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2022年7月 2日 (土)

育児休業給付の将来

今朝の朝日新聞に「非正規労働者などにも育休給付 政府が抜本的見直し検討、課題は財源」というかなり突っ込んだ記事が出ています。

https://www.asahi.com/articles/ASQ7164LBQ71UTFK00Q.html

政府は、子どもが1歳になるまでの間の育児休業中に支払われる育児休業給付の対象者を拡大するため、制度の抜本的見直しの検討に入った。現在の対象は正社員を中心とした雇用保険の加入者に限られているが、非正規労働者や、出産や育児で離職した再就職希望者などを念頭に拡大をめざす。財源問題を伴うだけに、負担をどうするかが大きな焦点となる。

 複数の政府関係者が明らかにした。少子化対策は喫緊の課題で、育休給付の対象拡大は、子育て世代が男女ともに収入やキャリア形成に不安なく、仕事と子育てを両立できる環境整備を進めるねらいがある。

 見直しの背景には、雇用保険制度の限界がある。加入には「週の労働時間が20時間以上」「31日以上の雇用見込み」などの要件があり、加入できる非正規労働者は一部にとどまる。フリーランスや自営業者も対象外だ。

 そもそも雇用保険の主な財源は事業主と労働者から徴収する保険料のため、子育て支援より失業防止が重視され、育休給付の対象者は限定されている。それでも近年は利用者が増え続け、来年度に赤字に陥る可能性がある。

 このため、政府内では現行制度では対象拡大は難しいとの見方が強い。給付を雇用保険制度から切り離す案も浮上しているが、その場合、新たな財源をいかに捻出するかが課題となる。・・・・

この「複数の政府関係者」ってのは、おそらく全世代型社会保障改革構築本部の方々だと思われますが、この育児休業給付の問題は幾重にも話が絡まり合っているので、せっかくなのでここでごく簡単に整理しておきましょうか。

まずもって現在育児休業給付の財源となっている雇用保険サイドですが、一昨年のコロナ禍のとば口あたりで行われた雇用保険法改正で、育児休業給付が失業等給付から独立して、0.4%の独自の保険料率をもつ、いわば雇用保険制度内の準独立的な制度になったことはご案内の通りです。ところがその後のコロナ禍で雇用調整助成金が払底して失業等給付の方からお金を持ってきてもまだ足りず一般会計からつぎ込む事態となっていることはご存じの通り。そういう中で、雇用保険法の保険料率を引き上げる改正が今年行われたのですが、その元になった労政審雇用保険部会の報告では、「育児休業給付については、男性の育児休業促進策等に係る制度改正の効果等も踏まえつつ、中長期的な観点から、その充実を含め、他の子育て支援制度の在り方も合わせた制度の在り方を総合的に検討することが適当である」とした上で、「この点に関し、労働者代表委員及び使用者代表委員から、育児休業の取得促進は少子化対策の一環として行われるものであり、育児休業期間中の経済的支援は、国の責任により一般会計で実施されるべきであるとの意見があった」と、労使の意見が示されています。。

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000879039.pdf

また、先の国会でこの雇用保険法改正案が可決された際の国会の附帯決議でも、「令和6年度までに、育児休業給付等の国庫負担割合の引下げの暫定措置の見直しだけでなく、育児休業給付の財源確保の在り方を含め、雇用労働者に限らず、フリーランスとして就業する者などを含む全ての働く者の育児・子育てを広く社会で支援する体制の構築を検討すること」と、より明確な意見が打ち出されています。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/current/f069_032901-1.pdf

そして、すでに去る5月から厚生労働省は雇用保険制度研究会(学識者6名、座長:山川隆一)を開始しており、その論点の中に「育児休業給付とその財源の在り方」も挙げられています。これがこれまでの枠組みにおける正式な制度的な検討の場ということになります。

