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2022年6月

2022年6月30日 (木)

性風俗営業とコロナ給付金

本日、東京地裁が性風俗営業を持続化給付金の対象から除外したのは違法ではないという判決を下したようです。

https://www.asahi.com/articles/ASQ6Y748XQ6TUTIL002.html

 性風俗事業者が新型コロナウイルス対策の持続化給付金などの対象から外されたのは、憲法が保障する「法の下の平等」に反するとして、関西地方のデリバリーヘルス(無店舗の派遣型風俗店)運営会社が、国などに未払いの給付金や慰謝料など計約450万円を求めた訴訟で、東京地裁(岡田幸人裁判長)は30日、請求を退ける判決を言い渡した。 

この件で興味深いのは、この記事の最後にも書かれているように、厚生労働省所管の雇用調整助成金等では、当初対象外とされたものの、その後批判を受けて対象に含められたのに、経済産業省所管の持続化給付金では対象外のままで、裁判にまで発展した点です。

この件については、一昨年から本ブログでも時々追いかけてきましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-b631f8.html(新型コロナと風俗営業という象徴)

今回の新型コロナウイルス感染症は、医療問題から経済問題、労働問題まで実に幅広い分野に大きなインパクトを与えていますが、その中で風俗営業というトピックが全く違う文脈で全く違う様相を呈しながら様々に語られていることが興味を引きます。それはあたかも風俗営業というそれ自体はそれほど大きくない産業分野がある意味で現代社会のある性格を象徴しているからではないかと思われるのです。

まずもって、コロナウイルスを蔓延させているのは濃厚接触している夜の街の風俗営業だという批判が登場し、警察が歌舞伎町で示威行進するてなこともありましたが、それはそういう面があるのだと思いますが、実は経済のサービス化というのは、もっともっと広い範囲で人と人との接触(どれだけ「濃厚」かは別として)それ自体を商品化することで拡大してきたのであれば、コロナショックが何よりも人と人とが接触する機会を稼ぎの元としている飲食店やサービス業といった基盤脆弱な日銭型産業分野を、当該接触機会を最大限自粛することによって直撃していることの象徴が風俗営業なのかもしれません。

一方、コロナショックを労働政策面から和らげようとして政府が繰り出した雇用助成金政策に対して、それが風俗営業従事者を排除しているのが職業差別だという批判が噴出しました。そしてその勢いに押された厚生労働省はそれまでの扱いをあっさりと放棄し、風俗営業従事者も支給対象に入れることとしたわけですが、このベクトルは風俗営業のみを卑賎視する偏見に対して、それもまた歴とした対人サービス産業であるという誇りを主張するものであったはずで、その背景にはやはり、風俗営業も他の対人サービス業も、人と人との接触それ自体を商品化する機会を稼ぎのもとにしていることに変わりはないではないか、そして現代社会はそれを経済拡大の手っ取り早い手段として使ってきているのではないかという自省的認識の広がりがあったのかもしれません。

ところが、ここにきて、某お笑い芸人がラジオ深夜番組で語ったとされる、コロナ不況で可愛い娘が風俗嬢になる云々というセリフが炎上しているらしいことを見ると、実は必ずしもそうではなかったのかもしれないなという感じもあります。そのセリフが政治的に正しいものではないことはたしかですが、本ブログのコメント欄に書き込まれたツイートにもあるように、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-5924c7.html#comment-117951899

> 不景気になると
> 岡村隆史「かわいい人が風俗嬢やります」
> 経営者「有能な若者が安い給料で働く」
> あんまり言ってること変わんねえよなこれ

労働供給過剰によってより品質の高い労働力が低価格で供給されるという経済学的には全く同型的な市場メカニズムを語る言葉が、一方はソーシャルな立場からは全く正しいものではないにもかかわらず、多くの経済学者の口から平然と語られても全く問題にならない(どころか経済学的に正しいことを勇気をもって語ったとしてほめそやされる)のに、芸人の方は集中砲火を浴びるのは、やはりエコノミカリー・コレクトに対するポリティカリー・コレクトとソーシャリー・コレクトの存在態様の大きな格差を物語っているのかもしれません。

これら新型コロナウイルス感染症をめぐってさまざまに立ち現れた風俗営業をめぐる人々の思考のありようは、誰かがもっときちんと、そしてこれが一番大事ですが、どれか一つのアスペクトだけではなく、そのすべての側面を全部考慮に入れたうえで、突っ込んで考察してほしいなあ、と思います。そういうのがほんとの意味での社会学的考察ってやつなんじゃないのかな、なんてね。

(追記)

世の中、ちょっとした時期のずれで大きな差ができることがありますが、本日から申請を受け付け始めた経済産業省の持続化給付金は、中小法人向けの200万円コースも、個人事業主向けの100万円コースも、特定の風俗営業は対象から除外しています。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_chusho.pdf

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_kojin.pdf

不給付要件(給付対象外となる者)に該当しないこと
(1)風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する「性風俗関連特殊営業」、 当該営業に係る「接客業務受託営業」を行う事業者
(2)宗教上の組織若しくは団体
(3)(1)(2)に掲げる者のほか、給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する

雇用助成金の時には、風俗営業だからと言って排除するのは職業差別だとあれほど騒いだ人々が、岡村発言の直後にはだれも文句を言わなくなってしまっているというあたりに、その時々の空気にいかに左右される我々の社会であるのかがくっきりと浮かび上がっているかのようです。 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-3d83ef.html(ネット世論駆動型政策形成の時代の言説戦略と無戦略)

・・・とはいえ、ネット世論駆動型政策形成の基盤であるネット世論というものが、いかに風にそよぐふわふわしたものであるかは、そのネット上におられる諸氏はよく理解されておられるところのはずで、その危うさが露呈したのが、雇用助成金において先行的に適用除外の撤廃が先行しながら、経産省所管の持続化給付金が始まる直前に猛烈な急ブレーキがかかった、例の性風俗営業関係の適用除外問題だったと思います。

雇用助成金における風俗営業の適用除外に対して、職業差別だという批判の嵐が巻き起こったのもネット世論であったわけですが、今回その勢いに水をぶっかける形になったのも、深夜ラジオ番組における芸人の発言に対するネット世論における猛烈な批判であったというのは、やはりこのネット世論駆動型政策形成の本質的な危うさを浮き彫りにする事態であったように思います。

注意すべきは、前者の雇用助成金における風俗営業の適用除外を批判するネット世論は、明確に当該制度の変更を求めるネット言説戦略としてなされ、そういう意図に即した形で政治家から行政に迅速に伝えられて実現に至ったわけですが、後者はそうではなく、むしろその芸人発言批判の言説が現下の政策形成プロセスにどのような影響を与えるのかについての認識を欠如した形で、その意味では言説戦略の欠如(無戦略)としてなされてしまい、結果的に想定していなかった政策効果をもたらしてしまったらしいところです。

上述したように、私は今回かなり全面的に回転しているこのネット世論駆動型政策形成プロセスに対して必ずしも否定的ではありませんが、こういうある種のバタフライ効果が発生しうるという点は、とりわけネット上で活躍されている方々は改めて認識しなおす必要はあるのだろうと思います。

この問題、もう少し視野を広げていろいろと考えたいテーマですが、とりあえず、この記事を見て思ったことをメモ代わりに書いてみました。

https://note.com/kanameyukiko/n/n6deb27eae9ea (岡村叩きにみる正義を語る悪魔 by 要友紀子)

Kaname ・・・・私がこのたび筆をとったのは、経済産業省がいま持続化給付金のことで、本当に風俗業従事者を給付対象にするのか否か、流動的な微妙な空気が流れているからだ。
どういうことかというと、官僚というのは、風俗店がこの先も存続すべきものかどうかを見据えて法律や制度を作るらしい。・・・
 この背景を藤田氏は知らない。私がとても懸念しているのは、経済産業省の官僚たちがまさに今、「世の人々は風俗は本来あってはいけない産業だと思っている、他の労働と同じ労働としては捉えてないらしい」というSNSでの世論をどこまで参照にしているかだ。
 政治家にとって、政治・政局・選挙という3大状況判断を藤田氏はご存じだろうか。この3つの状況判断のいずれか1つを間違えても命取りになり、うまくいくはずのこともダメになってしまうという意味だ。だから、岡村発言を炎上させるのを、この持続化給付金のことが落ち着くあと数週間待ってほしかった。岡村発言は確かに問題で世間で騒がれて当然の話ではあるが、今はやめてほしかった。いま私たちは経済産業省をなんとか説得しようと必死で動いている喫緊のところだ。今からでも、藤田氏には、自身がまき散らした風俗利用叩き、風俗嬢は本来風俗ではなく福祉へ大合唱の禍根について急いで原状回復をお願いしたい。さしあたり、風俗が労働として否定されることがないよう追加アナウンスすべきだ。そのための草稿づくりであればいくらでも協力する。 ・・・・ 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/01/post-3d1f9a.html(笹沼朋子「セックスワーカーの労働者性に関する覚書」@『愛媛法学会雑誌』47巻1号)

Content_20220630163601 『愛媛法学会雑誌』47巻1号に掲載されている笹沼朋子さんの「セックスワーカーの労働者性に関する覚書」は、昨年コロナ禍の中で本ブログでも何回か取り上げたことのあるトピックを論じていて、興味深いものです。

冒頭、例の岡村隆史さんの発言が出てきて、それに対する藤田孝典さんの激烈な批判があり、さらにそれに対するSWASHの要友紀子さんの痛切な批判が出てきて、こういう大学紀要を読むような奇特な人々に対する分かりやすい状況説明がされています。

等しくセックスワークに従事する者に対するコロナ禍での助成制度が、厚生労働省の場合は当初除外していたのがSWASHなどの批判を受けて対象に含めることとしたのに、経済産業省の場合は除外し続け、その理由付けに藤田さんのような議論が使われているというのは、ずっと追いかけている人にとっては基本的な知識ですが、一歩外に出ると必ずしもそうではないからです。

的確に要約できる自信もないので、是非大学図書館等で読んでいただければと思いますが、「事業としての性交渉は搾取なのか労働なのか」とか「セックスワーカー市場を作っているのは誰か」とか「そもそも労働だって搾取である」とか、見出しを追うだけでも興味がそそられます。

笹沼さんの結論は、これも見出しの文句ですが、「セックスワーカーが解放されるために必須のもの-団結権」ということになるのでしょう。

そして、最後のところで、「私は、性的人格権という概念については賛成できない」と主張される理由についても、なかなか火を噴くような強烈な議論が展開されています。ここだけでも読む値打ちがあります。 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-428e8e.html(許可制は健全で届出制は不健全?)

朝日の夕刊に「性風俗業は「不健全」か コロナ給付金巡り、国「道徳観念に反し対象外」」という記事が載っていて、この問題自体は本ブログでも厚生労働省の雇用助成金と経済産業省の持続化給付金の取り扱いの違いについて論じてみたことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-b631f8.html(新型コロナと風俗営業という象徴)

・・・雇用助成金の時には、風俗営業だからと言って排除するのは職業差別だとあれほど騒いだ人々が、岡村発言の直後にはだれも文句を言わなくなってしまっているというあたりに、その時々の空気にいかに左右される我々の社会であるのかがくっきりと浮かび上がっているかのようです。

本日はその件ではありません。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14941351.html(性風俗業は「不健全」か コロナ給付金巡り、国「道徳観念に反し対象外」)

何の話かというと、政府が性風俗業を持続化給付金の対象から外した論拠として、スナックや料亭といった(性風俗ではない)風俗営業は公安委員会の「許可」制にしているのに対し、性風俗業は公安委員会への届出制にしていることを挙げているという点に、ものすごい違和感を感じたからです。曰く、

・・・性風俗業を「性を売り物にする本質的に不健全な営業」「許可という形で公認するのは不適当」としている。

国はこれらをもとに、性風俗業は「不健全で許可制が相当でない業務とされてきた」・・・

性風俗業がいかなるものであるかについてはここでは論じませんし、持続化給付金の対象にすべきかどうかもとりあえずここでの論点ではありません。

しかし、「本質的に不健全」であるがゆえに許可制ではなく届出制とするのだ、というこの政府が裁判所で論じたてているらしい論理というのは、どう考えてもひっくり返っているように思われます。

そもそも、行政法の教科書を引っ張り出すまでもなく、許可制というのは、一般的禁止を特定の相手方に対して解除するという行政行為です。なぜ一般的に禁止しているかといえば、それはほっとくと問題が発生する恐れがあるからであり、何か問題が起きたら許可の取り消しという形で対処するためなのではないでしょうか。

それに対して、届出制というのは一般的には禁止していないこと、つまりほっといても(許可制の事業に比べて)それほど問題は発生しないであろう事業について、でもやっぱり気になるから、念のために届出させて、何かあったら(届出受理の取り消しなとということは本来的にありえないけれども)これなりにちゃんと対応するようにしておこうという仕組みのはずです。

そして、労働法政策においても、たとえば有料職業紹介事業は許可制ですが、学校や公益法人等の無料職業紹介事業は届出制ですし、派遣も今は許可制に統一されましたが、かつては登録型派遣は許可制で、常用型派遣は届出制でした。これらはどう考えても、前者の方が問題を起こしやすく、いざというときに許可の取り消しができるように、後者はあんまり問題がないだろうから、届出でええやろ、という制度設計であったはずです。

それが常識だと思い込んでいたもんですから、このデリバリーヘルス運営会社の起こした持続化給付金訴訟において、政府が上述のような全くひっくり返った議論を展開しているらしいということを知って、正直仰天しています。 

本判決の結論は記事にあるとおりなんでしょうが、この政府のいう許可制と届出制についても訳の分からん屁理屈についてどういう判断をしているのか、またはスルーしているのか、そのあたりのトリビアにも興味がそそられます。

ちなみに、上の要友紀子さんが、いまちょうど参議院選挙に立候補しているんですが、彼女は要宏輝さんの娘さんだったんですね。これもびっくりです。

(追記)

https://www.call4.jp/file/pdf/202206/a3f0743ac45f5ffb22a2119fef62dc30.pdf

うわぁ、東京地裁の裁判官は、警察庁の言う「このような営業について、公の機関がその営業を営むことを禁止の解除という形での許可という形で公認することは不適当であると考えて、届出制にし・・・」云々というわけのわからない理屈を全くそっくりそのまま認めてしまっているよ。

この裁判官は、法学部で行政法の総論をきちんと勉強したことがあるのかな。そもそもここにあるように、許可制というのは「一般的禁止の解除」なんだが、性風俗でないダンスホールやパチンコ屋のような風俗営業はそんなに悪いものじゃないから一般的に禁止して簡単に許さないけれども、ソープやヘルスのような性風俗産業はそもそもけしからんものだから一般的に禁止しないで誰でも認めるという大前提に立つことになるんだが、日本国の全分野で整合的であるべき法理論としてそれでいいのかな。

 

 

 

 

2022年6月29日 (水)

「透明かつ予見可能な労働条件指令」とドイツ労働法@山本陽大

Yamamoto_y2022 山本陽大さんが、JILPTのホームページのリサーチアイというコラムで、「「透明かつ予見可能な労働条件指令」とドイツ労働法」を書かれています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/073_220629.html

いわゆるシフト制については、昨年11月の労働法律旬報に、EU、ドイツ、フランス、イギリスの解説を分担執筆しましたが、そのうちドイツ編について、山本さんがその後の動きを紹介しているコラムです。

近時、いわゆる「シフト制労働」が、労働政策の分野においてもにわかに注目を集めている。シフト制労働とは、労働日や労働時間が、労働契約の締結時点においては確定的に定められておらず、使用者のその都度の労働需要に応じて(例えば、1ヶ月や1週間ごとに作成される勤務シフト上で「シフトを入れる」ことによって)初めて確定する労働形態を指す。このようなシフト制労働が抱える問題性は、とりわけコロナ禍においては、店舗の休業や時短営業を理由に労働者が「シフトを入れられない」という事態が、雇用調整助成金などの支給要件としての「休業」に当たるかという形で顕在化したが、コロナ禍以前から既に、シフトの削減の適法性をめぐって法的紛争がいくつか生起していた[注1]。そのため、厚生労働省も、2022年1月7日には、「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下、留意事項)[注2]をとりまとめ、公表するといった政策的対応を行っている。もっとも、かかる留意事項はシフト制労働について新たな立法措置を講じるものではなく、また日本では、シフト制労働をめぐり労働法学上もほとんど議論がみられない状況にある。一方、海外に目を向けると、特に欧州諸国においては、上記の意味でのシフト制労働に相当ないし類似する労働形態であるオンコールワーク(呼出労働)やゼロ時間契約を対象として、労働法上の規制や議論がみられるところとなっている。

このような現状を踏まえ、労働政策研究・研修機構(JILPT)では、諸外国(EU、ドイツ、フランス、イギリス)における上記の労働形態をめぐる法規制について調査研究を実施し、その成果を2021年11月に刊行された労働法律旬報1996号の誌面を借り、濱口桂一郎=山本陽大=石川茉莉=滝原啓允「[特集]諸外国における『シフト制』労働をめぐる法規制の展開」として公表した。なかでも、同特集所収の濱口論文[注3]では、EUの「透明かつ予見可能な労働条件指令」(以下、労働条件指令)[注4]について、主に上記の意味でのシフト制労働に相当する労働形態に対する(手続的・実体的)規制という観点から詳細な分析がなされている。もっとも、同指令の21条は国内法転換期限を2022年8月1日と定めていたところ、EU加盟国であるドイツ・フランスにおいては、2021年11月時点では国内法化の動きはいまだみられなかったことから、この点については上記特集へ反映できていなかった。

しかし、その後の2022年1月以降、ドイツでは、労働条件指令を国内法化するための法案[注5]が公表されるに至っている。詳細については後述する通り、かかる法案は労働条件指令の内容を国内法の形へ転換するために、ドイツにおける複数の労働関係法令の改正案を示すものとなっている。そこで、本稿では、上記特集公表後のフォローアップを兼ねて、(シフト制労働に関するもの以外も含め)今回の法案について検討することにより、ドイツにおけるEU指令の国内法化プロセスの一断面を覗いてみることとしたい。 

 

2022年6月28日 (火)

EU労使が「つながらない権利」協約に向けた作業計画に合意

誤解のないようにあらかじめ言っておきますと、明日調印されるのは欧州経団連、欧州労連などEU労使団体間の作業計画であって、そこに将来の作業予定が並んでいるにすぎません。ただ、その一つとして、「テレワークとつながらない権利」というのが入っているようなので、やや将来のはなしではありますが、労働法の観点から興味を惹かれます。

https://www.etuc.org/en/pressrelease/european-unions-and-employers-sign-historic-deal

European trade unions and employers will tomorrow sign a work programme, including to negotiate a legally binding agreement on ‘Telework and right to disconnect’.  

