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2022年7月17日 (日)

ミドルスキル労働者の非正規化と正社員のロースキル化

過去30年間に進行し、私も含めていろいろと議論されてきた労働力の非正規化の一つの解釈として、それまでは企業メンバーシップに包摂されていたミドルスキル労働者が非正規化していったというのがあるわけですが、その一つの例証のような記事が、noteに載っていました。「やま」さんという方の吐露です。

https://note.com/yama0117/n/n39d6666beb0b

○事務派遣時代

私は3年半ぐらい生産管理の事務派遣をしていた。
生産計画を立て日々の進捗を確認してやる仕事。
一品毎に仕様が違う部分があるので設計にフォローを入れて特殊品がある場合は先に購買に情報を流し、更には営業が入れた納期が本当かの確認を行い、生産進捗を行うというまあ後から分かったけどかなり大変な生産管理を経験した。
正社員と同じで担当ラインを持ち、そこを任されるという形。

はっきり言って正社員の方々より上手くやれていたし、メンタルを病んで居なくなった正社員のケツ拭きや病んだ理由の調整が難しいラインの担当までした。朝から晩まで働いたし、土日を出て生産調整もした。納期に遅れないために外注に部品を取りに行ったこともやった。製造、調達、技術、更には協力会社の方々を呼んで会議をして、短納期対応できるようにしたことは何度もあった。課長級の方々には間違えなく認められていた。
やってる仕事は正社員と変わらない。何故派遣なのに?って思うかもしれないが、そうしないと回らない訳。だからやるし、やらないと切られるからやる。正社員としてやる仕事で人が足りてないならわしを正社員にしてくれれば良かったじゃんと今でも思う。

しかし正社員にはなれなかった。
今だに分からない。正社員より働いたし、結果も出した。
にも関わらず、給料は正社員より少なく、ボーナスは無し。


○技術派遣(客先常駐)

派遣会社の正社員だが、客先に派遣されてやる形の派遣。
3社回って計6年〜7年近く勤務していた。
派遣先で既存ラインの改善、新規ラインの立ち上げなどを担当していた。というか、既存ラインについては、わしが面倒を完全に見ていた。
不良低減会議を主催、不良も確実に低減させた。稟議資料作成/部長への説明、新規ラインの進捗会議の主催。図面を書いて部品を手配したし、改善提案も書いて実現もさせて、不良設備トラブルや品質トラブルがあれば現場に各課を集めて話を聞いて利害調整した。当たり前だけど、会議や打ち合わせを滞りなく行かせるために根回しもした。
更に言うなら設備数は少ないかもしれないが、客先担当が居ない中で同じ派遣会社の後輩君と新ラインの立ち上げも行った。外注業者との調整、設備調整、工程能力取りなど立ち上げに関する様々な仕事と説明資料作成。それをやりながら既存ラインの面倒まで見た。現場からは頼られていた自信はあるし、改善については顔が広くなっていたので私が忙しくてらやれないことについては具体的に落とし込んだら色々やってくれるおじさん達を組み合わせてやってもらったりとマネージメント的は働きもした。

でも客先の正社員より給料が低い。ボーナスも低い。
単に言われたことをやるのではなく、旗振り役までした。
しかし正社員になれない。世の中に恨みや絶望を感じた。 

技術の派遣は製品や設備、ライン固有の問題にやればやるほど詳しくなるわけで、現場としても数年で居なくなると困るはずなんですよ。というか、困ってますよ。更には長い間いるから他の課と人脈が出来て仕事の根回しがどんどんやれるようになるわけで、派遣にそこまでやらせるなら正社員採用して残した方が良いはずなんですよ。でもやらない。

