定年とは・・・
こういうまことに素直な疑問を呈するつぶやきがありました。
https://twitter.com/ukbrilliantlife/status/1521728635169820672
10年ほど前から日本では定年というイベントがリタイヤではなく低賃金で働く段階への移行に変わっているみたい
いや、全くその通りなんですが、なぜか労働法でも労働経済でも真面目な労働問題の本でその真実をズバリと書いている本はほとんどないんですよね。あれこれの事実は山のように書き連ねているものの。
たぶん、それをむくつけに明示したのは、この本くらいではないでしょうか。
そもそも今の定年は強制退職年齢ではない
さて、前項では定年制を「労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する強制退職制度」と定義しましたが、これは現在ではもはや当てはまりません。日本政府の正式訳でも定年は「mandatory retirement age」となっていますが、現在なお圧倒的大部分である60歳の定年で本当に強制的に退職させられる人はいないはずだからです。高年齢者雇用安定法によれば、定年年齢は60歳を下回ってはならず、つまり60歳定年でいいのですが、その後65歳まで希望者全員を継続雇用しなければなりません。つまり、本当にその意に反して年齢のみを理由に退職させられる人が出るとしたらそれは65歳であって、定年という名前のついている60歳という年齢は、それまでの正社員としての雇用契約がいったん終了し、改めて(嘱託等の名前のついた)有期雇用契約が始まる時点なのです。
これは理論的にもなかなか複雑怪奇なところで、かつては65歳までの継続雇用が使用者の努力義務でしたし、それが義務化された後も労使協定により対象者を限定できるという制度があったりしたので、その限りでは60歳で年齢のみを理由として強制的に退職に追い込まれる人が存在し得たのですが、2012年の法改正によって65歳までの継続雇用が全面的に義務化されたため、60歳はいかなる意味でも強制退職年齢ではなくなりました。日本語では定年という(年齢に関わるという以外は)内容不明の用語を使うことでごまかしていますが、英語に訳すとそのからくりが露呈してしまいます。今の定年は処遇の精算年齢
では、強制退職年齢ではないとすれば、60歳定年とは一体何なのか。そして、なぜそれをあたかも強制退職年齢であるかの如き定年という言葉で呼び続けているのか。その根本原因も日本型雇用システムにあるのです。その謎を解く鍵は、雇用保険を原資とするある制度にあります。財源を労使折半で賄っている高年齢雇用継続給付という制度は、60歳定年で退職し、その後継続雇用された労働者の賃金が定年前の75%未満に下落した場合に、賃金の15%相当額までを補填してくれる制度です。現在の補填率は15%ですが、2003年改正前は25%まで補填してくれていました。
この制度ができたのは1994年で、そのときは努力義務に過ぎない65歳までの継続雇用を促進するための制度だという触れ込みでした。ところが2012年改正で65歳までの継続雇用が全面的に義務化された後も、この制度は堂々と残っています。義務であることを促進するためにわざわざお金を出すというのは筋が通らないはずですが、お金を出している労使が文句を言わないのは、それが役に立っているからでしょう。どういう役に立っているかといえば、年功賃金制の下でひたすら上がり続けて定年直前には相当の高給になった中高年労働者を、本来あるべき賃金水準に引き下げて雇い続けるための上乗せ的な手当ということです。
つまり今日の日本において、本来強制退職年齢という意味を有していた定年という言葉は、それまでの高給を一気に引き下げるための区切り、いわば処遇の精算年齢という意味になっています。その処遇の精算を円滑に行えるようにするために、制度創設時の理屈を括弧に入れたまま、その差額の一部を公的に補填するという制度が続けられているのです。
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