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2022年9月

2022年9月30日 (金)

再掲:「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号

昨日、東京地裁で下された判決が、75年前に作られた労働基準法の意外な空隙を明らかにしました。

https://www.sankei.com/article/20220929-ZLQI2VHQJNJBHEAZ63ZRUUSJWY/

平成27年、業務後に急死した家事代行兼介護ヘルパーの女性=当時(68)=を巡り、労働基準法が適用されない「家事使用人」との理由で労災と認めなかった渋谷労働基準監督署の処分は不当として、夫(75)が国に取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求を棄却した。

家事使用人は、個人の家庭から指示を受けて家事をする者とされ、労基法上は労働者とみなされない。

片野正樹裁判長は判決理由で、女性が東京都の訪問介護・家事代行サービス会社から利用者の家庭に派遣され、介護や家事に従事したが、家事に関する雇用契約はこの家庭と結んでおり、会社の業務とは認められないと指摘。女性は家事使用人に該当するとした。

訴状などによると、女性は27年5月、「要介護5」の利用者宅に泊まり込んで約1週間ほぼ休みなく働き、勤務を終えた日の夜に入浴施設で急性心筋梗塞を発症して死亡した。夫は労災申請したが認められず、再審査も退けられた。

そう、家事使用人には労働基準法及びその関係法令の適用がないのです。

この件についてはいろいろ述べるべきことはありますが、実は8年前に別の文脈でこの問題について論じたことがありますので、とりあえずそれを再掲しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-8148.html


『労基旬報』8月25日号に寄稿した「家事使用人の労働基準法」です。


 長らく労働法の関心事項から外れ、ほとんど忘れ去られていたある問題が、昨今いくつかの動きから注目を集め始めています。それは、「家事使用人」への労働基準法適用除外の問題です。

 周知の通り、現行労働基準法第116条第2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定しています。これは、制定当時は適用事業の範囲を定める第8条の柱書きの但し書きでした。当時は17号に及ぶ「各号の一に該当する事業又は事務所について適用する」とした上で、従って事業や事務所に該当しない個人家庭は対象外であることを前提としつつ、適用事業であっても家事使用人には適用しないという立法でした。1998年改正で第8条は削除されたので、現在は単純に家事使用人という就労形態に着目した適用除外です。

 この規定の解釈が争われた珍しい事件の判決が昨年ありました。医療法人衣明会事件(東京地判平25.9.11労判1085-60)です。ベビーシッターを家事使用人ではないとしたその判断には法解釈的には大いに疑問がありますが、むしろ家事使用人であれば労働基準法を適用しなくてもよいという67年前の立法政策を今日なお維持し続ける理由があるのか?という法政策的な課題を突きつけていると考えるべきではないかと思われます。

 この問題を今日真剣に考えなければならなくなっている理由の一つが、今年6月に成立した改正出入国管理及び難民認定法において、高度専門職という在留資格を新設し、この高度人材外国人が外国人の家事使用人を帯同することを認めることとしたからです。帯同を認めること自体は出入国管理政策の問題ですが、こうして日本で就労することとなる家事使用人は、労働基準法が適用されないことになってしまいます。労働法の隙間をそのままにして外国人労働者を導入してよいのかという問題です。

 さらに、今年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2014」においては、「女性の活躍促進、家事支援ニーズへの対応のための外国人家事支援人材の活用」というタイトルの下、「日本人の家事支援を目的とする場合も含め、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人家事支援人材の入国・在留が可能となるよう、検討を進め、速やかに所用の措置を講ずる」という政策が示されており、家事使用人雇用の拡大が打ち出されているのです。

 一方、2011年のILO第100回総会で、家事労働者のディーセントワークに関する第189号条約が採択されているという状況もあります。全世界的に家事使用人の労働条件をめぐる問題が政策課題として意識されつつあるのです。

 この問題に対する関心は一般にはなお高くありませんが、東海ジェンダー研究所が出している『ジェンダー研究』第16号(2014年2月刊行)に掲載されている坂井博美氏の「労働基準法制定過程にみる戦後初期の『家事使用人』観」という論文は、『日本立法資料全集』(51-54)を利用して、家事使用人の適用除外規定がいかに、そしてなぜ設けられたのかを綿密に検証しています。これを見ると、労務法制審議会では労働側委員だけでなく学識経験者の末弘厳太郞や桂皋も「家事使用人に適用しないこと反対、別の保護規定を設けよ」と主張していますし、国会でも荒畑寒村が「日本の女中というものは、ほとんど自分の時間が無い。朝でも昼でも晩でも、夜中でも、命じられれば仕事をしなければならぬ。・・・これこそ私は本法によって人たるに値する生活を多少ともできるように、保護してやらなければならぬだろうと思うのであります」と質問するなど、問題意識はかなりあったようです。

 同論文で興味深いのは、米軍駐留家庭の日本人メイドをめぐる問題です。占領初期には他の占領軍労働者と同様日本政府が雇用して米軍が使用するという間接雇用でしたが、1951年にメイドは直接雇用となったのです。そうすると突然国家公務員から労働法の適用もない存在になってしまいました。彼女らは全駐労に加入して運動しましたが、適用除外を変えることはできませんでした。

 一方職業安定行政においては、1959年に神田橋女子公共職業安定所が「女中憲章」を作成し、次のような7項目の求人条件のガイドラインを示したそうです。
①労働時間は1日12時間を超えない。
②休日は月2日以上。このほか年間7日以上の有給休暇。・・・
 裏返せば、こうした最低基準すら保障されていないということです。

 一点余計なことを付け加えておきますと、労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがありました。派出婦というのは家政婦のことですから、家事使用人に該当します。派出婦会が適用事業であっても、派出婦が家事使用人である限り適用されないことになるので、わざわざ派出婦会を規定していた意味はよく理解できませんが、1998年に法第8条が各号列記でなくなったため、この規定も削除されました。それにしても、労働者派遣法が成立するはるか以前からその成立後もしばらくの間、「派出」という他の労働法令には存在しない用語が生き続けていたのも興味深いところです。この「派出」と職業安定法でいう「労働者供給」との関係はどのように整理されていたのでしょうか。 

 


 

2022年9月29日 (木)

強いストレスを感じる労働者53.3%@『労務事情』2022年10月1日号

B20221001 『労務事情』2022年10月1日号に連載「数字から読む日本の雇用」の第6回として「強いストレスを感じる労働者53.3%」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20221001.html

◎数字から読む 日本の雇用 濱口桂一郎
第6回 強いストレスを感じる労働者 53.3%

 

 

2022年9月28日 (水)

『Japan Labor Issues』10月号

Jli10 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』10月号が発行されました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2022/039-00.pdf

Trends News
The Kishida Administration’s Near-term Policy Line Focuses on “Investment in People”: Hammering out Measures to Promote Wage Increases and Require Gender Wage Gap Disclosure

● Research Article
Changes in Work/Life Situations and Psychological Distress during the Prolonged COVID-19 Pandemic in Japan TAKAMI Tomohiro

● Judgments and Orders Commentary
Regional Extension of Collective Agreements under Article 18 of the Labor Union Act The Regional Extension Decision by the Minister of Health, Labour and Welfare on September 22, 2021 YAMAMOTO Yota

● Series: Japan’s Employment System and Public Policy
Why Does the Older Population in Japan Work So Much? MORIYAMA Tomohiko 

高見具広さんのコロナ禍のワークライフバランスと心理的ストレスの論文、森山智彦さんの高齢者に関する論考に加えて、今回の判例紹介は判例じゃなくて、例のUAゼンセンの労働協約の地域的拡張適用を山本陽大さんが取り上げています。

日本でもこういう法律があり、稀にではあるけれども実際に動くことがあるということを世界に発信するのは意味のあることでしょう。

なお、ざっと見たら中労委(CLRC)が一部CRLCになっていますが、もちろん「Central Labor Relations Commission」です。

2022年9月27日 (火)

理性的な左翼と無責任な右翼

例によってソーシャル・ヨーロッパから、最近の欧州の極右の伸張ぶりについてのコメント、題して「Reasonable left, irresponsible right」(理性的な左翼、無責任な右翼)ですが、もちろんこのタイトル自体がある種の皮肉です。

https://socialeurope.eu/reasonable-left-irresponsible-right

Against this backdrop, while the left is trying to develop programmes and instruments to master the crises, to stem the decline in prosperity and the social costs for ordinary people, those on the hard right are betting on things getting even worse, playing up catastrophe. They hope this will benefit them, that they can thereby achieve electoral success—as with the right-wing radicals in Sweden recently or the right-wing bloc in Italy over the weekend.

こうした背景に対して、左翼が危機を収め、繁栄の衰退と普通の人々の社会的コストを止めるためのプログラムと装置の開発を試みる一方、極右の側はものごとをより悪化させる方に賭け、破局を宣伝している。彼らはこれが彼らに利益になり、それゆえ選挙の勝利につながると期待している。実際最近のスウェーデンや今週末のイタリアのように。

It’s no surprise, then, that the far-right contenders paint the ‘elite’ and its networks in dark colours. They rummage through supposedly suppressed news and hidden secrets. They identify, to their satisfaction, how the powerful secure their dominance and say all this is connected. They imagine themselves as if detectives smugly putting pieces of the political puzzle together, in the manner of a latter-day Hercule Poirot.

極右が「エリート」とそのネットワークを黒々と塗りたくるのは驚くことではない。彼らは押さえつけられたニュースやら隠された秘密やらを嗅ぎ廻る。権力者たちがその支配をいかに守っているか、そしてそれらがすべてつながっているかを(自分らの満足するように)明らかにする。彼らは彼ら自身をかつてのエルキュール・ポワロのようなやり方で政治的パズルのピースをしたり顔ではめ込む名探偵であるかの如く想像する。

It is not a completely new phenomenon to offer such a fundamental critique of ‘the system’. What is astonishing is that the far right has hijacked what used to be a prerogative of Marxist intellectuals—and of those activists who imagined a terminal catastrophe would some day issue in a socialist millennium.

こうした「ザ・システム」に対する根本的な批判を提供することは全く新たな現象ではない。驚くべきことは、極右がマルクス主義知識人、そして最終的破局がいつの日か社会主義の千年王国を生み出すと想像する活動家たちの特権であったものをハイジャックしてしまっということだ。

Right-wing propaganda has appropriated elements of left-wing critical thinking—the questioning of the conventional and familiar, of the all-too-obvious, and the healthy suspicion of power. Amazingly, the motifs of the enlightenment have been subverted to serve conspiracy theories and fanaticism, in the cause of authoritarianism and nationalism. 

