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2023年1月23日 (月)

フリーランスに係る募集情報提供事業規制@『労基旬報』2023年1月25日号

『労基旬報』2023年1月25日号に「フリーランスに係る募集情報提供事業規制」を寄稿しました。

 昨年秋には、岸田内閣の目玉政策の一つとしてフリーランス新法が国会に提出されるという触れ込みでしたが、結局諸般の情勢から提出されずじまいとなりました。もっともその内容は、昨年9月13日から27日にかけて行われた「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というパブリックコメント用のペーパーに示されています。その大部分は、一昨年(2021年)3月のフリーランス・ガイドラインの延長線上に、業務委託の際の条件明示義務、報酬の支払期日、事業者の禁止行為などを規定するもので、主として公正取引委員会が所管し、中小企業庁が実施に関わる領域になります。
 ところが、このペーパーの中には、募集情報の的確性やハラスメント。ワークライフバランスといった、これまで雇用労働者を対象に進められてきた政策をフリーランスにも拡大するような項目も盛り込まれています。この部分は、労働法の対象拡大という観点からも大変興味深いところであり、今後法案の形で国会に提出されたときには細かく分析する必要があります。今回はそのうち、職業安定法の2022年改正で大幅に拡充された募集情報等提供事業に対する規制のフリーランスへの拡大と位置づけられる「募集情報の的確性」の部分について、職業安定法の歴史と労働行政におけるフリーランス政策の展開の両面から概観してみたいと思います。
 職業安定法は有料職業紹介事業に対して極めて厳格な規制をする一方、求人情報を扱う事業に対しては何の規制もありませんでした。1980年代にリクルートをはじめとする求人情報誌が急速に発展すると、虚偽・誇大広告による被害が社会問題となり、求人情報誌規制が行政内部で検討されました。しかし、1985年改正職業安定法は、第42条第2項として緩やかな努力義務を規定するにとどまりました。その後、労働省の民間労働力需給制度研究会は、労働者募集広告事業者に対する様々な規制を提言しましたが、中央職業安定審議会民間労働力需給制度小委員会では労使間で意見がまとまらず、手がつけられないままとなりました。その後議論の焦点は有料職業紹介事業のネガティブリスト化や手数料の自由化など規制緩和にシフトし、1997年省令改正、1999年法改正、2003年法改正など、規制緩和の時代が続きました。
 この流れが変わり始めたのが2017年法改正です。引き続く規制改革の動きと並んで、特に若者を中心に問題化していた求人トラブルをめぐって、法規制の動きが急速に進展し始めたのです。雇用仲介事業あり方検討会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て行われた同改正では、求人者も含めた労働条件明示義務の強化や求人申込みの拒否、さらには募集情報等提供事業に係る緩やかな努力義務が導入されました。
 その後、2019年にリクナビ事件が発生し、とりわけ個人情報の保護といった人権に関わる問題に関する募集情報等提供事業に対する規制の緩さが社会問題となり、労働市場における雇用仲介在り方研究会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て、2022年法改正に流れ込んでいくことになります。これにより、募集情報等提供事業者に様々な義務が課せられるとともに、求職者情報を収集する特定募集情報等提供事業者には初めて届出義務を課しました。この改正については厚労省のサイトを始めネット上に多くの解説が載っているので詳細はそれらに譲りますが、その元になった労働市場における雇用仲介在り方研究会報告の最後のところには、「雇用以外の仲介について」という一項が付け加えられていました。
 業務委託等の受発注者等、雇用以外の仕事を仲介するようなサービスについては、現時点において、職業安定法の射程を超えるものも存在すると考えられる。
 他方、態様として雇用仲介サービスと類似しているサービスが提供されていることや、非雇用者とされている人でも労働者性のある人や交渉力の低い人が存在することを踏まえ、雇用以外の仕事を仲介するサービスについても、雇用仲介サービスを行う者が守るべきルールに倣うことができるよう、周知を図るべきである。
 また同法改正の国会審議においても、フリーランスの問題が取り上げられていました。これは2022年3月24日の参議院厚生労働委員会における質疑です。
○川田龍平君 ・・・最後にじゃないんですが、フリーランスの保護についても一点お願い申し上げておきます。
 職業安定法は、あくまで雇用契約に関する仲介事業を対象としており、フリーランスなど雇用類似の仕事の仲介は対象になっていません。しかし、フリーランスだからといって虚偽の表示をしていい理由にはなりませんし、労働法制によって保護されないフリーランスだからこそ、仕事の仲介にはより正確な表示が求められると考えます。
 改正職安法の運用によって得られる知見、そして厚労省が委託実施しているフリーランス・トラブル110番などの相談内容を踏まえ、今後、フリーランスの保護に向けた取組を進めていただきたいと思いますが、大臣の見解を伺います。
○国務大臣(後藤茂之君) フリーランスとして働く方が安心して働ける環境を整備するために、厚生労働省では、令和2年11月より、関係省庁と連携をいたしまして、フリーランスと発注事業者とのトラブルについてワンストップで相談できる窓口としてフリーランス・トラブル110番を設置し、丁寧な相談対応に取り組んできております。
 今後、事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化などについて、内閣官房を始め関係省庁で検討し、新たなフリーランス保護法制を含む所要の措置を講じていくこととしているところでございます。フリーランス・トラブル110番に寄せられた事例や傾向については、保護法制を検討していく中で関係省庁とも共有しつつ、実態を踏まえた対応を行ってまいります。