しかし、上の記事にもあるように、雇用保険の枠を超えて育児休業給付を拡大していくということになると、これは雇用保険制度の検討を超えます。ではそれはどこで進められるのかというと、すでに官邸の全世代型社会保障構築会議で議論が出されています。

かつての安倍政権における産業競争力会議に相当するのは新しい資本主義実現会議ですが、社会保障改革についてはこの全世代型社会保障構築会議が司令塔的な役割を果たすこととされているようです。去る5月にとりまとめられた「議論の中間整理」では、「子育て・若者世代が子どもを持つことによって収入や生活、キャリア形成に不安を抱くことなく、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境を整備するために必要となる更なる対応策について、国民的な議論を進めていくことが望まれる。その際には、就業継続している人だけではなく、一度離職して出産・育児後に再び就労していくケースも含め、検討することが重要である」と、ややぼかした表現になっていますが、

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/pdf/20220517chukanseiri.pdf

例えば2022年3月の第2回会合では、「育児休業給付を雇用保険制度の給付としていることを見直し、より個人としての取得の権利を確立し、非正規雇用者を含めて子育て支援を前面に出した制度に見直していくべき」という意見が示されています。

Yamazaki 実をいうと、この全世代型社会保障構築会議の事務局のトップにいるのが、元厚生官僚で昨年駐リトワニア大使から戻ってきた山崎史郎氏で、彼が昨年11月に出版した近未来小説『人口戦略法案』には、彼の主張する子ども保険構想が詳細に描かれています。それは、育児休業給付と児童手当等の子ども関係の諸給付をまとめて一個の社会保険制度を作ろうという話で、彼がかつて携わった介護保険の夢よもう一度というストーリーですが、今回の記事の裏にあるのも、おそらくこの山崎氏の子ども保険構想ではないかと思われます。そのとっかかりが育児休業給付の非正規やフリーランスへの拡大ということなのでしょう。

というわけで、来週の参議院選挙が終わったら、この動きが一気に加速していく可能性があります。

上記朝日の記事の最後には、

・・・こうした事態に対応するため、政府は社会保障の支え手を増やすため、厚生年金や健康保険への加入対象を広げる「勤労者皆保険」を掲げる。これに先んじて始まる育休給付の対象者拡大に向けた議論は、全世代型社会保障の構築に向けた「試金石」となる。政府関係者の一人は「少子化対策を拡充するための入口にしたい」とも打ち明ける。

と、きわめて率直な見解が記されています。リークというよりも、意図的な号砲記事の感もありますが、記事の背景を解説するとほぼ以上のようになります。

(おまけ)

