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2022年12月 6日 (火)

生活保護と大学教育のレリバンス(再掲)

世の中に同じような問題が生じ、同じような話題が論じられると、昔書いたエントリがそのまま使えるということが繰り返されるわけですが、今回もまた、同じ議論に同じエントリを再掲する必要があるようです。

https://www.asahi.com/articles/ASQD563J6QCYUTFL016.html(大学生の生活保護、認めぬ方針継続 理由「一般世帯でもアルバイト」)

2022120500000059asahi0005view 生活保護を受けながら大学に進学することは認めない――。約60年前から続くこのルールを厚生労働省は見直さない方針を決めた。生活保護世帯の大学進学率が4割にとどまっている「貧困の連鎖」の一因とも指摘されるが、アルバイトで学費や生活費を賄う一般世帯の学生とのバランスなどにもとづく従来の考え方を踏襲するとしている。・・・ 

生活保護の見直しを検討する社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で近く、この方針を盛り込んだ報告書をとりまとめる。
 国のルールは原則、夜間をのぞいて生活保護をうけながら大学や短大、専門学校に通うことを認めていない。1963年に出された旧厚生省の通知が根拠だ。
 大学などに進学する場合は、生活保護の対象から外す「世帯分離」をすることを想定している。ただ、世帯を分けると、子ども自身はアルバイトなどで生活費などを賄う必要がある。その世帯も抜けた子どもの分の保護費が減額される。
 大学生に生活保護を認めない理由について、厚労省は一般世帯でも高校卒業後に就職する人や自分で学費を稼ぎながら大学に通う人もいて、大学進学を「最低生活保障の対象と認めるのは困難」としている。しかし、こうした国の考えには見直しを求める意見が繰り返し出されてきた。

ここに再掲するエントリは2017年にみわよしこさんの書かれた文章に触発されたものですが、そこで引用している拙著はもう13年前に出した『新しい労働社会』です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-6e86.html(生活保護と大学教育のレリバンス)

ダイヤモンドオンラインにみわよしこさんが「生活保護で大学に通うのは、いけないことなのか?」を書かれています。

http://diamond.jp/articles/-/135883

厚労省は、大学等(以下、大学)に進学する生活保護世帯の子どもたちに一時金を給付する方向で検討を開始している。金額や制度設計の詳細はいまだ明らかにされていないが、2018年度より実施されると見られている。

 現在、生活保護のもとで大学に進学することは、原則として認められていない。家族と同居しながらの大学進学は、家族と1つ屋根の下で暮らしながら、大学生の子どもだけを別世帯とする「世帯分離」の取り扱いによって、お目こぼし的に認められている。・・・

もちろん、これは生活保護制度のあり方の問題ですが、その背後にあるのは、大学教育をどういうものととらえているかという、日本人の意識の問題でもあります。

131039145988913400963実は、この問題は、今から8年前に出した『新しい労働社会』(岩波新書)で採り上げた問題でもあります。

教育は消費か投資か?

 後述の生活保護には生活扶助に加えてそのこどものための教育扶助という仕組みがあります。これは法制定以来存在していますが、その対象は義務教育に限られています。実は1949年の現行生活保護法制定の際、厚生省当局の原案では義務教育以外のものにも広げようとしていたのです。高校に進学することで有利な就職ができ、その結果他の世帯員を扶養することができるようになるという考え方だったのですが、政府部内で削除され、国会修正でも復活することはありませんでした。

 これは、当時の高校進学率がまだ半分にも達していなかったことを考えればやむを得なかったともいえますが、今日の状況下では義務教育だけで就職せよというのはかなり無理があります。実際、2004年12月の社会保障審議会福祉部会生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告は、高校への就学費用についても生活保護制度で対応することを求め、これを受けた厚生労働省は法律上対象が限定されている教育扶助ではなく、「生業に必要な技能の修得」を目的とする生業扶助として高校就学費用を認めることとしました。これは苦肉の策ともいえますが、考えてみると職業人として生きていくために必要な技能を身につけるという教育の本質を言い当てている面もあります。

 現在すでに大学進学率は生活保護法制定当時の高校進学率を超えています。大学に進学することで有利な就職ができ、その結果福祉への依存から脱却することができるという観点からすれば、その費用を職業人としての自立に向けた一種の投資と見なすことも可能であるはずです。これは生活保護だけの話ではなく、教育費を社会的に支える仕組み全体に関わる話です。ただ、そのように見なすためには、大学教育自体の職業的レリバンスが高まる必要があります。現実の大学教育は、その大学で身につけた職業能力が役に立つから学生の就職に有利なのか、それとも大学入試という素材の選抜機能がもっぱら信頼されているがゆえに学生の就職に有利なのか、疑わしいところがあります。

