『日本労働研究雑誌』2022年5月号
『日本労働研究雑誌』2022年5月号は「教育機関における職業能力の形成」が特集で、とりわけ寺田盛紀さんの「職業教育訓練の比較史における日本─職業能力形成における学校と企業」は大変勉強になります。
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/05/index.html
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/05/sum1.html
本稿は,学校と企業における初期職業教育訓練システムの労働者の職業能力形成に対する役割・寄与について,内外の先行諸研究を踏まえ,先発・先進諸国との比較を通してわが国の特質・課題を総説することである。中等学校段階の職業教育訓練システムの形成にとって規定的な影響を与えるのは,各国における前近代以来の徒弟制度の処理の仕方にある。徒弟制度の残存型,その非規制・自由型,撤廃型などがその後の教育訓練の構造を決定した。日本では,学校で基礎を学習し,専門実践訓練は企業が引き受けるというシステムが形成された。他方,1970年代以降,職業教育訓練は次第に中等段階,中等後段階,高等教育段階へと上方展開し,カレッジ型,ポリテクニック型,専門大学型などの国ごとの違いが形成された。先進諸外国の初期職業教育訓練のシステムとの比較でわが国のそれを見ると,学校制度的には極めて分節的であり,職業教育修了の共通の物差し(資格枠組み)が未形成であることが特徴となっている。さらに,中等学校段階だけでなく,高等教育段階の職業教育訓練も,学校と企業との間で特段の連携のない前後分担型である。ジョブ型雇用論や教育訓練の質保証の取り組みが広がる中で,これらの改革をなすことが21世紀の職業教育訓練の課題であろう。
そのほかにもいろいろ興味深い論文は並んでいるんですが、特集外の短いエッセイの一節に、実は一番本質的なことが書かれていたように思われます。
フィールド・アイ デンマークの雇用と大学教育(デンマークから①)足立大輔(オーフス大学助教授)
このエッセイで、足立さんは日本の(文科系の)大学院教育の一般的な認識と異なるデンマークの考え方に触れて驚いています。
・・・まずなんといっても、本学部の学部生の修士への進学率は非常に高い。聞くところによると、本学の教育システムは5年間の学部・修士併合カリキュラムを前提としており、修士を経ずに卒業することは、デンマークでの就職活動上負のシグナルをもたらすようになっているらしい。一方で、日本の大学の学部で経済学を学んだ者にとって、修士進学は若い新卒としての価値を下げる側面もあると捉えられていないだろうか。少なくとも私はこの考え方に影響されていたため、この本学の(あるいはより広くデンマークの/欧州の)ノームには驚かされた。・・・
もちろん、日本でも理科系の場合は、学部卒よりも修士卒の方に就職上のプレミアムがつくことは常識的に知られていますが、こと文科系の場合は、「就職したら全部忘れてこい」と思われている中身を人よりも余計に長い時間をかけて詰め込んできただけの負のプレミアムになることが牢固たる常識となっているので(このエッセイの執筆者たる経済学研究者自身が何よりもそう信じてきたくらいなので)、同じ雑誌の特集に「日本における大学院賃金プレミアム」などというのが堂々と載っているのが何かの皮肉に見えてきたりもします。
« 管賀江留郎『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』 | トップページ | 本日は国際労働者祈念日 »
コメント