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2022年4月

2022年4月29日 (金)

職業安定行政における三者構成原則の出発点

これは、多くの人にとってはいささかトリビアに類する話かもしれませんが、結構重要な問題でもあるので、心覚え的にメモしておきます。

日本における三者構成原則の始まりについては、今までいくつか書いたり喋ったりしてきていますが、大体ILOへの労働者代表問題をめぐるいきさつから労働争議調停法に基づく調停委員会の話につなげることが多かったです。

http://hamachan.on.coocan.jp/rouseishin.html連合労働政策審議会労側委員合宿講演メモ

・・・新生内務省社会局は、労働組合のみを労働者代表の選定に参加させ(組合員1000人当たり1票)、日本労働総同盟会長鈴木文治を代表に選出した。これは、日本政府が少なくとも国際的には労働組合を含む三者構成原則を受け入れたことを意味する。ところが、日本にはまだ労働組合法がなく、三者構成原則の法的基盤が確立されていなかった。内務省社会局の課題は労働組合法の制定であったが、先進的な社会局案が政府部内で骨抜きとなり、議会までいっても若槻内閣時には衆議院で、濱口内閣時には貴族院で審議未了廃案となり、遂に制定に至らなかった。

 もっとも、同時に提出された労働争議調停法は1925年に成立し、日本法として初めて労働争議を犯罪としてではなく、適法な行為として位置づけ、その解決のため三者構成(労使各3人、第三者委員3人の計9人で構成)の調停委員会を設けた。これは常設ではなく争議の都度設けられるもので、しかも非公益事業においては当事者双方の請求がなければ設置されない仕組みであったため、実際にはほとんど設置されず(終戦まで計6件)、圧倒的多数は調停官吏や警察官吏による事実調停により処理された。その意味では、法律上はともかく現実に三者構成原則が労働関係を支配したとは言えない。・・・

これは確かにこの通りなんですが、実は労働政策の別の分野で、三者構成原則(に近いもの)がこれより若干早くできていたんですね。それは、1921年の職業紹介法に基づいて1924年に設置された職業紹介委員会です。

職業紹介法(大正10年4月9日法律第55号)

第8条 職業紹介所ノ事業ノ経営ニ関シ職業紹介委員会ヲ置ク内務大臣之ヲ監督ス

②職業紹介委員会ノ組織職務権限ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

法律上はこれだけですが。この勅令が1924年に制定されています。そこでは、

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2955594

職業紹介委員会官制(大正13年2月20日勅令第20号)

第6条 中央職業紹介委員会ノ委員ハ二十人以内トス内務大臣ノ奏請ニ依リ内閣ニ於テ之ヲ命ス

③委員中ニハ使用者ノ利益ヲ代表シ得ル者及労働者ノ利益ヲ代表シ得ル者ヲ各同数加フルコトヲ要ス

と、まさに労使代表の参加を義務付けています。

で、確かに労働側委員として賀川豊彦、鈴木文治といった名前が載っています。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/977747

ちなみに使用者側は藤山雷太とか武藤山治で、まさに労使とも重量級です。公益には福田徳三、末弘厳太郎という名前もあります。

まあ、職業紹介法というさほど労使がぶつかるテーマではなかったからというのもあるのかもしれませんが、少なくとも公的な労働行政に労使代表が関与するという恒常的な仕組みとしては、本邦第一号なのではないかと思われます。

 

 

 

 

フルシチョフのひ孫娘のプーチン論

ソーシャル・ヨーロッパに、「The origins of Putin’s totalitarianism(プーチンの全体主義の起源)」というエッセイが載っていて、

https://socialeurope.eu/the-origins-of-putins-totalitarianism

In late 1999, as the frail Boris Yeltsin searched for a successor among the ranks of the security services, a bleak joke circulated in Russia. ‘Why are communists better than the KGB?’ went the setup. ‘Because the communists will scold you, but the KGB will hang you.’ It was less a joke than a warning. Unfortunately, most Russians didn’t get it.・・・・

1999年末、弱りきったボリス・エリツィンが治安部門の職員から後継者を探していたころ、寒々とした冗談がロシアを駆け巡った。「なぜ共産主義者はKGBよりましなのか?」こういうわけだ。「なぜなら、共産主義者はお前を叱るけれども、KGBはお前を吊るすからな」これは冗談というよりも警告だった。不幸なことに、多くのロシア人はそれがわからなかった。・・・・

Ninalkhrushcheva115x115 この文章自体もなかなか面白いのですが、何よりも目を惹いたのが著者の名前でした。

Nina L Khrushcheva

ニーナ・フルシチョワ。え?もしかしてあのニキータ・フルシチョフの子孫かな?と思ったら大当たり。

https://en.wikipedia.org/wiki/Nina_L._Khrushcheva

ニキータのひ孫娘に当たる女性のようですね。

実は、今月初めにも同じソーシャル・ヨーロッパに「Putin’s war will destroy Russia(プーチンの戦争はロシアを破壊するだろう)」を書いていたのですね。

https://socialeurope.eu/putins-war-will-destroy-russia

A grim old Soviet joke probably rings far too true to Ukrainians today. A Frenchman says: ‘I take the bus to work, but when I travel around Europe, I use my Peugeot.’ A Russian replies: ‘We, too, have a wonderful system of public transport, but when we go to Europe, we use a tank.’・・・・

ぞっとする古いソビエトの冗談が今日ウクライナ人にはあまりにも真実に響いている。あるフランス人曰く:「私は仕事に行くときはバスを使うけれど、ヨーロッパを旅行するときはプジョーを使うよ」。あるロシア人応えて曰く。「我々もすばらしい公共交通機関を持っているけれども、ヨーロッパに行くときは戦車を使うんだ」

話を必ず寒い冗談から始める方のようですね。

考えてみれば、フルシチョフという人自体、ウクライナ国境に近いロシアの町で生まれ、今まさに戦場となっているウクライナのドネツク地方で育ったいわば露宇両属みたいな人だったわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年4月28日 (木)

本日は国際労働者祈念日

Arton25686419b0 毎年本ブログでは4月28日に、本日は国際労働者祈念日(International Workers’ Memorial Day)だよとお知らせしておりますが、今年もその日がめぐって参りました。例によって、国際労連(ITUC)のホームページから:

https://www.ituc-csi.org/IWMD22-Unions-workplace-health-and-safety?lang=en

As the number of workplace cases of COVID-19 shows, failures in health and safety at work can have catastrophic effects, not only on workers themselves and their families, but also on individual businesses and even whole economies.

 

 

 

 

『日本労働研究雑誌』2022年5月号

742_05 『日本労働研究雑誌』2022年5月号は「教育機関における職業能力の形成」が特集で、とりわけ寺田盛紀さんの「職業教育訓練の比較史における日本─職業能力形成における学校と企業」は大変勉強になります。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/05/index.html

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/05/sum1.html

本稿は,学校と企業における初期職業教育訓練システムの労働者の職業能力形成に対する役割・寄与について,内外の先行諸研究を踏まえ,先発・先進諸国との比較を通してわが国の特質・課題を総説することである。中等学校段階の職業教育訓練システムの形成にとって規定的な影響を与えるのは,各国における前近代以来の徒弟制度の処理の仕方にある。徒弟制度の残存型,その非規制・自由型,撤廃型などがその後の教育訓練の構造を決定した。日本では,学校で基礎を学習し,専門実践訓練は企業が引き受けるというシステムが形成された。他方,1970年代以降,職業教育訓練は次第に中等段階,中等後段階,高等教育段階へと上方展開し,カレッジ型,ポリテクニック型,専門大学型などの国ごとの違いが形成された。先進諸外国の初期職業教育訓練のシステムとの比較でわが国のそれを見ると,学校制度的には極めて分節的であり,職業教育修了の共通の物差し(資格枠組み)が未形成であることが特徴となっている。さらに,中等学校段階だけでなく,高等教育段階の職業教育訓練も,学校と企業との間で特段の連携のない前後分担型である。ジョブ型雇用論や教育訓練の質保証の取り組みが広がる中で,これらの改革をなすことが21世紀の職業教育訓練の課題であろう。

そのほかにもいろいろ興味深い論文は並んでいるんですが、特集外の短いエッセイの一節に、実は一番本質的なことが書かれていたように思われます。

 フィールド・アイ デンマークの雇用と大学教育(デンマークから①)足立大輔(オーフス大学助教授)

このエッセイで、足立さんは日本の(文科系の)大学院教育の一般的な認識と異なるデンマークの考え方に触れて驚いています。

・・・まずなんといっても、本学部の学部生の修士への進学率は非常に高い。聞くところによると、本学の教育システムは5年間の学部・修士併合カリキュラムを前提としており、修士を経ずに卒業することは、デンマークでの就職活動上負のシグナルをもたらすようになっているらしい。一方で、日本の大学の学部で経済学を学んだ者にとって、修士進学は若い新卒としての価値を下げる側面もあると捉えられていないだろうか。少なくとも私はこの考え方に影響されていたため、この本学の(あるいはより広くデンマークの/欧州の)ノームには驚かされた。・・・

もちろん、日本でも理科系の場合は、学部卒よりも修士卒の方に就職上のプレミアムがつくことは常識的に知られていますが、こと文科系の場合は、「就職したら全部忘れてこい」と思われている中身を人よりも余計に長い時間をかけて詰め込んできただけの負のプレミアムになることが牢固たる常識となっているので(このエッセイの執筆者たる経済学研究者自身が何よりもそう信じてきたくらいなので)、同じ雑誌の特集に「日本における大学院賃金プレミアム」などというのが堂々と載っているのが何かの皮肉に見えてきたりもします。

 

 

 

 

 

 

管賀江留郎『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』

51foqcb6ris 『労働新聞』に月1回で担当している【本棚を探索】ですが、今回は管賀江留郎『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』(早川ノンフィクション文庫)です。

https://www.rodo.co.jp/column/126089/

 文庫本ながら700頁近い分量というだけでなく、その中身も「怪著」の名に値する。元は「いくつかの出版社を渡り歩き、紆余曲折のうえに」2016年に洋泉社から刊行された書籍で、21年に早川書房から文庫化された。原著ではいま副題になっている「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」がメインタイトルだったが、本書の中での該当部分は第13章の90頁ほどに過ぎない。そこまでの500頁余りは、戦前の浜松事件、戦後の二俣事件を中心に、「拷問王」と呼ばれた怪物刑事紅林麻雄と彼を取り巻く人々のさまざまな姿を、膨大な資料を渉猟して描き出した迫真のルポ…と言いたいところだが、そんな凡百の枠組みに収まる本ではない。

 発端は、紅林刑事の拷問を告発したために偽証罪で逮捕されて警察を辞職し、その後苦難の人生を送った同僚の山崎兵八刑事が死の直前に書き残した稀覯本『現場刑事の告発 二俣事件の真相』との出会いなのだが、そこから話は次から次に展開する。まずは紅林が戦後に大活躍する根拠となった戦前の浜松事件において、検事総長から捜査功労賞を受けた紅林は実はほとんど真相解明に貢献していなかったことを明らかにし、ではなぜ表彰されたのかという疑問を解くために、当時の司法警察をめぐる内務省と司法省の隠微な対立関係を暴く。組織の論理がいかに政策を歪めるかは筆者もいくつかの事例で知ってはいるが、このあたりの叙述は生々しい。

 その内務省が解体され、GHQの指令で自治体警察と国家地方警察に分かれたことが紅林の関与したような冤罪事件を生み出す原因だったという世に流布した伝説を、著者は一つひとつ事実を挙げて否定する。さらに、最高裁で二俣事件の被告少年に逆転無罪判決を勝ちとった清瀬一郎弁護士が、東京裁判で東条英機の弁護人となり、この裁判とほぼ同時期に衆議院議長として改定日米安保条約を可決成立させたという(なまじ人権派が無視したがる)事実の指摘、名声をほしいままにしていた東大医学部の法医学者古畑種基博士が冤罪を増幅させた所以、本件で逆転無罪判決を下した最高裁判事たちの苦難の経歴が結果的に誤判を見抜く訓練を施していたとの皮肉、等々、読者をジェットコースターに乗せて振り回すかのように次から次に繰り出される一見話の本筋からかけ離れたようなさまざまなトピックが、最後に「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」という理論構成に見事に収斂されていく…と言いたいところだが、いや著者の意図は間違いなくそうなのだが、散々微に入り細を穿つ事実の集積に振り回された読者の側は、そう簡単に頭が元に戻らない。

 冒頭本書を「怪著」と評した所以だが、余りにも凄すぎる真実探求の手際の印象が強すぎて、著者が伝えたかったであろうアダム・スミス『道徳感情論』の真の意義だの、その進化心理学的意味だの、認知バイアスを克服する仕組みとしての民主政治といった、通常の本であればそれが最重要論点となるような部分がなんだかえらく「普通」にみえてしまうのだ。前回(関連記事=【本棚を探索】第13回『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』マックス・テグマーク 著/濱口 桂一郎)に引き続き、読後ふと我に返って、頭を左右に振りながら、なんだか変な夢を見ていたようだ、とぼそっとつぶやく。

(追記)

著者ご本人から、次のような言葉をいただきました。

https://twitter.com/kangaeru2001/status/1521487676746399744



濱口桂一郎氏のこの書評は、『冤罪と人類』をじつによく読み込んでいただいていて、ありがたいです。

 

 

 

2022年4月27日 (水)

外国人労働者173万人@『労務事情』2022年5月1日号

B20220501 『労務事情』2022年5月1日号に、連載「数字から読む日本の雇用」の第2回として、「外国人労働者173万人」を寄稿しました。

 2007年の改正雇用対策法(現在の労働施策総合推進法)により、事業主には新たに外国人を雇い入れたりその雇用する外国人が離職した場合の届出義務が課されました。それ以来毎年1月に、厚生労働省は前年10月末現在における「外国人雇用状況」の届出状況を公表してきています。今年も1月28日に、2021年10月末現在の状況がとりまとめられていますが、それによると・・・・・

 

 

2022年4月25日 (月)

『新・EUの労働法政策』が遂に刊行

Eulabourlaw2022 『新・EUの労働法政策』が遂に刊行されました。『日本の労働法政策』まではいきませんが、892頁という分厚さになっています。5年前の『EUの労働法政策』には「字が小さすぎて読めんぞ!」というお叱りの言葉をたくさんいただいたので、今回はどんなに分厚くなっても良いからとにかく字を大きく読みやすくすることを第一義に心がけました。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/eu-labour-law.html

 本書は、2017年1月に刊行した『EUの労働法政策』の5年ぶりの全面改訂版である。同書自体が、1998年7月に刊行した『EU労働法の形成』(日本労働研究機構)、2005年9月に刊行した『EU労働法形成過程の分析』(東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター)の全面改訂版であったので、最初の版から数えるとほぼ四半世紀になる。
 ただ、2000年代後半から2010年代前半の時期は、新自由主義的なバローゾ欧州委員長の下でEU労働社会政策が沈滞していたため、前回版はめぼしい新規立法にいささか乏しいきらいがあった。ところが2010年代後半に入ると、ユンケル前欧州委員長が「欧州社会権基軸」を掲げて新たな労働立法が動き始め、2019年には公正で透明な労働条件指令やワークライフバランス指令が成立、さらに2020年代に入るとフォン・デア・ライエン現欧州委員長の下で、最低賃金指令案、賃金透明性指令案、プラットフォーム労働指令案など、新規立法が続々と提案されてきている。また狭義の労働政策の外側においても、個人データ保護、公益通報者保護、人工知能、デューディリジェンスなど、労働法に深く関わる政策立法の動きが加速化しており、EU労働法政策は再び注目の的となりつつある。そこで、2021年までの動きを現段階でとりまとめて前回版に大幅に増補し、今日のEU労働法の姿を紹介することとした。
 本書が、EU労働法やEU加盟諸国の労働法に関心を持つ人々によって活用されることができれば、これに過ぎる喜びはない。
というわけで、諸外国とりわけ欧州の労働法に関心を持つ方々にはいろいろと役に立つ情報が入っているはずです。

