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« ウクライナの労働者権利破壊法 | トップページ | 技能実習制度の見直し@『労基旬報』2022年7月25日号 »

2022年7月24日 (日)

ジョブ型原理が嫌いな人々の群れ

なんだか、薬学部なんか無駄だとか、薬剤師免許なんかいらないとかいう議論が一部ではやっているようですが、学校教育で職業資格を得た人間がその職業の専門技能を有していると社会的に見なされて当該職業を遂行していく、という日本以外では当たり前のジョブ型社会の基本原理が、なまじ原則的にそうじゃない日本の労働社会で例外的に妙に厳格なジョブ型原理を持ち込むと、どういう反発が発生するかのいい見本になっていますね。

実のところ、ビジネススクールにせよ、なになにスクールにせよ、そこのディプロマを得た若造が、長年無資格で勤め上げた現場のたたき上げよりも有能であるというのは、ジョブ型社会のお約束事に過ぎないわけですが、世の中全体がそういうお約束で動いている以上は、その若造が卒業とともにエグゼンプトとかカードルとかいうエリートとして偉そうにあれこれ指図し、段違いの高給をもらい、一生動かないノンエリートを横目にあちこち動きながら早々と出世していくのは、そういうものなわけです。

日本に一応あることになっている職業分類というのは、そういうジョブ型原理で作られていますが、しかし実際にある労働者をどちらに分類するか、たとえばあるサラリーマンを管理的職業とするか事務的職業とするか、といった局面になると、世の中がそういう原理でできていないという事実が露呈するわけです。

管理的職業というのは、管理的職業になるためのビジネススクールのようなところで高度(ということになっている)教育を受け、管理的職業として採用され、入ったその日から辞めるまで管理的業務をする職種であり、事務的職業というのは、それよりも下の中くらいレベルの教育を受け、事務的職業として採用され、入ったその日から辞めるまでずっと事務的業務をする職種です。

日本は戦中戦後の激動の中で、戦前にはあったそういう社内職業階層社会を会社員(であるかぎりみな)平等社会に作り替えてしまったわけで、それにどっぷり漬かって3~4世代を経過した現代日本人にとって、役に立っているのかどうかも分からない職業資格なんて言うのは、眉に唾をつけて見られるようなものであるということが、よくわかります。

そういう日本社会の中で、例外的にジョブ型原理でもって構築されているのが医療の世界。医師とは、医学部を出て医師国家試験を通過し、医師として採用され、入ったその日から辞めるまで医師として働く職種であり、看護師とは・・・、なになに技師とは・・・、以下同文、という世界です。

すぐ横にそういう純粋ジョブ型社会があるのを見た薬剤師たちが、俺たち私たちも、と考えるのは不思議ではありません。まことに自然な反応なわけですが、ところがそういう医療の世界を離れた日本社会全体は、それとは全く正反対の、ジョブなき社会でもって生きているわけです。

興味深いのは、そういう欧米社会が作り上げてきたジョブ型社会の原理に疑問を呈するための小道具として、かなり過激な市場原理主義的経済理論が使われる傾向にあることです。市場原理主義からすれば、職業資格のようなジョブ型のあれこれのインフラストラクチャーは最も適切なマッチングを妨害し、市場を歪める代物ということになるわけでしょう。

日本的なメンバーシップ型社会とは、その意味で言えば、職業資格などという下らんものを無視して(その会社の社員であるという唯一無二の資格を有する限り)最も適切なマッチングを人事部主導でやれるとてもいい仕組みなんだ、と、30年以上前の日本型雇用礼賛者であれば言ったのでしょうがね。

(追記)

念のため、やってることは同じじゃねえか、と言われている薬剤師と薬の販売員について、職業紹介の現場で使われているハローワークインターネットサービスの職業分類を見てみましょう。これは、現場で使うために該当例と非該当例というのが載っていて、大変面白いです。

https://www.hellowork.mhlw.go.jp/info/mhlw_job_dictionary.html

まず、薬剤師ですが、これは大分類の「B 専門的・技術的職業」の中分類「12 医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」に含まれ、れっきとした専門技術職です。その「124 薬剤師」の中に、「124-01 薬剤師(調剤)」として、「該当例:調剤薬局薬剤師、薬剤師(病院調剤所)」と「非該当例:調剤助手[379-99] 」が挙げられ、続いて「124-02 薬剤師(医薬品販売) 」として、「該当例:医薬品販売員(薬剤師) 」と「非該当例:医薬品登録販売者[323-08] 」が並んでいます。