後、コロナ禍になり、派遣切りは無かったけど、契約満期で切るのは私の周りでは多発した。私と私の後輩はライン立ち上げをしていて、正社員無しでやっていたこともあり、特例で残れたけど、周りは軒並みやられた。仕事がめちゃくちゃ出来る人も居なくなり、現場から悲鳴が上がっていた。
当たり前だが、この時に派遣先の組合は全く動かなかった。
組合はつまり私達を仲間だと思っていなかったことの現れなんだろうし、私が組合に対して必要だと思いつつも不信感があるのは、この経験をしたからに他ならない。

この方の仕事の内容は、かつての日本型雇用全盛時代であればまさにその中核をなしていたであろうような、華々しくはないけれども司司をしっかりと締め、そこがしっかりしているから組織がちゃんと回り、物事が動いていくような、そういう仕事です。

それこそ、日本型雇用礼賛時代に、これこそが現場力だとか、知的熟練だとか、日本の競争力の源泉だとかほめそやされていたミドルレベルのスキルの仕事ではなかろうかと思います。

過去30年間の日本企業は、(私もそういう説明をしてきましたが)日本型雇用システムのうち、企業の競争力にとって重要な中核部のメンバーシップは維持し、そうでない周辺部をどんどん非正規化してきた、とそう考えてきました。

ある部分のメンバーシップを維持し、そうでない部分を非正規化してきたというのは確かですが、正社員として維持された部分は本当に競争力の中核部だったのか、非正規化された部分は本当に競争力にとって本質的でない周辺的な部分だったのか、むしろ、ある面では逆だったのではないか、というのが、部分的非正規化を始めてから30年たって、じわじわと感じられ始めていることではないか、という話です。

こういう企業の競争力に縁の下の力持ちとして貢献しているミドルスキルの労働者を周縁視し、市場原理を旗印にして不安定低処遇の非正規化する一方で、市場原理に抗してメンバーシップをひたすら守ってきた「中核部」は、「働かないおじさんand/orおばさん」としてむしろ企業の競争力にマイナスの貢献をしてきたのではないか、というのが、そういうハイブリッド方式を始めてから30年たって、じわじわと感じられ始めているように思います。

ところが市場主義者たちの攻撃の矢は、こういう不当に非正規化されている人々への細々とした保護政策をこそ目の敵にするんですな。

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コメント

「やま」さんが書いているお仕事ですが、まさしく「ジョブ」型の仕事ですね。
日本を除く世界の労働の現場ではこういう「ジョブ」型の仕事をする労働者は団結するなり裁判に訴えたりするなどして自分たちの働く権利を守ってきたのだと思います。

ところが日本では連合、あるいは全労連でもいいのですが、多くの労働組合は「メンバーシップ型」の仕事をする労働者の雇用を守るための団体となってしまったがゆえに「ジョブ」型の仕事をする労働者の権利が顧みられなくなり、どんどん非正規化が進んでしまったわけですね。

日本型メンバーシップ型雇用が残る過程を見て行くと何だか武士とそれ以外の階級とに分けられた江戸時代の身分社会に回帰しているような気がひしひしとしております(T_T)

> ミドルスキルの労働者を周縁視し、市場原理を旗印にして不安定低処遇の非正規化する一方で、市場原理に抗してメンバーシップをひたすら守ってきた「中核部」は、「働かないおじさんand/orおばさん」としてむしろ企業の競争力にマイナスの貢献をしてきた

なるほどねえ

> 東大には海外留学や国際交流、国内の地域課題の解決に関わる活動をサポートする仕組みもあります。未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。異文化を怖れる必要はありません。人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html

> 大きな研究成果を上げて将来を期待されながら、自ら命を絶った女性がいる。享年43歳。多くの大学に就職を断られ、追い詰められた末だった。
https://www.asahi.com/articles/ASM461C8QM3YULBJ016.html

> 東北大の若手研究者ら非正規職員239人が2022年度末、労働契約法の特例で認められた有期雇用契約の通算10年に達することが分かった。東北大では17年度末に非正規約300人が雇い止めされており、無期雇用に転換されなければ、今回も大量の雇い止めが生じる可能性がある。
https://kahoku.news/articles/20220511khn000040.html

