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2023年1月

2023年1月31日 (火)

解雇の金銭解決額 150万円と300万円@『労務事情』2023年2月1日号

B20230201 『労務事情』2023年2月1日号の連載「数字から読む日本の雇用」第10回として「解雇の金銭解決額150万円と300万円」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20230201.html

 今回の数字は、筆者自身が調査した数字です。周知のように、過去20年以上にわたって解雇の金銭解決制度の立法化が試みられてきましたが、現時点でなお実現に至っていません。筆者はかつて『日本再興戦略改訂2014』の要請に基づき、実際に裁判所に通って労働審判や裁判上の和解における解雇の金銭解決額等を調査したことがあります。その結果は、2015年4月に報告書に取りまとめるとともに、厚生労働省の透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会に報告されました。その後議論は解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会に移り、その報告書が2022年4月に取りまとめられた後、労働政策審議会労働条件分科会に報告されました。その場で審議会委員から平成調査は古いので改めて調査したらどうかと提起があり、厚生労働省からJILPTに緊急調査依頼がなされ、再度筆者が調査に携わることとなったわけです。
 筆者は2022年5月から6月にかけて毎日裁判所に通い、2020、2021両年の労働審判と裁判上の和解の記録を閲覧して、持ち込んだパソコンの表計算ソフトの上に必要なデータを打ち込んでいきました。報告書は現在取りまとめ中ですが、調査結果の一部は既に2022年10月26日の労働条件分科会に報告されていますので、その範囲内でいくつか興味深い数字を示しておきましょう。
 まず解決金額についてみると、・・・・

「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かの不毛な議論から脱却せよ——濱口桂一郎×髙木一史

D01472ecc53e159ced3cd32fc57ba36a2833f2db サイボウズの髙木一史さんは、著書『拝啓人事部長殿』刊行後、海老原嗣生、小熊英二、中野円佳さんらと次々に対談してきましたが、遂にそのおはちが私にも回ってきました。

実は、かなり早い段階で打診があったんですが、ちょうど毎日裁判所に通って訴訟や労働審判記録を調査するという仕事の真っ最中だったために、だいぶ後回しになったというわけです。

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006090.html(「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かの不毛な議論から脱却せよ。その先にある「ギルド的メンバーシップ型」の可能性——濱口桂一郎×髙木一史)

サイボウズ人事部の髙木一史は、「社員が閉塞感を覚えず、幸せに働ける会社をつくりたい」という想いから、初の著書となる『拝啓 人事部長殿』を2022年6月17日に上梓しました。

書籍ではテクノロジーを活用し、会社との多様な距離感・自立的な選択・徹底的な情報共有といった風土をつくることで、個人の幸せと会社の理想実現を両立できるのではないか、という仮説を提示。これを「インターネット的な会社」と呼んでいます。

この仮説をもとに、髙木がこれからの働き方について、多様な分野の方々と議論を交わす企画「20代、人事と向き合う。」がスタート。

今回の対談相手は、労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郞さん。長年、労働法政策を専門に日本の雇用問題に向き合ってきた濱口さんは、「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」という言葉の生みの親でもあります。これからの雇用のあり方について、議論した様子をお届けします。

ギルド的メンバーシップって、なんのこっちゃと思った人は、是非リンク先へ

 

 

 

2023年1月30日 (月)

EU最低所得勧告を採択

本日、EUの閣僚理事会は「積極的な包摂を確保する十分な最低所得に関する勧告」を採択しました。

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2023/01/30/council-adopts-recommendation-on-adequate-minimum-income/

This Council recommendation aims to combat poverty and social exclusion, and to pursue high levels of employment by promoting adequate income support by means of minimum income, effective access to enabling and essential services for persons lacking sufficient resources and by fostering labour market integration of those who can work.

この理事会勧告は貧困と社会的排除と戦うことを目指し、最低所得による十分な所得の保障、十分なリソースが欠如する人々への効果的なエッセンシャルサービスへのアクセスと、労働可能な者の労働市場への統合を進めることによって、高水準の雇用を追求することを目指す。

最低所得(minimum income)とは、無条件の普遍的ベーシックインカムとは異なり資産調査と就労要請を伴うものです。本勧告は加盟国に対し最低所得制度を現代化し、より効果的に人々を貧困から脱却させると共に、働ける人には労働市場への統合を促進するよう求めています。具体的には、所得補助の十分性の改善、最低所得受給のカバレッジの拡大、包摂的な労働市場へのアクセス、社会生活に不可欠なエッセンシャルサービスへのアクセス、個別化された支援、社会的セーフティネットのガバナンスの改善、等が挙げられています。

日本における生活保護を始めとする社会扶助の議論にも示唆を与えるものと思います。

 

 

さすが老人雑誌の躍如としてめ面目ない

いまから30年前にエロ好きの中年おじさま御用達の週刊誌として売れていたのが、その読者層コーホートがそっくりそのまま高齢化して、もはやヘアヌードでは興奮できないおじいさま方の興奮剤は、古き良き神聖なる憎税同盟のスローガン宜しく「「子ども優遇」増税に怒り爆発! 」「高齢世代から非難囂々」「岸田よ、「少子化」と言えば何でも許されると思うなよ」で、それが老い先短い老人のエゴではないかという反省をさせないための麻酔薬が「令和の埋蔵金30兆円」という銭湯時計こと元内閣官房参与氏の使い古しの手品だというのが、たまらなくもの悲しさを感じさせますね。

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2023年1月29日 (日)

リスキリングとOJTと育児休業と

そもそも日本型雇用システムにおいては、リスキリングなどと称して会社のよそで一生懸命勉強しても会社は評価してくれず給料も上がらない(下手したら仕事をおろそかにして下らねえことしやがってと叱られる)。

それよりも会社の中で上司のみている前で、オンザジョブトレーニングよろしく、おぼつかなくても一生懸命仕事に取り組んでだんだんできるようになっていくのを評価してくれて給料も上がっていく。

日本の会社が評価するスキルアップというのは、会社のよそでやるリスキリングとやらではなく、会社の中でやる仕事そのものと二重に重ね合わされたOJTなのだ。

という構造の中で、育児休業なんぞをとってるというのは単に仕事をしていないというだけではなく(その分はノーワークノーペイでどこでも同じ)、OJTという形でスキルアップに一生懸命取り組むということをやっていないというマイナスにみられてしまう。

だから、と私は想像するのだが、だから、例のいま話題になっている問答のもとになった発想というのが生まれてきたのではないか。

OJTという形でのスキルアップをやらない育児休業中といえども、ちゃんと別の形でスキルアップをやっていますよ、と。

しかも、育児休業中でOJTがそもそもできない期間なのだから、いくら政府が笛を吹いても肝心の日本の会社の中堅層が全然その気になって踊ってくれないリスキリングという奴を売り込むのに最適ではないか、よしこれで行こう、と。

そこの根っこに構造的な問題があるのはいうまでもないが、そういう構造的な問題抜きのやや浅い論評ばかりが横行するのも哀しい見ものではある。

日本の労働学者の皆さんだって、このことは何10年も前から分かっていたはずなのに

ワークライフバランスの小室淑恵さんが、こんな風に言われているのですが、

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02JB5yW9uXHz7kRGTBsHgfoF3y888iLBbXTBrNTkzoGR84aJPkJuo4mbD3wn2UxVbal&id=100002656918022

日本の労働学者の皆さんだって、このことは何10年も前から分かっていたはずなのに、いつの間にか空気を読んで口をつぐんだ現状が悔しくてなりません。・・・

いやまさにそういうことを言うてきたつもりなのですが、労働学者として見られていないのかもしれません。

 

 

 

 

2023年1月28日 (土)

「ジョブ型」という言葉を最初に使ったのは木下武男さんだが・・・

たまたまネット上で、濱口桂一郎が憎たらしい余りこういうことを口走っている御仁を見つけましたが、

https://blog.goo.ne.jp/21century-world/e/5bf9f0a960e5fef1b147b7b8f0b89375

木下武男『労働組合とはなにか』 岩波書店,2021年3月が発行されたとき,早速購入し読んでみた。しかし,巻末の参考文献には濱口桂一郎の本は挙げられていない,本文中でも「ジョブ型雇用」だとか「メンバーシップ雇用」といった,ちまたにおいては一定限度流通している新造語も相手にされていない。・・・

この御仁は、「ジョブ型」という用語はけしからぬ濱口が作り出した許しがたい用語であり、木下武男さんのようなまともな研究者は、そういうふざけ切った用語には見向きもしないのだ!と言いたくてこう書いているんでしょうな。

ところが,木下武男『労働組合とは何か』2021年3月は,この雇用形態論を提唱した識者の主著を,参考文献にさえとりあげていない。木下は,現状日本における雇用問題は「19世紀型の野蛮な労働市場」だ(250頁)と判断している。

 21世紀にもなおつづく日本の労働市場におけるその野蛮を,まるで・ともかく,前提要件として認容するほかない「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」といった疑似理念型的な発想は,社会科学論の見地から一度は徹底的に批判されつくす余地がある。

 以上のその判断がまっとうな知見(=問題意識の設定)だとすれば,いいかえれば,「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という『単なる思考のための便宜的な枠組』が,いきなり日本の労働市場「問題状況」のなかにもちこみまれた状態のまま,いつまでもこの雇用問題のために利用されうると勘違いされている。このままだと,日本における労働組合論はまともに進展させえない。

木下さんの本は、謹呈いただいたときに若干の批判も含めて論及したことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/03/post-9c1e6b.html

しかし、本書については、「ありがとうございます」で済ますわけには生きません。

「労働組合論という今どきあまり関心を持たれない」(あとがき)テーマを一般向けの新書で取り上げたという意味では、昨年の『働き方改革の世界史』を書いた私としては、おざなりではなく、疑問点をいくつも提起しておくべきだと考えるからです。

ジョブ型雇用の希薄な日本でジョブ型労使関係をどう論ずるのかという問題意識がほぼ類似しているからこそ、そこをきちんと指摘しておかなければなりません。・・・

木下さんこそは、日本において「ジョブ型」という用語を労働問題の分析に本格的に導入した一人なのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-7d5856.html

こたつさんと焦げすーもさんが「ジョブ型」って言葉を言い出したのは誰か?をめぐって論争(?)しているようですが、

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287016917979394050

「ジョブ型」のフレーズを作ったのは木下武夫先生だと昔どっかで聞いたような。

https://twitter.com/yamachan_run/status/1287218971809214464

起源はよくわかりませんが、hamachan先生のネタ元は田中博秀氏という労働官僚のようですね。

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287228009909379075

そういえばそういうのありましたね。木下先生のは「ジョブ型正社員」でしたかね。記憶が曖昧ですが、何かは木下先生だったと聞いた気がします。

まず、「木下武夫」→「木下武男」ね。人の名前は慎重に。

次に、私のネタ元は、これまでの日本の労働研究の総体です、キリッ。「就職型」と「就社型」とか、「職務型」と「所属型」とか、いろんな人がいろんな言い方をしてきたほぼ同じコンセプトに、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」という新たなラベルをぺたりと貼り付けただけ。

田中博秀さんもその一人ですが、実はその中でも特にネタ元としての性格が強いのは、他の論者に比べて、新卒採用の局面に最も注目して、そこに日本型雇用の本質を見いだしているところでしょう。特に、労働法系の人はどうしても解雇の局面に一番本質を見いだそうとしがちですが、入口に一番着目した点が田中さんのポイントで、だから『若者と労働』では主として田中著を引用する形で論を進めたのです。

ですが、田中さんは「ジョブ型」なんて言葉は使っていません。

ciniiで「ジョブ型」を検索してみると、タイトルでは2010年2月の木下武男さんの「「年功賃金」は持続不可能 「ジョブ型賃金+福祉国家」で」(『エコノミスト』)が初出ですが、全文検索では(オペレーションズリサーチ系のものを別にすれば)2009年7月のやはり木下武男さんの「雇用をめぐる規制と規制緩和の対抗軸」(『季刊経済理論』)が最初のようです。ここでは既に「ジョブ型正社員」という言葉が登場しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/46/2/46_KJ00009409281/_pdf/-char/ja

とすると、やはり「ジョブ型」という言葉を最初に用いたのは木下武男さんということになりそうですが、実はそれより前の2008年4月のリクルートの『Works』に「三種の神器を統べるもの」というインタビュー記事が載ってて、これはciniiの全文検索では引っかかってこないのですが、リクルートワークス研究所のサイトに全文アップされていて、

https://www.works-i.com/works/item/w_087.pdf

このなかで「ジョブ契約」「メンバーシップ契約」という言い方をしています。

ただ、「ジョブ型正社員」という言い方自体は、私の場合2010年2月に『労基旬報』に寄稿した「ジョブ型正社員の構想」が初出ですので、木下さんよりはあとになります。

41zgbjhq23l_sx290_bo1204203200_ まあでも、これってたかが言葉尻の話であって、そもそも木下さんは1999年に出した『日本人の賃金』(平凡社新書)の中で、職務型賃金への移行を強く主張していますし、遡れば高度成長期にはそういう議論は山のようにあったものなので、どっちが先とかあととかあんまり意味のない議論です。

というわけで、ciniiで検索できる限りの学術論文において、「ジョブ型」という用語を本邦で初めて用いたのは、木下武男さんであることは明らかです。この点については、私は堂々と世間に向かって申し述べたい。

も一ついうと、これは学術論文ではなく、『POSSE』という若者主体の労働運動誌の第4号(2009年)において、木下武男さん考案になる「格差論壇MAP」というのが載っていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/posse-fb68.html

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そういう木下武男さんをつかまえて、こともあろうに「「ジョブ型雇用」だとか「メンバーシップ雇用」といった,ちまたにおいては一定限度流通している新造語も相手にされていない」などというのは、おそらくこの御仁は誉めているつもりかもしれませんが、これほどの侮辱はないのではないかと思われるくらいのとてつもない罵詈讒謗に等しい暴言というべきでしょう。

言ってみれば、マルクスさんをつかまえて、『資本論』を読んだけれども、どこにも社会主義やら共産主義なんていう馬鹿げたことを言ってないぞ、と褒め称えているようなものですからね。いやはや。

G112301500 この調子でいくと、今度はPOSSEの今野晴貴さんあたりをつかまえて、彼の書くものを全部読んでもどこにもジョブ型などという愚劣な言葉は出てこないぞと、居丈高に呼ばわるのでしょうか。

濱口桂一郎が憎くて憎くてしょうがないという思いのたけはひしひしと伝わってきますが、濱口憎けりゃジョブ型まで憎いとばかりにめったやたらにねじけた贔屓の引き倒しばかりやっていると、自らのひった糞が跳ね返ってこないとも限りませんので、ほどほどにしておいた方が宜しかろうと愚考する次第です。

 

 

 

 

 

 

「復職可能」の「職」とはザ・ジョブか、ア・ジョブか?

先日、某所の判例研究会でシャープNECディスプレイソリューションズ事件(横浜地判令和3・12・23)の議論に参加したのですが、改めて読み返してみて、出てくる医者がことごとくこの原告さんを「復職可能」と言っているのは何なんだろうか、と感じました。もちろん、判決文から間接的に事態を推測することしかできないとは言いながら、とてもまともに仕事ができそうにないこの人を「復職可能」とするのは、結局日本型雇用システムの故としか言いようがないなあ、と感じたところです。

日本以外のジョブ型社会であれば、傷病によって職務遂行不能に陥っていた人が「復職可能」かどうかを判断する基準は、その人の雇用契約に明記されている当該職務、ザ・ジョブ以外にはありえず、その当該職務を十全に遂行することができないのであれば、ほかの容易な単純労働がいかにできようがそんなことは何ら関係なく「復職不能」としか言いようがないはずです。

ところが日本のようなメンバーシップ型社会では、その人の雇用契約上限定されたザ・ジョブはなく、会社の中にやれそうな仕事(ア・ジョブ)を切り出してあてがうことが可能であれば、安易に「復職可能」と言ってしまいがちです。

そもそも、当該会社の中の具体的な仕事をよく知らない医者が安易に「復職可能」と言えてしまうのも、ア・ジョブならできますよ、という意味でしかありえないでしょう。

昨今、この手の事案が大変多くなってきていて、企業の人事部も苦労が絶えないようですが、そもそもそうなってしまっている根源は、やはり雇用システムに遡るのでしょうね。

2023年1月27日 (金)

毎勤の賃金上昇を決めているのはベア。定昇ではない@中井雅之

Nakai_m JILPTの緊急コラムに、中井雅之さんが「毎勤の賃金上昇を決めているのはベア。定昇ではない」を書いています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/031.html

文字通り、タイトルが述べている通りの内容ですが、「そんなのあたりまえやろ」と言わずに読んでください。

もう長いこと、どれくらい賃上げしたのかを「定昇込み」で何%という風習が続いていますが、それでみると、定期昇給はずっとほぼ2%前後で変わっていない。それに対してかつてはそれなりの割合を占めていたベースアップは2000年前後からほぼゼロに張り付いていて、第2次安倍政権下での官製春闘の時期にほんの0.5%ほどに上がっていた程度。

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で、労働組合も定昇込みで賃上げ幾らというけれども、それって本当に賃上げなのかを、毎月勤労統計の数字と重ね合わせて確認しようというのが、この中井さんのコラムの眼目です。

031fig4

毎勤の所定内給与の増減という客観的な指標と照らしあわせて見れば一目瞭然、マクロ経済的に正味の賃上げといえるのは定昇抜きのベア部分だけであって、定昇込み何%という数字は、現実の賃上げラインの遥か上の方を空虚にたゆたっているだけなのですね。

もちろん、個々の労働者個人にとっては、去年の給料よりも今年の給料が幾ら上がったかというのは定昇込みの数字なので、それだけ賃上げしていると思えてしまうのでしょうが、いうまでもなくその定昇部分というのは、毎年、一番高い人々が抜けていって、一番低い人々が入ってくることで、会社にとってはチャラになっているわけであり、それを全部足し合わせたマクロ経済でも全部合算すればチャラになっている(年齢構成の変動部分は一応抜きにして)ので、個人の主観における賃上げは社会の客観的な賃上げではないということになるわけです。

 

 

 

 

 

第125回労働政策フォーラム「女性の就業について考える─環境変化と支援のあり方を中心に─」

第125回労働政策フォーラム「女性の就業について考える─環境変化と支援のあり方を中心に─」を開催しますので、ふるってご参加下さい。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20230220/20230220flyer.pdf

Jiljil

 

 

2023年1月26日 (木)

地方議員への立候補のために入営者職業保障法はいかが?

