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2022年11月 4日 (金)

キャスリーン・セーレン『制度はいかに進化するか-技能形成の比較政治経済学』

07283x400 労働新聞』の書評コラム、今回はキャスリーン・セーレン『制度はいかに進化するか-技能形成の比較政治経済学』(大空社出版)です。

https://www.rodo.co.jp/column/139037/

 著者はいわゆる「資本主義の多様性」学派に属する政治学者だが、本書は技能形成という切り口から英米独日という4か国の資本主義の違いを浮き彫りにするもので、労働研究者にとっても大変興味深い内容だ。
 産業革命の先頭走者であるイギリスでは、中世のギルドが崩壊した後を埋めたのは熟練職人たちの職種別組合(クラフト・ユニオン)で、徒弟制に基づく供給規制で労働市場をコントロールすることがその戦略だったことはウェッブ夫妻が描いた通り(拙著『働き方改革の世界史』参照)。それゆえ経営者は組合と対決して自由な決定権を取り戻すことが目標となったが、両者の対決のはざまで職場は混乱に陥り、どちらも得をしない低技能均衡の道を歩んでいく。
 ところが後発国のドイツでは、ギルドは生き残っただけではなく、保守的な帝国政府の支援で、イヌンクと呼ばれる手工業者団体が徒弟の技能認証権を独占した。これは、拡大しつつあった社会主義者を抑圧する保守的政策の一環で、決して労働者のためのものではなかったのだが、その後の歴史の荒波にもまれる中で、社会的市場経済の基軸となっていく。まず、手工業会議所による技能認証権の独占に不満を持ったのは大企業で、自社で養成した労働者にも資格を与えようとするが、手工業者は断固として拒否する。そのはざまで新興の労働組合は、企業内訓練に組合が関与するという方向を目指していく。それがワイマール時代の構図だが、歴史は単純に進まない。ナチス政権は労働組合を殲滅し、全体主義的なドイツ労働戦線を樹立するが、これが全ての若者に訓練の権利を保障し、企業に訓練を義務付け、手工業会議所の独占的地位を奪った。敗戦でそれが崩壊した後、占領下で再構築された訓練制度は、手工業者のギルド的独占でもなく、大企業のメンバーシップ型養成でもなく、産業レベルの労使協調に基づき、企業内のOJTで企業を超えた横断的技能を養成するデュアルシステムになっていた。もともと誰かがそうしようと図ったわけではないのに、様々なアクターのせめぎ合いと歴史のいたずらの結果、今日OECDから世界が見習うべきモデルと賞賛されるドイツ型訓練制度が出来てしまったというわけだ。
 この英独対比を軸に、それぞれの亜流としてのアメリカと日本の独自の「進化」が描かれる。ギルドの伝統を欠くアメリカでは、イギリス流の熟練労働者の組合運動は弱く、企業主導の反組合的な福祉資本主義が席巻するが、それを逆手にとった産業別組合運動が企業が構築した職務をよりどころにしたジョブ・コントロール・ユニオニズムを確立する。一方政府主導の産業化を進めた日本では、当初強力だった親方職人の影響力を遮断し、企業主導で子飼いの職工を養成する道を歩んでいくが、そのパターナリズムに乗っかる形で企業別組合が発展していく。四者四様のアラベスクだ、
このように、「制度はいかに進化するか」というタイトルは、文字通り制度が元の創設者の意図を超えて生き物の如く「進化」していくものだという認識を表している。そう、本書が描く技能形成制度だけではない。世の様々な制度はみな、良きにつけ悪しきにつけ、「そんなはずじゃなかったのにいろんな経緯でそうなってしまった」ものなのだ。

 

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