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2022年12月 1日 (木)

柄谷行人『力と交換様式』@『労働新聞』【本棚を探訪】

31950063_2 『労働新聞』の書評コラム【本棚を探訪】で、柄谷行人『力と交換様式』を取り上げました。

https://www.rodo.co.jp/column/142042/

 台湾のデジタル発展担当大臣オードリー・タン(唐鳳)が強い影響を受けたという柄谷行人の交換様式論。2010年の『世界史の構造』(岩波現代文庫)で展開されたその理論を、改めて全面展開した本だ。今回は柄谷の本籍地であるマルクスの原典に寄り添いながら、彼が世の中で思われているような生産力と生産関係に基づく唯物史観ではなく、交換様式に着目して理論を組み立てていたのだと繰り返し力説する。多くのマルクス主義者が冗談だと思って顧みなかった交換が生み出す「物神」(フェティッシュ)の力こそが、人類の歴史を形作ってきたのだと彼は説く。でも、エコロジー絡みもそうだが、マルクスの真意など我われにはどうでも良いことだ。

 彼が言う4つの交換様式のうち交換様式A(互酬:贈与と返礼)、交換様式B(略取と再分配:支配と保護)、交換様式C(商品交換:貨幣と商品)までは、カール・ポランニーやケネス・ボールディングらの3類型とも共通する考え方で、すっと頭に入る。評者も2004年に出した『労働法政策』の第1章「労働の文明史」で、似たような歴史観を展開してみたことがある。

 問題は彼が4つ目の、そしてこれこそめざすべき理想像だといって提起する交換様式Dだ。正直言って、『世界史の構造』を読んだときも全然納得できず、こんなものは余計ではないかという感想を抱いた。似たような感想を持った者が多かったのだろう。そうではないのだ、交換様式Dとはかくも素晴らしいのだと力説するために本書が書かれた。残念ながらそれが成功しているようには思えない。少なくとも評者は依然として疑問だらけだ。

 原始的な交換様式Aの高次元での回復というモチーフはよく理解できる。実際、古典古代のギリシャは、先進的かつ専制的なアジアの亜周辺として氏族社会的な未開性があったからこそ民主主義を生み出したのだし、中世封建制のゲルマンも専制化したローマの亜周辺としての未開性が自由と平等の近代社会の原動力となったのだ。本書では触れられていないが、中華帝国の亜周辺の日本のその辺縁から生まれた関東武士も似た位相にあるだろう。この歴史観はほぼ100%納得できる。

 だが、第4部「社会主義の科学」で熱っぽく論じられる交換様式Dは空回りしているように思える。マルクスの弟子達が作り上げた交換様式Bによる最兇最悪のアジア的専制国家に対し、交換様式Aを復活させようとするユートピア社会主義には限界がある。だから交換様式Dだというのだが、それはキリスト教などの世界宗教が根ざしているものだという説明は繰り返されるけれども、具体的なイメージは遂に最後まで与えられない。もし本書を読んでそれが理解できた人がいるなら教えて欲しい。

 率直に言って、人類は3つの交換様式の間で右往左往していくしかないのではないか。むしろ、この交換様式こそ絶対に最高最善と信じ込んで、その原理のみに基づいて社会を構築しようとしたときにこそ、我われは地獄を見るのではないか。共同性と権力性と市場性をほどほどに調合して騙し騙し運営していくことこそ、先祖が何回も地獄を見てきた我われ子孫の生きる知恵ではないのだろうか。

 

 

 

 

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コメント

柄谷先生は何時までこんな事やってるんでしょうか。
以前NAMと言うの組織したけど、分解したと聞いてますし。

柄谷先生が入れ込んでいるマルクスは実は理論は未完成。
左派、あるいは社会主義者としてもプルードン、ブランキ、バクーニンらと大喧嘩。
マルクスに入れ込む人は師匠のそう言う悪しき面は不思議と目に入らないようですね。
そして自分たちもマルクス師匠と同じことをするようになる(^^;