右翼のプロパガンダは左翼の批判的思考の要素-伝統的で身近なもの、あまりにも当たり前のものに疑問を呈し、権力を健全に疑うことを我が物とした。驚くべきことに、権威主義とナショナリズムのために、啓蒙のモチーフは陰謀論と狂信主義に奉仕するために転覆されてきたのだ。

 

2022年9月26日 (月)

賃金はなぜ上がらないのか-労使関係論的説明

747_10 『日本労働研究雑誌』10月号は「労使関係における集団の意義」が特集です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

提言 労働組合運動再構築への視座 新川敏光(法政大学教授)

解題 労使関係における集団の意義 編集委員会

論文 日本的雇用慣行における集団─労使関係と賃上げを中心に 呉学殊(JILPT統括研究員)

労働法における集団の意義・再考─労働者代表による労働条件決定をめぐる法的課題 桑村裕美子(東北大学教授)

「男女平等参画」から「クミジョ」へ─労働組合における女性の代表性の現状と課題 本田一成(武庫川女子大学教授)

労使交渉におけるフォーマルとインフォーマル 青木宏之(香川大学教授)

経営側から見た「集団」の意義 田中恒行(社会保険労務士)

社会政策の形成と労働者集団の役割─戦後日本の労働組合による最低賃金制運動を中心に 兵頭淳史(専修大学教授)

「新しい働き方」における集団の意義─韓国20年間の軌跡からの示唆 安周永(龍谷大学教授) 

今回はどれも大変興味深い論考が揃っていますが、まずはJILPTの呉さんのは、今流行りの賃金はなぜ上がらないのかという話題にも言及しています。

・・・以上のように、日本の場合、労働組合が企業と締結した労働協約の拡張的適用がほとんどなく、また、賃上げ要求額を獲得するために労働争議に訴えることもない。その結果、集団力の発揮が限定されて、1990年代初頭バブル崩壊以降賃金が基本的に上がらなくなったと言えよう。しかし、企業の内部留保は積み上げられ、また、株主への配当金。配当率はほぼ一貫して増加している。結局、労働者・労働組合が集団の力を高めて、賃金を上げることができる企業の財務状況であるのにそれが実現されておらず、賃金が上がらなくなっているのである。労働組合が賃上げ要求とその実現に向けた運動を通じて、企業の発展を促す経営資源の役割をどこまで果たしたのか疑問が残らざるを得ない。もちろん、個別企業で労働組合ハ厳しい交渉を行うが、結果として自らの要求を獲得するほどの交渉力を発揮せず、企業の主張に理解を示し、寄り添ったからだと思われる。個別企業レベルで「よかれ」と思って行った労働組合の交渉力の抑制が日本全体の賃金引上げや経済にマイナス効果をもたらす合成の誤謬につながったのではないか。

この「個別企業レベルで「よかれ」と思って行った労働組合の交渉力の抑制が日本全体の賃金引上げや経済にマイナス効果をもたらす合成の誤謬につながった」という認識は、ほぼその通りだと思います。

また、田中さんの「経営側から見た「集団」の意義」では、今後専門能力保持者としてのジョブ型社員が増加してくると、「就労請求権やキャリア権が具体的に発生する可能性が高くなる」という指摘をしています。

 

メンバーシップ型社会は非実学的文科系の恩人

弁護士の堀新さんがまたえらく昔の台詞をほじくり返してきてますが、

https://twitter.com/ShinHori1/status/1573508971973210112

濱口桂一郎氏などが言っていたけど、大学で実用と無関係なことを学んでも一般的に企業に就職できるという状況が長い間存在してきたからこそ、大学の非実学的な学科にも学生が来ていたということは言えると思う。

就職状況が厳しくなれば、就職しやすそうな学科にばかり学生が集中するようになる。

https://twitter.com/ShinHori1/status/1573510795128078336

→変ないいかたになるけど、濱口氏の言い方を借りれば、大学に哲学や古代史の講座が存在できているのは、哲学や古代史の専門家にならず企業に就職する予定の学生も哲学や古代史の授業を受けるから(それでも一般就職できるから)ということになる。

もう16年も前のエントリですが、

=============================================

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c7cd.html 哲学・文学の職業レリバンス

一方で、冷徹に労働市場論的に考察すれば、この世界は、哲学や文学の教師というごく限られた良好な雇用機会を、かなり多くの卒業生が奪い合う世界です。アカデミズム以外に大して良好な雇用機会がない以上、労働需要と労働供給は本来的に不均衡たらざるをえません。ということは、上のコメントでも書いたように、その良好な雇用機会を得られない哲学や文学の専攻者というのは、運のいい同輩に良好な雇用機会を提供するために自らの資源や機会費用を提供している被搾取者ということになります。それは、一つの共同体の中の資源配分の仕組みとしては十分あり得る話ですし、周りからとやかく言う話ではありませんが、かといって、「いやあ、あなたがたにも職業レリバンスがあるんですよ」などと御為ごかしをいってて済む話でもない。

職業人として生きていくつもりがあるのなら、そのために役立つであろう職業レリバンスのある学問を勉強しなさい、哲学やりたいなんて人生捨てる気?というのが、本田先生が言うべき台詞だったはずではないでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html 職業レリバンス再論

哲学者や文学者を社会的に養うためのシステムとしての大衆化された大学文学部システムというものの存在意義は認めますよ、と。これからは大学院がそうなりそうですね。しかし、経済学者や経営学者を社会的に養うために、膨大な数の大学生に(一見職業レリバンスがあるようなふりをして実は)職業レリバンスのない教育を与えるというのは、正当化することはできないんじゃないか、ということなんですけどね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html なおも職業レリバンス

歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。

一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_8cb0.html 大学教育の職業レリバンス

前者の典型は哲学でしょう。大学文学部哲学科というのはなぜ存在するかといえば、世の中に哲学者という存在を生かしておくためであって、哲学の先生に給料を払って研究していただくために、授業料その他の直接コストやほかに使えたであろう貴重な青春の時間を費やした機会費用を哲学科の学生ないしその親に負担させているわけです。その学生たちをみんな哲学者にできるほど世の中は余裕はありませんから、その中のごく一部だけを職業哲学者として選抜し、ネズミ講の幹部に引き上げる。それ以外の学生たちは、貴重なコストを負担して貰えればそれでいいので、あとは適当に世の中で生きていってね、ということになります。ただ、細かくいうと、この仕組み自体が階層化されていて、東大とか京大みたいなところは職業哲学者になる比率が極めて高く、その意味で受ける教育の職業レリバンスが高い。そういう大学を卒業した研究者の卵は、地方国立大学や中堅以下の私立大学に就職して、哲学者として社会的に生かして貰えるようになる。ということは、そういう下流大学で哲学なんぞを勉強している学生というのは、職業レリバンスなんぞ全くないことに貴重なコストや機会費用を費やしているということになります。

これは一見残酷なシステムに見えますが、ほかにどういうやりようがありうるのか、と考えれば、ある意味でやむを得ないシステムだろうなあ、と思うわけです。上で引いた広田先生の文章に見られる、自分の教え子(東大を出て下流大学に就職した研究者)に対する過剰なまでの同情と、その彼らに教えられている研究者なんぞになりえようはずのない学生に対する見事なまでの同情の欠如は、この辺の感覚を非常に良く浮かび上がらせているように思います。

・・・いずれにせよ、このスタイルのメリットは、上で見たような可哀想な下流大学の哲学科の学生のような、ただ研究者になる人間に搾取されるためにのみ存在する被搾取階級を前提としなくてもいいという点です。東大教育学部の学生は、教育学者になるために勉強する。そして地方大学や中堅以下の私大に就職する。そこで彼らに教えられる学生は、大学以外の学校の先生になる。どちらも職業レリバンスがいっぱい。実に美しい。

 

 

 

 

年功的な高度プロフェッショナル

東京新聞が「「高度プロフェッショナル制度」が当初の説明とかけ離れた実態に 過労死ライン超えも 安倍元首相の主導で導入」という記事を書いていますが、

https://www.tokyo-np.co.jp/article/204671

専門職の人の労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度が、導入を主導した安倍晋三元首相らの当時の説明と懸け離れた運用になっている。経験が浅く希望もしていない人が高プロを適用された疑念が直近の調査で浮上。当時も今も所管の厚生労働相を務める加藤勝信氏は、当初の説明通りになっていない実態を指摘されても正面から答えず、制度を見直さない姿勢を示した。

希望していないのに適用というのは問題ですが、一方で「経験3年未満」が問題だ云々というのは、日本的な年功感覚とジョブ型社会との違いが浮き彫りになっている感もあります。

本紙は会見で加藤氏に、当初説明通りの運用になっていないことへの見解をただした。加藤氏は「経験3年未満」について、「新卒でも高度な仕事をする人はいる」と強弁。本人が希望していなかった問題には「(適用)期間中でも取りやめることは可能」とかわし、正面から答えなかった。

これは拙著で繰り返し述べてきたことですが、管理職とか専門職とかというのはジョブ型社会ではれっきとした「職種」です。すなわち、はじめから管理職とか専門職として募集し、応募し、面接し、採用し、就職し、就労します。

高度なプロフェッショナルな職種かどうかも、就職から退職まで一貫してそうであるか、それともそうでないか、なのであって、はじめは素人として雑役をやりながらだんだん専門職や管理職に『出世』するなどという発想は、日本的なメンバーシップ型社会特有のものです。

日本でも医療の世界はジョブ型雇用であって、はじめは医療事務をやり、数年後には看護師に配置転換され、さらに偉くなって医師に出世する、などという馬鹿なことはありません。試験を受けて資格を取れば別ですが。

ところが、日本社会の主流はそうじゃないので、「高度」な「プロフェッショナル」と称する制度でありながら、日本型人事管理に合わせて「経験3年未満」じゃなければ高度なプロフェッショナルじゃないということになっているので、こういう(日本社会にどっぷり浸かった人には全く当たり前だけれども、ジョブ型社会から見たら奇怪な)要件がついてきてしまうわけです。

ちなみに、大学教授は専門業務型裁量労働制の適用対象ですが、いうまでもなく経験3年未満じゃダメとはなっていませんね。そう言われたら烈火の如く怒り出す人が居そうですが。

 

2022年9月24日 (土)

岸田首相の「ジョブ型」

000113241 岸田首相がニューヨークの証券取引所で「ジョブ型」と口走ったという新聞報道を見て、官邸ホームページに見に行ったところ、なるほどこのように喋っておりました。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0922speech.html

日本の五つの優先課題を紹介する。
 第1に、「人への投資」だ。
 デジタル化・グリーン化は経済を大きく変えた。これから、大きな付加価値を生み出す源泉となるのは、有形資産ではなく無形資産。中でも、人的資本だ。
 だから、人的資本を重視する社会を作り上げていく。
 まずは労働市場の改革。日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す。
 これにより労働移動を円滑化し、高い賃金を払えば、高いスキルの人材が集まり、その結果、労働生産性が上がり、更に高い賃金を払うことができるというサイクルを生み出していく。
 そのために、労働移動を促しながら、就業者のデジタル分野などでのリスキリング支援を大幅に強化する。
 日本の未来は、女性が経済にもたらす活力に懸かっている。「女性活躍」が重要だ。若い世代の意識は明らかに変わってきた。この10年で、35歳未満の女性正社員の割合は、10パーセント、60万人増えた。この世代の人口が120万人減少したにも関わらずだ。
 我々は、女性の活躍を阻む障害を一掃する決意だ。なぜなら、正に女性が日本経済の中核を担う必要があるからだ。
 女性がキャリアと家庭を両立できるようにしなければならない。両方追求できない理由はない。これは、出生率低下を食い止めるためにも効果がある。来年4月にこども家庭庁を立ち上げ、子ども子育て政策を抜本的に強化していく。これは、日本の人口減少の構造的課題の克服を目指した画期的な政策である。
 賃金システムの見直し、人への投資、女性活躍。これら人的資本に係る開示ルールも整備することで、投資家の皆さんにも見える形で取組を進め、また、国際ルールの形成を主導していく。 