 生活給制度の下でこどもに大学教育まで受けさせられるような高賃金が保障されていたことが、その大学教育の内容を必ずしも元を取らなくてもよい消費財的性格の強いものにしてしまった面もあります。親の生活給がこどもの教育の職業的レリバンスを希薄化させる一因になっていたわけです。そうすると、そんな私的な消費財に過ぎない大学教育の費用を公的に負担するいわれはないということになり、一種の悪循環に陥ってしまいます。

 今後、教育を人的公共投資と見なしてその費用負担を社会的に支えていこうとするならば、とりわけ大学教育の内容については大きな転換が求められることになるでしょう。すなわち、卒業生が大学で身につけた職業能力によって評価されるような実学が中心にならざるを得ず、それは特に文科系学部において、大学教師の労働市場に大きな影響を与えることになります。ただですら「高学歴ワーキングプア」が取りざたされる時に、これはなかなか難しい課題です。

で、実はこの本に対してとりわけ大学アカデミズムの方々から寄せられた最大の批判は、まさにこの最後の大学教育を職業的に役立つものにすべきという部分であったことを考えると、大学教育を正々堂々と生活保護上の生業扶助として給付するということに対する最大の障壁は、大学というのはそんな下賤なものじゃないと声高に叫ぶ方々なのかも知れないな、と改めて痛感するところでもあります。

大学教育が年功賃金でまかなえるような、「必ずしも元を取らなくてもよい消費財的性格の強いもの」であると、多くの国民から認識され続ける限り、そんな贅沢品を生活保護で暮らしているような連中にまで与える必要はない、と認識され続けることになるのでしょう。

教育と労働と福祉はかくも密接に絡み合っているのです。大学人の主観的認識はいかにあれども。

 

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コメント

> 大学というのはそんな下賤なものじゃないと声高に叫ぶ方々

大学は実学か、学術かのいずれかに決める必要はなく、
様々にある大学教育の「個々の実学の程度」に応じて、
公的に支援をすれば良いのに、と思うのですけどもね。

> 今後数年で男女の教育格差はさらに広がり、1人の男性が学位を取得する間に、2人の女性が学位を取得する
> 名門大学は学生数を増やすのではなく、贅沢な体験を提供することに重きを置いている
https://www.businessinsider.jp/post-243085

素人の疑問ですが

>国のルールは原則、夜間をのぞいて生活保護をうけながら大学や短大、専門学校に通うことを認めていない。

大学だけでなく専門学校への進学も認められていないのでしょうか?
大学の教育を「必ずしも元を取らなくてもよい消費財的性格の強い」贅沢品だと思う人はいても専門学校の教育もそのような贅沢品だと思う人は少ないと思います。
大学でも夜間であれば進学も認められるのでしょうか?
私は夜間の大学に関しては全く知識がありませんが、夜間の大学の教育は昼間の大学の教育のような「消費財的性格の強い」贅沢品ではなく職業的レリバンスが高いのでしょうか?


>大学に進学することで有利な就職ができ、その結果福祉への依存から脱却することができるという観点からすれば、その費用を職業人としての自立に向けた一種の投資と見なすことも可能であるはずです。これは生活保護だけの話ではなく、教育費を社会的に支える仕組み全体に関わる話です。

”教育費を社会的に支える仕組み”として奨学金という制度も存在します。
”能力があってもお金がない”人が進学できないと、”お金があっても能力がない”人が代わりに進学してしまうので社会にとってマイナスだと思います。奨学金というのは、このような状況をなくし ”能力があってもお金がない”人が進学できるようにする仕組みだと思います。奨学金の制度がちゃんとしていれば、生活保護世帯だけでなくそれに近い世帯(住民税非課税世帯等)からの進学者についても対応できると思います。
生活保護世帯の大学進学に関しては、”そういう事は奨学金で対応してくれ” と思っている生活保護の担当者もいるかもしれません。


>家族と同居しながらの大学進学は、家族と1つ屋根の下で暮らしながら、大学生の子どもだけを別世帯とする「世帯分離」の取り扱いによって、お目こぼし的に認められている。

生活保護世帯の子供が進学した場合に「世帯分離」として扱う事は、それほど問題とされるべき事でしょうか?
素人考えですが、生活保護世帯の子供が(家族を援助できる程ではないが)収入を得て独立した場合に、それを「世帯分離」として取り扱う事はおかしな事とは思いません。
以前は学生に食と住を安価に提供する寮というものがありました(今もある?)。生活保護世帯の子供が奨学金を得て寮に入って進学する場合は、「世帯分離」として取り扱う事はおかしな事とは思いません。家族と同居しながら進学した場合もお目こぼし的に「世帯分離」とする事はそれほど問題でしょうか


>その世帯も抜けた子どもの分の保護費が減額される。

家族と同居しながら進学した場合に寮の費用に相当する額を家に入れる事は(厳密には奨学金の趣旨に反するかもしれませんが)お目こぼし的に認められると思います。世帯分離による生活保護費の減額は(子供が家に入れる)寮の費用よりも多いのでしょうか?

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