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2022年10月 2日 (日)

家政婦が家庭の直接雇用となった原因は・・・

一昨日の続きです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-a8cff7.html(再掲:「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号)

今回の件のいささか不思議というかおそらく多くの人の腑に落ちにくい点は、同じ家事労働に従事していても、企業に雇われてそこから家庭に派遣されて就業していたら労働基準法が、それ故労災保険法も適用される労働者なのに、家庭に直接雇われていたら労働基準法が、それ故労災保険法も適用除外されてしまうという点ではないでしょうか。

法理論的にはいろいろ議論があるところだと思いますが、実はそもそも家政婦が家庭の直接雇用であるということ自体が、歴史上の偶然がもたらしたものだという面があるのです。

家政婦という職種は、終戦直後に対象職種に追加されて以来ずっと職業安定法に基づく有料職業紹介事業の対象です。職業紹介ということは、民営紹介所は仲介をしているだけであり、雇用主はいうまでもなく紹介先の家庭ということになります。

この法律構成を前提とすると、立法論的には議論はあり得ても、民営紹介所によって紹介された家政婦は労働基準法の適用除外される家庭の直接雇用者だといわざるを得ません。

Fvcq2vsuuaas9a4 しかし、これはもう13年も前に出した『新しい労働社会』の中でやや詳しく論じたように、家政婦は元々戦前は労務供給事業、つまり戦後の労働者供給事業であり、今日の労働者派遣事業でもって運営されていたのです。それが、終戦直後占領軍の厳命で労働者供給事業がほぼ完全に禁止されてしまい、どうにか逃げ道を見つけ出そうとして、無理矢理有料職業紹介事業にしてしまったのです。

臨時日雇い型有料職業紹介事業
 もう一つ、実態として極めて登録型派遣事業に近いのが、家政婦、マネキン、配膳人といった臨時日雇い型の有料職業紹介事業です。これらにおいても、求職者は有料職業紹介所に登録し、臨時日雇い的に求人があるつど就労し、終わるとまた登録状態に戻って、次の紹介を待ちます。ところが、こちらは職業紹介という法的構成を取っているため、就労のつど紹介先が雇い入れてフルに使用者になります。実態が登録型派遣事業と同様であるのに、法的構成は全く逆の方向を向いているのです。これは、占領下の政策に原因があります。
 もともと、これらの職種は戦前は労務供給事業で行われていました。ただし、港湾荷役や建設作業のような労働ボス支配ではなく、同職組合的な性格が強かったと思われます。ところが、これらも職業安定法の労働者供給事業全面禁止のあおりを受けて、弊害はないにもかかわらず禁止されてしまいました。一部には、労務供給業者が労働組合になって供給事業を行うケースもありました(看護婦の労働組合の労働者供給事業など)が、労働組合でなくてもこの事業を認めるために、逆に職業紹介事業という法的仮構をとったのです。
 しかしながら、これも事業の実態に必ずしもそぐわない法的構成を押しつけたという点では、登録型派遣事業と似たところがあります。最近の浜野マネキン紹介所事件(東京地裁2008年9月9日)に見られるように、「紹介所」といいながら、紹介所がマネキンを雇用して店舗に派遣したというケースも見られます。マネキンの紹介もマネキンの派遣も、法律構成上はまったく異なるものでありながら、社会的実態としては何ら変わりがないのです。その社会的実態とは労働者供給事業に他なりません。
 このように、登録型労働者派遣事業、労働組合の労働者供給事業、臨時日雇型有料職業紹介事業を横に並べて考えると、社会的実態として同じ事業に対して異なる法的構成と異なる法規制がなされていることの奇妙さが浮かび上がってきます。そのうち特に重要なのは、事業の運営コストをどうやってまかなうかという点です。臨時日雇い型有料紹介事業では法令で手数料の上限を定めています。労働組合の労働者供給事業は法律上は「無料」とされていますが、組合費を払う組合員のみが供給されるわけですから、実質的には組合費の形で実費を徴収していることになります。これと同じビジネスモデルである登録型派遣事業では、派遣料と派遣労働者の賃金の差額、いわゆる派遣マージンがこれに当たります。正確に言えば、法定社会保険料など労働者供給事業や有料職業紹介事業では供給先や紹介先が負担すべき部分は賃金に属し、それ以外の部分が純粋のマージンというべきでしょう。この結果明らかになるのは、派遣会社は営利企業であるにもかかわらず、臨時日雇い型紹介事業と異なり、その実質的に手数料に相当する部分について何ら規制がないということです。派遣元が使用者であるという法律構成だけでそれを説明しきれるのでしょうか。

念のため、戦前は労務供給事業であったということの証拠を見せておきましょう。1938年の労務供給事業規則の別表ノ1所属労務者名簿の備考欄に、職種の例として、大工、職夫、人夫、沖仲仕、看護婦、家政婦、菓子職といったものが列挙されています。

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つまり、看護婦や家政婦は労務供給事業による供給労働者だったのであり、つまり今日的にいえば人材派遣事業による派遣労働者だったのです。

ところが、GHQの厳命で労働者供給事業は全面禁止され、その後なんとか生き残ろうとする旧業者たちの必死の陳情の結果、ごく少数の職種だけは認められていた有料職業紹介という抜け道を使って、この戦前以来の業態が再生されることになったのです。

とはいえ、やってることは戦前来の労務供給事業そのままでした。それこそ、数年前に放送されていた市原悦子主演の「家政婦は見た」に描かれているように、紹介所といいながら家政婦たちを紹介所に住まわせて、派遣依頼を受けるつど家庭に派遣して、紹介料金を受け取り、その中から手数料をさっ引いて家政婦に給料を払うというビジネスモデルを長年続けてきたのです。

この点は最近批判を受けて変わりましたが、問題はむしろ、元のやり方の方が本来の姿だったんじゃないのか、そしてそれこそ、家政婦の雇用主は家庭なんじゃなくて、世を忍ぶ仮の姿で紹介所ですと言い続けてきているけれども、その実は戦前来の労務供給事業であるとすると、労働基準法の適用除外である家庭の直接雇用なんじゃないのではないか、という問題につながっていくのです。

そして、意外に思われるかもしれませんが、(直接家庭に雇われた)家事使用人を労働基準法の適用除外にしているその当の労働基準法自身が、戦前来の労務供給事業で派出された家政婦は労働基準法の適用対象であると考えていたらしいのです。

これは、上のリンク先の論考の最後のところで述べましたが、

労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがありました。

派出婦会から派出された家政婦は労働基準法の対象になるということですが、その派出婦会は、戦前は労務供給事業の許可を得て営業していたものの、戦後は職業安定法による労働者供給事業の禁止で潰れてしまい、ようやく民営職業紹介事業として再生できた結果、直接雇用の家事使用人になってしまい、せっかく労基則で対象になれたはずなのになれなくなってしまった、という悲喜劇が起こってしまったわけですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

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