ほとんど箇条書きの項目だけの言葉なので、どこまで突っ込んだ話なのかはよく分かりませんが、「メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」という言葉からすると、入口から出口までの雇用システムの全面的取り換えというよりも、雇用制度は当面メンバーシップ型で新卒採用から定年退職までとしながらも、その中で賃金制度をジョブベースのものにするということを主に考えているようです。ただ、それにより「労働移動を円滑化」することで、中長期的には労総市場自体のジョブ型化も想定しているのかもしれません。

いずれにしても、安倍元首相の「同一労働同一賃金」は、大上段の看板の割に正社員と非正規労働者の賃金制度の(どちら側へのものであれ)接近ということにも結局向かうものではなかったので、そこは職務給に向けて動かしたいということのようです。これは、実は同じ広島県出身の宏池会の大先輩の池田勇人元首相時代の国民所得倍増計画で力説されていた話の62年ぶりの復活でもあるのですが、さてどうなりますか。

 

07101940_559fa1188fd9f ・・・・労務管理制度も年功序列的な制度から職能に応じた労務管理制度へと進化して行くであろう。それは年功序列制度がややもすると若くして能力のある者の不満意識を生み出す面があるとともに、大過なく企業に勤めれば俸給も上昇してゆくことから創意に欠ける労働力を生み出す面があるが、技術革新時代の経済発展を担う基幹的労働力として総合的判断に富む労働力が要求されるようになるからである。企業のこのような労務管理体制の近代化は、学校教育や職業訓練の充実による高質労働力の供給を十分活用しうる条件となろう。労務管理体制の変化は、賃金、雇用の企業別封鎖性をこえて、同一労働同一賃金原則の浸透、労働移動の円滑化をもたらし、労働組合の組織も産業別あるいは地域別のものとなる一つの条件が生まれてくるであろう。

 

 

2022年9月21日 (水)

ベルギーの労働組合の三原色

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これはベルギーの首都ブリュッセルの真ん中にあるモネ劇場の前の広場に、労働組合のデモ隊が集まった写真です。ここのところの急激なエネルギー価格の高騰を受けて、賃上げを抑制する賃金法の撤廃を求めて大集会ということのようですが、ここでは写真を彩っている「色」に注目。

https://socialeurope.eu/belgium-heat-rising-over-cost-of-living

手前の集団は赤い服を着て、赤い旗を振り、赤い風船を浮かべています。中間の集団は青い服を着て、青い旗を振り、青い風船を浮かべています。向こう側の集団は緑色の服を着て、緑色の旗を振り、緑色の風船を浮かべています。ちょうど光の三原色に相当する赤、青、緑は、それどれ、ベルギーの三大労働組合のシンボルカラーです。

赤は社会主義系労働組合(Fédération Générale du Travail de Belgique (FGTB)、Algemeen Belgisch Vakverbond (ABVV))、青は自由主義系労働組合(Centrale générale des syndicats libéraux de Belgique (CGSLB)、Algemene Centrale der Liberale Vakbonden van België (ACLVB))、緑はキリスト教系労働組合(Confédération des syndicats chrétiens (CSC)、Algemeen Christelijk Vakverbond (ACV))ですが、別にイデオロギーや宗教で喧嘩をするわけではなく、労働者の権利利益のために仲良く一緒にデモをしています。

労働組合というのはそういうものなのですよ。

2022年9月20日 (火)

裁量労働制の見直し@『労基旬報』2022年9月25日号

『労基旬報』2022年9月25日号に「裁量労働制の見直し」を寄稿しました。

冒頭の記述は、既に若干古びたところもありますね。

 現在、厚生労働省の労働政策分科会労働条件分科会は山のような課題を積み上げられた状態にあります。官邸から下りてきた案件として2020年8月からデジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の是非が議論され、労働側の強い反発で2021年4月にいったん議論が中断した後、2022年3月から再開されていますが、あまり進展はないようです。そこに、労働基準局がここ数年にわたって研究会等で検討を重ねてきたテーマが続々と提起されてきています。2022年4月には、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しといわゆる多様な正社員の雇用ルールに関わる「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書と、いわゆる解雇の金銭解決に関わる「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が出されていますし、同年7月には「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書が出されています。今のところまずは無期転換ルールから細かい議論を始めているようですが、他の議論がいつから始まるのかはまだよく見えません。
 その中で、もっとも新しいトピックが裁量労働制を中心にした労働時間制度の見直しの議論です。これは曰く因縁がありまして、2018年の働き方改革に係る法改正時に、その中の労働基準法改正案の原案には、長時間労働是正のための時間外上限の設定、高度プロフェッショナル制度の導入に加えて、企画業務型裁量労働制の対象者に提案型営業を加えるという改正も含まれていたのです。その法案提出に先立つ国会審議の中で、当時の安倍首相や加藤厚労相が、裁量労働制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いというデータもあると述べたのですが、その根拠となったデータに疑問が呈されたため、国会提出法案から削除されるといういきさつががあったのです。
 そこで、厚生労働省は制度見直しの議論をする前段階として、まずは2018年9月に裁量労働制実態調査に関する専門家検討会(学識者7名、座長:西郷浩)を設置し、どういう調査をするかを一から議論した上で、2019年10月に実査を行い、2021年6月に裁量労働制実態調査結果を公表しました。その後、同年7月からこれからの労働時間制度のあり方に関する検討会(学識者7名、座長:荒木尚志)を設置し、ようやく去る2022年7月に報告書をとりまとめたという経緯になります。
 この報告書は、まず基本的な考え方として、どのような労働時間制度を採用するにしても労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていくこと、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすること、労使当事者が十分に協議した上でその企業や職場、職務内容にふさわしい制度を選択、運用できるようにすること、を挙げています。
 そして裁量制以外の各労働時間制度についてはいずれもさらりと触れる程度のコメントをしています。例えば、働き方改革による時間外・休日労働の上限規制やフレックスタイム制は、改正法施行5年後の見直し規定に基づき、施行状況等を十分に把握し、検討すべし程度です。事業場外みなし労働時間制については、コロナ禍でテレワークが注目されたこともあり、「労使双方の多様なニーズに応じた働き方の実現や情報通信技術の進展、コロナ禍によるテレワークの普及といった状況変化等も踏まえこの制度の対象とすべき状況等について改めて検討が求められる」と、やや前向きな姿勢です。この関係で、「心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事から離れられず、仕事と私生活の区分が曖昧になることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていく」ことも提示しています。その他、管理監督者、年次有給休暇、勤務間インターバルなどにも少しずつ触れています。
 この検討会のそもそもの目的であった裁量労働制の見直しについては、これに比べるともう少し具体的な制度設計に関わるような記述が盛り込まれてきます。まず対象業務については、その範囲を経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討すべきとしています。なお対象労働者の要件については、現行指針で示されている3~5年程度の職務経験をより明確に定めるとしています。
 最重要なのが「労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保」という項目です。まずもって専門型・企画型いずれについても、使用者が労働者に対し制度概要等を確実に説明した上で、制度が適用される本人の同意を得るようにすべきとしています。また、裁量労働制の下で働くことが適切ではないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにすべきで、このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化すべきとしています。その際、同意をしなかったことや同意の撤回を理由とする不利益取扱いの禁止や、同意撤回後の処遇について労使で取決めをしておくこと、業務量が過大なために裁量が事実上失われるような場合や、業務に没頭して働き過ぎとなり健康影響が懸念されるような場合など一定の基準に該当する場合には、本人による撤回がなくても、裁量労働制の適用を解除する措置を講ずるような制度設計を求めています。この裁量が失われる場合としては、業務量過大の他にも、効率的に仕事を進めて短時間で仕事を終えても使用者から追加業務の処理を命じられる場合(よくある話ですが)も取り上げ、「裁量労働制は,始業・終業時刻その他時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改めて明確化」すべきと述べています。本来同義反復のような話ですが、上記調査結果からすると、現実には裁量制といいながらそういう時間の裁量がないようなケースが多いからでしょう。
 もう一つの重要な柱が「労働者の健康と処遇の確保」という項目です。特に健康・福祉措置については、一般労働者には時間外・休日労働の上限規制があり、高度プロフェッショナルには選択制の制度が必須となっていますが、裁量制は却って手薄になっているので、メニューの追加や複数の措置の適用を求めています。また、処遇については、「実際の労働時間と異なるみなし労働時間を設定する一方、相応の処遇を確保せずに、残業代の支払いを逃れる目的で裁量労働制を利用することは制度の趣旨に合致しない濫用的な利用」だとした上で、「みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があることを明確化」すべきとしています。
 最後に労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度利用の確保に触れています。そもそも専門型は過半数代表との労使協定で、企画型は労使委員会の決議など、制度設計が整合的でないなど論点はいっぱいあり、ここは本格的に議論を始めると従業員代表制の問題につながるはずですが、そこは今後の課題の最後のところで中期的課題としています。
 この報告書が去る7月27日に労働政策審議会労働条件分科会に報告されたわけです。先述のように、まず無期転換ルール、多様な正社員、そして解雇の金銭解決、その傍らデジタルマネーと、課題が山積みの中で、労働時間制度についての本格的な議論がいつから始まるのかはまだ見通しが立ちませんが、いずれにしろ今後の議論の先行きを考える上で重要な政策文書であることは間違いありません。

 

2022年9月18日 (日)

産業別・産業横断レベル団体交渉が重要な理由

対馬洋平さんがこう呟いているんですが、

https://twitter.com/yohei_tsushima/status/1571322164779044865

欧州議会の最低賃金規制には、部門別・産業横断的なレベルの団体交渉が重要ってさらっと書いてあるけど、それがなぜ大切なのかの説明をもう少ししてくれていたらいいのに😭

具体的には、先日欧州議会で可決されたEUの最低賃金指令案の第4条の規定ですが、

Article 4 Promotion of collective bargaining on wage-setting

1. With the aim of increasing the collective bargaining coverage and of facilitating the exercise of the right to collective bargaining on wage-setting, Member States, with the involvement of the social partners, in accordance with national law and practice, shall:
(a) promote the building and strengthening of the capacity of the social partners to engage in collective bargaining on wage-setting, in particular at sector or cross-industry level;
(b) encourage constructive, meaningful and informed negotiations on wages between the social partners, on an equal footing, where both parties have access to appropriate information in order to carry out their functions in respect of collective bargaining on wage-setting;
(c) take measures, as appropriate, to protect the exercise of the right to collective bargaining on wage-setting and to protect workers and trade union representatives from acts that discriminate against them in respect of their employment on the grounds that they participate or wish to participate in collective bargaining on wage-setting;
(d) for the purpose of promoting collective bargaining on wage-setting, take measures, as appropriate, to protect trade unions and employers' organisations participating or wishing to participate in collective bargaining against any acts of interference by each other or each other’s agents or members in their establishment, functioning or administration.
2. In addition, each Member State in which the collective bargaining coverage rate is less than a threshold of 80 % shall provide for a framework of enabling conditions for collective bargaining, either by law after consulting the social partners or by agreement with them. Such a Member State shall also establish an action plan to promote collective bargaining. The Member State shall establish such an action plan after consulting the social partners or by agreement with the social partners, or, following a joint request by the social partners, as agreed between the social partners. The action plan shall set out a clear timeline and concrete measures to progressively increase the rate of collective bargaining coverage, in full respect for the autonomy of the social partners. The Member State shall review its action plan regularly, and shall update it if needed. Where a Member State updates its action plan, it shall do so after consulting the social partners or by agreement with them, or, following a joint request by the social partners, as agreed between the social partners. In any event, such an action plan shall be reviewed at least every five years. The action plan and any update thereof shall be made public and notified to the Commission.

