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2022年8月24日 (水)

建設業の一人親方対策@『労基旬報』2022年8月25日号

『労基旬報』2022年8月25日号に「建設業の一人親方対策」を寄稿しました。

 近年労働問題の新たなフロンティアとして、フリーランスがクローズアップされてきていますが、労働者類似の自営業者という問題は古くからあります。その中でも建設業の一人親方は、日雇健康保険の擬制適用や労災保険の特別加入制度など、社会保障制度も含めた議論の焦点ともなってきました。そして現在でも労働基準監督の現場では、監督官が直面する労働者性事案の半数近くが建設業の一人親方に係る問題なのです(拙報告書『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』(2021年)参照)。
 そうした建設業の一人親方問題に対し、建設業を所管する国土交通省が初めて本格的に対策に乗り出したのが、コロナ禍の真っ盛りの2020年6月に設置された「建設業の一人親方問題に関する検討会」(座長:蟹澤宏剛、有識者3名(水町勇一郎・川田?之)、建設業団体16名)です。同検討会は2021年3月に中間取りまとめを公表しましたが、そこでは、社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインを改訂して、明らかに実態が雇用形態であるにもかかわらず、一人親方として仕事をさせている企業を選定しない取扱いとすべきと述べています。また、一人親方の処遇改善策として、適正な請負契約の締結や適切な請負代金の支払について周知し、特に一人親方に工事を請け負ってもらう場合には、工事費の他に必要経費を適切に反映させた請負代金を支払うよう元請企業が下請企業に指導せよ等としています。
 その後も同検討会は続けられ、2022年3月には社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインの改訂案を了承し、同年4月に改訂ガイドラインが発出されました。このガイドラインには、上記中間とりまとめの考え方が取り入れられており、建設行政からの一人親方対策を明示したものとなっています。まず「第1 趣旨」において、「建設業界として目指す一人親方の基本的な姿とは、請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主であ」り、「その技能とは、相当程度の年数を上回る実務経験を有し、多種の立場を経験していることや、専門工事の技術のほか安全衛生等の様々な知識を習得し、職長クラス(建設キャリアアップシステムレベル3相当)の能力があること等が望まれ、また、責任とは、建設業法や社会保険関係法令、事業所得の納税等の各種法令を遵守すること、適正な工期及び請負金額での契約を締結していることや、請け負った工事の完遂がされること、他社からの信頼や経営力があること等が望まれる」と述べています。
 その後に付けられた「また、令和6年4月1日以降、建設業においては労働基準法の時間外労働の上限に関する規制が適用されることからも、請負人として扱うべき者であるかについてより適切な判断が必要となっている」という一文も、一人親方の労働者性問題に神経質にならざるを得ない理由を示しています。建設業の一人親方の労働者性が問題になるのは現場で労災事故が起こったことがきっかけになることが多いのですが、そこで労働者性ありとされると、それまで問題にならなかった労働時間(残業代の未払い)問題が首をもたげてくるからです。
 改訂ガイドラインでは、下請企業選定時の確認・指導等として、「登録時に社会保険の加入証明書類の確認を行うなど情報の真正性が厳正に担保されている建設キャリアアップシステムを活用して確認を行うこと」が求められていますが、重要なのは「一人親方の実態の適切性の確認」という項目です。やや長いのですが、建設行政として労働者性問題に切り込んだ初めての文書として、以下に引用しておきます。