総務省及び三議長会から経団連に対して、勤労者が地方議会議員に立候補しやすい環境を整備するため、各企業の状況に応じた自主的な取組として、就業規則において、立候補に伴う休暇制度を設けることや、議員との副業・兼業を可能とすること等について要請があったそうです。

https://www.keidanren.or.jp/announce/2023/0126_shiryo1.pdf

1 地方議会議員選挙において、勤労者が容易に立候補をすることができるよう、各企業の状況に応じ、就業規則について必要な見直しを行い、立候補に伴う休暇制度を設けることや、立候補した勤労者に対し解雇や減給等の不利益な取扱いをしないこととしていただくこと。

2 企業に勤務しながら議員活動を行うことができるよう、各企業の状況に応じ、就業規則における副業・兼業に係る規定の見直しや明確化を行うことにより、議員との副業・兼業を可能としていただくこと

これは、市民としての公共的な活動に労働者の時間と能力を貢献してもらいたいという政治の問題と企業の事業活動のために労働者を雇っているんだから余計なことはやらずに働いてもらいたいという経済の問題の交錯する領域です。似たような話に裁判員としての活動との調整などもありますが、実はこの手の話の一番本丸に位置するのは、戦後はなくなりましたが戦前は成人男子の義務として存在していた兵役との調整です。

そして、おそらく戦後生まれの人々の知識の中にはほとんど存在していないと思われますが、戦前の日本では兵役と企業労働との調整のために入営者職業保障法という法律まで作っていました。

11021851_5bdc1e379a12a_20230126223001 拙著『日本の労働法政策』から関係個所を引用しておきます。

  兵役服務者の復員後の就職確保の問題はかねてから意識されていたが、昭和初期の不況の中で深刻な社会問題となった。そのため、1931年入営者職業保障法が制定され、除隊者の復職を保障しようとした。同法はまず第1条で「何人ト雖モ被傭者ヲ求メ又ハ求職者ノ採否ヲ決スル場合ニ於テ入営ヲ命セラレタル者又ハ入営ヲ命セラルルコトアルヘキ者ニ対シ其ノ故ヲ以テ不利益ナル取扱ヲ為スヘカラス」と均等待遇を求めた上で、第2条で「雇傭者ハ入営ヲ命セラレタル被傭者ヲ解雇シタルトキ又ハ被傭者ノ入営中雇傭期間ノ満了シタルトキハ、其ノ者カ退営シタル日ヨリ三月以内ニ更ニ之ヲ雇傭スルコトヲ要ス」と、雇入れの義務づけを行っている。もっとも、陸軍では2年、海軍では3年を超える期間の服役を志願して採用された場合などいくつかの例外が規定されている。この場合の労務及び給与は入営直前の労務及び給与と同等でなければならず、これは被傭者が解雇されずに復職する場合にも同じである。
 これはもとより徴兵制のあった時代の法制ではあるが、より広く国家社会の需要と企業の雇用行動とを調和させようとする法制の先駆的事例として、現代にも示唆するところは多いように思われる。

『島田陽一先生古稀記念論集 働く社会の変容と生活保障の法』

620202 菊池馨実・竹内(奥野)寿・細川良・大木正俊・鈴木俊晴 編著『島田陽一先生古稀記念論集 働く社会の変容と生活保障の法』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b620202.html

雇用社会の変容期であるいま、「日本型雇用慣行」を前提とする働き方を変革しなければ解決できない課題が山積している。

これまでの法制度や税・社会保障・年金制度の変革が求められ、労働法学についても根本的な見直しが迫られるなか、どのような就業・雇用形態を選択しても、生活が保障されるセーフティネットの構築と、差別されない社会制度をめざすべきであり、「就業者の生活保障の法」を構築することが必要である。

現在の労働法・社会保障法の理論的または政策的課題を多面的に検討する論集。

というわけで、ベテランクラスから中堅、若手に至る総勢33名が、実にさまざまなトピックを論じています。

率直に言って、冒頭近くの大内さんや水町さんの総論的論文がいつもの感があるのに対して、中盤から後ろの方に収録されている割と若手の方々のかなり特定分野を掘り下げたような論文が、結構面白くて引き込まれます。

たとえば、浅野公貴さんの「治療と仕事の両立支援の観点からみた傷病手当金の意義と課題」とか、所浩代さんの「月経等による就労障害と日本法制の課題」とか、おそらく労働法のテキストでは数行で片づけられてしまいそうなトピックですが、深堀するといろんな課題が出てくるなあと思わせます。

刊行にあたって
序 章 生活保障法の理論課題 島田陽一
1 はじめに
2 生活保障法の基礎理論
3 現行法制と生活保障法
4 むすび―生活保障法の今後の理論課題

第I部 これからの労働法学・社会保障法学の課題

第1章 変化する労働と法の役割
―デジタル技術の影響と社会課題の解決という視座―   大内伸哉
1 問題の所在
(1)定まらないギグワークの評価 21
(2)労働法の原理的射程
(3)労働法の時代的制約
(4)メタ労働法論の必要性
2 労働の目的と企業と手段性
(1)労働の原点
(2)技術と企業の手段性
(3)企業の社会的責任
(4)社会的責任と法
3 デジタル技術と法
(1)デジタル技術が引き起こす社会課題
(2)デジタル技術の手段性
4 エピローグ―労働の死?

第2章 現代労働法の新たな理論動向と日本 水町勇一郎
1 労働法の歴史と変容
2 現代労働法の理論的潮流―三つの法理論
3 欧米諸国の労働法の政策的動向―三つの方向性
4 日本の労働法の政策的展開と課題
(1)広義の「就業促進」政策
(2)広義の「差別禁止」政策
(3)法政策を推進・実現するための「手法」
(4)考察と課題

第3章 有業の低賃金・低所得層をいかなる存在として把握すべきか 林 健太郎
1 はじめに
2 有業の低賃金・低所得層に対する社会保障制度の対応
3 有業の低賃金・低所得層の置かれた状況をいかに把握すべきか
4 むすびにかえて

第4章 生活保障・憲法・社会保障法―生活保障法コンセプトの可能性― 渡邊 賢
1 はじめに
2 島田教授の提唱する 「生活保障法」
(1)「生活保障法」の提唱
(2)「生活保障法」の理念と具体的内容
(3)まとめ
3 「生活保障法」コンセプトの特徴
(1)「生活保障」 ―従前の議論との異同
(2)キャリア権論との関係
(3)能力開発施策の重視
4 「生活保障法」 コンセプトの可能性
(1)「生活保障法」 コンセプトと憲法 25 条論
(2)「生活保障法」コンセプトと社会保障法 75
5 おわりに

第5章 新しい就業と労働権論の新たな展開 有田謙司
1 はじめに
2 新しい就業の進展とそれがもたらす諸問題
3 新しい就業と労働権論の意義
4 新しい就業に対する法的保護・規制の根拠としての労働権論
5 新しい就業の諸問題と労働権論
(1)労働権と報酬
(2)労働権と契約の成立と終了・仕事の喪失・所得保障等
(3)労働権とプライヴァシー
(4)労働権と権利救済・紛争解決
6 おわりに 95

第6章 「労働の中心性」と労働法の基礎理論―メダ=シュピオ論争の端緒―  本久洋一
1 はじめに
2 シュピオ「労働、分かち合われた自由」(1993 年)
(1)労働の分かち合い(労働時間の短縮)に対する批判
(2)労働法の未来としての労働の解放
3 メダ「労働と社会政策 アラン・シュピオ『労働、分かち合われた自由』に
ついて」(1994 年)
(1)労働概念の歴史性
(2)労働の他律性
(3)「労働の解放」批判
(4)労働の分かち合いの擁護
4 おわりに

第Ⅱ部 就業形態の多様化と就業者の権利

第1章 パート・有期の格差是正法理と組織的公正―判例法理の理論化をめぐる一考察― 大木正俊
1 はじめに
2 組織的公正研究
(1)組織的公正研究の潮流
(2)分配的公正の議論の進展
(3)(広義の)手続的公正の議論
3 労契法旧 20 条関連裁判例の動向
(1)労契法旧 20 条の制定
(2)労契法旧 20 条解釈の進展
1)最高裁の判断枠組み
2)判断枠組みの詳細 ―最高裁判決を中心に
3)裁判例の傾向
4 考察
(1)分配的公正と裁判例
1)考慮すべき要素の多様性
2)均衡以外の分配的構成
(2)手続的公正と裁判例

第2章 雇用領域における差別禁止法の理論的課題―形式的平等から実質的平等の保障へ―  黒岩容子
1 問題の所在
2 国際的にみた法理論の展開
(1)伝統的な形式的平等論の意義および限界
(2)実質的平等論の提起と議論の展開
3 日本における「平等」「差別」をめぐる議論
4 差別禁止法の現代的再構築に向けて

第3章 今後の派遣労働法制のあり方 勝亦啓文
1 はじめに
2 労働者派遣法の沿革
3 労働者派遣をめぐる論点
(1)職安法との関係
(2)派遣先の雇用責任
(3)派遣労働者の待遇改善
4 労働者派遣法制のあり方

第4章 自営的就業者の団体交渉 竹内(奥野)寿
1 はじめに
2 労組法上の労働者としての保護の可能性
(1)労組法上の労働者性についての判例等の状況
(2)プラットフォーム就業者をめぐる議論
(3)コンビニエンスストアのオーナーをめぐる議論
3 労組法上の労働者ではないとしたうえでの保護をめぐる議論
(1)中小企業等協同組合法の下での交渉
(2)憲法 28 条の勤労者としての保護の可能性
4 労働法と独禁法との関係をめぐる議論
5 むすび

第5章 ワーカーズ・コレクティブの法律問題 小山敬晴
1 はじめに
2 労働者協同組合法の概要
3 法的課題
(1)検討対象の確定
(2)検討目的
(3)労働契約締結義務の意義
(4)法における協同組合の労働の定義
(5)評価
4 結語 ―これからの研究課題

第6章 フランチャイジー(加盟者)の法的保護のあり方―労働法と競争法の交錯―   土田道夫
1 本稿の目的
2 ファミリーマート事件
(1)概説 ―フランチャイズ契約・労組法上の労働者
(2)東京都労委命令
1)フランチャイズ契約における加盟者の労組法上の労働者性判断
2)具体的判断
(3)中労委命令
1)フランチャイズ契約における加盟者の労組法上の労働者性判断
2)具体的判断
(4)分析
3 労組法・独禁法による法的保護の正当化根拠
(1)労組法(労働法)による法的保護の正当化根拠
(2)独禁法(競争法)による保護の正当化根拠
(3)加盟者の労働者性を肯定した場合の独禁法の適用
4 独禁法の規律
(1)ぎまん的顧客誘引
(2)優越的地位の濫用
1)優越的地位の濫用行為
2)優越的地位の認定
5 結語

第7章 フランチャイズ契約と労働法―フランスの最近の動向を中心に―  大山盛義
1 はじめに
(1)日本の状況
(2)本稿の目的
2 これまでの議論状況
(1)従属(subordantion)関係の存否
(2)独立労働に関する労働法上の特別な保護規定
(3)フランチャイズ契約と労働法に関する裁判例―先例としての 2002 年判決
(4)フランチャイジーに対し労働法規定の適用を認めた裁判二例
1)労働法典(旧)L.781-1 条 2 項の適用
2)労働法 L.7321-1 条適用の意義
3 2002 年以降の裁判例
(1)「使用従属」関係の存在を認めた判決 ―破毀院社会部 2012 年 1 月 18 日判
決(Soc. 18 Jan 2012, no 10-16.342.)
(2)労働法 L.7321-2 条の適用―破毀院社会部 2012年1月18日判決(Soc. 18 janv. 2012, no 10-23.921)
(3)労働法 L.7321-1 条以下に関する裁判動向
4 労使対話機関の創設(2016 年)と廃止(2018 年)
(1)労使対話機関の創設
(2)労使対話機関の廃止
5 結びに代えて

第8章 韓国の公共部門における正規職転換の取組みと日本への示唆
―公共部門における非正規労働者の雇用安定をいかに図るか― 徐 侖希
1 はじめに―本稿で扱おうとすること
2 韓国の公共部門で行われている正規職転換の取組みとその対象
3 韓国の国・地方自治体に使用される「公務員ではない勤労者」
4 期間制勤労者の使用期間の上限を規制する期間制法 4 条と国・地方自治体への適用
(1)正規職転換の対象となる公務員ではない期間制勤労者
(2)正規職転換の対象外である任期付の非正規公務員
5 終わりに―韓国での取組みと日本への示唆
(1)韓国の公共部門における正規職転換の取組み
(2)日本への示唆―公共部門における非正規労働者の雇用安定をいかに図るか

第9章 正規公務員と非正規公務員の待遇格差の違法性―会計年度任用職員を中心とした検討― 岡田俊宏
1 はじめに
2 民間労働法の議論状況と会計年度任用職員制度の概要
(1)民間労働法の議論状況
1)労契法 20 条制定以前の状況
2)労契法 20 条の制定とその後の立法および判例の状況
(2)会計年度任用職員制度の概要
1)改正地公法・改正地方自治法
2)総務省マニュアルの内容
3 不合理な待遇の相違が禁止されていること
(1)問題の所在
(2)従前の学説・裁判例
1)学説の状況
2)裁判例の状況
(3)不合理な待遇の相違を違法と解する法的根拠
1)平等取扱いの原則(地公法 13 条)
2)情勢適応の原則(地公法 14 条 1 項)
3)職務給の原則(地公法 24 条 1 項)
4)均衡の原則(地公法 24 条 2 項・4 項)
(4)小括
4 不合理な待遇の相違の救済方法
(1)問題の所在
(2)行政救済
(3)司法救済
5 おわりに

第Ⅲ部 新たな生活保障をめぐる課題

第1章 自営的就業者と労働法 細川 良
1 はじめに
2 独立自営業者およびプラットフォームワークに対する労働法の適用
(1)労働者保護法理(労働基準法令)による保護
1)労働基準法上の「労働者」の解釈について
2)立法を通じた労働者保護法理の適用
(2)労働契約法の適用
(3)労働組合法の適用
3 おわりに―独立自営業者およびプラットフォームワークの保護に関する政策の
あり方

第2章 就業者と教育訓練の権利 矢野昌浩
1 前提と視点
2 日本における職業訓練法の特徴・問題
3 フランスにおける職業訓練法の特徴・概要
(1)特徴
(2)現行法の主要な仕組み
1)継続的職業訓練の目的・種類
2)労働者の権利
3)使用者の義務・責任
(3)労働時間・賃金支払いとの関係
(4)財政・運営
1)財政
2)運営
(5)失業保障と職業訓練
1)失業保険と職業訓練
2)失業扶助
(6)職業訓練の実習生という法的地位
(7)小括
4 まとめ

第3章 就業者と所得保障の課題―就業の不安定化と曖昧化への対応― 西村 淳
1 はじめに
2 就業との関係における所得保障制度の体系と変化
3 所得保障における複合
(1)社会保険と税の複合
(2)就業と給付の複合
(3)給付と支援サービスの複合
4 就業できないことに伴う給付と就業に関係しないニーズへの給付の区分
5 おわりに

第4章 全世代型社会保障と生活保障法の課題 菊池馨実
1 はじめに
2 全世代型社会保障に向けた政策動向
(1)社会保障国民会議
(2)安心社会実現会議
(3)社会保障改革に関する有識者検討会
(4)社会保障制度改革国民会議
(5)社会保障制度改革推進会議
(6)全世代型社会保障検討会議
(7)全世代型社会保障構築会議
(8)小括
3 全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正
する法律
(1) 法律の概要
(2)医療保険部会での議論

 

 

2023年1月25日 (水)

欧州労連が職場のアルゴリズム指令を要求

欧州労連が昨日付で、職場のアルゴリズムを規制する指令を求める決議を公表しました。

https://www.etuc.org/en/document/etuc-resolution-calling-eu-directive-algorithmic-systems-work

Algorithmic systems, especially AI (Artificial Intelligence), have a great influence on the work of the future. To improve working conditions and avoid negative effects, the use of such systems in the workplace must be better and effective regulated;
The AI Act is not suitable for regulating use of AI in the workplace. An EU directive on algorithmic systems in the workplace, based on Article 153 TFEU, should define European minimum standards for the design and use of algorithmic systems in the employment context;
Key element of the new directive is the strengthening and enforcement of collective bargaining rights of trade unions as well as information, consultation and participation rights of workers' representatives;
Algorithmic systems at work need to be transparent and explainable. Workers and their representatives shall have the right to receive information about the used applications in plain and understandable language;
Trade unions and workers’ representatives shall have the right to gain external expertise;
An algorithmic impact assessment for changes in working conditions, including a fundamental rights and equality impact assessment, must be carried out by the employer, with the full involvement of trade unions and workers' representatives before any system is implemented and should be repeated regularly after implementation.
Intrusive applications should be banned in the context of work. Applications to monitor workers shall only be allowed if their use is negotiated and agreed with trade unions and/or workers’ representatives;
Algorithmic systems and AI should assist workers in the employment context. The human-in-command principle has to be defined and the rights of human decision makers have to be protected;
Workers shall have the right to check and revise algorithmic decisions.