第4条 賃金決定に関する団体交渉の促進
1 団体交渉の適用範囲を拡大し、賃金決定に関する団体交渉権の行使を容易にする目的で、加盟国は労使団体を関与させつつ、国内法と慣行に従って、次の措置をとるものとする。
(a) とりわけ産業別又は産業横断レベルにおいて、賃金決定に関する団体交渉に関与する労使団体の能力の構築及び強化を促進すること、
(b) 労使団体が賃金決定に関する団体交渉に関してその機能を遂行するために適当な情報にアクセスできるという対等の立場で、両者間における賃金に関する建設的、有意味で情報に基づく交渉を奨励すること、
(c) 適当であれば、賃金決定に関する団体交渉権の行使を保護し、労働者や労働組合代表に対して賃金決定に関する団体交渉に参加し又は参加しようとしたことを理由とするその雇用に関する差別から保護ための措置をとること、
(d) 賃金決定に関する団体交渉を促進する目的で、適当であれば、団体交渉に参加し又は参加しようとする労働組合及び使用者団体に対して、その設立、運営又は管理において互いに又は互いの代理人若しくは構成員によるいかなる干渉行為からも保護する措置をとること。
2 これに加えて加盟国は、団体交渉の適用率が80%未満である場合には、労使団体に協議して又は労使団体との合意により、団体交渉の条件を容易にする枠組みを導入するものとする。これら加盟国はまた、労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により、団体交渉を促進する行動計画を策定するものとする。この行動計画は、労使団体の自治を最大限に尊重しつつ、団体交渉の適用率を段階的に引き上げる明確な日程表と具体的な措置を規定するものとする。この行動計画は定期的に再検討され、必要があれば労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により更新するものとする。いかなる場合でも少なくとも5年に1回は再検討するものとする。この行動計画及びそのすべての更新版は公表され、欧州委員会に通知されるものとする。

このなかの「とりわけ産業別又は産業横断レベルにおいて」という台詞について、もっと説明が欲しいということです。

詳しい解説ではありませんが、この指令案の冒頭に40項目に及ぶ前文が延々とついていて、その第16項に、本条に関わる説明が書かれています。

(16) While strong collective bargaining, in particular at sector or cross-industry level, contributes to ensuring adequate minimum wage protection, traditional collective bargaining structures have been eroding during recent decades, due, inter alia, to structural shifts in the economy towards less unionised sectors and to the decline in trade union membership, in particular as a consequence of union-busting practices and the increase of precarious and non-standard forms of work. In addition, sectoral and cross-industry level collective bargaining came under pressure in some Member States in the aftermath of the 2008 financial crisis. However, sectoral and cross-industry level collective bargaining is an essential factor for achieving adequate minimum wage protection and therefore needs to be promoted and strengthened.

(16) とりわけ産業別又は産業横断レベルの強い団体交渉は十分な最低賃金保護を確保することに貢献するが、伝統的な団体交渉構造は、なかんずく組合組織率の低い分野への経済構造のシフトや労働組合組織率の低下、とりわけ組合叩き慣行の帰結や不安定な非正規雇用の増大等により、近年の十数年間崩れてきつつある。加えて、産業別及び産業横断レベルの団体交渉は、2008年の金融危機の後始末の中でいくつかの加盟国においては圧迫を受けてきた。しかしながら、産業別及び産業横断レベルの団体交渉は、十分な最低賃金保護を達成するために不可欠の要素であり、それゆえ促進され強化される必要がある。

ということです。日本と異なりもともと産業別や産業横断レベルの団体交渉が一般的であったヨーロッパでも近年いろいろな理由で衰退傾向にあるので、ここでテコ入れしようという政治的文脈があるということですね。

(追記)

まったくどうでもいいことですが、相撲中継みていて、幕下上位で對馬洋という力士が出てくると、ついその次に四文字目を入れてしまいます。

 

 

 

 

 

2022年9月17日 (土)

幕の内弁当みたいな新書

9_20220917184601 『働き方改革の世界史』(ちくま新書)について、こういう味わいのある評価をしてくださる方がいました。

https://twitter.com/automatico625sr/status/1571069682777718786

読了、なんでこの本を買ったのか覚えていないのだけど、タイトルとは違って、色々な労働思想の本の紹介。各国の労働組合に関しての記述とかあって、興味深かったけれど一読では理解しきれなかったので、また読む予定。

働き方改革の世界史 (ちくま新書) 濱口 桂一郎

https://twitter.com/automatico625sr/status/1571070371201445889

新書にはサクッと読める入門書としての新書と、入門書なのだけどいろいろ入れたいものを少しずつ詰め込んだ幕の内弁当みたいな新書があり、この本は後者だった。

まあ、私の本はどれも、一見ターゲットを絞っているようなタイトルでも「幕の内弁当」ですね。

なお、ブクログでも少し前に、mamoさんという方の本書への書評が載っていました。

https://booklog.jp/users/marimero2/archives/1/4480073310

 タイトルは、「働き方改革の世界史」であるが、内容は、「資本と労働の対立と協調の近代史」、もっといえば「経営と組合の関係の近代史 国際比較」みたいな感じで、タイトルと内容はかなり違うかな?
 本を買うまえに、いわゆる「働き方改革」の本ではないことを確認していたので、とくにそこについては違和感はなかった。
 が、驚いたのは、近代史が歴史的な流れを通じて描かれるわけではなくて、この分野の「古典」の議論を紹介しながら、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、いわゆる欧米型の制度や現実の歴史が議論される。
 そうした欧米型のもつ問題点を考えたときに、なぜか理想として浮かんでくるのが日本型の雇用制度というのが驚き。
 たしかに、日本型の雇用制度はいわゆる「日本型経営」の重要なパートということで、70~80年代には世界の注目を浴びたのだが、その後の日本経済の凋落にともなって、忘れられていく。
 と言っても、世界的にこれがよいという制度があるわけではなくて、結果的には、新自由主義的な個人と企業との関係というところに帰着しつつあるのかな?
 今となっては、なんだったかわからない日本型の経営というものがあって、バブル崩壊後、それは否定され、欧米的な経営への転換をずっと模索して、一部の会社はなんとかなったのかもしれないが、日本企業の大勢は良くも悪くも日本型雇用のシステムのなかでもがいているのが現状かな。
 歴史とか、国の文化、企業文化のなかでできあがったものは、なかなか変えることは難しいわけで、「過去の栄光」へのノスタルジックな退行になってしまうリスクはありつつも、なんらかの形で「日本型経営」を今のコンテクストのなかで再活用しているのが大事なのかな?と思っている。
 そんな日頃の考えを、労働、雇用関係という視点でもう一度確認できるような本だったな。
 歴史的な記述がもう少し欲しい気はするが、「古典」を通じて、問題にアプローチすることで、理論的に問題を理解できたと思う。
 ちなみに、ここで紹介されている古典は、読んだことのないもの、というか、そんな本があることも知らなかったもの。
結構、なるほど感はあった。

 

 

 

 

 

2022年9月16日 (金)

NHKスペシャル“中流危機”を越えて

001_20220916161501 明日の土曜日と明後日の日曜日の夜、NHKスペシャル“中流危機”を越えてが放送されます。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/V93X848VQ1/

“中流危機”を越えて 「第1回 企業依存を抜け出せるか」

初回放送日: 2022年9月17日

 

かつて一億層中流と呼ばれた日本で、豊かさを体現した所得中間層がいま、危機に立たされている。世帯所得の中央値は、この25年で約130万円減少。その大きな要因が“企業依存システム”、社員の生涯を企業が丸抱えする雇用慣行の限界だった。技術革新が進む世界の潮流に遅れ、稼げない企業・下がる所得・消費の減少、という悪循環から脱却できずにいる。厳しさを増す中流の実態に迫り、解決策を模索する2回シリーズ。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/GQM97MXGVW/

“中流危機”を越えて 「第2回 賃金アップの処方せん」

初回放送日: 2022年9月18日

 

賃金アップに繋がる成長産業を生むため、社員の学び直し“リスキリング”に挑む日本企業や、パートタイマーの管理職登用など正社員と非正規雇用の格差縮小に努める小売業大手の最新の動き。ドイツは国を挙げた取り組みで、自動車工場を解雇された労働者がIT企業に転職し、新たな収入を確保。オランダは労働者の半数近くいるパートタイムが、正社員と同等の時間給や手当を手にし、女性の社会進出も進む。賃金アップのカギは!?

リンク先には短い予告動画もあります。

なんでNHKの番組の宣伝をしているのかというと、JILPTがいささか関わっているからです。中身は見てのお楽しみですが、JILPTがNHKと共同調査した結果は、本日アップされていますので、番組を見るついでにちらと目を通していただければ幸いです。

https://www.jil.go.jp/press/documents/20220916.pdf

― 「中流の暮らし」を送るのに必要な年収を 600 万円以上とする割合が高く、過半数(55.7%)は「中流より下の暮らしをしている」と回答。4割弱は「親より経済的に豊かになれない」と考えており、そうした個人は「日本では、努力さえすれば誰でも豊かになれる」という考えに否定的な傾向 ―

(追記)

と思ったら、台風14号のせいで放送延期になったという連絡が・・・・・

 

 

 

 

「コロナ禍のどさくさ」

Jiei_20220916094101 先週から日経新聞のやさしくない「やさしい経済学」で、仲修平さんが「自営業の変化と働き方」を書かれていますが、今朝の回では私の名前も出てきました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0166Z0R00C22A8000000/

・・・そのためには、就業形態に関係なく働く人を支援するような仕組みが不可欠でしょう。濱口氏の言葉を借りると、「コロナ禍のどさくさ」による制度の構築ではなく、就業者全体を支える制度の設計です。

 

 

 

育児休業給付の法政策@『季刊労働法』2022年秋号(278号)

278_h1768x1086_20220916085401 『季刊労働法』2022年秋号(278号)に、「労働法の立法学」第65回として「育児休業給付の法政策」を執筆しました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-3ba57a.html

はじめに
 
 新型コロナウイルス感染症が急速に蔓延し始めたさなかの2020年3月に成立し、翌4月に施行された改正雇用保険法により、育児休業給付は失業等給付から独立し、子を養育するために休業した労働者の生活及び雇用の安定を図るための給付と位置付けられました。そしてこのため、育児休業給付の保険料率(1000分の4)を設定するとともに、経理を明確化し、育児休業給付資金を創設することとされました。
 その後の2年半の間、日本の雇用政策はコロナ禍に振り回されたこともあり、この育児休業給付の問題はあまり注目を集めることはなかったようですが、労働法政策の観点からは興味深い論点がいくつもあります。今回は育児休業給付の展開を中心に置きつつ、それに関連するさまざまな制度の来歴を見ていきたいと思います。なお、本誌2020年秋号(270号)で取り上げた介護休業等に関わる問題は原則として対象外です。
 
