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2022年8月 7日 (日)

いや、それが「賃上げ」ってものなんだが・・・

Img_2a901bb2ba311b78dc653400d94b33377936 プロフィールによると、東大経済学部を首席卒業し、大蔵省に入省して、今は慶應義塾大学の先生をしているという方が、東洋経済オンラインに「日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ」という文章を書いているのですが、初めの数パラグラフを読んだところで頭を抱えてしまいました。いや、その主張に賛成とか反対とかいうレベルの話ではなく、その言っていることが論理的に全く理解できないのです。

https://toyokeizai.net/list/author/%E5%B0%8F%E5%B9%A1_%E7%B8%BE

https://toyokeizai.net/articles/-/609671(日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ 給料を決めるのは、政府でも企業でもない)

・・・しかし、実は、彼らもかんべえ氏も180度間違っている。なぜなら「賃上げ」という考え方そのものが間違っているからだ。
 賃上げ、という言葉にこだわり続ける限り、日本の賃金は上がらない。アメリカには、賃上げという概念が存在しない。だから、賃金は上がるのだ。
 では「賃上げ」の何が間違いか。賃金は、政府が上げるものではもちろんないが、企業が上げるものでもないのである。
 「賃上げ」は、空から降ってこないし、上からも降ってこない。「お上」からも、そして、経営者からのお慈悲で降って来るものでもないのである。それは、労働者が自らつかみ取るものなのである。経営者と交渉して、労働者が払わせるものなのである。・・・ 

さあ、この4パラグラフは何を言っているのでしょうか?冒頭、「「賃上げ」という考え方そのものが間違っている」と断言しているにもかかわらず、4パラグラフ目では、「賃上げは・・・・・・・労働者が自らつかみ取るものなのである。経営者と交渉して、労働者が払わせるものなのである」と言っているのです。

いや、私はまさにこの第4パラグラフは正しいと思います。労働者が経営者に要求して、場合によっては給料上げないなら働いてやらないぞと脅して、労働の対価を高く引き上げることが日本に限らず世界共通の賃上げというものであって、「「お上」からも、そして、経営者からのお慈悲で降って来るものでもない」。全くその通り。そして小幡氏はこうも言う。

・・・日本の賃金が低いのは、労働者が、この闘争を「サボっているから」なのである。努力不足なのである。「政府の、お上からの経営者への指示」を待っていても、「雇い主の施し」を待っていても、永遠に得られないのである。・・・ 

小幡氏が首席卒業したという東大経済学部で労使関係論を受講したかどうかは定かではありませんが、こういうことは授業で聞かなくたって常識としてわきまえていてしかるべきことではありましょう。

ところが、そういうちゃんとわかっているかのような文章を書きながら、なぜか彼の頭の中では「賃上げ」という言葉は、労働者が勝ち取ることではなく、国や経営者がお慈悲で与えてくれるものだけを指す言葉として理解しているようなのですね。だから、タイトルに堂々と「日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ」とぶち上げ、文章の中でも「なぜなら「賃上げ」という考え方そのものが間違っているからだ」などと奇妙なことをいうわけです。

実をいえば、法定最低賃金を否定し、労働組合が自力で勝ち取る賃金のみが唯一あるべき姿だと主張するのが、スウェーデンやデンマークの労働組合であり、それゆえに現在、EUの最低賃金指令案をめぐって労働組合運動の中で対立が生じているわけですが、そこまでいかなくても、労働組合の力が及ばないところは政府の力を借りざるをえないけれども、そうでない限りは労働組合が力で勝ち取るものだというのは、ごく普通の感覚でしょう。

奇妙なのは、この東大経済学部首席卒業がご自慢らしい小幡氏の議論が、そういう国家権力に頼らない本来の意味の「賃上げ」を、なぜかそれだけを自分の脳内の「賃上げ」という概念から排除してしまっているように見えることです。そして、そういう本来の「賃上げ」には及ばない、いわばまがい物の国や経営者のお慈悲に過ぎないものだけを自分の脳内では「賃上げ」と呼んで、「日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ」と断言してしまっていることです。

