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2022年11月

2022年11月30日 (水)

宮台真司氏の奇妙な議論たち

東京都立大学の社会学者である宮台真司氏が正体不明の男に襲撃され大怪我を負ったとのことです。断じて許されない事件であり、宮台氏の一刻も早い回復を心よりお祈り申し上げます。

と同時に、せっかくの機会ですので、本ブログでこれまで宮台氏の議論を取り上げて批評してきたエントリを拾い上げておきたいと思います。色々と批判的なことを言っておりますが、いうまでもなく宮台氏個人に対する攻撃を如何なる意味でも正当化するものではありません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_b921.html(非社会性?)

宮台真司氏が「公共機関のために準備中の文章」の中で、イギリスやEUの社会的排除/社会的包摂について論じているのですが、

http://www.miyadai.com/index.php?itemid=652

イギリスやEUの政策動向については、おおむね正しい情報を得ていると見えて、変なことは書いていないのですが、(たとえば:

>我が国では「自立」できない若者への「自立支援」という問題の立て方が専らだが、「ニート」という言葉を生み出した英国では、「個人の不全」personal imperfectionの問題より「社会の不全」social imperfectionの問題として議論され、各国の政策に大きな影響を与えてきた。

>かくして報告書は、悪循環を解消するには社会的包摂social inclusionの回復こそが必要だと結論づける。一口でいえば、「個人に問題が生じているので政治や行政が個人を支援せよ」ではなく、「個人に問題が生じているのは、社会的包摂が失われているのが原因だから、社会が包摂性を回復できるように政治や行政が支援せよ」という図式なのである。

>日本でニート概念が誤解され、「社会の問題」というより「若者の問題」として理解された背景に、二つの要因を指摘できよう。第一は、日本においてはニート問題が議論される直前まで、フリーター問題がいわば「怠業批判」として議論されていたこと。

その宮台氏が、紹介を超えて自分の言葉で語り始めると、こういうあらぬ方向に漂い出します。

>我が国でも若者が社会性を失う現象--非社会性--が名指され、社会問題になっている。

>英国の社会的排除局が着目した「ニート」も含めて、「従来の社会システムが明に暗に前提としてきた社会性を、社会成員が持っていない事態」を、「非社会性」non-socialityという言葉で指し示すことにしよう。加えて、社会成員がそうした状態に立ちいたる過程を、「脱社会化」de-socializationという言葉で指し示すことにしよう。

はあ?非社会性?なんでそういう俗流社会学ふうの方向に行っちゃうの?

どうも、「エクスクルージョン」とか「インクルージョン」という言葉を、素直に社会政策をやってる人間のように解釈するんじゃなくて、気の利いた風な言葉をちりばめた今様迷宮社会学風に解釈してしまっているからじゃないかと思われるんですが。

これこそまさに、「社会」を問題にすべき地点で「個人」を問題にするという、一番駄目な議論そのものじゃないですかね。

もちろん、宮台真司氏という社会政策とは何の関係もない社会学者がそういうことをお喋りになること自体は全くご自由ではありますが、この文章の悪質さは、イギリスやEUの(そういう俗流社会学とは何の関係もない)社会政策としてのエクスクルージョン、インクルージョンという議論を、そういうやくたいもない議論の一種であるかのように見せてしまうという点にあると思います。

ヨーロッパで社会政策の文脈で論じられている社会的排除とは、いかなる意味でも「社会システムが前提とする社会性を社会成員が持たないという非社会的な事態」などとは関係ありませんから。

やや詳しめの紹介は:

http://homepage3.nifty.com/hamachan/exclusion.html(EUにおける貧困と社会的排除への取組み )

この中で引用している社会政策グリーンペーパーのこの一節が簡にして要を得ています。

>貧困は昔からある現象であるが、ここ15年間、社会的排除という構造的問題が注目されている、問題は単に社会の上層と下層の不均等にあるのではなく、社会の中に居場所のある者と社会からのけ者にされてしまった者との間にあるのだ。社会的排除は単に所得が不十分だということではない。職業生活への参加ということだけでもない。それは住宅や教育、医療、サービスへのアクセスといった分野で顕著である。単なる不平等ではなく、分断された社会という危険を示唆しているのである。排除された者の怨恨は暴力や麻薬、ひいては人種差別主義や政治的過激派の温床となる。所得維持はもはや社会政策の唯一の目的ではない。社会政策は人々が社会の中に居場所を見出せるよう援助するというもっと野心的な目的を追求しなければならない。その主たるルートは(もちろんただ一つのルートではないが)報酬のある仕事である。そしてそれがゆえに雇用政策と社会政策はもっと密接に連携しなければならない

 

 

 

2022年11月29日 (火)

職業安定法は偽装求人を禁止するようになった

9_20221129160501 こういうニュースが話題を呼んでいますが

https://mainichi.jp/articles/20221128/k00/00m/040/179000c(求人サイトより月給10万円減 洋菓子のマダムシンコに支払い命令)

インターネットの求人サイトに掲載された待遇よりも実際の月給が10万円以上少なかったとして、人気洋菓子店「マダムシンコ」の従業員だった男性(46)が、運営会社に未払い賃金約200万円の支給を求めた労働審判で、大阪地裁が約90万円の支払いを命じた。命令は25日付。男性が毎日新聞の取材に明らかにした。・・・ 

この記事でおもしろいのは、会社側の言い分がこうだったことです。

一方、運営会社側は答弁書で、求人サイトの広告が実態と異なっていたことを認めたうえで、「インディードの広告は閲覧者を増やすためで、給与額を高く表示しただけに過ぎない」と反論。「雇用契約の労働条件にあたらない」として争う姿勢を示していた。

これ、実はホンの数年前まではそれなりに通用しないわけでもない理屈だったんですね。労働基準法は労働条件明示義務を課しているけれど求人広告の中身は関係ない。

一方、職業安定法は長らく職業紹介事業などの労働市場仲介事業者を猜疑心で見てあれこれ規制するけど、求人者、募集企業自体の求人内容は手がつけられていなかったのです。閲覧者を増やすため給与額を高く表示しただけ、とうそぶいても許される状態でした。

