る。このおかげで、この諸国はその高い労働コストにもかかわらず、とりわけ産業においてより革新的で強靱なのだ。
記事は、21世紀になってからの労働組合法制の見直しの数々に言及しながら、それらがうまくいかなかったと述べ、
Can France get out of this perverse dynamic, which is leading the country into the wall on a democratic, economic and social level? It is obviously not easy, insofar as these authoritarian practices and this refusal to negotiate are deeply rooted in French history. But there is nothing genetic or irreversible about it.
フランスはこの国を民主的、経済的、社会的レベルで壁に導く逆転したダイナミックから脱却できるだろうか?これら権威主義的慣行と交渉することの拒絶はフランスの歴史に深く根ざしている故に、明らかにそれは容易ではない。しかし、生来的で不可逆的なものではない。
The difficulty, of course, is that in a political landscape polarised between hard-line, authoritarian liberals and Jacobin populists, of the right and left, the forces likely to carry such a project are today very weak. Yet France’s future depends significantly on its ability to turn the page on authoritarianism and statism in the management of the social sphere. As William of Orange said, ‘It is not necessary to hope to undertake nor to succeed to persevere …’
もちろん困難は、右翼と左翼それぞれの強硬で権威主義的なリベラルとジャコバン主義的なポピュリストの間の政治的光景にあり、かかるプロジェクトを遂行しうる勢力は今日極めて弱体である。しかしフランスの未来は社会領域のマネジメントにおいて権威主義と国家主義のページをめくる能力にこそ懸かっている。オレンジ公ウィリアムがいったように、「実行を希望することも忍耐に成功することも必要ない」のだ。
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コメント
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>国家と市民の間には、共和国はいかなる「中間的集団」をも容認しようとはしない。
この話は憲法学者の樋口陽一先生がしばしば言及されていますね。しかしあまり腑に落ちず、それでうまく行ったのかな?と思っていました。
この記事を読んでやっぱり上手く行ってないのだな、と言うのが感想です。
元年金関係者として考えるとマクロン年金改革案はそんなにおかしなものではなく、むしろフランス以外の先進国ではすでに実現したものです。
だから何でルーブル美術館を封鎖するまでデモに発展したのか、理解しにくかったです。
まあ、マクロン政権は格差を拡大させた、としてこれまでも黄色いベスト運動が起こるなどしているので、その延長線上に年金改革反対デモがあるのは理解できなくもないのですが。
投稿: balthazar | 2023年3月29日 (水) 17時21分
中間団体の弱体なフランスの民主主義、革命の伝統といえば聞こえが良いですが、独特の政治的不安定さと、それと裏腹なダイナミズムをかかえていますね。
正直なところ第五共和制も行き詰まりを見せていますし、今回のウクライナ危機に端を発した世界秩序の再編成と連動して、政治体制のリフォームが進むのかもしれません。
日本も一連の政治改革で既存の中間団体が弱体化しましたが、さりとてフランスのようなエリート主導の体制も成立せず、直接民主主義的な動きも発展せず(いずれも政治改革を推進した人々が夢想したところであろうが)、ただ凪のような安定と停滞が日本の政治を覆っていてフランスと対極的ですね。
世界システムの変動に対応して日本の政治がどうなるのか、興味深いところです。
投稿: 通りすがり2号 | 2023年3月29日 (水) 20時35分
日本の組合の典型の1つでもあるブログだが、何というか、経営の不在なんだよな。コスト削る程度しか発想がなく、かつそれは人件費しか知恵がないから、組織内が人事的なところばかりに(悪)知恵が働くわけだ。
投稿: ほぺいろ | 2023年4月 1日 (土) 08時02分
本日の東洋経済オンラインにフランスの年金改革について記事が掲載されています。
「パリがゴミだらけ、仏年金改革「反対スト」深刻背景 」
https://toyokeizai.net/articles/-/663451
>30年以上、フランスを見てきた筆者の立場から言うと、「生活のためには働くしかないが、働くことに大きな意味は感じない。できるだけ短く働き、できるだけ高い報酬を受け取り、プライベートの生活を楽しみたい」という人生観を持つフランス人が少なくない。個人や組織の利潤追求や欲望を追求するアングロサクソン型(米英型)資本主義にも抵抗を示す。
との事です。
フランスは中世以前のユダヤ・キリスト教的な労働観が強いようですね。
近代以降の労働観は中世修道院での修道士たちの禁欲的な労働に根差すものらしい。
元修道士だったプロテスタント創始者のルターの労働観にそれが引き継がれ、ドイツからアングロ・サクソンの労働観、そして資本主義観へと引き継がれた。
しかしフランスなどラテン語圏のカトリック優位の地域ではそのような労働観が根づかなった。
それが今回の年金改革反対デモの背景にあるようです。
投稿: balthazar | 2023年4月 1日 (土) 08時11分