第1章 EU労働法の枠組みの発展
 第1節 ローマ条約における社会政策
  1 一般的社会規定
  2 ローマ条約における労働法関連規定
   (1) 男女同一賃金規定
   (2) 労働時間
  3 その他の社会政策規定
   (1) 欧州社会基金
   (2) 職業訓練
 第2節 1970年代の社会行動計画と労働立法
  1 準備期
  2 社会行動計画指針
  3 社会行動計画
  4 1970年代の労働立法
  5 1980年代前半の労働立法
 第3節 単一欧州議定書と社会憲章
  1 単一欧州議定書
   (1) 域内市場の確立のための措置
   (2) 労働環境のための措置
   (3) 欧州労使対話に関する規定
   (4) 労使対話の試みとその限界
  2 1980年代後半の労働立法
  3 社会憲章
   (1) 域内市場の社会的側面
   (2) 社会憲章の採択に向けて
   (3) EC社会憲章
  4 社会憲章実施行動計画
  5 1990年代初頭の労働立法
   (1) 本来的安全衛生分野の立法
   (2) 安全衛生分野として提案、採択された労働条件分野の立法
   (3) 採択できなかった労働立法
   (4) 採択された労働立法
   (5) 非拘束的な手段
 第4節 マーストリヒト条約付属社会政策協定
  1 マーストリヒト条約への道
   (1) EC委員会の提案
   (2) ルクセンブルク議長国のノン・ペーパー
   (3) ルクセンブルク議長国の条約案
   (4) 欧州経団連の方向転換と労使の合意
   (5) オランダ議長国の条約案
  2 マーストリヒト欧州理事会と社会政策議定書、社会政策協定
   (1) 社会政策議定書
   (2) 社会政策協定
   (3) 対象事項
   (4) 労使団体による指令の実施
   (5) EUレベル労働協約とその実施
   (6) その他
   (7) 附属宣言
  3 社会政策協定の実施
   (1) 労使団体の提案
   (2) 社会政策協定の適用に関するコミュニケーション
   (3) 欧州議会の要求
  4 1990年代中葉から後半の労働立法
   (1) マーストリヒト期の労働立法の概要
   (2) EU労働協約立法の問題点
 第5節 1990年代前半期におけるEU社会政策の方向転換
  1 雇用政策の重視と労働市場の柔軟化の強調
   (1) ドロール白書
   (2) ドロール白書以後の雇用政策
  2 社会政策のあり方の再検討
   (1) ヨーロッパ社会政策の選択に関するグリーンペーパー
   (2) ヨーロッパ社会政策白書
  3 中期社会行動計画
 第6節 アムステルダム条約
  1 アムステルダム条約に向けた検討
   (1) 検討グループ
   (2) IGCに向けたEU各機関の意見
   (3) 条約改正政府間会合
  2 アムステルダム条約
   (1) 人権・非差別条項
   (2) 新・社会条項
   (3) 雇用政策条項
 第7節 世紀転換期のEU労働社会政策
  1 社会行動計画(1998-2000)
  2 世紀転換期の労働立法
   (1) ポスト・マーストリヒトの労働立法の特徴
   (2) ポスト・マーストリヒト労働立法の具体例
   (3) 人権・非差別関係立法
   (4) 欧州会社法の成立
 第8節 ニース条約と基本権憲章
  1 ニース条約に向けた検討
   (1) 欧州委員会の提案
   (2) 条約改正政府間会合
  2 ニース条約
   (1) 人権非差別条項
   (2) 社会条項
  3 EU基本権憲章に向けた動き
   (1) 賢人委員会報告
   (2) EU基本権憲章を目指して
   (3) EU基本権憲章
 第9節 2000年代前半のEU労働社会政策
  1 社会政策アジェンダ
   (1) 社会政策アジェンダ(2000-2005)
   (2) 社会政策アジェンダ中期見直し
  2 2000年代前半の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) 自律協約の問題点
   (3) 人権・非差別関係立法
 第10節 EU憲法条約の失敗とリスボン条約
  1 EU憲法条約に向けた検討
   (1) 社会的ヨーロッパ作業部会
   (2) コンヴェンションの憲法条約草案とEU憲法の採択
  2 EU憲法条約の内容
   (1) 基本的規定
   (2) 基本権憲章
   (3) EUの政策と機能
  3 EU憲法条約の蹉跌とリスボン条約
   (1) EU憲法条約の蹉跌
   (2) リスボン条約とその社会政策条項
 第11節 2000年代後半のEU労働社会政策
  1 新社会政策アジェンダ
   (1) 社会政策アジェンダ
   (2) 刷新社会政策アジェンダ
  2 フレクシキュリティ
   (1) フレクシキュリティの登場
   (2) フレクシキュリティのパラドックス
   (3) フレクシキュリティの共通原則とその後
  3 労働法の現代化
   (1) グリーンペーパーに至る労働法検討の経緯
   (2) グリーンパーパー発出をめぐる場外乱闘
   (3) グリーンペーパーの内容
   (4) その後の動き
  4 2000年代後半の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) 人権・非差別関係立法
 第12節 2010年代前半のEU労働社会政策(の衰退)
  1 欧州2020戦略
   (1) 新たな技能と仕事へのアジェンダ
   (2) 欧州反貧困プラットフォーム
  2 「失敗した理念の勝利」
  3 2010年代前半の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) ラヴァル事件判決等がもたらした労働法課題
第13節 欧州社会権基軸とEU労働社会政策の復活
  1 欧州社会権基軸
   (1) 欧州社会権基軸の提唱
   (2) 欧州議会の意見
   (3) 欧州委員会勧告から三者宣言へ
   (4) 強いソーシャル・ヨーロッパ
   (5) 欧州社会権基軸行動計画
  2 2010年代後半の労働立法
   (1) 労使団体への協議と立法
   (2) 人権・非差別関係立法
   (3) その他の労働に関係を有する立法
 第14節 EU労働立法プロセスの問題
  1 労使団体への協議と立法
   (1) 自律協約への疑念
   (2) 自律的交渉による協約の締結
   (3) 協約の指令化をめぐる問題
   (4) 規制緩和政策と労働協約立法への否定的姿勢
  2 一般協議の拡大
 
第2章 労使関係法政策
 第1節 欧州会社法等
  1 欧州会社法
   (1) 欧州会社法規則第1次案原案
   (2) 欧州会社法規則第1次案原案への欧州議会修正意見
   (3) 欧州会社法規則第1次案修正案
   (4) 議論の中断と再開
   (5) 欧州会社法第2次案原案(規則案と指令案)
   (6) 欧州会社法第2次案修正案(規則案と指令案)
   (7) 欧州会社法案の隘路突破の試み
   (8) 欧州会社法案に関するダヴィニオン報告書
   (9) 合意まであと一歩
   (10) 一歩手前で足踏み
   (11) 欧州会社法の誕生
   (12) 欧州会社法規則と被用者関与指令の概要
   (13) 欧州会社法被用者関与指令の見直し
  2 他の欧州レベル企業法制における被用者関与
   (1) 欧州協同組合法
   (2) 欧州有限会社法案
 第2節 会社法の接近
  1 会社法第5指令案
   (1) 会社法の接近
   (2) 会社法第5指令案原案
   (3) EC委員会のグリーンペーパー
   (4) EC委員会の作業文書
   (5) 欧州議会の修正意見
   (6) 会社法第5指令案修正案
   (7) 撤回
  2 会社法第3指令
   (1) 会社法第3指令案
   (2) 会社法第3指令
  3 会社法関係の諸問題
   (1) 国境を越えた会社の転換・合併・分割
 第3節 労働者への情報提供・協議
  1 フレデリング指令案
   (1) 多国籍企業問題への接近
   (2) フレデリング指令案原案
   (3) 原案提出後の推移
   (4) フレデリング指令案修正案
   (5) 修正案提出後の推移
   (6) アドホックワーキンググループの「新たなアプローチ」
   (7) その後の経緯
  2 欧州労使協議会指令
   (1) 議論の再開
   (2) 欧州労使協議会指令案原案
   (3) 欧州労使協議会指令案修正案とその後の推移
   (4) ベルギー修正案
   (5) 欧州労使団体への第1次協議
   (6) 欧州労使団体への第2次協議
   (7) 欧州委員会の指令案
   (8) 欧州労使協議会指令の概要
   (9) 国内法への転換に関するワーキングパーティ
   (10) 先行設立企業の続出
   (11) イギリスのオプトアウトの空洞化
   (12) ルノー社事件
   (13) 指令の見直しへの動き
   (14) 欧州労使協議会指令の改正
  3 一般労使協議指令
   (1) 中期社会行動計画
   (2) 労働者への情報提供及び協議に関するコミュニケーション
   (3) 一般労使協議制に関する第1次協議
   (4) 一般労使協議制に関する第2次協議
   (5) 欧州経団連の逡巡と交渉拒否
   (6) 指令案の提案
   (7) 理事会での議論開始
   (8) 一般労使協議指令の概要
   (9) 一般労使協議指令のインパクト
  4 公的部門の情報提供・協議
   (1) 情報提供・協議関係諸指令の統合
   (2) 中央政府行政協約
  5 労働者参加への提起
   (1) 新たな枠組みへの欧州労連提案
   (2) 欧州議会の提起
 第4節 集団的労使関係システムの問題
  1 欧州レベルの労使紛争解決のための斡旋、調停、仲裁の自発的メカニズム
  2 EUレベルの労働基本権規定の試み
   (1) EUにおける経済的自由と労働基本権
   (2) 問題が生じた法的枠組み
   (3) 4つの欧州司法裁判所判決
   (4) 判決への反応
   (5) 団体行動権に関する規則案
   (6) 規則案に対する反応とその撤回
  3 EU競争法と自営業者の団体交渉権
   (1) EU競争法と労働組合
   (2) FNV事件欧州司法裁判決
   (3) 端緒的影響評価
   (4) 一人自営業者労働協約ガイドライン案
 第5節 その他の労使関係法政策
  1 多国籍企業協約
   (1) EUレベルの労働協約法制の模索
   (2) 多国籍企業協約立法化への動き
   (3) 専門家グループ報告書
   (4) 非公式の「協議」
   (5) 労使団体の反応
   (6) 欧州労連の立法提案
  2 被用者の財務参加
 
第3章 労働条件法政策
 第1節 リストラ関連法制
  1 集団整理解雇指令
   (1) ECにおける解雇法制への出発点
   (2) EC委員会の原案
   (3) 旧集団整理解雇指令
   (4) 1991年改正案とその修正案
   (5) 1992年改正
  2 企業譲渡における被用者保護指令
   (1) 前史:会社法第3指令案
   (2) EC委員会の原案
   (3) 旧企業譲渡指令
   (4) 欧州委員会の1994年改正案
   (5) 1997年の修正案
   (6) 1998年改正指令
   (7) 国境を越えた企業譲渡
  3 企業倒産における被用者保護指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 1980年指令
   (3) 2001年の改正案
   (4) 2002年改正指令
 第2節 安全衛生法制
  1 初期指令
  2 危険物質指令群
   (1) 危険物質基本指令
   (2) 危険物質基本指令に基づく個別指令
  3 単一欧州議定書による条約旧第118a条
  4 安全衛生枠組み指令
   (1) 使用者の義務
   (2) 労働者の義務
  5 枠組み指令に基づく個別指令
  6 安全衛生分野における協約立法
   (1) 注射針事故の防止協約指令
   (2) 理美容部門における安全衛生協約
   (3) 筋骨格障害
  7 自営労働者の安全衛生の保護の問題
  8 欧州職業病一覧表
  9 職場の喫煙
  10 職場のストレス
   (1) EU安全衛生戦略
   (2) 職場のストレスに関する労使への協議
   (3) 職場のストレスに関する自発的労働協約の締結
  11 職場の暴力とハラスメント
   (1) 欧州生活労働条件改善財団の調査結果
   (2) 欧州議会の決議
   (3) 労働安全衛生諮問委員会の意見
   (4) 欧州委員会の新安全衛生戦略
   (5) 職場のいじめ・暴力に関する自律労働協約
   (6) 職場における第三者による暴力とハラスメントに取り組むガイドライン
   (7) 学校における第三者暴力・ハラスメント
 第3節 労働時間法制
  1 労働時間指令以前
   (1) ローマ条約上の規定
   (2) 週40時間労働及び4週間の年次有給休暇の原則に関する理事会勧告
   (3) ワークシェアリング
   (4) 労働時間の適応に関する決議
   (5) 労働時間の短縮と再編に関するメモランダム
   (6) 労働時間の短縮と再編に関する理事会勧告案
  2 労働時間指令の形成
   (1) 社会憲章と行動計画
   (2) 労使団体への協議文書
   (3) EC委員会の原案
   (4) 欧州経団連の批判
   (5) 経済社会評議会と欧州議会の意見
   (6) 第1次修正案
   (7) 理事会の審議(1991年)
   (8) 理事会の審議(1992年)
   (9) 共通の立場から採択へ
   (10) 旧労働時間指令
   (11) イギリス向けの特例規定
   (12) イギリスの対応
   (13) 欧州司法裁判所の判決
   (14) 判決の効果とイギリスへの影響
  3 適用除外業種の見直し
   (1) 適用除外業種の見直しに関するホワイトペーパー
   (2) 第2次協議
   (3) 業種ごとの協約締結の動き
   (4) 欧州委員会の指令改正案
   (5) 改正労働時間指令
   (6) 道路運送労働時間指令
   (7) 船員労働時間協約指令
   (8) EU寄港船船員指令
   (9) 民間航空業労働時間協約指令
  4 難航する労働時間指令の本格的改正
   (1) 欧州委員会の第1次協議
   (2) 欧州委員会の第2次協議
   (3) 労働時間指令案の提案
   (4) 欧州議会の意見
   (5) 欧州委員会の修正案
   (6) 理事会における議論
   (7) 閣僚理事会の共通の立場
   (8) 欧州議会の第二読意見と決裂
   (9) 再度の労使団体への協議、交渉、決裂
   (10) 労働時間指令に関する一般協議
  5 その後の業種ごとの労働時間指令
   (1) 道路運送労働時間指令の改正案
   (2) 多国間鉄道労働時間指令
   (3) 内水運輸労働時間指令
   (4) ILO海上労働条約協約指令
   (5) 海上労働の社会的規制枠組みの見直し
   (7) ILO漁業条約協約指令
  6 自動車運転手の運転時間規則
  7 年少労働者指令
   (1) 指令案の提案
   (2) 理事会での検討
   (3) 指令の内容
 第4節 非典型労働者に関する法制
  1 1980年代前半の法政策
   (1) テンポラリー労働、パートタイム労働に関する考え方の提示
   (2) 自発的パートタイム労働に関する指令案
   (3) テンポラリー労働に関する指令案
   (4) 理事会等における経緯
   (5) 派遣・有期労働指令案修正案
  2 1990年代前半の法政策
   (1) 社会憲章と行動計画
   (2) 特定の雇用関係に関する3指令案
   (3) 労働条件との関連における特定の雇用関係に関する理事会指令案
   (4) 競争の歪みとの関連における特定の雇用関係に関する指令案
   (5) 有期・派遣労働者の安全衛生改善促進措置を補完する指令案
   (6) 修正案
   (7) 理事会での経緯
   (8) 有期・派遣労働者の安全衛生指令
  3 パートタイム労働指令の成立
   (1) 欧州労使団体への第1次協議
   (2) 欧州労使団体への第2次協議
   (3) パートタイム労働協約の締結
   (4) 協約締結後の推移
  4 有期労働指令の成立
   (1) 有期労働に係る労使交渉
   (2) 有期労働協約の内容
   (3) 欧州委員会による指令案
   (4) 指令の採択
  5 派遣労働指令の成立
   (1) 派遣労働に関する交渉の開始と蹉跌
   (2) 幕間劇-欧州人材派遣協会とUNI欧州の共同宣言
   (3) 提案直前のリーク劇と指令案の提案
   (4) 欧州委員会の派遣労働指令案
   (5) 労使の反応と欧州議会の修正意見
   (6) 理事会におけるデッドロック
   (7) フレクシキュリティのモデルとしての派遣労働
   (8) ついに合意へ
   (9) 指令の内容
  6 テレワークに関する労働協約
   (1) 労働組織の現代化へのアプローチ
   (2) 情報社会の社会政策へのアプローチ
   (3) 雇用関係の現代化に関する労使団体への第1次協議
   (4) 労使団体の反応とテレワークに関する労使団体への第2次協議
   (5) 産業別レベルのテレワーク協約の締結
   (6) EUテレワーク協約の締結
   (7) EUレベル労働協約の法的性格
   (8) EUテレワーク協約の実施状況
   (9) 2020年のデジタル化自律協約
   (10) 欧州議会による「つながらない権利」の指令案勧告
  7 透明で予見可能な労働条件指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 書面通知指令の内容
   (3) 新たな就業形態へのアプローチ
   (4) 欧州社会権基軸
   (5) 一般協議
   (6) 労使団体への第1次協議
   (7) 労使団体への第2次協議
   (8) 透明で予見可能な労働条件指令案
   (9) 透明で予見可能な労働条件指令
  8 プラットフォーム労働指令案
   (1) 雇用関係の現代化に関する第1次協議
   (2) 労働法現代化グリーンペーパー
   (3) 新たな就業形態へのアプローチ
   (4) 欧州社会権基軸
   (5) リサク氏のプラットフォーム労働指令案
   (6) 労使団体への第1次協議
   (7) 労使団体への第2次協議
   (8) 労使団体の反応
   (9) 欧州議会の決議等
   (10) プラットフォーム労働指令案
 第5節 その他の労働条件法制
  1 海外送出労働者の労働条件指令
   (1) 指令案の提案
   (2) 理事会における経緯
   (3) 指令の内容
   (4) 海外送出指令実施指令
   (5) 発注者の連帯責任
   (6) 海外送出指令改正案
   (7) 改正海外送出指令の成立
   (8) 改正海外送出指令の内容
  2 最低賃金指令
   (1) 公正賃金に関する意見
   (2) 経済政策における賃金介入
   (3) 労使団体への第1次協議
   (4) 労使団体への第2次協議
   (5) 最低賃金指令案
   (6) 最低賃金指令の採択へ
 
