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2022年8月28日 (日)

埼玉県事件(公立学校教師の残業代請求事件)の控訴審判決

去る8月25日に下された例の埼玉県事件(公立学校教師の残業代請求事件)の控訴審判決がここにアップされていたので読んでみましたが、

https://trialsaitama.info/wp-content/uploads/2022/08/16b349693f394d5379ed5e309a7fbf5d.pdf

ざっと見た限りでは、さいたま地裁の判決に細かな理屈をくっつけているだけでほとんど変わっていないようです。

実をいうと、結論的には給特法という実定法に明確に残業代は払わないと書いてある以上、超勤4項目以外は給特法を外れて労基法に戻るという理屈は立ちにくく、控訴棄却になるしかないと思いますが、地裁判決の時に評釈でかなり強調したことがまるで完全に無視されているのは、控訴人側がそういう主張をしなかったからなのか、控訴人がそう主張したにもかかわらず無視したのかはわかりませんが、裁判官として誠に知的誠実性に欠けると言わざるを得ません。

それは、一言で言えば、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-a56f54.html

本件は社会的にも注目された事案であるが、判決自体としては極めて出来の悪いものと言わざるを得ない。まず、Y側の主張をそのまま受け入れている教員の職務の特殊性の部分は論理的に破綻している。教員の職務に指揮命令性の希薄さ、自律的判断の可能性など、一般労働者の職務と比べて特殊性があることは確かである。その特殊性にかんがみて、教員の労働時間規制について特例を設けること自体には一定の合理性があると考えられる。しかしながら、そこで言われている教員の特殊性は、国立学校でも公立学校でも、私立学校でも全く変わりのない職種としての教員の特殊性である。現時点において、労基法37条が適用除外され、給特法が適用されているのは公立学校の教員のみであり、国立学校教員も私立学校教員も労基法の規定がフルに適用されている。彼らには公立学校教員が有する裁量性や自律性がないのであろうか?・・・

という点に尽きます。地裁判決も高裁判決もやたらに人事院の文書をもっともらしく持ち出しますが、いうまでもなく人事院には民間人である私立学校の教師に関しては1ミリも、いや1ミクロンも、何の権限も持っていません。

そのくせ偉そうに、教員という職種の特殊性をあれこれ言うのですが、もし本当にそういう職種の特殊性があるのであれば、それは私立学校や国立学校の教師にも全く同じように適用されなければ不当極まるものでしょう。

給特法という実定法は、もっぱらたまたま地方公務員である教師という特殊部分についてのみ、公法上の給与支出についての特例を設けただけの法律であって、人事院が何をいおうがその権限の存在しない私立学校教師と完全に共通する職種としての特殊性とはかけらも関係がないとしか言いようがないのです。

ただまあ、私立学校の教師に何の権限もない人事院が、あたかも私立学校の教師まで含めているかもごとく教師という職種の特殊性をほざいたところで所詮は何の意味もないたわごとに過ぎませんが、もし文部科学省がそういうことを口走ったりするとすれば、それは私立も公立も国立も含む全ての学校教師に権限を有する機関として無責任極まるというべきでしょう。

なぜなら、もし文部科学省が教師という職種には特殊性があるから残業代を払う必要はなく、4%だけ払えばいいのだと、本気で主張するのであれば、教師という職種において全く何の違いもない私立学校や国立学校の教師に給特法が適用されず、労基法がそのまま適用されるというのは、今すぐ是正すべき間違った状況であるはずです。

だって、ときどき新聞等で報道されるように、結構多くの私立学校は、公立学校でやっているからとまったく同じようなことをやらかして、労度基準監督署に是正勧告を受けて、未払いの残業代を無理やり支払わされて、挙げ句にケシカラン奴らだと報じられているんですよ。

全国の私立学校の経営者たちは、文部科学省に対して、自分たちを労基署の魔の手に委ねている状況を直ちに是正して、その主張するところの教師の職種の特殊性に合致した法律制度を直ちに適用するよう要求するべきでしょうね。いやもちろん論理の整合性という学問のイロハが理解できるなら、という話ですが。

そういうわけで、地裁判決も高裁判決も、理屈をだらだら書いているところは全てナンセンスなのですが、とはいえ給特法という実定法の規定ぶりを、それだけを厳密に読んでいく限り、超勤4項目などというのはお題目の訓示規定であって、それに該当しないからといって給特法の基本構造である労基法37条の適用除外をもう一度ひっくり返すことはできません、というその結論は、そこのところだけは正しいというしかないわけです。