 建設工事の現場には、従業員を雇っていない個人事業主として、自身の経験や知識、技能を活用し建設工事を請け負い報酬を得るいわゆる「一人親方」という作業員がいる。元請企業は労災保険料の適切な算出や、令和6年4月1日以降に適用される時間外労働規制の導入への対応に向けて、当該作業員が、工事を請け負う個人事業主として現場に入場するのか、実態が雇用契約を締結すべきと考えられる雇用労働者として現場に入場するのか十分確認することが必要である。
 具体的には、一人親方として下請企業と請負契約を結んでいるために雇用保険に加入していない作業員がいる場合、元請企業は下請企業に対し、一人親方との関係を記載した再下請負通知書及び請負契約書の提出を求め、請負契約書の内容が適切かどうかを確認するとともに、一人親方本人に対し、現場作業に従事する際の実態を確認すること。確認には別紙4の働き方自己診断チェックリストを参考にすること。その結果、個人事業主としての一人親方と考えられる場合には、元請企業は適切な施工体制台帳・施工体系図を作成すること。
 一方、社会保険加入対策や労働関係法令規制の強化に伴い、法定福利費等の労働関係諸経費の削減を意図しての一人親方化が進むことは、技能者の処遇低下のみならず、法定福利費を適切に支払っていない企業ほど競争上優位となることにより、公平・健全な競争環境が阻害される。そこで、元請企業は、明らかに実態が雇用労働者でもあるにもかかわらず一人親方として仕事をさせている企業は、社会保険関係法令、労働関係法令や税法等の各種法令を遵守していないおそれがあることに留意すること。実態が雇用労働者であるにもかかわらず、一人親方として仕事をさせていることが疑われる例としては次のような場合が考えられる。
ア 年齢が10代の技能者で一人親方として扱われているもの
イ 経験年数が3年未満の技能者で一人親方として扱われているもの
ウ 働き方自己診断チェックリストで確認した結果、雇用労働者に当てはまる働き方をしているもの
 上記ア及びイについては未熟な技能者の処遇改善や技能向上の観点からひとまずは雇用関係へ誘導していく方針とする。ア~ウに該当する場合、元請企業は当該建設企業に雇用契約の締結、働き方に合った社会保険の加入及び法定福利費の確保を促すこと。その際に、法定福利費等の追加見積り等がなされた場合、元請企業と下請企業で十分に協議を行う必要がある。なお、再三の指導に応じず、改善が見られない場合は当該建設企業の現場入場を認めない取扱いとすること。
 元請企業が直接、一人親方と請負契約を締結する場合、建設業法を遵守し取引の適正化に努めること。そのため、見積書を事前に交わすことや請負契約書を書面で交付することを徹底すること。また、当該請負契約は、請負金額に雇い入れている同種の社員の賃金に必要経費を加えた適切な報酬が支払われるよう努めるべきである。なお、一人親方との契約の形式が請負契約であっても、実態が元請企業の指揮監督下において労務を提供し、労務の提供として対価が支払われるものである場合、当該契約は建設工事の完成を目的とした請負契約には当たらないため、建設業法の適用を受けないことに留意すること。一人親方と契約を締結する前に、働き方自己診断チェックリストで働き方を確認し、その結果、労働者に当てはまる働き方になっていると認められる場合は雇用契約の締結・社会保険の加入を行うこと。その際には、期間の定めのない雇用契約による正社員、工期に合わせた期間の定めのある雇用契約による契約社員とすることもあり得るものであり、その実情に応じて処遇が適切に図られるようにすること。
 事業主が労務関係諸経費の削減を意図して、これまで雇用関係にあった労働者を対象に個人事業主として請負契約を結ぶことは、たとえ請負契約の形式であっても、当該個人事業主が実態に照らして労働者に該当する場合、偽装請負として職業安定法(昭和22年法律第141号)等の労働関係法令に抵触するおそれがあることから、この観点からも働き方自己診断チェックリストを活用して実態の確認を行うこと。
 他方、雇用契約を締結していないにもかかわらず、自社の労働者である社員とすることも適正とは言えない。具体的には次のような例が考えられる。
ア 請負契約を締結し、社会保険にも加入していないが、例えば会社のヘルメットやユニホーム、名刺等を支給され、表向きは社員と呼ばれているもの
イ 雇用契約を締結しておらず、社会保険も加入していないが、作業員名簿上は社員(雇用)とされているもの
 上記ア及びイのような場合については、働き方の実態を働き方自己診断チェックリストで確認した上で、実態に合った取扱いとすべきである。具体的には、実態が労働者に当てはまるような働き方になっているのであれば、適切に雇用契約を締結し、労働関係法令、社会保険関係法令等の各種法令を遵守すること。
 請負関係にある一人親方は、厚生年金と比べて国民年金の受給額が少なくなる可能性が高いほか、病気や仕事が無くなったとき、失業給付や雇用調整助成金等の対象から外れ、生活資金に影響があるなど生活保障の観点に加え、法定福利費を適正負担する企業間による公平・健全な競争環境の整備という観点からも、実態が雇用労働者であれば早期に雇用契約を締結し、適切な社会保険に加入させること。
 なお、令和8年度以降、働き方自己診断チェックリストの活用による事務負担の軽減、技能者の処遇改善及び技能向上の観点から、経験年数が一定未満(あるいは建設キャリアアップシステムのレベルが一定未満)の技能者が一人親方として扱われている場合など、「適正でない一人親方」の目安を策定することを目指す。そのため、働き方自己診断チェックリストの活用のあり方等について、本ガイドラインの運用状況等を踏まえつつ更なる検討を行い、令和5年度末に一定の道筋を示す。

