権丈善一・権丈英子『もっと気になる社会保障』
権丈善一・権丈英子『もっと気になる社会保障』(勁草書房)をお送りいただきました。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b611474.html
社会保障政策は最大規模の公共政策であり、国民経済と国民生活の現在と未来を左右するものである。社会保障政策の舵取りはどうあるべきか。改革の青写真を論じ続けている著者が来るべき制度改革への指針を示す良質のガイド。既刊『ちょっと気になる~』シリーズ姉妹編として、「社会保障」をめぐるより深い知識と視点に導く一書。
「ちょっと気になる」シリーズの最新刊かと思いきや、よく見ると「もっと気になる」でした。
しかも、表紙にある「へのへのもへじ」と「へめへめしこじ」がずらりと7人も並んでいて壮観です。
この本はたぶん、権丈夫妻のはじめての共著じゃないでしょうか。タイトルは「社会保障」ですが、中身は年金、医療介護、労働、税などなど盛りだくさんです。
はじめに,そして勤労者皆保険の話
『ちょっと気になる社会保障』から『もっと気になる社会保障』へ
社会保障をめぐる環境の変化
書名など
労働力希少社会を迎えて
勤労者皆保険について
社会保険の適用除外が非正規雇用,格差,貧困を生む
拙著文献表
年 金
第1章 不確実性と公的年金保険の過去,現在,未来観
将来不安という人間の恐怖を制御してきた制度の進化
資本主義と不確実性
公的年金保険の制度設計
1954年改革──日本の公的年金の原点を創る
国民皆年金へ
1985年改革──基礎年金の導入
1994年,2000年改革における支給開始年齢の引き上げ
2000年年金改革の挫折から2004年改革へ
人生100年時代における公的年金保険に向けて
最後に──頑強で,堂々としていて,壊しがたいもの
第2章 働き方の変化と年金制度,そしてライフプラン
働き方改革──日本型「同一労働同一賃金」へ
女性労働
非正規雇用と被用者保険の適用拡大
高齢期雇用
テレワークと柔軟な働き方
働き方の変化と年金制度,そしてライフプラン
第3章 令和時代の公的年金保険に向けて
「不確実」という言葉に込めた意味
年金,社会保障と税
社会保障と一般会計の関係
次期年金改革について
公的年金保険を取り巻く環境の変化
公的年金の負担と給付の構造
社会保障の在り方を規定する価値,目標の比重が変わる
植樹のような意識で
第4章 日本の労働市場における被用者保険適用拡大の意義
要 旨
はじめに
被用者保険の適用拡大と日本の非正規雇用の特徴
被用者保険の適用拡大の展開
おわりに
医療と介護
第5章 コロナ禍の今,日本医療の特徴を考える──この国の医療の形はどのように生まれたのか
公的所有主体の欧米,私的所有主体の日本
占領期にGHQが与えた影響
独立後,高度成長期の医療政策はどうなったか
取り組まれている医療提供体制の改革
第6章 日本医師会は,なぜ任意加入なのか
1945年終戦
1946年
GHQと日本医師会の齟齬
波乱の1946年11月,日本医師会第6回臨時総会
「任意設立・任意加入」体制確立──1946年12月9日改組委員会第1回会合
1947年は特殊法人を断念して社団法人へ
第7章 日本の医療政策,そのベクトルをパンデミックの渦中に考える
医療政策におけるある種の法則
内生的医療制度論
内生的医療制度と医療費
政策形成過程までもが内生的に変化
議論が求められる課題までもが変化してきている
今後とも追加的な財源が必要となる医療と介護
第8章 社会的共通資本としての地域医療連携推進法人
ほっこりする文章
2013年の社会保障制度改革国民会議の頃の議論
競争から協調へ
社会的共通資本としての地域医療連携推進法人
制度というのは進化するもの
第9章 かかりつけ医という言葉の誕生と変遷の歴史
「かかりつけ医」という言葉の誕生
かかりつけ医から,かかりつけ医機能へ
厚労省におけるかかりつけ医機能の用法
かかりつけ医機能とかかりつけ医
新しく生まれた「かかりつけの医師」と再定義された「かかりつけ医機能」
かかりつけ医機能とプライマリ・ケア
労 働
第10章 育児休業制度の歴史的歩みと現在
はじめに
育児休業法の成立
育児休業制度の拡充
育児休業の取得状況と課題
おわりに
第11章 最低賃金制度の歴史的歩みと現在
最低賃金制度の確立
最低賃金引き上げへ
最低賃金に関する経済学の考え方
最低賃金に関する最近の国際的動向
税の理解
第12章 日本人の租税観
維新の元勲の租税観
国民負担って変じゃないか?