欧州の労働組合と使用者団体は明日(ってのは今日ですが)法的拘束力のある「テレワークとつながらない権利」に関する協約を交渉することを含む、作業計画に調印する。

Telework and right to disconnect

Review and update the 2002 Autonomous Agreement on Telework to be put forward for adoption as a legally binding agreement implemented via a Directive.

This is a key signal that the European social partners are committed to be key actors to shape the future labour markets functioning, and the first time such an agreement would be implemented as a Directive since 2010.

こちらが法的拘束力ある指令を目指しているのに対し、近年AIとの関係で注目されている「プライバシーと監視」については、労使合同セミナーの開催とガイドラインという目標になっています。

Work related privacy and surveillance

Joint seminar and guidelines on workplace monitoring and surveillance technologies to exchange views on the trends and their relevance for social partners and collective bargaining at all appropriate levels across Europe.

(追記)

日本時間の29日14時、欧州時間ではまだ早朝なので、欧州労連のHPにはまだ出ていませんが、欧州経団連のHPには既に載っています。

https://www.businesseurope.eu/sites/buseur/files/media/reports_and_studies/2022-06-28_european_social_dialogue_programme_22-24_0.pdf

Telework and right to disconnect 

In 2002, the European Social Partners reached their forward-looking agreement on telework, defining telework, which was then a new form of organising and/or performing work in the context of an employment relationship. This agreement addressed issues such as, provision of equipment and health and safety, as well as establishing that teleworkers have the same employment conditions as workers who work in the employers’ premises.
One of the key challenges going forward is for the social partners to take stock of the digitalisation developments and the learnings from the sanitary crisis on telework, in light of their existing agreement of 2002 which laid the foundation for social dialogue and collective bargaining on voluntary telework solutions. This includes the issues such as hybrid work, the right to disconnect, organisation of work in particular the management of online workers and the link with working-time, health and safety, work life balance, surveillance, privacy, and data protection. 

INSTRUMENT:
Review and update of the 2002 Autonomous Agreement on Telework to be put forward for adoption in the form of a legally binding agreement implemented via a Directive1 

というわけで、「つながらない権利」はハイブリッドワークからデータ保護に至るさまざまな論点の一つという位置づけです。ただ、明確に「指令によって実施される法的拘束力ある協約」といっているので、現在の自律協約から指令に移行することは確かなようです。

 

2022年6月27日 (月)

原昌登『ゼロから学ぶ労働法』

86326326 原昌登さんの『ゼロから学ぶ労働法』(経営書院)をお送りいただきました。『労務事情』に連載したものを一冊にjまとめた本です。

https://www.e-sanro.net/books/books_jinji/rodoho/86326-326.html

人事労務の担当になったけれど、法律を学んだこともないし、労働基準法も読んだことがない、そんな人も「ゼロから学べる」労働法の本です。労働法とは何か、からはじまり、法律の読み方、労働者・使用者の定義、など労働法の基礎から学ぶことができます。1つのテーマについて4~5頁にまとめ、先生からやさしく教えてもらう語り口になっています。また本文の理解をより深めるためのキーワードは、「ワード解説」で説明。索引もついているので、わからないことを調べるときも便利です。
労働法を学ぶ学生さんにもお勧めです。

 

 

労働争議の4割は駆込み訴え@『労務事情』2022年7月1日号

Image0_20220627112801 『労務事情』2022年7月1日号の「数字から読む日本の雇用」に、「労働争議の4割は駆込み訴え」を寄稿しました。

2001年に個別労働関係紛争解決促進法が制定されたとき、その背景事情のうち大きなものとして存在していたのは、実質的個別労働紛争が集団的紛争の装いを纏って労働委員会にやってきている状況でした。1990年代後半から注目され始めたいわゆる駆込み訴えは、当時労働委員会への争議調整事件新規係属件数の1~2割を超えるに至っていました。こういう事態になるのも、個別労働紛争を専門に処理する仕組みが存在していないからではないかということで、紆余曲折の末、都道府県労働局や労働委員会における個別労働紛争のあっせん制度が設けられたわけです。ところが、その後20年余りが経過し、これら新たな個別紛争処理件数は確かに大きく増えましたが、駆込み訴えもさほど減っておらず、むしろ争議件数に占める割合はじわじわと上昇し、今では労働委員会にやってくる争議件数の4割以上を占めるに至っています。2020年度で見れば、争議調整事件新規係属件数229件のうち、合同労組事件が166件で72.5%、駆込み訴えが93件で40.6%に達しており、事実上労働委員会は合同労組の駆込み訴えのための機関と言ってもいいくらいです。・・・・・

 

 

 

『Japan Labor Issues』2022年7月号

Jli_20220627104201 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』2022年7月号が刊行されました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2022/038_00.pdf

● Trends Key topic
A Record 12.65% of Fathers in Japan Took Childcare Leave in 2020: MHLW’s Basic Survey of Gender Equality in Employment Management

● Research Article
Labor Law Policy on Freelance Work HAMAGUCHI Keiichiro

● Judgments and Orders Commentary
Legality of Restrictions on Use of Worksite Facilities by a Transgender Employee The State and National Personnel Authority
(METI Employee) Case IKEZOE Hirokuni

● Series: Japan’s Employment System and Public Policy Overview of Employment Policy in Japan HAMAGUCHI Keiichiro 

というわけで、今号では私が2本書いております。フリーランスの労働法政策についてと、日本の雇用政策の概観です。

 

 

 

2022年6月25日 (土)

音楽大学の職業的レリバンス

Img_0ce22f66158a3ceab0002064b27bf94b1166 こんな記事が話題になっていましたが、

https://toyokeizai.net/articles/-/596688(音楽大学がここまで凋落してしまった致命的弱点)

・・・音楽大学はもともと企業就職が少なく、演奏活動や音楽教室の講師をしながら、今では“ほぼ絶滅”した「家事手伝い」として卒業後数年を過ごし、結婚して家庭に入るのが一般的でした。実家が裕福であることが前提で、一般大学のように自立を促す方向で企業就職に力を入れて指導することがなかったのです。多くの音大では、女性が活躍する社会となる中で、旧態依然のまま時代の変化に背を向けてきたのです。・・・

これを見て思い出したのが、かつての女子大生の文学部進学の持つ意味について書いたこのエントリでした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html(なおも職業レリバンス)

・・・ここに顕れているのは、、まさに平家さんの言われる「、「『経済、経営、商』などの学部」の学生が「文学部なんてつぶしの利かないところじゃなく、ちゃんと世間で役に立つ学問を勉強しろといわれてそういうところに来た人」であるとすると、そのような志向を持った人を選び出すために、どのような学部を卒業したかという情報を利用」するということでしょう。

歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。

一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

 

2022年6月23日 (木)

賃金と賃銀@『労基旬報』2022年6月25日号

『労基旬報』2022年6月25日号に「賃金と賃銀」を寄稿しました。どちらかというと、トリビアな小ネタですが、これはこれで突っ込むとこれだけ味のある話が滲み出てきます。

 今日、雇用契約に基づき労働者が労働の対価として受領する金銭のことは「賃金」と書き、「ちんぎん」と読みます。今ではほぼ誰も疑わないこの余りにもごく普通の用語について、いささかトリビアルにも見える突っ込みを入れてみたいと思います。
 まず、「賃金」を「ちんぎん」と読むことについてです。実は、漢字熟語で「○金」という形のものはほとんど全て「○きん」と読みます。「○ぎん」と読むのは連濁ではないかとお考えの方もいるかも知れませんが、その例はありません。訓読みなら「○金」を「○がね」と読んでも、音読みでは「○きん」となります。例えば、「掛金」は「かけがね」ないし「かけきん」であって「かけぎん」にはなりません。
 一方、ciniiで学術論文をサーチすると、過去に遡るにつれて「賃金」ではなく「賃銀」と表記したものが多くなっていきます。どうも昔は「ちんぎん」を「賃銀」と書くのが普通だったようです。書籍名で検索すると、戦後の本で珍しく『賃銀』と題するものが見つかります。1970年に刊行された大河内一男『賃銀』(有斐閣)です。そのまえがきに、「ちんぎん」の表記法についてかなり長く論じているところがあります。
・・・最後に本書の表題について一言しておかなければなるまい。本書は『賃金』とせず『賃銀』とした。私は昔から「賃金」と書かずに「賃銀」と書いてきたから、いまでもそれを「賃金」に改める必要はないと思っているだけのことである。近頃は法律その他の公式文書、教科書、新聞、雑誌など、いずれも「賃金」としているので、私が原稿に「賃銀」と書いても、編集者か校正係か、ないし印刷所あたりで「賃金」に訂正して、ゲラが私のところへ廻ってくる。私はそれを「賃銀」に直してもう一度差し戻しても結果は同じで、何度でも「金」と「銀」とのやりとりが繰り返されるだけで、新しい用字法の暴力には到底かなわないので、仕舞いには私の方が根負けしてどっちでもいい、という気になってしまう。明治時代には、政府などの調査書や報告書にはよく「賃金」と書かれているものがあるが、これはおそらく「ちんキン」と読ませたのではないか。役人言葉としては考えられることである。ただ日常用語としては「ちんぎん」で、それを文字に移せば「賃銀」であった。こうした穿鑿はどうでもいいことであるが、昨今、「賃金」と書いて「ちんぎん」と読ませているのは納得いかない。昔のようにあえて日常語から離れて「ちんキン」と読むなら「賃金」でもいいが、これを「ちんぎん」と読ませるのは無理であり不自然である。・・・
 もう一つ、1960年に出た山本二三丸『労働賃銀』(青木書店)のまえがきはもっと激烈です。
・・・われわれは、賃銀のことを「チンギン」と発音して、「チンキン」とは発音しない。賃銀という言葉は、ずっと古くからあって、終戦後も賃銀と書かれていた。ところが、今から約十年ほど前に、さる著名な学者が、いつもの素人を感心させる手で、にわかに賃銀を『賃金』と書き改めることを提唱したが、その理由は「賃銀は貨幣である。貨幣は金であって銀ではない。だから賃銀では間違いであって、賃金でなければならぬ」という、全くの屁理屈であった。ところが、この屁理屈が、当時教条主義のはびこっていた左翼陣営においてたちまち受け入れられ、賃銀闘争は『賃金闘争』に切り替えられ、これよりして、賃銀に代わって『賃金』がとうとうとして世を風靡し、ごく少数の心ある学者を除いては、賃銀論の「専門家」まで、無意識にこの字を採用することになり、しかも滑稽なことに、その保守性をもって鳴る自民党政府までが、この左翼的屁理屈に感化されてしまったのである。・・・
この「著名な学者」氏の言い分が屁理屈であることには全く賛成ですが、自民党政府は別段その左翼的屁理屈に感化されたわけではないと思われます。というのは、読者がみんな知っているように、終戦直後に制定された労働基準法が「賃金」と表記しているから、政府はそれに従っているだけだからです。そして、これは日本の労働法制史に詳しい人であれば知っているように、この「賃金」という表記法は戦時中、さらには戦前に遡ります。大河内は「調査書や報告書」と言いますが、そもそも法令上はずっと「賃金」と書かれていたのです。たとえば、初めての包括的賃金法制である賃金統制令(1939年、1940年)や賃金臨時措置令(1939年)がそうですし、これらの根拠法である国家総動員法(1938年)も「賃金其ノ他ノ従業条件」(第6条)と表記していました。これらは戦時体制下の法令名であって、左翼的屁理屈どころの騒ぎではありません。
 では法令上はどこまで遡るかといえば、私の考えでは1916年の工場法施行令(勅令第193号)ではないかと思われます。そこには「賃金」という字面が20個以上出てきます。
第6条 職工療養ノ為労務ニ服スルコト能ハサルニ因リ賃金ヲ受ケサルトキハ工業主ハ職工ノ療養中一日ニ付賃金二分ノ一以上ノ扶助料ヲ支給スヘシ但シ其ノ支給引続キ三月以上ニ渉リタルトキハ其ノ後ノ支給額ヲ賃金三分ノ一迄ニ減スルコトヲ得
第22条 職工ニ給与スル賃金ハ通貨ヲ以テ毎月一回以上之ヲ支給スヘシ
 ただし、1911年に制定された工場法それ自体にはこの言葉は出てきません。そして、ここが興味深いところですが、法律はできたけれどもまだ施行されず、勅令や省令もできていない段階の1913年に刊行された岡實『工場法論』(有斐閣書房)では「賃銀」という表記法であったにもかかわらず、法施行後の1917年に刊行された岡實『改訂増補工場法論』では、勅令や省令の表記法に従って「賃金」になっているのです。どうも、ここで表記法が変わったようです。
 工場法は、担当局長の岡實によれば「之レカ制定ニ至ル迄ニハ実ニ約三十箇年ノ星霜ヲ積ミ、此ノ間主務大臣ノ交迭ヲ重ヌルコト二十三回、工務局長又ハ商工局長トシテ主任者ヲ換フルコト十五人、稿ヲ更ムルコト亦実ニ百数十回ニ及ヒタル」法律ですが、その検討案段階の条文を見ていくと、「職工ノ賃銀ハ帝国ノ通貨ヲ以テ払渡スコト」(1987年職工条例案)とか、「職工規則ハ左ノ事項ヲ規定スヘシ 一 賃銭ニ関スル規程」(1998年農商工高等会議諮詢法案)と書かれていました。
 では、工場法施行令で「賃金」という表記法が登場したのはなぜなのか、岡實の本をいくら読んでも出てきませんが、おそらく他の法令との表記を統一すべきと内閣法制局あたりから指摘があったからではないかと思われます。というのは、工場法に先立ち1896年に制定されていた民法典に、「賃金」という表記がいくつか登場していたからです。とはいえ、それは概ね現在「賃金」と呼ばれているものではなかったようです。
 文語民法を検索すると全部で三つの「賃金」という表記が出てきます。まずは賃貸借契約における対価で、一般には家賃とか借賃といわれているものです。
第601条 賃貸借ハ当事者ノ一方カ相手方ニ或物ノ使用及ヒ収益ヲ為サシムルコトヲ約シ相手方カ之ニ其賃金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
 この規定は、2004年の民法口語化によって現在は「賃料」になっています。ただそれまでも、全ての民法の教科書では条文上の「賃金」を「賃料」に直して説明していました。この「賃金」は、まさに「ちんきん」と読む言葉であって、そのことは国語辞典でも明記されています。
 次に1年の短期消滅時効に係る債権です。
第174条 左ニ掲ケタル債権ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
一 月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料
二 労力者及ヒ芸人ノ賃金並ニ其供給シタル物ノ代価
 ここには労働者らしき者が二つ登場します。「雇人」と「労力者」です。前者に支払われるのは「給料」であり、後者に支払われるのが「賃金」で、この労力者は「芸人」と同類のようです。民法学者によると、前者は雇傭契約に基づく労務者であるのに対して、後者は雇傭契約に基づかない大工、左官、植木職人を指すとのことで、そうするとこの「賃金」も「賃銀」ではなかったようです。いずれにしても、この短期消滅時効は2017年の民法改正で廃止され、それが2020年の労働基準法改正につながったことは周知のところでしょう。
 最後の「賃金」は農工業労役の先取特権です。こちらはやや複雑で、一般の先取特権に「雇人ノ給料」があり、動産の先取特権に「農工業ノ労役」があります。
第306条 左ニ掲ケタル原因ヨリ生シタル債権ヲ有スル者ハ債務者ノ総財産ノ上ニ先取特権ヲ有ス
二 雇人ノ給料
第308条 雇人給料ノ先取特権ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月間ノ給料ニ付キ存在ス
第310条 左ニ掲ケタル原因ヨリ生シタル債権ヲ有スル者ハ債務者ノ特定動産ノ上ニ先取特権ヲ有ス
八 農工業ノ労役
第324条 農工業労役ノ先取特権ハ農業ノ労役者ニ付テハ最後ノ一年間工業ノ労役者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ニ付キ其労役ニ因リテ生シタル果実又ハ製作物ノ上ニ存在ス
 第174条の解釈からすれば、前者が雇傭契約に基づく労務者で、後者が雇傭契約に基づかない職人ということで良いようにも見えますが、そうではなく、後者は雇傭契約に基づく労務者も含むと解釈されてきました。ということは、その部分に関する限り、「賃金」は雇人の給料と重なるということになります。ただ、この解釈が立法者の意思に合致しているのかどうかは分かりません。
 何にせよ、1916年に工場法施行令が制定される際に、それまで工場法草案等で「賃銀」「賃銭」等と表記されていたものが、民法の(ほぼ対象領域が異なる)「賃金」という表記に引っ張られる形で、「賃金」と書かれるようになった、というのが、以上の状況証拠から推定される事態の推移であったようです。そして、それがその後の政府の表記法を決定し、戦時下の統制法令を経て、戦後労働基準法その他の法令に確立し、労働運動や学者の表記法もそれに統一されるようになったのでしょう。
 以上、今日の労働問題にはほとんど関わりのないまことに趣味的な穿鑿ではありますが、労働研究では最もよく出てくる用語の表記法に意外な裏話があったというのは、何かの話のネタにちょうどいいかも知れません。

