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2023年2月 8日 (水)

朴孝淑『賃金の不利益変更』

Large_1e604e45b9ea4095b77902c5ef0eb45d 朴孝淑さんより『賃金の不利益変更― 日韓の比較法的研究』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10026822.html

労働契約の基本的要素である賃金の不利益変更につき、欧米における契約当事者間の合意原則と対比してきわめて特徴的な、韓国・日本における就業規則による合理的変更法理を分析する。さらに、韓国での集団的合意原則と日本の合理性審査ついてそれぞれの法制度や裁判例を精査しながら判例法理を描き出し、日韓の合理的変更法理の位置づけの相違を明らかにして、比較法的示唆を導き出す労作。

朴さんは、ちょうど私が東大に客員として来ていた頃に韓国から留学してこられ、しばらくは労働判例研究会でいつもお会いしていました。本書は彼女の博士論文をもとに、最近までの動きを書き加えたもので、いわゆる労働条件の不利益変更法理をめぐる日韓の共通性と相違点を明らかにしています。

共通点は、欧米諸国にとって雇用契約の大原則である合意原則に反し、労働者本人が嫌だと言っても、一定の要件を充たせば減給してもOKという法理が確立し、法律の条文にまでなっているという点です。

相違点は、韓国では過半数組合や過半数代表の同意が要件であるのに対して、日本では「合理性」というまことに柔軟な要件となっている点です。ただし、この点は韓国も日本も二重にねじれていて、韓国ではそれまでの判例にもとづいてそういう法改正をしたけれども、その後の判例はむしろ過半数代表の同意がなくても合理性があれば認める方向に行ったのに対して、日本ではその「合理性」を過半数組合や労使委員会の同意でもって推定するという立法を試みようとしたけれども失敗に終わった、という二重らせんみたいな状況です。

そもそも、本人の合意がなくても減給OKという判例法理は、もし本人合意がなければ絶対だめとすると、会社側はそれなら解雇しかないね、ということになり、欧米ジョブ型社会ではそれが素直な理屈になりますが、解雇が一番避けるべき悪だという前提に立つと、その最大の悪を避けるためなら減給くらいええじゃないか、ということになるわけでしょう。

この分野の様々な文献を渉猟して書かれた労作です。

◇序論 本書の検討課題
 Ⅰ 問題の所在
 Ⅱ 本書の検討内容

◆第1章 欧米における賃金の集団的・個別的不利益変更

第1節 アメリカにおける「賃金」の不利益変更
 Ⅰ 規制の概要
 Ⅱ 集団的変更
 Ⅲ 賃金の個別的不利益変更
第2節 イギリスにおける「賃金」の不利益変更
 Ⅰ 規制の概要
 Ⅱ 集団的変更
 Ⅲ 契約条項の変更
第3節 フランスにおける「賃金」の不利益変更
 Ⅰ 規制の概要
 Ⅱ 集団的変更
 Ⅲ 労働契約の変更
第4節 欧米における「賃金」の不利益変更
 Ⅰ 「契約原則」に基づく「賃金(報酬)」の重視
 Ⅱ 「契約原則重視型」と「解雇」

◆第2章 韓国における賃金の集団的不利益変更

第1節 労働協約による賃金の不利益変更
 Ⅰ 労働協約の法的性質
 Ⅱ 労働協約の規範的効力
 Ⅲ 労働協約の拡張適用(一般的拘束力)
第2節 就業規則による賃金の不利益変更
 Ⅰ 就業規則による賃金の不利益変更の可能性
 Ⅱ 就業規則の不利益変更における労働者集団の「同意」
 Ⅲ 集団的同意なき就業規則変更の新規採用労働者への効力
 Ⅳ 就業規則の合理的変更をめぐる3つの立場と判例・学説・立法
第3節 韓国における賃金の集団的不利益変更
 Ⅰ 労働協約による労働条件の不利益変更
 Ⅱ 就業規則による労働条件の不利益変更

◆第3章 日本における賃金の集団的不利益変更

第1節 労働協約による賃金の不利益変更
 Ⅰ 検討の対象
 Ⅱ 規範的効力の性格・効力からみた不利益変更の可否
 Ⅲ 労働組合の目的からの不利益変更の限界(組合自治と司法審査との調整)
 Ⅳ 労働協約の拡張適用の問題(一般的拘束力)
第2節 就業規則による賃金の不利益変更
 Ⅰ 就業規則の合理的変更制度と賃金変更に関する理論的課題
 Ⅱ 就業規則の合理的変更法理における賃金変更の位置づけ(論点1)
 Ⅲ 就業規則による賃金の不利益変更と多数労働者の同意(論点2)
 Ⅳ 新賃金制度の導入・適用と就業規則の不利益変更問題(論点3)
 V 就業規則の変更と個別労働者の「合意」の効力(論点4)
 Ⅵ 就業規則変更法理と個別合意による「特約」(論点5)
第3節 小 括
 Ⅰ 労働協約による賃金の不利益変更問題
 Ⅱ 就業規則による賃金の不利益変更問題
 Ⅲ 労働協約と就業規則による賃金の不利益変更と司法審査  


◆第4章 日本と韓国における賃金の個別的不利益変更

第1節 はじめに
 Ⅰ 年功主義人事制度と成果主義人事制度
 Ⅱ 検討課題
第2節 韓国における賃金の個別的変更
 Ⅰ 契約上合意された労働条件(賃金)の一方的変更(契約上の権限なし)
 Ⅱ 配転・降格(配転)命令権の行使による賃金の変更(契約上の権限あり)
 Ⅲ 年俸制の適用による賃金減額の問題
第3節 日本における賃金の個別的変更
 Ⅰ 契約上合意された労働条件(賃金)の一方的変更(契約上の権限なし)
 Ⅱ 配転・降格命令権の行使による賃金の変更(契約上の権限あり)
 Ⅲ 査定(格付け)による減額(契約上の権限あり)
 Ⅳ 年俸制の適用による賃金減額の問題
第4節 韓国・日本における賃金の個別的不利益変更法理
 Ⅰ 配転命令権における「契約原理」v.「正当理由審査」v.「権利濫用審査」
 Ⅱ 賃金の減額を伴う人事命令における契約原理の妥当性  
 Ⅲ 韓国における労働条件の個別的変更をめぐる問題点

◆第5章 総括― 欧米・韓国・日本の比較法的検討

第1節 賃金の不利益変更における合意原則と合理的変更法理
 Ⅰ 合意原則に基づく「賃金」と「その他の労働条件」との区別
 Ⅱ 雇用の安定を度外視した「合意原則」v. 雇用の安定を前提とした「合理的変更法理」の検証
 Ⅲ 賃金の不利益変更における合理的変更法理の厳格化
第2節 日韓の労働協約による不利益変更法理の到達点
 Ⅰ 韓国の労働協約による賃金の不利益変更問題
 Ⅱ 日本の労働協約による賃金の不利益変更問題
第3節 日韓の就業規則変更法理の比較
 Ⅰ 韓国と日本における「合意」原則の存在と相違
 Ⅱ 集団的合意原則による予測可能性と合理性審査による少数者保護と柔軟性の確保
 Ⅲ 就業規則変更法理と個別的労働条件変更問題
 Ⅳ 日韓の就業規則変更法理比較が示唆するもの
第4節  多様な賃金・人事制度の下での賃金の個別的不利益変更  
 Ⅰ 「合意原則」に基づく処理と黙示の合意認定
 Ⅱ 日本における契約上の人事権行使による賃金減額の法的問題
 Ⅲ 韓国における人事権行使による個別的賃金不利益変更問題

 

 

 

 

 

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