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2022年5月 6日 (金)

吉野家の一件のジョブ型入管法的理由とその消滅

Llx6kjwy 親子丼新発売日目前にシャブ漬け生娘事件をぶつけるという事態があったばかりの吉野家でこんなことが起こっていたようですが、

https://www.sankei.com/article/20220506-SGU3PAMRJRKE5O623A2XQJ4UFY/(吉野家、外国籍で参加拒否 採用説明会予約の大学生 ビザ取得の困難理由)

 吉野家ホールディングス(HD)は6日、牛丼チェーン吉野家の採用説明会に予約した大学生に対し、外国籍であると判断したことを理由に参加を拒否していたと明らかにした。「ビザの取得が非常に困難」と理由を説明している。吉野家は採用サイトに「外国籍社員の積極的な登用を続けています」と明記していた。
 吉野家HDによると、吉野家の採用担当者が大学や居住地などの情報から、説明会参加希望者の一人を外国籍と判断。「就労ビザの取得が大変難しく、内定となった場合も入社できない可能性がある」とのメールを送り、予約を取り消した。同様の対応は令和3年1月ごろから行っていた。
 吉野家HDは、過去にビザを取得できずに内定取り消しをせざるを得なくなったケースがあり「取り消された人の心象をおもんぱかり、やむなく断っていた」と釈明。「(ビザ取得が採用条件であることなどの)説明が不足しており、参加希望者への連絡にも不備があった」と説明した。 

拒否された本人のツイートはこちら:

https://twitter.com/K5cc0X/status/1521498867484741632

これは、そもそも外国籍ではない人を外国籍の留学生だと判断するという間違いから始まっているのであまり同情の余地はないのですが、それにして入管法の本来の建前からすると、そういうことはありうる、いや正確にいうとあり得た話ではあるのです。

ここは、『ジョブ型雇用社会とは何か』の後ろの方でも取り上げているのですが、そもそもの入管法の建前は純前たるジョブ型なので、吉野家のようなファーストフード店で給仕接客するような仕事は本来アウトなのです。「過去にビザを取得できずに内定取り消しをせざるを得なくなったケース」というのは、その時の話なのでしょう。

ところが、吉野家の人事部はキャッチアップしていなかったようなのですが、そういうジョブ型入管法の運用に対して、経済団体が猛烈に要求して、今ではそれでもOKになっているんです。このあたりの経緯は、同書でも簡単に触れましたが、もう少し詳しい解説は昨年WEB労政時報に寄稿していますので、そちらを引用しておきましょう。

ジョブ型「技人国」在留資格とメンバーシップ型正社員の矛盾

 日本の外国人労働政策は至るところに矛盾を孕(はら)孕(はら)んだ形で展開してきました。その代表格は「労働者として」入れるのではない定住者という在留資格の日系南米人と、最初は「労働者ではない」研修生で、次は一応労働者ではあるが主目的は国際貢献という触れ込みの技能実習生ですが、留学生の資格外活動(アルバイト)を週28時間まで認めているのも、ローエンド技能労働者のサイドドアであることは確かです。この労働需要に対しては、2018年12月の入管法改正により、ようやく特定技能という在留資格が設けられ、それなりのフロントドアが作られたといえます。
 
 これらに対して、日本政府はずっとハイエンドの外国人は積極的に受け入れるという政策をとってきました。その中でも、いわゆる普通のホワイトカラーサラリーマンの仕事に相当する在留資格が技術・人文知識・国際業務、いわゆる「技人国」です。出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の別表では、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」と、定義されています。
 要するに、理科系と文科系の大学を卒業し、そこで学んだ知識を活用して技術系、事務系の仕事をする人々ということですから、ジョブ型社会における大卒ホワイトカラーを素直に描写すればこうなるという定義です。つまり、日本の入管法は他の多くの法律と同様に、欧米で常識のジョブ型の発想で作られているといえます。
 
 ジョブ型の常識で作られているということは、メンバーシップ型の常識は通用しないということです。法務省の「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」には、「従事しようとする業務に必要な技術又は知識に係る科目を専攻していることが必要であり、そのためには、大学・専修学校において専攻した科目と従事しようとする業務が関連していることが必要」と書かれています。
 何という職業的レリバンスの重視でしょうか。これは、専門技術職は積極的に受け入れるけれども、単純労働力は受け入れないという原則を掲げている以上当然のことです。ところが、それが日本のメンバーシップ型社会の常識と真正面からぶつかってしまいます。今まで留学生の在留資格だった外国人が、日本の大卒者と同じように正社員として採用されて、同じように会社の命令でどこかに配属されて、同じように現場でまずは単純作業から働き始めたとしたら、それは「技人国」の在留資格に合わないのです。大卒で就職しても最初はみんな雑巾がけから始める、などというメンバーシップ型社会の常識は通用しないのです・・・しないはずでした。
 
