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2022年9月20日 (火)

裁量労働制の見直し@『労基旬報』2022年9月25日号

『労基旬報』2022年9月25日号に「裁量労働制の見直し」を寄稿しました。

冒頭の記述は、既に若干古びたところもありますね。

 現在、厚生労働省の労働政策分科会労働条件分科会は山のような課題を積み上げられた状態にあります。官邸から下りてきた案件として2020年8月からデジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の是非が議論され、労働側の強い反発で2021年4月にいったん議論が中断した後、2022年3月から再開されていますが、あまり進展はないようです。そこに、労働基準局がここ数年にわたって研究会等で検討を重ねてきたテーマが続々と提起されてきています。2022年4月には、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しといわゆる多様な正社員の雇用ルールに関わる「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書と、いわゆる解雇の金銭解決に関わる「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が出されていますし、同年7月には「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書が出されています。今のところまずは無期転換ルールから細かい議論を始めているようですが、他の議論がいつから始まるのかはまだよく見えません。
 その中で、もっとも新しいトピックが裁量労働制を中心にした労働時間制度の見直しの議論です。これは曰く因縁がありまして、2018年の働き方改革に係る法改正時に、その中の労働基準法改正案の原案には、長時間労働是正のための時間外上限の設定、高度プロフェッショナル制度の導入に加えて、企画業務型裁量労働制の対象者に提案型営業を加えるという改正も含まれていたのです。その法案提出に先立つ国会審議の中で、当時の安倍首相や加藤厚労相が、裁量労働制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いというデータもあると述べたのですが、その根拠となったデータに疑問が呈されたため、国会提出法案から削除されるといういきさつががあったのです。
 そこで、厚生労働省は制度見直しの議論をする前段階として、まずは2018年9月に裁量労働制実態調査に関する専門家検討会(学識者7名、座長:西郷浩)を設置し、どういう調査をするかを一から議論した上で、2019年10月に実査を行い、2021年6月に裁量労働制実態調査結果を公表しました。その後、同年7月からこれからの労働時間制度のあり方に関する検討会(学識者7名、座長:荒木尚志)を設置し、ようやく去る2022年7月に報告書をとりまとめたという経緯になります。
 この報告書は、まず基本的な考え方として、どのような労働時間制度を採用するにしても労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていくこと、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすること、労使当事者が十分に協議した上でその企業や職場、職務内容にふさわしい制度を選択、運用できるようにすること、を挙げています。
 そして裁量制以外の各労働時間制度についてはいずれもさらりと触れる程度のコメントをしています。例えば、働き方改革による時間外・休日労働の上限規制やフレックスタイム制は、改正法施行5年後の見直し規定に基づき、施行状況等を十分に把握し、検討すべし程度です。事業場外みなし労働時間制については、コロナ禍でテレワークが注目されたこともあり、「労使双方の多様なニーズに応じた働き方の実現や情報通信技術の進展、コロナ禍によるテレワークの普及といった状況変化等も踏まえこの制度の対象とすべき状況等について改めて検討が求められる」と、やや前向きな姿勢です。この関係で、「心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事から離れられず、仕事と私生活の区分が曖昧になることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていく」ことも提示しています。その他、管理監督者、年次有給休暇、勤務間インターバルなどにも少しずつ触れています。
 この検討会のそもそもの目的であった裁量労働制の見直しについては、これに比べるともう少し具体的な制度設計に関わるような記述が盛り込まれてきます。まず対象業務については、その範囲を経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討すべきとしています。なお対象労働者の要件については、現行指針で示されている3~5年程度の職務経験をより明確に定めるとしています。
 最重要なのが「労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保」という項目です。まずもって専門型・企画型いずれについても、使用者が労働者に対し制度概要等を確実に説明した上で、制度が適用される本人の同意を得るようにすべきとしています。また、裁量労働制の下で働くことが適切ではないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにすべきで、このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化すべきとしています。その際、同意をしなかったことや同意の撤回を理由とする不利益取扱いの禁止や、同意撤回後の処遇について労使で取決めをしておくこと、業務量が過大なために裁量が事実上失われるような場合や、業務に没頭して働き過ぎとなり健康影響が懸念されるような場合など一定の基準に該当する場合には、本人による撤回がなくても、裁量労働制の適用を解除する措置を講ずるような制度設計を求めています。この裁量が失われる場合としては、業務量過大の他にも、効率的に仕事を進めて短時間で仕事を終えても使用者から追加業務の処理を命じられる場合(よくある話ですが)も取り上げ、「裁量労働制は,始業・終業時刻その他時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改めて明確化」すべきと述べています。本来同義反復のような話ですが、上記調査結果からすると、現実には裁量制といいながらそういう時間の裁量がないようなケースが多いからでしょう。
 もう一つの重要な柱が「労働者の健康と処遇の確保」という項目です。特に健康・福祉措置については、一般労働者には時間外・休日労働の上限規制があり、高度プロフェッショナルには選択制の制度が必須となっていますが、裁量制は却って手薄になっているので、メニューの追加や複数の措置の適用を求めています。また、処遇については、「実際の労働時間と異なるみなし労働時間を設定する一方、相応の処遇を確保せずに、残業代の支払いを逃れる目的で裁量労働制を利用することは制度の趣旨に合致しない濫用的な利用」だとした上で、「みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があることを明確化」すべきとしています。
 最後に労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度利用の確保に触れています。そもそも専門型は過半数代表との労使協定で、企画型は労使委員会の決議など、制度設計が整合的でないなど論点はいっぱいあり、ここは本格的に議論を始めると従業員代表制の問題につながるはずですが、そこは今後の課題の最後のところで中期的課題としています。
 この報告書が去る7月27日に労働政策審議会労働条件分科会に報告されたわけです。先述のように、まず無期転換ルール、多様な正社員、そして解雇の金銭解決、その傍らデジタルマネーと、課題が山積みの中で、労働時間制度についての本格的な議論がいつから始まるのかはまだ見通しが立ちませんが、いずれにしろ今後の議論の先行きを考える上で重要な政策文書であることは間違いありません。

 

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