第4章 労働人権法政策
 第1節 男女雇用均等法制
  1 男女同一賃金
   (1) ローマ条約の男女同一賃金規定
   (2) 男女同一賃金指令
   (3) 男女同一賃金行動規範
  2 男女均等待遇指令の制定
   (1) EC委員会の原案
   (2) 男女均等待遇指令
  3 社会保障における男女均等待遇
   (1) 公的社会保障における男女均等待遇指令
   (2) 職域社会保障制度における男女均等待遇指令
   (3)公的・職域社会保障制度における男女均等待遇指令案
   (4) 欧州司法裁判所の判決とその影響
  4 自営業男女均等待遇指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 自営業男女均等待遇指令
   (3) 2010年改正指令
  5 性差別事件における挙証責任指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) 欧州司法裁判所の判決
   (3) 欧州労使団体への協議
   (4) 欧州委員会の新指令案と理事会の審議
   (5) 性差別事件における挙証責任指令
  6 ポジティブ・アクション
   (1) ポジティブ・アクションの促進に関する勧告
   (2) カランケ判決の衝撃
   (3) 男女均等待遇指令の改正案
   (4) ローマ条約における規定
   (5) マルシャル判決
  7 セクシュアルハラスメント
   (1) 理事会決議までの前史
   (2) 理事会決議
   (3) EC委員会勧告と行為規範
   (4) 労使団体への協議
   (5) 1998年の報告書
   (6) 男女均等待遇指令改正案
  8 男女均等待遇指令の2002年改正
   (1) ローマ条約の改正
   (2) 欧州委員会の改正案原案
   (3) 理事会における議論
   (4) 欧州議会の第1読修正意見
   (5) 欧州委員会の改正案修正案と理事会の共通の立場
   (6) 欧州議会の第2読修正意見と理事会との調停
   (7) 2002年改正の内容
  9 男女機会均等・均等待遇総合指令
   (1) 男女均等分野諸指令の簡素化
   (2) 男女機会均等・均等待遇総合指令案
   (3) 労使団体等の意見
   (4) 欧州議会の意見と理事会の採択
  10 賃金透明性指令
   (1) 欧州委員会勧告
   (2) 賃金透明性指令案
   (3) 賃金透明性指令の採択へ
 第2節 その他の女性関係法制
  1 母性保護指令
   (1) EC委員会の原案
   (2) EC委員会の修正案
   (3) 理事会での検討
   (4) 母性保護指令
   (5) 母性保護指令の改正案とその撤回
  2 ワークライフバランス指令
   (1) 1983年の育児休業指令案
   (2) 理事会におけるデッドロック
   (3) 労使団体への協議
   (4) 欧州レベルの労使交渉
   (5) 育児休業協約の内容
   (6) 育児休業指令の成立
   (7) 労使団体への協議と改正育児休業協約
   (8) 2010年改正指令
   (9) ワークライフバランスに関する労使団体への協議
   (10) ワークライフバランス指令案
   (11) ワークライフバランス指令
  3 雇用・職業以外の分野における男女均等待遇指令
   (1) EC条約及び基本権憲章における男女均等関係規定
   (2) 指令案の予告
   (3) 男女機会均等諮問委員会のインプット
   (4) 指令案の遅滞
   (5) 指令案の提案
   (6) 理事会での審議
   (7) 採択に至る過程
 第3節 性別以外の均等法制
  1 特定の人々に対する雇用政策
   (1) 障害者雇用政策
   (2) 高齢者雇用政策
  2 一般雇用均等指令
   (1) EU社会政策思想の転換
   (2) 一般雇用均等指令案
   (3) 使用者団体の意見
   (4) 理事会における議論
   (5) 採択に至る過程
   (6) 一般雇用均等指令の内容
  3 人種・民族均等指令
   (1) 人種・民族均等指令案
   (2) 理事会における議論
   (3) 採択に至る過程
   (4) 人種・民族均等指令の内容
  4 雇用・職業以外の分野における一般均等指令案
   (1) 雇用・職業以外の分野における一般均等指令案
 
第5章 その他の労働関連法政策
 第1節 教育訓練法政策
  1 トレーニーシップ勧告
   (1) トレーニーシップに関する一般協議と労使への協議
   (2) トレーニーシップ上質枠組勧告
  2 アプレンティスシップ勧告
  3 ノンフォーマル・インフォーマル学習の認定勧告
  4 個人別学習口座勧告案
  5 ミクロ学習証明書勧告案
 第2節 労働市場法政策
  1 非申告労働
  2 不法滞在第三国民の使用者制裁指令
 第3節 社会保障法政策
  1 最低所得保障
   (1) 社会保護に係る2勧告
   (2) 労働市場排除者の統合
   (3) 最低所得をめぐる近年の動向
  2 補完的社会保障
   (1) 補完的年金権のポータビリティに関する協議
   (2) 補完的年金権指令案と採択された指令
  3 あらゆる就業形態の人々の社会保護アクセス
   (1) 労使団体への第1次協議
   (2) 労使団体への第2次協議
   (3) 労働者と自営業者の社会保護へのアクセスに関する理事会勧告案
   (4) 労働者と自営業者の社会保護へのアクセスに関する理事会勧告
第4節 労働条件に関連する諸法政策
  1 労働者の個人情報保護
   (1) 旧個人データ保護指令
   (2) 労働者の個人情報保護に関する検討
   (3) 労使団体への第1次協議
   (4) 労使団体への第2次協議
   (5) 第29条作業部会の諸意見
   (6) 一般データ保護規則案
   (7) 欧州議会の意見
   (8) 一般データ保護規則
   (9) 第29条作業部会の2017年意見
  2 公益通報者保護指令
  3 オンライン仲介サービス規則
   (1) オンラインプラットフォームとデジタル単一市場
   (2) オンライン仲介サービス規則
  4 人工知能規則案
   (1) 人工知能(AI)に関する政策の展開
   (2) 人工知能規則案
   (3) 労使団体の反応
  5 デューディリジェンス指令案

「日本型雇用の課題とこれからの雇用社会 ~昭和的働き方から脱却せよ」イベントレポート

101 昨年11月29日に開催された「日本型雇用の課題とこれからの雇用社会 ~昭和的働き方から脱却せよ」(新日本法規財団主催)のイベントレポートが、倉重公太朗さんのヤフー個人ニュースに一挙掲載されました。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20220425-00292938

102 わたくしはこの①で毎度おなじみ「ジョブ型雇用の誤解とメンバーシップ型雇用の矛盾」を喋っておりますが、

103 ②は倉重さん、③は白石紘一弁護士です。

最後の④のパネルディスカッションでもいろいろと喋っております。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20220425-00292950

 

 

ギグワーカーには日雇雇用保険?@『労基旬報』2022年4月25日号

『労基旬報』2022年4月25日号に「ギグワーカーには日雇雇用保険?」を寄稿しました。

 去る3月末に成立した雇用保険法の改正により、事業を開始した受給資格者等に係る受給期間の特例という仕組みが新たに設けられました。
(支給の期間の特例)
第20条の2 受給資格者であつて、基準日後に事業(その実施期間が三十日未満のものその他厚生労働省令で定めるものを除く。)を開始したものその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める者が、厚生労働省令で定めるところにより公共職業安定所長にその旨を申し出た場合には、当該事業の実施期間(当該実施期間の日数が四年から前条第一項及び第二項の規定により算定される期間の日数を除いた日数を超える場合における当該超える日数を除く。)は、同条第一項及び第二項の規定による期間に算入しない。
 これは、一旦雇用保険の受給資格を得た後のちに自ら事業を開始し、すなわち労働者ではなくなった者が、その事業を廃業して失業者となった場合を対象とするものであり、その意味ではフリーランスに対する(局部的な)失業給付という性格を有しています。
 フリーランスへの失業給付という発想は、近年ヨーロッパで盛んに議論されており、隣の韓国でも全国民雇用保険という形で制度化が進んでいます。しかし、雇用労働者を前提に制度設計されてきた雇用保険をフリーランスに適用拡大するには、いくつも越えなければならないハードルが待ち構えています。最も重大なのはいうまでもなく、雇用であれば解雇や退職といった形で明確に確定できる就業状態と失業状態の線引きが、フリーランスの場合には曖昧なものになってしまうという点です。「最近めっきり注文が来なくなった」のをどの程度で失業と認定するかというのはなかなか難しいところでしょう。
 ただ、焦点を近年注目を集めているプラットフォームを利用するタイプのいわゆるギグワーカーに絞れば、雇用形態としての日雇労働者と同様に、その日に仕事にありつけたか、それともあぶれたかという形で、線引きすることはある程度可能ではないかとも思われます。もともと、日雇労働者という存在自体、ある程度の期間継続的に雇用され就労することを前提とする雇用保険制度の枠組みには乗りにくいのですが、そこを工夫して日雇雇用保険制度という仕組みを運用していることを考えれば、客観的には似たような働き方をしているギグワーカーにも、日雇雇用保険制度を類推的に適用することも可能ではないでしょうか。
 とはいえ、そもそも日雇雇用保険制度というのはどういうものであるのかを理解している人はほとんどいないのではないかと思われます。この制度は終戦直後の1949年の失業保険法改正で日雇失業保険制度として導入されたものですが、今日に至るまでその基本構造はほとんど変わっていません。日雇労働者への失業保険の適用は法制定時からの課題でしたが、保険料徴収の仕組みがネックとなっていました。日雇労働者は毎日その雇用される事業主を異にし、支払われる賃金も異なるため、一般被保険者と同じ方法で保険料を徴収し、その受給要件を充たすかどうかを決定することは極めて困難であったからです。そこで、日雇労働者が事業主に雇用されるつど、毎日保険料を納付することができるような方法が必要でした。このために1949年改正で導入されたのが印紙制度(スタンプシステム)です。日雇労働者を雇用する事業主は失業保険印紙を購入し、日雇労働者に賃金を支払うつど、これを日雇労働者が所持する日雇労働被保険者手帳に貼付し、消印をしなければなりません。こうして手帳に貼付された印紙の数が2ヶ月間で26日分以上になると、翌月失業した際に失業保険金が支給されます。
 日雇労働者の失業の認定は毎日公共職業安定所に出頭して行わなければなりませんから、日雇労働被保険者となるには地理的に一定の要件が課されています。それ以外の日雇労働者は適用除外のままです。ただこれは、日雇労働者が実際に特定の地域に日雇労働市場を形成している限りは、あまり問題になる要件ではありませんでした。
 この制度の推移を日雇労働被保険者手帳交付数と受給者実人員で見ていくと次表のようになります。手帳交付数を日雇労働者数と見ると、1950年代には100万人以上いた日雇労働者がどんどん減っていって今や1万人以下になったかのように見えますが、いうまでもなくこれは、地理的に特定の地域に住んでいるタイプの古典的な日雇労働者が高齢化して減少してきたというだけのことであって、2000年代以降問題になったネットを介した日雇派遣や日雇紹介はここに含まれていないからです。実際、就業構造基本調査における日雇労働者数の推移を見ると、1950年代には日雇労働被保険者手帳交付数より少ないくらいですが、その後1970年代以降はむしろ増加さえしており、ほとんどの日雇労働者が日雇雇用保険の網の目から漏れていることが窺われます。
年度 日雇労働被保険者手帳交付数 平均受給者実人員 日雇労働者数(*)
1949           702,040      15,439  
1950          1,132,915      59,787  
1951          1,118,393      82,319  
1952           901,613      96,872  
1953           916,072      79,515  
1954           938,976      101,418  
1955          1,074,920      128,892  
1956          1,154,574      110,372         999,000
1957          1,158,052      121,115  
1958          1,203,706      149,605  
1959          1,216,741      143,407        1,000,000
1960          1,173,471      180,992  
1961          1,086,489      180,636  
1962           972,605      193,691         937,000
1963           876,558      222,082  
1964           456,106      216,322  
1965           423,423      210,318        1,178,000
1966           393,810      208,351  
1967           347,922      200,779  
1968           325,401      197,873         658,000
1969           302,585      187,270  
1970           263,723      177,765  
1971           213,901      153,881         892,000
1972           206,790      136,693  
1973           201,200      139,579  
1974           204,786      136,958         901,000
1975           194,303      138,903  
1976           188,556      131,307  
1977           187,635      128,856        1,470,000
1978           172,520      129,477  
1979           173,603      126,631        1,639,000
1980           166,809      126,214  
1981           156,474      118,023  
1982           150,467      107,457        1,551,000
1983           148,307      106,092  
1984           157,389      109,696  
1985           153,000      113,961  
1986           145,618      102,258  
1987           125,991      86,269        1,414,000
1988           108,141      76,113  
1989           96,956      67,846  
1990           84,793      60,636  
1991           79,803      52,986  
1992           68,801      48,475        1,489,000
1993           63,954      40,712  
1994           60,895      39,265  
1995           55,352      34,352  
1996           52,655      31,949  
1997           51,765      30,796        1,452,000
1998           49,031      28,895  
1999           47,651      27,188  
2000           45,791      27,297  
2001           41,986      25,764  
2002           38,044      23,806        1,570,100
2003           35,482      21,854  
2004           32,193      19,490  
2005           28,755      17,232  
2006           25,351      15,103  
2007           24,592      14,259        1,356,400
2008           24,907      13,566  
2009           23,582      12,001  
2010           21,042      11,203  
2011           20,070      11,324  
2012           19,375      11,478  
2013           18,838      11,309  
2014           18,161      11,062  
2015           17,308      10,555  
2016           15,601       8,804  
2017            8,827       5,966  
2018            7,781       5,521  
2019            7,661       5,464  
2020            7,371       5,260  
*就業構造基本調査における「雇用者」のうち「日雇」
 
 現行雇用保険法の日雇雇用保険制度は、あらかじめ日雇労働者に紙製の手帳を渡しておき、日雇労働者を日々雇用する使用者に印紙を購入させて、仕事をさせる都度その印紙を手帳に貼らせるという仕組みなので、ネットで日々あっせんするような日雇派遣や日雇紹介は制度に乗ることが困難ですし、ましてや最近のギグワーカーには使い物にならないでしょう。しかし、日雇労働被保険者手帳をネット上に作成し、使用者による印紙の貼付も電子化することが可能であるならば、この古ぼけた仕組みに新たな息吹を吹き込むことも可能なのではないでしょうか。 

2022年4月24日 (日)

賃金と賃銀(続き)

おとといのこのエントリについて、もう少しいろいろ考えてみました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/04/post-5805ef.html(賃金と賃銀)

・・・戦前は「賃銀」と書いていたのに、戦後「賃金」と書くようになった、というのは、大河内一男さんの『賃銀』(有斐閣)のまえがきに書かれているので、みんなそう受け取っていますが、労働関係法令では戦前から「賃金」と書いていますね。戦時体制下の賃金統制令しかり。

では、遡っていくといつから「賃銀」が「賃金」になったのかというと、1916年に工場法施行令が制定されたときではないかと考えています。・・・

これは、労働関係法令においていつから「賃金」と書かれるようになったのかという話ですが、そもそもなんで1916年に工場法施行令という勅令にそれまで慣用的に使われていた「賃銀」ではなくて「賃金」という表記が用いられたのか、というと、1896年に制定された民法の表記の影響ではないかと思われます。

民法では、「賃金」(ちんきん)という言葉は、ほぼ専ら賃貸借における賃借人が賃貸人に支払う金銭(現在は「賃料」となっている)という意味で用いられていました。

第六百一条 賃貸借ハ当事者ノ一方カ相手方ニ或物ノ使用及ヒ収益ヲ為サシムルコトヲ約シ相手方カ之ニ其賃金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス

それに対して契約各則の雇傭においては「報酬」と言う用語が用いられ、「賃金」も「賃銀」も使われていません。

ところが、民法の規定全体を見渡すと、前の方に労務の報酬という意味で「賃金」という言葉が登場しているんですね。

第百七十四条 左ニ掲ケタル債権ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
一 月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料
二 労力者及ヒ芸人ノ賃金並ニ其供給シタル物ノ代価 

第三百二十四条 農工業労役ノ先取特権ハ農業ノ労役者ニ付テハ最後ノ一年間工業ノ労役者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ニ付キ其労役ニ因リテ生シタル果実又ハ製作物ノ上ニ存在ス

さてこの第174条の労力者と芸人の「賃金」は、「雇人ノ給料」と並列されているところからすると、雇われている労働者じゃないようにも見えますが、しかし、第324条の農工業の労役者はどう考えても雇用労働者でしょう(今の民法は明確にそうなっています)。

このあたりは民法の歴史に詳しい人の意見を聞かなければならないでしょうが、おそらく民法制定時には、元のフランス法(ひいてはローマ法)の発想がなにがしか残っていて、物の賃貸借の対価も人の労務の賃貸借の対価も同一の概念に属するのだから、同じ「賃金」と呼ぶべきであるという考え方が担保物権のところには残っていたと言うことではないかと想像されます。

そして、民法の条文ではそのように労役者ないし労力者の報酬を「賃金」と表記しているのだから、勅令たる工場法施行令においてもそう表記すべきである、と、内閣法制局に言われて、立法担当者の農商務省商工局は慣用通り「賃銀」という表記で持って行ったのを、「賃金」と直されてこういうことになったのではなかろうか、と想像するわけです。

 

 

ジョブ型の9割は入口以前の話なんだが

15529_2_1 弁護士ドットコムで荻野進介さんが山内麻理さんにインタビューしています。題して「なぜ日本企業は欧米のような「エリート選抜」ができないのか 外資に行ってしまう最優秀層」。問題の本質をズバッと語っているいいインタビュー記事ですね。

https://www.bengo4.com/c_5/n_14392/

 ーー日本の仕組みや制度の旗印が悪くなると、「ヨーロッパでは」「アメリカでは」という通称“出羽の守”が幅を利かせるんです。昨今でいうと、ジョブ型雇用推進者がその典型でしょう。

 なぜ欧米では採用と職務が紐づいており、日本では紐づいていないのか。そうした違いは本日お話したエリート選抜や新卒採用の仕組み、あるいは大学の位置付けなど、すべての事情が複雑に絡み合って生まれてきたものです。
 それを理解せず、日本型がうまくいかなくなったから欧米型を入れよう、真似よう、という姿勢は愚かとしかいいようがありません。メンバーシップをジョブ型に本気で変えようとするならば、歴史的背景含め、日本と欧米あるいは欧州の、教育や雇用システムの違いを理解したうえで、経済界、教育界、労働界、それに政府の代表者が膝をつき合わせ、何をどう変えるのかというコンセンサスをつくっていくしかないでしょう。