欧州委員会は既にAI規則案を提案していますが、欧州労連によると、職場のAI利用については同規則案では不十分であり、雇用に関わる特定の指令の制定が必要だと言っています。

この中で最も重要なのは、職場にAIを実装する際には、人権や平等を含む労働条件に対する影響のアセスメントを労働組合や労働者代表を入れてやれという点でしょう。

 

「ぬるま湯的な状況だった」 春闘で労組幹部から相次ぐ反省の弁@毎日新聞

今朝の毎日新聞の2面に春闘関連のでかい記事が載っていますが、

https://mainichi.jp/articles/20230123/k00/00m/040/258000c(「ぬるま湯的な状況だった」 春闘で労組幹部から相次ぐ反省の弁)

9_20230125102801 主要企業の労使の代表者などが集まる経団連の労使フォーラムが24日、東京都内で開かれ、2023年春闘の労使交渉が本格化した。今年の春闘で1995年以来の高い要求を掲げる連合だが、その内部から「これまでの春闘はぬるま湯的な状況だった」(幹部)など、過去を反省する言葉が漏れ伝わってくる。連合内部でいったい何が起きているのだろうか――。・・・

記事の後ろの方には私もちらりと出てきます。喋っているのは、『世界』1月号に書いたようなことです。

 

 

2023年1月23日 (月)

日本型職務給とはスキル給?

本日の岸田首相の施政方針演説では、防衛力の強化や子供・子育て政策に比べるとやや注目が低いようですが、構造的な賃上げの中に「日本型の職務給」というのが出てきます。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0123shiseihoshin.html

(三)構造的な賃上げ
 そして、企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、「賃上げ」です。
 これまで着実に積み上げてきた経済成長の土台の上に、持続的に賃金が上がる「構造」を作り上げるため、労働市場改革を進めます。
 まずは、足下で、物価上昇を超える賃上げが必要です。
 政府は、経済成長のための投資と改革に、全力を挙げます。公的セクターや、政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます。
 また、中小企業における賃上げ実現に向け、生産性向上、下請け取引の適正化、価格転嫁の促進、さらにはフリーランスの取引適正化といった対策も、一層強化します。
 そして、その先に、多様な人材、意欲ある個人が、その能力を最大限活かして働くことが、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げにつながる社会を創り、持続的な賃上げを実現していきます。
 そのために、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って、加速します。
 リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。
 一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
 人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。
 本年六月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします

この「定義」からすると、岸田首相の目指す「日本型の職務給」というのは、ジョブ、つまり座る椅子に値札の付いているジョブ給ではなく、労働者がジョブを遂行するスキルに値札をつけるスキル給であるようです。つまり、椅子ではなく、人に値札をつけるという意味では厳密な意味での職務給ではないようですが、「従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され」云々というところからすると、具体的なジョブのスキルから切り離された、年齢とともに上がっていく一方の人間力としか言いようのない特殊日本的「能力」ではない、という点に力点があるようです。

でも、ジョブでもなければ不可視の「能力」でもなく、きちんとジョブと対応した具体的なスキルに的確な値段をつけるというのは、本気でやろうとすると結構大変な作業になると思いますが、さてどのようにやるのでしょうか。

高度プロフェッショナル制度の適用労働者665人@『労務事情』2023年1月1/15日号

B202301 『労務事情』2023年1月1/15日号に、連載「数字から読む日本の雇用」の第9回として、「高度プロフェッショナル制度の適用労働者665人」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20230101.html

今回の数字は、立法当時にあれだけ大騒ぎをし、これが導入されたりしたら労働者はみな死ぬまで働かされると言わんばかりの議論が横行していた高度プロフェッショナル制度が、4年たっても対象労働者の数はわずか665人にとどまっているというデータです。・・・

最後のパラグラフで、当時の野党議員や学者、評論家に対してかなり辛辣な批評をしていますが、それを読みたい方は是非現物を手にとって御覧下さい。

 

 

 

フリーランスに係る募集情報提供事業規制@『労基旬報』2023年1月25日号

『労基旬報』2023年1月25日号に「フリーランスに係る募集情報提供事業規制」を寄稿しました。

 昨年秋には、岸田内閣の目玉政策の一つとしてフリーランス新法が国会に提出されるという触れ込みでしたが、結局諸般の情勢から提出されずじまいとなりました。もっともその内容は、昨年9月13日から27日にかけて行われた「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というパブリックコメント用のペーパーに示されています。その大部分は、一昨年(2021年)3月のフリーランス・ガイドラインの延長線上に、業務委託の際の条件明示義務、報酬の支払期日、事業者の禁止行為などを規定するもので、主として公正取引委員会が所管し、中小企業庁が実施に関わる領域になります。
 ところが、このペーパーの中には、募集情報の的確性やハラスメント。ワークライフバランスといった、これまで雇用労働者を対象に進められてきた政策をフリーランスにも拡大するような項目も盛り込まれています。この部分は、労働法の対象拡大という観点からも大変興味深いところであり、今後法案の形で国会に提出されたときには細かく分析する必要があります。今回はそのうち、職業安定法の2022年改正で大幅に拡充された募集情報等提供事業に対する規制のフリーランスへの拡大と位置づけられる「募集情報の的確性」の部分について、職業安定法の歴史と労働行政におけるフリーランス政策の展開の両面から概観してみたいと思います。
 職業安定法は有料職業紹介事業に対して極めて厳格な規制をする一方、求人情報を扱う事業に対しては何の規制もありませんでした。1980年代にリクルートをはじめとする求人情報誌が急速に発展すると、虚偽・誇大広告による被害が社会問題となり、求人情報誌規制が行政内部で検討されました。しかし、1985年改正職業安定法は、第42条第2項として緩やかな努力義務を規定するにとどまりました。その後、労働省の民間労働力需給制度研究会は、労働者募集広告事業者に対する様々な規制を提言しましたが、中央職業安定審議会民間労働力需給制度小委員会では労使間で意見がまとまらず、手がつけられないままとなりました。その後議論の焦点は有料職業紹介事業のネガティブリスト化や手数料の自由化など規制緩和にシフトし、1997年省令改正、1999年法改正、2003年法改正など、規制緩和の時代が続きました。
 この流れが変わり始めたのが2017年法改正です。引き続く規制改革の動きと並んで、特に若者を中心に問題化していた求人トラブルをめぐって、法規制の動きが急速に進展し始めたのです。雇用仲介事業あり方検討会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て行われた同改正では、求人者も含めた労働条件明示義務の強化や求人申込みの拒否、さらには募集情報等提供事業に係る緩やかな努力義務が導入されました。
 その後、2019年にリクナビ事件が発生し、とりわけ個人情報の保護といった人権に関わる問題に関する募集情報等提供事業に対する規制の緩さが社会問題となり、労働市場における雇用仲介在り方研究会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て、2022年法改正に流れ込んでいくことになります。これにより、募集情報等提供事業者に様々な義務が課せられるとともに、求職者情報を収集する特定募集情報等提供事業者には初めて届出義務を課しました。この改正については厚労省のサイトを始めネット上に多くの解説が載っているので詳細はそれらに譲りますが、その元になった労働市場における雇用仲介在り方研究会報告の最後のところには、「雇用以外の仲介について」という一項が付け加えられていました。
 業務委託等の受発注者等、雇用以外の仕事を仲介するようなサービスについては、現時点において、職業安定法の射程を超えるものも存在すると考えられる。
 他方、態様として雇用仲介サービスと類似しているサービスが提供されていることや、非雇用者とされている人でも労働者性のある人や交渉力の低い人が存在することを踏まえ、雇用以外の仕事を仲介するサービスについても、雇用仲介サービスを行う者が守るべきルールに倣うことができるよう、周知を図るべきである。
 また同法改正の国会審議においても、フリーランスの問題が取り上げられていました。これは2022年3月24日の参議院厚生労働委員会における質疑です。
○川田龍平君 ・・・最後にじゃないんですが、フリーランスの保護についても一点お願い申し上げておきます。
 職業安定法は、あくまで雇用契約に関する仲介事業を対象としており、フリーランスなど雇用類似の仕事の仲介は対象になっていません。しかし、フリーランスだからといって虚偽の表示をしていい理由にはなりませんし、労働法制によって保護されないフリーランスだからこそ、仕事の仲介にはより正確な表示が求められると考えます。
 改正職安法の運用によって得られる知見、そして厚労省が委託実施しているフリーランス・トラブル110番などの相談内容を踏まえ、今後、フリーランスの保護に向けた取組を進めていただきたいと思いますが、大臣の見解を伺います。
○国務大臣(後藤茂之君) フリーランスとして働く方が安心して働ける環境を整備するために、厚生労働省では、令和2年11月より、関係省庁と連携をいたしまして、フリーランスと発注事業者とのトラブルについてワンストップで相談できる窓口としてフリーランス・トラブル110番を設置し、丁寧な相談対応に取り組んできております。
 今後、事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化などについて、内閣官房を始め関係省庁で検討し、新たなフリーランス保護法制を含む所要の措置を講じていくこととしているところでございます。フリーランス・トラブル110番に寄せられた事例や傾向については、保護法制を検討していく中で関係省庁とも共有しつつ、実態を踏まえた対応を行ってまいります。
 最終的に、参議院における付帯決議の中に第17号としてフリーランスに係る仕事の仲介についても「必要な対策を検討すること」が求められました。
 雇用保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
十七、業務委託や請負など雇用形態以外の仕事を仲介するサービスを利用して仕事を探す者の適切な保護が図られるよう、改正後の職業安定法の運用によって得られた知見やフリーランス・トラブル110番に寄せられた相談内容等を踏まえて、必要な対策を検討すること。
 一方フリーランス政策としては、2017年3月の働き方改革実行計画で「雇用類似の働き方が拡大している現状に鑑み、その実態を把握し、政府は有識者会議を設置し法的保護の必要性を中長期的課題として検討する」とされたことを受け、厚生労働省は雇用類似の働き方に関する検討会や雇用類似の働き方論点整理検討会を開催し、具体的な検討を進めてきました。2020年12月にとりまとめられた「これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」では、各論の「契約条件の明示、契約の締結・変更・終了に関するルールの明確化等」の中で、募集関係についても次のように触れています。
(1) 募集関係
<主な論点>
○雇用類似の仕事を行う者の募集の際のその条件の明示を促す方策を検討してはどうか。
?明示事項について、どのように考えるか。例えば、自営型テレワークガイドラインの記載事項等を参考とし、検討することが考えられるのではないか。
○その際、個人か企業かを問わずに業務委託の仕事を行う者を募集する場合について、どのように考えるか。
?雇用類似就業者となろうとする者へ保護の観点、委託者への負担の観点、契約時のルールとの関係性等を考慮した上で検討が必要ではないか。
○対象となる雇用類似就業者について、更なる要件を設ける必要があるか。
<主な御指摘>
・どの程度の作業を要する仕事なのかを明示すべき場合もあるのではないか
・募集と契約締結は分けて議論すべき
・募集条件の明示を促す方策は検討すべき。相手が企業か個人かを問わずに募集している場合でも、個人が対象となる以上は、明確化すべき部分は一定のルールを設けるべきではないか
・公正な競争を促す観点からは、募集段階での明示についても政策措置を考えることが必要ではないか
・条件の明示に関しては、実効性確保のために一定の情報を企業が開示すべきという問題と、具体的な契約内容をどのように明示して契約するかという問題のどちらで受け止めるかも考えて議論すべきではないか
・募集段階でどの程度の内容を明示させるかだけではなく、募集段階で一定以上の条件は切り下げられない要素として提示させるべきかについて、検討する必要があるのではないか
・募集条件については、実態に合った形で明示するのがよいのではないか
 2021年3月に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、もっぱら独占禁止法や下請法に基づき、フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項と仲介事業者が遵守すべき事項を記述するほか、既存の現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準を示すだけで、募集の問題には踏み込んでいませんでした。
 その後同年10月に就任した岸田文雄首相は、就任直ちに「新しい資本主義実現会議」を立ち上げました。同会議が翌11月にまとめた緊急提言では「新たなフリーランス保護法制の立法」という項目が立てられ、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する」と、新法の提出を予告していました。翌2022年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」でも、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出すると述べていました。
 こうして同年9月13日から27日にかけて、内閣官房が「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についてパブリックコメントを実施し、その結果も10月12日にまとめられています。この段階では、誰もがすぐに法案が国会に提出されると考えていましたが、そのままずるずると日が過ぎていき、結局提出されないままとなりました。その裏事情について、同年11月4日付の朝日新聞が「自民党内の議論で、多様な働き方があるフリーランスをまとめて保護することを疑問視する声などが相次ぎ、手続きが止まっている。岸田文雄首相の肝いりで、官邸が主導して法案作りを進めたことに対する反発もあるようだ。」と報じています。
 上述のパブリックコメントに付された「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というペーパーには、フリーランスに業務を委託する事業者に対して、条件明示義務、解約・不更新の予告、報酬の支払期日、事業者の禁止行為等の具体的立法内容が示されていますが、その中には募集情報の的確性という項目もありました。
○事業者が、不特定多数の者に対して、業務を受託するフリーランスの募集に関する情報等を提供する場合には、その情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならない。
○募集に応じて業務を受託しようとするフリーランスに対しては、上記(条件明示義務)に準じた事項を明示しなければならない。
○事業者が上記により明示した事項と異なる内容で業務委託をする場合には、その旨を説明しなければならない。
 これは2021年のガイドラインには含まれておらず、2022年職業安定法改正時の国会附帯決議で求められていたことがこういう形で入ってきたものと思われます。
 現時点ではまだ具体的な法律案として提案されているわけではありませんが、情報社会立法としての新・職業安定法の時代の最先端に位置する立法政策として、このフリーランスに係る募集情報提供に関する規制の試みは注目するに値します。

 

2023年1月22日 (日)

合意されたEU賃金透明性指令(文言整理前版)

昨年末に欧州議会と閣僚理事会の間で内容について合意が成り立った賃金透明性指令の、最終版の一歩手前の文言整理前のバージョンの条文全訳を参考までに閲覧に供しておきます。

文言整理前なので、条や項、号の番号が不ぞろいだったりしますが、内容的にはこれで確定したものなので、じきに正式に採択されて指令番号が付されることになると思われます。

賃金透明性と執行機構を通じて男女同一労働又は同一価値労働に対する同一賃金の原則の適用を強化する欧州議会と理事会の指令(賃金透明性指令)
Directive (EU) 2023/   of the European Parliament and of the Council of    2023 to strengthen the application of the principle of equal pay for equal work or work of equal value between men and women through pay transparency and enforcement mechanisms
採択:2023年 月 日

第1章 総則

第1条 主題
 本指令は、EU運営条約第157条に規定する男女同一労働又は同一価値労働の原則及び指令2006/54/EC(男女均等待遇指令)第4条に規定する差別禁止の適用を、とりわけ賃金透明性及び執行機構の補強を通じて強化するための最低要件を規定する。

第2条 適用範囲
1 本指令は公共部門及び民間部門の使用者に適用される。
2 本指令は、EU司法裁判所の判例法を考慮しつつ、各加盟国で効力を有する法、労働協約及び/又は慣行において定義される雇用契約又は雇用関係を有する全ての労働者に適用される。
2a 第5条に関しては、本指令は雇用への応募者に適用される。

第3条 定義
1 本指令においては次の定義が適用される。
(a) 「賃金」とは、現金か現物給付かを問わず、労働者がその使用者から当該雇用に関して直接又は間接に(「補足的又は変動的部分」も含め)受け取る通常の基本的又は最低の賃金又は給与及びその他のあらゆる報酬をいう。
(b) 「賃金水準」とは、年間賃金総額及びこれに対応する時給総額をいう。
(c) 「男女賃金格差」とは、当該使用者の男女労働者の間の平均賃金の水準の差異であり、男性労働者の平均賃金水準に対する百分率で示される。
(d) 「賃金中央値水準」とは、労働者の半数がそれよりもより多くの賃金を得、他の半数がより少ない賃金を得るような賃金水準をいう。
(e) 「男女賃金中央値格差」とは、女性労働者の賃金中央値水準と男性労働者の賃金中央値水準の差異であり、男性労働者の賃金中央値水準に対する百分率で示される。
(f) 「四分位賃金帯」とは、労働者をその賃金水準に従って最低から最高まで並べたときの4つの等しい数の各労働者集団をいう。
(fa) 「同一価値労働」とは、第4条第3項にいう非差別的かつ客観的で性中立的な基準に従い、同一の価値であると判断された労働をいう。
(g) 「労働者範疇」とは、非恣意的な方法でかつ本指令第4条第3項にいう性中立的な基準に基づき、適用可能な場合には各加盟国の国内法及び/又は慣行に従い労働者代表と協力して、当該労働者の使用者により分類された同一労働又は同一価値労働を遂行する労働者をいう。
(h) 「直接差別」とは、比較可能な状況において、ある者が性別に基づき他の者が取り扱われるか、取り扱われてきたか、又は取り扱われるであろうよりも不利に取り扱われる状況をいう。
(i) 「間接差別」とは、当該規定、基準又は慣行が適法な目的により客観的に正当化されかつその目的を達成する手段が適当かつ必要でない限り、表面的には中立的な規定、基準又は慣行がある性別の者に他の性別の者と比較して特定の不利益をもたらす状況をいう。
(j) 「均等機関」とは、性別に基づく差別なく全ての者の均等待遇の促進、分析、監視及び支援のために、指令2006/54/EC(男女均等待遇指令)第20条に基づき指定された機関をいう。
(k) 「労働監督機関」とは、国内法及び/又は慣行に従い、労働市場において管理及び監督の機能に責任を有する機関をいう。国内法が規定する場合には、労使団体がこれらの機能を遂行することができる。
(l) 「労働者代表」とは、国内法及び/又は慣行に従い労働者代表をいう。
2 本指令において、差別には次のものが含まれる。
(a) 指令2006/54/EC(男女均等待遇指令)第2条第2項にいうハラスメント及びセクシュアルハラスメント、並びに人がかかる行為を拒否するか又は受け入れるかに基づくいかなる不利益待遇もかかるハラスメント及び待遇が本指令に規定する権利の行使に関連するか又はその結果である場合。
(b) 性別に基づいて人を差別するよう指示すること。
(c) 理事会指令92/85/EEC(母性保護指令)にいう産前産後休業に関連するいかなる不利益待遇。
(d) 父親出産休暇、育児休業又は介護休業に関するものを含め、指令(EU)2019/1158(ワークライフバランス指令)にいう性別に基づく労働者へのいかなる不利益待遇。
(e) 性別と、指令2000/43/EC(人種・民族均等指令)及び指令2000/78/EC(一般均等指令)の下で保護される他のいかなる差別事由との組合せに基づく差別である複合差別
3 第2項第(e)号は、性別以外の他の保護される差別事由に関連して本指令にいうデータを収集する追加的な責任を使用者に対して負わせるものではない。

