エスピン=アンデルセン『平等と効率の福祉革命』
岩波書店編集部の藤田紀子さんより、イエスタ・エスピン=アンデルセン著 , 大沢真理監訳『平等と効率の福祉革命 新しい女性の役割』(岩波現代文庫)をお送りいただきました。
https://www.iwanami.co.jp/book/b608021.html
キャリアとジェンダー平等を追求する女性と、性別分業に従う女性との間で広がる格差。価値観・学歴の似た者同士が結婚する結果、世帯間の格差が増幅し、社会の効率性が下がり、さらには世代を越えて格差が継承されてしまう。どうすればこの流れを転換することができるのか。比較福祉国家論の第一人者による提言の書、待望の文庫化。
正直言うと、エスピン・アンデルセンを文庫に入れるなら、まず何より『福祉資本主義の三つの世界』を、それも岩波現代文庫よりも岩波文庫の白版あたりに入れるのが先じゃないかという気もしますが(だって、ウォーラーステインがはいるんだから)、そこはいろいろと難しい問題があるのかも知れません。
「子どもまん中」とか言いながら、どこまで分かっているのか、あらぬ方向に行きかねない政治の姿を見るにつけ、改めて10年以上前に出された本書を政治家も官僚も評論家諸氏も新聞記者諸氏も熟読玩味する必要がありそうです。
とはいえ、こんなちっぽけな文庫本一冊読み通すのは難儀だという人のためには、著者本人による「あとがき」が一番端的に本書の趣旨を示しています。
・・・しかし、平等主義という動機のみに基づいて福祉国家の改革を主張しても、得心するのは既にそれに賛成している人々だけだろう。反面で、政策の改革によって私たちがより優れたパレート・フロンティアに進めることを示せるなら、福祉国家改革の主張は遥かに多くの支持を得られるだろう。これは、衡平性が増すとともに、潜在生産力がより有効に動員されるという、両得の成果を意味する。他の何人の利得を損なうこともなく、ある人々の利得を増すことができるという意味で、パレート的に、女性の革命に対する福祉国家の適応という策を打ち出せることは、多くの差し迫った問題領域で十分に明白なはずである。女性の革命に福祉国家が適応するという方法以外では-それは基本的に家族か市場に頼るという方法になる-全ての差し迫った問題領域において次善の解決策にしかならないはずである。
衡平性と効率性という最小限の基準に基づき、私は、第一に、母親であることと雇用とを両立させるという面で福祉国家を支持する主張を、かなり有力に展開したと信じている。この面では、福祉国家による支援がなければ、二つのうち一つ(あるいは両方)の弊害が生じるだろう。すなわち、過度の少子化、あるいは(若しくは及び)、過度の労働力不足と家族所得不足である。私はさらに、引退における世代内の衡平の促進を主張したつもりである。この二つ目の面に関しては、衡平性を保障することができなければ、引退を延期するための努力が台無しにされるだろう。この努力はますます喫緊のものとなっており、引退を遅らせることができなければ、今度は。国家財政の持続可能性及び世代間の契約が深刻な危機に陥るだろう。しかし、他の何にもまさって説得力ある議論は、間違いなく、子どもへの投資に関するものである。子どもへの投資は、機会の平等の向上と、生産性の大幅な増大を同時に保障する。そして、幼い時期から子どもに十分に投資することは、高齢期の貧困やニーズに対する非常に優れた保険にもある。結論として、福祉国家が女性の役割の革命を加速させることに役立つなら、私たちは恐らく全面的に、平等と効率の大きな成果を収穫することができるのである。
まさに、ここで著者が挙げている過度の少子化、過度の労働力不足、家族所得不足、国家財政の持続可能性及び世代間の契約の深刻な危機等々といった多くの弊害が同時に押し寄せてきている現代日本において、この2パラグラフは大きな太字で印刷して、全ての政治家の手元に届けてあげたい珠玉の文章です。
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> キャリアとジェンダー平等を追求する女性と性別分業に従う女性との間で広がる格差
> 母親であることと雇用とを両立させる
昨今のフェミニストさん達の感覚では、「母親であること」を公的に手当てすることは
(「性別分業に女性が従うこと」を公的に手当てすることだから)良くないことなんで
しょうな
> 父親に次ぐ夫からの支配を避けたいとも考えているのだ。彼女たちは、悠々自適な人生を謳歌したいと願う。
> フェミニストの視点を取り入れた対策が有効な鍵になるのではないだろうか。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d56499ee279a976eb26cafdf3adc5601d1aae3c8
投稿: 鍬江 | 2022年8月 5日 (金) 16時53分