 

2022年6月22日 (水)

男女賃金格差の開示義務化@WEB労政時報

WEB労政時報に「男女賃金格差の開示義務化」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers

去る6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「人への投資と分配」という大項目の中に「男女間の賃金差異の開示義務化」というのが盛り込まれ、「女性活躍推進法に基づき、開示の義務化を行う」ことが明記されています。これは同日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太方針)にも書き込まれています。・・・・

 

2022年6月20日 (月)

残業時間の上限規制、割れる意見 「スタートアップ企業は対象外に」提言が波紋@朝日新聞

今朝の朝日新聞に、「残業時間の上限規制、割れる意見 「スタートアップ企業は対象外に」提言が波紋」というインタビュー記事が載っています。

https://www.asahi.com/articles/DA3S15328817.html

  スタートアップ企業は残業時間の上限規制の対象外にすべきだ――。経済同友会が4月に出したそんな提言が波紋を呼んだ。過労死などにつながる長時間労働を認めることになりかねないからだ。提言をまとめた同友会の間下直晃・副代表幹事(ブイキューブ会長)と、労働法制に詳しい濱口桂一郎氏に話を聞いた。

私は、労働者の仕事によっては労働時間規制は多様であっていいと思いますし、経済同友会の方の気持ちも分かるところはあるのですが、それにしてもこの議論は筋が悪いと思います。というのは、インタビューの最後で述べているように、

・・・今回の提言を読む限り、労働者の属性には触れておらず、「たまたま雇われた企業がスタートアップだった」という企業の属性だけでしか(規制の有無を)考えていない。「労働者がどんなジョブ(仕事)をしているかは関係なく、どんな会社に属しているかがすべてだ」という日本的なメンバーシップ(会社の構成員)感覚の強さがよくあらわれている。

からです。

 

 

2022年6月16日 (木)

髙木一史『拝啓 人事部長殿』

220516-1 髙木一史さんより『拝啓 人事部長殿』(サイボウズ式ブックス)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/books/2022/05/post-1.html

「拝啓」とこの本の形をとった長い手紙を送っている相手は、トヨタ自動車の人事部長です。髙木さんは新卒でトヨタ自動車に入社し、(意に反して)人事部に配属され、次第に人事の面白さに目覚めながら、閉塞感に苛まれていき、トヨタを辞めてサイボウズに転職します。しかし彼はトヨタが嫌いになったのではなく、大好きなのです。彼が感じた閉塞感とは、日本的な雇用の在り方そのものだったのであり、彼はその後雇用システムについて思索を重ねるとともに、いろんな会社の人事改革の試みを調査し、この本に結実したというわけです。

【序章】ぼくはなぜ、トヨタの人事を3年で辞めたのか
【1章】会社を成り立たせている10のしくみ
    -「一律平等」と「多様な個性」のあいだで
【2章】なぜ「会社の平等」は重んじられるのか?
    -1930年代(戦前)~1950年代(戦後)「青空の見える労務管理」
【3章】なぜ「会社の成長」は続いたのか?
    -1960年代~1980年代(高度経済成長期)「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
【4章】なぜ「会社の変革」はむずかしいのか?(現在)
    -1990年代~現在「3つの社会問題」と、日本社会の「会社依存」
【5章】現地現物レポート
    -あたらしい競争力の獲得を目指す12企業
《採用》富士通《契約》タニタ、ANA《時間・場所》ユニリーバ・ジャパン、ヤフー、みずほ銀行《配置/異動》ソニーグループ《報酬/評価》 NTTデータ《健康(安全配慮)》味の素《コミュニケーション/風土》コンカー《育成》ソフトバンク《退職》良品計画
【6章】サイボウズ人事制度の変遷レポート
    -情報の民主化が、しくみと風土を変えていく
【7章】会社をインターネット的にする
    -デジタルネイティブからの提案
【終章】ぼくはなぜ、この手紙を書いたのか? 

ときどきにやにやとしながら読み進んでいた私が思わず嘆息したのは、

ぼくが生まれた翌年、Windows95は発売された

という小見出しでした。

1995年、私は初めての海外勤務でブリュッセルに赴任し、まるでドメスチックだった頭が揺さぶられ、いろいろとものを考えるようになり、平凡だった役人人生が妙な方向に曲がっていくことになるのですが、そうか、そのころに生まれた若者がこうして様々な経験を重ね、いろいろとものを考え、こういう本を書くようになったのだなあ、と、なんだかとても年を取った老人になったような気がしました。

 

 

 

 

 

2022年6月14日 (火)

公的職業訓練機関の1世紀@『季刊労働法』2022年夏号

277_h1_20220614231701 『季刊労働法』2022年夏号が届きました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/10108/

目次はすでにご紹介済みですので、ここでは拙論について。

■労働法の立法学 第64回 公的職業訓練機関の1世紀

はじめに
本連載では、職業教育訓練法政策についても何回か取り上げてきています。まず、2006年夏号(213号)では第10回の「デュアルシステムと人材養成の法政策」において、戦前以来の企業内人材養成と公的人材養成の歴史を概観し、当時立法化の動きがあった実践型人材養成システム(実習併用職業訓練)について若干の検討を加えました。その後2013年夏号(241号)の第32回「職業能力評価システムの半世紀」では、教育訓練の結果身につけたスキルを評価するシステムの技能検定からジョブ・カード等に至る歴史を、2013年秋号(242号)の第33回「職業教育とキャリア教育」では教育政策サイド(文部省、文部科学省)における職業教育や職業人教育の展開を跡づけました。また2014年春号(244号)の第35回「「学び直し」その他の雇用保険制度改正」では、やや時事的なトピックでしたが、当時「学び直し」支援という名で進められた教育訓練給付の(再)拡充を中心に取り上げています。こう見てくると、教育訓練法政策の中で正面からきちんと取り上げていないのは、公共職業訓練施設をはじめとする公的職業訓練の分野であることが分かります。
 一方、本連載では労働行政機構の歴史についても分野別に取り上げてきています。2017年夏号(257号)の第47回「公共職業安定機関の1世紀」、2019年夏号(265号)の第54回「労働基準監督システムの1世紀」、2019年冬号(267号)の第56回「集団的労働紛争解決システムの1世紀」がそれです。こちらの観点からも、公的職業訓練機関の分野が抜け落ちていることが分かります。
 そこで今回は、労働法政策の諸分野の中ではかなり地味であまり多くの人々の関心を惹かない領域ではありますが、公的職業訓練機関の歴史を辿ってみることにしました。「職業補導」という名の下におけるその始まりが1923年であり、ほぼ100年に達することからも、ちょうどふさわしい時期ではないかと思います。

1 職業補導制度の展開
(1) 職業補導の始まり 
(2) 戦時体制下の展開
(3) 職業安定法上の職業補導
2 職業訓練法における公共職業訓練
(1) 1958年職業訓練法
(2) 1969年職業訓練法
3 企業内職業能力開発政策の時代における公共職業訓練
(1) 雇用保険法
(2) 1978年改正職業訓練法
(3) 1985年職業能力開発促進法
(4) 1992年改正職業能力開発促進法
4 自己啓発の時代における公共職業訓練
(1) 1997年職業能力開発促進法改正
(2) 2000年代の動向
(3) 求職者支援制度
(4) ハロートレーニング

 

政府税制調査会の議事録

去る5月17日に政府税制調査会に呼ばれてジョブ型云々の話をしてきたところですが、その時の議事録がアップされたようです。

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen10kaigiji.pdf

大内伸哉さんと平田茉莉さんのフリーランスの話に挟まれてジョブ型の話をするのも妙な感じでしたが、まあさらっと喋ったつもりです。

○濱口(独)労働政策研究・研修機構研究所長

 私は労働政策研究・研修機構というところで労働政策を研究しております。

 実はフリーランスについても最近『フリーランスの労働法政策』という本を出して、いろいろと考えていることはございますが、フリーランスといった将来展望のような話よりも、もう少し足元のお話をさせていただこうと思っております。

 それでは「ジョブ型雇用社会とは何か」というタイトルでお話をいたします。このタイトルは、昨年私が出した本のタイトルでして、ジョブ型・メンバーシップ型という言葉は今からもう10年前に、現実の雇用システムを分類する概念として作ったものなのですが、一昨年から世の中でいささか違うように使われている面がありますので、そこをまず申し上げたいと思います。

 まずは、ジョブ型は古くさいぞという話です。

一昨年、経団連が経労委報告を出して以来、マスコミあるいはネット上でジョブ型という言葉が大変氾濫しております。一時は毎日のように新聞紙面にジョブ型という言葉が出ておりましたが、その言葉を作った私からするとその多くはかなり違和感のあるものでした。というのは、先ほども申し上げたように、私がジョブ型・メンバーシップ型という言葉を使って指し示しているのは、現実に存在する日本や欧米の雇用システムを分類するための概念であり、どちらがいいとか悪いとかという価値判断とは本来独立したものだからです。

 ところが、この2年半ほどマスコミを見ていますと、商売目的の経営コンサルタントや、そのおこぼれを狙う各種メディアの方々が、これからはジョブ型だ、いつまでも日本のメンバーシップ型にうろうろしているな、バスに乗り遅れるなと言わんばかりに、そういう商品を売り込もうとしているようです。かつてポール・クルーグマンが『経済政策を売り歩く人々』という本を書いたことがあるのですが、まさにジョブ型を売り歩く人々みたいな感じで、その売られている商品、といいますか、概念、言葉を最初に作った私から見ると、何でそんな変な商品にされてしまったのだろうと大変違和感を覚えるところであります。

そもそもジョブ型とは新商品でありませんよ、むしろ古くさいのですよというところからお話をしなければなりません。というのは、産業革命以来のこの100年、200年ぐらいの近代産業社会の基本構造というのはジョブ型なのです。ですから、そもそも「ジョブ型」などという言葉は英語にもありませんし、ほかのどの国の言葉にもありません。なぜかというと、ジョブ型でない雇用などないからです。日本以外ではむかしから今日までずっとそうです。さらに、実は日本もジョブ型なのですと言うと、また皆様びっくりするのですが、明治時代にできた民法や戦後つくられた基本的な労働法制は、全部ジョブ型でできています。ただ、現実社会がジョブ型の法律とは違っておりますので、それを踏まえた判例法理がメンバーシップ型になっているということです。

 また、多くの方はあまり認識していないと思いますが、日本でも高度成長期の労働政策や経済政策はジョブ型を志向しておりました。例えば国民所得倍増計画はその典型例です。ただ、1970年代半ばから90年代半ばまでの20年間ぐらいは、むしろ日本のメンバーシップ型が新商品として礼賛され、『Japan as No.1』という本がベストセラーになりましたが、それもすぐ古びました。メンバーシップ型という新商品が古びてからもう20年以上たっております。

 1960年はまさに近代的な労働市場の礼賛期でしたが、このときにつくられた国民所得倍増計画にはこのような記述がありました。「労務管理体制の変化は、賃金、雇用の企業別封鎖性を超えて、同一労働同一賃金原則の浸透、労働移動の円滑化をもたらし、労働組合の組織も産業別あるいは地域別のものとなる」。いつ書かれた文章かと思うかもしれませんが、これは1960年で、60年以上も前になります。

 これに対して、日本型雇用の礼賛期であった1985年に、私が今おりますJILPTの前身の雇用職業総合研究所というところが、ME(マイクロエレクトロニクス)と労働の国際シンポジウムというものを開きました。その基調講演で、当時所長であった氏原正治郎がこう語っています「一般に技術と人間労働の組み合わせについては大別して2つの考え方があり、一つは職務をリジッドに細分化し、それぞれの専門の労働者を割り当てる考え方であり、今一つは幅広い教育訓練、配置転換、応援などのOJTによって、できる限り多くの職務を遂行しうる労働者を養成し、実際の職務範囲を拡大していく考え方である。ME化の下では、後者の選択の方が必要であると同時に望ましい。」。この前半は今でもそのまま使えるジョブ型とメンバーシップ型の定義です。ただ、価値判断だけが180度変わっているということがお分かりかと思います。当時はME(マイクロエレクトロニクス)だから日本型が良いと言われていました。今、ITAIだからジョブ型でなければいけないと言っており、何を言っているのだろうという感じであります。そもそもメンバーシップ型であるがゆえに生産性が低いとか、ジョブ型にすればすべてうまくいくと言わんばかりの議論は、基本的にナンセンスだろうと思っています。これは雇用システムの分類論であり、どちらかが本質的に優れているとか劣っているといった類いの議論は単に時代の空気に乗っているだけの空疎な議論だろうと思います。

 では、価値判断がないかというとそうではありません。これは私がこの10年ほどいろいろ若者や中高年や女性などについて書いてきた本に書いてあることなのですが、メンバーシップ型の真の問題点は、陰画としての非正規労働あるいは女性の働き方との矛盾にあります。そういう意味で、むしろ生産性が高いかどうかはその時々の流行なのですが、社会学的にはメンバーシップ型の持続可能性が乏しく、だからこそ働き方改革が行われたのだと思っています。この働き方改革も大変誤解をされております。これはむしろ古びた新商品としての日本的な柔軟性を否定して、硬直的なもっと古臭いジョブ型を部分的に持ち込もうとする考え方です。その意味で、これは復古的改革というべきものです。別にジョブ型が前途洋々という話でもありませんし、もともとジョブとは何かというと、タスクを組み合わせて、あなたのジョブはこれだというように記述するものです。そうしたジョブに基づいて継続的な雇用契約を結ぶことにより、この100年、200年ほど近代社会が動いてきたのですが、近年情報通信技術が急速に発達することによって、タスクをジョブにまとめることなく、ミクロなあるいはマクロなタスクをその都度委託するという契約が広がり、つまり雇用契約ではなく自営業化というものが広がる可能性があります。そうすると、むしろ前近代的な意味でのギルド的なメンバーシップが復活してくるかもしれません。この辺りは私も鬼の笑うような未来の話をあまりする気はないのですが、これに対してジョブ型・メンバーシップ型は、今の足元の話なのです。

 ここからは、やや教科書的に雇用システム論の基礎の基礎を見ていきたいと思います。

 まず、やや箇条書き的ですが、日本型雇用システムの本質はどこにあるか。よく終身雇用だとか年功序列だとか言いますが、これは現象です。しかも、例えば勤続期間でいうと、アメリカは大変短いですが、ヨーロッパは結構長く、日本とそれほど変わりません。とは言いながら、日本とヨーロッパは本質が違います。何が違うかというと、それは雇用契約の性質にあります。すなわち、日本以外の社会では、労働者が遂行すべき職務、ジョブは雇用契約に明確に規定されていますが、日本では雇用契約に職務は明記されず、それが使用者の命令によって定まるということです。これを捉まえて、私は日本の契約はその都度遂行する特定の職務が書き込まれる空白の石版であると言っております。したがって、日本における雇用は職務(ジョブ)ではなく成員(メンバーシップ)である。ここからジョブ型、メンバーシップ型という言葉が出てくるわけです。ジョブ型の場合、職務を特定して雇用するので、その職務に必要な人員のみを採用しますし、また、必要な人員が減少すればその雇用契約を解除する必要があります。なぜかというと、そもそも契約で特定された職務以外の労働を命じられないからです。ここは日本人がほとんど理解してないところです。日本では職務が特定されていませんからある職務に必要な人員が減少してもほかの職務に異動させて雇用契約を維持することができます。つまり、異動可能性がある限り解雇の正当性が低くなるということです。

 また、賃金についても、ジョブ型においては、契約で定める職務によって賃金が決まります。同一労働同一賃金というのは、これが前提なので、ジョブ型でない社会で同一労働同一賃金というのは何かゆがんだ概念にならざるを得ません。日本では、そもそも契約で職務が特定されていませんから、職務に基づいて賃金を決めることは困難です。無理やりそうしたところで高賃金職種から低賃金職種に異動させることも困難で、職務と切り離した人基準で決めざるを得ません。人基準と言っても勝手にあなたは幾らと決めるわけにいかないので、客観的な基準は勤続年数や年齢にならざるを得ません。つまり、年功制というのは別に長幼の序だからということよりも、それ以外に客観的な人基準がないからということになります。