理屈はなっていない法律とはいえ、では憲法違反で無効にできるほどの悪法かというと、さすがにそういうわけにはいかない。それこそ労基法の中に残業代を払わないでいい仕組みはいくつもあります。労基法制定時には、ホワイトカラー職員を丸ごと適用除外にするという案すらあったくらいなので、どういう労働者にどういう適用除外をするかは、よほどのものでない限り立法裁量の範囲内といわざるを得ないでしょう。

そういうわけで、さいたま地裁に引き続き、理屈はまるでだめだけれども、結論はこういうことになるしかなかろうという判決になったということでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

> 小法廷は「上告理由に当たらない」とだけ述べて教員側を敗訴とした詳しい理由を示さなかったが、2審の給特法の解釈に不合理な点はないと判断したとみられる。
https://mainichi.jp/articles/20230310/k00/00m/040/299000c

公立小中は義務教育の最後の砦ということは言えそうですが
なまじ、高校が入っているので、給特法の合理性を積極的に
裁判所が述べるのは辛いような気はしますね。まあ、立法の
合理性にまで口出しして、余計な仕事をした振りをする必要
性がなぜ、あったのか?、という裁判官達自体の労務管理の
問題があるように思われます

上司のお気持ち:『判例法理を産み出すことに貢献したい!例えば、現状の特別法でカバーし切れていない立法の狭間を適用範囲の拡大で埋める、とか、いいかもな~♪』
部下のお気持ち:『(よく分からないけど)頑張ります!』

みたいな感じで、無能な働き者たちが生まれているのかな?

> 教師という職種には特殊性があるから残業代を払う必要はなく、4%だけ払えばいいのだと、本気で主張するのであれば、教師という職種において全く何の違いもない私立学校や国立学校の教師に給特法が適用されず、労基法がそのまま適用されるというのは、今すぐ是正すべき間違った状況である

このような事を申し上げるのは、hamachan先生には 釈迦に説法 かもしれませんが、

>もし文部科学省が教師という職種には特殊性があるから残業代を払う必要はなく、4%だけ払えばいいのだと、本気で主張するのであれば、

残業代を払わないのではなく、残業代をあらかじめ給料に上乗せしてある(残業代の前払)のだと思います。
給特法ができたのは半世紀前ですが、当時の教員の1か月(!)の平均残業時間は8時間だったそうです。そこで8時間分の残業代として給与の4%を上乗せする事にしたそうです。
素人考えですが、平均残業時間を大幅に超える人がいない状況では、
  残業代を払わない代わりに平均残業時間分の残業代をあらかじめ給与に上乗せする
という当時の給特法の考えはそれほど非常識とは思いません。当時の教員も給特法に賛成する方が多かったそうです。
私は、現在の給特法の問題点は残業代を払わない事ではなく残業代として上乗せされている額(4%)が少ない事だと思います。給特法成立時には教員の残業時間の平均が月に8時間でしたが、現在では教員の勤務時間の平均が毎日11時間(毎日3時間の残業!)になっているそうです。
新聞によると文部科学省も給特法の改正を検討しているそうです。しかし改正が
  現状及び将来の動向に対応するため、あらかじめ月200時間分の残業代を給与に上乗せします。
  今後は残業代を気にせず思う存分仕事をして下さい。
という内容だったら、(残業代に関する訴訟は減ると思いますが)それはそれで問題だと思います。
理想的には給特法の改正ではなく当初の月8時間の残業で収まるように教員の数を増やすべきだと思います。


>だって、ときどき新聞等で報道されるように、結構多くの私立学校は、公立学校でやっているからとまったく同じようなことをやらかして、労度基準監督署に是正勧告を受けて、未払いの残業代を無理やり支払わされて、挙げ句にケシカラン奴らだと報じられているんですよ。

労度基準法には全くの素人ですが、私立学校が(成立時の給特法のように)
  教員の平均残業時間に相当する残業代をあらかじめ給与に上乗せしているという状況で残業時間が極端に多い人がいない状況でも労度基準監督署に是正勧告を受けるのでしょうか?


>教員の職務に指揮命令性の希薄さ、自律的判断の可能性など、一般労働者の職務と比べて特殊性があることは確かである。その特殊性にかんがみて、教員の労働時間規制について特例を設けること自体には一定の合理性があると考えられる。

以前の
  裁量労働制の採用で、定額働かせ放題
という話題を思い出しました。

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