こういう問題が大きく取り上げられるようになったのはほぼここ十年ばかりのことで、はじめに青少年雇用促進法の審議の中で取り上げられ、その後2017年改正で求人情報規制の考え方が導入され、今年10月に施行されたばかりの2022年の職業安定法改正により、求人情報に対する包括的な規制が盛り込まれるに至ったのです。

(求人等に関する情報の的確な表示)
第五条の四 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(以下この条において「広告等」という。)により求人若しくは労働者の募集に関する情報又は求職者若しくは労働者になろうとする者に関する情報その他厚生労働省令で定める情報(第三項において「求人等に関する情報」という。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。
 労働者の募集を行う者及び募集受託者は、この法律に基づく業務に関して広告等により労働者の募集に関する情報その他厚生労働省令で定める情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。
 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して広告等により求人等に関する情報を提供するときは、厚生労働省令で定めるところにより正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならない。
この記事の背後には、事業規制法から情報社会立法に大きく変貌した職業安定法の姿も映し出されているのです。

 

2022年11月24日 (木)

家政婦は女中に非ず・・・のはずが・・・@『労基旬報』2022年11月25日号

『労基旬報』2022年11月25日号に「家政婦は女中に非ず・・・のはずが・・・」を寄稿しました。

 去る9月29日、東京地裁はある判決を下しました。訴訟類型は遺族補償給付等不支給処分取消請求事件。よくある労災認定訴訟ですが、普通と違っていたのは、死んだ原告の妻が家政婦だったということでした。当日の東京新聞の記事を引用しますと:
 家事代行の長時間労働の末に亡くなった女性=当時(68)=が過労死だったとして、労災を認めなかった国の処分取り消しを女性の夫(75)が求めていた訴訟の判決で、東京地裁(片野正樹裁判長)は29日、請求を棄却した。労働基準法は家事労働者に適用しないと同法が規定しており、女性が家事をしていた時間は、過重労働かを判断する上での労働時間の算定から省いた。家事サービスのニーズが増える中、多くの担い手が法で守られない状況が放置される。
 労基法は家事労働者には「適用しない」と明記。労働時間の上限規制や死亡時補償などの対象外になっている。ただ、厚生労働省は業者に雇われて家庭に派遣されている場合は対象になるとの通達を出している。
 女性は2015年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋あっせんで、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束され、1週間働いた後に急死した。地裁は女性が働いた時間のうち、介護業務は同社に雇われ派遣されて担ったが、家事については家庭との直接契約になっていたと判断。待機時間などを含む1日19時間の業務中、労働時間は家事の時間を算入せず介護業務の4時間30分のみとして、「過重業務していたとは認められない」と結論付けた。
 原告側は裁判で「家事労働者が労基法で守られないのは憲法の『法の下の平等』に反する」として、労基法の規定自体が憲法違反に当たるとも主張したが、地裁は判断を示さなかった。
 原告の夫の代理人の明石順平弁護士は「長時間働いた実態を見ず形式的に介護の時間だけを労災対象と判断した」と批判。夫は「高齢者のため献身的に働いた妻を労働者と認めてほしかった。これからも闘う」として控訴の考えを示した。
 同紙は翌日もこの問題を追及しています。
 長時間の家事労働の末に亡くなった高齢女性について、東京地裁は労災認定をしなかった国の決定を容認し、女性は過労死と認められなかった。全ての労働者を保護するはずの労働基準法の例外規定が、厚い壁となって立ちはだかる。国は問題の放置を続け、現場の働き手から改善を求めて切実な声が高まっている。
 同紙を始めとして、多くの人々はみな、この問題を労基法116条2項の適用除外規定の是非の問題だととらえています。その問題が重要であるのはその通りで、労基法制定時にもその是非が問題になりましたし、1993年5月の労基法研究会報告「今後の労働契約法制等のあり方について」でも、次のようにその見直しが提起されていました。
・・・これについては、近年発展してきたシルバーサービス産業に雇用されるホームヘルパーなど家庭における介護業務を企業が請け負い、その企業に雇用される労働者が家庭において就労する場合については労働基準法の適用があることとの関係等から、現状において、家事使用人であることを理由として、労働条件の基本法である労働基準法を全体として適用除外とするまでの特別の理由は乏しくなってきたと考えられる。・・・労働基準法の適用除外はできる限り少ないことが望ましいことから、家事使用人についての適用除外の規定は廃止することが適当である。その際、就業の場所が家庭であることを踏まえた履行確保のあり方及び家事使用人に係る労働時間に特例を設けることの是非について検討すべきである。
 今後この問題が議論される際にも、それは専らこうした文脈で議論されることになるのでしょう。もちろんそれは間違っているわけではありませんが、実はこの問題には、圧倒的に多くの人々の視野からこぼれ落ちているある側面があるのです。それは、本件のような、家政婦紹介所から紹介されて個人家庭で就労している家政婦というものは、そもそも労働基準法が適用除外している「家事使用人」に該当するのか?という根本問題です。
 意外に思われるかもしれませんが、この適用除外規定がもともと念頭に置いていた「女中」タイプの家事労働者と、今回の方のような「家政婦」タイプの家事労働者とは、もちろんやっている作業自体はほとんど共通ではあるものの、その法的性格は明確に違っており、実は労働基準法は家政婦に対してまで適用除外しようとはしていなかったのではないかと考えられるのです。
 労働基準法の制定過程については詳細に明らかになっていますが、今の家事使用人の適用除外規定の原型は、一番最初の第1次案に既に現れています。ただし、その表現はだいぶ違いました。
第1次案:本法は左の各号の一に該当する事業にして同一の家に属せざる者を使用するものにこれを適用する。
第1次案修正:ただし同一の家に属する者のみを使用する事業についてはこの限りに非ず。
 表から書くか裏から書くかの違いはあれ、要するに「同一の家に属する者」であるかどうかで線引きしようとしていました。この時代にはまだ、住み込みの女中といわれる人々が結構いましたが、彼女らはまさにこの意味での「同一の家に属する者」でした。前近代には下男、下女と呼ばれていたそういう人々と、血縁関係のある家族を一緒にしたカテゴリーが、この「同一の家に属する者」であったと考えられます。
 この用語法が変わるのは、第7次案からです。
第7次案(修正):ただし同居の家族のみを使用する事業及び家事使用人には適用しない。
 この流れから判断すると、それまでの「同一の家に属する者」が、「同居の家族」と「家事使用人」に分割されたと考えられます。それまで入っていなかった同一の家に属していないような他人が「家事使用人」としていきなり入り込んできたわけではないのです。
 この規定ぶりが制定当時の労働基準法第8条柱書に(「家族」が「親族」になりますが)ほぼその形で盛り込まれ、現在は附則に移行してそのまま生きているわけです。
 そして、この「家事使用人」という言葉が、一般家庭と直接雇用契約を締結してその指揮命令を受ける「家政婦」にも適用されるのは当たり前だという理解のもとで、今回の判決に至っているわけです。