参考までに、育児休業給付については、去る5月17日 にWEB労政時報に「育児休業給付の過去・現在・未来」という小文を寄稿していますので、知識の確認用にどうぞ。

 新型コロナウイルス感染症が急速に蔓延し始めたさなかの2020年3月に成立し、翌4月に施行された改正雇用保険法により、育児休業給付は失業等給付から独立し、子を養育するために休業した労働者の生活及び雇用の安定を図るための給付と位置付けられました。そしてこのため、育児休業給付の保険料率(1,000分の4)を設定するとともに、経理を明確化し、育児休業給付資金を創設することとされました。その後の約2年間、日本の雇用政策はコロナ禍に振り回されたこともあり、この育児休業給付の問題はあまり注目を集めることはなかったようですが、労働法政策の観点からは興味深い論点がいくつもあります。
 育児休業法は1991年5月に成立しましたが、当時野党や労働側は育児休業中の経済的援助の創設を求めていました。野党が国会に提出していた法案では、国労使が3分の1ずつ負担する掛金により賃金の60%の手当を賄う育児休業手当を規定していましたが、使用者側の強い反対でこの時には実現しませんでした。
 しかし、1993年にこの問題が再度審議され、1994年6月の雇用保険法改正により、高年齢者雇用継続給付と並んで育児休業給付が設けられました。その位置づけは、本来失業というリスクに対する保険制度である雇用保険制度を財源とするために、「職業生活の円滑な継続を援助するための給付」(雇用継続給付)ということにされました。そして、その趣旨を確保するために、そもそも休業前賃金の25%相当額という渋めの給付水準のうち、20%を育児休業基本給付金として休業期間中に、残り5%は育児休業者職場復帰給付金として休業後6か月間雇用された後に支給、という仕組みにしていました。育児休業期間中のみに給付を行うこととすると、わずかな期間だけ形式的に職場復帰することにより、職場復帰後に支給する育児休業給付を受給すると退職してしまうといった制度本来の趣旨に反した濫用を招きやすいからと説明されていますが、未だに女性の就労意欲があまり信頼されていなかったことの現れかも知れません。
 そもそも、この25%という数字は高年齢雇用継続給付のそれと一致しているように見えますが、こちらは60~65歳の賃金にその25%を上乗せするというものです。無収入の育児休業期間の経済的援助として25%(当面は20%)というのは、かつての野党法案の60%には到底及ばず、ここにも当時の政策の軽重の意識が露呈しているように見えます。
 1995年6月の育児休業法改正により介護休業が創設された後、1998年3月の雇用保険法改正で(教育訓練給付と同時に)介護休業給付が設けられました。同給付の給付水準は25%で、一見育児休業給付と同じ水準に見えますが、こちらは職場復帰6か月後まで5%お預けになっていません。もちろん休業期間に差があるから(育児休業は子が1歳に達するまで、介護休業は3か月)ではあるのですが、育児休業する者は給付をもらったらさっさと退職するかも知れないが、介護休業する者はそんな心配は要らないと言っているかのようでもあり、なにやら妙なジェンダー意識が後ろにちらついているようにも見えます。
