日本的文脈の「ホワイト企業」が「成長できない」になる理由
日経新聞の「職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望」なる記事が一部で話題のようですが、
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2865W0Y2A121C2000000/
「職場がホワイトすぎて辞めたい」と仕事の「ゆるさ」に失望し、離職する若手社会人が増えている。長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたほか、新型コロナウイルス禍で若手に課される仕事の負荷が低下。転職も視野に入れる彼らには成長の機会が奪われていると感じられ、貴重な人材に「配慮」してきた企業との間で食い違いが起きている。
そもそも、「長時間労働やハラスメントがない」ことが「若者が成長できない」になるということは、裏返していうと、「長時間労働やハラスメント」こそが「若者を成長させる」ということになるわけですが、それこそが私がメンバーシップ型と呼ぶところの日本型雇用システムの特徴であるということを書いたのが、(日経新聞の「ジョブ型」が嘘八百であるということだけではなく)『ジョブ型雇用社会とは何か』だったのですけど、そこの所にはあまり認識が行かないみたいです。
日本以外のジョブ型社会であれば、話は極めて単純。仕事に人をはめ込むのだから、その仕事をできる人を採用してその仕事をさせるわけで、ゆるい仕事にはそれにふさわしい人が応募してはめ込まれるだけだし、ハードな仕事にはそれにふさわしいと思っている人が応募して頑張るだけ。
ところが日本では、何もできない素人を採用して、上司や先輩がびしばし鍛え上げて一人前にしていくのがデフォルトだから、上司や先輩にぼかぼかに叩かれないことが、成長させてもらえないという不利益になってしまう。
これはあちこちで繰り返し喋っていることですが、ハラスメントについて議論すると、日本以外ではほぼ絶対に出てこないテーマが日本では必ず毎回最も重要な話題になる。それは、「ハラスメントと教育訓練は何処で線引きしたらいいのですか?」というものだが、この問い自体が、日本以外ではセクハラと業務命令は何処で線引きできるのかというのと同じくらい異様な質問。
日本の職場が学校、あるいはむしろ「部活」に近い世界となったことが、こういう事態の原因にあるわけだけど、そこにはなかなか思いが至らないようです。
ハラスメントは世界共通の問題だが
さて、過労自殺問題をクローズアップさせた二つの電通事件がいずれもいじめ、パワハラによる自殺であったことは、これが日本型雇用システムと密接な関係にあることを暗示します。もちろん、職場におけるいじめ、ハラスメントは世界共通の現象です。だからこそ2019年には、ILOで仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃条約(190号)が採択されたのです。しかしながら、近年のハラスメントに関する議論を細かく見ていくと、他国では見たことのないある議論が、日本では最も盛んに論じられていることが分かります。それは、「教育訓練とハラスメントの境界線をどう考えればいいのか」という上司サイドからの疑問です。
日本以外では、ハラスメントは暴力と並べられていることからも分かるように、本来職場であってはならない現象です。あってはならないといいながら、そんじょそこらの人間同士が寄り集まって作るのが職場という社会であるために、いじめやハラスメントや暴力行為がしょっちゅう起こるので、それに対処しなければならないわけです。もちろん、日本でも特に中小零細企業の個別労使紛争の実態を見れば、その手の事案も山のようにあります。あるいは、大企業でも非正規労働者を見下す正社員による悪質ないじめも少なくありません。これらはまさにいじめるためのいじめです。学校の生徒同士のいじめと似たようなものです。日本特有の善意のパワハラ
しかし、日本のまともな大企業で、上司や先輩から若い正社員相手に発生するハラスメント事案の多くは、性格がいささか異なります。少なくとも上司や先輩は、いじめのためのいじめをしているつもりはさらさらなく、その若手社員の成長のために、教育訓練の一環として厳しい対応をしてあげているつもりであることが多いからです。決して悪意ではなく、むしろ善意にあふれているのです。若いうちは厳しく叩いてこそ大きく成長するのだと、自分もそのように会社に育ててもらった上司たちは考えているので、自分も同じように鬼軍曹として鍛えてあげようと思ってやり過ぎると、相手がポキッと折れてしまうケースが多いわけです。
問題は、なぜ上司や先輩が若手社員を鍛えるものだとみんな思っているのかという点です。それは、相手が何もできない何も分からない素人だから、少々手荒にでも鍛えてあげないと使い物にならないからです。なぜそんな鍛えないといけないような素人をわざわざ使うのですか?と、ジョブ型社会の人であれば聞くでしょう。ちゃんと資格を持ち、その仕事ができると確認した人を雇えば、そんな無駄なことをしなくてもいいのに、と。そう、ここに、ジョブ型社会とメンバーシップ型社会を隔てる深くて暗い断絶の川が流れているのです。
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コメント
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> 部下2人に能力を超える業務を指示・命令するパワハラをして体調を悪化させたとして、18日付で減給処分を受けた。
「能力を超える業務」って何でしょう
「契約外の業務」を命令したのなら、アウトだけれど
投稿: reiko-han | 2023年8月19日 (土) 03時28分
> ハラスメントについて議論すると、日本以外ではほぼ絶対に出てこないテーマが日本では必ず毎回最も重要な話題になる。それは、「ハラスメントと教育訓練は何処で線引きしたらいいのですか?」というものだが、この問い自体が、日本以外ではセクハラと業務命令は何処で線引きできるのかというのと同じくらい異様な質問。日本の職場が学校、あるいはむしろ「部活」に近い世界となったことが、こういう事態の原因にあるわけだけど、そこにはなかなか思いが至らないようです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/12/post-1b8327.html