 また、労使関係についても、ジョブ型社会における団体交渉や労働協約では何を決めているかというと、職種ごとの賃金を決めています。この仕事は幾らということを決めるのが団体交渉です。したがって、労働組合も職業別や産業別にならざるを得ませんが、日本ではそもそも賃金が職務で決まらないので、そんなことをしてもしようがない。団体交渉や労働協約、最近少し沈滞しておりますが、何をやっているかというと、基本的にはこれはもうずっと企業別に総人件費の増分の配分を交渉しております。したがって、組織形態も企業別労働組合にならざるを得ないということになります。

 入口と出口についてもう少し詳しく見ておきましょう、ジョブ型の社会においては企業が労働者を必要とするときにその都度採用するのが原則です。さらに、日本にいるとなかなか理解できないのですが、採用権限が労働者を必要とする各職場の管理者にあります。逆に言うと、管理職の定義からしても、採用や解雇の権限がある人のことを管理者といいます。したがって、日本で管理者と称している人間のほとんど全ては、日本の外では管理者とは言えないということになります。

 日本では、御承知のとおり、学校から学生や生徒が卒業する年度の変わり目に一斉に労働者として採用するわけですが、実は、判例法理では、41日の時点で雇用契約が始まるのではないということになっています。日本の最高裁は、内定は雇用契約であると言っているのです。しかし、これは実は変なのです。なぜかというと、民法では雇用契約は一方が労働に従事し、他方が報酬を支払う契約だと、書いています。内定者は働きませんし、賃金ももらいません。だから、本来民法上は内定は雇用契約ではないはずです。ところが、それを雇用契約だと日本の最高裁が言っているということは、実際に働いて金をもらうなどという枝葉末節のことよりも、会社の社員であるという身分を与えることが一番大事だということです。まさしくメンバーシップ型の考え方に基づいて、内定とは雇用契約だと日本の最高裁は言っているわけです。したがって、日本の労働法では内定者は雇用契約だということになります。

もう一つの日本の最大の特徴は、採用権限がこの仕事に人が欲しいと思っている現場の管理者ではなく、本社の人事部局にあることです。本社の人事部局は、本当のところ、現場でどんな仕事をする人がほしいかというのはよく分かっていませんが、そんなことは二の次、三の次なのです。なぜならば、個々の職務ではなく、新卒採用から定年退職までの長期的なメンバーシップを付与するか否か、その判断だから現場の管理者ではなく本社の人事部にあるということにならざるを得ません。

 また、出口について見ると、ジョブ型社会では、職務の消滅が最も正当な解雇理由です。やや誤解されるのですが、同じジョブ型社会でもアメリカは解雇自由ですが、ヨーロッパ諸国はいずれも解雇権を制限しています。正当な理由がなければ解雇してはいけないと法律に書いてあります。しかし、一番正当な理由は何かというと整理解雇です。なぜかというと、雇用契約の根拠であるジョブがなくなるということだからです。それ以外の解雇はそれぞれどれだけ正当かということを問い詰められることになります。ところが、日本では労働者個人の能力あるいは行為を理由とする、いわゆる普通解雇よりも、職務の消滅を理由とする整理解雇の方を厳しく制限しています。いわゆる整理解雇4要件と言われるものです。整理解雇するのであれば残業を削減するとか、あるいは人事異動で解雇を避けるという義務が判例上付与されています。

 また、その入口と出口の間では、ジョブ型の社会では、仮に昇進があっても同一職務で昇進していくのが原則です。定期人事異動などというのはありません。何かほかのもっといい仕事に就きたいと思ったらどうするかというと、企業内外の空きポストに応募して、転職していくことになります。ですから、社内である募集に応募していくのも転職です。ところが、日本ではこれはまた皆様よく御存じのとおり、定期的に職務を変わっていくのが原則で、これを定期人事異動制度と呼んでいます。そうすると、どうなるか。特定の職務の専門家にはなれません。その代わり、企業内の様々な職務を経験して熟達しますので、言わば我が社の専門家になります。我が社の専門家になればなるほど、ほかの企業に転職・転社する可能性は縮小していきますので、そうすると、やはり定年までの雇用保障は強化せざるを得ないということになります。

入口以前のところに着目してみると、ジョブ型社会では基本的にその仕事をする資格のある者あるいは経験のある者を採用し、配置するのが普通です。そうすると、労働者は企業の外、学校等も含みますが、そこで教育訓練を受け、技能を身につける必要があります。日本では、採用であれ、異動であれ、当該職務には未経験者をそのポストに就けるのが普通です。最初は素人で何もできません。それを上司や先輩が実際に作業させながらびしびし鍛えていくOJTというのが最も典型的な教育訓練のやり方になります。

 ここからは、就職と採用の話になります。

この2年半ほどジョブ型という言葉が山のようにはやっていますが、ジョブ型を売り歩く人々から一番無視されているのが入口のところです。ジョブ型社会では、募集は全て具体的なポストの欠員募集です。これは日本以外で出された人事労務管理の教科書の最初のところの採用を見れば、大体あなたはある部局の部署の管理者ですと、ある仕事をしてもらうために募集して何人か応募してきました。さて、面接では誰を採用するのが良いかと、こういう設例から始まります。日本ではほとんどない設例から始まるのですね。この状況に対して経済学では、いわゆる情報の非対称性、本当はできないやつが私はできますと言って入れてしまったら、こいつは食わせものだったというのが大きな問題になるのです。

 ところが、法律学では何が問題になるかというと、採用差別の禁止が大きな問題になります。もともと市場社会においては採用の自由が基本原理のはずなのに、これに対してアメリカから始まって今ではヨーロッパ、ほかの諸国でも採用差別の禁止が最大の規範になっています。なぜかというと、恐らく多くの日本人は、何かポリティカリーにコレクトだからやらなければいけないだろうというぐらいにしか思っていないのではないかと思いますが、実はこれはジョブ型社会の採用の性質から来るものであります。つまり、採用というのは何かというと、特定のジョブに資格や経験からして最適の労働者を当てはめることが採用である。そうすると、当該ジョブに最も高いスキルを有すると客観的に明らかな労働者がいるにもかかわらず、黒人だから、女性だから等々といった、属性に対する差別感情からその採用を拒否すること。もっとスキルが劣っているのが明らかなのにそちらのほうを採用すること。それが不合理だからというのが実はジョブ型社会における採用差別禁止の言わば実体的な根拠です。単にかわいそうだからとか、ポリティカリーコレクトだからみたいな話だけではないのです。もちろんそういうのはあるのですが、なぜそれが一番重要な規範になるかというと、実はここです。したがって、そういう特定のジョブへの応募者から最適者を選択するというシチュエーションがほとんどない日本では、多分ジョブ型、ジョブ型と口先で言っている人でさえほとんど理解していない点ではないかと思います。

 日本の採用法理について、労働法の教科書に必ず出てくる判決があります。今から半世紀前の三菱樹脂事件の最高裁判決です。一見日本はほかの欧米諸国よりも市場社会の採用の自由をより強く維持しているように見えますが、実はそうではないと最高裁が自ら言っています。すなわち、企業における雇用関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようないわゆる終身雇用制が行われている社会では一層そうであることにかんがみるときは云々。つまり、長い付き合いの仲間を採用するのだから、この仕事ができるとかできないとかそんな枝葉末節について言う必要はないということを最高裁は言っているわけです。これはみんな恐らく当たり前だと思っているので、採用差別禁止というのがあまり理解できない。最近、ジョブ型という言葉が大変はやっていますが、本当にジョブ型になったら、採用判断の是非は、そのジョブにふさわしいスキルをこの人は持っているからということを説明しなければいけなくなるので、相性や官能性ではないということを本当に分かっているのかと思います。

 この観点で、入口の関係でややトリビアな話に聞こえるかもしれませんが、面白い話があります。それは学歴詐称という言葉です。学歴詐称は洋の東西問わずどこにでもありますが、日本以外のジョブ型社会で学歴詐称とは何ですかと聞けば、それは100人が100人中、低学歴者が高学歴を詐称することだと決まっています。なぜならば、学歴は職業能力を公示するものであり、あるポストに応募してきた人に「あなたはできるのですか。」「はい、できます。その証拠はこのディプロマです。」ということなのです。

 ところが、日本では「学歴詐称」で判例を検索すると、高学歴者が低学歴を詐称して懲戒解雇になった最高裁判例が出てきます。この判決で、最高裁は低学歴を詐称するのは信頼関係を失わせるから解雇していいと言っています。日本は決して解雇をそんな禁止しているわけでも何でもなく、企業に逆らうような社員の懲戒解雇とは結構認めているという典型例です。これは昔の30年前の話だと思うかもしれませんが、御存じのとおり、ごく最近もどこかのたしか関西のほうの地方自治体で大卒であるのに高卒だと称して入り込んだ人間を懲戒免職にしたという事案が新聞に報じられていましたが、かわいそうだという議論はあっても、何で高学歴者が低学歴のところに入っていけないのだという根本的な議論をする人はほとんどいませんでした。

 逆に、ほかの国みたいな低学歴者が高学歴を詐称したケースを検索するとこんなものが出てきます。同じ頃ですが、税理士資格や中央大学商学部卒を詐称した者の雇止めは、担当していた会社の事務遂行に重大な障害を与えたことを認めるに足る疎明資料がない。だから、雇止めは無効だと判示しています。これを外国人に言うと大変びっくりされます。高学歴者の低学歴詐称は懲戒解雇に値するが、低学歴者の高学歴詐称は雇止めにも値しない。これがメンバーシップ型社会であり、ジョブ型社会から見れば恐らくアリスのワンダーランドというか驚愕の社会でありましょう。先ほどみたいに属性による差別に厳格なジョブ型社会において、唯一それで差をつけていい、正当な選抜基準である学歴が、こういった属性による差別に寛容な日本ではなぜか学歴差別だと批判の対象になります。もう一捻りして、欧米でも学歴が格差の問題であるみたいな社会学的議論がありますが、なぜそんな話になるかというと、学歴が唯一正当な差別根拠だからというのがみんなあまりにも当たり前と思っているから本当にそうなのかという話が成り立つのです。ところが、日本にそういう話を持ってくると、学歴よりも人間性が大事だみたいな当たり前のことを当たり前に言っているだけに見えて、多分あまりインパクトがないのだろうという気がいたします。

 もう少し、入口以前のところを見ていきたいと思います。

先ほど見たように、雇用契約がジョブ型であるか、メンバーシップ型であるかというのは、これは教育訓練システムが企業外であるか、企業内であるかということに対応します。すなわち、ジョブ型の社会においては基本的に就職前に当該職務について公私の教育訓練機関で一定の教育訓練を受けていることが前提になります。「あなたはこの仕事をできるのですか。」「はい、できます。」と言って採用されるわけです。メンバーシップ型は全く逆でして、素人を採用し、定期人事異動とジョブローテーションでもって上司や先輩がOJTで鍛えていきます。これは権利であると同時に義務でもあります。また、素人を鍛えなければいけないので、往々にして教育訓練とパワハラがなかなか区別し難いということにもなります。パワハラをやるなというと教育訓練ができなくなるという不満が出るのはなぜかというと、そもそも何もできない素人をいきなり置いて、さあ鍛えろと言われると、それはそうならざるを得ないという面があります。これは教育機関の在り方を大きく左右します。すなわち、日本の社会では、これは東大の本田由紀さんが言っている言葉なのですが、大学で学んだ教育内容が就職後の職業生活にほとんど意義を持たない仕組みでありまして、これを「職業的レリバンスの欠如」というように言います。

 それでは、教育と職業は無関係なのかというとそのようなことはなく、大変密接につながっています。すなわち、大学に入る段階での学業成績が非常に重要であり、何大学の何学部というのは大変大事であって、それはなぜかというと、まさに企業で一から厳しく訓練するのに耐えられるような良い素材であるかを示すものだからです。同じ素人でも鍛えたらどんどん成長していく素人と、幾ら鍛えても育たない素人がいたら、育てがいのある素人でないと困ります。これを私は「教育と職業の密接な無関係」というように呼んでおります。企業側がこういう人事政策を取っている以上、大学はそれに合わせざるを得ません。すなわち、大学は「今このジョブができる人」を幾らつくって売り込もうとしても、そんなものを企業は全然評価してくれないので、「今は何もできないけれども、何でもできる可能性のある人」を売り込む。言わば大学というのは一種のiPS細胞の養成所に特化していることになります。これは、どちらかが悪いわけではなく、大学と企業は鶏と卵の関係にあるのです。うちの大学だけが違ったことをすると、ごく一部の企業を除いてどの企業からも何だと爪弾きにされてしまいます。逆は逆なのですね。したがって、優秀な人間ほど何でもできる可能性のある一般教育に向かい、スキル志向の教育コース、職業教育は、レベルの低い人間とみなされます。

 あと幾つかトピックごとにざっと見てまいりますが、まず解雇、出口についてです。

これも本当にこの2年半ぐらいのジョブ型の流行の中で、ジョブ型になったら解雇がやり放題になるなどというとんでもないことを書いているところがあるのですが、そのようなことはありません。アメリカだけがちょっと特殊で、エンプロイメント・アット・ウィルといって、どんな理由でも、あるいは理由がなくても解雇していいという法制です。でも、これはアメリカだけで、ほかのジョブ型の諸国にはみんな解雇規制はあります。法律の条文だけ見ると、日本と大して変わりません。正当な理由がなければ解雇してはいけないのです。日本も客観的に合理的な理由があり、社会通念上正当でなければ解雇してはいけないと書いてあるのです。しかし、社会のありようが全く違うので逆になるのです。つまり、解雇規制のあるジョブ型社会においては、解雇にも数ある中で、ジョブがなくなるからという整理解雇が一番正当な解雇理由になります。

 これに対して、日本では、整理解雇、すなわちリストラクチャリングがリストラという片仮名4文字語になって、元の英語のリストラクチャリングとはほとんど縁もゆかりもない、極悪非道の概念になってしまいます。なぜかというと、仕事がなくなるなどという枝葉末節のどうでもいいことをネタに仲間を追い出そう、組織から除名しようという許し難いことになるからです。ここはあまり細かいことを言いませんが、同じ民法の債権各論に賃貸借契約と雇用契約が並んでいますが、借家契約であれば、家がなくなる、借家を潰して再開発するから出て行ってくれと言われれば、それはしようがないです。そのときに、大家といえば親も同然、店子といえば子も同然、大家は大家の持っているほかの借家にどこか私を住まわせる義務があるだろうと、そんなばかなことは普通言わないでしょう。ところが、雇用ではそう思うわけです。まさに雇用契約は民法からはるか遠くのところに行ってしまっているということであります。

 また、いわゆる能力不足解雇も字面の上では非常によく似ているのですが、ジョブ型社会における正当なスキル不足解雇は、基本的にはできるといって採用されたのにできないやつを解雇することです。これは日本ではそもそもあり得ないです。素人を採用してOJTで鍛え、できるように育てるのが上司の任務です。逆に言うと、これがパワハラのもとにもなります。日本で能力不足解雇と称するいろいろな事案を見ていくと、決して入ったばかりの素人を能力不足だとは言っていません。能力不足解雇と言われている人は、大体長年勤続している中高年です。なぜ中高年が能力不足なのでしょうか。この能力とは何でしょうか。実は日本における能力というのは、スキルでは絶対ありませんし、何だかよく分からないもので、職能給という日本の賃金制度において、職能給を払う根拠となっている何かとしか多分定義のしようがないものです。職能給は能力に応じた賃金のことですが、実際にはそれが本人の貢献と見合わないので、そのインバランスをどうするか。能力があると認めているから高い職能給を払っているはずなのに、能力不足だから解雇しようという誠に矛盾したことをやっているわけですが、これはまさに日本のメンバーシップ型がもたらすものということになります。

 この解雇についての応用問題、コロラリーなのですが、EU諸国では事業の移転とともにその仕事をしていた人も移転するというルールがあります。日本も20年前に会社分割という制度をつくったときに、同じような仕組みをつくりました。これは非常に簡単な話で、ジョブは変わらず単にジョブがはめ込まれている会社が変わるだけ、先ほどの借家契約で言うと家主が変わっても家は変わらないのだから同じ家に住み続ける権利があるということです。日本でも今から20年前に商法改正の際に会社分割という制度ができて、それに伴って基本的にEUの制度に倣って労働契約承継制度がつくられました。私はこのときに連合に呼ばれてシンポジウムに出席し、EUではこういう指令があって、仕事がほかの会社に移っても、仕事と一緒に移る権利があるというお話をして、ふと上を見上げたら、「気がつけば別会社に」となっているのです。いやいや、気がつけば別会社ではなく、気がつかなくても別会社に移転させるのがEUのルールなのだということを一生懸命言っていたはずなのですが、どうも日本は違うなと20年前に感じ、ある意味そのときに感じたのが今、ジョブ型とか何とかと言っているものの一つのもとになっているのかもしれません。

 こんなメンバーシップ感覚の強い社会で、そんなEUみたいな法律をつくってどうなるのかと思っていたら、案の定、2010年の日本IBM事件最高裁判決であります。どちらが勝った、負けたではなく、実はこの事件で労働組合側は、我々は日本IBMという立派な会社に入った社員だったのに、たまたまやってる仕事が他社に移るからと変な会社に移されたのはけしからぬと言っています。気がつけば別会社に追いやられたことに異議を唱えたわけです。面白いのは、これが日本IBMという立派な外資系企業であることです。外資系企業といえども心はどっぷり日本型なんだということを痛感したわけであります。