第4条 同一労働及び同一価値労働
1 加盟国は、使用者が同一賃金を確保する賃金構造を有することを確保するために必要な措置をとるものとする。
2 加盟国は、均等機関と協議して、本条に規定する基準に則って労働の価値の評価及び比較を支援し指導するための分析用具又は方法論を入手できるようにしかつ容易に利用できるようにすることを確保するために必要な措置をとるものとする。これら用具又は方法論は、使用者及び/又は労使団体が性別に基づくいかなる賃金差別をも排除する性中立的な職務評価及び職務分類制度を容易に確立し利用することができるようなものとする。
2a 適当な場合は、欧州委員会は欧州男女均等機構(EIGE)と協議して、EUレベルの指針を更新することができる。
3 賃金構造は、労働者が労働の価値に関して比較可能な状況にあるかどうかを、存在する場合には労働者代表と合意した客観的かつ性中立的な基準に基づいて評価することができるようなものとする。これら基準は直接であれ間接であれ労働者の性別に基づかないものとする。これら客観的な基準は技能、努力、責任及び労働条件、並びに適当であれば特定の職務又は職位に関連する他のいかなる要素をも含むものとする。これら基準はまた、性別に基づく直接または間接のいかなる差別も除き、客観的かつ性中立的な方法で適用されるものとする。とりわけ関連する対人能力(ソフトスキル)が過小評価されないよう確保するものとする。

第2章 賃金透明性

第5条 採用前の賃金透明性
1 雇用への応募者は、使用者となるべき者から、客観的かつ性中立的な基準に基づき当該職位に帰せられる初任給額又はその範囲、及び適用される場合には当該職務に関して企業により適用される労働協約の関連する規定についての情報を受け取る権利を有するものとする。かかる情報は、欠員募集広告における公示、採用面接に先立っての提供その他、情報を踏まえて賃金に関する透明な交渉をすることができるような方法で提供されるものとする。
2 使用者は応募者に現職及び前職での賃金を尋ねてはならない。
2a 使用者は、同一賃金の権利が掘り崩されることのないよう、欠員募集広告及び職務名が性中立的で採用手続が非差別的な方法で遂行されるよう確保するものとする。

第6条 賃金決定及びキャリア展開方針の透明性
1 使用者は、賃金、賃金水準及び労働者の昇給を決定するのにいかなる基準が用いられるのかを労働者が容易に入手可能にするものとする。これら基準は客観的かつ性中立的であるものとする。
2 加盟国は、第1項の昇給に関する義務から労働者50人未満の使用者を適用除外することができる。

第7条 情報入手権
1 労働者は、第1a項及び第3項に従い、自身の個別賃金水準と、自身と同一労働又は同一価値労働に従事する労働者範疇についての男女別の平均賃金水準に関する情報の提供を求め入手する権利を有する。
1a 労働者は、国内法及び/又は慣行に従い、その労働者代表を通じて第1項にいう情報の提供を求め入手する可能性を有するものとする。均等機関を通じて当該情報の提供を求め入手する可能性も有するものとする。当該情報が不正確又は不完全であるときには、労働者は自ら又はその労働者代表を通じて、提供されたいかなるデータに関しても追加的かつ合理的な明確化と詳細の提供を求め、実質的な回答を受け取る権利を有する。
2 使用者は全ての労働者に対して、毎年、第1項にいう情報を入手する権利及び当該権利を行使するために労働者がとるべき手段について情報提供するものとする。
3 使用者は、請求がなされてから2か月を超えない合理的な期間内に、第1項にいう情報を提供するものとする。
5 労働者は同一賃金原則を執行する目的でその賃金を開示することを妨げられないものとする。とりわけ、加盟国は労働者に対してその賃金に関する情報を開示することを制限するための契約条項を禁止する措置を設けるものとする。
6 使用者は、本条に基づき自身の賃金又は賃金水準に関する情報以外の情報を入手したいかなる労働者に対しても、当該情報を同一賃金の権利を防御すること以外のいかなる目的のためにも用いることのないように求めることができる。

第8条 男女賃金格差の報告
1 使用者は本条に従い、その組織に関する次の情報を提供するものとする。
(a) 男女賃金格差、
(b) 補足的又は変動的部分における男女賃金格差、
(c) 男女賃金中央値格差、
(d) 補足的又は変動的部分における男女賃金中央値格差、
(e) 補足的又は変動的部分を受け取っている男女労働者の比率、
(f) 四分位賃金帯ごとにおける男女労働者の比率、
(g) 通常の基本給及び補足的又は変動的部分ごとに見た労働者範疇ごとの男女賃金格差。
1a 労働者250人以上の使用者は、【国内法転換期日から1年以内に】及びその後は毎年、第1項に規定する情報を提供するものとする。
1b 労働者150人以上249人以下の使用者は、【国内法転換期日から1年以内に】及びその後は3年に1回、前年に係る第1項に規定する情報を提供するものとする。
1c 労働者100人以上149人以下の使用者は、【国内法転換期日から5年以内に】及びその後は3年に1回、前年に係る第1項に規定する情報を提供するものとする。
1d 加盟国は、労働者100人未満の使用者が第1項に規定する情報を自発的に提供することを妨げないものとする。加盟国は国内法事項として、労働者100人未満の使用者に対して賃金に関する情報を提供するよう求めることができる。
2 情報の正確性は、適用された方法論を利用可能である労働者代表との協議を経て、使用者の経営陣によって確証されるものとする。
3 第1項第(a)号から第(g)号までにいう情報は、第26条【第3項第(c)号】に従いかかるデータを収集し、公表する責任を有する機関に通知されるものとする。使用者は第1項第(a)号から第(f)号までにいう情報をそのウェブサイトに公表するか又は他の手段により一般に入手可能にするものとする。
4 加盟国は、第1項第(a)号から第(f)号までに規定する情報を、使用者から税務機関や社会保障機関に提供されたデータのような行政データに基づいて自ら収集することを決定できる。この情報は第26条第3項第(c)号に従って公表されるものとする。
5 使用者は第1項第(g)号にいう情報をすべての労働者及びその代表に提供するものとする。使用者は当該情報を労働監督機関及び均等機関にその要請により提供するものとする。入手可能であれば、過去4年間の情報も要請により提供されるものとする。
7 労働者及びその代表、労働監督機関並びに均等機関は、使用者に対し提供されたいかなるデータに関しても、いかなる男女賃金格差に関する説明をも含めて、追加的な明確化及び詳細のために質問をする権利を有するものとする。使用者は合理的な期間内に実質的な回答を提供することによりかかる要請に対応するものとする。男女賃金格差が客観的かつ性中立的な要素により正当化されない場合、使用者は合理的な期間内に、労働者代表、労働監督機関及び/又は均等機関と密接に協力してその状況を是正するものとする。

第9条 共同賃金評価
1 加盟国は、第8条に従い賃金報告の義務を負う使用者が、次のすべての条件を満たす場合に、労働者代表と協力して、共同賃金評価を実施するよう確保する措置をとるものとする。
(a) 第8条に従って実施された賃金報告が、いずれかの労働者範疇において男女労働者の間に少なくとも5%の平均賃金の水準の差異を明らかにし、
(b) 使用者がかかる平均賃金の水準の差異を客観的かつ性中立的基準により正当化することがなく、
(ba) 使用者がかかる正当化されない平均賃金の水準の差異を第8条に従い賃金報告の提出の日から6か月以内に是正しない場合。
2 共同賃金評価は、客観的かつ性中立的な要素により正当化することができない男女労働者間の賃金の差異を確認し、是正しかつ予防するために実施されるものとし、次の事項を含むものとする。
(a) 各労働者範疇における男女労働者の比率の分析、
(b) 各労働者範疇ごとの男女労働者の賃金水準及び補足的又は変動的部分の平均値に関する情報、
(c) 各労働者範疇における男女労働者間の平均賃金水準格差の確認、
(d) 平均賃金水準におけるかかる格差の理由及び、もしあれば労働者代表及び使用者によって共同して確立された客観的かつ性中立的な正当事由、
(da) 産前産後休業又は父親出産休暇、育児休業並びに介護休業から復帰した後に、これら休業期間中に労働者範疇に賃金改善が生じた場合には、当該賃金改善から利益を受けた男女労働者の比率、
(e) 客観的かつ性中立的基準に基づいて正当化されない場合は、かかる差異に取り組む措置、
(f) 過去の共同賃金評価からの措置の有効性の評価。
3 使用者は共同賃金評価を、労働者、労働者代表が利用可能にするとともに、第26条第3項第(d)号に従いこれを監視機関に通知するものとする。共同賃金評価はその要請により均等機関及び労働監督機関に利用可能にするものとする。
4 共同賃金評価による措置を実施するときには、使用者は国内法及び/又は慣行に従い、労働者代表と密接に協力して、合理的な期間内に、正当化されない賃金格差を是正するものとする。労働監督機関及び/又は均等機関はこの手続に参加するよう求められることができる。かかる行動には、性別に基づくいかなる直接又は間接の賃金差別が排除されることを確保するために、既存の性中立的な職務評価及び職務分類制度の分析又はそれが欠如している場合には確立を含むものとする。

第9a条 情報の利用可能性
 使用者は、本指令第5条、第6条及び第7条に従い労働者又は応募者といかなる情報をも共有する場合にも、その特有の必要性を考慮して障害者にも利用可能な形式で提供するものとする。

第9b条 中小企業使用者への支援
 使用者への費用と行政負担を制限するために、加盟国は労働者250人未満の使用者及び労働者代表に対し本指令に規定する義務を遵守するための技術的支援及び訓練の形式で支援を提供するものとする。

第10条 データ保護
1 第7条、第8条及び第9条の下でとられる措置に基づき提供されるいかなる情報も個人データの処理に関わる限りにおいて、規則(EU)2016/679(一般データ保護規則)に従って提供されるものとする。
2 第7条、第8条又は第9条に基づき処理されるいかなる個人データも、同一賃金原則の実施以外のいかなる目的にも使用してはならない。
3 加盟国は、第7条、第8条及び第9条に基づく情報の開示が直接であれ間接であれ識別可能な同僚労働者の賃金の開示につながる場合には、労働者代表、労働監督機関又は均等機関のみが当該情報を入手するものと規定することができる。労働者代表又は均等機関は労働者に対して、同一労働又は同一価値労働を行う労働者の実際の賃金水準を開示することなく、本指令の下で可能な請求に関して助言するものとする。第26条に基づく監視の目的では当該情報は制限なく入手可能とするものとする。

第11条 労使対話
1 労使団体の自律性を妨げることなく、また国内法及び慣行に従い、加盟国は、適用可能であればその要請に基づき、本指令の下の権利と義務について討議することを通じて、労使団体の効果的な関与を確保する十分な措置をとるものとする。
2 加盟国は、労使団体の自律性を妨げることなく、また国内慣行の多様性を考慮して、主として一方の性別の労働者によって遂行されている職務の評価に関する賃金差別及び不利益に取り組む措置に関する労使団体の役割を促進し、団体交渉の権利の行使を奨励する十分な措置をとるものとする。

第3章 救済と実施

第12条 権利の擁護
 加盟国は、同一賃金原則が適用されないことにより自らの権利が侵害されたと考える全ての労働者に、調停を利用した後に、同一賃金原則に関する権利及び義務の実施のための司法手続が利用可能となるように確保するものとする。かかる手続は、差別が申し立てられた雇用関係が終了した後であっても、労働者及びその代理人として活動する者にとって容易に利用可能なものとする。

第13条 労働者の代理又は支援の手続
 加盟国は、国内法により規定された基準に従い、男女間の均等を確保することに合法的な利益を有する団体、組織、均等機関及び労働者代表又はその他の法的主体が、同一賃金原則に関する権利又は義務を実施するいかなる行政上又は司法上の手続についても関与できるように確保するものとする。これらは同一賃金原則に関するいかなる権利又は義務の侵犯の被害者であると主張する労働者にも、その承認を得て、その代理人又は支援者として行動することができる。

第14条 補償の権利
1 加盟国は、同一賃金原則に関するいかなる権利又は義務の違反の結果として被害を被ったいかなる労働者も、その被害に対して加盟国によって決定された完全な補償又は賠償を請求し取得する権利を有するように確保するものとする。
2 第1項にいう補償又は賠償は、抑止的かつ被った被害に比例的な方法で、受けた損失及び被害を加盟国が定めるところにより現実的かつ有効な補償又は賠償を確保するものとする。
3 補償又は賠償は、被害を被った労働者を、性別に基づく差別をされなければ、あるいは同一賃金に関する権利又は義務のいかなる違反もなければ、その者がそうあったであろう地位に置くものとする。加盟国は、補償又は賠償に、バックペイ及び関連するボーナス又は現物給付の完全な回復、逸失機会、道徳的偏見、複合差別を含みうる他の関連する要素に依って引き起こされたいかなる被害の補償も、遅延利息とともに含まれることを確保するものとする。
4 補償又は賠償は上限額を設定することにより制限することはできない。

第15条 他の救済
 加盟国は、同一賃金原則に関する権利及び義務の違反の事案において、裁判所又は他の権限ある機関が、国内規則に従って、原告の請求によりかつ被告の負担において、次のものを発することができるように確保するものとする。
(a) 当該違反を差し止める命令、
(b) 同一賃金原則に関する権利及び義務を遵守する措置をとるべしとの命令。
 これらいかなる命令に対する不遵守に対しても、適当であれば、命令の遵守を確保する観点から、再度罰金を科すものとする。

第16条 立証責任の転換
1 加盟国は、その国内司法制度に従い、同一賃金原則が適用されなかったために自らの権利が侵害されたと考える労働者が、裁判所又は他の権限ある機関において直接又は間接の差別が存在したと推定しうる事実を立証すれば、賃金に関して直接又は間接の差別が存在しなかったことを立証すべきは被告とすることを確保するために適当な措置をとるものとする。
2 加盟国は、申し立てられた直接又は間接の賃金差別に関する司法上又は行政上の手続において、使用者が本指令第5条から第9条までに規定する賃金透明性義務を実施していない場合、かかる差別が存在しないことを立証すべきは使用者とすることを確保するものとする。使用者が第5条から第9条までに規定する義務の不履行が明らかに意図せざるものであり軽微な性格のものであることを立証した場合はこの限りではない。
4 本指令は、加盟国が同一賃金に関するいかなる権利及び義務を実施するために設けられた手続においても原告により有利な証拠法則を導入することを妨げない。
5 加盟国は事案の事実調査をするのが裁判所又は権限ある機関である手続には第1項を適用する必要はない。
6 国内法により異なる規定をしない限り、本条は刑事手続には適用しない。

第16a条 同一労働又は同一価値労働の立証
1 男女労働者が同一の労働又は同一価値の労働を遂行しているか否かを判断する場合、労働者が比較可能な状況にあるか否かの判断は男女労働者が同一の使用者の下で労働している状況に限らず、賃金条件を決定している単一の源泉にまで拡大されるものとする。単一の源泉は、労働者の比較のために有意な賃金の要素を規定している場合に存在する。

第17条 証拠へのアクセス
1 加盟国は、同一賃金の申立てに関する手続において、国内法及び慣行に従い、国内裁判所又は権限ある機関が被告に対して、その管理下にある関連するいかなる証拠をも開示するよう命令することができるように確保するものとする。
2 加盟国は、国内裁判所又は権限ある機関が、同一賃金の申立てに関連するとみなしたときに機密情報を含む証拠の開示を命令する権限を有することを確保するものとする。かかる情報の開示を命じたときには、国内裁判所は国内の手続規則に従い、かかる情報を保護する有効な措置を自由にとることができるように確保するものとする。
3 本条は、加盟国が原告にとってより有利な規則を維持し又は導入することを妨げない。

第18条 出訴期間制限
1 加盟国は、同一賃金に関する申立ての提起の期間制限に規則が適用されることを確保するものとする。これら規則は、当該期間制限が原告が違反を知り又は合理的に知ることが期待できた時よりも前に開始しないように考慮しつつ、期間制限の開始時期、その期間及びその中断又は停止の条件を規定するものとする。加盟国は、違反がなお継続中であるか又は雇用契約が終了前である限りにおいて、期間制限が開始しないものと決定することができる。
4 加盟国は、原告が裁判所に訴えを提起し又は直接使用者に若しくは労働者代表、労働監督機関若しくは均等機関を通じて申立を行うことにより行動を起すと同時に、期間制限が停止し、又は国内法に従い中断することを確保するものとする。
4a 本条は申立ての期間満了に関する規則の問題を規制するものではない。

第19条 法的及び司法上の費用
 加盟国は、被告が賃金差別の請求で勝訴した場合に、裁判所が国内法に従い、敗訴した原告が裁判所に訴えを提起する合理的な根拠を有していたか否かを判断し、敗訴した原告が訴訟費用を負担しないように命じることができることを確保するものとする。

第20条 制裁
1 加盟国は同一賃金原則に関する権利及び義務の違反に適用される効果的、比例的かつ抑止的な制裁の規則を定めるものとする。加盟国は、当該規則が実施されるようあらゆる措置をとるものとし、かつ遅滞なく欧州委員会に当該規則及び当該措置並びにこれらに影響するいかなる修正をも通知するものとする。
2 加盟国は、当該制裁が同一賃金原則に関する権利及び義務の違反に対し真に抑止的な効果を保証するよう確保するものとする。これらには国内法に基づいて設定される罰金を含むものとする。
2a 当該制裁は、複合差別を含む違反の状況に適用されるいかなる関連する増悪的又は軽減的要素をも考慮に入れるものとする。
3 加盟国は、同一賃金に関する権利及び義務の違反が反復された事案に対して特別の制裁が適用されるよう確保するものとする。
4 加盟国は、規定された制裁が実際に効果的に適用されるよう確保するためにあらゆる必要な措置をとるものとする。