 しかし、本当にそうなのか、労働基準法の第1次案から第6次案まで存在していた「同一の家に属する者」というカテゴリーに、女中は当然含まれるとして、家政婦は本当に含まれるのか、というのは、実は疑問の余地があるのです。
 なぜなら、労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがあったからです。
 労働基準法施行規則(厚生省令第二十三号)
第一条 労働基準法(以下法という)第八条第十七号の事業又は事務所は、次に掲げるものとする。
一 弁護士、弁理士、計理士、税務代理士、公証人、執行吏、司法書士、代書、代願及び獣医師の事業
二 派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業
三 法第八条第一号乃至第十五号の事業に該当しない法人又は団体の事業又は事務所
 派出婦というのは家政婦のことです。え?家政婦は適用除外される家事使用人じゃないのか?
 つまり、施行当時の労働基準法担当者は、自分らが作った条文に書かれている適用除外の「家事使用人」には、派出婦会から派出(=供給、派遣)されてくる家政婦は含まれていないと認識していたとしか考えられないのです。
 そして、それは労働基準法施行時点では何ら不思議なことではありませんでした。
 今から見れば終戦直後のどさくさで労働組合法やら労働基準法やら職業安定法やらが続々と作られたように見えますが、でもその間には時差があり、労働基準法が施行される直前までは戦前来の工場法が生きていたのであり、職業安定法が施行されるまでは戦前来の職業紹介法が生きていたのです。
 労働基準法の施行は1947年9月です。職業安定法の施行は1947年12月です。その間の3か月間は、労働基準法と職業紹介法が併存していました。つまり、職業紹介法に基づいて労務供給事業規則が存在し、許可を受けた労務供給事業は立派に合法的に存在していたのです。
 そして、1938年に制定された労務供給事業規則の別表1の所属労務者名簿の備考欄には、供給労務者の職種の例として、大工、職夫、人夫、沖仲仕、看護婦、家政婦、菓子職といったものが列挙されていたのです。
 そう、家政婦というのは、労務供給事業者である派出婦会に所属する労務者なのであって、派出される先の一般家庭に所属しているわけではないのです。似たような作業をしているからといって、女中と家政婦をごっちゃにしてはいけないのです。女中は働いている家庭の「同一の家に属する者」、つまり一般家庭に所属する者と認識されていたからこそ、労働基準法が適用除外されているのに対して、家政婦はあくまでも派出婦会から派遣されてきて家事労働に従事しているだけの「他人」なのであって、それゆえに、派出婦会から派遣されてくる家政婦は第8条柱書きの適用除外ではなく、各号列記の一番最後の第17号に基づく省令で定める事業として、立派に労働基準法の適用対象事業になっていたわけです。
 これは何ら問題のない法体系でした。1947年9月から同年11月までの3か月間は。
 ところが、1947年12月から職業安定法が施行され、GHQのコレットさんの強い主張により、弊害のあった労働ボス型の労務供給事業だけではなく、こういう派出婦会みたいなタイプのものも一律に禁止されてしまいました。そうすると、家政婦を使っていた家庭は大変困ってしまいます。
 これは実は職業安定法案を審議する第1回国会でも懸念されていたことでした。そもそも、8月15日の労働委員会で、米窪労働大臣の提案理由説明に続いて、上山顕職業安定局長が説明する中で、自分からこんなことを喋っています。
 次に第四十四條以下に勞働者供給事業について規定がございます。これはただいまの大臣の説明にもございましたように、いろいろ弊害を起しやすい仕事でございますので、原則的には全面的に禁止をいたしておるわけでございます。ただ關係者が自主的な組合をつくりましてやつてまいりたいという場合には、勞働組合の許可を受けさせまして、弊害がないと認めました場合には、無料の勞働者供給事業を認めたいつもりでございます。ことはたとえば、家政婦なんかも勞働者供給事業ということになつているわけでございますが、ただいまのように、営業的にやります家政婦會というようなものは認められないことになります。しかし現在家政婦であつた人たちが集まりまして、組合組織でやつてまいりたいというような場合には、勞働者供給事業ということにはなりますが、特に勞働大臣の許可を受けて認めていこう。こういう考えでございます。なおこの勞働者供給事業が廢止されますと、ただいま關係者が相當おりまして、現にこういう仕事をやつておる際でございますので若干影響は考えられるのでございますが、私たち對策といたしましては、一つはただいま申しました勞働組合法による組合をつくつてやる場合を認めております。
 当時の労働省職業安定局は、派出婦会はみんな労働組合にしてしまえば問題は解決すると思っていたようですが、実際には田園調布家政婦労働組合のように労働組合化したケースも若干はありましたが、大部分は組合化しなかったのです。この問題は尾を引いて、色々揉めたあげく、最終的に特定の職種についてのみ認められていた有料職業紹介事業として認めることで決着しました。
 この結果、ビジネスモデルとしてまごうことなき労務供給事業、すなわち現在でいうところの労働者派遣事業以外の何物でもなかったはずの派出婦会が、職業紹介をしているだけであって、使用者責任はすべて全面的に紹介した先の一般家庭にあるというおかしなことになってしまいました。
 やっている作業は似たようなものであっても、もともと家庭のメンバーである女中とは全く違い、派出婦会のメンバーとして家庭に派遣されてくるはずの家政婦が、女中と何ら変わらないことにされてしまったのです。「他人」だと思っていたらいつの間にか「家族」まがいにされてしまっていたわけですね。
 そして、おそらくこういうやり方で何とか片を付けた人々は全く意識していなかったのでしょうが、その結果として、職業紹介法とそれに基づく労務供給事業規則が存在した時代には、労働基準法施行規則第1条に基づき立派に労働基準法の適用対象であった派出婦会から派遣されてくる家政婦たちが、その派出婦会というのが職業安定法で非合法化されてしまった後は、女中と同じ家事使用人扱いされ、労働基準法の適用から排除されるという憂き目をみることとなってしまったわけです。
 大変皮肉なことに、職業安定法施行規則の有料職業紹介事業の対象職種の各号列記に「家政婦」が追加されたときの通達には、こう書かれていました。
しかして、ここにいう家政婦とは、従来家政婦、派出婦、派遣婦、付添婦等と呼ばれていた家事雑役、患者の雑事世話の仕事に臨時的に雇用される婦人労働者をいうのであって、会社、工場、商店、官署等の雑役、小使及び女中は含まないものである。
・・・看護婦と称して免許のないものを紹介し、あるいは家政婦の職業について許可された者が女中を紹介する等不正な紹介・・・と認める者は直ちに許可を取消し、悪質の違法に対しては告発する。
 家政婦は女中ではないぞ、家政婦と称して女中を紹介したら許さないぞ、と強硬に脅しつけていながら、その実は、それまで雇用上の身分が明確に異なっていた家政婦と女中とを全く同じ法的カテゴリーに放り込んでしまっていた、というこの皮肉が、70年以上経った今日において、ようやくその矛盾を露呈し始めたということかもしれません。
 ちなみに、法的地位ではまったく同じになってしまった女中と家政婦ですが、政府の統計上は全く異なる扱いになっています。5年ごとに行われる国勢調査において、女中に相当する「住込みの雇人」は雇い主の世帯の世帯員であり、まさに「同一の家に属する者」であるのに対して、実質的に家政婦紹介所に属して派遣されてくる家政婦はそうではなく、「民営の職業紹介機関やシルバー人材センターなどの紹介による場合」は「労働者派遣事業所の派遣社員」に当たらないという注意書きの対象です。