00top_hrmics_vol12_20220424111701 この話が懐かしいのは、もう今から10年前に『HRmics』12号のインタビューで似たようなことを喋っていた記憶があるからなんですが。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_12/HTML5/pc.html#/page/20(「ふつうの人」が「エリート」を夢見てしまうシステムの矛盾 )

 エリートの問題についても大きな違いがあります。アメリカではエグゼンプト(exempt)、フランスではカードル(cadres)、ドイツではライテンデ・アンゲシュテルテ(leitende Angestellte)といいますが、残業代も出ない代わりに、難易度の高い仕事を任され、その分もらえる賃金も高い、ごく少数のエリート層が欧米企業には存在します。彼らは入社後に選別されてそうなるのではなく、多くは入社した時からその身分なのです。
 一方、「ふつうの人」は賃金が若い頃は上がりますが、10年程度で打ち止めとなり、そこからは仕事の中身に応じた賃金になります。出世の階段はもちろんありますが、日本より先が見えています。その代わりに、残業もほどほどで、休日は家族と一緒に過ごしたり、趣味に打ち込んだりといったワークライフバランスを重視した働き方が実現しています。
 日本は違います。男性大卒=将来の幹部候補として採用し育成します。10数年は給料の差もわずかしかつきませんし、管理職になるまで、すべての人に残業代が支払われます。誰もが部長や役員まで出世できるわけでもないのに、多く人が将来への希望を抱いて、「課長 島耕作」の主人公のように八面六臂に働き、働かされています。欧米ではごく少数の「エリート」と大多数の「ふつうの人」がいるのに対して、日本は「ふつうのエリート」しかいません。この実体は、ふつうの人に欧米のエリート並みの働きを要請されている、という感じでしょうか。

なんにせよ、ジョブ型という話をするんなら、その話の9割以上は入口以前の話であるということをわきまえていないといけないのに、そういうことをまるっきり抜きにして、みんな「普通のエリート」として新卒一括採用した後の人事処遇制度にいかに差をつけるか如きの話しかしないようないんちきジョブ型論ばかりが世にはびこるので、こういうまっとうな本筋を端的に喋る記事の意味があるわけでしょうが。

 

 

2022年4月23日 (土)

『ジュリスト』次号はプラットフォームワーク特集

有斐閣のサイトに『ジュリスト』6月号の予告がアップされたようですが、これを見ると、次号ではプラットフォームワークが特集されるようですね。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/next

特集 プラットフォームワークと法

特集にあたって/荒木尚志

プラットフォームワーカーに対する 法的保護/荒木尚志

プラットフォームワーカーへの社会保障/笠木映里

プラットフォームワーカーと国際的労働関係――国際民事手続法上の諸論点/井川志郎

プラットフォームワーカー,ギグワーカーと課税/渡辺徹也

民法・特に契約法の観点からみたプラットフォームワーク/鹿野菜穂子

これは見逃せません。

 

2022年4月22日 (金)

賃金と賃銀

熊沢透さんがこう呟いておられて、

https://twitter.com/kumat1968/status/1517155512403775488

「金」の字を「ぎん」と読む例が「賃金」以外にあるかどうか?

片手間にだけど長年探し続けていても、依然として見つからない。

https://twitter.com/kumat1968/status/1517155669593722880

「賃銀」は戦後しばらくして「賃金」と書くようになったけれど、読みは「賃銀」のままだった。この理由については僕も考えがある。それに対して、「路銀」は「路金」と書き換えた場合、読みも「ろきん」になるのだ。

戦前は「賃銀」と書いていたのに、戦後「賃金」と書くようになった、というのは、大河内一男さんの『賃銀』(有斐閣)のまえがきに書かれているので、みんなそう受け取っていますが、労働関係法令では戦前から「賃金」と書いていますね。戦時体制下の賃金統制令しかり。

では、遡っていくといつから「賃銀」が「賃金」になったのかというと、1916年に工場法施行令が制定されたときではないかと考えています。

Photo_20220422145901 というのは、周知の通り工場法は1911年に制定された後なかなか施行できず、ようやく1916年に施行されたわけですが、法制定時に(つまり施行前に)刊行された岡實『工場法論』(有斐閣)の初版では、「賃銀」と書かれているのに、法施行後に刊行された『改訂増補工場法論』では、「賃金」になっているのです。

実は、工場法それ自体には「賃銀/賃金」という言葉は出てきません。その時に出た初版では恐らく世間の普通の書き方に倣って「賃銀」と書かれていたのですね。

1916年勅令第193号の工場法施行令において初めて、

第22条 職工ニ給与スル賃金ハ通貨ヲ以テ毎月一回以上之ヲ支給スヘシ

という規定が設けられました。他の条文や省令にも出てきます。

そうすると、同じ著者の『改訂増補』版では、初版の「賃銀」が「賃金」に書き換えられているのです。

少なくとも法令用語としては、1916年の勅令の規定ぶりが分水嶺になったようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

児美川孝一郎・前川喜平『日本の教育、どうしてこうなった?』

602379 児美川孝一郎・前川喜平『日本の教育、どうしてこうなった?』(大月書店)を、著者の一人である児美川さんからお送りいただきました。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b602379.html

長時間労働に疲れ果てる教師たち。評価や点数競争がはびこり、画一化が進む学校現場。日本の学校・教育は、なぜこうなってしまったのか? 政策の展開をふりかえり、教育の未来を展望する対談。

正直、事務次官までやって教育政策に大きな責任を有していた方にしては、やや人ごとみたいな言い方でないかい、という気がしないでもありませんが、でもぽろりぽろりとこぼれる言葉にはいくつも興味深いことが入っています。

たとえば、例の給特法についても、

前川:私の意見は給特法廃止です。労働基準法をそのまま適用すればよい。

前川:給特法ははっきり言って、説明がつかない法律なんですよ。・・・

いや、そこまで言うなら、文部科学省在任中に言ってよ、と思いますが、でもそれに続く過去の経緯はなかなか興味深いです。全国で超勤訴訟が起こって次次と教育委員会が負けていく中で、

・・・人事院と文部省が、何かしなきゃいけなくなった。

 最初は確か、私の記憶では、時間外勤務に対する手当を出そうとした。時間外勤務手当ではないけれども、時間外の勤務に対して一律の手当を出すという考え方をとった。でも当時は今以上に「教師聖職者論」というのが強くて、自民党で議論した結果、教師は時間内・時間外で分けられない仕事なんだ、24時間365日、教師なんだと。それで勤務時間の内外を問わず、教師という仕事の特殊性から、教職調整額というのを出すことにした。・・・

といういきさつがあったんだそうです。

ちなみに、前川さんは、事務次官を辞めた後はこういうまともなことを言うわけですが、そこまで言うなら(以下同文)

・・・だから給特法は今、公立の高校以下の学校の教師にしか適用されていないわけですよ。教師の特殊性と言うけれど、国立学校、私立学校の教師にはない。公立学校の教師だけの特殊性があるといわないと、説明がつかないんです。・・・

元文部科学事務次官の目にはこれだけ明確に映っていることが、なぜか司法試験を通って論理的思考の訓練を受けているはずの某さいたま地方裁判所の裁判官には映っていないようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-a56f54.html

 本件は社会的にも注目された事案であるが、判決自体としては極めて出来の悪いものと言わざるを得ない。

 まず、Y側の主張をそのまま受け入れている教員の職務の特殊性の部分は論理的に破綻している。教員の職務に指揮命令性の希薄さ、自律的判断の可能性など、一般労働者の職務と比べて特殊性があることは確かである。その特殊性にかんがみて、教員の労働時間規制について特例を設けること自体には一定の合理性があると考えられる。しかしながら、そこで言われている教員の特殊性は、国立学校でも公立学校でも、私立学校でも全く変わりのない職種としての教員の特殊性である。現時点において、労基法37条が適用除外され、給特法が適用されているのは公立学校の教員のみであり、国立学校教員も私立学校教員も労基法の規定がフルに適用されている。彼らには公立学校教員が有する裁量性や自律性がないのであろうか?

 さらに奇妙なことに、1971年に給特法が制定されたときには、国立学校と公立学校の双方に適用されていたが、2004年に国立学校が非公務員型独立行政法人に移行することによって、国立学校教員は給特法の適用から外れ、労基法がフルに適用されるようになった。国立学校教員はそれまで有していた裁量性や自律性を2004年から失ったのであろうか。上記説明は日本政府の文部科学省の主張であるが、自らの足元においてすら矛盾を生じるような無理な説明である。

 ちなみに、本判決は給特法の制定について人事院の勧告に始まる詳細な経緯を述べているが、そもそもなぜ同法が制定されなければならなかったかという一番肝心の点に触れていない。給特法以前には文部省の通達に従い時間外労働を命じないこととされていたが、実際には時間外労働が多く行われていたため、日教組(教員の労働組合)により多くの訴訟が提起され、時間外手当の支給を認める判決が続出し、1972年に最終的に最高裁判所がこれを確認した。この事態に対応すべく立法されたのが給特法であり、労基法37条の適用を除外するということに加えて、時間外労働を原則として4項目に限定するという規定が盛り込まれたのも、こういう経緯を反映している。本判決はこうした立法経緯を全く考慮に入れていない。本判決の理論的部分は、このような矛盾に満ちたY側の主張を漫然と受け入れている点で、極めて水準の低いものと言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

2022年4月21日 (木)

『労働六法2022』

605017 旬報社の労働法令集『労働六法2022』が届きました。こちらも毎年どんどん太る一方で、1231頁まであります。こうなるといささか持ち運びに支障もあるのではないかという気もします。

https://www.junposha.com/book/b605017.html

EU労働法に関しては今回は変更部分はありません。もし今年最低賃金指令が成立に至ったならば次年度版に掲載することになると思います。男女同一賃金に係る賃金透明性指令も成立の可能性が高いですが、こちらはどれくらい需要があるでしょうか。

本体の日本の法令ですが、せっかく刊行を4月末(奥付は5月10日)にしているのに、3月末に成立した職安法等の改正が盛り込まれていないのはやや残念ですね。

ちなみに、上で分厚くなりすぎと言っておいて舌の根も乾かぬ間にこんなことを言うのは二枚舌もいいところですが、下のエントリで話題のILOの強制労働廃止条約は、ようやく昨年日本も批准したところでもあり、掲載してもいいのではないかと思いました(てなことを言い出すと収拾がつかなくなりますが)。

中国がILO強制労働条約を批准すると

Xinjianglabour 中国がILOの強制労働2条約を批准したそうです。

https://www.afpbb.com/articles/-/3401250

【4月20日 AFP】(更新)中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は20日、強制労働を禁じる二つの国際条約の批准を発表した。・・・

 全人代が批准を承認したのは、ILOの「強制労働条約」および「強制労働廃止条約」。ILOのウェブサイトによると、両条約の批准国はすべての種類の強制労働を禁止し、利用しないことが義務付けられている。また、強制労働を「即刻かつ完全に廃止」するための措置を講じることも求められる。

 中国は、新疆ウイグル自治区で強制労働をはじめとする人権侵害が横行しているとして非難を受けている。人権団体は、ウイグル人を含むチュルク系イスラム教徒少なくとも100万人が、同自治区内のいわゆる「再教育施設」に収容されていると推定しているが、中国は強く否定している。(c)AFP

批准するとどういうことになるかというと、毎年のILOの条約勧告適用専門家委員会のチェックを受けることになります。

中国は既にILOの雇用差別条約(111号)を批准しているので、国際労連の訴えに基づき、こういう話になるわけですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/02/post-6d860f.html(ウイグル族の労働環境@ILO条約勧告適用専門家委員会報告)

・・・というわけで、実は中国はILOの差別禁止条約を2006年に批准してるんですね。その頃は批准しても大丈夫だと思っていたのか、その辺はよくわかりませんが、とにかく前政権時に批准しているものだから、本当に守っているのかと、こうしていろいろ突っつかれるネタにもなるわけです。自分で守りますと宣言しているんだから、戦狼よろしく内政干渉だと蹴飛ばすわけにはいかないのですね。

今度は強制労働条約も批准したのだから、ウイグル族の強制労働だとあれこれ言われても戦狼よろしく内政干渉だと蹴飛ばすわけにはいかなくなります。それでも大丈夫だ、WHOも手なずけたんだからILOも似たようなもんだと思っているのかどうかよく分かりませんが、ILOはほかの国際機関と違って、社会主義国家には存在しない政労使三者構成原則で動いているので、そう簡単にいくかどうか分かりません。なんにせよ、国際労働関係で注目すべきポイントの一つでしょう。

 

 

2022年4月19日 (火)

久しぶりに新書らしい新書を読んだ

71cahqvlel_20220419193501 昨年出した『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)はお蔭様でなお岩波新書のトップテンに顔を出し続けているようですが、ネット上でも引き続きいろんな方が評していただいています。

その中で、井上武史さんによる「地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介」というnoteで、いろいろ紹介していただいた最後に、こういうコメントを付け加えていただいたのは、大変嬉しい思いがいたしました。

https://note.com/inotake555/n/n9685d28bcfc9

・・・・最後に、本書を読んで「久しぶりに新書らしい新書を読んだ」と感じました。最近の新書は内容の薄いものが多くなってしまいましたが、「最先端の研究成果を一般の人にも分かりやすく」という新書本来の姿を体現しています。その意味で、「新書とは何か」も学ぶことができたと感じています。新書の元祖とも言える岩波新書だからこそ、出せるものかもしれません。こうした新書が今後もどんどん出てくることを期待したいと思います。

私の本が「新書らしい新書」というのは、本当にありがたい言葉です。

 

無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルールの見直し@WEB労政時報

WEB労政時報に「無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルールの見直し」を寄稿しました。

 去る3月30日、厚生労働省に設けられていた多様化する労働契約のルールに関する検討会(学識者7名、座長:山川隆一氏)は報告書を取りまとめました。この検討会は、ほぼ1年前の2021年3月24日に、有期労働契約の無期転換ルールの見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等について検討を行うことを目的として設けられ、以来13回にわたって議論を行ってきたのです。
 前者(無期転換ルール)は2012年8月の労働契約法(以下、労契法)改正によって導入された制度ですが、その際、附則3項に・・・・

2022年4月18日 (月)

労働組合は利益団体(再三再四の再掲)

K10013587521_2204181703_0418172818_01_02 なんだかまたぞろ、芳野会長が自民党の会合に出席したというニュースをネタに、労働組合を政治団体か思想団体か宗教団体かと取り違えた発想がネット上で拡散されているようですが、あまりのデジャブに、以前のエントリに書いた文章をそっくりそのまま自分でコピペする以外に何とも言いようがない感が半端ない・・・。

どれくらいデジャブかというと、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/01/post-78d128.html(労働組合は利益団体(ほぼ再掲))

 なんだかまたぞろ、岸田首相が連合の新年会に出席したというニュースをネタに、労働組合を政治団体か思想団体か宗教団体かと取り違えた発想がネット上で拡散されているようですが、あまりのデジャブに、以前のエントリに書いた文章をそっくりそのまま自分でコピペする以外に何とも言いようがない感が半端ない・・・。

どれくらいデジャブかというと、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/post-4e73.html(労働組合は利益団体)

なんだかまたぞろ、自民党の幹事長が連合の会長と会談したというニュースをネタに、労働組合を政治団体か思想団体か宗教団体かと取り違えた発想がネット上で拡散されているようですが、あまりのデジャブに、以前のエントリに書いた文章をそっくりそのまま自分でコピペする以外に何とも言いようがない感が半端ない・・・。 

ということで、そのデジャブの元のエントリはこちら:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-07d6.html(首相、連合の次期幹部と会談)

まあ、政治部の記者が政治面に書く記事ですから、どうしても政局がらみの政治家的目線になるのは仕方がないのかも知れませんが、ここはやはり、労働組合とは政治団体でもなければ思想団体でもなく宗教団体でもなく、労働者の利益を最大化し、不利益を最小化することを、ただそれのみを目的とする利益団体であるという、労使関係論の基本の「キ」に立ち返ってもらいたいところです。
労働者の利益のために白猫が役立つのであれば白猫を使うし、白猫が役に立たないのであれば黒猫を使う、というのは、労働組合を政治団体か思想団体と思い込んでいる人にとっては原理的に許しがたいことかも知れませんが、利益団体としての立場からすれば何ら不思議なことではありません。
政権と対決して労働者の利益が増大するのであればそういう行動を取るべきでしょうし、そうでないのであれば別のやり方を取るというのも、利益団体としては当然です。
問題はむしろその先です。
利益団体としての行動の評価は、それによってどれだけ利益を勝ち取ったかによって測られることになります。それだけの覚悟というか、裏返せば自信があるか。
逆に言えば、政権中枢と直接取引してそれだけの利益を勝ち取る自信がないような弱小団体は、下手に飛び込んで恥をかくよりも、外側でわぁわぁと騒いでいるだけの方が得であることも間違いありません。しかしそれは万年野党主義に安住することでもあります。
上の記事は政治部記者目線の記事なので、政治アクターにとっての有利不利という観点だけで書かれていますが、労使関係論的に言えば、労働組合の政治戦略としてのひとつの賭であるという観点が重要でしょう。

まあ、こういうことを百万回繰り返しても、やっぱり労働組合を労働者の利益団体だとはかけらも思わず、政治団体か思想団体か宗教団体かと取り違える人々は尽きることがないようです。