第21条 公契約及び営業権における同一賃金
1 加盟国が指令2014/23/EU(営業権契約授与指令)第30条第3項、指令2014/24/EU(公共調達指令)第18条第2項及び指令2014/25/EU(公益事業体調達指令)第36条第2項に従ってとる適当な措置には、公契約又は営業権の実施において、事業者が同一賃金に関する義務を遵守することを確保する措置を含むものとする。
2 加盟国は、公契約及び営業権の実施において同一賃金原則の遵守を確保するために、適当であれば契約機関が制裁及び終了条件を導入することを考慮するものとする。加盟国の機関が指令2014/23/EU(営業権契約授与指令)第38条第7項第(a)号、指令2014/24/EU(公共調達指令)第57条第4項第(a)号、又は指令2014/24/EU(公共調達指令)第57条第4項第(a)号と連動して指令2014/25/EU(公益事業体調達指令)第80条第1項に従って行動する場合、事業者がいかなる適当な方法によっても、賃金透明性義務を遵守していないか又は客観的かつ性中立的基準に基づき使用者により正当化されないいかなる労働者範疇の5%を超える賃金格差があることに関連して第1項にいう義務の違反があると証明できる場合には、公共調達手続への参加から当該事業者を排除することができ、又は加盟国から排除するよう求められうる。これは、指令2014/23/EU(営業権契約授与指令)、指令2014/24/EU(公共調達指令)及び指令2014/25/EU(公益事業体調達指令)に規定するいかなる他の権利及び義務をも妨げない。

第22条 迫害及び不利益待遇
1 労働者及びその代表は、同一賃金に関するその権利を行使したこと又はその権利の保護のために他の者を支援したことを理由に不利益待遇を受けることがないものとする。
2 加盟国はその国内法制において、同一賃金に関する権利又は義務の遵守を実施するための企業内の苦情申立又はいかなる法的手続に対する報復として、労働者代表を含め、労働者が使用者による解雇その他の不利益待遇から保護するのに必要な措置を導入するものとする。

第23条 指令2006/54/ECとの関係
 本指令第3章は、指令2006/54/EC(男女均等待遇指令)第4条に規定する同一賃金原則に関するいかなる権利又は義務に関係する手続にも適用するものとする。

第4章 通則

第24条 保護水準
1 加盟国は、本指令に規定するよりも労働者に有利な規定を導入し又は維持することができる。
2 本指令の実施はいかなる状況下でも、本指令の対象分野における保護の水準を引き下げる根拠とはならないものとする。

第25条 均等機関
1 労働監督機関又は労使団体を含め労働者の権利を実施する他の機関の権限に抵触しない限り、指令2006/54/EC(男女均等待遇指令)に従い設立された国内均等機関は本指令の適用範囲内に事項に関する権限を有する。
2 加盟国は国内法及び慣行に従い、同一賃金に関する事項に関して、均等機関、労働監督機関又は労使団体の間の密接な協力及び調整を確保する積極的な措置をとるものとする。
3 加盟国は均等機関に対し、同一賃金の権利の尊重に関してその機能を効果的に遂行するのに必要な十分な資源を提供するものとする。

第26条 監視及び意識啓発
1 加盟国は、同一賃金原則の実施及び利用可能な全ての救済の実施について、一貫しかつ調整された監視及び支援を確保するものとする。
2 各加盟国は、本指令を実施する国内の法規定の実施を監視し支援するための機関(「監視機関」)を指定し、かかる機関の適切に運営されるのに必要な手配をするものとする。監視機関は国内の既存の機関又は構造の一部とすることができる。加盟国は、第3項第(b)号、第3項第(c)号及び第3項第(e)号に規定する監視及び分析の機能が単一の中央機関によって確保される限り、意識啓発及びデータ収集の目的で複数の機関を指定することができる。
3 加盟国は、監視機関の任務として次の事項を含むように確保するものとする。
(a) 公共部門及び民間部門の企業及び組織、労使団体並びに一般大衆に対して、同一賃金に関する事項における複合差別に対処することを含め、同一賃金原則及び賃金透明性の権利について意識啓発すること、
(b) 男女賃金格差の原因を分析し、賃金不平等を評価する用具を考案し、とりわけ欧州男女均等機関の分析作業と用具を利用すること、
(c) 第8条第3項に基づき使用者から受領したデータを収集し、第8条第1項第(a)号から第(f)号までにいうデータを容易に利用でき利用者に分かりやすい方法で、使用者間、業種間、関係加盟国の地域間での比較ができるように、迅速に公表すること。入手可能であれば過去4年間の情報も利用可能とすること、
(d) 第9条第3項に基づき共同賃金報告を収集すること、
(e) 裁判所に提起された賃金差別の訴え及び均等機関を含む権限ある公的機関に提起された申立ての件数及び種類に関するデータを集計すること。
4 加盟国は、2年に1回まとめて、第3項第(c)号、第(d)号、第(e)号にいうデータを欧州委員会に提供するものとする。

第27条 団体交渉及び団体行動
 本指令は、国内法又は慣行に従って労働協約を交渉し、締結し及び実施する権利並びに団体行動をする権利に対していかなる面でも影響を及ぼさないものとする。

第28条 統計
1 加盟国は、欧州委員会(欧州統計局)に毎年、男女賃金格差を未調整の形式で算定した各国更新データを提供するものとする。この統計は、性別、産業部門、労働時間(フルタイム/パートタイム)、経済的管理(公的所有/私的所有)及び年齢によって分類され、毎年算定されるものとする。
2 第1回目の年次男女賃金格差データは、2016年の数値を2028年1月31日までに提出するものとする。

第29条 情報の普及
 加盟国は、本指令に従って採択された規定及び効力を有する既存の関係規定を、全ての適当な手段により、その領域内にわたって関係者の関心を喚起するものとする。

第30条 実施
 加盟国は、本指令が追求する結果が常に確保されるために必要なあらゆる手段をとることを前提に、労使団体の役割に関する国内法及び/又は慣行に従い、本指令の実施を労使団体に委任することができる。これには次の事項が含まれる。
(a) 第4条第2項にいう分析用具及び方法論の開発、
(b) 効果的、比例的かつ抑止的な罰金と同等な金銭的制裁。

第31条 国内法転換
1 加盟国は、【効力発生の3年後】までに本指令を遵守するのに必要な法律、規則及び行政規定の効力を発生させるものとする。これは直ちに欧州委員会に通知するものとする。
2 欧州委員会に通知する際、加盟国はまたそれに国内法化規定の労働者250人未満企業の労働者と使用者に対する影響の評価の結果の概要及びかかる評価が公表された参照先を添付するものとする。
3 加盟国がこれら規定を採択する際には、本指令への言及規定を含めるか又は官報掲載時にかかる言及を行うものとする。かかる言及を行う方法は加盟国によって規定されるものとする。

第32条 報告及び再検討
1 効力発生後8年以内に、加盟国は欧州委員会に対し、本指令がどのように適用され、実際にどのような影響が生じているのかに関する情報を通知するものとする。
2 第1項に従い加盟国から情報が提出されてから2年以内に、欧州委員会は欧州議会及び閣僚理事会に対し本指令の実施に関する報告を提出するものとする。この報告は、とりわけ第8条及び第9条に規定する使用者の規模要件とともに、第9条第1項に規定する共同賃金報告の義務が生ずる5%要件について検討するものとする。欧州委員会は適当であれば必要とみなす立法改正を提案するものとする。

第33条 効力発生
 本指令はEU官報における公示の12日後に効力を発生する。

第34条 名宛人
 本指令は加盟国に宛てられる。

 

 

2023年1月20日 (金)

社会も葬式のたびに進歩する

202211_01_img 成田悠輔氏が高齢者に集団自決を勧めたというのが話題になっていますが、たまたま別件で経済同友会の機関誌『経済同友』をぱらぱらめくっていたら、その成田悠輔氏が経済同友会代表幹事でSOMPOホールディングスCEOの櫻田謙悟氏と「生活者共創社会」について対談しているんですが、

https://www.doyukai.or.jp/publish/uploads/docs/2022_11_P03-07_toku_1.pdf

そこで櫻田さんが一生懸命、

一番は、戦後に作られた価値観やルールの改革です。例えば新卒・メンバーシップ型の就職スタイル、硬直化した大学間の序列、それを是とする教育方針は、戦後のレジームそのままだと思います。これが挑戦心や好奇心をどんどん失わせています

とか、

この漫然とした安心感が圧倒的に生産性を下げていたと思いました。そこでわが社はジョブ型の雇用へとシフトし始めました。

と論じているのに対して、この眼鏡のお兄ちゃん、何を言ったかというと、

マックス・プランクという 20世紀を代表する物理学者は「科学は葬式のたびに進歩する」と言ったそうです。この言葉は物理とか科学だけではなくて、社会や人間一般について言えると思います。そういった観点から思い切って言うならば「経済同友会解散、重鎮経営者の引退」。半分冗談で半分冗談ではないのですが、こういうことが変化に必要なことなんじゃないかと思います。・・・。今、経済の中心にいらっしゃる皆さんが積極的に退いていく運動が起これば理想なのではないかと。もう一つ、生産性が悪いまま融資や規制、補助によって生き永らえてしまっているゾンビ企業にも同種の課題を感じます。解散したり引退したりして変化をつくりだしていく。そのシンボルとなるような運動を、経済同友会の周りにいらっしゃる重鎮の方が率先してつくりだしたら、この国に新しい風が吹くのではないかと思っています。

さすがに櫻田さん、怒り出すでもなく、こういうことを口走る人を対談に招いたホストとしての責任感に満ちて、

 「経済同友会解散」は刺激的な言葉ですが、意図は大いに賛成します。一つには、経済団体だけで解決できるテーマはもうほとんどなくなってしまっているからです。若い人を含めたステークホルダーを巻き込まないといけない。解散とは違いますが、経済同友会を再出発させる一つの動きとして「未来選択会議」を作りました・・・・

と、うまい具合に話を逸らしていますが、まあ、でも、この人はこういうことを言う人だったわけですね。

成田さんの脳内では、経済同友会の代表に面と向かって解散引退を勧めるのと、高齢者一般に集団自決を求めるのとは、話の文脈としては多分似たような話だと考えていたのでしょうね。科学と同様、社会も葬式のたびに進歩する、と。

なんにせよ、この人はこういうことを言う人なので、こういう経済団体にせよマスメディアその他にせよ、そのつもりで依頼した方が良かったのだと思われます。

 

 

 

 

 

『2023年版経営労働政策特別委員会報告』

229ad7475e917d7b6fdfe322358a27066a4f3c5a 経団連よりさっそく『2023年版経営労働政策特別委員会報告』をお送りいただきました。

わが国は、原材料価格の高騰や急速に進行した円安を背景に、近年にない物価上昇に直面しています。こうした特別な状況の下で行われる2023年春季労使交渉・協議においても、適切な総額人件費管理の下で、自社の支払い能力を踏まえ、労使協議を経た上で企業が賃金を決定する「賃金決定の大原則」に則って検討する方針は変わりません。その上で、様々な考慮要素のうち「物価動向」を特に重要な要素と考え、「成長と分配の好循環」の形成に向けた正念場との認識を労使で深く共有しながら、賃金引上げのモメンタムの維持・強化に向けた積極的な対応が求められています。
また、DXやGXの推進に伴う産業構造変革に対応しながらわが国が持続的成長を実現するためには、「人への投資」を起点としたイノベーションの創出と労働生産性の向上を図る必要があります。
こうした認識を踏まえ、2023年版「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)では、今年の春季労使交渉・協議における賃金引上げや総合的な処遇改善・人材育成に関する経営側の基本スタンスに加え、エンゲージメントと労働生産性の向上に資する働き方改革のさらなる推進やDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)の浸透の重要性、円滑な労働移動の実現に向けた施策、採用方法の多様化やジョブ型雇用を含む「自社型雇用システム」の確立などについても取り上げています。
あわせて、トピックスとして「インフレ下における物価と賃金引上げの動向」や「中小企業の賃金引上げに関する課題と現状」「就業調整の状況」等も解説しています。
今次春季労使交渉・協議における経営側の指針書としてご活用ください。

<目次>
はじめに
第Ⅰ部 雇用・人事労務管理に関する諸課題
1.エンゲージメントと労働生産性の向上に資する働き方改革
(1)エンゲージメントの重要性
(2)働き方改革のさらなる推進
(3)働き方改革の推進に資する労働時間法制
2.DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)の浸透
(1)女性
(2)外国人
(3)若年者
(4)高齢者
(5)障害者雇用
(6)有期雇用等労働者
3.円滑な労働移動
(1)円滑な労働移動実現に向けた施策
(2)円滑な労働移動に資する企業における制度整備
4.地方経済の活性化
(1)新たな人の流れの創出
(2)中小企業における生産性向上とイノベーション創出
5.最低賃金
(1)地域別最低賃金
(2)特定最低賃金
TOPICS
テレワークの現状と課題
副業・兼業
求められる安全衛生対策
インターンシップを核とした学生のキャリア形成支援
労働紛争の動向
就業調整の状況

第Ⅱ部 2023年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス
1.わが国企業を取り巻く経営環境
(1)世界経済の動向
(2)日本経済の動向
(3)地域経済と中小企業の動向
2.連合「2023春季生活闘争方針」への見解
(1)2023闘争方針の意義と基本スタンス
(2)賃金要求の考え方
(3)労使の話し合いの場としての「春季労使交渉・協議」
3.経営側の基本姿勢
(1)2022年春季労使交渉・協議の総括
(2)2023年春季労使交渉・協議にあたっての基本スタンス
(3)未来を「協創」する労使関係を目指して
TOPICS
賃金の国際比較
雇用者の構成変化と平均賃金への影響
インフレ下における物価と賃金引上げの動向
労働分配率の動向
内部留保のあり方
わが国における格差の現状
中小企業の賃金引上げに関する現状と課題

賃上げをめぐるトピックはマスコミに溢れていますし、来週にはいよいよ春闘前哨戦のトップ会談もありますので、ここでは第1部の諸課題を見ると、2020年からあれだけ世間を騒がせてきたジョブ型が影を潜めているようです。いや、なくなってはいなくて、円滑な労働移動に資する企業における制度整備の中に、ちらりと顔を出してはいます。言ってることはそんなに変わってはいないのですが、昨年はそれでも3番目に「日本型雇用システムの見直し」があったので、重点の置き所からはだいぶ外れてきた感じです。

それに比べて、冒頭のエンゲージメント、そして2番目の「DE&I」はかなり力が入っていて、とくに後者は昨年は「ダイバーシティ&インクルージョン」だったのが、ことしはその間に「エクイティ」ってのが入ってきましたよ。

エクイティといっても、イギリス法の概念ではなくって、イクオリティ(平等)のコロラリーみたいな概念で、男女均等の関係でよく出て来る概念ですが、いやあ経労委報告にも登場しましたか。

 

 

 

 

2023年1月19日 (木)

フランスのUberが最低報酬協約

まだしっかりと中身を読み込んでいませんが、フランスでUberと組合の間で、1回の運送の最低報酬を7.65ユーロ(8.25ドル)とする協定が合意されたようですね。

https://www.reuters.com/business/autos-transportation/french-uber-drivers-earn-more-than-8-per-ride-after-union-deal-2023-01-17/

PARIS, Jan 18 (Reuters) - France's Uber drivers are poised to earn a minimum of 7.65 euros net ($8.25) per ride after a sector-wide deal with unions, setting up a precedent after months of bargaining talks with taxi apps, Uber said on Wednesday.

The accord hikes the minimum price per ride by 27%, bringing it to a 10.20 euros gross, or 7.65 euros net, Uber said in a statement.

The agreement was reached with French unions CFTC and UNSA and professional associations AVF and FNAE. It will apply to all taxi apps in France, the organisations said in a separate statement.