政策論としての社会保障
第13章 国民経済のために,助け合い支え合いを形にした介護保険を守ろう
話題其の壱
話題其の弐
話題其の参
話題其の四
話題其の五
話題其の六
話題其の七
サービス経済と医療福祉
将来の介護労働・医療福祉需要
非情な市場と対峙する助け合いを形にした制度
介護と財政
第14章 再分配政策の政治経済学という考え方
第1回 民主主義はどのように機能しているのか
第2回 経済成長と医療,介護の生産性
第3回 将来のことを論ずるにあたっての考え方
第4回 分配問題と価値判断
第5回 社会保障の再分配機能
第6回 手にする学問によって答えが変わる
第15章 制度,政策はどのように動いているのか
物心ついた頃から? の問題意識
政府とは
『君主論』に学ぶ望ましい政策とは
為政者の保身
力と正しさ
未来に向けた社会保障
第16章 今後の子育て・両立支援に要する財源確保の在り方について
負担する人たちに,どう納得してもらうか
なぜ,子育て支援連帯基金が考えられるのか?
子育て支援連帯基金,2017年からのその後
子育て支援連帯基金の財源候補
第17章 総花的な「公的支援給付」が生まれる歴史的背景
プライバシーの自由と生存権保障インフラ
バタフライ・エフェクト其の壱「日本型軽減税率」
バタフライ・エフェクト其の弐「グリーンカード」
マイナンバーは社会保障ナンバーに育ちうるのか
第18章 日本の社会保障,どこが世界的潮流と違うのか──カンヌ受賞作に見るデジタル化と所得捕捉
映画『わたしは,ダニエル・ブレイク』に思うもの
イギリスにおける行政のデジタル化と貧困救済策
就労しても給付が減らない仕組み
本当に困っている人がわからない日本
就労福祉と最低賃金制度の組み合わせ効果
マイナンバーの社会保障ナンバー化を拒むもの
おわりに
知識補給
WPPを知らないのは,もういいだろう,放っておいて
社会保険における高所得層の包摂
医療政策を取り巻く政治環境の変化
公的年金の創設,拠出制か無拠出制か?
年金財政検証が用いる新古典派成長モデルの特徴
ロマンとして生まれた国民皆年金
いわゆる「支給開始年齢の引き上げ」と将来の給付水準の引き上げ
「支給開始年齢の引き上げ」まわりの見せかけの相関
ワーク・ライフ・バランス憲章の総括について
終身保険は民間でなく公的となる理由
医療政策で「需要」と「ニーズ」を使い分ける理由
内生的医療制度論という話,再び
医師・患者関係と「患者の責務」規定
日本の医療,固有の歴史的特徴と政策課題との関係
医療情報の共有化を遮るもの
終末期の医療をめぐるこの十数年の大きな変化──いかに生きるかの問題へ
好事例か,それとも創造的破壊者か
成長はコントローラブルなものなのだろうか
高齢者は経済の宝,社会保障で地方創生は可能──「灌漑施設としての社会保障」という考え方
気質と理屈,どっちが先か?
どうして,連帯基金?
年金積立金を用いた国民皆奨学金制度の合理性
どの章もお二人が最近あちこちに書いた文章で、例によって権丈節は健在ですが、一冊の本としてのまとまりは若干薄いかも知れません。
英子さんの方の書いた第2章「働き方の変化と年金制度,そしてライフプラン」には、
・・・hamachanブログでも有名な濱口桂一郎氏の論考を見ますと・・・
という一節が出てきて、ドキッとします。
« 正社員の初任給に最低賃金が迫るのは異常事態なのか? | トップページ | ちづかやの看板@『労基旬報』2022年10月25日号 »
コメント
« 正社員の初任給に最低賃金が迫るのは異常事態なのか? | トップページ | ちづかやの看板@『労基旬報』2022年10月25日号 »
かかわる従事者に読んでほしい著書です
それくらい、厳しい自己破壊をしつつつあります
投稿: kohchan | 2022年10月25日 (火) 17時50分