理性的な左翼と無責任な右翼
例によってソーシャル・ヨーロッパから、最近の欧州の極右の伸張ぶりについてのコメント、題して「Reasonable left, irresponsible right」(理性的な左翼、無責任な右翼)ですが、もちろんこのタイトル自体がある種の皮肉です。
https://socialeurope.eu/reasonable-left-irresponsible-right
Against this backdrop, while the left is trying to develop programmes and instruments to master the crises, to stem the decline in prosperity and the social costs for ordinary people, those on the hard right are betting on things getting even worse, playing up catastrophe. They hope this will benefit them, that they can thereby achieve electoral success—as with the right-wing radicals in Sweden recently or the right-wing bloc in Italy over the weekend.
こうした背景に対して、左翼が危機を収め、繁栄の衰退と普通の人々の社会的コストを止めるためのプログラムと装置の開発を試みる一方、極右の側はものごとをより悪化させる方に賭け、破局を宣伝している。彼らはこれが彼らに利益になり、それゆえ選挙の勝利につながると期待している。実際最近のスウェーデンや今週末のイタリアのように。
It’s no surprise, then, that the far-right contenders paint the ‘elite’ and its networks in dark colours. They rummage through supposedly suppressed news and hidden secrets. They identify, to their satisfaction, how the powerful secure their dominance and say all this is connected. They imagine themselves as if detectives smugly putting pieces of the political puzzle together, in the manner of a latter-day Hercule Poirot.
極右が「エリート」とそのネットワークを黒々と塗りたくるのは驚くことではない。彼らは押さえつけられたニュースやら隠された秘密やらを嗅ぎ廻る。権力者たちがその支配をいかに守っているか、そしてそれらがすべてつながっているかを(自分らの満足するように)明らかにする。彼らは彼ら自身をかつてのエルキュール・ポワロのようなやり方で政治的パズルのピースをしたり顔ではめ込む名探偵であるかの如く想像する。
It is not a completely new phenomenon to offer such a fundamental critique of ‘the system’. What is astonishing is that the far right has hijacked what used to be a prerogative of Marxist intellectuals—and of those activists who imagined a terminal catastrophe would some day issue in a socialist millennium.
こうした「ザ・システム」に対する根本的な批判を提供することは全く新たな現象ではない。驚くべきことは、極右がマルクス主義知識人、そして最終的破局がいつの日か社会主義の千年王国を生み出すと想像する活動家たちの特権であったものをハイジャックしてしまっということだ。
Right-wing propaganda has appropriated elements of left-wing critical thinking—the questioning of the conventional and familiar, of the all-too-obvious, and the healthy suspicion of power. Amazingly, the motifs of the enlightenment have been subverted to serve conspiracy theories and fanaticism, in the cause of authoritarianism and nationalism.
右翼のプロパガンダは左翼の批判的思考の要素-伝統的で身近なもの、あまりにも当たり前のものに疑問を呈し、権力を健全に疑うことを我が物とした。驚くべきことに、権威主義とナショナリズムのために、啓蒙のモチーフは陰謀論と狂信主義に奉仕するために転覆されてきたのだ。
« 賃金はなぜ上がらないのか-労使関係論的説明 | トップページ | 『Japan Labor Issues』10月号 »
コメント
« 賃金はなぜ上がらないのか-労使関係論的説明 | トップページ | 『Japan Labor Issues』10月号 »
今からちょうど90~100年前ごろ、ムッソリーニやヒトラーといった、極右の先輩諸氏が当時のマルクス主義者たちをハイジャックすることに成功し、グラムシ(伊)やフランクフルト学派の人々(独)といった、西欧マルクス主義の知識人達が獄中や亡命先で痛切な反省をせざるを得なかったという歴史的事実を知っていさえすれば、「歴史は二度繰り返す」ということで特に驚かなくても済みますね(泣)。
最後に、今年は、ムッソリーニのローマ進軍(1922年10月)から100年という、記念すべき年なので、ちょっと危ない仲良し女性二人組の写真をイタリア紙La Repubblica電子版(9月26日付)からご紹介させていただきます(https://roma.repubblica.it/cronaca/2022/09/26/news/elezioni_lazio_rachele_mussolini_auguri_giorgia_meloni-367335689/)。
向かって左は次期首相間違いなしという、極右政党「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首(前身のネオ・ファシスト党(イタリア社会運動)の青年部の中心的指導者として活動していた)です。
向かって右は同党所属のローマ市議、ラケーレ・ムッソリーニ氏です。はい、お名前から一目瞭然ですが、正真正銘のムッソリーニの孫娘なんですね。祖母(ムッソリーニ夫人)の名前をそのまま貰っています。
彼女達はイタリアと世界をどこに進軍させることになるのでしょうか、要警戒であります。
投稿: SATO | 2022年9月27日 (火) 17時13分
はい、わたしも、これは20世紀半ばのファシズム、ナチズムの描写であり、その(薄味の)二番煎じだなあ、と感じていました。
それにしても、ローマ進軍から100年、なんですね。
投稿: hamachan | 2022年9月27日 (火) 19時35分
100年前のローマ進軍に始まるファシズムの擡頭は第一次世界大戦、すなわち近代文明に対して破滅的な破壊が行われ、混乱がもたらされたことに対して、多くの国の国民が収拾策を求めたにもかかわらず、当時の左派、イタリア社会党やドイツ社会民主党が十分に対処することが出来ず、その反発からファシズムへの期待が高まった、と言うのがあると思います。
現在の薄味のファシズムは1950年代~1960年代の先進国の高度成長の後に多くの国で低成長に陥り、左派がそれに対して上手く対処できず、低成長を克服するために右派の推進した新自由主義に対しても十分に立ち向かう事が出来ず、格差が広がり、その結果ますます左派への不信が募り、さらに急進的な薄味のファシズムの擡頭に繋がっている、と言う事になるでしょうか。
現在の薄味のファシズムはいわば「低成長による格差拡大」と言う期間の長く、流血の伴わない「近代文明に対する破滅的な破壊」に対する右派の収拾策と考える事で100年前のファシズムとどこが同じなのか、どこが違うのか考える事が出来るかと思います。
左派は100年前のファシズムの擡頭の理由を振り返りつつ、現在の薄味のファシズムが擡頭する理由をしっかりと把握して薄味のファシズムにどう対応すべきか考えなければならないですね。
大変な難問ですが。
投稿: balthazar | 2022年9月27日 (火) 20時49分
前の投稿に補足します。
今日の朝日新聞の記事です。デジタル版なので全部読めませんが、今回のイタリアの「薄味のファシズム」政党は最近擡頭しているポーランドの「法と正義」ハンガリーのオルバン政権などの権威的な欧州ポピュリズム政権と同じ潮流ではないか、と書いています。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15428469.html?unlock=1#continuehere
おおよそ100年前の1920~1930年代のポーランド、ハンガリーなどの東欧諸国でピウスーツキ、ホルティなどの権威主義的な政権が支配していました。
現在の東欧のポピュリズムは冷戦崩壊後の体制変革による経済格差の拡大によるところが大きい。そして100年前に東欧の権威主義的政権は独立後の社会的・経済的混乱の収拾を掲げていました。
東欧のポピュリズム政権についても注視していく必要がありそうですね。
投稿: balthazar | 2022年9月27日 (火) 21時11分