プラットフォーム労働については、労働者性が焦点になることが多いですが、もう一つの法政策の焦点が団体交渉の可能性で、こちらは昨年の9月に欧州委員会競争総局のガイドラインが出て、競争法違反にはならないというお墨付きが出ています。

不当労働行為制度が問題になる日本とは文脈が違いますが、個別労働法だけではなく、集団的労使関係を通じた問題解決の道についても見ていく必要があるという意味では共通の課題と言えましょう。

これは面白そう

これは面白そうですね。出たらすぐに買って読もう。

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はじめは東京職工学校だったんだが

東京工業大学と東京医科歯科大学が合併して東京科学大学とやらになるそうですが、英訳すると東京理科大学と変わりがなくなるというのを別にしても、そもそもの出発点からするとだいぶ趣が変わりますな。

そもそも東京理科大学の源流が夏目漱石の坊ちゃんが通っていた東京物理学校であったのに対し、東京工業大学の源流は東京職工学校であって、サイエンスというより職業訓練機関だったはず。

11021851_5bdc1e379a12a_20230119134901 1 戦前の実業教育

(1) 実業教育の始まり

 日本の実業教育制度は、1872年の学制において中学の一種として工業学校、商業学校及び農業学校が規定されたことに始まるが、実際の産業教育は工部省工学寮(後の東京帝国大学工学部)や駒場農学校(後の東京帝国大学農学部)で行われた。1880年には教育令改正により小学校、中学校、大学校、師範学校、専門学校と並んで、農学校、商業学校及び職工学校が位置づけられた。農学校は「農耕ノ学業ヲ授クル所」、商業学校は「商売ノ学業ヲ授クル所」、職工学校は「百工ノ職芸ヲ授クル所」である。
 これに基づき1881年には東京職工学校が設立された。その目的は、細民子弟の教育、年期徒弟教育の是正と近代的職工教育の充実、工業経営者の憑式、全国職工学校の教員養成にあったが、結局職工長、製造所長の養成が目的となり、1890年には東京工業学校、1901年には東京高等工業学校、1929年には東京工業大学へと昇格していき、細民教育はどこかへ行ってしまった。ちなみに一橋大学の出発点は1875年森有礼が設立した商法講習所であり、1884年東京商業学校、1887年東京高等商業学校、1920年には東京商科大学へと昇格していった。これらは高等教育レベルの職業教育機関である。

 

 

2023年1月18日 (水)

労働政策フォーラム 日本の人事制度・賃金制度「改革」

JILPTの労働政策フォーラムのお知らせです。

例によって第1部の記念講演はオンデマンド、第2部の事例紹介とパネルディスカッションはライブ配信です。

今回は、梅崎修さんと青木宏之さんが労働関係図書優秀賞を受賞されたことを記念して、お二人に記念講演をお願いしました。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20230209/index.html

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リバタリアンはジョブ型が大嫌い

前にも市場原理主義者が薬学部は無駄だとか、薬剤師免許なんか要らないと言っているのをとらえて、からかうエントリ(下記)を書いたことがありますが、今度は教員免許をつかまえて無駄だと叫ぶリバタリアンです。

https://twitter.com/kurakenya/status/1615088835653959680

バカバカしい。小学校の先生なんて、大卒である必要もないのに教育学部卒の免許がいるが、女性の多くは実は十分に小学校の教員になれるし、普通のサラリーパーソンは十分に中学教員になれる。免許がムイミなだけ。

世にはびこる山のようないんちきジョブ型論者とそれに騙されている善男善女たちの思い込みとは全く逆に、ジョブ型社会というのは硬直的な職業資格社会であり、その職業のための教育訓練機関をきちんと修了してしかるべき職業資格を取得した人だけがその仕事を遂行できるのだという社会的共同意識をみんなが共有することで、教育と職業とを一貫する社会制度が確立している社会なので、こういうまことに日本的柔軟性、職務の無限定性に満ち溢れた発想とは対極にあるのです。

そういうリバタリアン的思想のパラダイスが日本型雇用なんだが、本人はそう思っていなさそうなのがご愛敬ですが。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/07/post-925cf2.html(ジョブ型原理が嫌いな人々の群れ)

 なんだか、薬学部なんか無駄だとか、薬剤師免許なんかいらないとかいう議論が一部ではやっているようですが、学校教育で職業資格を得た人間がその職業の専門技能を有していると社会的に見なされて当該職業を遂行していく、という日本以外では当たり前のジョブ型社会の基本原理が、なまじ原則的にそうじゃない日本の労働社会で例外的に妙に厳格なジョブ型原理を持ち込むと、どういう反発が発生するかのいい見本になっていますね。

実のところ、ビジネススクールにせよ、なになにスクールにせよ、そこのディプロマを得た若造が、長年無資格で勤め上げた現場のたたき上げよりも有能であるというのは、ジョブ型社会のお約束事に過ぎないわけですが、世の中全体がそういうお約束で動いている以上は、その若造が卒業とともにエグゼンプトとかカードルとかいうエリートとして偉そうにあれこれ指図し、段違いの高給をもらい、一生動かないノンエリートを横目にあちこち動きながら早々と出世していくのは、そういうものなわけです。

日本に一応あることになっている職業分類というのは、そういうジョブ型原理で作られていますが、しかし実際にある労働者をどちらに分類するか、たとえばあるサラリーマンを管理的職業とするか事務的職業とするか、といった局面になると、世の中がそういう原理でできていないという事実が露呈するわけです。

管理的職業というのは、管理的職業になるためのビジネススクールのようなところで高度(ということになっている)教育を受け、管理的職業として採用され、入ったその日から辞めるまで管理的業務をする職種であり、事務的職業というのは、それよりも下の中くらいレベルの教育を受け、事務的職業として採用され、入ったその日から辞めるまでずっと事務的業務をする職種です。

日本は戦中戦後の激動の中で、戦前にはあったそういう社内職業階層社会を会社員(であるかぎりみな)平等社会に作り替えてしまったわけで、それにどっぷり漬かって3~4世代を経過した現代日本人にとって、役に立っているのかどうかも分からない職業資格なんて言うのは、眉に唾をつけて見られるようなものであるということが、よくわかります。

そういう日本社会の中で、例外的にジョブ型原理でもって構築されているのが医療の世界。医師とは、医学部を出て医師国家試験を通過し、医師として採用され、入ったその日から辞めるまで医師として働く職種であり、看護師とは・・・、なになに技師とは・・・、以下同文、という世界です。

すぐ横にそういう純粋ジョブ型社会があるのを見た薬剤師たちが、俺たち私たちも、と考えるのは不思議ではありません。まことに自然な反応なわけですが、ところがそういう医療の世界を離れた日本社会全体は、それとは全く正反対の、ジョブなき社会でもって生きているわけです。

興味深いのは、そういう欧米社会が作り上げてきたジョブ型社会の原理に疑問を呈するための小道具として、かなり過激な市場原理主義的経済理論が使われる傾向にあることです。市場原理主義からすれば、職業資格のようなジョブ型のあれこれのインフラストラクチャーは最も適切なマッチングを妨害し、市場を歪める代物ということになるわけでしょう。

日本的なメンバーシップ型社会とは、その意味で言えば、職業資格などという下らんものを無視して(その会社の社員であるという唯一無二の資格を有する限り)最も適切なマッチングを人事部主導でやれるとてもいい仕組みなんだ、と、30年以上前の日本型雇用礼賛者であれば言ったのでしょうがね。

というわけで、おそらく蔵研也氏の理想の学校を現実的な姿で実現しようと思ったら、トヨタとか日立とかの各会社が学校を設立し、その会社の社員でものを教えられそうな有能なのやその奥さんを適当に見繕って、人事異動で教師に回して教えさせる、部活もやらせる、ってのでしょうね。

だって「女性の多くは実は十分に小学校の教員になれるし、普通のサラリーパーソンは十分に中学教員になれる」というわけだけど、人さまの子ども相手の仕事に得体のしれないのを持ってくるわけにはいかないから、人物は信用できる(ということでしっかり採用しているはず)社員とその奥さんを使うのが一番安心ということになるはず。

もちろん、そんな話を聞いたら、ごく一部のイデオロギー的リバタリアンは別として、欧米でふつうのジョブ型社会に生きている普通の人々は仰天して目を白黒させると思うけど。

リバタリアンこそ、ジョブ型原理が大嫌いな人々なんですね。

ただ、厳密にいうと、ウチの社員なら信用できるというメンバーシップ型でもなくて、人さまの子ども相手の仕事にでもどこの馬の骨かわからない得体のしれないのを持ってきてもいいじゃないか、なんかあったら事後対応でOKという意味での市場原理主義なのかもしれません。

2023年1月17日 (火)

障害者雇用率が2.7%に

明日開催される労政審障害者雇用分科会の資料がすでにアップされています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001039344.pdf

現在2.3%の障害者雇用率を、2024年度から2.5%、2026年度から2.7%に引き上げていくというスケジュールが提案されるようです。

国と地方自治体は3.0%(教育委員会は2.9%)です。

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医師の長時間労働規制と需給推計@WEB労政時報

WEB労政時報に「医師の長時間労働規制と需給推計」を寄稿しました。

 医師の長時間労働問題については、この連載で何回か取り上げてきました。4年近く前の2019年4月12日付の「医師の不養生はいつまで続くか?」は、厚生労働省医政局の「医師の働き方改革に関する検討会」が報告書を取りまとめ、医師の労働時間の上限規制の具体案を提示したことを受けたものでした。そこでは、2024年度から診療従事勤務医に適用される水準として、臨時的な必要がある場合の上限時間は休日労働を含めて年960時間以下、単月100時間未満とされていますが、これだけでは地域医療体制を確保できないという観点から、経過措置として地域医療確保暫定特例水準を設け、年間1860時間という極めて長時間の上限を設定していました。また、研修医についても、この特例水準、すなわち年間1860時間、単月100時間未満を上限とするとされていました。
 次に取り上げたのは、2年近く前の2021年4月9日付の「医療法改正案と医師の働き方改革」で、政府が「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」を国会に提出したことを受けて、その後の動向を解説しました。・・・・

 

フリーランスの性的指向差別にEU司法裁判決

去る1月12日付で、EU司法裁判所が一般均等指令の解釈において、フリーランスを性的指向を理由に契約更新しないことも指令違反であるという判決を下したようです。

https://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=269149&pageIndex=0&doclang=EN&mode=lst&dir=&occ=first&part=1&cid=87100

原告のJKさんはポーランドの国営テレビ局でフリーランスとして働いていたのですが、自分の同性カップルとのミュージックビデオをYoutubeにアップしたところ、契約を更新しないと言われたので訴え出たという事案です。

Article 3(1)(a) and (c) of Council Directive 2000/78/EC of 27 November 2000 establishing a general framework for equal treatment in employment and occupation

must be interpreted as precluding national legislation which has the effect of excluding, on the basis of the freedom of choice of contracting parties, from the protection against discrimination to be conferred by that directive, the refusal, based on the sexual orientation of a person, to conclude or renew with that person a contract concerning the performance of specific work by that person in the context of the pursuit of a self-employed activity.

一般均等指令の関係条文は、自営業活動として特定の作業を遂行する契約にも適用される、と結論づけています。

 

『よくわかる!労働判例ポイント解説集 第2版』

Point 『よくわかる!労働判例ポイント解説集 第2版』(労働開発研究会)をお送りいただきました。以下のように、執筆陣はぴちぴちの若手研究者が多いです。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/10453/

山田省三、春田吉備彦、河合塁編著、
後藤究、小林大祐、榊原嘉明、東島日出夫、藤木貴史、松井良和著 

取り上げられている判例はいずれも割と最近話題になったものばかりで、私が評釈したことのあるものもあります。

ちなみに、山田省三さんが担当しているエアースタジオ事件の解説部分では、例の農業アイドルのHプロジェクト事件から、ファンとの交流活動の元アイドルほか事件、恋愛禁止のAマネジメント事件、等々、芸能と労働に関わる諸判例が多く紹介されています。

2023年1月15日 (日)

ソフトスキルの過小評価、過大評価

昨年末にEU閣僚理事会と欧州議会の間でほぼ合意に達した男女賃金格差に係る賃金透明性指令案の文言を眺めているのですが、

https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-15997-2022-ADD-1-REV-2/en/pdf

全文の訳はそのうちまとめて公表しますが、その中で興味を惹かれたところだけちょっとメモ的に報告。

元の欧州委員会の指令案にはなくってこの合意案に入っている文言のうち、第4条(同一労働又は同一価値労働)の第3項の最後のセンテンスが面白い。

3. Pay structures shall enable the assessment of whether workers are in a comparable situation in regard to the value of work on the basis of objective, gender-neutral criteria agreed with workers’ representatives where these exist. These criteria shall not be based, whether directly or indirectly, on workers’ sex. These objective criteria ▌ shall include skills, effort, responsibility and working conditions, and, if appropriate, any other factors which are relevant to the specific job or position. These criteria shall also be applied in an objective gender-neutral manner, excluding any direct or indirect discrimination based on sex. In particular, it shall be ensured that relevant soft skills are not undervalued.

3 賃金構造は、労働者が労働の価値に関して比較可能な状況にあるかどうかを、存在する場合には労働者代表と合意した客観的かつ性中立的な基準に基づいて評価することができるようなものとする。これら基準は直接であれ間接であれ労働者の性別に基づかないものとする。これら客観的な基準は技能、努力、責任及び労働条件、並びに適当であれば特定の職務又は職位に関連する他のいかなる要素をも含むものとする。これら基準はまた、性別に基づく直接または間接のいかなる差別も除き、客観的かつ性中立的な方法で適用されるものとする。とりわけ関連する対人能力(ソフトスキル)が過小評価されないよう確保するものとする。

ソフトスキルってのは、英辞郎によれば「対人的な交渉・指導・意思疎通などをうまく行える能力(または知恵)。ハードスキルと異なり、能力の測定が困難」ですが、ジョブ型社会では測定できるハードスキルばかりを高く評価してしまい、ソフトスキルはどうしても過小評価されてしまいがちなので、ちゃんとそれも評価しろよ、とわざわざ条文に書き込もうとしているわけです。

それが賃金透明性指令の文言にまで出てくるということは、ハードスキル偏重だと男性優位になりがちなので、女性の能力をちゃんと評価するためにはソフトスキルも重視しろよという文脈であるわけですね。

非ジョブ型社会の日本からみてこれが皮肉なのは、今までの男性優位型組織において評価される基準がむしろハードスキルよりもソフトスキル、つまり「あいつは根回しがうまい」みたいなものであり、そういう社会の中で女性はむしろ夜の席に付き合いもせずに平場で根回しもせずに正論ばかり言うみたいな目で見られがちだと言われていることです。話が一回りして裏返しになってしまっているというか。

 

 

 

 

 

 

 

2023年1月14日 (土)

Jobs vs. membership: Making sense of Japan's system of employment @ The Japan Times

Np_file_203350 英字紙「The Japan Times」に、「Jobs vs. membership: Making sense of Japan's system of employment」という記事が載ったようです。

https://www.japantimes.co.jp/news/2023/01/12/national/jobs-membership-work/

Anyone hoping to understand the fundamentals of Japanese employment law could do worse than to read attorney Keiichiro Hamaguchi’s 2021 book “What is a ‘Job-type’ Employment Society?” (Jobu-gata koyō shakai to wa nani ka) or his 2009 book “The New Labor Society — Rebuilding the Employment System” (Atarashii rōdō shakai — koyō shisutemu no sai kōchiku e).

Colin Jonesさんが書かれたこの記事、上記拙著2冊を的確に外国人向けに要約していただいているのですが、実はわたくしの属性について誤解されておりまして、わたくしは「attorney」ではないのです。

実に手際よく日本独特のメンバーシップ型を解説していく中で、「oxymoronic」という知らない単語が出てきました。例文は以下の通り。意味わかりますか?管理職組合という言葉につけられた形容詞です。

This may explain why most Japanese unions represent groups of employees of different types rather than specific trades, though there are vaguely oxymoronic management unions (as Hamaguchi points out, “manager” is itself a largely meaningless term in Japan, since virtually anyone who stays in a membership job long enough will become one).

記事の最後のセリフが実にかっこいいものだったのでそれも引用しておきますね。

Hamaguchi’s descriptions of employment in Japan are lucid, succinct and witty. While he points out possible technical fixes for specific issues along the way, he does not close with any recommended “big pictures” solutions.

Perhaps there aren’t any.

 

 

 

 

 

2023年1月12日 (木)

ブルシット・ジョブもジョブ型のジョブ

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https://twitter.com/wagonthe3rd/status/1613325992109690880

そういえば『ブルシットジョブ』ってジョブ型雇用の社会で起こってることって指摘、まだ見かけてなかったな。知らんけど。

いや、知らんでしょうけど、既に指摘しとるのよ。

https://www.rodo.co.jp/column/103943/

・・・という本格的な批判はいくらでも出てくるのだが、ここではややトリビアな話題を。近年流行の「ジョブ型」論でいえば、ブルシット・ジョブといえどもジョブ型社会の「ジョブ」なので、ジョブ・ディスクリプションが必要なのだ。本書88ページ以下には、中身のない仕事の職務記述書をもっともらしくでっち上げるという究極のブルシット・ジョブが描写されている。日本にも山のようにブルシットな作業やら職場やらがあるのだろうが、ただ一つ絶対に存在しないのは、ブルシット・ジョブのジョブ・ディスクリプションを事細かに作成するというブルシットな作業であろう。

 なぜなら、日本ではそんなめんどくさい手続きなど一切なしに、もっともらしい肩書き一つで「働かないおじさん」がいくらでも作れてしまうのだから。もっとも、それが良いことなのか悪いことなのかの評価はまた別の話ではある。

 

 

 

 

労働図書館企画展示「職業紹介と職業訓練 ─ 千束屋看板と豊原又男 ─」

昨年ご案内したように、現在JILPT1階の労働図書館では、「職業紹介と職業訓練 ─ 千束屋看板と豊原又男 ─」という企画展示を来週いっぱいまで行っています。

https://www.jil.go.jp/lib/exhibition/fy2022/2022_session3_poster.pdf

ここでは、28ページに及ぶかなり詳しい展示パンフレットを作成配布していますので、是非一度お立ち寄りいただければと思います。

Toyohara


 

グレゴワール・シャマユー『統治不能社会』@【書方箋 この本、効キマス】

726d577b64d21123af489672df0965cf 『労働新聞』に月イチで連載している書評コラムですが、今年からまたタイトルが変わり、「書方箋 この本、効キマス」となりました。

その第1回目に私が取り上げたのは、グレゴワール・シャマユー『統治不能社会』(明石書店 )です。

https://www.rodo.co.jp/column/143561/

 半世紀前の1975年に、日米欧三極委員会は『民主主義の統治能力』(サイマル出版会)という報告書を刊行した。ガバナビリティとは統治のしやすさ、裏返せばしにくさ(アンガバナビリティ)が問題だった。何しろ、企業の中では労働者たちがまるでいうことを聞かないし、企業の外からは環境や人権問題の市民運動家たちがこれでもかと責め立ててくる。本書はその前後の70年代に、欧米とりわけアメリカのネオリベラルなイデオローグと企業経営者たちが、どういう手練手管を駆使してこれら攻撃に反撃していったかを、膨大な資料―それもノーベル賞受賞者の著作からビジネス書やノウハウ本まで―を幅広く渉猟し、その詳細を明らかにしてくれる。

 評者の興味を惹いた一部だけ紹介すると、それまでの経営学ではバーリ=ミーンズやバーナムらの経営者支配論が優勢で、だからこそその権力者たる経営者の責任を問い詰める運動が盛んだったのだが、この時期にマイケル・ジェンセン(3340号7面参照)がその認識をひっくり返すエージェンシー理論を提唱し、経営者は株主の下僕に過ぎないことになった。そもそも企業とはさまざまな契約の束に過ぎない。従って、理論的に企業の社会的責任などナンセンスである。一方でこの時期、ビジネス書などで繰り返し説かれたのは、(厳密にはそれと矛盾するはずだが)問題が大きくなる前に先制的に問題解決に当たれという実践論だった。

 本書は今では我われがごく当たり前に使っている概念が、この時期に企業防衛のために造り出されたことを示す。たとえばコスト・ベネフィット分析がそうだ。労災防止や公害防止の規制は、それによって得られる利益と比較考量して、利益の方が大きくなければすべきではないという議論が流行った。本書が引用するアスベスト禁止の是非をめぐるマレー・ワイデンバウム(レーガン政権で経済諮問委員長になった経済学者)とアル・ゴアのやり取りは、それなら人命に値段をつけろと迫られて逃げ回る姿がたいへん面白い。

 思想史的には、70年代以後のネオリベラル主義が戦前ナチスに傾倒したドイツの政治思想家カール・シュミットとその影響を受けたネオリベラル経済学者ハイエクの合体であることを抉り出した点が新鮮だ。73年にチリのアジェンデ政権を打倒して成立したピノチェト軍事政権に対し、当時主流派のポール・サミュエルソンが「ファシスト資本主義」と批判したのに対し、ハイエクは「個人的には、リベラルな独裁制の方が、リベラル主義なき民主政府より好ましいですね」と答えている。いうまでもなくこの「リベラル」とは経済的な制約のなさを示す言葉であり、その反対語「全体主義」とは国家が市民社会に介入すること、具体的には福祉国家や環境規制がその典型だ。そういう悪を潰すためには、独裁者大いに結構というわけだ。

 とはいえ、先進国で用いられた手法はもっとソフトな「ミクロ政治学」だった。正面から思想闘争を挑む代わりに、漸進的に少しずつ「民営化」を進め、気が付けば世の中のあれこれがネオリベラル化している。その戯画像が、野球部の女子マネージャーにドラッカーの『マネジメント』を読ませて喜ぶ現代日本人かもしれない。

 

 

 

 

2023年1月11日 (水)

障害者雇用代行業をどこまで非難できるのか?

