ウクライナの戦後復興計画は労働組合の破壊?
いうまでもなくプーチンのロシアによるウクライナ侵略は全面的に批判されるべきであり、さっさと降伏せずに抵抗するから殺されるんやみたいなことを口走る「平和主義」者の皆さんは、日本の侵略に抵抗した中国の蒋介石に対しても全く同じように「日本軍に抵抗したから多くの中国人が殺されたじゃないか!」と糾弾し、中国人の命を救うために侵略者との協調に転じた汪兆銘を口を極めて賞賛すべき道徳的義務がありますが、その義務を果たす立派な「平和主義」者を見たことがありません。
と、それは当然の前提ではありますが、とはいえ、侵略に抵抗しているからと言ってウクライナ政府のやっていることやろうとしていることが立派だとほめるべき筋合いはないし、とりわけ労働関係では極めて問題の多い政策をかなり強引に推し進めているようです。
先日ソーシャル・ヨーロッパの記事を紹介したところですが
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/07/post-d8be21.html(ウクライナの労働者権利破壊法)
同じソーシャル・ヨーロッパに、ウクライナの労働弁護士の声を紹介する続報が載っているので、こちらも紹介しておきます。
https://socialeurope.eu/ukraine-could-abandon-key-labour-principle(Ukraine could abandon key labour principle)
The government’s post-war reconstruction plans threaten a ‘Mad Max-style dystopia’, says Ukrainian labour lawyer.
政府の戦後復興計画は「マッド・マックススタイルのディストピア」の脅威をもたらす、とウクライナの労働弁護士は言う
「マッド・マックススタイル」とは具体的にどんな計画なのか?曰く、「‘everybody will negotiate on their own without any rules’. 」(誰もが何のルールもなく、自分だけで交渉する)世界のようです。
そして、ウクライナ当局は、ILOの労使対話を時代遅れと批判しているのだそうです。
‘People don’t want to negotiate their employment through collective agreements, but through civil law, royalties, author rights,’ Tretiakova said. ‘But the International Labor Organization, created in 1919, in the epoch of industrialisation, says no … [The ILO says] a person is economically dependent on their employer and should therefore come under Ukraine’s labour code, developed in 1971.’
「人々はその雇用を団体交渉を通じてではなく、民法、特許権、著作権を通じて交渉したいと思っている」「しかし産業化時代の1919年にできたILOはノーという」「人びとは経済的に従属しているから1971年のウクライナ労働法典に従えという」
ふむむ、団体交渉を否定し、労働者個人の「交渉」だけでやるべきだというあたり、もしかしてウクライナ政府は例の小幡績さんの授業を受けたんですかね。しかもその「交渉」は、特許権や著作権を武器にするもののようです。そんなもん武器にできる労働者がどれだけ居ると思っとるんや。
いずれにしても、ウクライナ政府の労働政策は極めて今風のやたら「意識の高い」ものになっているようで、危なっかしいったらありゃしないという感じです。
If the legislation is signed by Zelenskyy, employees will be encouraged to strike individual bespoke agreements with their employers, with both sides acting on a supposed equal footing—a direct breach of ILO principles.
もしこの立法にゼレンスキーが署名すれば、労働者は使用者との間で両者がイコールフッティングで個別の注文仕立ての合意を締結するよう奨励される。これはILO原則の露骨な違反だ。
何とも言えない気持ちになるのは、ロシア侵略前にはウクライナの労働組合がこの「国民のしもべ」党の法改正に対して抵抗を企画していたのに、
Critics have claimed that deputies in the Ukrainian parliament have used Russia’s invasion, which has displaced millions inside and outside the country, as a ‘window of opportunity’ to pass potentially controversial reforms.
批判者が言うには、ウクライナ議会は何百万人を国内外で難民化したロシアの侵略を、潜在的に議論のある改革を通過させるための「機会の窓」として利用している
ということですね。
戦時に労働者を含む国民の権利が制限されるというのは、英米も含めてどの国でも見られた現象ではあるのですが、それは戦争が終われば元に戻るという性質のものです。今回のウクライナの労働法改正は、そもそもきわめて反労働組合的なイデオロギーに基づいた政策がロシアによる侵略前から企図されており、それをロシアの侵略を奇貨として恒久的な仕組みとして導入してしまおうという話なのですね。
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