1 育児休業と関連制度の展開
 
(1) 育児休業法の制定
(2) 深夜業と時間外労働の免除請求権
(3) 子の看護休暇
(4) 有期雇用者の育児休業請求権
(5) 育児休業期間
(6) パパクォータから父親出産休暇へ
(7) 勤務時間の短縮と所定外労働の免除
(8) その他

2 少子化対策
 
(1) エンゼルプラン
(2) 次世代育成支援対策推進法

3 育児休業給付
 
(1) 育児休業奨励金
(2) 育児休業法制定時の議論
(3) 育児休業給付の創設
(4) 育児休業給付の展開
(5) 育児休業給付の実績
(6) 育児休業給付の独立
(7) 出生時育児休業給付金
(8) 雇用保険制度研究会

4 その他の子育て支援関連制度
 
(1) 健康保険法による出産手当金等
(2) 保育サービス

5 子育て支援に関する改革論
 
(1) 子ども・子育て新システム検討会議
(2) 産前・産後・育児休業給付案とその消滅
(3) 仕事・子育て両立支援事業
(4) 2022年の新たな議論

 2021年11月に官邸に設置された全世代型社会保障構築会議では、再び育児休業給付の位置づけの見直しの議論が提起されています。例えば2022年3月の第2回会合では、「育児休業給付を雇用保険制度の給付としていることを見直し、より個人としての取得の権利を確立し、非正規雇用者を含めて子育て支援を前面に出した制度に見直していくべき」という意見が示されています。同年5月にとりまとめられた「議論の中間整理」では、この考え方は明確には示されていませんが、「子育て・若者世代が子どもを持つことによって収入や生活、キャリア形成に不安を抱くことなく、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境を整備するために必要となる更なる対応策について、国民的な議論を進めていくことが望まれる。その際には、就業継続している人だけではなく、一度離職して出産・育児後に再び就労していくケースも含め、検討することが重要である」という一節には、その発想が感じられます。今後どのような方向に進むかはまだ分かりませんが、子ども・子育て新システム構想で一時打ち出された案が再び登場する可能性は高そうです。実際、全世代型社会保障構築本部事務局総括事務局長の山崎史郎氏(前駐リトアニア大使)は、2021年11月に出版した小説『人口戦略法案』(日本経済新聞出版)の中で、育児休業給付等と児童手当を合体させた「子ども保険」の創設を訴えています。
 一方、内閣府の経済財政諮問会議では、2022年4月の第4回会議で有識者議員から「育児休業給付は、支給対象が雇用保険の被保険者に限定されている。必要な者には、制度にかかわりなく、子供の養育のために休業・離職していずれ復職するまでの間、給付が行われるようにすべき」との提起がなされています。同年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)では、「こども政策については、こどもの視点に立って、必要な層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」とした上で、わざわざ「安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」と述べており、育児休業給付等をベースにした新たな社会保険制度(=子ども保険)の導入がややぼかした表現ながら暗示されているように見えます。
 こういった動きが今後どのような法政策につながっていくのか興味深いところです。

 

2022年9月14日 (水)

EUの強制労働生産物の流通禁止規則案

本日、欧州委員会は強制労働による生産物がEU市場で流通することを禁止する規則案を提案しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_5415

The Commission has today proposed to prohibit products made with forced labour on the EU market. The proposal covers all products, namely those made in the EU for domestic consumption and exports, and imported goods, without targeting specific companies or industries. This comprehensive approach is important because an estimated 27.6 million people are in forced labour, in many industries and in every continent. The majority of forced labour takes place in the private economy, while some is imposed by States. 

欧州委員会は本日、EU市場における強制労働による生産物の流通を禁止する提案を行った。本提案はすべての生産物、すなわちEUの域内消費用、輸出用、及び輸入品に、特定企業や産業に限ることなく適用される。この包括的アプローチは、多くの産業や大陸において2760万人もの人々が強制労働させられていると推計されるが故に重要である。強制労働の多くは民間経済で生じているが、国家により課せられているものもある。・・・

日本でも人権デューディリジェンスの動きがひっそりと始まったばかりですが、EUではかなり強硬な政策が続々ととられ始めています。

 

 

 

本日、欧州議会が最低賃金指令案を可決

20220909pht40127cl 6月に欧州議会と閣僚理事会の間で合意されていた最低賃金指令案が、本日欧州議会の総会で、賛成505、反対92、棄権44で可決されたようです。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220909IPR40138/parliament-adopts-new-rules-on-adequate-minimum-wages-for-all-workers-in-the-eu

Parliament adopts new rules on adequate minimum wages for all workers in the EU
遠からずEU官報に掲載されて、正式に公布されることになると思われます。

 

2022年9月13日 (火)

日本の人権デュー・ディリジェンス@WEB労政時報

WEB労政時報に「日本の人権デュー・ディリジェンス」を寄稿しました。

近年世界的に人権デュー・ディリジェンスの問題が注目されています。この問題については、JILPTの月刊誌『ビジネス・レーバー・トレンド』2021年8・9月号が「ビジネスと人権」という特集を組み、米英独仏の取り組み状況を詳しく解説しています。またEUにおいても2022年2月に「企業の持続可能なデューディリジェンスに関しかつ公益通報者保護指令を改正する欧州議会と理事会の指令案」が提案されたところです(拙著『新・EUの労働法政策』[労働政策研究・研修機構]参照)。こうした中で、日本政府もようやく近年動きを始めました。・・・・・

 

 

 

『季刊労働法』278号

278_h1768x1086 『季刊労働法』278号(秋号)の案内が労働開発研究会HPにアップされているので、ご紹介。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/10235/

特集:改正雇用保険法の評価と課題
●今号では、改正雇用保険法に焦点をあてます。雇用保険の財源、保険料、セーフティネットとしての役割などといった側面から検討します。改正法の意義、労使の立場から見た評価、経済学から見た課題など、雇用保険の未来像を展望します。 

雇用保険の国庫負担 九州大学大学院教授 丸谷 浩介
雇用保険制度のあり方-労働者の立場から- 日本労働組合総連合会 総合政策推進局長 冨髙 裕子
雇用保険法改正について 労働政策審議会雇用保険部会委員 平田 充
経済学から見た雇用保険制度 法政大学教授 酒井 正 

【第2特集】介護労働をめぐる諸問題
●第2特集では、介護、社会福祉施設での労働問題を取り上げます。コロナ禍でエッセンシャルワーカー、キーワーカーの重要性が浮き彫りになり、政治による賃上げが議論されていますが、それでもなお不十分などという声も上がっています。介護労働の法的課題、施設経営者側からみた課題、組合の視点からの課題を検討します。

 【第2特集】介護労働をめぐる諸問題
「介護」労働論・序説 明治大学教授 小西 啓文
労働組合から見た介護業界を取り巻く課題について UAゼンセン 総合サービス部門 医療・介護・福祉部会事務局長 山﨑 茂治
経営者側から見た介護労働の課題
つしま医療福祉グループ代表 対馬 徳昭

■論説■
職業能力開発促進法改正の意義と課題 佐賀大学教授 早川 智津子
コロナワクチン接種の義務づけを命じる連邦の労働安全衛生基準の効力 2022年1月13日のアメリカ連邦最高裁判決(NFIB v. OSHA)について 一橋大学特任教授 中窪 裕也
連邦労働裁判所のクラウドワーカー判決 ボーフム大学名誉教授 ロルフ・ヴァンク・学習院大学教授(訳、解説) 橋本 陽子・名古屋大学名誉教授(コメント) 和田 肇
諸外国におけるハラスメントへの法的アプローチ ―セクシュアル・ハラスメント、「差別的ハラスメント」と「いじめ・精神的ハラスメント」の横断的検討―(一) 山形大学講師 日原 雪恵

■新連載 要件事実で読む労働判例―主張立証のポイント■
連載開始にあたって 東京大学教授 山川 隆一
不合理な待遇格差に関する損害賠償請求の要件事実 ―メトロコマース事件・最三小判令和2・10・13民集74巻7号1901頁を素材に 東京大学教授 山川 隆一

■労働法の立法学 第65回■
育児休業給付の法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

■イギリス労働法研究会 第41回■
イギリス労働関連法制における履行確保機構の統合 立命館大学大学院法学研究科博士課程後期課程 西畑 佳奈

■アジアの労働法と労働問題 第49回■
カンボジアの労働事情 在カンボジア日本国大使館 二等書記官 和泉 真行

■判例研究■
傷病休職における休職事由消滅の判断と合理的配慮 日東電工事件・大阪高判令和3年7月30日労判1253号84頁 弁護士 千野 博之
救済命令における裁量権の限界と誠実交渉義務 山形県・県労委(国立大学法人山形大学)事件・最判令和4年3月18日民集76巻3号登載予定、労判1264号20頁 弁護士・札幌学院大学特別任用准教授 加藤 正佳
「直接労使関係に立つ者」論と団体行動の刑事免責 連帯ユニオン関西生コン支部(刑事・大阪二次)事件・大阪高判令和4年2月21日 名古屋経済大学教授 榊原 嘉明

■重要労働判例解説■
誓約書に基づく労働者の退職後の競業避止義務 鍵開錠事件(知財高判令和元・10・9 LEX/DB 25570512)信州大学特任教授 弁護士/NY 州弁護士 松井 博昭 

私の「育児休業給付の法政策」は、最後のところでいま全世代型社会保障構築会議で進められようとしている議論にも触れています。

ちょうど今朝の読売新聞がこの件について報じていますね。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220912-OYT1T50320/(「子ども財源」本格議論へ 給付拡充など 社保料に上乗せ案も)

 

2022年9月12日 (月)

国家基本問題研究所での講演概要

先週金曜日、国家基本問題研究所に呼ばれて講演しましたが、その時の講演概要が同研究所のHPにアップされているのでご紹介。

https://jinf.jp/news/archives/39008

220909 9月9日、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構研究所長が国基研企画委員会でゲストスピーカーとして講話し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。濱口所長はわが国の雇用契約の実態や労働政策などを含めて語った。講話の概要は以下の通り。 