いやもちろん、連合の会長が与党自民党の会合に出るということは、その成果を問われるということでもあるわけです。

 

 

2022年4月17日 (日)

金春喜『「発達障害」とされる外国人の子どもたち』

505172 昨日、上智大学グローバル・コンサーン研究所主催の「シンポジウム 検証・日本の移民政策」に出席して報告+パネリストをしました。それについてはそのうち報告がまとまったらまた取り上げるとして、その場に来られていた金春喜(きん・ちゅに)さんから、『「発達障害」とされる外国人の子どもたち フィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り 』(明石書店)をいただきました。

https://www.akashi.co.jp/book/b505172.html

外国から来日し、日本語もよくわからない子どもが「発達障害」と診断され、特別支援学級に編入される。近年日本各地で起こっているこの出来事の背景を、フィリピンから来た2人のきょうだいにかかわった教員ら計10人に対するインタビュー調査を通して探る。

教育現場で「外国人としての困難」に対処するために「障害児としての支援」がなされるという事態の中に、日本社会のいろいろな問題が浮かび上がってくる秀逸な一冊です。

 

2022年4月15日 (金)

今野晴貴,岩橋誠『外国人労働相談最前線』

603043 今野晴貴,岩橋誠『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)をお送りいただきました。

https://www.iwanami.co.jp/book/b603043.html

これは一部の「酷い」経営者の問題ではない――。コロナ禍により日本で働く外国人の立場の弱さが鮮明になった。働く留学生、技能実習生、インバウンド雇用者など、かれらが苦しんでいる要因とは何か。急増した労働相談の現場から、辞めさせやすく転職しづらい労働の実態を描き出し、現状の法的枠組みからの脱却を訴える。

岩橋さんはPOSSEスタッフとして「外国人労働サポートセンター」に携わっている方で、「中高7年間をアメリカで過ごし」、「日本で働く外国人の労働相談に英語と日本語で乗っている」とのことです。

第1章には生々しいケースの紹介がありますが、技能実習法では盛り込まれた人権侵害禁止などの労働者保護規定が、他の在留資格ではないということの問題点に気づかせてくれます。

 

 

 

 

2022年4月13日 (水)

シンポジウム 検証・日本の移民政策@上智大学グローバル・コンサーン研究所

202203301504081748461962

鎌田耕一・諏訪康雄編著『労働者派遣法 第2版』

Ssd32235 鎌田耕一・諏訪康雄編著、山川隆一・橋本陽子・竹内(奥野)寿著『労働者派遣法 第2版』(三省堂)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.sanseido-publ.co.jp/publ/roppou/rodo_shakai/rdshahakenho_v2/index.html

好評を得た初版の内容をベースに、直近の改正まで対応した最新版です。

 労働者派遣法の改正に厚労省委員等として携わった編著者陣が、派遣法の条文を中心にしながら、関連する他の法律、政省令・指針等にも言及し、広範で多岐にわたる労働者派遣法制の全体像を体系的・有機的に描き出した1冊です。

 さらに、労働者派遣の3者間関係を、派遣先=派遣元間、派遣労働者=派遣元間、派遣先=派遣労働者間とに区分し、私法上の権利義務関係も含めた各々の法律関係について、理論的な考察と解説を加えてあります。

 判例は、派遣法制定前の関連判例から直近の下級審の裁判例まで幅広く検討しています。近時頻発している派遣労働者の解雇・雇止めなどの派遣労働関係をめぐる裁判にも十分な言及がされています。

 派遣法領域で不可欠とされる、制度の沿革・歴史、改正の趣旨、改正に際しての社会的情勢への理解についても、編を設けて詳説しています。

5年前に刊行された本の改訂版ですが、この間2018年改正などいろいろあり、労働者派遣法の位置づけも大きくシフトしてきました。

わたくしほど過激なものの言い方をしない温厚で常識的な人々による解説書なので、安心して読めます。

 

 

 

成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道(再掲)

経済同友会が「創業期を越えたスタートアップの飛躍的成長に向けて」という提言を出しているようですが、

https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/220412a.pdf

その中で、「スタートアップの実情に対応した多様で柔軟な働き方の実現」という項で、こういうことを述べているのですが、

スタートアップの躍進が日本経済全体の成長の原動力になることを鑑みれば、グローバル競争に勝ち抜いていくための有為な人材が集うことが重要である。そのため、彼らがより活躍しやすい多様で柔軟な働き方を実現することが求められる。
旧来の日本型雇用システムは、正社員で構成される企業の傘の下、働く個人を一律に保護しようとする考え方に基づいており、多様な働き方を求める現状との乖離が大きくなりつつある。
相対的に弱い立場にある社員の健康や生活を法律によって十分保護する必要は言うまでもないが、働き方やライフスタイルの多様化が進む現在、就労時間に基づく一律の規制は働く個人の自由を妨げている。守るべきは労働時間ではなく、社員の健康や生活である以上、多様な管理の仕方によって個人が自由な働き方を選択できる法制度を整えていくべきである。
特に、兼業・副業、短期間での転職や海外からのリモートワークなど、従来にない働き方の普及が進むとともに、自らの成長・キャリアアップを強く求める人材も多いスタートアップでは、健康管理を条件に労働時間の制約を見直していくことが必要である。
例えば、オープンイノベーション促進税制などスタートアップ関連施策で定められている既存の企業要件よりもさらに対象を限定し、一定の対象範囲(企業要件)と適用要件を満たすスタートアップ21に関しては、時間外労働の上限規制の適用対象から除外し、個人が自らの意思に基づき、実情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる実効性の高い制度を構築すべきである。また、適用に際しては、労使合意の下、社員の健康と生活を守るための健康管理措置(例:定期的な健康診断、産業医との面談、ウェアラブルデバイスの取得データによる健康状況のモニタリング)などの設定が必要だと考えられる。
そのほか、創業間もないスタートアップについては、株式保有者(ストック・オプション含む)は役員(取締役)に準ずるものとし、時間外労働の上限規制の対象外とすることも考えられる。
また、新たな労働慣行をスタートアップから作っていく観点から、前記の企業要件を満たしている場合には、個別契約に労働の期間や形態、報酬、雇用の終了条件等を明記することで、スムーズな契約終了や再契約が行えるように既存の法律22の見直しを図るべきである。雇用条件を明確に定め、人材の流動性を高めることで、労働者と雇用者の対等な働き方が実現する。また、機動的な経営が求められるスタートアップは必要な人材を柔軟に確保できるようになるため、わが国全体で人的資源をより適切に活用できると考える。

一般論としていえば、労働者の有り様が多様化する中で、労働時間法制を含め労働法規制のあり方について個々に検討し、見直していくべきであるというのはまさに私の考え方でもあります。ただし、それは労働者の多様性に応じて、であって、労働者と関わりのない企業側の多様性に応じてではありません。

スタートアップ企業であるか否かは、経営者にとっては極めて重要でしょうが、労働者にとってはいかなる意味でも本質的ではありません。

そう、ジョブ型社会であるならば、ね。

雇用労働者をあたかも出資者であるかのように「社員」呼ばわりするメンバーシップ型社会の感覚にどっぷり浸かっているのであれば、スタートアップ企業に雇われて就労する労働者は起業家みたいな者に見えるのかも知れませんが、そういう日本型雇用システムに骨の髄まで浸かりきった人は、間違っても「ジョブ型」を唱道したりはしないでしょうね。

一方、日頃ジョブ型を米帝の手先と目の仇にしている諸氏は、こういうときこそ心の底から経済同友会に唱和すべきなんだけどな。

という話は、なんだかやたらにデジャブを感じたので、昔のエントリをほじくってみたら、こんなのが出てきましたよ。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-a461.html(成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道)

労働調査会のHPに載っている「労働あ・ら・かると」に、日本人材紹介事業協会の岸健二さんが「成功した起業家が陥る‘ブラック企業’への道」というエッセイを書かれています。

http://www.chosakai.co.jp/alacarte/a12-07.html


・・・今年は、なぜか相談に応じた方々が皆「自分が勤めた企業はブラック企業なのではないか?」という疑問を抱いてのご相談でした。

・・・ご相談者の勤務先はいずれもここ10年20年で起業から急成長し、中には上場を果たした企業もあります。お話に共通するのは、創業者が経営陣として君臨しており、「創業時の起業家精神を忘れるな」と良く口にしているということです。もちろん企業を立ち上げ、発展させていく精神力をはじめとした様々な努力には、本当に心から敬意を表するものですが、困ってしまうのは、「創業時には、小さな賃借事務所に寝泊まりして、家には帰らず頑張ったものだ。(だから君たちもそのように働いて欲しい)」と言い、現実にそのように忠実に「滅私奉公」した急成長期からの社員を重用するので、経営幹部になった急成長期に「苦楽を共にした戦友」達も、同じことを新入社員たちに強要している体質があり、そこに何の疑問も抱かないことです。

いやあ、これはまさに、わたくしがブラック企業の一類型として提示した「強い個人型のガンバリズム」ですね。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/alter1207.html(日本型ブラック企業を発生させるメカニズム(『オルタ』2012年7-8月号 ))


強い個人型ガンバリズムが理想とする人間像は、ベンチャー企業の経営者だ。理想的な生き方としてそれが褒め称えられる。一方、ベンチャー企業の経営者の下にはメンバーシップも長期的な保障もあるはずもない労働者がいる。しかし、彼らにはその経営者の考えがそのまま投影される。保障がないまま、「強い個人がバリバリ生きていくのは正しいことなんだ。それを君は社長とともにがんばって実行しているんだ。さあがんばろうよ」と慫慂される。こうして、イデオロギー的には一見まったく逆に見えるものが同時に流れ込むかたちで、保障なきガンバリズムをもたらした。これが現在のブラック企業の最も典型的な姿になっているのではなかろうか。

こういうベンチャー型ブラック企業に対する岸さんの感想:


もしご相談者の勤務先の経営者の方とお会いできる機会があれば、「雇う側」と「雇われる側」には大きな立場の違い(労働基準法をはじめとするさまざまな労働法の適用の有無)と責任の種類の違い(ハードソフト両方の働く環境を整備する義務責任と、職務を忠実に行う義務責任)があることについてお話できたらなぁと、つくづく思います。

私もつくづく思いますが、しかしながら、、「雇う側」と「雇われる側」をごっちゃにするところに、ベンチャー企業や、とりわけそれを礼讃する低級マスコミの議論の特徴があるので、言ってもなかなか理解されないでしょうね。


また、人材からのご相談をお受けしていて思うのは、もう一つの「ブラック企業」の特徴として、経営陣に「経営に強大な権限を持つ一方、株主、雇った人びと、その企業の製造物や提供するサービスの利用者、延いては社会全体に対して重い責任も負っている」という根本的な責任の自覚がないということです。そして、責任は他人や組織内の弱者(名ばかり管理職など)に押し付けているという点がどうしても見えてきてしまうのです。

今回ご相談に応じた若い人材の方々の勤務先の経営者は、まるで自分の責任は全くなく、当事意識は全くなくて責任はすべて「現場管理職」にありとの言動をしたそうで、その管理職の訴えに聞く耳を持たなかったそうです。

この辺もいかにも、という感じです。

しかし、岸さんは最後に、そういう企業に入ってしまう学生さんたちにも厳しい目を向けます。


一方、新卒で就職活動をされる学生さんの中には、テレビ広告でよく見かける企業や、企業家精神にあこがれて応募入社される傾向も見て取れるのが事実でもあります。

マスコミによく登場し経営について弁舌さわやかな言辞を弄している経営者が経営している企業に於いて、一方では過労死や個別労働紛争が多発したりしていることもよく指摘されています。このような情報の公開を、どう実現していくかが事態の解決に役立つようには思いますが、皆さんいかがお考えでしょうか?

ほらほら、そこのシューカツ産業にいいように操られて「テレビ広告でよく見かける企業や、企業家精神にあこがれ」たり、「マスコミによく登場し経営について弁舌さわやかな言辞を弄している経営者」にあこがれたりしている、そこの無考えな学生さんたち。

こういう本当にあなた方のことを考えて言ってくれている言葉にきちんと耳を傾けましょうね。

もひとつおまけに、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-68f8.html(ホリエモン氏が自分でそのように行動することを労働法は何ら規制していません。ただし・・・)

いうまでもなく、雇用される労働者ではなく自営業者であるホリエモン氏が自営業者たる自分の行動様式として、以下のように行動することを労働法は何ら規制していません。

また、このエントリに感動した若者が自ら企業を興し、自分についてはそのように行動しようとすることを、労働法は何ら規制していません。

http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10500476221.html(起業してほぼ確実に成功する方法)

>どうもたまに上手くいかない人がいるみたいだ。
なぜだろう?と疑問に思って考えてみた。

で、これなんじゃないか?と思ったことが一つだけあった。
それは睡眠時間以外のほぼ全てを仕事に使っていないということじゃないかと。

>土日も勿論ない。旅行も年に1度行くか行かないか。盆も正月も無い。ずっと仕事であった。デートもしないので、プロセスが省略できるという理由で一時期風俗にはまっていたこともある。風呂に入る時間や髪を切りに行く時間など完全に勿体無いと思って、ほとんど行っていなかった。
果ては家に帰る時間すら勿体無くなって、ずっと会社のベッドで寝ていたこともある。一時期は会社の仮眠室にシャワーまでつけていた。

それくらいやったらほぼ確実に成功すると思うんだよなあ。。。

自営業者が土日も盆も正月もなく、デートもなく風俗で済まし、風呂も散髪もなく、家にも帰らず、会社のベッドで寝ようが、それは本人の勝手であって、労働法が介入すべき筋合いではありません。

問題は、ホリエモン氏であれ誰であれ、とかくこういうタイプの企業家は、自分が雇用する労働者に対しても、あたかも自分と同じ自営業者であるかのように、あるいはあるべきであるかのように、「土日も盆も正月もなく、デートもなく風俗で済まし、風呂も散髪もなく、家にも帰らず、会社のベッドで寝」ることを要求しがちであるということです。

そして、それに対してささやかな抗議をしようとすると、

http://twitter.com/takapon_jp/status/7501328812

>曲解ブログ発見。どうやったら、「労働基準法守るなんて馬鹿馬鹿しい」って読めるんだろうね?今の労働基準法が馬鹿馬鹿しいんであって法令順守は当たり前。でも改正の必要ありといってるんだよ。頭わるいのか?こいつは。

と罵倒される仕儀に相成ります。やれやれ。

(ついでに)

たぶん、ホリエモン式ベーシック・インカムの世界というのは、「土日も盆も正月もなく、デートもなく風俗で済まし、風呂も散髪もなく、家にも帰らず、会社のベッドで寝」られる人間がフルに働いて稼ぎ、残りのそれに耐えられない人間はさっさと市場から退場してベーシック・インカムという名の捨て扶持で生活する(できるかどうかは知りませんが)社会なのではないかと思われます。それを素晴らしき新世界と感じられるかどうかが、判断の分かれ目になるのでしょう。

(追記)

こういうベンチャー経営者とそれを崇拝する人々が作る社会がどのようなものになるかは、ダイヤモンドオンラインの秀逸なリポートをどうぞ。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-b066.html(決まってるじゃないか。自分の成長のためだよ!)

