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2022年5月25日 (水)

いわゆる『シフト制』留意事項@『労基旬報』2022年5月25日号

『労基旬報』2022年5月25日号に「いわゆる『シフト制』留意事項」を寄稿しました。

 去る1月7日、厚生労働省は「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」という文書を作成し、関係団体に周知を依頼しました。
 この「シフト制」の問題については、本紙2021年1月25日号に「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」を寄稿し、日本で近年指摘される諸問題を挙げるとともに、それがヨーロッパ諸国で過去十年近くにわたって「ゼロ時間契約」として問題視されていたものとほぼ同じ問題であることを指摘し、2019年に成立したEUの透明で予見可能な労働条件指令の関係規定を紹介していました。今回の「留意事項」は、この「シフト制」に対して労働行政が初めて一定の考え方を示したものとして重要です。
 この「留意事項」では、「シフト制」を「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など。以下同様。)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」と定義し、従前から見られたいわゆる交替勤務(年や月などの一定期間における労働日数や労働時間数が決まっており、その上で、就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態)は対象外です。そして、シフト制を内容とする労働契約を「シフト制労働契約」、シフト制労働契約に基づき就労する労働者を「シフト制労働者」と呼んでいます。
 「留意事項」は、まずその「労働契約の締結時に明示すべき労働条件」の項において、「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなければなりません」とか、「労働契約の締結時に休日が定まっている場合は、これを明示しなければなりません」と述べていますが、これを裏返して言えば、「労働契約の締結時点において、始業及び終業時刻が確定していない日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなくてもよい」、「労働契約の締結時に休日が定まっていない場合は、これを明示しなくてもよい」ということになります。そして、「シフト制」というものを「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、・・・勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」と定義している以上、本文の記述はほとんど意味を有さず、それを裏返した記述の方が意味のある文章のはずです。
 ここは文章がいささか入り組んでいるのですが、上記に続く「労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りず、労働日ごとの始業及び終業時刻を明記するか、原則的な始業及び終業時刻を記載した上で労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要です」というのは、あくまでも「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している」ことを前提にした記述であって、裏返していえば、労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定していなければ、「シフトによる」と記載することで足りるということになります。大変誤解を誘導するような記述ですが、筋道を辿ればそういうことになるはずです。
 おそらく、「明示しなくてもよい」と明示するのが嫌だったのでしょうが、現行法の解釈としてはそういうことになるというのが、この「留意事項」の言っていることです。ここは、労基法15条1項と労基則5条1項2号により「始業及び終業の時刻」や「休日」が絶対的明示事項となっていることとの関係で議論になり得るところですが、明示しようにも決まっていないのだから明示できないという理屈が優先し、契約締結時に始業・終業時刻が決まっていないような労働契約は違法だ(つまり「シフト制」はそもそも違法だ)という方向には行かないということです。それ自体は常識的な判断であるといえますが、そうすると、労働条件明示義務の一部が空洞化してしまいます。
 その代わりに「留意事項」が提案するのが、シフト作成・変更の手続と労働日・労働時間などの設定に関する基本的な考え方を労働契約に定めておくことですが、これはいかなる意味でも権利義務に関わるものではないことを明らかにするためか、「考えられます」という大変遠慮した記述になっています。「シフト制労働者の場合であっても、使用者が一方的にシフトを決めることは望ましくな」いとはいえ、決して違法とは言えないからです。「留意事項」がそれ自体としては労基法の解釈通達ではなく、単なる文書という扱いになっているのは、この故だと思われます。その「考えられる事項」は以下の通りです。
a. シフトの作成に関するルール
・シフト表などの作成に当たり、事前に労働者の意見を聴取すること
・確定したシフト表などを労働者に通知する期限や方法
b. シフトの変更に関するルール
・シフトの期間開始前に、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等の変更を使用者又は労働者が申し出る場合の期限や手続
・シフトの期間開始後に、使用者又は労働者の都合で、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等を変更する場合の期限や手続
 これに対し就業規則については少し理屈が違います。労基法89条1号により「始業及び終業の時刻」や「休日」が就業規則の絶対的必要記載事項になっていますが、これは決まっていないから記載しないということはできません。ただし、それは事業場の定めとしての話であって、個々のシフト制労働者については事情が違います。「留意事項」は大変回りくどく誤解を招くような記述ぶりをしていますが、「就業規則上「個別の労働契約による」、「シフトによる」との記載のみにとどめた場合、就業規則の作成義務を果たしたことになりませんが」というところまで読んで、シフト制労働者についても具体的な始業・終業時刻を定めなければいけないのかとつい思って、その次に読み進むと、「基本となる始業及び終業の時刻や休日を定めた上で、「具体的には個別の労働契約で定める」、「具体的にはシフトによる」旨を定めることは差し支えありません」とあるので、結局労働契約の場合と大して変わらないということが分かります。
 以上は、現行法令を一切いじらないという前提の上で議論すれば、こういう結論にならざるを得ないだろうという話です。もし労基則の改正もありうべしという前提で立法論をするのであれば、昨年の拙稿で紹介したEUの透明で予見可能な労働条件指令第4条におけるような規定ぶりが考えられます。
(m) 労働パターンが完全に又は大部分が予見可能でない場合、使用者は労働者に以下を通知するものとする。
 (i) 作業日程が変動的であるという原則、最低保証賃金支払時間数及び最低保証時間を超えてなされた労働の報酬、
 (ii) 労働者が労働を求められる参照時間及び参照日、
 (iii) 労働者が作業割当の開始以前に受け取るべき最低事前告知期間、及びもしあれば第10条第3項にいう取消の最終期限、
 もっとも、この規定についてもいろいろと論点はあり、その点については拙著『新・EUの労働法政策』を参照していただければと思います。
 以上に対し、シフト制であろうがなかろうが適用される規定については、「留意事項」は明確な言い方になります。法定労働時間は現実に労働する時間に対する規制なので、所定労働時間が不確定のシフト制労働者であってもストレートに適用されます。ですから、労基則5条1項2号の「所定労働時間を超える労働の有無」は明示しなくても違法ではないとしても、現実に労働させてその時間が1日8時間、週40時間を超える場合は36協定の締結と割増賃金の支払が必要ということになります。
 今回のコロナ禍で一番問題となった休業については、「留意事項」はまことに通り一遍のことしか記述していません。労基法26条についての一般的な説明が長々と書かれた上で、「シフト制労働者の場合であっても、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、休業手当の支払が必要になります」としているだけです。問題の本質は、「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、・・・勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」において、その勤務割作成の段階で具体的な労働日や労働時間が入らないことを捉えて「休業」と言えるかどうか、という点にあるのですが、そこは完全にスルーしています。というより、そこについては一切判断をしないというのが「留意事項」のスタンスと言うべきでしょう。
 近年シフト制をめぐって提起された裁判例は、シルバーハート事件(東京地裁2020年11月25日労働判例1245号27頁)やホームケア事件(横浜地裁2020年3月26日労働判例1236号91頁)などいずれもこの問題が焦点になっているだけに、この点はいささか残念ですが、そもそも告示でもなければ解釈通達でもなく、法規範的性格を持たない文書に過ぎないことからすれば、やむを得ないことかも知れません。

 

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