 次はヒトの値段とジョブの値段です。ジョブ型社会の賃金は何かというと、職務評価による固定価格制で、椅子に値段が貼ってあるわけです。それに対して日本の場合、もともとは生活給で、終戦直後は年齢と扶養家族数で賃金を決めていました。当時は経営側や政府は同一労働同一賃金による職務給を主張していたのです。

 ところが、日経連が今から半世紀前に職務給を放棄して能力査定による職能給に変わりました。これがまさに今日まで至る職能給のもとであり、年齢とともに能力が上がっていく。能力は目に見えないものですが、それによって年公昇給が維持される一方で、会社に貢献しない者は査定を低くして競争に駆り立てる。ここで恐らく労使の利害が一致したのだと思うのですが、能力は下がらないので、中高年は人件費と貢献が乖離します。それを抑制するために成果主義なるものが導入されました。しかし、そもそもジョブが不明確なもので、成果を測定するのは困難なはずであります。それを無理やり目標管理と称して押しつけて、達成していないのではないかと難癖つけて引き下げたのです。結局、そういうことで成果主義は失敗したのですが、それをもう一度リベンジするために持ち出してきたのが、一昨年来のジョブ型なのではないかと思います。その証拠に、ジョブ型をもてはやしている日経新聞の記事の中に、ジョブ型はポストに必要な能力を記載したジョブディスクリプションを示し、労働時間ではなく成果で評価するなんていうとんでもないことが書かれてあります。しかし、むしろ多くの人がこういうものだと思ってジョブ型と言っているということで、結局、雇用の本体はメンバーシップ型のまま、言わば成果を評価するための根拠としてジョブディスクリプションをでっち上げるというのが、今コンサルタントの方々が一生懸命やっていることのように感じます。

時間の関係もございますので、これで説明を終わりたいと思います。

 

 

 

 

2022年6月12日 (日)

髙橋哲『聖職と労働のあいだ』

606521 髙橋哲さんの『聖職と労働のあいだ 「教員の働き方改革」への法理論』(岩波書店)をお送りいただきました。

https://www.iwanami.co.jp/book/b606521.html

教師という職業は、なぜこれほどつらい仕事になってしまったのか? 本書は、教師が主体性を奪われ、現在の異常な労働環境へと至った歴史的・法制度的構造を明らかにするとともに、多くの問題が指摘される給特法を徹底的に分析する。教師が子どもと向き合う職業であり続けるために、厳しい現状からの「出口」を示す決定版。

教師の長時間労働の惨状を訴える本は最近多く出されていますが、本書はその中で、労働法の観点から徹底的に緻密な議論を展開している点に特徴があります。給特法については私も若干の小文を書いたりしていますが、ここまで詳細に論点を片っ端から叩いている本はたぶんほかにないでしょう。

自分でもいくつかむかしの資料を読んで考えたりしていたことですが、給特法という法律の最大の皮肉は、終戦直後以来教師聖職論でやっていたおかしな運用が最高裁判決でいよいよ駄目になろうとする瞬間に、人事院という国家公務員法「のみ」を所管する官庁が文部省に助け舟を出す形で作られた法律だということではないかと思います。

日本の公務員法というのは終戦直後の経緯からおかしな点がいっぱいありますが、国家公務員についてはマッカーサーの怒りの鉄拳で労働基準法が全面適用除外になってしまったのに対し、地方公務員については逆に労働基準法原則適用であって、一部の規定のみが非適用となっています。

ここで重要なのは、給特法の基本的なアイディアを出した人事院というのは、労働基準法が全面適用除外された国家公務員だけを所管しているのであって、何か法律を作るときに労基法は参考にはするけれども、この条文に違反するとかしないとかギリギリした議論はないところだということです。

給特法は、もともとできた時には国立学校がメインの規定であって、第3条から第7条まで国立学校のことばかり規定しており、第8条でようやく「公立の義務教育諸学校等の教育職員については、第三条から第五条までに規定する国立の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する事項を基準として教職調整額の支給その他の措置を講じなければならない」と規定していたんですね。

教師の数からいえば公立学校の方がはるかに多いけれども、法律構造からは国立学校がメインであって、公立学校はおまけに過ぎなかったんです。そういう法律のしくみを考えたのは、公立学校のことなんか全然所管していない人事院でした。

ところが、本書にもあるように、国立学校の法人化に伴って、国立学校はみんな労働法上は私立学校になってしまいました。給特法はメインの国立学校がなくなって、それに倣っていただけの公立学校が主役になってしまったのだけれども、公立学校教員は地方公務員であって、すなわち労働基準法が原則適用される労働者なのであって、話がひっくり返ってしまったわけです。

そういうひっくり返った状況下で、今やアイディア元の人事院は給特法とは縁もゆかりもなくなってしまったにもかかわらず、労働基準法が適用されている地方公務員の公立学校教員についてのみ、労働基準法上の確立した労働者概念と異なる考え方を無理無理押し付けようとしたらどこかで破綻するのは火を見るより明らかなので、正直言って今の文部科学省の役人たちは先輩のツケを押し付けられて可哀そうだな、という気すらしてきます。

 

 

2022年6月10日 (金)

雇用保険の歴史@『社労士TOKYO』2022年6月号

Image0-15 東京都社会保険労務士会の会報『社労士TOKYO』2022年6月号に「雇用保険の歴史」を寄稿しました。

 現在の雇用保険法が失業保険法という名前で制定されてから75年が経ちました。広範かつ膨大なその歴史を数ページでまとめることはほぼ不可能ですが、今年の改正の中心が保険料率であったことから、そこを糸口としつつ給付のあり方を概観していきたいと思います。まず、法制定以来の保険料率(雇用保険法以後は失業等給付の保険料率)と受給者実人員の推移をみましょう。びっくりするのは、制定当時の2.2%(これを労使折半、以下同じ)が、2020年度には前年の0.6%からたった0.2%にまで下がっていたことです。もっとも、これは育児休業給付が独立して0.4%の保険料率となったからですが、コロナ禍がまさに襲いかかろうとしていたその時に、極限まで保険料率を下げようとしていたというのは、この上ない皮肉です。・・・・・

 

 

2022年6月 9日 (木)

【本棚を探索】マイケル・サンデル『実力主義も運のうち 能力主義は正義か?』

Cd4f4319d3c124ff89d12f1d68235361276x400 月1回の割で回ってくる『労働新聞』の書評コラム「本棚を探索」、今回私が取り上げるのはマイケル・サンデル『実力主義も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)です。すでにベストセラーになっている本書ですが、私の切り口はちょっと斜め方面からになります。

https://www.rodo.co.jp/column/131006/

 2019年度の東大入学式の祝辞で、上野千鶴子は2つのことを語った。前半では「大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています」と、将来待ち受けるであろう女性差別への闘いを呼びかけ、後半では「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」と受験優等生たちのエリート意識を戒めた。

 後者の理路をフルに展開したのが本書だ。刊行1年で100万部を突破したベストセラーだから、既読の方も多いだろう。だから中身の紹介はしない。ただ、巻末解説で本田由紀が注意喚起しているにもかかわらず、多くの読者が見過ごしているようにみえる重要な点を指摘しておく。

 本訳書の副題の「能力主義」は誤訳である。サンデルが言っているのはメリトクラシーだ。原題「The Tyrany of Merit」のメリットであり、本訳書でも時には「功績」と訳されている。それを「能力主義」と訳してはいけないのか?いけない。なぜなら、日本型雇用システムではそれは全く異なる概念になってしまうからだ。拙著『ジョブ型雇用社会とは何か』で述べたように、日本では「能力」は具体的なジョブのスキルとは切り離された不可視の概念である。しかし、本書では「能力に基づいて人を雇うのは悪いことではない。それどころか、正しい行為であるのが普通だ」とか、「人種的・宗教的・性差別的偏見から、その仕事にもっともふさわしい応募者を差別し、ふさわしくない人物を代わりに雇うのは間違いだ」(50頁)とある。メリットとは属性にかかわらず具体的な仕事に最もふさわしい人物であることを客観的に証明する資格を意味し、学歴がその最大の徴表とされる。

 本書はそういう「正しさ」に疑問を呈する本であり、それゆえにバラク・オバマ(エリート黒人)やヒラリー・クリントン(エリート女性)の「正しさ」がもたらすトランプ現象、つまり低学歴でメリットが乏しいとみなされた白人男性の不平不満を問題提起する。「正しい」メリトクラシーを掲げたリベラル左派政党が労働者階級の支持を失うパラドックスをより詳細に論じたのは、トマ・ピケティの近著『資本とイデオロギー』(みすず書房近刊)だ。

 ところが日本では文脈ががらりと変わる。山口一男が『働き方の男女不平等』(日経新聞社)で繰り返し指摘するように、日本企業では高卒男性の方が大卒女性よりも出世して高給なのが当たり前であり、メリットよりも属性が重視されるからだ。そういうメンバーシップ型日本社会への怒りをぶちまけたのが、冒頭の上野千鶴子の祝辞の前半なのだから話は複雑になる。エリート女性がノンエリート男性よりも下に蔑まれる不条理への怒りと、(男も女も)エリートだと思って威張るんじゃないという訓戒では全くベクトルの向きが逆なのだが、それがごっちゃに語られ、ごっちゃに受け取られるのが日本だ。この気の遠くなるような落差をきちんと認識した本書の書評を、私は見つけることができなかった。

 

 

2022年6月 8日 (水)

『季刊労働法』2022年夏号(277号)

277_h1 『季刊労働法』2022年夏号(277号)の宣伝がすでにアップされているようなので、ご紹介。

メインの特集は「集団法をめぐる近時の論点」とのことで、

今号では、茨城の家電業界の事例を契機にした労働協約の拡張適用、また、使用者団体はカルテル規制違反のおそれを理由に団体交渉を拒否できるかといった独禁法と労使関係法制の問題――これらを中心に据えた集団的労働法を特集します。従業員代表法制、不当労働行為制度の新しい問題についても言及します。

従業員代表制について―これまでの議論の整理と韓国法から得られる示唆― 韓国外国語大学教授 李鋌 学習院大学教授 橋本 陽子
労働組合法18条の解釈について―令和3年9月22日厚生労働大臣決定等の意義と課題― 労働政策研究・研修機構主任研究員 山本 陽大
レイバーエグゼンプションの背景に関する覚書 ―経済法と労使関係法制の整除に向けた予備的検討 帝京大学助教 藤木 貴史
不当労働行為救済制度と集団的労使関係の課題 小樽商科大学教授 國武 英生

山本さんのは、例のUAゼンセンの地域的拡張適用の件ですね。藤木さんのは、私が昨年春号で少しだけ突っ込んだフリーランスと団体交渉の話をきちんと整理してくれるような論文に違いないと思います。

小特集は「本土復帰50年―沖縄と労働法」ですが、

5月15日、沖縄は本土復帰50年を迎えました。小特集では、本土復帰から復帰後50年の沖縄労働社会について、労働法の視点から概観し、その特異性を踏まえ、その変貌・課題などを掘り下げます。

基地労働を通して見た復帰後50年の沖縄の労働法上の課題 沖縄大学教授 春田 吉備彦

沖縄振興計画と本土「復帰」50年の労働環境の変化と特質 沖縄大学講師 島田 尚徳 

個人的には、『団結と参加』でちらりと垣間見た復帰以前の米軍統治下の沖縄労働法って何だったのかにも興味があります。

あとはこういう論文が並んでいますが、

 ■論説■
長時間労働による労働災害と取締役の責任 ―近時の裁判例を素材に 日本大学教授 南 健悟
ILO105号条約批准の意義―あおり行為等の刑事罰を中心に 早稲田大学名誉教授 清水 敏

■解説■
医師の働き方改革―令和6(2024)年4月に向けた具体的な取組へ 厚生労働省医政局医事課/労働基準局労働条件政策課企画官 坪井宏徳

■研究論文■
障害者雇用における合理的配慮概念の再検討―「障害の社会モデル」から見る労働者像― 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社サステナビリティ戦略部 マネージャー 櫻井 洋介

■労働法の立法学 第64回■
公的職業訓練機関の1世紀 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

■イギリス労働法研究会 第40回■
泊まり込み労働者の睡眠時間に対する全国最低賃金法令の適用問題 東京大学准教授 神吉 知郁子

■アジアの労働法と労働問題 第48回■
マレーシアの労働法と労働組合の関係性について 金属労協(JCM)顧問 小島 正剛

■判例研究■
劇団員の労働者性 エアースタジオ事件・東京高判令和2・9・3労判1236号35頁 専修大学教授 石田 信平
市と締結した労務参加契約の法的性質と安全配慮義務違反の有無 浅口市事件・岡山地倉敷支判平成30・10・31判時2419号65頁 千葉大学教授 皆川 宏之 (コメント)千葉大学教授 下井 康史

■重要労働判例解説■
労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく偽装請負等の目的の有無 東リ事件(大阪高判令和3・11・4労判1253号60頁)専修大学法学研究所客員所員 小宮 文人
事業譲受会社に対する退職金請求と会社法22条 ヴィディヤコーヒー事件(大阪地判令和3・3・26労判1245号13頁)日本大学教授 南 健悟

■追悼■
花見忠先生を偲んで 獨協大学名誉教授 桑原 靖夫

わたくしの連載は、今回は公的職業訓練を取り上げました。OJT中心の企業内訓練が重要な日本型雇用システムのもとではどうしても二の次三の次的な扱いをされがちな存在であるにもかかわらず、今回の新しい資本主義でもそうですが、政府の雇用政策手段としてやたらに期待を寄せられ、その結果(メンバーシップ型社会のもとでは当然の)効果の薄さが批判の的になるという悪循環を繰り返しています。今回はほぼ百年にわたるその歴史を振り返りました。

今号で注目したいのは判例評釈です。エアースタジオ事件と浅口市事件はいずれも私自身評釈したことがあり、特に後者は、東大の労働判例研究会で報告しただけで特に活字化もしていなかったのに、ちょうど1年前の『日本労働法学会誌』134号で、弁護士で信州大准教授の弘中章さんに取り上げていただいたといういわくつきのものなので、皆川さんがどういう風に取り上げているのか興味があります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-e462a4.html(浅口市事件評釈@東大労判)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-17206c.html(『日本労働法学会誌134号』)

 

 

EU最低賃金指令に理事会と欧州議会が合意

昨日、EUの閣僚理事会と欧州議会が最低賃金指令案について政治的合意に達したというプレスリリースが両機関のサイトに同時にアップされています。

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/06/07/minimum-wages-council-and-european-parliament-reach-provisional-agreement-on-new-eu-law/

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220603IPR32188/deal-reached-on-new-rules-for-adequate-minimum-wages-in-the-eu

Eulabourlaw2022_20220608082001 この指令案の内容については、4月に刊行したばかりの『新・EUの労働法政策』でも詳しく解説していますが、欧州議会のサイトでは

  • The minimum wage should be adequate to ensure a decent standard of living
  • Right to redress for workers, their representatives and trade union members if rules are violated
  • EU rules to respect the powers of national authorities and social partners to determine wages
  • Collective bargaining to be strengthened in countries where it covers fewer than 80% of workers

とまとめられています。

まだ具体的な条文の形では出ていないので、それが出てきたらまた取り上げます。

 

 

 

 

2022年6月 6日 (月)

バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』の書評が地方紙にぽつりぽつりと

516zqcvnxel_sx338_bo1204203200_ 共同通信から地方紙に配信される書評コラムが、ぽつりぽつりと地方紙に載り出したようです。

ということを、書評した本の著者のバーチャル美少女ねむさんのnoteで知りました。

https://note.com/nemchan_nel/n/n7e1fe4898210

この本は本当に面白いので、ぜひぜひ読んでみてください。

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2022年6月 5日 (日)

規制改革推進会議の答申

去る5月27日に出された規制改革推進会議の答申は、今月にも規制改革推進計画として閣議決定される予定ですが、中の労働関係部分をざっと見ると、いくつか興味を惹かれるところがあります。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/220527.pdf

まず、別段私はいまさら興味を惹かれるわけではありませんが、世間ではびこっているインチキなジョブ型という言葉の使い方に対して、この規制改革推進会議は一貫してまっとうなジョブ型という言葉の使い方をしていることは指摘しておく必要があります。

ア 職務等に関する労働契約関係の明確化
【令和4年度中に検討、結論を得次第速やかに措置】
<基本的考え方>
これまでの「日本型雇用制度」のもとでは、使用者の命令による職務の変更や転勤が基本となるメンバーシップ型の雇用形態が大勢を占めてきたが、社会環境の変化に伴い雇用形態も多様化する中、我が国においても予め職務等が限定された、いわゆるジョブ型の雇用形態を取り入れる企業も見られるようになっている。
ジョブ型雇用において行われる、職務ごとに求められる能力・スキルや職務に対する賃金の明確化と、その内容の契約等への明示といった取組は、従業員の企業へのエンゲージメントを高めて、その関係強化に資するものでもあり、このような観点も踏まえて、企業におけるジョブ型雇用の実践を促進することは、個人の自律的・主体的なキャリア形成の実現に資すると考えられる。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。
<実施事項>
厚生労働省は、「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書を踏まえ、労働政策審議会においては、職務や勤務地を限定するなど多様な働き方を取り入れる企業が出てきているといった雇用をめぐる状況の変化も視野に入れ、個人の自律的なキャリア形成に資する予見可能性の向上等の観点から、労使双方にとって望ましい形で労働契約関係の明確化が図られるよう検討を行い、必要な措置を講ずる。