 この20%+5%という育児休業給付の給付水準が引き上げられたのは2000年5月の雇用保険法改正時です。同改正は主として、自己都合離職者等の給付日数を大幅に削減するものでしたが、育児休業給付については休業前賃金の40%相当額(30%を休業期間中に、残り10%は休業後6か月雇用された後に支給)に引き上げられました。なお、介護休業給付も同時に40%となりましたが、こちらは従前通りお預け分なしに全額まとめてです。育児休業取得者に対する不信感は依然として継続しているようです。
 2004年12月には、育児・介護休業法の改正に合わせて雇用保険法の両休業給付の規定も改正され、育児休業給付についてはその支給期間が一定の要件で子が1歳半に達するまでに延長されました。もっとも給付水準やお預け分に変わりはありません。
 この30%+10%という育児休業の給付水準がさらに引き上げられたのは2007年4月の雇用保険法改正時です。同改正は主として短時間労働者の被保険者区分をなくし、一般被保険者として一本化するとともに、受給資格要件に離職理由で差を付けるものでしたが、育児休業給付については暫定措置として原始附則に第9条を追加し、復職6か月後に支給されるお預け分を10%から20%に引き上げました。これにより、育児休業給付の総額は休業前賃金の50%相当額となり、そのうち30%を休業期間中に、残り20%は休業後6か月雇用された後に支給という仕組みとなったわけです。なおこの時併せて、育児休業期間の算定基礎期間への不算入といった被保険者期間に係る調整規定も設けられました。
 ここまで一貫して一部はお預けという仕組みを維持してきた育児休業給付が、ようやく介護休業給付と同じように休業中に全額支給される制度となったのは、2009年3月の雇用保険法改正によってでした。同改正は主として非正規労働者への適用拡大として1年以上の雇用見込みを6か月以上の雇用見込みに改めるものでしたが、育児休業給付についてはようやく基本給付金と職場復帰給付金の二本立て方式が廃止され、育児休業給付金に一本化されたのです。ただし、2007年改正が附則による暫定措置であり、本則上は30%+10%であるのを附則で暫定的に30%+20%としている状態であったため、この2009年改正による一本化についても、条文上は、本則上は40%であるのを附則第12条で暫定的に50%とするという形になっています。
 この本則の給付水準を附則で10%嵩上げするという仕組み自体は変わらないまま、2014年3月の雇用保険法改正により、さらに支給率が一部引き上げられました。育児休業期間のうち最初の6か月間は67%、それ以後は50%です。規定ぶりは大変ややこしく、本則上は40%のまま、附則で原則50%に、さらに当初の6か月間は67%に嵩上げするという複雑怪奇な仕組みです。これは、2013年8月の社会保障制度改革国民会議の報告書が育児休業期間中の経済的支援の強化を求めたことがきっかけで、同年12月の労政審雇用保険部会報告書では出産手当金の水準を踏まえ、育児休業開始時から最初の6か月の間については67%の給付率とすべきとされたためです。
 この間、育児休業給付の受給者数は年々増大し、それに伴って支給額も毎年増大していき、遂に求職者給付を追い抜くほどとなっていきました。その状況を雇用保険事業年報で見てみましょう。2008年度までは育児休業基本給付金と育児休業職場復帰給付金が別建てになっていましたが、初回受給者数は基本給付金の数値であり、総額は両給付金の合計です。
年度
 
