岸田首相の「ジョブ型」
岸田首相がニューヨークの証券取引所で「ジョブ型」と口走ったという新聞報道を見て、官邸ホームページに見に行ったところ、なるほどこのように喋っておりました。
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0922speech.html
日本の五つの優先課題を紹介する。
第1に、「人への投資」だ。
デジタル化・グリーン化は経済を大きく変えた。これから、大きな付加価値を生み出す源泉となるのは、有形資産ではなく無形資産。中でも、人的資本だ。
だから、人的資本を重視する社会を作り上げていく。
まずは労働市場の改革。日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す。
これにより労働移動を円滑化し、高い賃金を払えば、高いスキルの人材が集まり、その結果、労働生産性が上がり、更に高い賃金を払うことができるというサイクルを生み出していく。
そのために、労働移動を促しながら、就業者のデジタル分野などでのリスキリング支援を大幅に強化する。
日本の未来は、女性が経済にもたらす活力に懸かっている。「女性活躍」が重要だ。若い世代の意識は明らかに変わってきた。この10年で、35歳未満の女性正社員の割合は、10パーセント、60万人増えた。この世代の人口が120万人減少したにも関わらずだ。
我々は、女性の活躍を阻む障害を一掃する決意だ。なぜなら、正に女性が日本経済の中核を担う必要があるからだ。
女性がキャリアと家庭を両立できるようにしなければならない。両方追求できない理由はない。これは、出生率低下を食い止めるためにも効果がある。来年4月にこども家庭庁を立ち上げ、子ども子育て政策を抜本的に強化していく。これは、日本の人口減少の構造的課題の克服を目指した画期的な政策である。
賃金システムの見直し、人への投資、女性活躍。これら人的資本に係る開示ルールも整備することで、投資家の皆さんにも見える形で取組を進め、また、国際ルールの形成を主導していく。
ほとんど箇条書きの項目だけの言葉なので、どこまで突っ込んだ話なのかはよく分かりませんが、「メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」という言葉からすると、入口から出口までの雇用システムの全面的取り換えというよりも、雇用制度は当面メンバーシップ型で新卒採用から定年退職までとしながらも、その中で賃金制度をジョブベースのものにするということを主に考えているようです。ただ、それにより「労働移動を円滑化」することで、中長期的には労総市場自体のジョブ型化も想定しているのかもしれません。
いずれにしても、安倍元首相の「同一労働同一賃金」は、大上段の看板の割に正社員と非正規労働者の賃金制度の(どちら側へのものであれ)接近ということにも結局向かうものではなかったので、そこは職務給に向けて動かしたいということのようです。これは、実は同じ広島県出身の宏池会の大先輩の池田勇人元首相時代の国民所得倍増計画で力説されていた話の62年ぶりの復活でもあるのですが、さてどうなりますか。
・・・・労務管理制度も年功序列的な制度から職能に応じた労務管理制度へと進化して行くであろう。それは年功序列制度がややもすると若くして能力のある者の不満意識を生み出す面があるとともに、大過なく企業に勤めれば俸給も上昇してゆくことから創意に欠ける労働力を生み出す面があるが、技術革新時代の経済発展を担う基幹的労働力として総合的判断に富む労働力が要求されるようになるからである。企業のこのような労務管理体制の近代化は、学校教育や職業訓練の充実による高質労働力の供給を十分活用しうる条件となろう。労務管理体制の変化は、賃金、雇用の企業別封鎖性をこえて、同一労働同一賃金原則の浸透、労働移動の円滑化をもたらし、労働組合の組織も産業別あるいは地域別のものとなる一つの条件が生まれてくるであろう。
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たいへん興味深い資料をご提示いただきまして、ありがとうございます。1960年当時の政府(及び日経連等)による、このようなジョブ型への移行、という主張に対して、労働運動の大勢は実質的には消極的であり、わずかに極小団体の新産別のみが超積極的だったということでしたね(2019年1月5日(土)付:新産別とは何だったのか?)。
こちらの方の対応もどういうことになっていくのか、見守っていきたいです。
投稿: SATO | 2022年9月25日 (日) 17時35分