 ところが、それでは日本企業が回らないという批判を受けて、法務省は2008年7月「大学における専攻科目と就職先における業務内容の関連性の柔軟な取扱いについて」という局長通達で、「現在の企業においては、必ずしも大学において専攻した技術又は知識に限られない広範な分野の知識を必要とする業務に従事する事例が多いことを踏まえ、在留資格『技術」及び『人文知識・国際業務』の該当性の判断に当たっては、(中略)柔軟に判断して在留資格を決定する」ことと指示したのです。とはいえ、あくまでもジョブ型の大原則は変えていないので、「例えばホテルに就職する場合、研修と称して、長期にわたって、専らレストランでの配膳や客室の清掃等のように『技術・人文知識・国際業務』に該当しない業務に従事するといった場合には、許容されません」と、それなりに厳格さは維持されていました。
 しかし、それでもまだ足りないという批判が繰り返され、あっさり本来のジョブ型制度が後退してしまったのです。上記2018年12月の入管法改正を受けて同月に策定された外国人材受入れ・共生対応策では、留学生の就職率が3割強にとどまっていることから、大学を卒業する留学生が就職できる業種の幅を広げるために在留資格の見直しを行うとされ、翌2019年5月の告示改正で、「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」という名目の下、飲食店、小売店等でのサービス業務や製造業務も特定活動46号として認めることとしたのです。同時に出されたガイドラインの具体的な活動例を見ると、以下のとおり、
よほどの単純労働でない限り、普通の技能労働レベルのものがずらりと並んでいます。

 飲食店に採用され、店舗管理業務や通訳を兼ねた接客業務を行うもの(日本人に対する接客を行うことも可能です)。
※厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません。
 工場のラインにおいて、日本人従業員から受けた作業指示を技能実習生や他の外国人従業員に対し外国語で伝達・指導しつつ、自らもラインに入って業務を行うもの。
※ラインで指示された作業にのみ従事することは認められません。
 小売店において、仕入れ、商品企画や、通訳を兼ねた接客販売業務を行うもの(日本人に対する接客販売業務を行うことも可能です)。
※商品の陳列や店舗の清掃にのみ従事することは認められません。
 ホテルや旅館において、翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設、更新作業等の広報業務を行うものや、外国人客への通訳(案内)を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行うもの(日本人に対する接客を行うことも可能です)。
※客室の清掃にのみ従事することは認められません。
 タクシー会社において、観光客(集客)のための企画・立案や自ら通訳を兼ねた観光案内を行うタクシードライバーとして活動するもの(通常のタクシードライバーとして乗務することも可能です)。
※車両の整備や清掃のみに従事することは認められません。
※タクシーの運転をするためには、別途第二種免許(道路交通法第86条第1項)を取得する必要がありますが、第二種免許は、個人の特定の市場への参入を規制することを目的とするものではないことから、いわゆる業務独占資格には該当しません。
 介護施設において、外国人従業員や技能実習生への指導を行いながら、日本語を用いて介護業務に従事するもの。
※施設内の清掃や衣服の洗濯のみに従事することは認められません。
 食品製造会社において、他の従業員との間で日本語を用いたコミュニケーションを取りながら商品の企画・開発を行いつつ、自らも商品製造ラインに入って作業を行うもの。
※単に商品製造ラインに入り、日本語による作業指示を受け、指示された作業にのみ従事することは認められません。

 ハイエンド労働者は入り口からハイエンドの仕事をし、ローエンド労働者はずっとローエンドの仕事をするというジョブ型社会の常識が、ハイエンド(に将来なる予定/なるかも知れない/なるんじゃないかな)の労働者が入り口ではローエンドの仕事をするという日本社会の常識に道を譲ったわけです。それは、もしその就職した留学生たち全員が本当にハイエンド労働者になることを予定しているのであれば、ジョブ型の制度趣旨に反するというだけで、否定されるべきではないのかもしれません。しかしながら、日本の外国人政策における留学生の位置づけを振り返ってみると、その点にもかなりの疑問符が付きそうです。なにしろ、いまや本家の「技人国」ですら、中国人を抑えて、一番多いのはベトナム人になっているのですから、どこまでハイエンド労働者なのか、大変疑わしい状況になりつつあります。 

たぶん、吉野家に就職して留学ビザから就労ビザに切り替える場合、上のアの「飲食店に採用され、店舗管理業務や通訳を兼ねた接客業務を行うもの(日本人に対する接客を行うことも可能です)。※厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません」に該当することになると思われますので、2019年告示改正以後は留学生の就職の場合であってもビザが取れずに内定取消になることはなくなったはずですが、それがいいことなのかどうかという問題は残ります。