 さらに改訂ガイドラインの最後の「第4 一人親方について」では、一人親方自身に対しても、「建設企業との契約の形式が請負契約であっても、実態が当該建設企業の指揮監督下において労務を提供し、労務の提供として対価が支払われるものである場合、当該契約は建設工事の完成を目的とした請負契約に当たらないため、建設業法の適用を受けないことに留意すること。働き方自己診断チェックリストで働き方を確認し、その結果に応じて、雇用契約の締結・社会保険の加入を行うよう当該建設企業に求めること。なお、当該建設企業が雇用契約の締結や社会保険の加入等に必要な手続に応じない場合、関係行政機関等に相談すること」と、自らの労働者性に基づいた行動を慫慂しています。
 また、事業者としての一人親方に対しては、「一人親方が建設企業と請負契約を締結する際に、当該請負契約が建設工事の完成を目的とした内容である場合、事業者として当該工事に責任を持って施工する必要があるため、建設業法等を遵守し、取引の適正化、工事費には必要経費を適切に反映した請負代金の確保に努めること。その際は、見積書を事前に交わすことや請負契約書を書面で交付することを徹底しなければならない。なお、現場作業の進め方等は一人親方に裁量があるが、元方事業者には関係請負人に対して労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)等に違反しないよう必要な指導を行う義務が課されているため、当該指導には従う必要があることに留意すること」と、自らの事業者性を意識した行動を求めています。
 建設業の一人親方については、上記監督復命書の分析の中で筆者自身が感じたことですが、雇用契約であるか請負契約であるかが当事者自身においても判然と区別されず、時によって請負事業者として働いたり、雇用労働者として働いたりしており、その相違も明確でなく、渾然一体とした働き方が広がっているようです。個別事案の背景を見ていくと、一人親方の入職の経緯が親族関係や知人、友人関係など、極めてインフォーマルな人間関係に基づいて行われていることが多く、それが雇用契約か請負契約か判然とし難い実態を生み出しているようでもあります。この改訂ガイドラインは、そうした雇用と請負が渾然一体とした一人親方の世界に、明確な区分を持ち込もうという意思が示されたものということもできるかも知れません。

 

 

 

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コメント

すでにお気づきかとは思いますが、以前hamachan先生が批判された小幡績センセイが東洋経済オンラインに新しい記事をアップしております。
強い違和感を感じます。

https://toyokeizai.net/articles/-/614011

小幡氏は「労働者は一人だけでは経営者に対して立場が弱すぎて闘えないのは当たり前である。だから団結して組合を作って共に闘うべきなのだ」と言う労働運動に対する理解が皆無のようです。
今回の記事は小幡氏のその無理解ぶりが以前の記事よりもよく分かる様に感じました。

もしかしたら小幡氏は労働者は一人親方のようになるべきである、そうすればうまく行くのである、と言う発想なのかな?と考えてこちらの記事のコメントとさせていただきました。

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