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2023年2月22日 (水)

EUの最低所得勧告@『労基旬報』2023年2月25日号

『労基旬報』2023年2月25日号に「EUの最低所得勧告」を寄稿しました。

 本紙で以前指令案の段階で紹介したEUの最低賃金指令は、去る2022年10月19日に正式に採択され、2024年11月15日までに加盟国の国内法に転換すべきこととされました。一方、つい先日の2023年1月31日には、EUの最低所得勧告が採択されています。正式名称は「積極的な統合を確保する十分な最低所得に関する理事会勧告」(COUNCIL RECOMMENDATION on adequate minimum income ensuring active inclusion)です。minimum wageが労働法分野であるのに対して、minimum incomeは社会保障分野であって、直接重なるわけではありませんが、広い意味での生活保障の一環として密接な関係にあるとも言えます。指令ではなく勧告なので拘束力はありませんが、加盟国の制度設計に対する一定の圧力という効果はあるでしょう。なお、欧州労連等の意見を踏まえ、欧州議会は昨年の決議で、本勧告は拘束力ある指令とすべきだと主張していましたが、それは受け入れられていません。
 ここでいう「最低所得」とは、「十分な資源に欠ける人の最後の手段(last resort)としての非拠出型(non-contributory)で資産調査型(means-tested)の安全網(safety nets)」と定義されています。日本で言えば生活保護に相当する社会扶助のことです。しかし、本勧告はその狭義の最低所得の水準や適用範囲、アクセスについて規定するだけではなく、労働市場への統合やエッセンシャルサービスへのアクセスなど、貧困問題を抜本的に解決するための取組みについても規定を設けています。日本でも近年、生活保護制度の柔軟な運用や生活困窮者自立支援法など類似の問題意識が登場してきていることを考えると、本勧告の内容はいろいろと参考になる点が多いように思われます。
 最初に勧告するのはタイトルにもある通り所得支援の十分性(adequacy)です。加盟国は人生の全ての段階で尊厳ある生活を保証するため、金銭給付と現物給付を組み合わせた十分な所得支援をしなければならず、その水準は十分な栄養、住居、医療及びエッセンシャルサービスを含む必要な財やサービスの金銭価値以上でなければなりません。なお興味深いのはここで、女性や若者、障害者の所得保障と経済的自立のため、世帯の個々の世帯員が最低所得を請求できるようにすべきと述べていることです。
 次が最低所得の適用範囲(coverage)で、定まった住所の有無に関わらず最低所得にアクセスできる透明で非差別的な適用基準、世帯の種類や規模の違いに応じた資産調査の水準、申請から30日以内の迅速な処理手続、適用基準を充たしているかの定期的な見直しと働ける者への統合措置、簡易迅速で無料の苦情処理手続等が求められています。
 最低所得の受給に際しては、申請手続の簡素化など行政的負担の縮減、ユーザーフレンドリーな情報へのアクセス、とりわけ一人親世帯の受給を容易にする意識喚起、スティグマとアンコンシャスバイアスへの対策などが求められています。
 ここまで見ると、給付を手厚くしろと言っているだけに見えますが、ここから話は労働市場への統合措置(アクティベーション)に移ります。働ける者には働いて稼ぐ道に戻ってもらうというわけですが、そこには細心の注意が必要です。とりわけ若者にはできるだけ早期に教育訓練や労働市場に戻れるようにすべきです。低技能者や古びた技能の者にはアップスキリングやリスキリングが必要です。また試用期間や訓練生期間の間は所得支援と労働収入を組み合わせて、段階的に脱却していくような仕組みも重要ですし、税社会保障制度による就労ディスインセンティブの見直しや、社会的経済セクターの活用も示唆されます。
 もう一つの柱がイネイブリングサービス(enabling service)とエッセンシャルサービス(essential service)へのアクセスです。このイネイブリングサービスというのは聞き慣れない言葉でしょう。本勧告では「十分な資源に欠ける人が社会と労働市場に統合することができるよう特別の必要に焦点を当てたサービスで、ソーシャルワーク、カウンセリング、コーチング、メンタリング、心理的支援、リハビリテーションに加え、幼児教育や保育、医療、介護、教育訓練、住居等の社会統合サービスも含む」と広く定義されています。エッセンシャルサービスはコロナ禍でよく使われましたが、「水道、衛生、エネルギー、交通、金融サービス及びデジタル通信を含むサービス」と定義されています。加盟国は最低所得受給者にこういったイネイブリングサービスへのアクセスを確保するとともに、エネルギーを含むエッセンシャルサービスへのアクセスも保証しなければなりません。
 こうしたサービスの提供については、一人一人に応じた個別化されたアプローチが必要です。最低所得受給開始から3か月以内に、積極的労働市場措置など社会統合措置の支援パッケージを策定し、ケースマネージャーかコンタクトポイントを指名してその進展を定期的に見守ることが求められます。本勧告はその他、制度のガバナンス、モニタリング、報告等についても規定しています。

 

 

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