> 映画監督の「俳優ワークショップ」がハラスメントの温床になる残念な理由
> アクティングコーチをまず講師の候補に挙げてほしい。そうすることで、ワークショップをキャスティングの期待感から一旦切り離し権力勾配につけ込んだ加害行為を抑止できるうえに、より実践的、具体的な授業内容が期待できるようになる。
> 最悪なのはオーディションでもないはずの場で「気に入られればキャスティングされるかも」という空気感を運営や監督、プロデューサーが意図的に醸し出すことである。
https://diamond.jp/articles/-/358476
> 女性アナウンサーが広告代理店やスポンサーらとの会食に同席することについて「間違ったことだと思っていない」と述べた上で、「人脈を作り知識を得る良い機会になるという期待もある。あるべき形で楽しい会食になるよう、同行する人間が考えなければいけない」と強調した。
https://www.sankei.com/article/20250217-RTXK4LKBMRM4JAD4CUXUMWOZ2E/
ジョブ型は職業能力の評価(ディプロマ)と登用を一旦、分離しているから
対価型セクハラを含むパワハラを適正な業務命令から分離することが可能。
日本の芸能界は、メンバーシップ型の最たるものである。芸能界に限らず、
日本の企業で就活セクハラがお盛んなのも、同様の事情でしょう。
そう言えば、つい最近、フジテレビの社長を辞任した方は制作部時代に部活
ノリで視聴者に受けた(視聴率を叩き出した)人ですね。
投稿: わて | 2025年3月 3日 (月) 10時06分
> セクハラを中心とするハラスメントに寛容な企業体質
> 有力な取引先と良好な関係を築くための『性別・年齢・容姿などに着目して呼ばれる会合』というあしき慣習
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250401/k10014766501000.html
性別・年齢・容姿などに着目ということについては、「出演」というメインの業務において、そうである。一方で、メンバーシップ雇用であるが故に「出演」と「接待」が業務の範囲内であるか、について切り分けられていない。とすれば、何が悪しき習慣なのか、明確でないでしょう。
通常の業態であれば、「年齢は別として、性別・容姿に着目は通常はしないことであり、それをしたのが悪い」という論を立てることは可能ですが。立論の問題は別として、実際の対策としては、局アナはメンバーシップ雇用しない、ということでしょうか。
投稿: ichi | 2025年4月 1日 (火) 12時00分
> あってはならないといいながら、そんじょそこらの人間同士が寄り集まって作るのが職場という社会であるために、いじめやハラスメントや暴力行為がしょっちゅう起こるので、それに対処しなければならないわけです。
ハラスメントという言葉には、あってはならない狭義のハラスメントだけでなく
就業環境の悪化を招くために、可能であれば、適当な調整を行うことが望ましい
広義のハラスメントが多く含まれる、と思います。女性に性暴力を働いたと広く
『噂』になっている者が同じ職場で就業していることは女性従業員の就業環境の
悪化を招くことは明らかですが、そのような就業環境の悪化はあってはならない
ことではないように思いますが、もしもあってはならないと考えるのであれば、
「噂をした人物による犯罪行為」であるということも大いにあり得るでしょう。
> 女性が多い職場において、男性従業員が、過去に性犯罪歴があったことが分かれば、これは女性従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすことは明らかです。
https://www.e-shacho.net/mondai/chokai_06.htm
> 第三者委員会の問題は、多くの人(たとえば会社員)にとっても他人事ではない。警察でも裁判所でもない組織が、急にあなたを犯罪者のように扱ってくる可能性がある。
https://x.com/poe1985/status/1929860494632128841
> 過去数年にわたって一人の女性研究者(このレターの差出人の一人である北村紗衣)に中傷を続けていたこと、また他の多くの女性への中傷を含む性差別的な発言を続けていたことが明るみに出たことでした。
> 同じ場では仕事をしない、というさらに積極的な選択もありうるかもしれません。何らかの形で「距離を取る」ことを多くの人が表明し実践することで、公的空間において個人を中傷したり差別的言動をおこなったりすれば強い非難の対象となり社会的責任を問われるという、当たり前のことを思い出さなければなりません。
https://note.com/kambara7/n/n5d73b7f453d0
投稿: 勝利和解 | 2025年6月 5日 (木) 13時16分
専門家と称するフェミニストが「中居どころか、福山でさえ、50代のおっさんは恋愛対象にならないんだから、性を連想させるような振る舞いはしてはいけない」と主張し始めているようですが、福山の下ネタを聞かされて、不快だったというのは過去の事案なんだよね。不快な人は参加しなくていいようにすべき、無限定性が邪魔をしているという話をフェミニストたちは全力回避したいようですね。私、今は何もできないけど、様々な(無限定な)人から脚光を浴びるための成長の機会を他の女子アナと同様に下さい。ああ、そうですか。因みに、ハリウッドの俳優は本国のCMには出演をしないようですね。
> 高校普通科改革政策とは、「特定の職業しかできない方向への醒めた大人の自己限定」の強制であり「幼児的全能感を特定の職業分野に限定するという暴力的行為」であり、それゆえにこそ「何にでもなれるはずだという幼児的全能感を膨らませておいて、いざそこを出たら、「お前は何にも出来ない無能者だ」という世間の現実に直面させるという残酷」さを回避するために必要な残酷さであるということです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-89cd.html
投稿: togo | 2025年8月22日 (金) 07時57分