フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 百万回説きに説いても全く通じていない世のインチキ商売「じょぶがた」の根強さ | トップページ | 労働組合が賃上げできないのはイデオロギーのせい? »

2022年12月20日 (火)

日本的文脈の「ホワイト企業」が「成長できない」になる理由

日経新聞の「職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望」なる記事が一部で話題のようですが、

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2865W0Y2A121C2000000/

「職場がホワイトすぎて辞めたい」と仕事の「ゆるさ」に失望し、離職する若手社会人が増えている。長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたほか、新型コロナウイルス禍で若手に課される仕事の負荷が低下。転職も視野に入れる彼らには成長の機会が奪われていると感じられ、貴重な人材に「配慮」してきた企業との間で食い違いが起きている。 

そもそも、「長時間労働やハラスメントがない」ことが「若者が成長できない」になるということは、裏返していうと、「長時間労働やハラスメント」こそが「若者を成長させる」ということになるわけですが、それこそが私がメンバーシップ型と呼ぶところの日本型雇用システムの特徴であるということを書いたのが、(日経新聞の「ジョブ型」が嘘八百であるということだけではなく)『ジョブ型雇用社会とは何か』だったのですけど、そこの所にはあまり認識が行かないみたいです。

日本以外のジョブ型社会であれば、話は極めて単純。仕事に人をはめ込むのだから、その仕事をできる人を採用してその仕事をさせるわけで、ゆるい仕事にはそれにふさわしい人が応募してはめ込まれるだけだし、ハードな仕事にはそれにふさわしいと思っている人が応募して頑張るだけ。

ところが日本では、何もできない素人を採用して、上司や先輩がびしばし鍛え上げて一人前にしていくのがデフォルトだから、上司や先輩にぼかぼかに叩かれないことが、成長させてもらえないという不利益になってしまう。

これはあちこちで繰り返し喋っていることですが、ハラスメントについて議論すると、日本以外ではほぼ絶対に出てこないテーマが日本では必ず毎回最も重要な話題になる。それは、「ハラスメントと教育訓練は何処で線引きしたらいいのですか?」というものだが、この問い自体が、日本以外ではセクハラと業務命令は何処で線引きできるのかというのと同じくらい異様な質問。

日本の職場が学校、あるいはむしろ「部活」に近い世界となったことが、こういう事態の原因にあるわけだけど、そこにはなかなか思いが至らないようです。

71cahqvlel_20221220232901  2 メンバーシップ型はパワハラの培養土

ハラスメントは世界共通の問題だが
 さて、過労自殺問題をクローズアップさせた二つの電通事件がいずれもいじめ、パワハラによる自殺であったことは、これが日本型雇用システムと密接な関係にあることを暗示します。もちろん、職場におけるいじめ、ハラスメントは世界共通の現象です。だからこそ2019年には、ILOで仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃条約(190号)が採択されたのです。しかしながら、近年のハラスメントに関する議論を細かく見ていくと、他国では見たことのないある議論が、日本では最も盛んに論じられていることが分かります。それは、「教育訓練とハラスメントの境界線をどう考えればいいのか」という上司サイドからの疑問です。
 日本以外では、ハラスメントは暴力と並べられていることからも分かるように、本来職場であってはならない現象です。あってはならないといいながら、そんじょそこらの人間同士が寄り集まって作るのが職場という社会であるために、いじめやハラスメントや暴力行為がしょっちゅう起こるので、それに対処しなければならないわけです。もちろん、日本でも特に中小零細企業の個別労使紛争の実態を見れば、その手の事案も山のようにあります。あるいは、大企業でも非正規労働者を見下す正社員による悪質ないじめも少なくありません。これらはまさにいじめるためのいじめです。学校の生徒同士のいじめと似たようなものです。

日本特有の善意のパワハラ
 しかし、日本のまともな大企業で、上司や先輩から若い正社員相手に発生するハラスメント事案の多くは、性格がいささか異なります。少なくとも上司や先輩は、いじめのためのいじめをしているつもりはさらさらなく、その若手社員の成長のために、教育訓練の一環として厳しい対応をしてあげているつもりであることが多いからです。決して悪意ではなく、むしろ善意にあふれているのです。若いうちは厳しく叩いてこそ大きく成長するのだと、自分もそのように会社に育ててもらった上司たちは考えているので、自分も同じように鬼軍曹として鍛えてあげようと思ってやり過ぎると、相手がポキッと折れてしまうケースが多いわけです。
 問題は、なぜ上司や先輩が若手社員を鍛えるものだとみんな思っているのかという点です。それは、相手が何もできない何も分からない素人だから、少々手荒にでも鍛えてあげないと使い物にならないからです。なぜそんな鍛えないといけないような素人をわざわざ使うのですか?と、ジョブ型社会の人であれば聞くでしょう。ちゃんと資格を持ち、その仕事ができると確認した人を雇えば、そんな無駄なことをしなくてもいいのに、と。そう、ここに、ジョブ型社会とメンバーシップ型社会を隔てる深くて暗い断絶の川が流れているのです。

« 百万回説きに説いても全く通じていない世のインチキ商売「じょぶがた」の根強さ | トップページ | 労働組合が賃上げできないのはイデオロギーのせい? »

コメント

> 部下2人に能力を超える業務を指示・命令するパワハラをして体調を悪化させたとして、18日付で減給処分を受けた。

「能力を超える業務」って何でしょう
「契約外の業務」を命令したのなら、アウトだけれど

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 百万回説きに説いても全く通じていない世のインチキ商売「じょぶがた」の根強さ | トップページ | 労働組合が賃上げできないのはイデオロギーのせい? »