こういう(悪)知恵の働く人っているんだな、という感想と、とはいえ、現在の日本の(実定法というよりは判例法理に体現された)雇用システムを前提としたときに、どこまでこういうスキームを非難できうるのか、というかなり深刻な問題意識とを感じさせる事例です。

https://nordot.app/985151549346955264(障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用)

法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上る。

大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は対応策を打ち出す方針だ。

そもそも障害者雇用率制度というのは、ほっとくとなかなか障害者を雇用しようとしない企業に強制的に雇用責任を割り当てようというものですが、さてその「雇用責任」とは一体何なのか。

ジョブ型社会であれば、雇用責任というのは当然のことながら当該企業の事業を細分化していった個々のジョブのうち、障害者にやれそうなものを障害者用によりわけて、そこに外部から障害者を雇い入れてはめ込むということになります。実は、日本国の障害者雇用制度も基本的にはそういう発想に立っています。

ところが、日本社会の主流はメンバーシップ型であり、そこではジョブは何ら本質的ではなく、会社の社員であるという身分を付与することに意味があります。だからこそ仕事のない追い出し部屋というのもあり得るし、解雇された人が裁判で勝っても元の仕事に戻る権利はなく、会社の社員という地位だけ確認されて口座に給料は振り込まれてくるけれどもジョブの権利はないわけです。

そういう社会のあり方を前提にすると、会社の社員という身分は付与した上で、当該企業の事業を細分化したジョブとはまったく関係の無い外部の「仕事」に就けて、ちゃんと給料だけは払っているというあり方を、どこまで非難しきれるのか、という問いに答えるのはなかなか難しいことになります。

実を言うと、半分くらいそういう日本社会の実情に妥協した仕組みというのは既にちゃんとあって、それは特例子会社という、障害者雇用専門の仕事だけをする子会社を作って、そこに雇用率を達成できるだけの障害者を雇い入れるという仕組みです。

「雇用責任」をどう考えるかによりますが、その企業の関連事業を子会社という連結決算の範囲でやっている限り、ぎりぎりセーフと言うことなんでしょうが、今回の事例はそれをすかっと飛ばして、「どこで何しとってもなんでもええやん、社員として給料払ってるんやから」の極限に至っている感があります。

なので、いやこれはアウトやろ、という直感をちゃんと論理化しようとすると、これがなかなか難しいのです。メンバーシップ型社会のロジックを前提とする限り、非難しきれないのです。

 

2023年1月10日 (火)

2023年のキーワード:フリーランス新法@『先見労務管理』2023年1月10日号

Senken_20230110125001 『先見労務管理』2023年1月10日号に「2023年のキーワード:フリーランス新法」を寄稿しました。

https://senken.chosakai.ne.jp/

2023年がはじまりました。新年最初の特集は毎年恒例となりました、年間のキーワードを押さえます。本年は①フリーランス新法、②カスハラ、③不正競争防止法、④賃金のデジタル払い――の4つのキーワードについて、それぞれ識者の方々に解説いただきました。

でも、この4つのキーワードのうち、最初の奴は存在しないものなんですね。

 今回のキーワードはいささか異例である。タイトルの「フリーランス新法」なるものは現時点で存在しないし、法案すら国会に提出されていない。実は、編集部から執筆依頼を受けた時点では、昨年秋の臨時国会に法案が提出され、成立しているものと見込まれていたのだ。ところがその予定が狂ってしまったため、提出されるはずだった法案の中身を説明するという、やや異例の事態になったというわけである。

フリーランス新法の予告とパブリックコメント

フリーランスに係る取引適正化のための法制度

条件明示義務

解約・不更新の予告

募集情報の的確性

報酬の支払期日

事業者の禁止行為

ハラスメントとワークライフバランス

行政措置

 

 

 

経済学部の職業的レリバンス(再々の再掲)

年末に、木簡研究がどうこうという噺に引っかけて、過去エントリの虫干しとしてアップしたこれに、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/12/post-0da822.html(木簡研究の職業的レリバンス)

本気で怒りをぶつけるツイートがあったのですが、

https://twitter.com/kirikomio/status/1612421121919549440

職業的レリバンスの観点だったら、実家が寺社教会(宗教法人等)の子が大学の宗教哲学科に行って家の跡を継ぐという、これ以上ない“職との結びつき”じゃないの。経済学部に行った人が企業の営業社員やるより職に直結してるよね。

https://twitter.com/kirikomio/status/1612426169663778816

この話の元は「木簡研究の職業的レリバンス」だが、大学や院の木簡研究者は自治体職員(教育委員会等)・学芸員に直結してるから、文学部史学科を職業に結びつかない代表にするのは不適切。哲学科も、宗教学科は寺社教会の跡継ぎで職に直結しているのでは。

https://twitter.com/kirikomio/status/1612429552537718785

寺社教会の跡継ぎでなく、“純粋に(職に無関係で)”宗教、哲学を学びたくて宗教系大学学科に行く人もいると思うけど、哲学科の定員は経済学部などよりはるかに少ない。
哲学系統:約4万7000人
商学・経済学系統:約46万人

https://twitter.com/kirikomio/status/1612431762629734400

経済学部生の“職業的レリバンス”については不問で、その10分の1程度の人数の哲学科(多くは宗教学科か)を“職業に結びつかない”“ただの趣味”と槍玉に揚げるの、相当にバイアスがあるのでは、と思う。

https://twitter.com/kirikomio/status/1612445962596921346

“大学で哲学を教えるのは、哲学の教官の食い扶持のためであって、学生の職には結びついていない”という言い分は、そのまま
“大学で経済学を教えるのは、経済学の教官の食い扶持のためであって、学生の職には結びついていない”になるんじゃないのかな。

https://twitter.com/kirikomio/status/1612448584275984385

哲学科学生(多くは寺社教会跡継ぎ) 4万7000人に対し、経済学部学生は46万人なので、“職業に直接役に立たんことを大学で教えている”点では経済学の教員のほうが“なんだかな”度が高いと思う。
直接役に立たずとも良い、と考えるなら、哲学や文学は役に立たんとか言って攻撃すべきでないだろう。

実は言っていることのかなりの部分はその通り、というか、その趣旨のことも書いていたのですけどね。

まず、コメント欄でも述べているように、「大学や院の木簡研究者は自治体職員(教育委員会等)・学芸員に直結してる」ので、それなりにレリバンスがあるのです。

よく考えると、歴史学といっても、日本史研究と西洋史研究とでは職業的レリバンスはだいぶ違うようにも思われます。
日本史を学んで古文書の読み方とかを勉強した人は、大学の先生というような極めて狭小なアカデミックポストには就けなくても、全国の教育委員会の学芸員とか、もろもろのストリートレベルのアカデミックポストがあるので、それなりに使いではあるのでしょう。それに対して、西洋史を学んだ場合には、そういう就職の場はほとんどないと思われるので、実は上のエントリの「木簡研究」云々というのは、必ずしも適切ではないのかもしれません。 投稿: hamachan | 2022年12月31日 (土) 11時11分

また、「実家が寺社教会(宗教法人等)の子が大学の宗教哲学科に行って家の跡を継ぐ」ってのは、これまた医者の息子が医大に行く以上にこの上ない職業的レリバンスの固まりであって、仰るとおりでありましょう。

ただまあ、西洋史や西洋哲学の専攻だと、大学のアカデミックポスト以外にさほどのレリバンスに充ち満ちた就職先があるわけでもなさそうです。

以上は前説。

この方が怒りを燃え立たせているのは、どうやら私が哲学や文学『だけ』を槍玉に挙げて、もっとレリバンスに乏しい経済学部を免責しているじゃないか、ということのようなんですが、それは誤解、というか、この元になった10年以上も昔の一連のレリバンスシリーズの中では、それこそ経済学部のレリバンスの欠如をさんざんからかっていたのですが、そこまでは御覧にならなかったようです。

というわけで、以下過去エントリの何回目かの虫干し。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-f2b1.html(経済学部の職業的レリバンス)

たまたま、今から11年前の平成10年4月に当時の経済企画庁経済研究所が出した『教育経済研究会報告書』というのを見つけました。本体自体もなかなか面白い報告書なんですが、興味を惹かれたのが、40ページから42ページにかけて掲載されている「経済学部のあり方」というコラムです。筆者は小椋正立さん。本ブログでも以前何回か議論したことのある経済学部の職業的レリバンスの問題が、正面から取り上げられているのです。エコノミストの本丸中の本丸である経企庁経済研がどういうことを言っていたか、大変興味深いですので、引用しましょう。

>勉強をしないわが国の文科系学生の中でも、特にその傾向が強いと言われるグループの一つが経済学部の学生である。学生側の「言い分」として経済学部に特徴的なものとしては、「経済学は役に立たない(から勉強しても意味がない)」、「数学を駆使するので、文科系の学生には難しすぎる」などがある。・・・

>経済学の有用性については、確かに、エコノミストではなく営業、財務、労務などの諸分野で働くビジネスマンを目指す多くの学生にとって、企業に入社して直接役立つことは少ないと言えよう。しかし、ビジネスマンとしてそれぞれの職務を遂行していく上での基礎学力としては有用であると考えられる。実際、現代社会の特徴として、経済分野の専門用語が日常的に用いられるが、これは経済学を学んだ者の活躍があればこそ可能となっている。・・・

>・・・ところが、経済学の有用性への疑問や数学使用に伴う問題は、以上のような関係者の努力だけでは解決しない可能性がある。根本的には、経済学部の望ましい規模(全学生数に占める経済学部生の比率)についての検討を避けて通るわけにはいかない。

>経済学が基礎学力として有用であるとしても、実社会に出て直接役に立つ分野を含め、他の専攻分野もそれぞれの意味で有用である。その中で経済学が現在のようなシェアを正当化できるほど有用なのであろうか。基礎学力という意味では数学や物理学もそうであるが、これらの学科の規模は極めて小さい。・・・

>大学入学後に専攻を決めるのが一般的なアメリカでは、経済学の授業をいくつかとる学生は多いが専攻にする学生は少ない。もちろん、「望ましい規模」は各国の市場が決めるべきである。歴史的に決まってきた現在の規模が、市場の洗礼を受けたときにどう判断されるのか。そのときに備えて、関係者が経済学部を魅力ある存在にしていくことが期待される。

ほとんど付け加えるべきことはありません。「大学で学んできたことは全部忘れろ、一から企業が教えてやる」的な雇用システムを全面的に前提にしていたからこそ、「忘れていい」いやそれどころか「勉強してこなくてもいい」経済学を教えるという名目で大量の経済学者の雇用機会が人為的に創出されていたというこの皮肉な構造を、エコノミスト自身がみごとに摘出したエッセイです。

何かにつけて人様に市場の洗礼を受けることを強要する経済学者自身が、市場の洗礼をまともに受けたら真っ先にイチコロであるというこの構造ほど皮肉なものがあるでしょうか。これに比べたら、哲学や文学のような別に役に立たなくてもやりたいからやるんだという職業レリバンスゼロの虚学系の方が、それなりの需要が見込めるように思います。

ちなみに、最後の一文はエコノミストとしての情がにじみ出ていますが、本当に経済学部が市場の洗礼を受けたときに、経済学部を魅力ある存在にしうる分野は、エコノミスト養成用の経済学ではないように思われます。

まさに、この方の仰るように、「“大学で経済学を教えるのは、経済学の教官の食い扶持のため」なんじゃないの?と申しておりました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/27-040d.html(大学教育と企業-27年前の座談会)

今は亡き『経済評論』なる雑誌がその昔ありまして、その1983年12月号-ちょうど27年前ですな-が「曲がり角に立つ大学教育」なる特集を組んでおりまして、その中で中村秀一郎、岩田龍子、竹内宏の3人の「大学教育と企業」という座談会が載っています。

竹内宏と言っても最近の若い方はご存じないかも知れませんが、この頃大変売れっ子だった長銀のエコノミストです。って、その長銀も今は亡き長期信用銀行ですが。

そういう昭和の香り漂う座談会の会話を読むにつれ、「曲がり角に立」っていたはずの27年前からいったい何がどう変わったのだろう、という思いもそこはかとなく漂うものがあり、やや長いのですが、興味深いところをご紹介したいと思います。いうまでもなく、昔話のネタというだけではありませんで。

>竹内 企業にしてみると、大学は志操堅固なんです。志操堅固というのはどういうことかというと、自分の問題意識を持って、それを達成するために何かやろうということでしょう。つまり自分の人生の目的があって、それを達成するために企業を使ってやろうという人を今までは作ってくれているらしい。だから、そういうモラルがしっかりしている人だけもらって、育ててくれればいい。ですから、現在のところは、経済学でも何でもそうですが、専門的知識は全然要求していない。要求してもむだだから、その知識を企業は期待していない。ただ、そのモラルを期待している。

>中村 そうでしょうね。高度成長のちょうど中ごろ、昭和30年代の終わりごろですが、私は徹底的にフィールドワークをやるから、企業に出入りすることが多かったんですが、あの頃企業の偉い人が必ず僕に言うことは、「先生、大学はもうちょっと企業で役に立つ方法を教えてもらわなくちゃ困りますよ」と、こういうお説教が非常に多かった。ところが40年代に入ってから、それがなくなりましたね。これはあきらめムードだと思う。まず第一に、そんなことを大学に言っても無理だということになったと、僕は解釈しているんです。・・・

>岩田 半分は竹内さんのおっしゃるとおりですところが、私は反面ちょっと違う考えがあって、会社が全然期待してくれないから、学生がやる気にならないのだという見方をしているわけです。というのは、日本の企業は、終身雇用・・・という組織構造があって、入社してから教育し、あちこち部局を動かして、組織の中で教育しないと使いものにならない。そういう構造的な条件があり、企業の側は、ものすごく熱心に人材育成をなさる。大変精緻な教育システムができているわけです。

そこで、企業はどんな人材を採るかということになると、今おっしゃったように、大学で学んできた経済学とか経営学は、ほとんど問題にならない。優れた潜在能力を持った人たちが、意欲とかリーダーシップを大学時代に大いに鍛えていれば、後は企業が教育するからといわれる。そうなると、逆に学生の方は専門に対して不熱心になる傾向が、盾の半面としてあるんじゃないか。・・・

>竹内 企業がなぜ専門性を重視しないかといえば、猛烈に経済学をやったりすると、私はケインジアンだ、なんていいだす。そうすると、ケインジアンだから、今は財政を拡大しろと、それだけでしょう。これは困っちゃうんです(笑)。・・・だから、むしろない方がいいということで、かえって専門性が嫌われちゃう。怖くて採れないのです。

>岩田 ということは、日本の大学の現状は、企業にとっては理想的な状況になっているということになりますね。妙に専門性を叩き込んでいない。

ちなみに、座談会の冒頭で、司会の人が

>竹内さんの言葉を使えば「その他学部」である(笑)経済学部、経営学部に限定させていただきます。

と言っていますが、「その他学部」なんて言葉があったんですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/02/post-5849d0.html(橘木俊詔『日本の経済学史』)

個人的には、戦前の社会政策学会とか戦後の労働経済学に関する記述をみたいと思って読み出したのですが、労働経済学はほとんど取り上げられておらず、むしろ近年のマルクス経済学の衰退に関する部分の叙述がなかなか面白くて、ちょっと紹介しておきます。

https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-04035-0&genre=%8co%8d%cf%8aw%81E%8co%8d%cf%8ev%91z&author=&bookname=&keyword=&y1=&m1=&y2=&m2=&base=genre

まずはこれ。本ブログでも繰り返し取り上げてきたレリバンスのない学問の学生を採用してきた日本企業の話。

一昔前はマルクス経済学を専攻する学生は多かったのに、なぜ企業はそういう学生を採用してきたかといえば、特に事務系の社員に関しては、学生の頃は何を勉強しようがお構いなしの雰囲気が企業で強かったからである。やや誇張すれば、何も勉強をしておく必要はなく、適当な頭の良さと一生懸命頑張る元気さがあればそれで十分とみなしてきた。企業人としての訓練は入社後にしっかり行うという人事政策を採用していたのである。しかもたとえ経済学部でマルクス経済学を勉強した学生であっても、入社後に過激な労働運動や反資本主義的な行動をする人はほとんどおらず、入社後は猛烈なサラリーマンになる人が大半であった。・・・

これね、よく文学部が槍玉に挙がるんだけど、実は経済学部だって、企業が大学で勉強してきたことになんの期待もしていないという点ではなんら変わらない、という話も、昔のエントリで取り上げたことがあります。

