障害者雇用代行業をどこまで非難できるのか?
こういう(悪)知恵の働く人っているんだな、という感想と、とはいえ、現在の日本の(実定法というよりは判例法理に体現された)雇用システムを前提としたときに、どこまでこういうスキームを非難できうるのか、というかなり深刻な問題意識とを感じさせる事例です。
https://nordot.app/985151549346955264(障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用)
法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上る。
大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は対応策を打ち出す方針だ。
そもそも障害者雇用率制度というのは、ほっとくとなかなか障害者を雇用しようとしない企業に強制的に雇用責任を割り当てようというものですが、さてその「雇用責任」とは一体何なのか。
ジョブ型社会であれば、雇用責任というのは当然のことながら当該企業の事業を細分化していった個々のジョブのうち、障害者にやれそうなものを障害者用によりわけて、そこに外部から障害者を雇い入れてはめ込むということになります。実は、日本国の障害者雇用制度も基本的にはそういう発想に立っています。
ところが、日本社会の主流はメンバーシップ型であり、そこではジョブは何ら本質的ではなく、会社の社員であるという身分を付与することに意味があります。だからこそ仕事のない追い出し部屋というのもあり得るし、解雇された人が裁判で勝っても元の仕事に戻る権利はなく、会社の社員という地位だけ確認されて口座に給料は振り込まれてくるけれどもジョブの権利はないわけです。
そういう社会のあり方を前提にすると、会社の社員という身分は付与した上で、当該企業の事業を細分化したジョブとはまったく関係の無い外部の「仕事」に就けて、ちゃんと給料だけは払っているというあり方を、どこまで非難しきれるのか、という問いに答えるのはなかなか難しいことになります。
実を言うと、半分くらいそういう日本社会の実情に妥協した仕組みというのは既にちゃんとあって、それは特例子会社という、障害者雇用専門の仕事だけをする子会社を作って、そこに雇用率を達成できるだけの障害者を雇い入れるという仕組みです。
「雇用責任」をどう考えるかによりますが、その企業の関連事業を子会社という連結決算の範囲でやっている限り、ぎりぎりセーフと言うことなんでしょうが、今回の事例はそれをすかっと飛ばして、「どこで何しとってもなんでもええやん、社員として給料払ってるんやから」の極限に至っている感があります。
なので、いやこれはアウトやろ、という直感をちゃんと論理化しようとすると、これがなかなか難しいのです。メンバーシップ型社会のロジックを前提とする限り、非難しきれないのです。
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実は私も現在障害者雇用です。
数年前国や地方公共団体が障害者の法定雇用率を満たしていなかった事が発覚しました。
その後法定雇用率を満たすための募集が行われ、幸いにも選考試験に通り、現在国の機関に勤務しています。
その前は公益企業で「事務職」、契約期間更新ありの有期雇用でした。
転職エージェントを介して転職しましたが、職を紹介してもらった担当者に「ジョブ型雇用ですね」と確認したところ、「そうです。」と回答がありました。
他のメンバーシップ型の社員と同じ建物の大部屋で一緒に働いていました。
私は障害が軽く、配慮が少ない方なのでこのような雇用形態になる事が出来たのかな、と思っています。
その前は今の職場とは異なる国の機関で一般職員として勤務していました。
障害者雇用専門の子会社があることは転職の時に情報を収集していて気づきましたが、自分の経験と照らし合わせても未だに想像がつきません。
障害者雇用の実態を詳しく調査の上、他の社員と同じ職場で働けるようにするための政策立案に生かしてほしいものです。
投稿: balthazar | 2023年1月11日 (水) 21時32分
マイグレーションの話は168号勧告 (https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-recommendations/WCMS_239193/lang--ja/index.htm )を俟つことになるのでは。本邦の住民がこれに背を向けて逃走中なようなので、まずこの勧告の存在に気づけ、というべきなような。
投稿: naka64 | 2023年1月12日 (木) 21時06分
> ほっとくとなかなか障害者を雇用しようとしない