 

2022年11月18日 (金)

佐藤厚『日本の人材育成とキャリア形成』

9784502438417_430 佐藤厚さんより『日本の人材育成とキャリア形成―日英独の比較』(中央経済社)をお送りいただきました。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-43841-7

教育制度(職業教育訓練)と労働市場との関係に注目しながら、人材育成とキャリア形成の仕組みを考察し、さらにイギリス、ドイツとの比較を通じて日本の特徴を明らかにする。日本の特徴をあぶりだしながら、ジョブ型雇用、自律的キャリア、社会人の学び直しや生涯学習といった近年の課題に示唆を与える。

日本のメンバーシップ型と比較対照する相手がイギリスとドイツの二カ国であるという点に、著者のツボがあります。佐藤さんに言わせれば、イギリス(やアメリカ)はジョブ型といえるけれども、ドイツは職業型であって、それらとは違うのです。

例えばホワイトカラーのキャリア形成にしても、日本が「一つの会社に長く勤め、だんだん管理的な仕事になっていくコース」が主流であるのに対し、イギリスは「複数企業を経験して、だんだん管理的な仕事になっていくコース」であり、ドイツは「一つの会社に長く勤め、ある仕事の専門家になっていくコース」であって、ある意味イギリスとドイツが対照的で、それぞれ部分的に日本と共通している面があるというわけです。

なぜ各国がこのようになってきたのかという歴史については、先日『労働新聞』の書評コラムで取り上げたキャスリーン・セーレンの『制度はいかに進化するか-技能形成の比較政治経済学』を引きながら説明しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/11/post-ebf318.html

 

 

 

 

2022年11月17日 (木)

労働図書館企画展示[職業紹介と職業訓練 ─ 千束屋看板と豊原又男 ─]

Chidukaya

2022年11月12日 (土)

1925年の派出婦会

例の家政婦の過労死事件に関連して、そもそも労基法が施行されたときには、派出婦会の派出の事業は労基則第1条第2号により労基法の適用対象事業であったので、適用除外になる家事使用人とは別物であったということが、その後労働者供給事業が全面禁止され、やむなく異なるビジネスモデルである有料職業紹介事業にしてしまったために、本来別物の家政婦と女中の区別が付けられなくなってしまい、労基法も労災保険法も適用されないというおかしな事態をもたらしてしまった、ということは少し前に本ブログで書きましたが、たぶん今現在生きている人のうちには、家政婦が紹介所なんていう世を忍ぶ仮の姿になる前の派出婦会という本来の姿であった時代のことを経験している人は居ないと思われるので、今からほぼ100年前に、派出婦会という当時のニュービジネスが登場してきた頃のことを描き出した文章を紹介しておきます。

1921年に職業紹介法が制定され、市町村立の職業紹介所の連絡調整をする為に、渋沢栄一も関わった財団法人協調会に中央職業紹介事務局が設置され、そこが毎月『職業紹介公報』というのを発行していました。戦後の『職業安定公報』の前身みたいなものですが、1925年2月28日に発行されたその第16号に、「東京府下に於ける派出婦会の概況」という文章が載っています。

これが、当時の派出婦会の姿をよく描き出しているので、せっかくなので皆様にもご披露しておきます。

一、業態 一般に派出婦会と称せらるゝは家庭に於て臨時に人手を要する場合に、其必要に応じ臨時に簡便に使用し得らるゝ女中代りの女性労働者の供給機構であつて一方派出し得べき多数の女性会員を擁し他方需要家庭の申込に応じて、適当なる会員を派出するを業とするものである。さうして此等の派出さるべき会員を通常派出婦と称へられてゐるが其実質に至つては寄子業営業と変る所がない。寄子業では今も尚親分乾分と称へられてゐるに対し、派出婦会では会長又は会主会員と称へて其名称を異にして居る丈で一種の労力供給機関たるに変りはない。然し寄子業営業主は大正六年二月十日警視庁令第一号紹介営業取締規則に依つて取締られて居るが、派出婦会営業に就ては何等の取締が行はれて居ないが、此等の派出婦会に対しても速かに相当の取締規則を設くる必要があると認められる。同じく労力の供給機関で派出婦会、寄子業類似のものを挙ぐれば・・・の美術標本人モデル営業(モデル供給)、・・・東京配膳会のヘリツプ(臨時ボーイ供給)、・・・苦学生労働実行会(雑役人夫供給)、・・・日本海員内外航海社(下級船員供給)等多種多様に亘るが大体に於て其内容実質に変りがない。派出婦会の名称は何々派出婦会と称するを普通と思はるゝも一般に然らざるものが多い。婦人共同会、婦人協働会、婦人はたらき協会、東婦人会、婦人相愛会、婦人復興会、青山婦人共同会等の如く一見派出婦会と認め難いものが過半を占めてゐる。