で、興味を惹かれたのはその次の項目です。

イ 多様な働き手の長期的なキャリア形成に向けた能力開発支援
【a:令和4年措置、b:令和4年度措置、c,d:令和4年度検討開始】
<基本的考え方>
今後、更なる職業人生の長期化が見込まれる中、働き手である個人が、自身の長期的なキャリア形成について主体的に考え、取り組むことができるようにする環境整備が重要となっている。
個人の学び・学び直しの意欲を高め、自律的・主体的なキャリア形成につなげるためには、企業において従業員に求められる能力・スキルが明確化され、また、個人が身に付けた能力・スキルが適切に評価されることが必要である。
また、個人が長期的なキャリア形成について検討し、意思決定するに当たり、適切なキャリアコンサルティングを受けることは大変重要であり、キャリアコンサルタントに求められる役割は今後より重要となってくる。そのため、キャリアコンサルタント全体の質の向上を図り、職業人生の様々なステージにおいてキャリアコンサルティングが活用されるようにする環境整備が必要である。
さらに、雇用保険制度において実施している教育訓練給付制度は、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援するものであるが、今後、個人が継続的な学び・学び直しを行うことを一層支援する観点などを踏まえ、制度がより使いやすいものとなるよう必要な措置について検討する必要がある。
加えて、現在、国により行われている能力開発やキャリア形成支援に関する各種制度は、雇用保険制度が基盤となっており、非正規雇用やフリーランス、起業を志す人など雇用保険の被保険者とならない働き方を選択する人が支援の対象となっていない。働き方が多様化する中で、これらの多様な働き手への支援について、現行制度の枠にとらわれず広くその在り方を検討することが必要である。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。
<実施事項>
a 厚生労働省は、個人の能力開発・キャリア形成の目標が明確となるよう、各企業で職務に必要な能力・スキル等が明確化されることを求めるとともに、個人の学び・学び直しにより身に付けた能力・スキルについて適切な評価を行うことが望ましい旨を示した社会人の職業に関する学び・学び直しを促進するためのガイドラインを策定し、企業におけるこれらの取組を推進する。
b 厚生労働省は、キャリアコンサルタントの質の向上に向けて、中長期的なキャリア形成を支援するためのキャリアコンサルタント向けの研修を実施しているところ、個人が自身の長期的なキャリアパスについてのビジョンを持てるようなキャリアコンサルティングが着実に実施され、企業における活用が普及するよう、必要な措置を講ずる。
c 厚生労働省は、教育訓練給付制度について、雇用保険制度で実施している趣旨や給付の効果、受給者のニーズ等を踏まえ、必要な検証・検討を行う。
d 厚生労働省は、これまで雇用保険制度においてキャリア形成支援施策を行ってきたが、多様な働き方が普及する中、フリーランス等雇用保険に加入できない働き方を選択する人が支援策の対象とならない制度上の限界を踏まえ、多様な働き手に対するキャリア形成支援について既存制度の利用を促進するとともに、支援の在り方について検討を行う。

今までさんざん言われて耳タコのことも多いのですが、上で斜体字にしたところは、フリーランスの職業能力開発政策への取り込みとその財源確保を求めており、目新しいものであるとともに、理屈をどういう風に作っていくのかがたいへん興味を惹きます。

雇用保険制度は雇用保険2事業で使用者による教育訓練に助成し、失業等給付の財源で労働者自身による教育訓練に助成しているわけですが、どちらも雇用契約関係を前提とし、それを前提とする雇用保険への加入を前提としているわけですね。

今現在の雇用保険法では、フリーランスへの教育訓練への助成を正当化するのは難しいようにも思われますが、さてここをどのような理屈で突破していくのか、フリーランスへの労働政策の拡大の位置局面という観点からも大変興味を惹かれるところです。

やや似た話が雇用仲介事業のところでも出てきます。

ア 雇用仲介制度の見直し
【a,c:措置済み、b,d:令和4年度措置】
a 厚生労働省は、職業安定法(昭和 22 年法律第 141 号)における「募集情報等提供」に該当しない雇用仲介サービスについて、法的位置付けを明確にする。
この際、ICTを活用したサービスの進化が早いことを踏まえ、過剰な規制とならず有益なイノベーションを阻害しないよう留意しつつ、求人者・求職者が安心してサービスを利用できる制度となるよう見直しを行う。
b 厚生労働省は、求職者がそれぞれの事情に応じて、適切なサービスを選択できるようにするため、令和4年3月に改正された職業安定法に基づき多様化する雇用仲介サービスの情報を正確に把握して、求職者に提供するとともに、優良な事業者が広く認知される方策を検討し、必要な措置を講ずる。
c 厚生労働省は、雇用仲介サービス事業者に、求職者等からの苦情に対応するために必要な体制の整備を義務付けるなど、求職者の保護を徹底するための方策を検討し、必要な措置を講ずる。
d 厚生労働省は、フリーランス等を対象とした雇用以外の仕事を仲介するサービスについて、雇用仲介サービスに類似する内容のものがあることに鑑み、雇用以外の仕事を仲介する事業者も、雇用仲介事業者に適用されるルールに倣って業務が行えるよう、丁寧な周知を行う

文末が「丁寧な周知」とよくわからない表現になっていますが、いずれにしても現行の職業安定法では対象にならないフリーランスの職業仲介事業に対して、今後どういう法政策を講じていく必要があるのか、そもそもウーバー型の労働プラットフォームってのは何なのか、みたいな話もいっぱいあるわけで、ここも興味深いところです。

 

 

 

 

 

 

 

未だに、未だに・・・

もう繰り返し諄々と説き続けていい加減飽きてしまう話ですが、それでも懲りずに出てくる話。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-3256cb.html(未だに)

この期に及んで、未だに労働契約法第16条を削除すれば解雇権濫用法理がこの世から消えてなくなると思い込んでいる一知半解無知蒙昧がまったく治癒されていないのを見るのは味わい深い

法律をやみくもに敵視する人間ほど無知ゆえの法律万能主義を演じてしまうという典型というべきか

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-e13d.html(日経病?)

どうあっても、限定正社員では不満で、解雇を自由化したくて仕方がないんですかねえ。

いや、頭を冷やしてよく考えたら、そんなことはできないという当たり前のことがわかったというだけではないでしょうか。

前から不思議に思っているのですが、労働契約法16条が諸悪の根源とかいう人々は、何をどう変えようとしているんでしょうか。

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当であると認められなくても、権利を濫用しても有効である」とか?

もしかして、法学部に行ったら誰でも最初に習う民法冒頭の

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3  権利の濫用は、これを許さない。

の例外規定を労働契約法に規定しようと?権利の濫用は雇用以外では許されないけれども、雇用だけはなぜか許される、と。それは大変勇気のある話ですね。

そういうとてつもないことはやめて、「客観的に合理的な理由」の中身を明確化していこうという、規制改革会議雇用ワーキンググループなどの素直な発想に整理されたというだけのことだと、ある程度もののわかった人々は共通に考えているはずですが、一部の人々はなかなかそこにたどり着かないようですね。

ちなみに、これも百万回繰り返している話ですが、現実の日本社会は中小企業がスパスパ解雇している社会です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-12a7.html(中小企業ではスパスパ解雇してますよ)

世間では解雇規制の議論が盛り上がってきているそうですけど、何にせよ、日本社会の現実の姿からかけ離れた思い込みを前提に議論がされたのでは、あらぬ方向に走って行くばかりですので、

https://twitter.com/Sgt_Doraemon/status/315093544815697922

役に立たない人間を雇い続けなければいけない負担は中小企業には相当なもの。 解雇できないから、簡単に雇用も出来ない。

それはどこの国の中小企業なのでしょうか。多分、年間数十万件の労働紛争が労働裁判所にやってくるヨーロッパ諸国なんでしょう。

112050118少なくとも、私が日本の労働局のあっせん事案を調べた限りでは、こういうのが日本の解雇の現実の姿ですけど。

・10185(非女):有休や時間外手当がないので監督署に申告して普通解雇(使は業務対応の悪さを主張)(25 万円で解決)
・10220(正男):有休を申し出たら「うちには有休はない」その後普通解雇(使は「業務態度不良」)(不参加)
・20017(正男):残業代の支払いを求めたらパワハラ・いじめを受け、退職勧奨(取下げ)
・20095(派男):配置転換の撤回を求めてあっせん申請したら雇止め(不参加)
・20159(派男):有休拒否に対し労働局が口頭助言した直後に普通解雇(不参加)
・20177(派女):出産直前に虚偽の説明で退職届にサインさせた(不参加)
・20199(派女):妊娠を理由に普通解雇(不開始)
・30017(正女):有休申請で普通解雇(使は通常の業務態度を主張)(打ち切り)
・30204(非女):有休をとったとして普通解雇(使は当日申請で有休と認めず欠勤と主張)(12 万円で解決)
・30264(非女):有休を請求して普通解雇(使は当日申請で業務に支障と主張)(6 万円で解決)
・30327(非女):育児休暇を取得したら雇止め(使は力量劣るためと主張)(30 万円で解決)
・30514(非男):労基署に未払い賃金を申告したら雇止め(使は事実でないと主張)(不参加)
・30611(正男):指示に従わず減給、これをあっせん申請して懲戒解雇(使は職場トラブル、顧客とのトラブルが理由と主張)(打ち切り)
・30634(正男):労働条件の明示を求めたら内定を取り消し(15 万円で解決)

・10011(非女):個人情報(家族の国籍)を他の従業員に漏らしたことに抗議すると普通解雇(7万円で解決)
・10057(正男):会社から監視カメラで監視され、抗議すると普通解雇(15 万円で解決)
・20088(派女):いじめの現状を公にしたら派遣解除で雇止め(20 万円で解決)
・30015(派男):応募した業務と違う営業に回され、申し入れたら雇止め(不参加)
・30037(試女):無給研修に疑問を呈し、正式採用拒否(不参加)
・30048(正男)・30049(非女):配転で交通費を請求したが拒否され、退職勧奨(不参加)
・30077(正男):賃金が求人票と異なり、問うと退社を促された(10 万円で解決)
・30563(非男):偽造契約書に承諾させようとし、意見を言うと退職を勧める(不参加)

・10029(非女):賞味期限や注文数のごまかしを指摘したら普通解雇(不参加)
・10210(正女):データ改ざんを拒否して普通解雇(30 万円で解決)
・30036(正男):ハローワーク紹介で内定した会社が他社に労働者を供給する会社であることに疑義を呈したところ内定取消(不参加)

・20070(正男):常務に「勝手にやらんで欲しい」と言って懲戒解雇(打ち切り)
・20214(正女):マネージャーの降格人事に嘆願書をもって抗議したことで普通解雇(取下げ)
・30131(正男):客先で荷下ろし順に意見をしたら出入り禁止となり、さらに普通解雇(不参加)
・30243(正女):運営に意見が食い違っただけで普通解雇(打ち切り)
・30594(非男):副社長と営業方針、やり方が合わないとして雇止め(打ち切り)

・10032(正男):勝手に日曜出勤したので出勤停止、処分撤回を要求して懲戒解雇(取下げ)
・10056(正女):会社・社長の批判、社長の机を開けて社員の履歴書を見たので普通解雇(25万円で解決)
・10075(正男):会議中の発言や営業員との口論を理由に普通解雇(不参加)
・10097(派男):会社を信用できないと発言したことを理由に普通解雇(16.5 万円で解決)
・20052(正男):言い争いで出勤停止、不服申立に対し自主退職したものと見なす(30 万円で解決)
・20086(非男):社長、専務、同僚への暴言で普通解雇(不参加)

・10039・10040(非男):役職者として出向してきたのに昇進を拒否したので雇止め(それぞれ100 万円、150 万円で解決)
・10074(正女):他店舗勤務を拒否して普通解雇(打ち切り)
・100125(非女):異動拒否で普通解雇(不参加)
・10193(正男):勤務先の廃止に伴い、東京勤務を拒否し普通解雇(打ち切り)
・20153(正男):業績不振及び異動命令拒否で整理解雇(不参加)
・30050(正男):障害者で長時間労働に耐えられないのに京都勤務を拒んで普通解雇(不参加)
・30114(正女):配置転換命令に従わず普通解雇(打ち切り)
・30224(正女):保母として採用されたのに介護職員として働かされ、抗議すると普通解雇(打ち切り)
・30234(非男):配転命令を拒否すると「辞めてもらうしかない」と退職勧奨(不参加)
・30541(派男):常用派遣、東京への転勤命令に従わないので普通解雇(打ち切り)
・30573(正女):配転を拒否したので退職勧奨(打ち切り)
・30613(非男):介護施設への異動拒否を理由に普通解雇(16 万円で解決)

・10081(非女):勤務日数変更を求められ納得できず説明を求めたら雇止め(17.5 万円で解決)
・20085(正男):月給制から時給制への変更を拒否したら普通解雇(150 万円で解決)
・20130(正男):自社株購入を拒否して「聞けないなら会社を辞めろ」(不参加)
・30358~30361(正男・正女):減給を拒否したら普通解雇(取下げ)
・30380~30383(正男・正女):減給を拒否したら普通解雇(不参加)

・30209(試男):試用期間の延長を拒否したら普通解雇(不参加)
・30411(非男):事業部長だったが休職、復帰後一般営業員扱いを拒むと雇止め(不参加)

・10166(正女):異動か解雇か迫られた(不参加)
・20055・20056・20063(正男):職種転換か退職かを迫られた(打ち切り)
・20203(正女):教務主任になるか退職するかと迫られた(不参加)
・30126(非女):店長の解雇通告後、本社は異動か退職の選択を迫る(5 万円で解決)
・30318(正男):長女が長期入院状態なのに転勤命令、「従うか辞めるか」と退職勧奨(打ち切り)
・30407(正女):「転勤に応じないのであれば辞めてもらうしかない」(不参加)
・30579(正男):「配置転換に従えないなら退職しかない」(不参加)

・10172・10173(非女):平日週4 日勤務を平日週5 日+土曜も出勤するか、無理なら解雇(取下げ)
・20062(正男):最賃に引き下げる。応じなければ来なくても良い(不参加)
・30121(正男):賃金引き下げか解雇か(解決金ゼロで解決)

・10124(正男):請負への移行か辞めるか(8 万円で解決)
・30190(正男):退職しなければパートにする(不参加)
・30321(正男):解雇か週3 日の非常勤かと言われ退職(19 万円で解決)
・30548・30549(試男):面接時と異なる雇用条件(正社員のはずが嘱託)を示し、応じなければ内定取消(各20 万円で解決)
・30560(正女):育児休業から復職後、パートか解雇かと迫られ解雇に応じた(不参加)
・40002(試男):アルバイトになるか退職か(打ち切り)
・30596(正女):転勤・減給・有期化に従えなければ退職するよう強要(不参加)

・10014(非男):売上増のため出張を要求され、「行かないのなら辞めろ」「辞める」(5 万円で解決)
・10037(試女):受付業務を教えるように言われ、拒んだら普通解雇(不参加)
・20057(正男):職務命令違反、勤務態度不良で普通解雇(不参加)
・20110(正男):上司に従わないという理由で懲戒解雇を予告されたので退職届を提出(30 万円で解決)
・20120(正男):運行命令の放棄と社内での暴言が理由で懲戒解雇(打ち切り)
・20123(正男):悪質運転を繰り返したことを理由に「もう要らない」(打ち切り)
・20169(正女):上司の指示に従わない(トイレ掃除等)ので普通解雇(不参加)
・30004(非女):指導に従わないので普通解雇(不参加)
・30056(非女):自己都合退職後アルバイト勤務中業務妨害したので普通解雇(不参加)
・30079(派男):一部業務を拒否し派遣先の要求で契約解除(15 万円で解決)
・30097(非男):同僚とのトラブルでうつ病に、業務命令を拒否したら更新拒否(不参加)
・30128(非女):仕事を拒否し、意に反することがあると無断欠勤するので退職勧奨(7 万円で解決)
・30185(非女):指示に従わないので退職勧奨(打ち切り)
・30207(正男):専任講師として採用されたのに収益追求を強要され、退職勧奨(不参加)
・30222(非女):「会社の方針に従えなければ辞めてくれて結構」(不参加)
・30223(非女):「長い時間働かなければ辞めてくれ」(不参加)
・30240(正女):受付事務でカウンセリング業務を拒否したので普通解雇(10 万円で解決)
・30278(正男):研修中本人の就業拒否のため普通解雇(不参加)
・30337(非女):業務改善に応じず「明日から来なくてもいいです」(打ち切り)
・30363(正男):再三の是正指示にかかわらず業務着任できないため普通解雇(打ち切り)
・30559(正男):社命に従わず仕事に熱意なしと普通解雇(不参加)