一方、大分類の「D 販売の職業」の中分類「32 商品販売の職業」には、「323 小売店販売員 」として、「323-08 医薬品・化粧品販売店員 」というのがちゃんと挙がっており、該当例は「医薬品登録販売者、化粧品販売員、美容部員」で、非該当例は「薬剤師(医薬品販売)[124-02]、化粧品宣伝販売人[324-02] 」です。

同じように薬局で薬を売っているだけなのに、何で一方は専門技術職で、他方は販売職なんだと思うかも知れませんが、それが職業分類なるものを作り出したジョブ型社会の常識だったからですね。

まあ、とことん考え突き詰めていけば、大学教授と情報商材販売員もやってることは似たようなものなのに、なんで一方は専門技術職で、他方は販売職なんだという議論にもなりかねませんけど。

 

 

 

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コメント

最近日本の経済学部の入試は数学必須になりつつあるのでああだ、こうだ、色々言われてますが、でもこの動きは日本の経済学部関係者がようやく自分たちの職業的レリバンスに自覚的になりだした、と言う事で良いのでしょうか。

自分たちの教えてることは日本的なメンバーシップ型における虚学にすぎなかったから、これからは虚学としての需要は大幅に減るけど、ジョブ型社会で有用性のあるものにしようではないか、と言う危機感がようやく芽生えているのでしょうか。
経済学の専門誌経済セミナーを読んでいますが、最近はアメリカのスタートアップ企業でお経済学を経営に生かすという動きが活発になっているそうです。
経セミに寄稿する先生もそのようなアメリカの経済学のトレンドに合わせて自分たちの研究している経済学をバージョンアップさせよう、と言う若手の研究者が多い。

私は虚学としての経済学を学んで今もそれに未練がましくしがみついてますが、上記の若手の経済学者の動きを見るととても頼もしく思っています。

経済学部の職業的レリバンス
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-f2b1.html

薬剤師不要論?何だこれはと思ったら池田信夫氏の論考が検索で見つかりました。薬剤師は薬を袋詰めするだけだから資格など不要である、というたぐいの議論、資格を所有する側を無駄な存在とするのではなく、むしろ社会的な資格を全く活用する気のない雇用者側が問題とされるべきではないかと思いますが、無駄な資格はなくせと言わんばかりの主張には驚きます。そりゃ自分としても薬剤師がドラッグストアでレジ打ちをしているのを見ると、この資格とはいったい何なのかとは思いますが、しかし薬剤師なんて不要であると普通は考えないと思いますが。

> 大学教授と情報商材販売員もやってることは似たようなもの

やってることは似たようなものかもしれませんが
付属物が違うので。まあ、コロナでキャンパスが
閉鎖したら、学位が出るか、出ないかの違いしか
ないじゃないか、ということにはなりましたけど

> 「獣医学部の新設禁止」という岩盤規制に安倍政権が何とか穴をあけました。これが既得権益の猛反発を招き、加計問題と称するありもしない疑惑追及が延々となされました。
> 今度は「薬学部の新設禁止」を新たに導入するそうです。呆れて物が言えません。
> 「需給調整のために新規参入禁止」という考え方は、古き既得権保護行政そのもので、話にならない。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71100
 
禁止(?)はともかくとして、ジョブ型では「学位の発行数」で需給の調整は当然です。
まあ、入学数をコントロールというよりも「卒業数のコントロール」がメインでしょう。
これが「入りやすく、出にくい」の正体ですね。その需給の「調整役」の一端を担うのは
職種別労組。

そういうのは ファーマシー・テクニシャン(NVQ3) でいいんじゃないのか?と考えてしまいます。
残念なことに日本では、病棟勤務薬剤師より、ドラッグストア勤務のほうが年収が上でして。
これも不完全雇用ですね。。

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