二、起源及び趨勢 婦人共同会主大和俊子女史が本所区内に住まつてゐた際に近隣の主婦達が主人の出勤不在中多くは何等為す所もなく日を暮して居るのを見て、大正五年に家庭内職の普及を思ひ立ち主として和服仕立の注文を集めて、之を近隣の主婦達に配布し、出来上れば又之を纏めて注文主へ納めて居たが、大正七年現住所四谷区に移転した為め此事業は中絶してしまつた。当時四谷方面の家庭では蒲団や着物の仕立直し、大掃除、来客、外出等臨時に手不足を来した場合は谷町辺りから伝手を求めて主婦や婆やさんを食事付一日三十銭から五十銭位で手伝つて貰つて居たものであつた。斯の状態を見て四五名の同志婦人と共に家庭に在る既婚婦人が自分の暇な時間を利用して他の家庭の裁縫から洗濯までの仕事を手伝つたら、何んなものであらうかと更に之を羽仁もと子女史と相談の結果、一応輿論の反響を観ることゝし羽仁もと子女史の主宰する雑誌「婦人の友」大正七年十月号に此企てのあることを発表したところが折柄一般に女中難に陥つて居た際であつたのと施設が簡便で時代に適応して居たゝめか好評を以て迎へられ、盛に雇入の申込があつたので多数の未亡人や主婦達は内職として一日食事付五十銭位で派出されて行つたものである。雇主も此等派出婦に対しては相当の敬意を以て迎へ決して侮る様なことはなかつた。先づ型の如く挨拶があつてお茶を進め乍ら色々と其日の仕事を順序よく頼み、派出婦の方でも夕方までには頼まれたより以上の仕事を完全に済ませて夕食を了へて帰つたものである。であるから現今の派出婦が全くの女中代りであるのとは異り主婦代りとでも云つた方が近い位で充分に品格が保てゝ居たものである。それが段々と需要が増加して申込に応じ切れなくなつたので新聞広告で派出婦を募る様になつた。と同時に他にも続々と派出婦会の設立を見たので勢ひ会と会との競争も伴つて派出婦募集を兼ねて求人口開拓の為め新聞広告の外にポスター、引札、立札等を利用する様になつたので一般に派出婦会の存在が知られて行つた。派出婦会を組織するにしても派出婦になるにしても他の婦人職業と異なつて学力や技術や資格も経験も必要とせず且何の制限もないので、今迄の女中が起きるから眠る迄家庭で束縛されてゐるよりか比較的自由でより収入の多い派出婦に走る様になり、又女中となるべき田舎出の娘が派出婦となる様になつたので一般に学力も品性も下落して来た為め自然に今迄の様な真面目な未亡人や主婦達はいつとはなしに影を潜めて仕舞つた。一方需要家庭でも今迄の様に幾分遠慮して手伝つて貰ふと云ふ様なことよりか遠慮なく使へて懸命に働く下働きの女中代りを求める様になり、其需要家の範囲も最初は知識階級のみであつたが今では裏長屋住ひの人々にさへ打算的に利用される様になつた。又派出婦会の方でも需要に恰当した婦人を集める様になつて漸次に派出婦会本来の目的が没却されて営利本位となり種々の弊害を醸す様になつたので此等の弊害を除き派出婦会相互の向上を図るために大正十三年の夏左記十名が連合会を組織して先づ派出料金の協定を行ひ漸を逐つて一般派出婦会の改善向上を図ることとなつた。・・・

 警視庁に於ては前記の如く派出婦会が自発的に組織した連合会を善導して其の弊害を防ぐことに努むると唱へられる。因に婦人共同派出婦会主大和俊子女史は大正八年警視庁令紹介営業取締規則に拠つて正規の手続を履み其営業許可を受けて居たが大正十年に至つて同規定に依る営業でないとて廃業の届出を為し今日に及んでゐる。従つて営業税も同期間丈け納入したのであるが其他の派出婦会は此の何等の資格も制限もないのを利用して組織したのが殆ど全部なので届出は勿論営業税を納めて居るものは一つもない。・・・

三、・・・経営者は一二の特例を除いて全部個人経営で生計の資を得る為めの営利事業として営まれて居る。で内容に至つては人夫部屋と何等異る所がない。会長又は会主は殆ど婦人の名義になつて居るが過半は其の配偶者が主宰して居る。一般に派出婦から入会に際し入会金として金一円を徴し派出料金の一割五歩を会費として納入せしめる。中には入会金を徴しない会もある又三十五銭乃至五十銭の徽章代を取り会費又は会の維持費として毎月一円を徴する会もある。需要者側からは一機期間十日或は十四日間と定め其期間毎に二十銭乃至三十銭を手数料として申受ける中には第二期目より十銭位手数料の歩引を行ふ会もある・・・

 会によつては田舎出の婦人には電気、瓦斯、水道の使用法から一寸した行儀作法まで派出婦として必要な指導を為し附属の寄宿舎に収容する。寝具、食料等では利益を取らうとして居ないから大抵実費で支給して居る。中には一切無料の会もあるそれは月の中殆ど派出されてゐるから一寸位会に帰つても会主の家族同様な取扱を受けるからである。

・・・需要家の負担は派出料金、手数料の外、派出婦の往復実費(市内は電車賃丈け)で又正午から後の派出は日給の半額である。そうして派出中の派出婦が意に充たない時は看護婦会同様交代を請求することが出来ると同時に派出婦の方が需要家に対して不都合を感じた場合は又会へ交代の派出婦を請求して帰会することも出来る。そうして其の日の中に何人変つても需要家は其の日一日の分の給料を支払へばよいことになつて居る会が多い。・・・

この中で、前は主婦代わりだったのに、近頃は女中代わりだみたいな表現が出てきますが、いうまでもなく、主婦代わりが主婦自体でないように、女中代わりは女中自体ではありません。