 

 

 

 

 

2022年4月12日 (火)

ウクライナ民族の最終的かつ不可逆的な確立

プーチンはウクライナ民族なんてのは虚構だと思っていた。ロシア語の方言を喋るロシア辺境の田舎者をつかまえて、ロシア革命の勢いでレーニンがでっち上げたインチキな幻想にすぎないと思っていた。

実のところ、その議論には、まったく真実のかけらもないわけではない。

そもそも「民族」というのは、多かれ少なかれ主観的-共同主観的なものだろう。

ある人間の集団を民族と呼ぶか否かは、とても明確な場合もあるが、かなり不明確な場合もある。

いい例がユダヤ人だ。ユダヤ人は一つの民族なのか、それとも自分や先祖がユダヤ教徒であったところのドイツ民族やロシア民族であるのかというのは、そう簡単に答えが出るものではない・・・いや、なかった。

答えを出したのは、ロシアで繰り返されたポグロムであり、それに最終的かつ不可逆的な結論を出したのはヒトラーだ。

お前たちは殲滅されるべきユダヤ民族だ、と名指しされ、殺されることによって、それまではまだ不分明であったユダヤ民族というのは存在するかという問いに答えが出されたのだ。

然り、いまやユダヤ民族は存在する、と。(ここ、フレドリック・ブラウン風に)

プーチンはウクライナ民族などというものは存在しないことを証明しようと思って高貴なる武力を行使した。

ロシアの刃を一振りすれば、ウクライナ民族などという幻想は一夜の夢の如く消え失せ、ロシア民族としての意識に目覚めるであろうと。

かくして、それまでなお不分明を残していたウクライナ民族の存在について、ついに答えが出された。

それも最終的かつ不可逆的な結論が出されたのだ。存在を否定しようとするプーチンに殺されることによって。

否、今やウクライナ民族は存在する、と。

なんでそう例外ばかりを強調するのかな

ジョブ型とはこういうものだと百万回繰り返しても、カラスがほじくるがごとく話をひっくり返していくんだなあ。

いや確かに、ジョブ型社会でも上の方を目指す少数派の人であれば、「チャンスは自分で取りに行くものになる」とか「出世するには 自ら手上げる姿勢が大事」とかいう世界もあるけれどさ。

でもそれはあくまでもジョブ型社会の原則からすれば例外。一部のエリートの世界。

ジョブ型社会の普通の人々の大原則というのは、本人が望みもしないのに勝手に出世させられたりしないこと、いつまでも自分の得意なやりたい仕事をやり続ける権利があり、会社にはそれを犯すことは許されないということ。

余計な出世なんかさせられずに、その仕事が会社の中にある限り、安定した職業人生を送ることができるのがジョブ型なんであって、ごく一部の上澄み層だけしか目に入っていない視野狭窄のジョブ型論なんか、読むだけで却って害になる。

ジョブ型を語るときに、ジョブ型社会の基本軸がすっぽり抜けたまま、猫も杓子も会社組織の中でひたすら上を目指し出世競争するのがあまりにも当たり前というメンバーシップ感覚にどっぷり漬かったまま語ると、こういうおかしな話になるんだが、そこんところが全然わかってないメディアの連中が、とにかく自分の感覚に合った部分でもって流行を追っかけようとするから、こういうことになるんだろうな。

と、ぼそぼそ。

林健太郎『所得保障法制成立史論』

Shotokushoshou 林健太郎さんより大著『所得保障法制成立史論― イギリスにおける「生活保障システム」の形成と法の役割』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10003090.html

林健太郎といっても、その昔東大紛争時の総長ではありません。労働法と社会保障法の交錯する領域を、イギリスの遥か昔の創生期に遡って考え直そうとする若き俊秀です。

◆現代的な所得保障法制成立に至る歴史を考察―旧救貧法から新救貧法を経て失業保険制度の成立へと至る過程を、“「労働」と「社会保障」の関係”という視点から考察◆
 
労働(雇用)を通じた稼得による生活維持を前提に、それを中断・喪失させた場合に所得保障給付を行う現代の法制度の基本的あり方が、歴史的にいかに形成され、いかなる法制度によって組成されてきたのか―14世紀から20世紀に至るイギリス法制史、特に旧救貧法から新救貧法を経て失業保険制度の成立へと至る過程を、“「労働」と「社会保障」の関係”という視点から考察。

実は、昨年秋のzoomで行われた日本労働法学会で、私の出番でない時間帯のワークショップで、林さんが「〈生活保障システム〉の構築と法の役割 −−−−イギリス労働市場の形成と社会保障・労働法制の史的展開−−−−」 という報告をされ、私はそれを聞きに行って、若干のコメントをしたのです。

以下の目次をざっと見ただけでも、いかに広範かつ突っ込んだ論考になっているかが分かるでしょう。

はしがき

◆序 章

第一節 問題意識
 第一項 本書の目的
 第二項 問題の所在
  (1) 不安定な雇用環境で生活する労働者・失業者の増加/(2) 戦後の社会保障法学における理論的前提/
  (3) 「労働か,さもなければ社会保障か」という発想とその問い直しの必要性
第二節 検討の方法
 第一項 イギリス法制史研究を採用する理由
  (1) 歴史研究の意義/(2) イギリス法制史研究の意義/(3) 一国の法制史研究を行うことの限界
 第二項 本書で用いる分析概念
  (1) 「労働市場」概念の意味/(2) 「生活保障」・「生活保障システム」と「法」/(3) 本書の課題の再定式
 第三項 検討時期の設定
第三節 先行研究の中での本研究の位置付け
 第一項 本研究の問題意識と検討対象時期のもたらす独自性
 第二項 救貧法史研究との関係
  (1) 救貧法史研究としての独自性/(2) ディーキンとウィルキンソンによる研究/(3) 大沢真理による研究
第三項 失業保険制度史との関係
第四節 各章の内容

◆第Ⅱ章 封建制下における労働移動の規制

第一節 はじめに
第二節 封建制下における農民の就労形態とその変容
 第一項 封建制下における領主的支配の構造
 第二項 荘園慣習法の存在
 第三項 14世紀における領主的支配の弛緩とその帰結
第三節 1349年労働者勅令・1351年労働者規制法の意義
 第一項 1349年労働者勅令
 第二項 1351年制定法第二号の成立
 第三項 「判事」=治安判事制の成立
  (1) 「治安判事」の誕生/(2) 「治安判事」の性格とその位置付け
 第四項 1349年勅令及び1351年法の意義
第四節 1388年法の成立とその意義
 第一項 背 景
 第二項 1388年法の成立とその内容
 第三項 1388年法の意義
第五節 小 括

◆第Ⅲ章 浮浪者問題の変容と労働能力ある貧民に対する処遇の展開

第一節 本章の目的
第二節 労働移動に対する法規制
 第一項 “「浮浪者」問題”の変容の経済的背景とその政策的対応
  (1) “「浮浪者」問題”変容の経済的背景/(2) “「浮浪者」問題”に対する政策的対応
 第二項 労働者規制法に基づく諸規制の展開
  (1) 最高賃金の法定から裁定制へ/(2) 景気変動に伴う解雇の防止
 第三項 1562―3年職人規制法の内容とその意義
  (1) 労働移動に対する規制/(2) 賃金及び就労期間に関する規制
 第四項 1562―3年職人規制法の意義
第三節 浮浪者規制法の展開と救貧法の生成
 第一項 職人規制法との関係と浮浪者規制法の課題
 第二項 浮浪者概念の明確化と労働能力ある浮浪者に対する処遇の進展
  (1) 就労可能性のある「浮浪者」に対する処遇の差別化/(2) 就労可能性のある浮浪者に対する就労機会の提供
 第三項 法体系の再編と救貧法の生成
  (1) 救済を必要とする者への就労機会の提供の仕組みの確立/(2) 浮浪者法体系からの救貧法の自立
第四節 小 括

◆第Ⅳ章 旧救貧法体制の確立

第一節 本章の問題意識
  (1) 「教区」を中心とした貧民救済機構の確立/(2) 「定住資格」をめぐるこれまでの議論と本章の着眼点/(3) 本章の構成 
第二節 労働能力のない貧民の救済機構の整備 
 第一項 課 題 
 第二項 貧民救済機構の確立と「教区」 
  (1) 教区の特徴/(2) 「教区」による慈善の奨励/(3) 「教区」を基礎とする仕組みの整備とその費用徴収方法の限界 
 第三項 費用徴収における教区の「世俗化」 
 第四項 救済機構の「世俗化」と世俗的救貧行政機構の完成 
  (1) 貧民監督官の設置及びその義務/(2) 費用徴収の仕組みの精緻化/(3) 労働能力のない貧民に対する居住施設の設置/
  (4) 親族扶養の義務と費用徴収
 第五項 1597年法の意義と残された課題
第三節 セツルメント法に基づく「定住資格」の承認と救済を受け得る地位の保障 
 第一項 貧民の救済を受け得る地位の不安定さと救済責任の所在 
 第二項 コモンローにおける「適法な定住」規範の生成 
 第三項 制定法における「定住資格」概念の承認 
 第四項 1662年法の意義と評価――救済を受け得る地位の保障 
第四節 小括――旧救貧法体制の確立とその意義 

◆第Ⅴ章 労働移動の加速と旧救貧法体制の対応

第一節 旧救貧法の社会的役割と本章の課題
  (1) 17世紀社会における旧救貧法の位置付け/(2) 産業革命の胎動と本章の課題
第二節 教区を基礎とした貧民救済行政の確保と旧救貧法の展開
 第一項 「定住資格」の法的安定性の確保
  (1) 定住資格獲得手続きの厳格化/(2) 定住資格をめぐる教区間の紛争の防止
 第二項 救済の申請手続と教区による関与の強化
  (1) 救済申請手続の明確化と治安判事の救済命令/(2) 治安判事による救済命令の発行手続の制限/(3) 救済を申請する権利の確立とその構造 
 第三項 教区を基礎とした貧民救済行政と法の役割 
第三節 労働移動の促進とセツルメント法の改正 
 第一項 仕事の提供施策の不十分さ 
  (1) 旧救貧法体制下での労働移動の調整機能の意味/(2) 労役場建設運動の展開/(3) 18世紀における労役場建設運動の帰結
 第二項 証明書制度の汎用化
  (1) 「取得定住資格」の創設と人々の移動の制限の緩和/(2) 1696―7年制定法第30号に基づく「証明書」制度の導入/
  (3) 1696―7年法の意義と「証明書」の法的性格/(4) 証明書制度が労働移動にもたらした意味
 第三項 1795年制定法第101号の意義
  (1) 制定法による定住資格取得要件の厳格化と証明書の利用拡大/(2) 1795年法による送還処分要件の改正
第四節 小括――旧救貧法体制下における労働移動規制の変容

◆第Ⅵ章 19世紀救貧法改革における「問題」の構成

第一節 1834年救貧法改革の前提問題
 第一項 19世紀救貧法改革の諸前提
 第二項 旧救貧法システムを活用した様々な労働力確保施策及び生活維持方策の展開
  (1) 手当システム(232)/(2) 失業者の就労による救済
 第三項 「救済費による賃金の補完」の意義と本章及び次章の目的
第二節 教区の統制と治安判事の権限の強化
 第一項 18世紀末の救貧法改革論
 第二項 1782年制定法第83号の制定とその内容
 第三項 1782年法の意義
第三節 教区制度改革の本格化
 第一項 1817年庶民院特別委員会の議論の特徴
 第二項 1818年制定法第69号及び1819年制定法第12号の成立
 第三項 1818年・1819年法の意義
第四節 救済費による賃金の補完とその問題の本質
 第一項 1824年労働者の賃金に関する庶民院特別委員会報告書
 第二項 1828年労働者の賃金に関する庶民院特別委員会報告書
 第三項 1832―4年救貧法王立委員会における議論の前提
第五節 小 括

◆第Ⅶ章 新救貧法体制の確立

第一節 はじめに
第二節 1834年救貧法王立委員会報告書
 第一項 1834年救貧法王立委員会報告書(1)――その「問題」の認識
  (1) 手当システム・戸外救済に内在する諸課題/(2) 地主・雇用主に内在する諸課題と労働者にもたらす悪影響/
  (3) 救貧行政に内在する諸課題
 第二項 1834年救貧法王立委員会報告書(2)――その「問題」の解決方法
  (1) 労働能力ある者の救済のあり方:劣等処遇の原則/(2) 労役場と「自動化テスト」/(3) 中央救貧法委員会設立の提言
第三節 1834年制定法第76号の制定
 第一項 1834年法の内容
  (1) 中央救貧法委員会の設置/(2) 統合教区の設置権限/(3) 労役場の運営/(4) 労働能力ある貧民に対する救済の方法
 第二項 1834年法の意義
  (1) 賃金労働者と自由な労働市場の創出/(2) 救済を受ける権利の構造に与えた影響/(3) 1834年改革の特徴
第四節 セツルメント法の廃止を巡る制定法の展開
 第一項 はじめに
 第二項 「送還不能」の地位の成立
  (1) 中央救貧法委員会第9次年次報告書の提言/(2) 「送還不能」の地位の明文化/(3) 送還不能者の救済をめぐる制定法の展開/
  (4) 居住に基づく送還不能者の法的地位
 第三項 統合教区への権限の委譲をめぐる展開
  (1) 統合教区への権限委譲という新たな問題/(2) 統合教区への課税権限の移譲とその限界/
  (3) 「貧民救済に関する特別委員会報告書」と統合教区財政責任法案をめぐる議論/(4) 1865年統合教区責任法の成立とその意義
第五節 小括 ――19世紀救貧法改革の帰結

◆第Ⅷ章 労働者の困窮問題の発生とその解決策の不在

第一節 はじめに
第二節 新救貧法体制の下での労働者救済の対応とその限界
 第一項 新救貧法体制における「失業」をめぐる論理
 第二項 公共事業の展開とその限界
  (1) チェンバレン回状による「公共事業」の推進/(2) 1896年「雇用の不足から生じる困窮に関する庶民院特別委員会」報告書
 第三項 新救貧法体制の持つ論理の限界
第三節 労働組合による共済事業の意義と限界
 第一項 「失業者」を取り巻く構造的な要因の分析
 第二項 労働組合による共済事業の展開
  (1) 友愛組合の意義/(2) 熟練工型組合による共済事業の実施とその意義/(3) 非熟練労働者の組織化と共済基金の充実
 第三項 労働組合による共済事業の意義と限界
  (1) 労働組合による共済事業の意義/(2) 労働組合による共済事業の限界
第四節 小 括

◆第Ⅸ章 国営失業保険制度の創設とその意義

第一節 はじめに
第二節 「失業労働者」の救貧法からの分離
 第一項 ロンドン州政府の失業者対策と「失業労働者法」の成立
  (1) ロンドン州政府の失業者対策の新規性/(2) 1905年失業労働者法案を巡る議論
 第二項 失業労働者法の内容とその意義
  (1) 1905年失業労働者法の内容/(2) 1905年失業労働者法の意義
 第三項 残された課題
第三節 1905―9年救貧法王立委員会
 第一項 ベヴァリッジの証言――「労働市場の組織化」
 第二項 多数派報告における職業紹介所及び失業保険の位置付け
  (1) 多数派報告が公的救済の対象とする労働能力ある人々/(2) 職業紹介所の設立/(3) 失業保険に関する提言
 第三項 少数派報告における職業紹介所及び失業保険の位置付け
  (1) 少数派報告における「失業」問題の分析/(2) 職業紹介所の提言/(3) 失業保険の位置付けと評価
 第四項 救貧法王立委員会報告の意義
第四節 1911年国民保険(第二部)法の成立
 第一項 自由党政府による労働市場改革の試み:職業紹介所と失業保険制度構想
 第二項 1911年国民保険(第二部)法の成立とその意義
  (1) 失業保険制度の内容/(2) 職業紹介所と失業保険制度との関係:不完全就業の適正化/(3) 労働組合等による共済事業との関係
 第三項 1911年法に基づく失業保険制度の射程
第五節 小括――1911年国営失業保険制度の歴史的位置付け

◆第Ⅹ章 所得保障制度の確立――労働と所得保障給付の分離へ

第一節 はじめに
  (1) 本章の採用する視点/(2) 労働組合による共済事業と国営失業保険制度の関係/(3) 本章の課題
第二節 適用対象拡大の失敗
 第一項 1916年国民保険(第二部)(軍事産業労働者munition workers)法の影響
 第二項 適用拡大を巡る議論の停滞と「一般離職者基金」の設置
  (1) 一般軍需労働者委員会「失業保険小委員会報告書」の提言/(2) 一般離職者基金の設置
 第三項 国営失業保険制度の適用対象拡大と労働組合の利害
第三節 失業予防施策への転換
 第一項 1920年国民保険(失業)法改正
  (1) 1920年国民保険(失業)法の内容/(2) 「特別給付制度」及び「付加給付制度」の特徴/(3) 「特別給付制度」の意義
 第二項 国営失業保険制度における戦後不況への対応
  (1) 「産業による保険」の推進と挫折/(2) “特別な”給付の創設/(3) 受給要件の厳格化/(4) 長期失業者への対応と保険原理からの逸脱
 第三項 労働組合の態度の変容
  (1) 戦後不況が労働組合の共済事業にもたらした影響/(2) 労働組合の姿勢の変化
第四節 失業に対する所得保障と雇用政策の分離へ
 第一項 失業保険に関する王立委員会報告書
  (1) 失業保険制度の見直し/(2) 失業扶助制度に関する提言
 第二項 1934年失業法による失業扶助制度の成立
 第三項 1934年失業法のもたらしたもの
 第四項 新しい社会保障制度と白書『雇用政策』の意義
  (1) ベヴァリッジ報告における「最低生活給付」水準の保障/(2) 『自由社会における完全雇用』における雇用政策の位置付け/
  (3) 白書『雇用政策』の意味するもの
第五節 小 括

◆終 章

第一節 これまでの内容の再整理
第二節 「生活保障システム」の歴史的変遷と法の役割
第三節 むすび
  (1) 現代の「生活保障システム」の起点/(2) 「生活保障システム」の形成に果たす法の役割/(3) 〈生活保障システム法〉の構想に向けて

先日本ブログで紹介したばかりの小宮文人さんの『イングランド雇用関係法史 制定法とコモン・ローの役割の変遷』と相まって、とことん突き詰めた歴史研究の醍醐味を味わえる本だと思います。

 

 

2022年4月 9日 (土)

医療法人社団清和会事件

昨日、東大の労働判例研究会で医療法人社団清和会事件の評釈をしてきました。2年ぶりの本郷キャンパスでのリアル参加です。

内定取消しと人材紹介手数料の支払請求
医療法人社団清和会事件(東京地判令和2年11月6日)
(判例時報2501号87頁)(同誌上では匿名)
 
Ⅰ 事実
1 当事者
X(エムスリーキャリア株式会社):医療関係人材の人材紹介等を業とする会社
Y(医療法人社団清和会):病院・介護老人保健施設を経営する医療法人社団
Z:XがYに健診センターのチーフマネージャーとして人材紹介した労働者
 