もっとも日本ではそう言う人を信奉する人たちの方が「左派」の正統と見なされてしまったために左派は肩身の狭い思いをしています。
これはやはりクリスチャンが少なくてキリスト教社会主義が根づかなったのが大きいのでしょうね。

この分野は全くの素人なので頓珍漢な意見かもしれません。

>彼が言う4つの交換様式のうち交換様式A(互酬:贈与と返礼)、交換様式B(略取と再分配:支配と保護)、交換様式C(商品交換:貨幣と商品)までは、
>問題は彼が4つ目の、そしてこれこそめざすべき理想像だといって提起する交換様式Dだ。
>原始的な交換様式Aの高次元での回復というモチーフはよく理解できる。
>具体的なイメージは遂に最後まで与えられない。

J.P.ホーガンというSF作家による 断絶への航海(Voyage from Yesteryear) という小説があります。1982年に発表され日本語訳は1984年に刊行されました。
その小説では、
21世紀初頭に太陽系の近くの恒星に人類が移住可能な惑星が発見され、ケイロンと名付けられたその惑星に開拓用設備と(移民として)1万人の遺伝子情報を搭載した移民船が送り出されました。
移民船により開拓されたケイロン星では
 Ⅰ.ケイロン人の人口(約10万人)に比べて土地や資源は豊富で、科学技術が発達し核融合炉や生産システムにより
  生活に必要なエネルギーや食糧、消費財は無料で供給される。単純な肉体労働はロボットが行う。
 Ⅱ.初代ケイロン人は遺伝子情報から合成されたため伝統(に基づく悪習や偏見)がなく教育は理性に基づき行われる。
という特徴があります。
Ⅰ.により生活に必要なエネルギーや物資に対価を払う必要がないので、生活のために働く必要はなく貨幣や財産に意味がありません。このためケイロン人は家柄や地位や財産ではなく本人の能力や行動によって評価されます。
小説の以下のセリフが印象に残っています。
「人間はなぜ指導者に従うのでしょう?
 力の集中を求めるからです。ではなぜ力の集中が必要か?それは、最終的には力が富を管理し、意思を他人に
 押し付けることができるからです。
 しかし既にほしいだけの富を手にし、他人に自分の意思を押し付けることなど教わったことがないから
 興味を持っていない、そういう億万長者の一族に指導者の必要があるでしょうか?
 ケイロン人にはそんなものは必要ない。また彼らには脅威を与える敵もいない。」
「ケイロンでは富はその人の能力なんです!気づきませんでしたか?彼らはよく働くし、やるときには全力を尽くす。
 そして常に向上に努めている。いいことであれば何をしようと問題じゃない。そしてみんながその価値を認める。
 あなたの言われた他人に認められること――それが彼らの通貨なんです……能力を認められることです」
交換様式B(略取と再分配)が必要なのは需要よりも供給が少ない場合だと思います。ケイロン星のように需要より供給が多い場合は略取や再分配(とその裏付けとなる権力)の必要性は少ないと思います。ケイロン星人のように他者の評価を得るために行為を行うのは、一般には交換様式A(互酬)ですが他者の評価を通貨と考えれば交換様式C(商品交換)だと思います。
現状では、ケイロン星のようなⅠ.やⅡ.が成り立つ社会というのはタイムマシンがある社会と同じくらい絵空事だと思います。しかし科学技術の進歩により生活に必要なエネルギーや物資のコストは下がっています。また教育も以前より理性的(リベラル)な内容になっています。その意味で我々の社会も少しずつケイロン人の社会に近づいているのかもしれません。

  柄谷 行人のかつての著作(「世界史の構造」ほか)について、塩川 伸明先生(ソ連・ロシア現代史)が書かれた読書ノートを発見したので、ご紹介させていただきます(www7b.biglobe.ne.jp/~shiokawa/books/Karatani.pdf)
  hamachan先生の書評と読み比べてみても面白そうです。
  それにしても、柄谷氏がバーグルエン哲学・文化賞を受賞されたとのニュースもあり、タイムリーな書評になりましたね。

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