家政婦は女中とは異なる存在である(のに似たようなことをやっている)という趣旨なのですね。

この派出婦会が労務供給事業として許可制の下に置かれるようになったのは、1938年の職業紹介法改正によってであり、そのときに労務供給事業規則が制定されたということも、前に本ブログで書きましたが。実はそれに先だって、1925年に警視庁が独自に派出婦会取締規則というのを制定していました。派出婦会だけを対象にした規制という意味で興味深いものなので、こちらもお蔵出ししておきましょう。

派出婦会取締規則(警視庁令第三十七号)
第一条 本令ニ於テ派出婦会ト称スルハ臨時家事ニ従事セシムルノ目的ヲ以テ婦女ノ派出ヲ業トスル者ヲ謂フ
第二条 派出婦会ヲ経営セムトスル者ハ左ノ事項ヲ具シ業務所所在地管轄警察官署ニ願出テ許可ヲ受クヘシ
一 本籍、住所、氏名、職業、生年月日(法人ニ在リテハ其ノ名称事務所所在地代表者ノ住所、氏名及定款ノ写)
二 業務所所在地
三 会則
②前項ノ申請人未成年、禁治産者、準禁治産者又ハ妻ナルトキハ其ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ノ連署ヲ要ス
第三条 会則ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 名称
二 業務所所在地
三 寄宿舎所在地
四 入会及退会ニ関スル事項
五 会費、食費其ノ他派出婦ノ負担トナルヘキ一切ノ費用並其ノ徴収ニ関スル事項
六 派出料、往復費其ノ他派出先ノ負担トナルヘキ一切ノ費用並其ノ徴収ニ関スル事項
七 経営者ト派出婦トノ間ニ於ケル派出料分配ニ関スル事項
八 家政婦ノ勤務ニ関スル事項
九 家政婦ノ監督ニ関スル事項
十 其ノ他必要ナル事項
第四条 前条第二号乃至第七号ノ事項ヲ変更セムトスルトキハ願出テ許可ヲ受クヘシ
②第二条第一号及第三条第一号並第八号乃至第十号ノ事項ヲ変更シタルトキハ五日以内ニ届出ツヘシ
第五条 派出婦会ヲ廃止シ又ハ業務ヲ休止シタルトキハ五日以内ニ届出ツヘシ
②派出婦会経営者(以下単ニ経営者ト称ス)死亡シ又ハ所在不明トナリタルトキハ同居ノ戸主又ハ家族ヨリ遅滞ナク前項ノ届出ヲ為スヘシ
第六条 左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ第二条ノ許可ヲ為サス
一 申請人不適当ト認メタルトキ
二 業務所又ハ寄宿舎ノ場所若ハ構造不適当ト認メタルトキ
三 其ノ他公安又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキ
第七条 経営者ハ宿屋、料理屋、飲食店、貸座敷、引手茶屋、待合茶屋、貸席、芸妓屋、遊技場、紹介営業其ノ他之ニ類スル営業及看護婦会ヲ兼業シ又ハ其ノ使用人タルコトヲ得ス
第八条 経営者ハ派出婦入会シタルトキハ其ノ本籍、現住所、氏名、生年月日及入会年月日、退会シタルトキ其ノ氏名及退会年月日ヲ五日以内ニ届出ツヘシ
②前項ノ規定ニヨリ届出テタル事項ニ変更アリタルトキハ遅滞ナク届出ツヘシ
第九条 経営者ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノヲ会員ト為スコトヲ得ス
一 法定代理人ノ同意ナキ未成年者
二 夫ノ承諾ナキ妻
三 入会前一箇年以内ニ芸妓娼妓又ハ酌婦タリシ者
四 身許詳カナラサルモノ
五 健康又ハ素行不良ニシテ派出婦トシテ不適当ナル者
第十条 経営者ハ左ノ事項ヲ遵守スヘシ
一 会員以外ノ者ヲ派出セサルコト
二 名義ノ如何ニ拘ラス会則ニ定メアル外派出婦及派出先ヨリ金品ヲ徴収セサルコト
三 派出婦ノ意思ニ反シテ派出ヲ強要セサルコト
四 第七条ニ掲クル営業所ニ派出セサルコト
五 派出婦ヲシテ傷病者又ハ褥婦ノ看護ヲ為サシメサルコト
六 派出婦ノ素行ニ関シ十分ナル監督ヲ怠ラサルコト
第十一条 派出婦派出中現住所又ハ派出先以外ニ宿泊セムトスルトキハ経営者ヨリ左ノ事項ヲ届出ツヘシ
一 派出婦ノ氏名、年齢
二 派出先ノ住所、氏名、職業
三 宿泊ノ場所及期間
第十二条 経営者ハ其ノ名称及氏名ヲ記シタル看板ヲ業務所外睹(ミ)易キ場所ニ掲出スヘシ
第十三条 経営者ハ所轄警察官署ノ検印ヲ受ケタル派出婦名簿(第一号様式)及派出簿(第二号様式)ヲ業務所ニ備ヘ当該事項ヲ記入シ異動アル毎ニ訂正スヘシ
②前項ノ帳簿ハ使用廃止後一箇年間之ヲ保存スヘシ
第十四条 経営者ハ第三条第六ニ掲クル事項ヲ記載シタル派出婦紹介状ヲ派出先ニ交付スヘシ
第十五条 当該警察官吏ニ於テ業務所若ハ寄宿舎ノ臨検又ハ帳簿其ノ他ノ書類ノ検査ヲ為サムトスルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第十六条 経営者組合ヲ設ケタルトキハ組合代表者ハ其ノ組合員役員ノ氏名ヲ記シ組合規約書ヲ添ヘ主タル事務所所在地所轄警察官署ヲ経テ遅滞ナク警視庁ニ届出ツヘシ其ノ届出事項ヲ変更シタルトキ亦同シ
第十七条 所轄警察官署ハ取締上必要アリト認ムルトキハ臨時ニ別段ノ命令ヲ発スルコトアルヘシ
第十八条 左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ警視庁ニ於テ許可ヲ取消シ又ハ業務ノ停止ヲ命スルコトアルヘシ
一 本令又ハ本令ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキ
二 公安又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキ
第十九条 第二条第一項、第四条、第五条及第七条乃至第十六条ノ規定ニ違反シ又ハ第十八条ノ規定ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキハ拘留又ハ科料ニ処ス
第二十条 経営者ハ其ノ代理人、戸主、家族、雇人其ノ他ノ従業者及派出婦ニシテ其ノ業務ニ関シ本令又ハ本令ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキハ自己の指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十一条 経営者未成年又ハ禁治産者ナルトキハ本令ノ罰則ハ之ヲ其ノ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ハ此ノ限ニ在ラス
第二十二条 経営者法人ナルトキハ本令ノ罰則ハ之ヲ其ノ代表者ニ適用ス
 附則
第二十三条 本令は大正十四年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
第二十四条 本令施行ノ際現ニ派出婦会ヲ経営セル者ハ大正十四年十月三十一日迄ニ本令第二条ニ定ムル事項ヲ具シ所轄警察官署ニ届出ツヘシ
②前項ノ届出ヲ為シタルモノハ本令ニ依リ許可ヲ受ケタルモノト看做ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年11月 9日 (水)