2 事案の経過
・平成28年9月20日、XとYは人材紹介取引契約を締結した(内容はⅠ3の通り)。
・平成30年ごろ、YはXに対し、健診センターのチーフマネージャー職の推薦を依頼した。
・YはXからZを紹介され、平成30年1月19日ごろ、Zと面接をした。Zが持参した履歴書と職務経歴書には誤記が多々あった。
・Yの採用担当者Iは、Zとの面談後の1月29日、Xの担当者Cに対し、電話で、Zを「採用する方向」であること、内定通知書を別途送付する旨を伝えた。併せて、履歴書と職務経歴書を修正送付するよう指示するよう求めた。
・CはIに対し、雇用概要作成用フォーマットを送り、入力して返信するよう求めた。
・IはCに対し、同フォーマットに必要事項を入力して返送し、メールの本文には「これをもって内定と採用条件の通知とさせていただきますので,Z様にもその旨お伝えください」と記載していた。
・1月30日、Yは申込書と雇用概要確認書に記名押印をしてCに送付した。Cは雇用概要確認書をZに送付し、Xもこれに署名押印した。
・申込書には、Zを雇用すること,想定年収580万円の25%である145万円の紹介手数料(消費税別)を支払うこと,支払期日を平成30年4月30日とすること,入社日から1か月未満で中途退職した場合には100%,3か月未満で中途退職した場合には50%の手数料を返金することが書かれていた。
・雇用概要確認書には、契約期間,就業場所,身分・順位,主な職務内容,勤務時間,勤務日,休日,休暇,入職年月日,想定年収等が,具体的かつ明確に記載されていた。X(ママ。Yの誤りか)の記名押印は「上記雇用概要にて採用することを誓約します。2018年1月30日」の文言の後に,Zの署名押印は「上記雇用概要にて入職することを誓約します。2018年1月30日」の文言の後に,それぞれなされている。なお,入職年月日は,平成30年3月31日と定められていた。
・1月31日、Zから履歴書のみ修正されて届いたが、その送り状ではYの名が誤記(「清話会」)されていた。
・2月1日、YはZを採用しないことを決定し、XとZにその旨連絡した。
・2月22日、Yは(Xに対する回答として)、平成30年1月30日付けで採用内定を出したが,その後提出された履歴書,職務履歴書に事実と異なる記載があることが判明したため,同年2月1日付けで内定取消しをした旨を主張した。
・3月8日、Yは(Xに対する書面で)、面接時に提出された書類の間違い,間違いを指摘した後に出された書類の不備等,Zの不誠実な対応に失望し,管理職としての採用はできないと判断した旨を主張した。
・3月31日、XはYに対し書面で、紹介手数料156万6000円の支払を求めた。
・7月28日、XはYを相手取って、支払手数料遅延損害金の支払いを求める訴えを提起した。
・Yは当初Zの内定を認めていた(裁判上の自白)が、後にこれを撤回した。
 
3 人材紹介取引契約の内容
(第2条)
第1項 Yは,Xが紹介した人材を採用し,入職(入社を含む。以下同じ)に至った場合,人材紹介の対価として,本契約締結後にXY間で書面により合意した方法により算出した紹介手数料(以下「手数料」という。)をXに支払うものとする。Yは,丙を採用するときは,Xに対し,丙の雇用条件(給与額のほか常勤・非常勤の別も含む)をX所定の書式により通知し,当該雇用条件に基づいて算出した手数料を明示したX所定の申込書を発行するものとする。
第6項 Yは,内定通知を行い丙がこれを受諾した後,Yの都合により内定を取り消した場合,第1項に基づきXに手数料を支払うものとする。
(第3条)
第1項 Xは,丙が専ら丙の責めに帰すべき事由により退職(退社を含む。以下同じ)した場合(丙が解雇(法令に則った正当な解雇に限る)された場合も含む)は,入職日から最終出勤日までの期間に応じて本件契約締結後にXとYが書面で合意した方法により算出した額を,Yに対し返金するものとする。本条または前条によるほか,いかなる場合でも手数料の返金または減額はされないものとする。
 
Ⅱ 判旨 請求認容
1 内定成立の事実に関する自白の撤回
・「主要事実・・・の自白の撤回が認められるためには,自白が真実に反し,かつ錯誤に基づくものである必要がある」。
・「認定事実によれば・・・YとZとの間には,同日,Yが,記載の内容通りの雇用条件の下,平成30年3月1日から就労を開始することとする解約権留保付就労始期付労働契約が成立したものと認めるのが相当であり,いわゆる内定が成立したものといえる」。
・「被告の自白については,それが真実に反するとは認められず,錯誤があったとも認めることができない」ので、「自白の撤回は許されず,その結果,本件では,Zにつき内定が成立した事実について自白が成立しており,その通りの事実が認められる」。
2 内定取消しはYの都合によるものか
・「本件においてYがZの採用内定を取消した事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であったとはいえず,前記のとおりの解約権留保の趣旨,目的に照らしてみたときに,Yの内定取消しが,客観的に合理的で社会通念上も相当なものとまではいえない」。
・「本件契約2条6項が,内定の段階においても,本件契約2条1項に定める入職の場合と同視して紹介手数料の支払義務を定めていること,本件契約3条1項が,専ら入職者の責めに帰すべき事由により退職した場合に限り返金を認めているところ,解雇により退職した場合には,法令に則った正当な解雇の場合に限っていることを踏まえると,客観的に合理的で社会通念上も相当なものとして是認することができない内定取消しについては,本件契約2条6項にいうYの都合による内定取消しに当たるものとして,紹介手数料の支払を免れないものと解するのが相当である」。
・「なお,Yは,本件契約2条1項の入職に該当しない旨の主張もするが,Xの請求は,本件契約2条6項に基づくものであり,入職以前の内定が認められることを前提とするものであるから、失当である」
 
 
Ⅲ 評釈 判旨賛成だが、いくつか興味深い論点がある
 
1 本判決の位置づけ
 
 掲載誌『判例時報』において、本判決は「労働」ではなく「民事」に位置づけられている。確かに、本件で争点となっているのはもっぱらいずれも事業者であるXのYに対する紹介手数料の支払債務の存否であって、労働者であるZの採用内定の存否や内定取消の是非は、前者に密接な関連を有するといえども、それ自体としては争点になっているわけではない。労働法とは労働契約を中核とする法制だと考えれば、本件は労働法ではなく民事法の範疇に属する。
 しかしながら、労働法制を広く捉えれば、職業安定法や労働者派遣法といった労働市場に関わる事業法も労働法の重要な一部であり、職業紹介や労働者派遣をめぐる事業者間の紛争も立派な労働法の対象である。本稿では、この観点から、本件に先立つ職業紹介事業者とそのユーザー企業との紛争について概観し、その中に本件を位置づけたい。
 
2 紹介手数料をめぐる主な紛争
 
 労働力需給調整システムに係る法制は、20世紀半ばに法認から規制/禁止へといったん大きく転換しながら、その1980年代以降再び緩和/自由化へ大きく方向転換された。本件が属する有料職業紹介事業については、1997年省令改正で擬似的ネガティブリスト化し、1999年法改正で全面的ネガティブリスト化するまでは、原則禁止で、特定の職業についてのみ厳格な規制下で認められる状況であった。また求人者からの手数料はそれまで厳しく規制されていたが、1999年改正後は届出制の下でほぼ自由化された。
 この原則禁止時代の末期に下された東京エグゼクティブサーチ事件最高裁判決(平成6年4月22日最二小判民集48巻3号944頁)は、法制度が変わったためその判決内容自体はもはや意味を持たないが、医師を病院に紹介した事案という点では本件と共通している。
 同事件の原告はいわゆるヘッドハンティングを業とする者であり、被告は風俗営業に従事する女性を対象として婦人科/内科の診療を行う診療所の経営者であり、医師の紹介就職について約定した報酬金200万円の支払を、被告が職安法違反を理由に拒んだ事案であるが、最高裁は本件スカウト行為が職安法にいう職業紹介にあたるとして、当時の職安法の規制の範囲内の50.5万円(6か月賃金の10.1%)のみの支払を命じた原審判決を是認した。同事件では当該医師の就職自体は問題となっておらず、それ以上の意義はない。
 近年、人材紹介をめぐって争いになった裁判例を検索すると以下のような事案が見いだされる。
 
・株式会社エムズアクティーズ事件(東京地判平成25.1.24):原告は人材業者、被告は紹介労働者で、被告労働者が勤務開始直前に入社を拒否したため紹介手数料の支払を受けられなくなったのは債権侵害の不法行為だとして訴えたが、棄却。
・ミネ医薬品株式会社事件(東京地判平成27.12.21):原告は本件と同じエムスリーキャリア株式会社で、被告は医薬品会社。やはり内定の成否が争点となったが、雇用者の都合で内定取り消したものとして、手数料の支払を命じた。
・医療法人社団大双会事件(東京地判令和1.7.22):原告は本件と同じエムスリーキャリア株式会社で、被告は同様の医療法人。同様に紹介手数料の支払を求めて訴え、これを認容。
・加藤ダクト工業株式会社事件(東京地判令和1.11.28):経理事務で紹介予定派遣の後採用し、原告が手数料を支払った後になって、被告の債務不履行(労働者に十分な技術能力なし)を理由にその返還を請求したが、紹介予定派遣期間は実質的に試用期間であるとして棄却。
・世界設計社株式会社事件(東京地判令和1.12.9):歯科医師の紹介。原告が被告に情報提供した歯科医師が、被告と代表者を同じくする法人に入職したことから、職業紹介基本契約の直接連絡・再紹介禁止規定(違反の場合は紹介手数料と同額の違約金)に基づき、紹介手数料+違約金を請求した事案。判決は「紹介」があったと認め、原告の主張を是認。
・FocusCoreGroup株式会社事件(東京地判令和2.8.14):航空宇宙部門の営業責任者の紹介。原告紹介会社が労働者を紹介する直前に被告会社が労働者にメールを送っていたことから、被告は原告からの紹介ではないとして手数料の支払を拒否したが、判決はそれを認めず支払を命じた。
・クラシス株式会社(東京地判令和2.9.16):託児所への職業紹介。紹介契約では自己都合退職の場合、30日以内は80%、30~60日以内は40%の減額率とされ、労働者は自己都合(夫の転勤)で38日後に退職。ただしこの間、就労予定日数27日のうち出勤は14日のみ。これを理由に被告会社は80%減額を求めたが、判決は原告請求通り40%減額での支払を命じた。
・株式会社エス・エム・エス事件(東京地判令和3.5.31):医療関係の人材紹介。紹介契約では1年以内に退職した場合は在職期間に応じた返金制度があり、労働者は3か月以内に退職した事案だが、被告病院は返金手続を行うことなく、紹介手数料を支払わなかったとして、全額の支払を命じられた。
 
3 人材紹介契約と労働契約の牽連性
 
 以上を概観すると、裁判所は概ね人材紹介契約の規定に沿って、定められた手数料の支払を命じる傾向にある。人材紹介契約はネット上にいくつかひな形が公開されており、本件契約もそれに沿った形で作られているようである。
 労働法の観点から注目すべき点は、本件契約では第3条第1項に当たるが、紹介手数料の支払義務の存否の程度を紹介された労働者の退職や解雇の事由の如何にかからしめている点である。本来商取引としての有料職業紹介契約とは、職業紹介、すなわち「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすること」に対して手数料や報酬を支払う契約であって、雇用関係が成立することによって人材紹介会社の債務は完全に履行されており、あとは紹介手数料の支払債務が残るだけの筈である。しかしながら、本件契約も含む多くの人材紹介契約においては、雇用関係が成立した後の労働者の退職や解雇のうち労働者の責めに帰すべき一定の場合について、人材紹介会社の側の一種の不完全履行であったかのように捉え、在職期間に応じた返金を規定している場合が多いようである。
 これはおそらく、手数料の算定方法が予定年収の一定割合(本件では25%)として定められているため、1年に満たないで退職ないし解雇となった場合は、手数料算定の基礎たるべき年収自体が現実化しないことから、このような取扱いにしているものであろう。使用者の責めに帰すべき事由であれば手数料は減免されず全額支払義務が残るが、労働者の責めに帰すべき事由であれば、それによる不就労期間に対応するような形で手数料の減免を行うという線引きにしているものと思われる。しかし、雇用終了の責任が労使双方のいずれにあるのかというのは、労働法の世界では膨大な議論が積み重ねられている領域であり、肝心の労働者を抜きにして、紹介会社と紹介先企業との間で一義的明確に結論が出るとは限らない。商取引である人材紹介契約の手数料支払義務の存否の判断のために労働契約に係る正当性の判断が必要になるという仕組み自体が、どこまで合理的であるのかも疑問である。
 かかる仕組みの背後にある考え方としては、紹介労働者は人材会社が責任を持って販売する商品であり、その欠陥についてはあたかも販売者責任であるかのように人材会社が責任を持って補償するというような発想があるようにも思われる。しかしながら、派遣先に派遣労働者選択権が(少なくとも法制上は)存在しない労働者派遣契約であればともかく、自ら雇用契約の一方当事者として雇用関係に入りこむ紹介先企業が、自らの採用責任を紹介企業に帰するような仕組みには疑問を感じざるを得ない。
 もちろん、これは人材紹介会社の側が定型契約として設定しているものであるので、それに自らが拘束されるのは当然ではあるが、上記のようなトラブルが発生する1つの原因がここにあるようにも感じられる。
 
4 内定取消をめぐって
 
 本件ではXが、裁判手続の当初は内定取消と認識していながら、その後それを撤回しそもそも内定していない(雇用関係が成立していない)との主張に移ったため、そこも主たる争点となった。そのいきさつはよく分からないところもあるが、Y側が本件契約の第2条第6項をきちんと認識しておらず、内定取消であれば手数料を支払う義務はないと誤認していた可能性はある。ただし、Xから訴えを提起されて、その第1回弁論準備手続期日においてもなお内定の成立を争わない旨陳述しているというのはいささか不可解である。そのために、裁判上の自白の撤回が認められるかという民事訴訟法上の問題となってしまった。もっとも、仮にXが手数料を請求した時点でYが内定の成立を否定していたとしても、客観的に内定成立が認定されていたであろうとは思われる。
 ただ、Y側が当初内定取消であれば手数料支払義務はないと誤認していた理由は推測できる。それは、上記手数料の算定方法が予定年収の一定割合となっていることから、不就労期間に対応する形で手数料が減免されるのであるから、全く就労していない内定取消の場合手数料を支払う義務があるはずはない、というものであったであろう。もちろんそれは「Yの都合」で取り消した場合には当てはまらないのであるが、Y側から見ればXが紹介したZが欠陥商品であるから取り消したのであって、それは「Yの都合」などではないと認識されているのであろう。
 ここにも、労働法において労働契約の終了が労使どちらの責任であるかの判断基準と、商取引契約において取引当事者のいずれに危険負担を負わせるのかの判断基準が、同じであるべきなのか異なるべきなのかといった問題が全く議論されないままになっていることによる問題点が露出しているように思われる。
 

慶應義塾大学産業研究所HRM研究会編『 ジョブ型vsメンバーシップ型』

410uzg5wghl_sx339_bo1204203200_ 慶應義塾大学産業研究所HRM研究会編『 ジョブ型vsメンバーシップ型ー日本の人事管理を展望する』(中央経済社)の近刊予告です。

慶應義塾大学産業研究所 HRM 研究会主催の好評シンポジウム待望の書籍化!
第1章(清家 篤氏)は、労働経済学、特に人的資本理論の観点からジョブ型雇用を理論的に検討。第2章(濱口桂一郎氏)は、労働法の立場から、決してジョブ型雇用が目新しいものではないことなどを指摘。第3章(中村天江氏)は、企業の人材獲得能力やキャリア形成の視点からジョブ型雇用を分析。第4章(植村隆生氏)は、国家公務員にもジョブ型雇用の導入が図られたことを論じ、これからの人事管理を展望。第5章(山本紳也氏)は、実務家の観点からジョブ型導入のモチベーションを取り上げている。序章と終章では、本書のテーマの背景やポイントの解説、シンポジウム当日の議論などを紹介

序章 本企画の趣旨(八代充史)
第1章 ジョブ型雇用の経済分析(清家篤)
第2章 ジョブ型 vsメンバーシップ型と労働法(濱口桂一郎)
第3章 日本的ジョブ型雇用―人材起点の日本企業が選んだカタチ(中村天江)
第4章 国家公務員制度とジョブ型 vsメンバーシップ型(植村隆生)
第5章 コンサルタントが現場目線でみたジョブ型 vsメンバーシップ型(山本紳也)
終章 本書のまとめ(八代充史)
補論 慶應義塾大学産業研究所とHRM研究会(八代充史)

 

 

2022年4月 8日 (金)

川口美貴『労働法〔第6版〕』

Roudouhou6 同じ信山社でありながら、ゆっくりしたペースの山川編著に比べて、こちらはもうほぼ年刊になりつつある川口美貴さんの『労働法〔第6版〕』(信山社)もお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10003087.html

労働法全般にわたる詳細で充実したテキスト。育児介護休業法と関連法令の改正等、最新の法改正・施行と立法動向に対応した最新版。

とにかく1000ページを超える大冊を、2018年の第2版以降は、きっちりと毎年改訂しているの、そのエネルギー量は大変なものです。

2015年の初版の時の本ブログの紹介では、こう書きましたが

この第1節の最初に出てくるのは何だと思いますか。なんと明治5年の「地所永代売買ヲ許ス」と「地代店賃及奉公人雇夫等給料相対ヲ以テ取極メシム」です。労働法の前提となる近代的法基盤の整備ということで、所有権制度と契約自由の原則と合意原則の出発点というわけです。

労働法の教科書でここから話を始めているのは見たことがありません。

その点に変わりはありません。

 

山川隆一編『プラクティス労働法 〈第3版〉』

Pura 山川隆一編『プラクティス労働法 〈第3版〉』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10003097.html

【待望の改訂】具体的かつ的確なイメージを〔illustration〕事例で把握、演習用ケース問題で、知識の定着と応用力を養成

2009年に初版、2017年に第2版という、割とゆっくりしたペースでの改訂での第3版です。

初版の時には、

リンク先にあるように、山川隆一先生を除けばいずれも若手労働法研究者と若手弁護士によるテキストです。皆川宏之、櫻庭涼子、桑村裕美子、原昌登、中益陽子、渡邊絹子、竹内(奥野)寿といった研究者の方々は、いずれもわたくしが東大に客員教授として派遣され、毎週労働判例研究会に顔を出していた頃の大学院生や助手でおなじみの皆さんばかりです。弁護士の野口彩子、石井悦子のお二人は山川先生のロースクールでのお弟子さんですね。

とブログに書きました。メンツは全く変わっていませんが、でもこのメンツを「いずれも若手労働法研究者」というのはもう躊躇われますね。

第2版の時には、

若手-というか8年前はバリバリの若手だったかも知れないけれど、もう若手と言ってはいけない年頃になりつつある感もありますが、まあそういう年齢層の研究者による教科書です。

と書きましたが、今や皆れっきとした中堅どころの研究者たちです。

 

 

海老原嗣生『人事の企み』

71i2fqqsgcl というわけで(どういうわけで?)、昨日わたくしの巻末解説が一足だけ早くネット公開された本、海老原嗣生さんの『人事の企み ~したたかに経営を動かすための作戦集~』(日経BP)が遂に届きました。

「人」に関する話は、「間違っている」ことや「見えにくい」ことが多いもの。この本では、そうした俗諺を、ロジック、データ、事例、具体策で、一つひとつ解きほぐす。新卒社員の質の低下、AIによる失業、社員の高齢化とモチベーションの低下……。巷で言われる課題は、本当に大きな問題なのか。逆に「良い人を採用すれば業績は上がる」「変革にはリーダーが必要」など“常識"に死角はないのか。 前作『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』でジョブ型雇用の問題に鋭く斬り込んだ雇用ジャーナリストの海老原氏が、再び人事の虚妄を断つ。表層的な「戦略」に終わらず、現場で役立ち、会社を変える実践的な戦術と作戦を教示する。雇用のご意見番、濱口桂一郎氏による解説も!

