坂本貴志『ほんとうの定年後』
坂本貴志さんの『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書)をお送りいただきました。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000367702
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70代男性の就業率は45%、80代就業者の約9割が自宅近くで働く……全会社員必読! 知られざる定年後の「仕事の実態」とは?
漠然とした不安を乗り越え、豊かで自由に生きるにはどうすればいいのか。豊富なデータと事例から見えてきたのは、「小さな仕事」に従事する人が増え、多くの人が仕事に満足しているという「幸せな定年後の生活」だった。日本社会を救うのは、「小さな仕事」だ!
坂本さんからは、2020年12月に、『統計で考える働き方の未来─高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)をお送りいただいているので、ほぼ1年半での新著ということになります。
第1部は15項目にわたってさまざまなデータを使って定年後の仕事の実態をあれこれと示しています。ここは元官庁エコノミストとして目配りが効いています。
第2部は、そこから得られた「小さな仕事に意義を感じて働く」人々の姿を7つの事例でもって浮かび上がらせています。ここは、民間シンクタンクに移っての少しジャーナリズム的なセンスが行間に滲み出てきます。
もちろん他人の経験ではあるのですが、事例1の山村さんについては、書きながらかつての自分とダブるところもあったかも知れません。山村さんは国鉄が民営化されるときに某市役所に転職したのですが、当時苦労したのは議会関連の仕事だったそうです。
・・・議員さんの対応は、結構大変でした。結局、悪い言葉でいうと忖度しなきゃいけない部分ってあるんですね。自分は本音で話したいんだけど、話せないことってあるじゃないですか、現実問題。議員先生の言うことに対して本当は違うんだよなって思いつつも、言葉を慎重に選びながらうまく立ち回っていく。だからなんなんだろう、そういうのはめんどくさいよね。要するにもう定年過ぎてからあと5年間そんな仕事の仕方をしたくはねえなと、そういう思いもありました。・・・
で、第3部が結論部分ということになりますが、ここでちょっと面白いなと思ったのが「生産者に主権を移し、良質な仕事を生み出す」という一節です。これからますます労働供給制約時代になっていくことを前提にすると、
・・生産者と消費者との力関係はその時々の経済環境に依存して変化する。
過去、働き手が余っていた時代においては、消費者は強い力を持っていた、・・・・
・・・純粋消費者が増えて働き手が足りなくなる現代の日本社会においては、生産者と消費者の関係は必然的に変ってくるだろう。つまり、消費者が過剰に存在していて生産者が足りない労働供給制約社会においては、主権は生産者に移るはずなのだ。・・・
ここは、そうなるという話なのか、そうなるべきだという話なのか、ほっとくとそうならない可能性も高いようにも思えますが、この話がその数ページ先では、例のサービスの品質は断トツなのに安い値付けのために生産性が低いサービスとみなされてしまうというパラドックスのことが書かれていて、賛意を表したいところです。
・・・このように見ていくと、こうした生活に身近な仕事について、働き手はその仕事の価値に見合った適正な賃金を受け取れるべきではないか。・・・適正な賃金を支払うということは、その分のサービス価格の上昇を社会が甘受すべきであるということであり、これはすなわち消費者が相応の負担を受け入れるべきだということにほかならないからだ。
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