初回受給者数 総額(千円)
 
 
1995       59,720       59,603        117    11,847,763
1996       59,292       59,159        133    22,163,086
1997       65,343       65,177        166    25,747,927
1998       71,413       71,230        183    29,151,507
1999       75,960       75,766        194    32,079,976
2000       85,144       84,925        219    37,239501
2001       92,796       92,517        279    59,748,853
2002       98,462       98,164        298    70,766,585
2003      103,478      103,019        459    76,282,017
2004      111,928      111,416        512    82,753,772
2005      118,339      117,625        714    89,495,294
2006      131,542      130,564        978    95,506,913
2007      149,054      147,824       1,230    120,795,633
2008      166,661      165,221       1,440    151,144,314
2009      183,542      181,908       1,634    171,153,523
2010      206,036      202,745       3,291    230,431,411
2011      224,834      220,767       4,067    263,111,959
2012      237,383      233,544       3,839    256,676,405
2013      256,752      252,582       4,170    281,072,650
2014      274,935      269,462       5,473    345,720,437
2015      303,143      295,412       7,731    412,300,202
2016      327,007      316,596       10,411    450,343,708
2017      342,978      328,803       14,175    478,372,543
2018      363,674      344,987       18,687    531,237,726
2019      381,459      353,667       27,792    571,348,709
2020      419,386      373,445       45,941    643,584,516
 このように、育児休業給付の支給額は一貫して増加を続け、遂に基本手当に匹敵する給付総額となることが見込まれるに至りました。そこで、労政審雇用保険部会の2019年12月の報告書は、「このまま育児休業給付を求職者給付等と一体的な財政運営を続けた場合、景気状況が悪化した際には、育児休業給付の伸びに加えて求職者給付の増加が相まって財政状況が悪化し、積立金の取り崩しや保険料率の引上げが必要になり、ひいては給付にも影響を及ぼすことも懸念される」と述べ、「このため、育児休業給付については、新たに「子を養育するために休業した労働者の雇用と生活の安定を図る」給付として、失業等給付とは異なる給付体系に明確に位置づけるべきである」とし、「併せて、その収支についても失業等給付とは区分し、失業等給付全体として設定されている雇用保険料率の中に、育児休業給付に充てるべき独自の保険料率を設けて、財政運営を行うべきである」と、その失業等給付からの独立を求めました。
 この報告書に基づき、翌2020年3月に行われた雇用保険法の改正により、これまで同法の「第3章 失業等給付」の「第6節 雇用継続給付」の「第2款 育児休業給付」であったものが「第3章の2 育児休業給付」となり、失業等給付や雇用安定事業等と同格に引き上げられました。そしてその収支も失業等給付とは区分し、雇用保険料率の中に育児休業給付に充てるべき独自の保険料率(4/1000)を設けて、財政運営を行うこととされました。これに伴い、それまで育児休業給付が属していた失業等給付(他の政策的給付もまだ含まれている)の保険料率は6/1000から2/1000へと究極的に縮小しました。なお、育児休業給付自体の要件や効果は変わっていませんが、それまでの本則の給付水準を附則で10%嵩上げするというやり方をやめて、素直に本則上に最初の6か月間は67%、それ以後は50%と書き込まれました。
 この2020年改正によってほぼ完成された育児休業給付の制度設計を、改めて育児休業法制定前に当時の野党から出されていた育児休業法案の育児休業手当の条項と読み比べてみると、30年以上の月日を経て、ようやくそれに近い制度にまで到達したと評することができそうな気がします。細かく言えば、給付率では同法案が1年間60%であるのに対して現制度は半年間67%+半年間50%ですし、費用負担は同法案が国労使3分の1ずつであるのに対して現制度は労使折半+国が8分の1ですが、雇用保険制度の中に独自の保険料率をもった半独立的な勘定区分を設けたというのは、同法案の「掛金の徴収」が少し違う形で実現したようなものだとも言えます。
 ところが、育児休業給付の保険料率が0.4%として独立し、その分失業等給付の保険料率が0.6%から0.2%へと激減した2020年4月は、同年2月から急激に蔓延を始めた新型コロナウイルス感染症の影響が全国に及び始めた時でもありました。2020~2021年度の2年間で雇用保険2事業の雇用調整助成金が5兆円も支給され、雇用安定資金はあっという間に払底して失業等給付の積立金を借り入れ、そちらも払底して一般会計から繰り入れて凌ぐ事態となったのです。2022年3月の改正でようやく段階的に0.8%に戻すことになりましたが、このタイミングの悪さは特筆するに値します。もちろん育児休業給付の責任ではありませんが、改めて育児休業への経済的援助という社会構造的な政策を、雇用保険財政という景気変動に対応した循環的対応が不可避の制度の中に設けることのメリットとデメリットを考えさせられた経験と言えます。
 2021年6月の育児・介護休業法改正により父親出産休暇(正式名称は出生時育児休業制度)が創設されるのに伴い、雇用保険法においても育児休業給付の一つとして出生時育児休業給付金が設けられました。支給水準は67%で、これは育児休業給付の当初6か月分と同じですが、同じ時期に産後休業中の母親に支給される出産手当金(2/3)ともほぼ同じです。また、出生時育児休業制度では休業期間の半分まで就労が可能となりますが、これについては最大で10 日(これを超える場合は 80 時間)の範囲内とし、賃金と給付の合計額が休業前賃金の80%を超える場合には、当該超える部分について給付を減額する仕組みとしています。
 なお、これに向けた労政審雇用保険部会の報告では、上述のようなコロナ禍による雇用保険財政逼迫にも言及し、「育児休業給付の在り方については、今般の男性の育児休業促進策等に係る制度改正の効果等も見極めた上で、雇用保険制度本来の役割との関係や、他の関連諸施策の動向等も勘案しつつ検討していく必要があるものである」と釘を刺しています。同部会では、労使各側委員から「育児休業期間中の経済的支援は、少子化対策の一環として行われるものであり、少子化対策は社会全体で子育てを支えていく観点から、税による恒久財源で賄うべき」といった意見が示されていました。ここまで膨れあがった育児休業給付のあり方をめぐって、同報告は「現在の保険料率で安定的な運営が可能と確認できている令和6年度までを目途に検討を進めていくべき」としており、今後更なる議論の展開が予想されます。
 