・・・・・

で、実はこのブログの台詞が、そっくりそのまま橘木さんの本に載ってます。いや今回のじゃなくて、6年前の『ニッポンの経済学部』(中公新書ラクレ)って本ですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-2b50.html (橘木俊詔『ニッポンの経済学部』)

・・・この図表4をもとに、濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)は「『大学で学んだことは全部忘れろ、一から企業が教えてやる』的な雇用システムを全面的に前提にしていたからこそ、『忘れていい』いやそれどころか『勉強してこなくてもいい』経済学を教える」と鋭く指摘しています(濱口氏のブログより)。

拙著の一部が本や論文に引用されることは結構ありますが、さすがに本ブログの記述がそのまま橘木さんの本に引用されるとは思ってませんでした。いやいや。・・・

「ネコ文Ⅱ」が近経やろうがマル経やろうが変わりはねえだろ、ってか。

ただ、とはいえ、ソ連はじめ共産圏の崩壊で、わざわざマル経を勉強しようという学生はいなくなります。

ところが世界において社会主義ないしマルクス主義が崩壊する姿を学生が見るにつけ、大学でマルクス経済学を勉強しても意味ないなと思うようになり、既に述べたように学生はマルクス経済学の諸科目を受講しなくなり、ゼミの教授としてもマルクス経済学者を選ばなくなったのである。一言で述べれば、マルクス経済学の人気の凋落と近代経済学のそれの急騰である。大学教員としてマルクス経済学者の余剰感が高まり、大学がそれらの人の数を減らして、近代経済学者を増加させようとする時代になったのである。

ところが、そこはジョブ型じゃなくってメンバーシップ型の日本社会なので、こういうやり方になります。なお橘木さんは国立と私立を対比させていますが、そこはかなりミスリーディングで、いや私立大学だって、マル経を理由に解雇したところなんてないはずです。

国立大学では公務員としての身分保障があったので、マルクス経済学者の解雇をするようなことはなく、そういう人が定年退職したときの補充、そして新規採用を近代経済学者に特化するようになった。私立大学では、国立大学よりも自由なので、この政策をより強固に行った。特に当時は私立大学の創設が目立った時代であり、新規採用者のほとんどが近代経済学者であった。・・・

マル経のおじさんの定年退職を待って若い近経の研究者を採用したということに変わりはないんでしょう。私立大学だってどっぷりメンバーシップ型ですから。

これに対して、これは読んでびっくりしましたが、東西統一したドイツでは凄いことをやったようです。

東ドイツの大学ではマルクス経済学が研究・教育されていたのであり、統一後これを信じる経済学者の処遇に関して、想像を絶することが発生した。ドイツ政府はマルクス経済学者に対してマルクス主義を放棄しない限り、大学で再雇用しないと決定したのである。ドイツではほとんどが州立大学なので、地方公務員という姿での採用であり、公務員を政治と経済の信条で差別する方策なのである。個々の経済学者の対応は、マルクスを捨てて我々のいう近代経済学に転向した人、自己の心情に忠実でいたいため、再雇用されることを嫌って他の職業を選択した人など、様々であった。中には工場労働者やタクシー運転手になった人もかなりいた。

ふむ、これはどう見ても思想信条による雇用差別ですが、それが正当とされたのは、国や公共団体は傾向経営(テンデンツ・ベトリープ)でらって、特定の思想信条を排斥することが許される組織であるということなのでしょうか。ドイツ法に詳しい人の解説が欲しいところです。

それまで極めて潤沢に存在したマルクス経済学の教授という雇用機会が、ドイツ統一によって一気に消滅したので、当該ジョブの喪失による整理解雇だというのなら、それはよく理解できるのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年1月 9日 (月)

渡辺努『世界インフレの謎』書評

共同通信社から配信された書評コラムがぼちぼち地方新聞に載り始めているようです。渡辺努『世界インフレの謎』を取り上げました。

これは福井新聞ですが、

https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1702467

Img_5cb7b94087dc646fc3892e64b10bdfbb2927 新型コロナウイルス禍でじわじわと進み、ロシアのウクライナ侵攻で一気に加速した世界インフレの謎を解き明かす本として一級の面白さだ。 サービスからモノへという消費者の行動変容、職場に戻りたがらない労働者の・・・・・

 

「身を切る改革」で神聖なる憎税同盟再び・・・

またぞろ「身を切る改革」で神聖なる憎税同盟が再びその雄姿をあらわそうとしつつあるのでしょうか。

http://gendainoriron.jp/vol.28/feature/taidan.php

Taidan_s_20230109103701   濱口:私が読んですごく同感した点と違和感を抱いた点を述べていきたいと思います。この本で一番、我が意を得たりと思った点は、「磁力としての新自由主義」です。この言葉は宮本さんの中では社会保障に着目したかたちで議論されていますが、雇用システムの観点から見るともっと根深いものがあって、まさに「磁力としての新自由主義」がずっと働いている、というのが私が感じてきたことです。宮本さんの本では、大枠としては自民党政権が新自由主義であり民主党はそれを批判する側という枠組だと思うのですが、私の目から見るとかなり違う光景が見えてきます。

2009年の民主党政権は、小泉政権と同じくらい「磁力としての新自由主義」を撒き散らしていたのではないか。宮本さん自身も詳しく書いていますが、2000年代前半の小泉政権は、確かに小泉・竹中の新自由主義路線でした。しかし第1次安倍政権から、福田、麻生政権と進むにつれ、自公政権は徐々に社会民主主義的な傾向を現してきました。それが民主党政権になってもっと社民主義になったというふうに、『現代の理論』の読者は考えているかもしれませんが、私の目から見るとむしろ民主党政権で小泉政権に戻ったのです。構造改革だ、事業仕分けだと言って、無駄を全部切ればお金はいくらでも出てくると主張し、それまで自公政権末期3代で少しずつ積み上げられてきた社会民主主義的な方向が、個々の政策ではつまみ食い的に社会民主主義的な政策はあるものの、大きな流れでいうとむしろ断ち切られてしまった。

鳩山政権はそれとは別の面で失敗して参議院選挙で与野党が逆転してしまい、やむを得ず菅直人は自公政権末期の社民的な政策を徐々に復活させていきました。その社民政策復活を象徴する人物が二人います。一人は財務大臣になった与謝野馨さんですが、もう一人は宮本太郎さんです。皮肉なことに、2000年代から2010年代への変わり目の中で、民主党政権というのは一時期小泉的な構造改革路線に逆流し、それが難しいことが分かって再び福田・麻生政権時代の社民的な政策に復帰して、野田政権で税と社会保障の一体改革に結実したのだと見ています。

こうした流れの中で見ると、第二次安倍政権というのは実に複雑な構造です。新自由主義的なものも部品レベルで見れば確かにあります。民主党政権で排除されていた竹中さんが復活したのはそれを象徴しています。一方で、それまでの社会民主主義的な流れも維持していますし、官製春闘などそれまでにない社民的政策も登場しました。この対立軸とは別の次元で、宮本さんの言う「日常的現実という保守主義」ではなく、頭の中でこしらえられた妙にイデオロギー的な、本来の保守主義とは異なるので私はカタカナで「ホシュ主義」と言ってますけれども、ある種の右翼的アイデンティティ・ポリティクスも強烈に打ち出された。

こういう様々なものがないまぜになったのが安倍政権だったのではないか。しかしここでは第2次安倍政権の正確な位置づけが大事なのではなく、福田・麻生政権で徐々に拡大し、鳩山政権でいったん断ち切られて後期民主党政権で復活した社会民主主義が、現在の安倍・菅政権まで流れてきているということの方が大事だと思います。この辺は社会政策の周りをうろちょろしている私の目から見ると自然にそのように見えるのですが、また宮本さんの見解ともおそらく一致すると思うのですが、世の多くの人にはそのように見えてない人が多いと思います。

ちょうど今自民党の総裁選挙の中で、岸田さんから「新自由主義からの脱却」といった議論が出てくる一方で、かつて民主党政権が唱えていた年金改革論が、規制改革を唱える河野さんから出てくるという、大変興味深い様相になっています。これは、いわば野党側が出してくるであろうカードを先回りして自民党の側が打ち出している形です。あえて社民的な政策を打ち出して見せる一方で、意識せざる新自由主義的な議論を振り回して、自民党としては混合したメッセージになっています。そうした事態の分析を、イデオロギー的に裁断するのではなく、現実の流れに沿った仕分けの仕方が大事である、というのが宮本さんの本を読んだ感想です。

濱口:今宮本さんが言われたことは大枠において私も共有します。本当の新自由主義者はごく少数しかいないのに、なぜ「磁力としての新自由主義」が山のように広がっているのか、つまり意図せざる新自由主義者がそんなに多いのかというと、ヨーロッパであれば社会民主主義の最大の岩盤であるべき安定した労働者層がむしろ新自由主義的な感覚を持ち、しかもそれに反発をする反体制的な、宮本さんのいう「浮遊するリベラル」も、やはり国家権力に対する反発から意図せざる新自由主義に走るという点にあります。イデオロギー的には対立しながら、国が税金を取ってそれを全体に再配分するという本来の社民主義に対して非常に違和感、あるいはむしろ敵対心を持つという意味で、結果的には似通ってしまうという構造だと思います。

ただこの説明はまだ概念的です。面白いのは、この二つのイデオロギーは思想としては対立し、ぶつかり合ってるんですが、社会的実態としてはある程度重なり合っている。社会党・総評ブロックというのはまさにそれを体現していたのではないか。彼らの大部分は、日本的な、私の言葉でいうとメンバーシップ型の企業システムの中に生きてるんですね。企業福祉の中にどっぷりつかって生きているがゆえに、その中で全部完結してしまい、それで十分済んでいる。

ヨーロッパであればもろもろの国家の社会保障で提供されるようなサービスは、企業内ですでに提供されているので、それを超えるようなものはいらないという実感がある。その実感が体制派的な労働者としての無意識的な新自由主義のもとになる。しかし同時に、口先の反体制的なイデオロギーとしては、マルクス主義的に福祉国家なんてものはダラ幹だ、というセリフでそれを正当化していた。この二つは、形而上的にはぶつかり合っているように見えて、形而下的な実態としては密接につながっていたと私は思ってます。

こうした無意識的な新自由主義の感覚が、かなりの程度、21世紀になっても持ち越されてきているのではないか。イデオロギー的には本当の新自由主義と、無意識的な安定労働者層のもつ実感的な新自由主義の感覚と、さらに宮本さんのいう「浮遊するリベラル」の反国家的な新自由主義の感覚とが、強力無比な「神聖なる憎税同盟」というトリア―デを作っている。そうするとその「神聖なる憎税同盟」をかいくぐって、国家が社会保障にしゃしゃり出ることが可能になるのは、それ以外のアクターが出てくる時しかありません。宮本さんのいう「例外状況としての社会民主主義」とはそういう機会なのだろうと思います。

宮本さんが出している三つの事例の中で、最も成功したあの介護保険とはまさにその典型で、その神聖同盟でないところから、すなわち介護の現場から、介護せざるを得ない家庭や、介護現場の声が噴出し、それまでこの無意識的な「神聖なる憎税同盟」に入っていた労働組合や、あるいは自民党の中の人たちも巻き込みながら動いて行ったわけで、まさにその意味で例外だったのでしょう。けれどもそれはあくまでも例外であって、神聖同盟の憎税感覚が変わっているわけではないので、その原動力が弱まってくると、元の磁力としての新自由主義的がまた強まってくる。・・・

安全保障や少子化対策という喫緊の課題に対して、国債という将来への付け回しに逃げるのではなく、正面から増税を掲げようとする与党に対して、またぞろ「身を切る改革」を掲げて憎税同盟の道を突っ走ろうとする某政党の姿に、いろんな思いが交錯する人も多いのではないでしょうか。

 

2023年1月 8日 (日)

米連邦取引委員会が競業避止条項を禁止?

これは労働法の中でわたしが一番疎い分野なので、植田達さんの論文を読んで勉強しないといけないのですが、アメリカの連邦取引委員会(FTC)が、労働契約における競業避止条項を禁止する提案を行ったということで、そのインパクトはかなり大きいものがありそうです。

https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2023/01/ftc-proposes-rule-ban-noncompete-clauses-which-hurt-workers-harm-competition

The Federal Trade Commission proposed a new rule that would ban employers from imposing noncompetes on their workers, a widespread and often exploitative practice that suppresses wages, hampers innovation, and blocks entrepreneurs from starting new businesses. By stopping this practice, the agency estimates that the new proposed rule could increase wages by nearly $300 billion per year and expand career opportunities for about 30 million Americans. 

連邦取引委員会は、使用者がその労働者に競業避止を課すことを禁じる新たなルールを提案した。この慣行は広く行われ搾取的で、賃金を抑制し技術革新を妨げ、起業家が新たなビジネスを開始するのをせき止めている。この慣行をやめさせることで、本委員会は新たなルールが賃金を年間3000億ドル増加させるとともに、3000万人のアメリカ人のキャリア機会を拡大すると見込んでいる。

 

 

サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォースに係る協力覚書

経済産業省のホームページに、「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォースに係る協力覚書」の原文と仮訳がアップされています。

https://www.meti.go.jp/press/2022/01/20230107003/20230107003.html

202301070033 米国時間令和5年1月6日、西村経済産業大臣とタイ米国通商代表は、「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォース」設置のための協力覚書(MOC:Memorandum of Cooperation)に署名しました。

本タスクフォースは、企業によるサプライチェーン上の人権尊重及び国際的に認められた労働者の権利の保護等の促進を目的に、ガイダンス、報告書、ベストプラクティス、教訓、法令、政策、執行実務などについて相互に情報共有していくことなどを想定しています。また、産業界を含むステークホルダーと対話を促進していきます。

経済産業省では、企業の予見可能性を高め、企業が積極的に人権尊重に取り組める環境の整備に向けて、国際協調を一層加速させていきます。

https://www.meti.go.jp/press/2022/01/20230107003/20230107003-1.pdf

https://www.meti.go.jp/press/2022/01/20230107003/20230107003-2.pdf

近年、アメリカでもヨーロッパでも大変関心が高まってきているサプライチェーンのデューディリジェンスの問題に、日本政府が本格的に腰を入れ始めたということのようですが、いささかいぶかしいのは、もちろん主管が経産省と通商代表部になるのは分かるのですが、アメリカ側は労働省等が常任的に構成員として入っているのに、日本側はそうではなさそうなことです。

日米タスクフォースの構成員
・日本:経済産業省、外務省、及び必要に応じてその他の省庁
・米国:米国通商代表部、商務省、保健福祉省、米国税関国境警備局及び移民税関捜査局を含む国土安全保障省、労働省、国務省、米国国際開発庁、及び、必要に応じてその他の政府機関

いやいや、国際労働基準の問題なんだから、厚生労働省が「必要に応じてその他」ではないでしょう。

(参考)

本ブログで、EUのデューディリジェンス指令案関係について触れたエントリは以下の通り。

欧州議会の企業デューディリジェンスと企業アカウンタビリティに関する欧州委員会への勧告

EUデュー・ディリジェンス指令案は2月23日に提案予定?

EUのデューディリジェンス指令案

EUのデューディリジェンス指令案がついに提案@『労基旬報』2022年3月25日号

日本の人権デュー・ディリジェンス@WEB労政時報

 

 

 

 

 

2023年1月 5日 (木)

世にジョブ型の種は尽きまじ@日経

いやもう中身の論評は労務屋さんにお任せしますが、

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC160UV0W2A211C2000000/(ジョブ型雇用、試行錯誤 人材・賃金でミスマッチ)

https://roumuya.hatenablog.com/entry/2023/01/05/132806

なにしろ、導入企業は予定も含めて約2割と謳いながら、ジョブ型導入企業の代表格が、主要ポストを公募しても半分は応募がなかったり、基本的に職種別の賃金体系になっていなかったりするんだから、なにかジョブ型っぽいのが一滴でも入っていたらジョブ型になるんでしょうね。日経新聞の基準では。

そろそろ毎度おなじみのジョブ型噺から卒業したい気もあるのですが、これではなかなか卒業できませんな。

 

 

2023年1月 1日 (日)

岩波新書で2022年売上第3位だったようです

昨日の大晦日、岩波書店のサイトに「2022年 ジャンル別売上ベスト10」がアップされていて、拙著『ジョブ型雇用社会とは何か』は新書の第3位だったようです。

https://www.iwanami.co.jp/news/n50815.html

新書

  書名 著者
1 独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 大木 毅
2 世界史の考え方〈シリーズ歴史総合を学ぶ1〉 小川 幸司、成田 龍一 編
3 ジョブ型雇用社会とは何か 濱口 桂一郎
4 スピノザ 國分 功一郎
5 空海 松長 有慶
6 幕末社会 須田 努
7 学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か 芦名 定道、宇野 重規、岡田 正則、小沢 隆一、加藤 陽子、松宮 孝明
8 俳句と人間 長谷川 櫂
9 森鴎外 学芸の散歩者 中島 国彦
10 人種主義の歴史 田中 久稔

なお、電子書籍部門でも第7位に入っているようです。

これも読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。

 

新年明けましておめでとうございます

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昨年は世界中でコロナが蔓延して三年目になり、年末には遂に私も感染してしまいました。幸い現在は回復しております。またロシアのウクライナ侵略により世界中に不穏な空気が立ちこめ、先行き不透明な日々が続いています。
 わたくしは三月に講演録『フリーランスの労働法政策』をまとめた後、四月にはEU本の四回目の全面改訂となる『新・EUの労働法政策』を刊行しました。なお、一昨年に刊行した『ジョブ型雇用社会とは何か』は、『週刊東洋経済』で第二位、『日経新聞』で第四位、『中央公論』の新書大賞で第六位を受賞し、さらに日本の人事部HRアワードの書籍部門優秀賞となるなど、皆様のおかげで高い評価を得られました。
 今年こそは内外ともに良い年となり、皆様にとっても素晴らしい年となりますように心よりお祈り申し上げます

二〇二三年一月一日

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