フォト
2022年8月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 世界の最低賃金 | トップページ | 技能実習制度の見直しへ »

2022年7月29日 (金)

『高木剛オーラル・ヒストリー』

労働関係者オーラルヒストリーシリーズの『高木剛オーラル・ヒストリー』をお送りいただきました。インタビュワは例によって、南雲さん、梅崎さん、島西さんです。

高木剛さんといえば、言わずと知れた元連合会長ですが、その前のゼンセン同盟会長時代、さらにその前の旭化成労組時代など、いろんなエピソードがてんこ盛りです。

ゼンセンといえば、本ブログでも紹介した二宮誠さんのようなオルグ馬鹿一代記みたいな武闘派が思い浮かびますが、逢見直人さんのような学者肌のプロパーもおり、そして高木さんのような企業単組から引っ張られて来た人もいます。高木さんは東大卒業後旭化成に入って、数年後に、本部書記長が来て「君に組合に来てもらうことになったからね」の一言で、4年のつもりが50年になったと述懐しています。鷲尾さんなどと同じタイプです。

旭化成労組書記長時代で興味深いのは、職務給導入にまつわる話です。

・・・ただ、完全職務給化していくというのは大変で、全職種について職務分析をやらなければならないし、職務分析がちゃんと真っ当なものか、一方的に会社のいうことだけではなくて、組合も一緒になって評価しないと組合員の信頼にも関わるから、職務分析・評価の作業に組合も付き合うのが大変だった。全職種を職務分析・評価するのは大仕事。だから労使とも、担当者が主事業所を飛び回って、年のうち何百日出張だというのを2年ぐらいやったのかな。それで、全職種。職務給も、1級からあるけれど、一番低いのは実質的には3級ぐらいから。それで8級まで職務価値で格付ける。9級から上はもう役付だから、職務分析に値せずということで。・・・

管理職からジョブ型にするなどという近頃のひっくり返った訳の分からない話に比べれば、ランクアンドファイル中心に職務給導入という、労使とも真っ当な発想であったことが分かります。そういう昔のことを覚えている人がほとんどいなくなったので、インチキコンサルのでたらめジョブ型が流行るんでしょうけど。閑話休題。

それから、いま統一協会の件で選挙活動の手足になるボランタリー労働力の問題が注目を集めていますが、労働組合は別に宗教団体じゃないので、神仏の御心でただ働きというわけにはいかないけれども、公職選挙法上はただ働きしてもらわないと困るというわけで、こういう話になるようです。

・・・これは新聞に書かれると困るような話もいっぱいあるけどさ。公職選挙法というのは厄介で、戸別訪問したらいかんというし、仕事中に抜けていって選挙運動をやると運動買収だというし。だから、年休を取らさなければいけない。個人が勝手に個人の意思で年休を取って、たまたま選挙運動にいっただけだというふうにせなあかんわけだから。みんなに「年休を取って選挙運動にいってくれ」と頼むわけよ。それは最初の1年、2年はよかったけれど、毎年続くと「あの年休は後で返せよ」ということになる。・・・

また、昨年茨城の方で実現した労組法18条の労働協約の拡張適用についても、高木さんがゼンセン産業政策局長時代に、愛知県で実現しているんですね。

・・・労組法18条を具体的に運動としてやって実現させたところはそう多くない。それは大変なこと。4分の1の労働者を雇用する経営者は、「何で俺らが県の言うことを聞かなあかんのだ。県の命令かなんか知らんけど、なんじゃ」と。県にも文句を言うわ。県会議員は出てくるわ、大騒ぎよ(笑)。それは15年ぐらい続いたのかな。拡張適用をね。・・・

高木さんの話はまことに多岐にわたります。今朝の朝日新聞の「(中国共産党大会2022)指導部にガラスの天井 政治局員25人中、女性は1人」に出てくる孫春蘭副首相も、中華総工会の秘書長時代に、ILOの理事選挙関係でガイ・ライダーを交えて交渉したという思い出を語っています。

https://www.asahi.com/articles/DA3S15371768.html

・・・その時に交渉に来たのが、総工会の秘書長で孫春蘭という女性。立派な人だったよ。いまは、中国共産党の政治局員だな。女性でいま一番偉いのか。常務委員にはなっていないけど。このおばさんは、いまは副首相をしているよ。孫春蘭さんといって、もともとは女工さん上がりよ。優秀な人で、交渉もタフだった。・・・

そして、ちょうどいまデッドロックに引っかかったみたいになっている最低賃金ですが、これが急激に上がり始めた第1次安倍内閣のときのこういういきさつも、率直に語っています。

・・・最賃の話は、連合の時に頼まれて俺もだいぶ骨を折ったから。「もう、1円、2円上げる話はやめた。そんな最賃なら決めてくれんでいい」といってがんばった。安倍内閣の厚労大臣をやっとったのが愛媛出身の塩崎(恭久)氏で、その塩崎氏が官房長官の時の話だが、「最賃をなんとかならないか」と言ったら、「やりましょうや」と言ってやってくれて、塩崎氏と大田弘子さんの2人が骨を折ってくれた。「1円、2円の話は付き合わんぞ。何十円の話だ」と説得し、結局、何十円の話になった。だから、これも連合会長時代の話だけど、「最賃の問題を最賃審以外の場で、官邸の場で協議するようにしたから、組合も付き合ってくれ」という流れになった。そこで、私は連合で、「最賃のプロはもういい。官邸の会議には連れて行かん。お前らが議論するとまた1円、2円の話をしてくるから」と。・・・

官邸主導の最賃政策の裏ばなしですね。

そして、これは制度を作る上で高木さんが一番重要な役割を果たした労働審判制度についても、こんな思い出を語っています。

・・・こんな議論をしながら、菅野和夫先生にえらい骨を折ってもらって本郷三丁目の角に、いまはもうなくなったらしいけれども、「百万石」という料亭があったが、そこで菅野さんと矢野さんと私の3人で何回か議論をしたこともあった。・・・

そして、高木さんによればその副産物が労働契約法なのですが、そこにこういう齟齬があったようです。

・・・これについては部分的に賛否両論がいろいろあって、連合も中途半端な対応だったものだから菅野さんが後で怒っておった。「お前がやれと言うから一所懸命やったら、連合が横から口を入れてくるから叶わんかった」と言われたけどさ。「ええ、そんなことがあったんですか。申し訳ありませんでした」と謝罪したことがあった。・・・

これも、労働法政策的には大変興味をそそられる裏話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

« 世界の最低賃金 | トップページ | 技能実習制度の見直しへ »

コメント

”その塩崎氏が官房長官の時の話だが、「最賃をなんとかならないか」と言ったら、「やりましょうや」と言ってやってくれて、塩崎氏と大田弘子さんの2人が骨を折ってくれた。「1円、2円の話は付き合わんぞ。何十円の話だ」と説得し、結局、何十円の話になった。だから、これも連合会長時代の話だけど、「最賃の問題を最賃審以外の場で、官邸の場で協議するようにしたから、組合も付き合ってくれ」という流れになった。”

労働運動がこれほど長い高木氏ですら、最賃は労使の専権事項という認識がこうまで薄かったというのは驚きですね。三者構成であるものの、実質的な議論は労使でなされているはずなのに。こういうのが積み重なって第二次安倍政権での官邸主導の働き方改革につながっていったのかなとも思えてきます。

労働組合は、最賃の話のように労働環境を改善するために政治と関わるべきであって、労働環境の改善が見込めないのに政治と関わるべきではありませんね。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 世界の最低賃金 | トップページ | 技能実習制度の見直しへ »