ここ数年ほど「ジョブ型」という言葉が流行している。これまでの日本の仕組みは古臭いとして、新商品としてのジョブ型を売り込もうとしているかのようだが、実はジョブ型こそ古臭い。産業革命以来の近代社会の企業組織はジョブ型であった。高度成長期の日本の労働政策(国民所得倍増計画など)もジョブ型志向と言える。
そもそもジョブ型とは、19世紀英国のトレードユニオン(職業組合)に由来し、20世紀アメリカで完成した仕組みで、企業側がその事業をジョブ(職務)に分割し、そこに労働者を当て嵌めるというシステム。従って、雇用契約に労働者が遂行すべき職務が明記される。逆に日本では雇用契約に職務は明記されず、使用者の命令によって定まる。職務ではなく成員(メンバーシップ)として雇用されるため、これをメンバーシップ型と称する。就職してから様々な配置を経験して能力を伸ばす方式である。
雇用の入口と出口でいうと、就職・採用が入口で、解雇・退職が出口にあたる。
ジョブ型の入口(採用)は、企業が必要の都度行い、その際職務を遂行し得る能力を証明する職業資格の有無を問う。そのため、無資格者には不利に働く。他方、メンバーシップ型の日本では新卒者を一斉に採用する。新卒学生は就職面接で自分は「何ができるか」ではなく「できるようになる素材」であることを強調する。これは大学で学んだ教育内容が就職後の職業生活に殆ど意義を持たない仕組みがあるからで、メンバーシップ型企業がそれを要求するのである。
確かに同じ新卒採用でも文科系学生と技術系で違いはある。特に医療系はかなりジョブ型に近い。しかし実態として文科系の学生は殆どメンバーシップ型で就職している。
ジョブ型の出口(解雇)では、ジョブの消失を理由とする整理解雇は最も正当な解雇だが、メンバーシップ型の日本では極悪非道となる。能力不足解雇も、ジョブ型ではできると言って採用したのにできない奴が対象だが、日本では新卒が最初はできないのは当たり前で、それを指導するのが上司の務め、逆に長年勤続した中高年が無能呼ばわりされる。
そもそも、ジョブ型では職務評価により、座る椅子(ジョブ)に値段を付けるが、日本では人に値段を付ける仕組み。これは戦時下の賃金統制令に始まり、戦後労働組合が年齢と勤続年数による生活給を確立した。ある時期まではこのシステムは有効であったが、中高年の賃金が高くなりすぎ弊害となったため、成果主義と称してジョブ型のつまみ食いをしているが、却って弊害が大きい。
そもそもジョブ型、メンバーシップ型のどちらが絶対的に良いとか悪いというものではない。ただ、時代環境や社会状況によってメリットとデメリットが現れる。高度成長期にはメリットがあったが、過去30年間はメンバーシップ型のマイナス面が露呈している。 

 

 

2022年9月 9日 (金)

『労働法律旬報』No.2015

612404 たまたまでしょうが、古川・川口の『新版 労働協約と地域的拡張適用』が届いた日に、同じネタの国際比較の特集が載っている『労働法律旬報』も届きました。

https://www.junposha.com/book/b612404.html

[特集]労組法18条の地域的一般的拘束力に関する国際比較
労働協約の地域的拡張適用の国際比較の意義=浜村 彰…………06
フランスにおける労働協約の拡張適用制度=細川 良…………08
ドイツは一般的拘束力宣言制度の改革に成功したのか?―使用者団体の認識にみる、なおも残された課題=後藤 究…………19

連合総研から長崎県立大学に移った後藤究さんのドイツの論文は、一ひねりも二ひねりもしたもので、ドイツで一般的拘束力制度はほとんど活用されていないという実情を語っています。

 

 

 

 

古川景一・川口美貴『新版 労働協約と地域的拡張適用 ― 理論と実践の架橋』

Large_362e959c65fe446d9024e108e1831611 古川景一・川口美貴『新版 労働協約と地域的拡張適用 ― 理論と実践の架橋』(信山社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10018362.html

当該地域的拡張適用の実践を通じて析出された新たな課題を検討し、旧版の理論を修正・補充し、「実践から理論への再々架橋」を行うべく、旧版を全面的に改訂。本書が労使双方に活用され、企業横断的な集団的労使関係法に「もっと光を!」の実現と、社会全体における労働者の労働権保障の引き上げと安定化に寄与すべく企図。

旧版は2011年に出され、その時に私は「これはすごい本です。お二人の「再構築」論文シリーズの一環として緻密な議論を展開しているところも膨大ですが、そういう労働法学界の枠を超えて、労使関係に関心を持つすべての人が読むべき労使関係論のモノグラフでもあります」と褒め称えておりましたが、今回はいうまでもなく、UAゼンセンの大型家電量販店での実践を踏まえて大幅に増補されています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-20a9.html

二人の著者によるはしがきと松浦UAゼンセン会長による巻頭の辞が、目次とともにこちらで読めますが、

https://binb.bricks.pub/contents/7dada330-01e6-4605-98aa-749b69a6c4f7_1662027835/speed_reader

企業別組合に占められている日本においても、それを産業レベルの労働条件規制に引き上げていこうという労働組合本来の試みはこのように行われているのです。

・・・・これまでも産業別組織として組合員の労働条件を横断的に高めるための努力を重ねてきました。しかしながら、企業別組合の活動が主体となっている日本では、企業間を横断する労働協約を締結することは難易度の高い課題です。また、企業別の労使関係だけでは、一つの企業別労使が労働条件を大幅に改善しても、その労働協約に普遍的効力を期待することはできず、労務コストの上昇などが企業間競争に影響を及ぼし、せっかく積み上げた労働条件の改善を取り崩さざるを得ない局面となってしまいます。

この問題の発生を防ぐためには、企業横断的な労働協約で、労働者相互間及び事業者相互間での公正競争を実現させ、労働条件を企業間競争の道具とさせない方策が必要です。その具体化が労働組合法第18条「労働協約の地域的拡張適用」の取り組みです。・・・・

まったくそのとおりなんですが、とはいえ、それがかろうじてできるのはUAゼンセンくらいで、それも数年に一回程度。そこで、私は最近、もっと普通の組合でも取り組める可能性のあるものとして、最低賃金法に規定されている特定最賃(産別最賃)を使ってみたら?といっているのです。

もともと産別最賃は、企業別組合主体で産業レベルの労働条件設定ができない日本の組合に何とか手助けをしてあげようといういわば産別協約もどきなわけですが。本書を読んで「いやぁ、UAゼンセンはすごいなあ、でもうちの組合にはとてもとても」というところこそ、真剣に考えてほしいと思います。

 

 

 

 

 

国家基本問題研究所で講演

本日、国家基本問題研究所で「ジョブ型雇用社会とは何か」を講演してまいりました。中身はいつものと同じですが、私の話を聞かれていた櫻井よしこさんらが感想を語っている短めの動画がyoutubeにアップされていたので、紹介しておきます。

https://twitter.com/JP_jinf/status/1568165712912580609

世界の中で日本だけ賃金も物価も上がらない理由ー日本経済を陥れた「労使協調路線」という呪縛@黒崎亜弓

東洋経済オンラインに、黒崎亜弓さんが「世界の中で日本だけ賃金も物価も上がらない理由ー日本経済を陥れた「労使協調路線」という呪縛」という記事を書かれています。わたくしへのインタビュー記事です。

https://toyokeizai.net/articles/-/616244

Img_edbd2491c101a5061e17c37e3dd2850a3642 ・・・では日本だけがなぜ、賃金も物価も上がらない状態が続いてきたのだろうか。
 「それはオイルショックの時の成功体験が呪縛となっているからです」
 こう見立てるのは、労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎さんだ。最近取り沙汰される「ジョブ型雇用」という言葉の“生みの親”でありながら、ちまたのジョブ型推進論の誤解を解くのに忙しい。濱口さんは日本の雇用システムを「メンバーシップ型」と名付け、他国の「ジョブ型」との違いを整理している。
 オイルショックといえば1970年代の出来事。もはや歴史の領域だが、今とどうつながるのか。
 「当時、世界中がインフレと賃上げの悪循環に苦しみましたが、日本は『賃金を上げない分、価格も上げない』ことを労働者と経営側が社会契約とすることで悪循環を断ち、いち早く経済を安定させることができました。ただ、成功したゆえに、賃上げを我慢することが呪縛と化してしまった。賃上げは、1人で『賃金を上げろ』と要求しても負けるだけ。だから、みんなで引き上げさせる。これが賃上げの出発点です」
 勇気ある人物が「私の賃金を上げないなら仕事はしないぞ」と声を上げたとする。経営側は余裕だ。「はい、どうぞ。代わりはいくらでもいる」とスルーすればいい。
 「そこで、代わりがいなくなるように労働者は労働組合を作って団結し、『賃金を上げないのなら誰も働かない』と経営側に圧力をかけるのです。言ってみれば、徒党を組んだ恐喝ですね」(濱口さん、以下同じ)
 なんだか物騒だが、19世紀のヨーロッパでは、労働者たちが賃上げを要求して一斉に働かない行為、つまりストライキは犯罪とされ、民事的な責任も問われたそうだ。それが20世紀にかけて労働者の権利として認められてきたという歴史がある。
 アメリカでは、労働組合による団体交渉は、労働者が談合して自分の売り物である労務の単価=賃金をつり上げる行為であるがゆえに、独占禁止法違反とみなされた。労働組合を独禁法の適用除外とするまでには苦闘があった。
 「団体交渉とは価格のつり上げ。経済原理に任せていたら起こらない行為が賃上げなんです。・・・・・

 

 

 

 

2022年9月 8日 (木)

習近平の歴史観が鮮明に-潘岳『東西文明比較互鑑-秦・南北朝時代編』

9784434296925 『労働新聞』に月1回で寄稿している書評コラムですが、今回は潘岳『東西文明比較互鑑-秦・南北朝時代編』です。

https://www.rodo.co.jp/column/136494/

潘岳という名前は、よほどの中国政治の専門家でないとあまり知られていないかも知れませんが、今年6月に国家民族事務委員会主任に就任したばかりの中国の少数民族政策の大元締めです。

 コロナ禍の収まらぬ現代世界で、プーチンのロシアがウクライナに侵攻し、習近平の中国はウイグルなど少数民族を抑圧し、香港を圧殺し、台湾を恫喝する。そうした帝国主義的行動の背後にどのような思想があるのか、いかなる歴史観に動かされているのか、隣国日本の住人として関心を持たざるを得ない。ウクライナ民族の存在を否定し、大ロシア民族の裏切り者とみなすプーチン史観はまだ分かりやすい。しかし、声高に「中華民族」の統一を掲げる習近平史観は分かりにくい。
 それをこの上なく明確に解説するのが本書だ。著者の潘岳は中国共産党第19期中央委員会候補委員で、本書刊行時点では国務院僑務弁公室主任だったが、今年6月に国家民族事務委員会主任に就任している。中国の少数民族政策の大元締めだ。その彼が、戦国時代とギリシャ、秦漢とローマ、中国の五胡侵入と欧州の蛮族侵入、という3つの時代の歴史を描きながら、「中華民族」イデオロギーの正当性を主張する。彼の提示する中核概念は「大一統」だ。人種や宗教の違いによって分裂してきた西欧文明と異なり、中国文明は夷狄と漢族が入り混じりながら統一を目指して造り上げてきた、というのだ。
 その焦点は南北朝時代のとりわけ五胡十六国といわれる北方異民族が作った中華風王朝に向けられる。彼が繰り返し説くのは、チベット系のや羌、トルコ系の鮮卑、そして匈奴出身の北朝の君主たちが、漢族の南朝よりも「大一統」を目指し、そのために先祖の風習を捨てて漢化に努めたということだ。ローマ帝国崩壊後のゲルマン族の諸国家はキリスト教のみが共通の「複数エスニック集団の分割世界」に堕していったが、「五胡政権の歴史観はこれとは完全に異なる、エスニック集団ごとに隔てられた「天下分割」ではなく、それらが混然一体化した「天下融合」である」と。
 潘岳は「五胡は自らを見失ったのか、それともより壮大な自己を獲得したのか」と問う。彼の答えは明らかだ。ウイグルだのチベットだのといったちっぽけなエスニック・アイデンティティにこだわることなく、中華民族という「壮大な自己」に同一化せよ。それが君たち少数民族の真の幸福なのだ、と。古代中国史を語っているように見えて、彼の視線が今日の中国の少数民族政策に向けられていることは明らかだろう。その彼が今や少数民族政策のトップに就任したわけである。
 本書の最後の章で、彼は歴史家として日本や欧米の中国史学を痛烈に批判する。白鳥庫吉らの「漢地十八省」論、「長城以北は中国に非ず」論、「満蒙蔵回は中国に属さず」論、「中国無国境」論、「清朝は国家に非ず」論、「異民族支配は幸福」論など、「人種をもって中国を解体する」一連の理論が、「現在ではこれが米国「新清史」観の前身となり、李登輝ら台独派の拠り所にもなっている」云々。彼に言わせれば、「中国は1世紀以上にわたって政治と文化の発言権を失い、「中国の歴史」は全て西洋と東洋(日本)によって書かれてきた」が、今こそそこから脱却し、「中華民族の物語はわたしたち自身の手で書かなければならない」のだ。ほとんど賛成できないけれども、今の中国が、習近平がどういう歴史観に立っているかをくっきりと浮き彫りにしてくれる。

