『日本労働研究雑誌』2022年9月号
『日本労働研究雑誌』2022年9月号は「住むことと働くこと」が特集で、要するに転勤と通勤を取り上げています。特に転勤です。
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/09/index.html
提言 転勤問題と「生活人モデル」平野光俊(大手前大学学長・教授)
解題 住むことと働くこと 編集委員会
論文 労働者の居住地選択をめぐる人事施策とその人事管理への影響 今野浩一郎(学習院大学名誉教授)
転勤施策の運用実態と課題─勤務地を決めるのはだれか 武石恵美子(法政大学教授)
転勤の法的論点 篠原信貴(駒澤大学教授)
夫の転勤と妻の同居・就業選択 関島梢恵(公益財団法人NIRA 総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員)・阿部眞子(大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程)
都市化が労働者に与える影響─労働市場における集積の経済と不経済 東雄大(岡山大学講師)
通勤・通勤手当を巡る法的諸問題 天野晋介(東京都立大学教授)
このうち、武石さんの論文は、日本型雇用システムの特徴である会社主導の転勤について、その意味が低下してきていると指摘しています。
転勤には,複数の拠点に人材を供給する機能に加えて,人材育成の機能が期待されてきた。特に転勤の人材育成機能を重視する傾向は強く,この機能を効率的に発揮するために,多くの日本企業では,企業が転勤命令を出して社員は基本的にそれに従うというように「会社主導」で転勤を進めるのが一般的であった。しかし,転勤経験者は,自身の経験した転勤に関して,キャリア形成上の理由があった,希望どおりの転勤だったと,肯定的に評価する割合は低く,社命に従った結果の社員の納得度は高くはない。会社主導で実施してきた転勤が,社員の納得を得る形では進められてこなかったことにより,自身が経験した転勤についての能力開発面での効果等に対する評価は低く,今後の転勤を受け入れる姿勢にもネガティブな影響を及ぼしている。企業が人材育成のために社員に転勤を求めていくことの合理性は失われつつあると考えられる。・・・・
書評では、関家ちさとさんの『日本型人材育成の有効性を評価する─企業内養成訓練の日仏比較』を須田敏子さんが書評していますが、最後のところで「本研究の主な課題は理論面での弱さだろう。例えば、比較対象国をフランスとした点にはいくつか疑問が挙げられる」と述べていて、いやそれはフランス語でのインタビュー能力には自信があった(けれども他の言語ではそれほど自信がなかった)からでしょうとしか。
というか、もう少しそこんとこの理屈づけをきちんとしとけという意味ならそう思いますけど、現実にはどの研究者も純粋理論的に演繹的に比較対象国を選定しているわけではないと思いますが(ほぼ英語でやれるオランダ、スウェーデン、デンマーク等々はまた別ですが)。
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