解雇の金銭解決の実態@WEB労政時報

WEB労政時報に「解雇の金銭解決の実態」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/83931

去る10月26日、労働政策審議会労働条件分科会には膨大な数と量の資料が提出されました。この日決まったのは数年来の懸案だった資金移動業者の口座への賃金支払、いわゆるペイペイ払いの省令ですが、その他にも労働時間制度、多様な正社員など多くの論点がある中で、最後に提示されたのが「解雇に関する紛争解決制度の現状と労働審判事件等における解決金額等に関する調査について」という資料と、「労働審判事件等における解決金額等に関する調査に係る主な統計表」という参考資料です。・・・・・

この資料は、厚労省のホームページのここに載っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28787.html

 

 

2022年11月 7日 (月)

稲葉一将・稲葉多喜生・児美川孝一郎『保育・教育のDXが子育て、学校、地方自治を変える』

41cgml76ybl_sx355_bo1204203200_ 稲葉一将・稲葉多喜生・児美川孝一郎『保育・教育のDXが子育て、学校、地方自治を変える』(自治体研究社)を、著者の一人の児美川さんからお送りいただきました。

デジタル改革が「こども」にも及び始めている。本書では、1こども家庭庁の設置を前に、複数の行政組織や自治体の部局を超えて「こどものデータ」が連携・集積される構図とその意味すること、2保護者と保育園をつなぐ保育支援システムによってこどものビッグデータがテック企業に集積される仕組みとその意味すること、3GIGAスクール構想の先ですすむ「教育DX」政策が公教
育にもたらすものを整理する。
1 子どものデータ連携と行政組織における調整の強化
ーこども家庭庁新設の地方自治への影響ー ……………………… 稲葉一将 
国家によって形成される「デジタル社会」の特徴/子どもと行政に及ぶ「デジタル化」/  転形期の子ど
もと行政  

2 保育業務のSaaS 化とテック企業のデータ寡占
ー保育と一体で行われる子どもデータの収集ー ……………… 稲葉多喜生 
 SaaS で行われる保育データ収集の意味すること/企業任せとなっている個人情報収集/便利さの背後で
進む、テック企業のデータ寡占化/子どものデータ連携で変わる保育  

3 教育DX が学びと学校を変える ……………………… 児美川孝一郎 
「Society 5. 0 型教育改革」の構想ーEdTech を通じた教育DX の実現へ/ GIGA スクール構想とコロナ
禍の教育政策/ 教育DX は学びと学校をどう変えるか

児美川さんの部分は、最近の教育政策をめぐる経済産業省と文部科学省のせめぎ合い(といっても前者が圧倒的に優勢ですが)を見事に描き出しています。

 

石田信平・竹内(奥野)寿・橋本陽子・水町勇一郎『デジタルプラットフォームと労働法』

610767 石田信平・竹内(奥野)寿・橋本陽子・水町勇一郎『デジタルプラットフォームと労働法 労働者概念の生成と展開』(東京大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。現下の最重要課題に対するもっともふさわしい人々の手による突っ込んだ研究書です。

http://www.utp.or.jp/book/b610767.html

ウ―バーイーツなどデジタルプラットフォーム・ビジネスの台頭は、単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」の登場など従来とは異なる社会現象を生み出し、労働法の世界にも新たな課題を投げ掛けている。この近時の大きな変化のなか、これらを近視眼的に捉え法技術的な議論を展開するだけでは、問題の本質に迫ることは難しい。そもそも労働法はどのような社会状況のなかで生成し、展開され、今日に至っているのか。プラットフォーム・ビジネスの出現と成長が、労働法の基盤や構造にどのような課題を投げ掛けているのか。そのなかで各国はどのような法制度の改革を行おうとしているのか。問題の解決に向け、本書は労働法の基底にある「労働者」概念にまで遡り、日本・ドイツ・フランス・イギリス・アメリカを対象に、歴史的・比較法的な視点からプラットフォーム・ビジネスがもたらす課題と展望を明らかにする。

プラットフォーム労働の本質を論ずるためには、まず労働者概念の根源に立ち返って考えよ、という骨太な本です。

政府のフリーランス新法は新聞報道によると紆余曲折しているようですが、まずはじっくりと本書を読み込むところから始めた方がいいのかも知れません。

本書の末尾で水町さん曰く:

・・・日本では、フリーランスの拡大をめぐる問題に対して、2021年3月にフリーランス・ガイドラインが策定され、現在、フリーランス保護新法の制定に向けた動きも進んでいる。しかし、その議論や改革の内容を比較法の視点から見ると、必ずしも十分なものとはいえない。プラットフォーム就業者、さらにはフリーランス一般をめぐり、労働法・社会保障法の一般的な適用対象とされる「労働者」概念をどのようなものとするか、そこで「労働者」に該当しないとされた独立自営労働者(個人事業者)に対してどのような社会的保護(人間としての保証)をどのように形で及ぼすかなど、労働法・社会保障法の根幹に関わる問題についても、検討すべき課題は山積している。本書でしめされた議論の方向性や課題を基礎としつつ、今後さらに建設的な議論が展開されることを期待したい。

 

 

 

2022年11月 6日 (日)

明日NHK「視点・論点」に出ます

Shiten だいぶ久しぶりになりますが、明日NHKの「視点・論点」に出ます。

https://www.nhk.jp/p/ts/Y5P47Z7YVW/schedule/te/7Y3QRJK6P9/

(追記)