もちろん、そもそも今回の事件については、外国籍の留学生でもなんでもなく、民族的マイノリティの日本国籍者を勝手に外国籍だと思い込んだ事件のようなので、同情の余地はないのですが、少なくとも背景事情としてはこういうことがあり、それ自体が結構深い問題を孕んでいるということは理解できるのではないかと思います。

(追記)

このエントリに、こういうはてブが付けられていることを考えると、

https://b.hatena.ne.jp/entry/4719205288779642466/comment/petronius7

この説明でおかしいのは、吉野家本体の社員は多分、管理企画業務をやって店頭で接客するわけではないので、以前でも入管に拒否られる理由が無い事、人事の入管対応が不十分だったとしか思えない。

拙著を読んでいる方には言わずもがなですが、そうでない方はその入口以前のところで引っかかってしまうかもしれないので、念のため解説をしておきますね。

特殊日本的なメンバーシップ型雇用システムにどっぷり漬かっていると見えなくなりがちなんですが、吉野家の本社等で経営企画や商品開発や営業戦略などに携わっているようなホワイトカラー労働者と、牛丼を客に出しているお店で給仕接客しているようなブルーカラー労働者は、全く異なるジョブであり、日本以外のすべての国ではお互いに混じり合うことはありえません。

一昨年来日経新聞はじめとするいんちきジョブ型論がすべて見落としているのは、ジョブ型雇用社会とはジョブでもって区別される社会であり、ジョブ(とそれを遂行しうるスキルを証明する学歴等の資格)のみが正当な区別の根拠であり、それ以外は不当な差別であるとみなされる社会であるということです。

ところが、日本では大卒の(将来は経営管理者になるかもしれない)ホワイトカラー労働者も最初は現場でブルーカラージョブに就けて「雑巾がけ」をやらせます。こんなことは日本のメンバーシップ型社会だけの現象ですが、それをきちんと認識している人はほとんどいません。

ところが、上記告示改正前の入管法は、他のジョブ型社会とまったく同様の発想で「技人国」在留資格を取り扱っていました。したがって、大卒の留学生を本社等のホワイトカラー労働のジョブに就ける場合に限って「技人国」の在留資格に切り替えて採用することができますが、牛丼を客に出しているお店で給仕接客しているようなブルーカラー労働者であれば駄目です。そういうのは、留学生の資格外活動(アルバイト)であれば可能ですが、「技人国」に雑巾がけをやらしたらアウトなのです。

恐らく吉野家の人事部としては、上記採用説明会というのは日本人学生向けの説明会であって、すなわち大学で勉強してきたことは全部忘れて現場で雑巾がけをしながら勉強しろといういかにも日本的なキャリア管理を大前提にした説明会なので、外国人留学生には不適切だと考えたのでしょう。

それは全くその通り、少なくとも上記2019年告示改正までは全くその通りであるし、今日でも原理原則から言えばやはりその通りなのです。では外国人留学生をどういう風に採用するかといえば、こういう日本人学生向けのコースとは別口の、まさに言葉の正確な意味におけるジョブ型の入口をこしらえて、雑巾がけなどとは無縁の、まさに大学で勉強した専門分野の知識を生かせるようなジョブに初めから、そう、ここが大事ですが、始めからそういうジョブに就けるという前提で採用するわけです。

こういう風に説明するとわかってくると思いますが、要するに本件は、吉野家の人事部がその名前等の特徴から外国人留学生だと誤解した民族的マイノリティの日本国籍人を、その応募したメンバーシップ型の入口の説明会は不適切であると誤認したために起こった事件であるわけです。

残念ながらマスメディアも含めて、とりわけ知ったかぶりして毎日のようにジョブ型がどうたらこうたら書いているマスメディアも含めて、こういう本件の雇用システム的背景事情をきちんと解説している記事を一つも見つけることができませんでした。

 

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コメント

私は(吉野家に対して)もっと意地悪な見方をしまして

 メンバーシップ型の慣行を強化するために、
 ジョブ型の建前を利用していた

と考えたのですけれどもね。「別の入り口」が、本当に
ちゃんと機能していたのであれば、「私の誤解」という
ことになりそうですけれど、実際のところはどうなのか

一応、吉野家のホームページに、

https://recruit.yoshinoya.com/workstyle/worker.html

2015年から積極的な登用を開始し、現地採用や国内留学生の採用と合わせて、20名以上の外国籍社員が働いています。新たな価値観や発想を吉野家に取り込むことで、社内にさまざまな意識改革をもたらしてくれることを期待しています。

と書かれているので、

日本人向けのこのキャリアパスとは別に、

https://recruit.yoshinoya.com/workstyle/careerpass.html

吉野家に入社した皆さんは、まず店舗に配属され、将来的に店長を目指していきます。

そういう雑巾がけをしない外国人向けのコースを作っているんだと思いますよ。


今週の週刊ダイヤモンドの
第二特集
ステルスリストラに
ジョブ型の解釈がねじれた経緯など
ありますね

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