 育児休業給付を子育て支援という大きな政策の枠組みの中で位置づけ直そうという動きは、2009年から2012年の民主党政権において試みられたことがあります。その目玉政策の1つとして、「子ども・子育て新システム」の検討が進められたのです。
 2010年1月、幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的なシステムの構築について検討を行うため、閣僚レベルの「子ども・子育て新システム検討会議」が設置され、同年4月に「子ども・子育て新システムの基本的方向」をまとめていますが、そこでは「育児休業の給付と保育を一元的に制度から保障し、育児休業明けの円滑な保育サービス利用を保障」という文が入り、子ども手当、一時預かりや地域子育て支援等、すべての子どもの育ちを支援する基礎給付(1階)の上に、幼保一体給付(仮称)や育児休業給付等、仕事と子育ての両立支援と、幼児教育を保障する両立支援・幼児教育給付(2階)を設けるという構想を示していました。
 同年6月の「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」では、「事業ごとに所管や制度、財源が様々に分かれている現在の子ども・子育て支援対策を再編成し、幼保一体化を含め、制度・財源・給付について、包括的・一元的な制度を構築する」という考え方に立ち、「実施主体は市町村(基礎自治体)とし、新システムに関するすべての子ども・子育て関連の国庫補助負担金、労使拠出等からなる財源を一本化し、市町村に対して包括的に交付される仕組み(子ども・子育て包括交付金(仮称))を導入する」という大胆な一本化構想を提起しています。これにより給付の内容は、①すべての子ども・子育て家庭を対象とした基礎的な給付と②両立支援・保育・幼児教育のための給付の2種類となります。
 具体的な制度設計としては、まずすべての子ども・子育て家庭支援(基礎給付)として、子ども手当(個人への現金給付)と子育て支援サービス(個人への現物給付)を一体的に提供します。次に、妊娠から出産、育児休業、保育サービスの利用、放課後対策まで、切れ目のないサービスを提供するという観点から、「両立支援・保育・幼児教育給付」(仮称)を提起しています。この中に、産前・産後・育児期における就業中断中においても安心して子どもを生み育てることができるよう、妊娠から保育サービスまで切れ目なく給付が受けられる仕組みとしての「産前・産後・育児休業給付(仮称)」が提起されているのです。これが、幼稚園・保育所・認定こども園の垣根を取り払う「こども園」(仮称)などの「幼保一体給付」(仮称)、放課後児童給付(仮称)などと並べて記述されており、これにより「育児休業の給付と保育サービスを一元的な制度により保障することにより、育児休業から保育サービスへの円滑な利用を保障する仕組みとする」ことが目指されているわけです。この両立支援・保育・幼児教育給付には事業主・個人が拠出すると想定され、さらに「既存の特別会計(勘定)の活用などにより、子ども・子育て勘定(仮称)を設け、各種子ども・子育て対策の財源を統合し」「子ども・子育て包括交付金(仮称)として、市町村に対して必要な費用を包括的に交付する」と書かれています。
 その後、作業グループと基本制度、幼保一体化、こども指針の3つのワーキングチームが設置されて検討が進められ、そのうち基本制度ワーキングチームの第4回会合に、「出産・育児に伴う休業中の給付について(案)」が提示されました。
 そこでは、まず給付の趣旨として、健康保険による出産手当金と雇用保険による育児休業給付を統合し、産前・産後・育児休業期間を通した一貫して給付を行うとし、その意義を女性労働者にとっては連続した就業中断であり、期間中の所得保障という共通の目的になじむとしています。また健康保険、雇用保険から子ども・子育て新システムに移行することにより給付改善が可能となる制度的環境が整うとしています。さらに、子どもの年齢とともに仕事と子育ての両立の在り方も就業中断・育児専念型から保育利用・就業型へ移行するが、復職時の保育サービスが利用しにくい状況を解消するために、これらを一元的な制度とする必要があるとしています。
 受給者の範囲については健康保険と雇用保険で異なり、またいずれでも除かれる者をどうするかという問題が提起されています。週20時間未満の短時間労働者については徴収ルートがなく、自営業者の場合子育てのために休業していることの認定が難しいとしています。さらに、給付水準についても問題があります。