逆再殿

研究者の雇止めに関しては、以下の記事がありました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/92ab4689bacac495683e6e7172c2b1aad93a0c6b?page=2
    「理研600人リストラ」に中国人ITエンジニアは「不思議です」と繰り返した

この記事の筆者の友人である中国人エンジニアは以下のように述べたそうです。
 「私は門外漢ですが、日本はまた何百人も研究者を辞めさせる。それを中国が手に入れるなんて申し訳なく思います」
 「日本は研究者もエンジニアも人権ないですね」
 「中国は日本人研究者や技術者のおかげで大国です。本当にありがたい話です」
さらに筆者は以下のように述べています。

これまでも自動車、精密機械、重電、通信、鉄道、鉄鋼、農業、エンタメ、ありとあらゆる技術や研究は中国に渡った。それは日本で「不要」とされた日本人研究者や技術者が食ってくためはもちろん、それは彼らのリベンジマッチでもあった。
たとえば今や世界的家電メーカーである中国ハイアール(海爾集団)の「アクア」ブランド(旧三洋電機)などまさに井植兄弟につながる「三洋魂」の発露だろう。アクアには多くの「三洋魂」の継承者も携わってきた。
2000年代、そうした彼らを「使い捨てられるだけ」と嘲笑する向きもあったが必ずしもそうではなかった。

私もまったく同意見です。最近、”経済安保”と称して、中国で研究する日本人研究者を批判する人もいますが、日本でクビになった研究者が中国で研究するのは、ある球団を自由契約(クビ)になった選手が別の球団に入団して活躍するのと同じで、クビにした球団がその選手を批判する資格はないと思います。

詳細背景が不明なので一方的感想になってしまいますが、これらの方々の
やっている業務が"中核業務"と言えるか検討が必要かと思います。
中~大企業の生産現場は、ほとんどERP(Enterprise Resource Planning、
SAP S/4とか)で管理されるようになっていて、この手の労働集約的
生産管理は、ERPに乗らない(手間をかけて移行するまでもない)製品だけに
なっていると思います。
グローバル化されたサプライチェインの時代に、ここで書かれているような
生産管理手法ではついていけません。この会社の正社員の方は、日々ERPと
格闘して、テレビ会議で英語や中国語を駆使しなががら、サプライヤーとの
交渉をしているのではないかと思います(それが中核業務)。
日本が失われた30年を迎えてしまったのは、そのような大きな流れに乗れない
企業が多かったから、と推定しています。IT化の進歩でミドルスキルの仕事が
減り、ハイスキルの仕事とロースキルの仕事が増えたと言われますが、この
"ミドルスキルの仕事"が日本の得意な領域であり、そこを生かしてなんとか
頑張ろうとして、結局先進国から落ちこぼれそうになってしまった、と思います。
このお話に出てくる方のように、ミドルスキルの安い賃金でも働いてしまう
労働者が大量に居たことが日本の不幸だったのではないでしょうか。

> テレビ会議で英語や中国語を駆使しなががら、サプライヤーとの交渉をしている
 
21世紀も20年経って、(かつては先進的に過ぎると思われていた?)
この世界観がまさに現実のものになってきた訳ですね。社会学、スゴい!
いや、経営学かな?
 
> 採用対象は超エリート技術者と経営幹部候補に限定されている。前者は院卒に限定されており、後者についてもできればMBA取得者の採用を期待している。いずれについても、世界の大学ランキングの中で東大よりも上の大学からの採用をねらっている。多くの職場にはインド人IT技術者が複数採用されて活躍している。この企業の社員の間では「われわれの子供たちはとてもこの企業には入れない」という会話が交わされている。生半可な国内大学を出た人間が正社員として採用されることはほぼ考えられなくなっているからである。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_667c.html

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