書評には書きませんでしたが、実は本屋でこの本を思わず手に取ったのはその名前に見覚えがあったからです。それは一昨年、たまたまこういうのを見つけてブログ記事にしていたからなんですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-509022.html(マルクス主義と中華文明の共通性@潘岳)

いやはや、中国化したマルクス主義とは「民族解放」であり、「愛国救亡」であり、「中華民族」であり、果ては「中華文明の「大一統」」なんですね。徹頭徹尾中華ナショナリズムを支える思想的武器であって、19世紀半ばにトリーアで生まれたユダヤ系ドイツ人のひげのおっさんとはほとんど重なり合うところはなさそうな感じですが、それでもそれは断固としてマルクス主義でなければならないんでしょう。・・・

こうしてみると、本心ではご禁制にしたいほど毛嫌いしている革命的なマルクスの思想を、共産党政権の正統性の根源たるご本尊として拝む屁理屈を作らなければならない党イデオロギー官僚のみなさんほど、脳みそを絞りに絞ってへとへとになる商売はこの世に外にはほとんどないように思われます。

まあ、時々、わざわざその中華ナショナリズムを断固として擁護してくれる奇特な日本人がいてくれるのがせめてもの慰めなのかもしれません。

 

 

2022年9月 7日 (水)

職場における感染防止をめぐる法政策@山本陽大

Yamamoto_y2022_20220907155601 JILPTのホームページに、山本陽大さんが「職場における感染防止をめぐる法政策─ドイツにおけるコロナ労働保護規則の変遷を追う」というやや、というよりかなり長めのリサーチアイを書いています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/074_220907.html

2020年初頭以降における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)を契機として、ここ数年の間、各国の労働政策においてはコロナ危機への対応が中心となっている[注1]。このような政策領域は非常に多岐にわたるが、おおまかにいえば、コロナ禍に起因する事業縮小や休業時の雇用保障・所得保障(フリーランスに対するものを含む)に関するものと、テレワークの実施をはじめとする職場における感染の防止に関するものとに区分することができよう。そして、日本では、これらのうち前者の領域については、雇用調整助成金の要件緩和や助成率の引上げ、新型コロナウイルス対応休業支援金あるいは小学校休業等対応助成金の創設等が、雇用保険関係法令の改正等によって実施されており、まさに立法政策による対応が図られている[注2]。一方、後者についてみると、日本では、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室によって、各業界団体が策定した業種ごとの感染拡大予防ガイドラインが整理されているほか[注3]、厚生労働省がHP上[注4]で、各職場の安全衛生委員会等に対して感染拡大防止のためのチェックリストを提供し、あるいは職場における感染防止対策の実践例を示すといった対応を行っているものの、総じて立法政策上の動きは低調となっている[注5]。

これに対して、諸外国においては、上記のうち後者の政策領域についても積極的に立法によって対応しようとする例がみられる。なかでも、ドイツにおいては ・・・・・

ドイツにおいてはどのような法政策がとられてきたのかを、時系列を追って非常に詳細に跡づけています。コラムというより短めの論文になっていますが、参考になる情報がいっぱい入っていますので、リンク先をじっくり読んで下さい。

 

 

 

 

 

2022年9月 6日 (火)

公立大学法人附属学校の教師に給特法は適用されるか?

なんだかやたらにトリビアな話題のように見えますが、考えれば考えるほどよく分からなくなります。

公立大学はその名の通り、「公立」です。ですから、公立大学附属学校に勤務する教員は給特法、正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の適用対象であるはずです。

ところが一方、全てではありませんが多くの公立大学は地方独立行政法人法に定める公立大学法人になっています。この公立大学法人は、法律上一般地方独立行政法人、つまり非公務員型と定められています。言い換えれば公立大学に勤務する教員は地方公務員ではなく民間人です。

同法上には「刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」という規定はありますが、逆に言えばそれ以外の法律の適用上は公務員ではありません。従って、労働基準法も完全にフル適用されます。この点では国立大学法人やその附属学校と同じです。

とすれば、公立大学法人の附属小学校、中学校、高等学校等の教員は、国立大学法人の附属小学校、中学校、高等学校等の教員と全く同じ立場であり、労働基準法フル適用であるはずです。

ところで、かつては国立学校も対象に含まれていた給特法は、国立学校の法人化に伴って国立学校を適用対象から外しました。法律の題名もこの時に変わっています。

ところが、その後地方独立行政法人法に基づいて公立大学が非公務員型の公立大学法人に変わっていっても、給特法の規定に変化はありませんでした。確かに、現在でもなお法人化していない公務員型の公立大学というのも存在しているので、法改正はしにくいのでしょうが、逆に公立大学法人化したところについても、労働法令の適用関係については法制的な手当がなされないままになっているように思われます。

給特法の規定は、給特法の適用対象である公立学校の教員が全て公務員であることを大前提として書かれたままになっていますが、その前提の通用しない非公務員型の公立大学附属学校の教員というのが、この日本国の法制度上は歴然と存在しているのです。

給特法の規定ぶりからして、公務員ではない公立大学附属学校の教員も同法でいう「公立の義務教育諸学校等の教育職員」であることは間違いないのですが、そもそも彼らは公務員ではないのですから、「教育職員については、地方公務員法第五十八条第三項本文中「第二条、」とあるのは・・・・・」と一方的に読み替えられたところで、読み替えられるべき地方公務員法がそもそも適用されていないのですから、読み替えようがありません。

公務員ではない彼らには労働基準法がフル適用されているので、地方公務員法の読み替え規定が空振りになったら、37条の時間外・休日の割増賃金の規定がそのまま適用されているはずです。

ところが、にもかかわらず、地方公務員法の読み替え規定ではない給特法の規定は、空振りせずに「公立の義務教育諸学校等の教育職員」である彼らにも適用されるため、100分の4の教職調整額の規定は適用されるということになるはずです。

ということは、数少ないとはいえ現実に存在する公立大学法人附属学校の教員の皆さんは、労働法上は民間人なので部活指導も含めて働いた時間外・休日労働分の残業代は全て支払われる上に、給特法も適用されるので100分の4の教職調整額も支払われるということになるはずだと思うのですが、それで間違っていませんよね。

(追記)

超法匪的な議論なので、以下は法律関係者以外はスルーして結構です。

わたしは昨年のさいたま地裁の判決の評釈の中で、その屁理屈は無茶苦茶だと批判しながら、しかし原告の主張を認めることはできないと論じました。

http://hamachan.on.coocan.jp/saitamaken.html

それは、給特法の二つの規定には趣旨目的だけではなく対象となる事象においても牽連性があり、それゆえ超勤4項目以外の時間外労働については元の規定が復活して労基法37条が適用されるというのが原告の主張なのですが、そういう風には解釈できないからです

リンク先ではその理由を縷々述べていますが、実は本エントリで明らかにしたように、給特法の規定のうち、地方公務員についてのみ労基法37条の適用を除外する部分と、民間人も含めて4%の調整額を支給することとは対象者の範囲において既にずれが存在するのであり、その段階ですでに牽連性は残念ながら存在しないんですね。

 

 

 

 

 

流動化を否定するあまり交渉力を失った労働組合

9784909237736_600_20220906085301 昨日紹介した『POSSE』51号ですが、他にも引用したくなる名台詞がけっこう点在しています。

鼎談の次に載っている今野さんと中村天江さんの対談「経団連のジョブ型推進と労働組合の交渉戦略――雇用の流動化により労働条件の交渉力は高まる⁉」の、「流動化を否定するあまり交渉力を失った労働組合」という一節でのやりとりは、戦後型企業別労働組合にとって厳しい言葉が並びます。

今野 興味深いですね。もともと日本の労組は解雇なども絶対に反対してきましたが、世界のスタンダードだと、絶対反対ではなくて、どのようなルールで解雇するかが焦点になります。日本は降格も絶対に反対です。条件交渉がジョブ的なものに接近していけば、恐らく労使交渉も成立するのでしょうが、歴史的には絶対反対した結果、すべて経営が決めるようになっています。

中村 私自身は、雇用の流動化に消極的なことは、労働組合にとっても望ましくないと考えています。なぜなら、労組の交渉力の源泉は「労働力」だからです。

経営側が組合の要求に応えないのであれば、「ストを打って仕事を止める」と言えることが、労働者側の力の源泉です。しかし、いまやストライキはほとんど行われていません。ストをせずに労組が交渉力を発揮するには、「問題を改善しなければ、従業員が辞める」と警鐘を鳴らすことです。しかし、日本では円滑な労働移動も容易ではない。ストライキや労働移動といった対抗策がなければ、労組は、経営側の意向に沿う形でしか合意ができないため、労働者側の要望を実現するのが困難になります。

こういうことは、古典的な労使関係論の教科書にはみんな書いてあることですが、そもそも労使関係論という学問分野がすたれきり、労働組合とはそもそもその原初形態ではなんであったかという基礎知識が、企業メンバーシップにどっぷり浸かった労働組合員自身の脳みその中からも完全に消滅しきった現在においては、こういう台詞はまことに新鮮に聞こえるのでありましょう。

9-1_20220906085501 拙著『働き方改革の世界史』の冒頭に出てくるウェッブ夫妻の本なんかも、まあほとんど読まれていないでしょう。

ところが、恐らくそういう知識とはほぼ完全に断絶しているであろう今日の若い世代の行動が、意外なほどかつての姿に近づいているというのが、同じ号の後ろの方に載っている青木耕太郎さんの「既存の労働組合運動の「外側」で広がる新しいストライキとコミュニティユニオンの役割」です。

ここで紹介されているのは、保育園の園長によるパワハラに対して保育士が集団一斉退職した事件ですが、それが従来からのストライキの認識に合わないけれども実はストライキなんだと主張しているのですが、実を言えば、上記ウェッブ夫妻の本に出てくるように、ストライキ(同盟罷業)とは、労働者が仕事を拒絶して辞める「各個罷業」を集団的にまとめてやることであり、要するに言葉の定義上まさしく「集団一斉退職」なんですね。ストライキは雇用契約が断絶するというのがそもそも出発点で、それがやがて断絶しないという法的構成になっていくのです。このあたり労働法制史の教科書に詳しく書かれています。

 

 

 

 

2022年9月 5日 (月)

『POSSE』51号はジョブ型特集

9784909237736_600  『POSSE』51号をお送りいただきました。いつもありがとうございます。今号はジョブ型特集です。

https://info1103.stores.jp/items/63034f44402ae60d71719b6d

〔第一特集〕労働運動は「ジョブ型」とどう向き合うべきか?