> 社員であるという身分を付与する
非難云々は些末な話で、
率の中に参入するか、しないのか
という話でしかないのように思いますが。
それ、高度外国人人材なの?問題
と大体、同じではないでしょうか。という
ことを考えると、障害者に限らないジョブ
型雇用率制度でも創設する必要があるかも
投稿: 虹弁太田 | 2023年1月12日 (木) 23時48分
日本有事と急がれる改憲、大変恐縮に存じますがどうかこの危機を皆様に知って頂きたいです
日本存亡に関わる台湾有事危機が高まる中、
敵国が望む改憲阻止の為、中韓と連携し野党メディアが倒閣へ扇動をかける状況にどうか気付いて頂きたいです(09年は扇動が成功)
国防妨害一色の、メディアが全力で守る野党は、北と韓国政府から資金投入の朝鮮総連、殺人の革マル等反社勢との連携、大炎上中のcolabo等は一切報じぬ裏で、
中朝は核の標準を日本に向け、侵略虐殺を拡げる現在、日本の尖閣に侵犯を激化する中、改憲せず攻撃力を持たずの現防衛力では、
多くの日本人を銃殺した韓国の竹島不法占拠、北の日本人拉致、中国の尖閣侵犯にも、9条により日本は国を守る為の手出しが何一つ出来ない事が示しています。
中韓の間接侵略は、野党が法制化を目指す外国人参政権や日本人のみ弾圧対象ヘイトスピーチ法、維新道州制等、多様性と言う"中韓の声反映"に進んでおり、
野党メディアが09年再現へ世論誘導をかける今、中韓浸透工作は最終段階である事、
日本でウクライナの悲劇を生まぬ為、一人でも多くの方に目覚めて頂きたいと切に思い貼らせて頂きます。
https://pachitou.com/2021/10/29
長文、大変申し訳ありません。
投稿: aki | 2023年1月14日 (土) 05時22分
障がい者雇用が本来の趣旨にそぐわない形で行われているのはメンバーシップ型雇用のためでしょうか。ジョブ型雇用でも起きうる気がします。
人権意識、社会的責任意識が希薄なためという気もします。
多様な障がい者の実態に合わない障がい者雇用制度に欠陥がある気もします。
雇用率に問題があるのかもしれません。
問題を腑分けして考えるべきで、雇用制度の問題にするのも法律解釈の問題にするのも無責任な気が
します。
投稿: 偏哲 | 2023年1月22日 (日) 00時39分
あれま。大変失礼しました。
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「障害者は喜んで農園で働いている」はずが…国会がNGを出した障害者雇用〝代行〟ビジネス 大手有名企業を含め800社が利用
https://news.yahoo.co.jp/articles/5eed47e2f7c7914d41af37685cd05c34d3de8c6f?page=3
https://news.yahoo.co.jp/articles/5eed47e2f7c7914d41af37685cd05c34d3de8c6f?page=4
「法律では労働者が能力を発揮・向上できる機会を求めていて、こうしたビジネスは雇用の質という点で疑念を抱かざるを得ない。改正法では、能力開発の責務を明確にした。全体的に雇用の質向上や企業への支援強化に取り組みたい」
投稿: naka64 | 2023年1月28日 (土) 19時10分
こう言う判決が出てしまいました。
「事故死の聴覚障害児、将来の収入は「平均の85%」 両親の思いは」
https://digital.asahi.com/articles/ASR2W779GR2WPTIL003.html?fbclid=IwAR2ewzPHOUriSX3NojOmBBYsc5FWCIJ1BzYykdYtvebusVGsQJ3mMmOtM6s
私の経験から言いますと、最初の職場では障害者手帳は貰えないまま、補聴器を着けて色々配慮してもらいながら正規職員として同じ給料で働いていました。
同僚には耳鳴りがひどい感音性難聴の人もいましたが、彼も何とか必死で働いて同じ給与を支給されていました。
確かに私と同僚は運が良かったのだと思います。
しかし、だからこそこの判決は納得が行かないです。
合理的配慮をしつつ、健常者と同じように働ける職場は増えているはずですし、そのような職場を求めている障害者も沢山います。
現に数年前の公務員の障害者選考採用では頭がよさそうな人たちが殺到していました。
まあ、女性が未だに男性と同じ扱いをされなかったり、正規と非正規の格差の激しい我が国らしい有様と言えば言えるとは思いますが。
この判決が反面教師になると言いますか、一石を投じる形で障碍者雇用のあり方が良い方向に向かう事を望みます。
投稿: balthazar | 2023年2月28日 (火) 19時22分