・10018(非男):出退勤をメールで送信したため普通解雇(不参加)
・10021(非女):業務怠慢を理由に普通解雇(不参加)
・10038(正男):移転就職で、住民票を移しておらず自分の車をもたないことを理由に普通解雇(不参加)
・10098(正男):業務上の失態重なり報告怠るので普通解雇(不参加)
・10106(派男):派遣先からの勤務態度についての苦情で雇止め(打ち切り)
・10112(正男):仕事に誠意が見られないとして解雇(取下げ)
・10116(非男):業務手順が守られないという理由で普通解雇(不参加)
・10139(正男):職務怠慢を理由に懲戒解雇(不参加)
・20015(非男):ずさんな清掃の仕方ゆえ普通解雇(2 万円で解決)
・20016(非女):作業内容の不備を理由に労働条件引き下げに加え退職勧奨(不参加)
・20047(正女):能力、勤務態度、協調性の問題から普通解雇(15 万円で解決)
・20096(正男):事務局長として職務懈怠で懲戒解雇(10 万円で解決)
・20162(正女):仕事中に抜け出すので普通解雇(1 万円で解決)
・20200(非女):接客態度が悪いので普通解雇(不参加)
・20201(非女):誠実さがないので普通解雇(不参加)
・30025(正男):ミスを報告しないので普通解雇(不参加)
・30173(正男):業務に支障をきたす行為多く、パート社員とし「クビ」(30 万円で解決)
・30276(正男):勤務態度不良、成績不良で普通解雇(打ち切り)
・30279(派女):マナー違反を理由に雇止め(不参加)
・30328(試男):態度が反抗的なので普通解雇(打ち切り)
・30371(派男):勤務中の居眠りを理由に普通解雇(打ち切り)
・30390(正男):後輩に誤った指示をし、業務をほったらかしにしたので普通解雇(50 万円で解決)
・30517(正男):仕事ぶり、態度ともに悪いので普通解雇(打ち切り)
・30583(非男):勤務中の言動や行動に改善なしとして普通解雇(打ち切り)
・40018(非男):勤務態度に問題ありと普通解雇(打ち切り)
・40019(非女):事務の乱雑さで雇止め(打ち切り)
・40030(非女):勤務態度、勤務成績不良で普通解雇(打ち切り)
・40035(非男):業務態度不良で雇止め(打ち切り)
・40038(正男):警備室内でスリッパを履いていたので普通解雇(打ち切り)

・10028(正女):職場のトラブルで夫が威力業務妨害したので退職勧奨(謝罪・退職金で解決)
・10044(非女):フロアマネジャを怒らせたので出勤停止、普通解雇(取下げ)(あっせん外で30万円で解決)
・10169(派女):宗教関係の精神の混乱のため退職勧奨(15 万円で解決)
・10171(非女):従業員間のトラブルを報告したら誤解で即日普通解雇(不参加)
・20042(正女):再入社が知れていじめを受け、「これからいじめがひどくなるから退職してほしい」(不参加)
・20071(正男):「傷害事件を起こす恐れがあるので辞めてもらう」(打ち切り)
・20092(非女):マネージャーとトラブって欠勤、メールのやりとりで退職とされた(打ち切り)
・20113(非男):上司との喧嘩で顧客から殴られたことを理由に退職勧奨(打ち切り)
・20154(非男):個人を誹謗中傷するメールを再度送ったため普通解雇(打ち切り)
・20155(正男):部下とトラブり、「こんな部下と一緒に働けない」と言ったら退職とされた(28 万円で解決)
・20160(非女):会社の調和を乱したので雇止め(不参加)
・20176(正女):上司とのトラブルで普通解雇(50 万円で解決)
・30007(非男):協調性の欠如ゆえ雇止め(不参加)
・30011(非女):職場トラブルから「不満があれば辞めてもらっていい」(打ち切り)
・30051(非男):職場内の人間関係や勤務態度から雇止め(打ち切り)
・30054(正男):人間関係乱したとして普通解雇(打ち切り)
・30065(試男):職員との信頼感欠如を理由に普通解雇(25 万円で解決)
・30087(試男):自分でネットショップを経営し火の車で使用者や他の従業員に無心したので普通解雇(打ち切り)
・30104(派男):就労初日に派遣先担当者との見解の相違で即日解除(不参加)
・30136(試女):同僚とコミュニケーションを図ろうとしないので退職勧奨(30 万円で解決)
・30151(正女):職場の秩序を乱したとして普通解雇(50 万円で解決)
・30156(非男):コミュニケーションがとれず協調性に欠けるとして雇止め(取下げ)
・30170(試男):協調性がないという理由で普通解雇(不参加)
・30181(派女):他スタッフとの協調性低いとして雇止め(不参加)
・30192(試男):現場責任者が指導したところ噛みつきトラブルになり退職勧奨(1.2 万円で解決)
・30226(非女):チームワークを乱すので退職勧奨(不参加)
・30235(試女):挨拶ができない、声が小さいので普通解雇(不参加)
・30241(派女):派遣先から人間関係のトラブルで契約解除の申し出あり雇止め(15 万円で解決)
・30253(正男):取締役に罵声を吐くなど勤務態度不良で普通解雇(720 万円で解決)
・30254(正男):協調性がないので普通解雇(取下げ)
・30294(派女):派遣先で他の派遣労働者とのトラブルを理由に雇止め(打ち切り)
・30312(試男):意思疎通を図らず社長の指示以外聞かないので普通解雇(40 万円で解決)
・30349(正男):職場での暴言、脅迫、命令無視を理由に懲戒解雇(打ち切り)
・30353(正女):職場内の人間関係が悪化したため普通解雇(40 万円で解決)
・30355(派男):女性パートが嫌がっているという理由で雇止め(不参加)
・30415(非女):皆から無視されるようになり、異動先がないとして普通解雇(不参加)
・30434(正男):業務中不満をぶちまけ、同僚を脅迫したため退職勧奨(不参加)
・30435(非女):上司とのコミュニケーションがとれないので普通解雇(不参加)
・30515(試男):コミュニケーション能力不足を理由に普通解雇(不参加)
・30536(非男):風紀を乱したため普通解雇(打ち切り)
・30540(試男):態度が悪く、周りとコミュニケーションがとれないとの理由で普通解雇(不参加)
・30574(派女):派遣先での喧嘩を理由に普通解雇(打ち切り)
・30625(試男):協調性の欠如ゆえ普通解雇(50 万円で解決)
・30642(非女):他の作業を手伝わなかったから普通解雇(取下げ)
・40009(正男):職場の秩序を乱すとして普通解雇(打ち切り)
・40012(正女):他従業員とのトラブルで解雇(離職直前に過去に遡って1年の有期契約にして雇止め)(4 万円で解決)
・40032(試男):試用期間中、他の従業員に溶け込まず孤立して普通解雇(打ち切り)
・40033(非男):店内の盗難騒ぎでトラブルになり普通解雇(15 万円で解決)

・10007(非女):小児科医が看護師や患者の母親とトラブルを起こすので普通解雇(160 万円で解決)
・10154(非男):利用者や市からセクハラ発言にクレームがあったので普通解雇(5 万円で解決)
・10188(非女):仕事上のクレームがあったため普通解雇(不参加)
・10238(非女):現場でトラブルを起こしたため普通解雇(不参加)
・20077(正男):他社の運転手や客からの苦情多く普通解雇(打ち切り)
・20084(非男):皆に迷惑をかけ、クレームが多いので普通解雇(不参加)
・20143(正女):仕事のミスで顧客を怒らせたので普通解雇(5 万円で解決)
・20205(正男):得意先とのトラブルで普通解雇(不参加)
・30005(正男):得意先に失敗多く改めないので普通解雇(不参加)
・30152(非男):クレーム、事故が多いと雇止め(打ち切り)
・30165(試男):品位に欠け、客に不愉快な思いをさせたので普通解雇(打ち切り)
・30172(正女):入居者からクレームがあったとして普通解雇(24 万円で解決)
・30284(試男):荷物の扱いが悪く、顧客の苦情あり普通解雇(打ち切り)
・30324(非女):客とのトラブルや従業員同士のトラブルで雇止め(打ち切り)
・30335(派女):派遣先の隣の会社からのクレームを理由に雇止め(45 万円で解決)
・30339(正男):現場作業でクレーム多いと普通解雇(会社は請負契約と主張)(打ち切り)
・30521(非女):学生から授業中質問に答えてくれないとクレームがあり普通解雇(215 万円で解決)
・30533(非男):請負先からのクレームがあり普通解雇(20 万円で解決)
・30539(正男):仕事のミスや苦情がひんぱんなのに反省がないので退職勧奨(打ち切り)
・30551(非女):利用者のウケが悪いからという理由で普通解雇(3 万円で解決)
・30565(非男):顧客からクレームがあったため普通解雇(18 万円で解決)
・40043(非男):客からのクレームで普通解雇(不参加)

・10042(試男):いとこを病院に連れて行くため遅刻・無断欠勤で普通解雇(40 万円で解決)
・10048(試男):無断欠勤や同僚を罵ったので普通解雇(不参加)
・10049(試?):無断欠勤や勤務中の中抜けを理由に普通解雇(50 万円で解決)
・10102(派女):遅刻など勤怠状況悪く派遣先から拒否されたため雇止め(3.12 万円で解決)
・20061(派男):欠勤を伝えると「もう来なくて良い」(不参加)
・30027(正女):欠勤が多いので退職勧奨(取下げ)
・30032(正男):勤務中連絡が取れなくなり無断欠勤で普通解雇(不参加)
・30162(正男):無断欠勤するようでは困ると普通解雇(17.5 万円で解決)
・30180(正男):職場離脱を理由に普通解雇(不参加)
・30292(正男):遅刻を理由に懲戒解雇(取下げ)
・30396(非女):欠勤や早退が多いため雇止め(不参加)
・30519(正男):無断欠勤(1 日)をしたとの理由で普通解雇(6.8 万円で解決)
・30631(正女):社長のパワハラでうつ病、薬の副作用で居眠り・遅刻で普通解雇(取下げ)

・10104(試女):休みが多すぎを理由に普通解雇(不参加)
・10111(正女):体調不良による半休を理由に退職勧奨(23.3 万円で解決)
・20021・20023(試男):体調不良で4 日間休んだため普通解雇(同一事案について労使双方からあっせん申請)(5 万円で解決)
・20129(試男):試用期間中、風邪や頭痛で4回休んだため普通解雇(1 万円で解決)
・20136(正女):社長から「メタボ、豚、デブ」と言われ、うつで休み普通解雇(18.1 万円で解決)
・20184(非女):休みが多いと普通解雇(不参加)
・30078(正男):休務したいと伝えたら社長命令で普通解雇(不参加)
・30270(非女):体調不良で2 日休んだため普通解雇(打ち切り)
・30315(派女):体調不良で休んだため雇止め(13 万円で解決)

・10043(正女):「このままでは体がもたない」「やってられない」と愚痴ったら退職手続(30万円で解決)
・10100(正男):「この会社は最低だ」と叫ぶので「そんなに嫌なら辞めたらどうだ」(150 万円で解決)
・30184(正女):大学教授が納得しないと卒業できないと財務諸表の開示を求めたため内定取消(不参加)
・30427(派男):派遣では働きたくないというので雇止め(10 万円)
・30616(派女):「時給上げないとやる気起きない」に派遣先が不快感で退職勧奨(打ち切り)

・10096(非女):「うちの事務所に合っていない」「解雇ですね」(10 万円で解決)
・10110(非女):カラーに合わないを理由に普通解雇(不参加)
・10136(試男):社風に合わないことを理由に普通解雇(不参加)
・20048(非女):店長から「俺的にだめだ」と普通解雇(15 万円で解決)
・20068(非女):社風に合わないから普通解雇(不参加)
・20104(正男):いったん内定したが営業向きでないと思い取り消し(25 万円で解決)
・30044(非男):挨拶しなかったため採用4 日後に「辞めて欲しい」(打ち切り)
・30083(正女):会社方針に合わないと普通解雇(不参加)
・30088(正男):会社方針に合わない(100 万円で解決)
・30247(正男):社長交代で普通解雇(不参加)
・30261(正男):廃業し息子が後継するにあたり、他は継続雇用するが、本人は雇用したくないと普通解雇(取下げ)
・30341(試女):「相性の問題ですね」と普通解雇(打ち切り)
・30555(正男):やる気なし、社長の意に沿わないとして普通解雇(打ち切り)
・30626(正女):再面接で社員としての適合性に欠けると判断して内定取消(不参加)
・30633(正男):有料紹介業者を通じて社風に合わないと解ったから内定取消(30 万円で解決)

・10071(正男):異動の送別会中に会社の鍵を忘れたことを思い出し依頼したら即刻解雇(不参加)
・30040(非女):「会社の恥、お詫びに死ね」と言われ、配置転換、雇止め(不参加)
・30311(試男):待機中過度に挨拶しすぎとして解雇(不参加)

・10022(試男):社員から借金を繰り返し、ガソリンを勝手に自分の車に給油して普通解雇(打ち切り)
・10026(正?):バスの通勤定期ありながら自転車通勤、始末書出さず懲戒解雇(5.86 万円で解決)
・10156(正男):残業手当不正受給を理由に普通解雇(不参加)
・10175(正男):取引業者との癒着を理由に普通解雇(40 万円で解決)
・20046(正男):社有車の距離数改ざんを理由に懲戒解雇(打ち切り)
・20115(非女):店長から犯罪行為に荷担したように怒鳴られて退職(労働者は非行を否定)(打ち切り)
・20128(派女):タイムシートの改ざんや患者からのクレームで派遣先が更新拒否(不参加)
・20132(正男):本部に報告せずイベントを開催させた背任行為を理由に懲戒解雇(40 万円で解決)
・30008(非男):顧客情報漏洩していないのに退職を求められ雇止め(労働者は非行を否定)(取下げ)
・30052(正男):経歴詐称、交通費不正請求のため普通解雇(不参加)
・30064(正女):業務上横領を理由に普通解雇(労働者は非行を否定)(2 万円で解決)
・30117(試男):交通費の不正使用、専門知識不足、協調性に欠ける(打ち切り)
・30140(試女):身に覚えのない売上金3 万円の不足を理由に雇止め(労働者は非行を否定)(5万円で解決)
・30175(正女):謝金支払い上の問題で懲戒解雇か自主退職かを迫られた(打ち切り)
・30200(非男):秘密漏洩(輸送ルートの変更)を理由に普通解雇(不参加)
・30495(正女):個人情報の持ち出しを図ったため普通解雇(209.4 万円で解決)
・40001(正男):顧客の契約破棄(転職先への顧客移動)を理由に懲戒解雇(不参加)

・10239(非男):経理業務で販促金を紛失したため雇止め(不参加)
・20044(正男):業務終了後私用で社有車を運転中人身事故を起こし懲戒解雇(150 万円で解決)
・20049(試男):業務上の交通事故や業務ミスから退職勧奨(6.3 万円で解決)
・30255(正男):商品積荷事故を認めよ、嫌ならクビと言われ、拒むと退職勧奨(不参加)
・30258(正男):2 回の交通事故を理由に懲戒解雇(不参加)
・30651(正男):職務従事中の交通事故で懲戒解雇(不参加)

・10004(正男):部下のカードや友人・顧客の名前で借金して懲戒解雇(370 万円で解決)

・10079(非女):工場長から泥棒扱いされ雇止め(労働者は非行を否定)(25 万円で解決)
・10163(非女):身に覚えのない窃盗を理由に普通解雇(労働者は非行を否定)(不参加)
・20127(試女):社長からタバコやボールペンを盗んだとして懲戒解雇(労働者は非行を否定)(不参加)
・30076(正女):罵声を浴びせ、辞めさせるために商品を盗んだことにされて普通解雇(労働者は非行を否定)(不参加)
・40008(正男):レジからの着服で懲戒解雇(不参加)

・10034(非男):アルバイトを平手打ちしたので普通解雇(150 万円で解決)
・30502(正男):就業中部下を殴って出血させたので懲戒解雇(打ち切り)

・10153(正女):いじめの犯人と疑われ辞めるよう促された(労働者は非行を否定)(20 万円で解決)
・10162(正男):セクハラを理由に懲戒解雇(取下げ)
・30332(派女):いじめをしたからという理由で雇止め(労働者は非行を否定)(30 万円で解決)
・30420(非女):同僚に対するいじめを理由に「辞めてくれ」(労働者は非行を否定)(不参加)

・30016(非男):業務中に路上で放尿したので普通解雇(59 万円で解決)

・10151(正男):請負先での経歴詐称と無断欠勤を理由に退職勧奨(30 万円で解決)
・20002(試女):試用期間中、過去の勤務歴を隠していたとして普通解雇(21.25 万円で解決)

・30189(正男):懲戒事由不明の解雇(不参加)

・10174(派男):闇金からの電話がかかってきたので普通解雇(不参加)
・20126(試男):会社にサラ金から電話がかかり「他の社員の手前辞めて欲しい」と退職勧奨(2.88 万円で解決)
・30082(正男):会社に闇金からの電話がかかるようになり、自宅待機を命じ、普通解雇(10万円で解決)
・30376(非女):父が事件を起こしたことを理由に普通解雇(不参加)
・40005(正男):社内における男女交際を理由に懲戒解雇(取下げ)
・40011(正男):親族の相続問題を理由に普通解雇(不参加)
・40021(正男):親族の問題で退職勧奨(不参加)

・10120(正男):副業を理由に普通解雇(不参加)
・10186(正男):土曜も勤務日だが出勤がほとんどないため、バイトをしていいかと相談したため普通解雇(不参加)
・30419(派男):勤務時間外にリクルート活動を行ったため普通解雇(43 万円で解決)
・30595(正男):在籍中会社の顧客に個人での営業行為をしたため懲戒解雇(不参加)
・30600(試男):社員でありながら他社の仕事のために欠勤したので退職勧奨(8 万円で解決)

・10123(非女):協調性がなく、車の運転ができないので退職勧奨(55 万円で解決)
・20165(正女):パソコン入力が遅いとして普通解雇(13.42 万円で解決)
・30163(非女):面接時には問題にされなかった中国語・パソコン能力を理由に普通解雇(不参加)
・30291(派女):PC入力不得意のため業務に支障で雇止め(打ち切り)
・30553(非女):パソコン入力時に間違いが多いので雇止め(欠勤分を有休扱いで解決)
・30617(派男):トラック運転のスキルがないので普通解雇(9.6 万円で解決)