 2000年代後半に顕在化した正規・非正規の「格差」問題に対して、2010年代には安倍政権下での「限定正社員」政策に対して、本誌では労働運動の対抗戦略としての「ジョブ型」を特集してきた。
 いま、ジョブ型をめぐる議論はかつてなく高まり、新たなステージに突入した。背景にあるのは、90年代以降の「成果主義」の迷走を経て、経営者たちが陥った「危機」だ。労働者のエンゲージメントは国際的に最低水準まで落ち込み、グローバル化やDXなどのデジタル化に対応できるホワイトカラー人材の獲得も容易ではない。
 同時に、労働者たちもジョブ型に潜在的な要求を抱いている。歯止めのない不明瞭な「責任」のシステムが限界を迎えているのだ。責任の範囲の不確定さに若者たちは不安を募らせ、高い拘束性の有無を根拠として非正規の賃金格差が「正当化」される現実もある。
 経営者たちがついに本腰を入れ始める中、この現状を直視し、労働運動は今度こそジョブ型を「武器」にできるのだろうか。

エンゲージメントなき時代の処方箋としてのジョブ型 遠藤公嗣×木下武男×今野晴貴

経団連のジョブ型推進と労働組合の交渉戦略――雇用の流動化により労働条件の交渉力は高まる⁉ 中村天江

職務の観点から人事制度を検討する――公平で持続可能な社会の実現にむけて 秃あや美

どれも興味深いですが、やはり3人による鼎談が、労働サイドでジョブ型を掲げてきた人々であるだけに、いろいろと深みがあります。そこは、今野さんがいうように

・・・もっとジョブというのは社会的なもののはずなのに、最近の議論では、それがすごく小さく、本当の趣旨が分からなくなるくらいに切り縮めされてしまっている気がします。企業内人事の話ではなく、本当は社会システムの話ですし、もっといえば労働者の連帯の話とも言えるし、そのような社会性がジョブという問題を考えるときには極めて重要な鍵になっているはずなのに、そこが抜けてしまっている。

ということなんですが、それに続けて遠藤さんが労働運動側に対して手厳しい批判をぶつけています。

私が問題だと思うのは、1990年代から現在までの30年間、これからの雇用システムを展望するプランが労働側にあったのかということです。はっきり言って何もないです。・・・だから、なんであれ、出されたものを労働側は単に受け入れていくだけだったと言ってもよい。

左派の組合は、それは嫌だと言います。しかし、これからの雇用システムで労働側にとって何が良いのか、左派は展望をもっていません。男性主流の左派は、旧来の年功給・年功制度が良いのだと秘かにまだ思っているのかも知れませんが、しかし、これからの時代においてなぜ年功給・年功制度が良いのかということについて、理由をはっきり答えられない状況だと思います。もっとも答えられないのは当然ですが・・・。

そもそも、私と並んで「ジョブ型」という言葉を作って使い出した木下さんは、無念そうに「取られた」という言い方をしています。

今野 そうですね。それでますますジョブ型志向が強まっていくだろうと思います。ところが、こうした彼らの潜在的要求を、社会的に具現化する言葉がない。運動と言葉がないから、ジョブ型だといわれても、それは人事制度の話だと捉えられれしまう。元々は木下先生も労働運動の言葉として広げたはずなのですが、気づいたら人事用語になってしまった。

木下 取られたのです。労働運動がジョブを捨てたから。

遠藤 取られたというのが当たっているかも知れませんね。そういうものについて自民党はなかなか能力のある組織で。本質的には敵対的なものまで上手に取り込んで、自分の味方にしてしまうという。

今野 いま議論して思いましたが、この若者の潜在的要求に言葉を与えるような労働運動が答えになる気がします。成果主義でもジョブ型でもなく、「責任が明確な雇用」とかでしょうか。

言葉が次々に使い古されて新たな言葉をひたすら求めるという日本の悪弊が現れているようにも感じますが、「責任が明確な雇用」というのは確かに明確です。

 

 

 

 

 

 

 

 

岩﨑仁弥・森紀男『[6訂版]労働時間管理完全実務ハンドブック』

2472901001 岩﨑仁弥・森紀男『[6訂版]労働時間管理完全実務ハンドブック』(日本法令)をお送りいただきました。B5版で860ページというどでかい本です。

https://www.horei.co.jp/iec/products/view?pc=2472901

10年ぶりの改訂となる6訂版では、近年の法改正等を反映し大幅な見直しを行いました。
規程例や協定例等は、参照しやすいように、新たに章を設けてまとめています。
詳細な解説で、労働時間管理を理解するためには欠かせない1冊!
特定社労士による実務書としてはもっとも詳細な解説がされています。

 

2022年9月 3日 (土)

AIの「見えざる手」を「見える化」する 

昨日、某所でEUのAI政策を喋ったのですが、その最後に、なにか気の利いたもっともらしい台詞を言おうと思って、たまたまジェームズ・ムーアの「コンピュータ倫理学とは何か」という短い論文の存在を知って、それに引っ掛けて「AIの「見えざる手」を「見える化」する」てなことを喋ってみました。

Moore

 

 

 

 

ジョブ型正社員は有限責任正社員

法学部で商法を勉強したらみんな習うことだが、会社法には「無限責任社員」と「有限責任社員」という言葉が出てくる。いうまでもなく日本国の法令上「社員」とはすべて出資者という意味なので、これらも出資者としての責任をどこまで追うか、出資額までかそれ以上会社の損失全てかという意味なのだが、法学部を一歩出ると日本型雇用の世界では「(正)社員」というのは労働者(のかなりの一部)を指す言葉として定着してしまっているので、初学の学生たちは戸惑うことになる。

が、そこを逆手にとって、職務も勤務時間も勤務場所も無制限がデフォルトのメンバーシップ型のいわゆる「無限定正社員」を、ちょっとだけひねって「無限責任正社員」と呼び、それらが限定されているジョブ型のいわゆる「限定正社員」を、「有限責任正社員」と呼んでみることもできそうな気がする。

本来は雇用契約を結んで労務と報酬の交換をするだけのはずが、気が付けば正社員という名のもとに会社の無限責任を負わされていたなんてのは、考えてみればなかなかシュールな世界なのかもしれない。

 

2022年9月 1日 (木)

『DIO』378号

Dio3781 連合総研の『DIO』378号が届きました。特集は「開き、広がる、労働組合」で、中村天江さんが意欲的な編集をしています。

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio378.pdf

鼎 談
閉ざされた労働組合から開かれた労働組合へ 松浦 民恵氏・水町 勇一郎氏・中村 天江………………4
寄 稿
歴史的前進となった労働協約の地域的拡張適用 UAゼンセン 企画グループ担当副書記長 松井 健氏 ……………12
インタビュー
イギリスOrganise プラットフォーマーの躍進 Organise CEO Nat Whalley氏 ……………18
解 題
イシューから連帯が広がる−集団的労使関係の構造変化− 中村 天江……………24

最初の鼎談はなかなか刺激的で、水町さんが

労働組合もジョブの観点や企業を超えた視点から組合運動を考えていかなければなりません。

と語ると、すかさず松浦民江さんが

 昨今の企業別労働組合の問題は、職場の課題、目の前にある新しい課題を十分に吸い上げられていない、また、発言を通じた課題解決につなげられていないことです。その点が、ジョブ型かどうか、企業別かどうかという以上に深刻な問題だと思います。

と突っ込み、中村さんも

現状、日本企業のほとんどの職場はメンバーシップ型のままですが、そのメンバーシップの質はどうなのかという点です。・・・つまり、企業別労働組合は、職場のメンバーシップの質を高められるか問われています。

と打ち返しています。

なかなか希望の見えない労働組合の将来に必要なのは、松浦さんがこう語るように「あえて空気を読まない」勇気なのかもしれません。

松浦 予定調和でない発言や活動が疎ましがられる風潮は、日本では労働運動に限らず、多くの場面でみられます。例えば「キャリア自律が大事」と言われていますが、多くの労働者は、どこまで本気でキャリア自律を求められているのか、半信半疑で空気を読もうとしているようにみえます。このように、空気を読みながら自分の行動をコントロールする風潮があるのは、組合活動に限ったことではありません。
 この状況を変えるには、ひとりひとりが少しずつ勇気を出して「あえて空気を読まない」行動をしていくしかないと思います。空気を「変えられる」人材を大切にしていくことも重要です。

 

 

 

労働協約に基づく賃上げこそが労働組合の社会的使命@ドイツVer.di

Img_month_20220831234201 『生活経済政策』9月号は、山口二郎さんらによる座談会「2022参院選総括と今後の展望」が特集ですが、長いわりにあまり興味を引く話題もないので、その次に載っている「ドイツ合同サービス労組(Ver.di)チーフエコノミスト、ヒルシェル博士と、立憲民主党国会議員との対話」を紹介しておきます。題して「労働協約に基づく賃上げこそが労働組合の社会的使命」。日本の労働組合からはあまり聞かれなくなったセリフです。

ただ、このヒルシェルさんとのやり取りを見ていくと、日本の左派とドイツの左派との微妙なしかし重要な「ずれ」が垣間見えて、なかなか面白いです。

ヒルシェル:・・・ドイツは社会的インフラのために投資が必要であり、情報社会や現代社会に適合した福祉国家の近代化のためにも投資が必要であるが、財政的な問題からそれを怠ってきた。・・・・

質問:今話を聞いて非常に驚いている。というのも、ドイツはEUの中では勝ち組として、そして財政でもプライマリーバランスでは達成以上の成果があり、優良なパフォーマンスを誇る国家ということになっている。しかし今の話を聞くと、それは経済成長があったから優良な財政ができたということではなく、必要な社会的インフラへの投資がなかったからということになる。本当にそういう理解でいいのか。

ヒルシェル:実際に過去20年間、公共輸送の領域、エネルギー転換への投資、学校教育あるいは保育所などの整備と人員配置、病院などの医療施設と人員確保、毎年こうした領域で必要とされる投資が行われてこなかった。財政赤字を避けるためである。さらに連邦法で財政赤字の上限を設定しており、その枠内で財政支出を行うためである。・・・・

質問:何か話を聞いていると、日本のように財政赤字を通してどんどん公共投資した方がいいということだが、日本も法人課税や高額所得者に対する増税ということはやってこず、現在大きな借金を抱えている。そういう日本の姿を見て、ドイツもそうなってもいいという考えなのか。それとも増税という手法で、国家財政を増やせばそうはならないということか。

ヒルシェル:・・・赤字国債による公共投資というと、それがもし成果のない単なる負債の増加に過ぎないのであれば、それは問題だが、しかしながら経済成長を伴った場合はそれはまた国庫収入に帰ってくるわけで、決してネガティブではなくポジティブなものになる。・・・

ここに表れている考え方の違いは、もちろん世界ワイドでは左派と右派の経済政策の典型的なものに過ぎず、特段興味を引くようなものでもないはずですが、相手側の立憲民主党の議員たちにとっては、ドイツの労働組合の頭脳が、こともあろうにアベノミクスを称賛しているかのように聞こえて、驚いたり疑ったりしているようです。このあたりの「ずれ」が、当人たちの意図に関わらず垣間見えるところが、この対話の面白いところですね。

 

 

 

 

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