 事務主体をどうするかも大きな問題で、市町村とした場合には一元的な給付が実現しますが、市町村の事務負担と事務処理体制の必要に加えて、本人の申請負担も生じます。健康保険や雇用保険の保険者とした場合は申請負担は増加しませんが、包括的・一元的な制度とならないとしています。
 こういった難点もあり、2011年7月27日の「中間取りまとめ」では、注釈的に「産前産後・育児休業中の現金給付から保育まで切れ目なく保障される仕組みの構築が課題であるが、出産手当金(健康保険)、育児休業給付(雇用保険)の適用範囲や実施主体に違いがあること等を踏まえ、両給付を現行制度から移行し一本化することについては将来的な検討課題」と書かれているだけで、この段階での見直し項目からは落とされました。
 その後、2012年3月に「子ども・子育て新システムの基本制度について」が少子化社会対策会議決定によって決定されましたが、これの別添2「子ども・子育て新システム法案骨子」からは、出産・育児に係る休業に伴う給付は消えています。こうして、同月子ども・子育て支援法案が国会に提出され、同年8月に可決成立しました。同法により、子どものための現金給付、子どものための教育・保育給付及び子育てのための施設等利用給付からなる子ども・子育て支援給付が設けられ、その財源として児童手当拠出金を拡充して事業主からのこども・子育て拠出金が設けられました。しかし、一時一元化が検討されていた出産手当金と育児休業給付は別建てのままとなりました。
 もっとも、附則第2条第1項には「政府は、総合的な子ども・子育て支援の実施を図る観点から、出産及び育児休業に係る給付を子ども・子育て支援給付とすることについて検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とわざわざ規定されており、火口は残した形になっています。
 一方、2016年3月に子ども・子育て支援法が改正され、事業主拠出金の率の上限が1.5/1000から2.5/1000に引き上げられるとともに、その対象事業として仕事・子育て両立支援事業が設けられました。これは、事業所内保育を中心とした企業主導型保育事業への助成です。所管する内閣府はそのメリットとして女性活躍の推進、優秀な人材の採用と確保、地域貢献、企業イメージの向上等を挙げていますが、その大部分は企業の労務管理上のものであり、実質的には企業に対する雇用助成金というべきものになっています。
 育児休業法制定時に託児施設の設置運営は事業主の選択的措置の1つとして位置づけられ、今日でも「労働者の三歳に満たない子に係る保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与を行うこと」が選択的義務として、3歳から小学校就学の始期までは選択的努力義務として省令に規定されています。この企業主導型保育事業への助成は、いわばこの部分についてのみ取り出して別財源でもって手当てしたような形になっています。
 
 さて、2021年11月に官邸に設置された全世代型社会保障構築会議では、再び育児休業給付の位置づけの見直しの議論が提起されています。例えば2022年3月の第2回会合では、「育児休業給付を雇用保険制度の給付としていることを見直し、より個人としての取得の権利を確立し、非正規雇用者を含めて子育て支援を前面に出した制度に見直していくべき」という意見が示されています。今後どのような方向に進むかはまだ分かりませんが、子ども・子育て新システム構想で一時打ち出された案が再び登場してきているようです。
 一方、内閣府の経済財政諮問会議では、2022年4月の第4回会議で有識者議員から「育児休業給付は、支給対象が雇用保険の被保険者に限定されている。必要な者には、制度にかかわりなく、子供の養育のために休業・離職していずれ復職するまでの間、給付が行われるようにすべき」との提起がなされています。これがどのような法政策につながっていくのか興味深いところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

超ざっくり言うと、これまで社内労働市場前提で雇用保険でやってたものを、社外(国内)労働市場に広げるので社会保険の枠組みにしよう、ということですかね。

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