・10019(正男):受注額の粗利益より人件費の方が多いので普通解雇(不参加)
・30045(正男):「月間800 万円を達成しなければ退職」と退職勧奨(不参加)
・30070(非女):業務評価を理由に雇止め(不参加)
・30073(非女):「ノルマを達成できなければアウト」と普通解雇(不参加)
・30306(正男):3 件受注しないと辞めてもらうと通告し退職勧奨(不参加)
・30567(非男):更新基準(自販機販売台数)により雇止め(60 万円で解決)
・40004(非女):ノルマが達成できないからと、知らずに退職届を書かされ雇止め(不参加)

・10179(非女):仕事のミスを理由に社長が威圧的言動で退職勧奨(不参加)
・20116(試男):作業ミスで上司に暴行・暴言を受け、普通解雇された(20 万円で解決)
・30099(非女):1 回ミスで普通解雇(10 万円で解決)
・30274(非女):仕事のミスを理由に雇止め(打ち切り)
・30392(派男):(派遣会社からの申立)業務処理のミスから雇止めしたら解雇と主張され、平行線(取下げ)
・30428(試女):同じミスを何回も繰り返すので雇止め(1 万円で解決)
・30525(正女):1 つのミスを繰り返し責め退職に追い込まれた(5 万円で解決)
・30584(派男):派遣先で顧客名を間違えるという重大なトラブルがあったので雇止め(6 万円で解決)
・30602(正男):売上の未収を理由に普通解雇(不参加)
・30610(非男):安全配慮ミスを繰り返すため普通解雇(打ち切り)

・10017(正女):「仕事ができない」と言われ退職届の提出を迫られた(5 万円で解決)
・10148(正男):試験に不合格、不良工事多く、職人として失格として普通解雇(取下げ)
・10183(正女):勤務成績不良で普通解雇(不参加)
・10187(正男):契約と異なる肉体労働に従事し、能力欠如で普通解雇(不参加)
・10199(正男):営業力不足で普通解雇(不参加)
・20010(正男):(会社側からの申立)介護職の仕事量をこなさないため普通解雇(18 万円で解決)
・20054(正男):技術に疑問、看過し得ない行動があったので退職勧奨(32 万円で解決)
・20094(試男):試用期間中、仕事ぶりが採用基準を満たさず普通解雇(打ち切り)
・20156(正女):能率の低下を理由に普通解雇(打ち切り)
・20170~20172(非女):生産性が低いため普通解雇(不参加)
・20213(正男):業務対応能力不足で普通解雇(不参加)
・30003(非女):判断力、コミュニケーション力が不足(100 万円で解決)
・30081(正男):技量、業務姿勢を理由に普通解雇(不参加)
・30096(正女):体が大きく目立ち能力に欠けるとして普通解雇(不参加)
・30115(正女):「仕事をまったく覚えない。とりあえすクビ」と普通解雇(打ち切り)
・30169(正男):能力、人間関係に問題ありと退職勧奨(打ち切り)
・30231(非女):契約通りの仕事が為されないため普通解雇(不参加)
・30238(試男):職務能力不足で普通解雇(打ち切り)
・30320(非女):期間中沖縄に長期出張中、客の回転悪く雇止め(50 万円で解決)
・30362(試女):採用翌日に能力不足で普通解雇(3.7 万円で解決)
・30365(非男):業務遂行能力がないとして普通解雇(解雇撤回、年度中休職扱いで解決)
・30366(正男):「仕事の能力がないから辞めて欲しい」と退職勧奨(取下げ)
・30372(派男):常用派遣、成績が悪いため普通解雇(打ち切り)
・30373(正男):業務遂行能力、能率が劣るため普通解雇(不参加)
・30418(正女):能力不足を理由に普通解雇(取下げ)
・30426(試男):仕事のスピードがより必要との理由で普通解雇(不参加)
・30437(非男):「給料を払って仕事を任せられないなら来てもらう意味がない」と退職勧奨(6万円で解決)
・30448(派女):スキル不足と派遣先の業績悪化を理由に雇止め(10 万円で解決)
・30483(正女):業務成績不良で普通解雇(不参加)
・30527(正女):仕事ができないから普通解雇(15 万円で解決)
・30570(正女):新人研修でスキル不足がわかったと内定取消(35 万円で解決)
・30581(派男):派遣先から能力的に問題ありとされたので普通解雇(25 万円で解決)
・30586(試男):職人としての技量が足りないと普通解雇(3.2 万円で解決)
・30609(正男):スキルが足りないからと普通解雇(取下げ)
・30637(正男):職務遂行能力不足で退職勧奨(普通解雇とすることで解決)
・30650(正男):仕事の能力がないため普通解雇(取下げ)

・10003(試女):向いていないと雇止め(打ち切り)
・10131(非女):即戦力ではないとして普通解雇(不参加)
・20058(試男):面接後作業をさせられ、報酬をもらい、その後「体が悪そうだから」と採用拒否(不参加)
・20196(正女):業務に適性がないとして普通解雇(20.8 万円で解決)
・30086(非女):入社1 週間で「この仕事に合ってない」と普通解雇(3 万円で解決)
・30127(非女):「この仕事に向いていない」と普通解雇(不参加)
・30391(正女):即戦力にならないことを理由に普通解雇(不参加)
・30433(試男):管理職として不適格として普通解雇(不参加)
・30449(非女):児童と接する業務に不向きとして普通解雇(36 万円で解決)

・10214(正男):怪我(荷下ろし作業中の労災事故)の報告をする度に退職を強要(不参加)
・20087(正男):荷積み中負傷し休職、「あなたの仕事はない」と普通解雇(不参加)
・20146(正男):業務上負傷し、労災申請したら「今日でもういい」と普通解雇(不参加)
・30302(正男):業務上の怪我で休業中に退職勧奨(不参加)
・30338(正男):業務上の交通事故で解雇、行政指導で撤回するも復職できず(不参加)
・30408(正男):トラックから落下し休業、復帰後突然「いらない」と普通解雇(20 万円で解決)
・30431(非男):業務上の熱中症で休業中に退職を強要(不参加)
・30488(試男):通勤災害で休業中、長期欠勤を理由に普通解雇(18 万円で解決)
・30516(非男):業務上負傷し休業、職場復帰を拒否され解雇(不参加)
・30599(非女):業務上負傷で休業中に、機械を減らすとして雇止め(不参加)
・30647(試男):作業中負傷で入院中、退職届を出すよう要求された(不参加)

・30100(派男):期間途中、交通事故で負傷し、欠勤中普通解雇(30 万円で解決)
・30221(非女):交通事故で休職中に雇止め(不参加)

・10073(正男):社内でインスリン投与を顧客に見られると困ると、持病(糖尿病)を理由に普通解雇(20 万円で解決)
・10182(正男):過労で持病(大腸憩室炎)が再発したのに「辞表を出せ」と退職勧奨(32 万円で解決)
・30061(正女):B 型肝炎で休職、配置転換に納得せず退職勧奨(不参加)
・30161(非男):網膜剥離で入院後、復職を求めたが普通解雇(30 万円で解決)
・30178(正女):勤務中腰を痛め、職場復帰を求めたが退職を要求される(13.8 万円で解決)
・30229(正女):過労とストレスで休職(アトピー性皮膚炎)、復職後も通院加療中に退職勧奨、解雇(打ち切り)
・30262(非女):仕事で腱鞘炎を発症していると話したら契約満了(2 万円で解決)
・30512(正男):脳梗塞で入院リハビリ中、リハビリ終了まで雇用継続と合意したのに12 月
末打切りを通告(不参加)
・40020(正男):病気(うつ病と深部静脈血栓症)を理由に強制退職(解雇)(不参加)
・40042(正男):心臓機能障害のため車の運転ができないため内定取消(20 万円で解決)

・30100(派男):期間途中、交通事故で負傷し、欠勤中普通解雇(30 万円で解決)
・30221(非女):交通事故で休職中に雇止め(不参加)

・10073(正男):社内でインスリン投与を顧客に見られると困ると、持病(糖尿病)を理由に普
通解雇(20 万円で解決)
・10182(正男):過労で持病(大腸憩室炎)が再発したのに「辞表を出せ」と退職勧奨(32 万円で
解決)
・30061(正女):B 型肝炎で休職、配置転換に納得せず退職勧奨(不参加)
・30161(非男):網膜剥離で入院後、復職を求めたが普通解雇(30 万円で解決)
・30178(正女):勤務中腰を痛め、職場復帰を求めたが退職を要求される(13.8 万円で解決)
・30229(正女):過労とストレスで休職(アトピー性皮膚炎)、復職後も通院加療中に退職勧奨、
解雇(打ち切り)
・30262(非女):仕事で腱鞘炎を発症していると話したら契約満了(2 万円で解決)
・30512(正男):脳梗塞で入院リハビリ中、リハビリ終了まで雇用継続と合意したのに12 月末打切りを通告(不参加)
・40020(正男):病気(うつ病と深部静脈血栓症)を理由に強制退職(解雇)(不参加)
・40042(正男):心臓機能障害のため車の運転ができないため内定取消(20 万円で解決)

・10076(正男):業務中犬に噛まれたためうつ病になり、欠勤のため退職勧奨(不参加)
・10180(正女):パワハラが原因でうつ病、出勤不能になり、解雇通告(不参加)
・10234(正男):バス運転に集中できずもうろうと意味不明の言動で危険として普通解雇(不参加)
・20041(試男):精神障害でいじめを受け自宅療養中に雇止め(7 万円で解決)
・30021(正女):「アホアホ」と暴言、ストレス障害で休養、辞めるかパートかと迫られ解雇(打ち切り)
・30109(正女):適応障害で休職中普通解雇(75 万円で解決)
・30111(正男):精神疾患の療養の再延長を申し込んだが普通解雇(打ち切り)
・30249(試女):勤務中にリストカットして普通解雇(打ち切り)
・30257(正女):うつで休職後、復職したが退職勧奨(不参加)
・30356(正女):同僚の嫌がらせでパニック障害、職場復帰を伝えると退職勧奨(47 万円で解決)
・30405(試男):脳の手術を行ったこと(運転中引きつけの恐れ)を理由に普通解雇(打ち切り)
・30421(非女):悲鳴(個人的攻撃)で休職、復職を希望すると退職を勧める(不参加)
・30606(正男):うつ病で休職、復職を申し出たが「戻る席がない」と退職勧奨(打ち切り)
・30649(正男):パニック障害で休業、復帰できなければ辞めてもらうと退職勧奨(33 万円で
解決)
・40031(派女):私的にリストカットしたことを知られて雇止め(打ち切り)

・20142(非女):上司と言い争い、いったん解雇後復職したが体調を崩し休職し退職に至った(5 万円で解決)
・20145(正女):嫌がらせが原因で体調を崩し退職した(打ち切り)
・30095(非女):店内で倒れて休んだので普通解雇(不参加)
・30133(試女):体調不良で病院に行ってから連絡を入れたら普通解雇(不参加)
・30137(正男):風邪の発熱で3 日欠勤したら営業職として通用しないと普通解雇(打ち切り)
・30528(非女):嫌がらせによる体調不良で休みたいと申し出たら退職を強要(不参加)
・30576(正男):体調を崩し休んでいる間に退職勧奨(不参加)
・30620(正女):体調不良で帰るよう言われ、休養中に解雇の電話(不参加)

・30414(非男):家族介護のため休職を伝えると普通解雇(不参加)
・30575(非女):母の看護で1 ヶ月休職後出勤すると「来なくて良い」と普通解雇(4 万円で解決)

・10091(非男):知的障害者が勤務中パニックになり非常ボタンを押したため退職勧奨(不参加)
・30091(試女):身体的な理由で職務に合わないと退職勧奨(不参加)
・30237(試男):知的障害者が仕事についてこれず計算ができないので普通解雇(18.4 万円で解決)

・30199(正男):子どもの障害のため出勤状況悪く普通解雇(30 万円で解決)

まだまだ続きますが、まあこんな感じです。こういう事案にご立派な「解雇のスキル」があるとも思われませんが、でもスキルがあろうがなかろうがクビはクビ。

そして、会社側のあっせん不参加等で解決しない方が多く、解決した3割でも、解決金は平均10万円から20万円ほど。

各ケースの詳細については、『日本の雇用終了』を是非お読みください。

それが日本社会の解雇の現実です。

その現実から出発しない議論は空疎でしょう。

 

 

2022年6月 3日 (金)

『証券アナリストジャーナル』に拙著書評

Saaj 『証券アナリストジャーナル』という、今まで触ったこともない分野の専門誌に、拙著『ジョブ型雇用社会とは何か』の書評が載ったようです。評者は中央大学の佐々木隆文さん。

https://www.saa.or.jp/learning/journal/each_title/2022/06.html

証券アナリスト読書室

濱口桂一郎著「ジョブ型雇用社会とは何か─正社員体制の矛盾と転機─」佐々木 隆文・・・89

2ページにわたって詳細に論じていただいていますが、特に最後のところで、

・・・本書は新書として刊行されているが、内容は専門書といってよいくらい読みごたえがある。ジョブ型のハウツー本などを読む前に、ぜひ手に取ってほしい一冊である。 

と言っていただいております。

 

ジョブ型雇用の正しい理解@『技術と経済』2022年6月号

 一Image0-13般社団法人科学技術と経済の会の『技術と経済』という雑誌の6月号に、3月の例会での講演が載っています。

本日は、ジョブ型雇用の正しい理解について、昨年9月に出版した『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)に書いた内容を中心にお話をする。・・・

 

ジョブ型の本来の論点は教育から労働への移行@『学研・進学情報』6/7月号

Image0-14 『学研・進学情報』6/7月号に、わたくしのインタビュー記事「ジョブ型の本来の論点は教育から労働への移行」が載っています。

「ジョブ型」という言葉の生みの親である労働政策研究・研修機構労働政策研究所の濱口桂一郎所長。昨今、日本で流行しているジョブ型論には誤解が多いと警鐘をならす。本来のジョブ型とはどのようなものなのか? それによって教育はどのような影響を受けるのか? 濱口所長に聞いた。
 

 

2022年6月 2日 (木)

雇用される精神障害者10万人弱@『労務事情』2022年6月1日号

B20220601 『労務事情』に連載している「数字から読む日本の雇用」の第3回目が、その2022年6月1日号に載っています。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20220601.html

本誌には2017年度にも「気になる数字」を1年間連載したことがありますが、その時の最終回(2018年3月号)は「雇用されている精神障害者5万人超」でした。2017年6月時点における民間企業に雇用される精神障害者の数は50,047.5人だったのですが、それからわずか4年で雇用される精神障害者の数はほぼ倍増しました。2021年6月現在の民間企業で雇用される精神障害者の数はは98,053.5人となったのです。2018年4月に精神障害者の雇用義務が施行されたので、これはその成果の数字といってもいいでしょう。・・・・・

 

ジョブ型が/メンバーシップ型が本質的にいいとか悪いとか言ってないんだけど

Fdvsjpv0_400x400 男性の女性声優さんがこんなことを呟いているんですが、

https://twitter.com/ssig33/status/1531950092076388353

濱口桂一郎先生は「日本企業の雇用システムはダメ」みたいな論(若者と労働)から、最近は「何が良いとか知らんわ、お前らで勝手に考えろよ」みたいな感じになってきていて、変化のきっかけとかは教えてほしい(公刊されてるものからは読み取れなかった)

あちこちでそういう問いかけをやたらにされるんですが、そもそもそういう議論はしていないのに、勝手にそういう風に読み込まれてしまっているようですね。

そういう誤解を解くために、最近の講演録から一部引用しておくと、

https://www.hokukei.or.jp/app/website/wp-content/uploads/kouenkai2206.pdf

 誤解しないでいただきたいのですが、ジョブ型とメンバーシップ型のどちらが正しいとか間違っているとか、ということを言っているのではありません。そんな議論をすること自体、あまり意味のないことなのです。この種の議論は、「その時に勢いのある国、勢いのある社会、勢いのある会社が採用している制度が良い」と言っているだけの話です。所詮、その程度のことなのです。そもそも、これからのAIの時代には、ジョブ型・メンバーシップ型の仕組みそのものが崩れていくかもしれないのです。
 私は、日本型雇用システムというものが、まさに「若者」「中高年」「女性」といった観点において大きな課題や矛盾をはらんでいる、という話をしています。メンバーシップ型が社会学的にみて問題をはらんでいるという点でもはや持続可能ではない、と思っていますが、「メンバーシップ型が社会学的にみて持続可能ではない!」ということと「ジョブ型のほうがメンバーシップ型よりも生産性が高い!」という話は、何の関係もないのです。

ジョブ型は古臭くて硬直的で、メンバーシップ型の方が柔軟であることには何の変りもないけれど、その柔軟性こそが社会学的な諸問題を生み出している元凶だから、もっとジョブ型の要素を取り入れて硬直的にしようよ、と言っているところをつかまえて、濱口はジョブ型派だといえばそれはその限りではその通り。

でもそれはインチキジョブ型派の、ジョブ型こそが柔軟で未来の働き方だという嘘八百の三百代言とは全然違うんだけど、なぜか多くの人々の脳内では両者がごちゃ混ぜにされるみたいです。

 

 

 

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