幕の内弁当みたいな新書
『働き方改革の世界史』(ちくま新書)について、こういう味わいのある評価をしてくださる方がいました。
https://twitter.com/automatico625sr/status/1571069682777718786
読了、なんでこの本を買ったのか覚えていないのだけど、タイトルとは違って、色々な労働思想の本の紹介。各国の労働組合に関しての記述とかあって、興味深かったけれど一読では理解しきれなかったので、また読む予定。
働き方改革の世界史 (ちくま新書) 濱口 桂一郎
https://twitter.com/automatico625sr/status/1571070371201445889
新書にはサクッと読める入門書としての新書と、入門書なのだけどいろいろ入れたいものを少しずつ詰め込んだ幕の内弁当みたいな新書があり、この本は後者だった。
まあ、私の本はどれも、一見ターゲットを絞っているようなタイトルでも「幕の内弁当」ですね。
なお、ブクログでも少し前に、mamoさんという方の本書への書評が載っていました。
https://booklog.jp/users/marimero2/archives/1/4480073310
タイトルは、「働き方改革の世界史」であるが、内容は、「資本と労働の対立と協調の近代史」、もっといえば「経営と組合の関係の近代史 国際比較」みたいな感じで、タイトルと内容はかなり違うかな?
本を買うまえに、いわゆる「働き方改革」の本ではないことを確認していたので、とくにそこについては違和感はなかった。
が、驚いたのは、近代史が歴史的な流れを通じて描かれるわけではなくて、この分野の「古典」の議論を紹介しながら、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、いわゆる欧米型の制度や現実の歴史が議論される。
そうした欧米型のもつ問題点を考えたときに、なぜか理想として浮かんでくるのが日本型の雇用制度というのが驚き。
たしかに、日本型の雇用制度はいわゆる「日本型経営」の重要なパートということで、70~80年代には世界の注目を浴びたのだが、その後の日本経済の凋落にともなって、忘れられていく。
と言っても、世界的にこれがよいという制度があるわけではなくて、結果的には、新自由主義的な個人と企業との関係というところに帰着しつつあるのかな?
今となっては、なんだったかわからない日本型の経営というものがあって、バブル崩壊後、それは否定され、欧米的な経営への転換をずっと模索して、一部の会社はなんとかなったのかもしれないが、日本企業の大勢は良くも悪くも日本型雇用のシステムのなかでもがいているのが現状かな。
歴史とか、国の文化、企業文化のなかでできあがったものは、なかなか変えることは難しいわけで、「過去の栄光」へのノスタルジックな退行になってしまうリスクはありつつも、なんらかの形で「日本型経営」を今のコンテクストのなかで再活用しているのが大事なのかな?と思っている。
そんな日頃の考えを、労働、雇用関係という視点でもう一度確認できるような本だったな。
歴史的な記述がもう少し欲しい気はするが、「古典」を通じて、問題にアプローチすることで、理論的に問題を理解できたと思う。
ちなみに、ここで紹介されている古典は、読んだことのないもの、というか、そんな本があることも知らなかったもの。
結構、なるほど感はあった。
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