見た人の感想:

https://twitter.com/AyaYoshizawa/status/1589467723951898624

きょうの視点・論点キレッキレで痛快だった。もっと言ってやってください。濱口桂一郎先生、おぼえた。

https://twitter.com/StoneSide/status/1589468389848027136

さっきの「視点・論点」の「ジョブ型雇用とは何か」の濱口桂一郎氏の話が最高だった。もっと色んなところで話してほしいなあ。

 

2022年11月 5日 (土)

ギグワーカー隆盛は産業革命以前への逆行か?@『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』

2211ronten 『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に、久しぶりに寄稿しました。題して「ギグワーカー隆盛は産業革命以前への逆行か?」。中身は是非本屋さんでご確認ください。

https://www.bunshun.co.jp/business/extra/backnumber.html?itemid=773&dispmid=592

 2020年以来、マスメディアや評論家は新商品であるかのように「ジョブ型」を売り込むことに必死だが、ジョブ(職)に基づく雇用社会のあり方というものは、欧米諸国では百年ないし二百年以上の歴史と伝統のある仕組みだ。メンバーシップ型正社員感覚にどっぷり浸かったインテリの目に目新しく見えるだけで、産業革命とともに生み出された古くさいシステムなのだ。・・・・

 

 

2022年11月 4日 (金)

キャスリーン・セーレン『制度はいかに進化するか-技能形成の比較政治経済学』

07283x400 労働新聞』の書評コラム、今回はキャスリーン・セーレン『制度はいかに進化するか-技能形成の比較政治経済学』(大空社出版)です。

https://www.rodo.co.jp/column/139037/

 著者はいわゆる「資本主義の多様性」学派に属する政治学者だが、本書は技能形成という切り口から英米独日という4か国の資本主義の違いを浮き彫りにするもので、労働研究者にとっても大変興味深い内容だ。
 産業革命の先頭走者であるイギリスでは、中世のギルドが崩壊した後を埋めたのは熟練職人たちの職種別組合(クラフト・ユニオン)で、徒弟制に基づく供給規制で労働市場をコントロールすることがその戦略だったことはウェッブ夫妻が描いた通り(拙著『働き方改革の世界史』参照)。それゆえ経営者は組合と対決して自由な決定権を取り戻すことが目標となったが、両者の対決のはざまで職場は混乱に陥り、どちらも得をしない低技能均衡の道を歩んでいく。
 ところが後発国のドイツでは、ギルドは生き残っただけではなく、保守的な帝国政府の支援で、イヌンクと呼ばれる手工業者団体が徒弟の技能認証権を独占した。これは、拡大しつつあった社会主義者を抑圧する保守的政策の一環で、決して労働者のためのものではなかったのだが、その後の歴史の荒波にもまれる中で、社会的市場経済の基軸となっていく。まず、手工業会議所による技能認証権の独占に不満を持ったのは大企業で、自社で養成した労働者にも資格を与えようとするが、手工業者は断固として拒否する。そのはざまで新興の労働組合は、企業内訓練に組合が関与するという方向を目指していく。それがワイマール時代の構図だが、歴史は単純に進まない。ナチス政権は労働組合を殲滅し、全体主義的なドイツ労働戦線を樹立するが、これが全ての若者に訓練の権利を保障し、企業に訓練を義務付け、手工業会議所の独占的地位を奪った。敗戦でそれが崩壊した後、占領下で再構築された訓練制度は、手工業者のギルド的独占でもなく、大企業のメンバーシップ型養成でもなく、産業レベルの労使協調に基づき、企業内のOJTで企業を超えた横断的技能を養成するデュアルシステムになっていた。もともと誰かがそうしようと図ったわけではないのに、様々なアクターのせめぎ合いと歴史のいたずらの結果、今日OECDから世界が見習うべきモデルと賞賛されるドイツ型訓練制度が出来てしまったというわけだ。
 この英独対比を軸に、それぞれの亜流としてのアメリカと日本の独自の「進化」が描かれる。ギルドの伝統を欠くアメリカでは、イギリス流の熟練労働者の組合運動は弱く、企業主導の反組合的な福祉資本主義が席巻するが、それを逆手にとった産業別組合運動が企業が構築した職務をよりどころにしたジョブ・コントロール・ユニオニズムを確立する。一方政府主導の産業化を進めた日本では、当初強力だった親方職人の影響力を遮断し、企業主導で子飼いの職工を養成する道を歩んでいくが、そのパターナリズムに乗っかる形で企業別組合が発展していく。四者四様のアラベスクだ、
このように、「制度はいかに進化するか」というタイトルは、文字通り制度が元の創設者の意図を超えて生き物の如く「進化」していくものだという認識を表している。そう、本書が描く技能形成制度だけではない。世の様々な制度はみな、良きにつけ悪しきにつけ、「そんなはずじゃなかったのにいろんな経緯でそうなってしまった」ものなのだ。

 

2022年11月 1日 (火)

全労連の解雇規制法案に金銭解決が

労働法政策の経緯を調べようとして昔の雑誌をほじくり返していると、調べようとしていたこととは別の興味深い資料にぶち当たったりすることがよくあります。電子化されてしまうと、こういう空間的近接による異物発見効果がなくなってしまうのではないかと残念です。

それはともかく、ある調べ物をしていたら、『賃金と社会保障』の1996年3月上旬号(1173号)に、全労連等の解雇規制立法案というのが載っているのを発見しました。

もちろん、解雇を厳格に規制しようとする法律案です。能力・適性を理由とする解雇、憲法や勞働法に違反する解雇、営業上の理由による解雇等々に、挙証責任の転換とか退職強要の禁止とか、実にいろいろと揃っているのですが、そのうち「(8)解雇の効力」というところの規定ぶりが大変興味深いのです。

(8) 解雇の効力

1項 (1)ないし(6)に違反する解雇は無効である。

2項 使用者が(7)の証明(=挙証責任の転換)ができなかった場合、労働者は使用者に対し、次のいずれかを選択して請求することができる。

イ 労働契約の継続および解雇期間中の未払賃金の支払、慰謝料その他の損害賠償

ロ 労働契約の解約および紛争解決に至るまでの期間中の賃金相当額・退職金の支払、慰謝料その他の損害賠償

これって、雇用継続と金銭解決の労働者側のみの選択制であって、少なくとも四半世紀前にはそれを要求していたということですね。

 

 

 

 

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