正直、最初この文章を読んだとき、言っていることがある面であまりにも正しいにもかかわらず、ある面ではあまりにも間違い過ぎているので、頭の中が混乱の極みに陥りました。

慶應義塾大学で授業をされる際には、学生たちの頭をあまり混乱させないようにしていただきたいものです。

(追記)

https://b.hatena.ne.jp/entry/4723493204965038114/comment/tekitou-manga

元記事読んでないけど、タイトルは筆者が付けるものではない(場合が多い)という事だけは一応

いや、タイトルだけに脊髄反射してるわけじゃないよ。

間違いなく本人が書いている本文中に、はっきりと、

なぜなら「賃上げ」という考え方そのものが間違っているからだ。

と言い切っていますからね。元記事読まなくても、せめてこのブログ記事の中の引用文くらいは目を通してからコメントしましょう。

 

 

 

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コメント

そうなのですか。
そういうことでしたら、建設的な解としたらどうするのがよいのでしょうか。

日本人の賃上げに対する考え方が間違っている、というのはまだよいでしょう。いわゆるユニオン運動全般でも使用者に対して賃上げ要求の一つも出せないのに、最賃上げろということだけやたらと熱心なことにはやはり違和感がありました。ただ、アメリカには賃上げはない、というのは全く理解できない主張ですし、そもそもこの人の議論は労働者個人で努力し必死に働いて企業に対し賃上げを求めろ、と言っているように見えます。労働組合、集団的労使関係の存在を全く度外視して無茶な主張をしているのではないでしょうか。歴史的に見ても個人では使用者に対し無力な労働者が団結し、集団となって賃上げを要求し、勝ち取ることができるようになっていったのは事実として明らかなはずですが、この人の頭の中はいったいどうなっているのでしょうか。それとも意図的に労働組合の存在を度外視しているのでしょうかね。

おそらく、この東大経済学部を首席卒業したことが自慢で仕方がない人は、労働者個人が、いかなる意味でも徒党を組まない孤高の個人のみが、経営者を相手に自らの市場価値を滔滔と弁じ立て、俺様にはこれだけの値打ちがあるんだからそれだけの金を払え、と主張することのみが、ただそれのみが、「交渉」とか「闘争」といった言葉に値する行為であると、心の底から信じ切っているのでしょう。

それ以外の行為は全てカスであり、経営者に土下座することも、政府にお願いすることもカスであれば、一人一人では弱い労働者が徒党を組んで、集団で「これだけの金を払わないなら働いてやらないぞコラ」と脅しつけることも、すべてあるべき孤高の個人のたった一人の闘争ではないということで、カスのたぐいなんでしょうね。

首席卒業するような偉大な人間にはふさわしくないと思ってかおそらく学部時代に受講しなかったであろう労使関係論をちゃんと聞いていれば、「賃上げなどない」と平然と断言してやまないそのアメリカが、かつてはジョブ型労使関係のメッカとして、まさに言葉の正確な意味における集団的労使関係における「賃上げ」の代表格であったことも勉強できていたでしょうが、まあそんなのは知る必要もないカスみたいな知識だと思っているのかも知れません。

こういう人が慶應義塾大学で学生相手にどういう知識を伝授しているのか、真夏の怪談ではないですが、涼しい風がそこはかとなく感じられるものがあります。

この小幡績先生ですが、私が参加している猫町倶楽部なる日本最大の読書会でご著書が課題本になりました。
「アフターバブル」と言う本です。
この本も確かに正しい事言っているんだろうけどどうもあまりストンと落ちないと言うか、恐らくは後世にはその名を残せない本なのかな、と言う気がしました。

財務省にいたとかで、それも自慢らしいけど、どうもご著書がこんな有様ではご本人の思考にも大いに問題がありそうですね。
だからこんな議論になるのでしょうね。

財務省にいたとかで、それも自慢らしいけど、どうもご著書がこんな有様ではご本人の思考にも大いに問題がありそうですね。
だからこんな議論になるのでしょうね。

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