 最終的に、参議院における付帯決議の中に第17号としてフリーランスに係る仕事の仲介についても「必要な対策を検討すること」が求められました。
 雇用保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
十七、業務委託や請負など雇用形態以外の仕事を仲介するサービスを利用して仕事を探す者の適切な保護が図られるよう、改正後の職業安定法の運用によって得られた知見やフリーランス・トラブル110番に寄せられた相談内容等を踏まえて、必要な対策を検討すること。
 一方フリーランス政策としては、2017年3月の働き方改革実行計画で「雇用類似の働き方が拡大している現状に鑑み、その実態を把握し、政府は有識者会議を設置し法的保護の必要性を中長期的課題として検討する」とされたことを受け、厚生労働省は雇用類似の働き方に関する検討会や雇用類似の働き方論点整理検討会を開催し、具体的な検討を進めてきました。2020年12月にとりまとめられた「これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」では、各論の「契約条件の明示、契約の締結・変更・終了に関するルールの明確化等」の中で、募集関係についても次のように触れています。
(1) 募集関係
<主な論点>
○雇用類似の仕事を行う者の募集の際のその条件の明示を促す方策を検討してはどうか。
?明示事項について、どのように考えるか。例えば、自営型テレワークガイドラインの記載事項等を参考とし、検討することが考えられるのではないか。
○その際、個人か企業かを問わずに業務委託の仕事を行う者を募集する場合について、どのように考えるか。
?雇用類似就業者となろうとする者へ保護の観点、委託者への負担の観点、契約時のルールとの関係性等を考慮した上で検討が必要ではないか。
○対象となる雇用類似就業者について、更なる要件を設ける必要があるか。
<主な御指摘>
・どの程度の作業を要する仕事なのかを明示すべき場合もあるのではないか
・募集と契約締結は分けて議論すべき
・募集条件の明示を促す方策は検討すべき。相手が企業か個人かを問わずに募集している場合でも、個人が対象となる以上は、明確化すべき部分は一定のルールを設けるべきではないか
・公正な競争を促す観点からは、募集段階での明示についても政策措置を考えることが必要ではないか
・条件の明示に関しては、実効性確保のために一定の情報を企業が開示すべきという問題と、具体的な契約内容をどのように明示して契約するかという問題のどちらで受け止めるかも考えて議論すべきではないか
・募集段階でどの程度の内容を明示させるかだけではなく、募集段階で一定以上の条件は切り下げられない要素として提示させるべきかについて、検討する必要があるのではないか
・募集条件については、実態に合った形で明示するのがよいのではないか
 2021年3月に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、もっぱら独占禁止法や下請法に基づき、フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項と仲介事業者が遵守すべき事項を記述するほか、既存の現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準を示すだけで、募集の問題には踏み込んでいませんでした。
 その後同年10月に就任した岸田文雄首相は、就任直ちに「新しい資本主義実現会議」を立ち上げました。同会議が翌11月にまとめた緊急提言では「新たなフリーランス保護法制の立法」という項目が立てられ、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する」と、新法の提出を予告していました。翌2022年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」でも、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出すると述べていました。
 こうして同年9月13日から27日にかけて、内閣官房が「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についてパブリックコメントを実施し、その結果も10月12日にまとめられています。この段階では、誰もがすぐに法案が国会に提出されると考えていましたが、そのままずるずると日が過ぎていき、結局提出されないままとなりました。その裏事情について、同年11月4日付の朝日新聞が「自民党内の議論で、多様な働き方があるフリーランスをまとめて保護することを疑問視する声などが相次ぎ、手続きが止まっている。岸田文雄首相の肝いりで、官邸が主導して法案作りを進めたことに対する反発もあるようだ。」と報じています。
 上述のパブリックコメントに付された「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というペーパーには、フリーランスに業務を委託する事業者に対して、条件明示義務、解約・不更新の予告、報酬の支払期日、事業者の禁止行為等の具体的立法内容が示されていますが、その中には募集情報の的確性という項目もありました。
○事業者が、不特定多数の者に対して、業務を受託するフリーランスの募集に関する情報等を提供する場合には、その情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならない。
○募集に応じて業務を受託しようとするフリーランスに対しては、上記(条件明示義務)に準じた事項を明示しなければならない。
○事業者が上記により明示した事項と異なる内容で業務委託をする場合には、その旨を説明しなければならない。
 これは2021年のガイドラインには含まれておらず、2022年職業安定法改正時の国会附帯決議で求められていたことがこういう形で入ってきたものと思われます。
 現時点ではまだ具体的な法律案として提案されているわけではありませんが、情報社会立法としての新・職業安定法の時代の最先端に位置する立法政策として、このフリーランスに係る募集情報提供に関する規制の試みは注目するに値します。

 

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