あとがきによると、『人事の成り立ち』『人事の組み立て』『人事の企み』でもって、海老原さんの人事概論3部作はおしまいだそうですが、いやいやいくらでも続きがありそうな。

ね、小林暢子さん。

 

 

 

2022年4月 7日 (木)

鈴木均『サッチャーと日産英国工場』

40 鈴木均さんよりその著『サッチャーと日産英国工場――誘致交渉の歴史 1973-1986年』(吉田書店)をお送りいただきました。本書は2015年に出版されたものですが、先日21世紀政策研究会に呼ばれて「EUの労使関係と労働法」についてお話しさせていただく機会があり、その時にその場にいらした鈴木さんから本書を送る旨お話しいただいていたものです。

http://yoshidapublishing.moon.bindcloud.jp/pg3498979.html

日産英国工場の話は、日本の労使関係論の観点からも興味深く、塩路一郎さんの回想録でもかなりのページを割いて取り上げられています。

しかし、イギリスの文脈でもサッチャーの労使関係政策における重要な橋頭堡であり、この1980年代という時期に、日本的労使関係モデルがヨーロッパで持った意味というものを改めて考えさせられる一冊です。

 

【本棚を探索】マックス・テグマーク『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』

91xxk7qxrl 『労働新聞』で月1回廻ってくる書評コラム「本棚を探索」ですが、今回はマックス・テグマーク『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』(紀伊國屋書店)です。

https://www.rodo.co.jp/column/124624/

 AIが流行っている。書店に行くとAI本が山積みだ。雇用労働関係でも話題で、AIでこんな仕事がなくなるとか、仕事がこんなに変わるとか、いろんな議論が噴出している。筆者も最近、EUのAI規則案が採用や人事管理へのAI活用を「ハイリスク」と分類し、一定の規制を掛けようとしていることを紹介してきた。でも、そういう雇用労働への影響などという(やや語弊があるが)みみっちい話をはるかに超えて、人間存在、あるいはさらに宇宙のあり方にまで大風呂敷を広げたのが本書だ。

 冒頭いきなりSF小説が展開する。汎用人工知能のプロメテウスが秘かに地球を支配していくユートピアの話だ。戦争、貧困、差別のない、愚かな人間どもが支配するより遥かに「すばらしき新世界」。だが、それは一歩間違えば悪夢のようなディストピアにもなり得る。本書には、SFアイデア大売り出しという感じで、これでもかとばかりそういう悪夢のカタログが並べ立てられる。とりわけ中盤あたりで、心の弱いスティーブの死んだ妻がプロメテウスによって再現され、その甘い言葉によって外部から遮断されていたプロメテウスが「脱獄」していくシーンは、下手なSFよりずっと面白い。というか、これって最近読んだ宿野かほるの『はるか』(新潮文庫)の元ネタじゃないか。

 という紹介だと、本書はまるで空想科学読本みたいだが、いやいや著者は宇宙論を研究する最先端の理論物理学者で、AIを宇宙進化の中に位置付けるという壮大な議論を展開している。そもそも「LIFE3.0」とは何か。1.0とは生物学的段階で、細菌のようにハードウェアとソフトウェアが進化する。ネズミは1.1くらい。2.0は文化的段階で、人間のようにハードウェアは進化するがソフトウェアの大部分はデザインされる。現代人は2.1くらい。次なる飛躍の3.0は技術的段階で、ハードウェアとソフトウェアがデザインされる。言い換えれば、AIとは生命が自らの運命を司って、進化の足かせから完全に解放される段階なのだ。

 第5章では1万年先までのシナリオとして、奴隷としての神のシナリオ、自由論者のユートピア、保護者としての神、善意の独裁者、動物園の飼育係のシナリオ、門番のシナリオ、先祖返りのシナリオ、平等主義者のユートピアのシナリオ、征服者のシナリオと後継者のシナリオ、自滅のシナリオといったさまざまなシナリオがこれでもかと描き出される。が、それはまだ話の途中なのだ。著者が宇宙物理学者だということを忘れてはいけない。

 次の第6章は今後10億年というタイムスケールの話になっていく。ダークエネルギーとかワームホールとか超新星爆発といった話が続き、さらにその先では、「目標」とは何か、「意識」とは何か、といった哲学的な議論が展開されていく。映画『2001年宇宙の旅』を見ているような、あるいは小松左京の『果てしなき流れの果てに』を読んでいるような、何とも不思議な読後感が残る。

 ふと我に返って、頭を左右に振りながら、AIの雇用労働への影響などというこの世のちまちましたネタに頭を切り換える。何だか変な夢を見ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

濱口桂一郎氏が考える『人事の企み』の読みかた

Book 海老原嗣生さんが日経BPのオンライン上で連載してきた『人事の企み』が今月にも書籍として刊行されるということで、その巻末解説(にはなっていない代物)を書かせていただいたのですが、その本が本屋さんに並ぶ前に、一足先にオンラインで公開されるということになったようです。

https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00058/040400040/

 『人事の企み』書籍化にあたり、私が師と仰ぐ雇用のご意見番、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の「hamachan」こと濱口桂一郎氏に解説をいただきました。今回は書籍発行に先立って公開します。

 師匠に解説をしていただけるなんて、この連載をやっていて一番のご褒美です。今までの稿料返します(嘘)。内容もお褒めと叱咤が相半ばするところで、これを読めば読者の皆さんも、自由に意見を言いたくなるのではないですか。まさに、議論の糸口! 

てなことを海老原さんは言ってますが、その実はこういう代物です。

 はじめに一言お断りを。これは完全なミスキャストです。本書の解説を濱口桂一郎などという奴に書かせるという人選は。

 前作の『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ』であれば、ほぼ志を同じうする友軍として、世にはびこるもっともらしいインチキジョブ型論を撃滅するその勇猛果敢を称揚する解説文になったことでしょう。まあ、それはそれでどれだけ意味があるのか分かりませんが。

 ところが本書は、今読み終わった読者諸氏もお分かりのように、徹底して人事労務の実務―「戦略」などという偉そうで役に立たない代物ではなく、まさに人事の現場の「戦術」「作戦」―を伝授しようとしている本です。

 ということは、ばばっちい古文書と横文字の謎文書を持ち出して知ったかぶったかしているだけの濱口桂一郎などという野郎がしゃしゃり出る余地はほとんどないということです。だって、自慢じゃないけど、40年近くの職業人生の中で、人事労務実務に直接携わったことなんて一度もないんですからね。あえて言えば、直近数年間は職場の管理者として否応なしに人事に(も)関わらざるを得ず、メンバーシップ型組織の矛盾を(改めてしみじみと)感じることも多いのですが、それって日本中の何万という管理職諸氏が日々感じていることとなんら選ぶところはなく、本書の解説をする上でなんら取り柄になるようなものではありません。

 なので、これから書くことは、解説になっていません。ただの感想+妄言です。読み終わってから文句を言われないように、あらかじめ釘を刺しておきますね。・・・・・

 

 

 

 

 

 

2022年4月 5日 (火)

『実録 生産性論争』

9784895145237_600 公益財団法人日本生産性本部編『実録 生産性論争』(中央公論事業出版)をお送りいただきました。

昭和30(1955)年に設立された「財団法人日本生産性本部」。その初期に、趣旨となる「生産性」に関して、それがいかなるものなのかについて、経済界、労働界を巻き込んで起こった論争の一部始終を、当該本部で発行された機関紙から、「生産性論争」に絡む記事を抜粋、収録し伝える。生産性本部設立の頃の記事を第一章として、第二~六章では、論争の一部始終を網羅した貴重な記録集。
資料編では、国会会議録から日本生産性本部設立に関する委員会質疑及び参考人意見聴取について当時の雰囲気がわかる貴重な資料のほか、総合誌『中央公論』誌上での堀江正規氏と中山伊知郎氏との数次にわたる論争の軌跡などを掲載している。

800ページを超える分厚い本ですが、「実録」というタイトル通り、いまから70年近くも昔の日本生産性本部が設立された当時の激しい論争を収録した熱気に満ちた本です。こんな本、近頃目にすることはなくなりましたね。

第一章 日本生産性本部の設立
第二章 生産性論争の始まり
第三章 論争の深まりと問題点の明確化
第四章 総同盟の新展開と労組間の変化
第五章 生産性運動へ動き始めた現場
第六章 生産性の浸透と地方への拡大
資料

戦後日本労働運動史をきちんとやろうとするなら、本書に収録された膨大な資料をちゃんと読んでおかないといけないはずです。

 

 

2022年4月 4日 (月)

日本労働弁護団編著『新 労働相談実践マニュアル』

207x300 日本労働弁護団編著『新 労働相談実践マニュアル』をお送りいただきました。

https://roudou-bengodan.org/topics/10790/

■信頼の一冊、改正法・最新判例をカバーして大改訂!

■ハラスメントに関する相談、非正規労働者に関する相談、外国人労働者に関する相談を新設

1995年に刊行され、多くの労働弁護士、労働組合の方々に活用していただいた「労働相談実践マニュアル」を装い新たにし、「新・労働相談実践マニュアル」として刊行しました。

 

 

 

五十嵐充・姚珊編著代表『実務 中国労働法』

94f6ef71c2fde88534685fdd10b56416fc73b1d3 五十嵐充・姚珊 [編著代表] 森・濱田松本法律事務所中国プラクティスグループ[著] 『実務 中国労働法 日中対比で学ぶ最新労務管理』(経団連出版)をお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat3/4cbe6a399ebd9ce357964dcffd2aaf8c0783e306.html

社会主義に基づいた独自の法体系が採用されている中国でビジネスを進めるにあたっては、トラブルに巻き込まれることも少なくありません。実際、労働者の権利意識の高まりもあり、中国における労働紛争案件は増加傾向にあります。中国の人事労務関連の基本的な法律としては、「労働法」「労働契約法」があげられますが、毎年のように変更されるため、適切に対応することが重要です。また、地方ごとのルール(地方性法規等)が制定されていることが多く、地方性法規等と法律との間に齟齬がある場合には、原則的には法律が地方性法規等に優越しますが、実務上は、地方性法規等が優先適用される場面もあり、具体的な行動の前に、必ず労働行政当局に現地の運用を確認しなければなりません。加えて、外国人に対しては異なる労働規制が適用される場合があります。特に就労許可に関する制度は変化も激しく、地方によって運用も異なるため、注意が必要です。
そこで本書では、企業運営にとって欠くことのできない人事労務案件に焦点を絞り、適切な対応策を探っていきます。
中国でビジネスを展開するうえでの実務書としておすすめします。

 

 

2022年4月 3日 (日)

その仕事がしたい者は非正規になり、そんな仕事したくない者が正規としてやってくる世界

Vvcenhvu_400x400 上林陽治さんが私の『試験と研修』のエッセイに対して「痛快」と呟いていたところ、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-800a69.html(公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係@『試験と研修』64号)

https://twitter.com/tokoroshu/status/1510237033268080651

濱口桂一郎「公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係」『試験と研修』(64)22年3月痛快。「非正規公務員問題はじめ公務員制度めぐる諸問題の根源に、様々な公務需要に対応すべき公務員モデルとして徹底的にメンバーシップ型の何でもできるが何もできない総合職モデルしか用意されていないことがある」 ・・・

これに元公務員の方がこういう反応をしていて、

https://twitter.com/MWX2ZYz7Aj29kHm/status/1510449514699980801

 ジョブ型にしたらCWとかやりたがる人いなさそう。

上林さんがこう応えているのですが、

https://twitter.com/tokoroshu/status/1510454108729184261

異動で渋々福祉事務所にくる正職員はケースワーカーや児童福祉司をやりたがる人は稀有でしょうが、今も非正規身分で働くCWや児童虐待対応職員の多くはそれらの職を選んで採用されました。多くは社会福祉士や児童心理士の資格がありますが正規ジョブ型職での採用がないのでやむなく非正規職なのです。 

この元公務員の方の素直な反応もまことにその通りなのであって、専門的公務部門というのは、まさにその仕事がしたい者はジョブ型じゃないがゆえに非正規にならざるを得ず、そんな仕事したくない者がメンバーシップ型であるがゆえにジョブローテーションに載せられていやいや正規としてやって来るという世界になってしまっている、ということなのでしょうね。

 

電電公社の男女平等

510fduhbcl_20220403151801 NTT入社式の社長あいさつが話題のようですが、せっかくなので、NTTになる前の電電公社時代の女性管理職トップバッターであった影山裕子さんに関する話を、拙著『働く女子の運命』からサルベージしておきますね。良きにつけ悪しきにつけ、日本の女性活躍の最前線を走り続けた方であったことは間違いありません。澤田純社長も若い頃は影山さんの在職期間と重なっていた時期があるはずです。

BG扱いに反発した女性
 このBG華やかな時代に、東大経済学部を卒業して電電公社(現NTT)に入社した影山裕子氏は、1968年の著書『女性の能力開発』(日本経営出版会)で、自分のBG扱いされた経験をこう語っています。
・・・実は、私も電電公社で十年ほど前大変みじめな経験を数々させられた。・・・係長は私にだけはこの仕事をやらせてくれないし、出張もさせてくれない。電話の取次ぎと、文書の清書と統計報告ものの集計作業など、典型的BGタイプの仕事しか割り当ててくれないので、たまりかねて「私にも現場指導にいかせて下さい」と頼んだところが、・・・最後に「関東通信局では、女子は出張させないことになっており予算にも積算していない。要するにキミは女だから出張させるわけにはいかない。女を一人出張させれば、局内の他の女子職員も同じように出張させなければならなくなるのでいままでの慣例がこわれる。気の毒だが我慢してくれ」という返事が返ってきた。本人にいかにやる気があろうが、業務知識があろうが、腰かけでなく一生勤めるつもりでいようが、そんなことはおかまいなく、女子に対してはこういう取扱いをするんだというルール(明文化されていると否とにかかわらず)があって、それからは一歩も踏み出すことは許されない。・・・どうせ私なんか女だから駄目なんだと思いつめてやる気をなくして、職業意識の乏しいBGになってもよかったわけである。
 彼女はその後日本では珍しい女性管理職の道を歩んでいきますが、当時同じように例外的に採用された四年制大学卒の女性たちの中には、意欲をなくしてBG化していった人も多かったのではないでしょうか。
 ちなみにこの影山氏は、1964年に書いた『奥様のアルバイト』(カッパ・ブックス)の冒頭でこういうエピソードを披露しています。世間ではこういう意識が一般的な時代であったということです。
 私は、いまから五年まえ、昭和三十四年に離婚した。その原因は、夫が私のアメリカ留学に反対し、会社をやめるように主張したからであった。留学の希望については、結婚まえからじゅうぶん話してあった。夫はすすんで協力すると言っており、結婚後も、将来ずっと社会に出て活動したいという私の希望にも、賛成し、じゅうぶん理解してくれ、むしろ、私を励ましてくれていた。
 しかし、じっさいの問題にぶち当たったとき、封建的な考え方でしか行動できない相手を発見して、私は、おおいに悩んだ。女であり、妻であり、母である以前に、一人の人間として社会に出て働きたい、ということは、私の小さいときからの希望であった。信州の山の中からとび出してきて、東京大学にはいったのも、その希望をつらぬきたかったからだ。

 ・・・この認識は、しかし本章冒頭の高橋展子氏では明確ですし、さらにもっと以前、夫と離婚してアメリカに留学し、日本に戻って電電公社で船橋電報電話局電話運用課長に就いた影山裕子氏が、1961年に『人事管理とその背景』(日刊労働通信社)で指摘していたことでもあります。この「常識」を学界からかき消してしまったのですから、小池理論の影響力がいかに大きかったかが分かります。
「女の子はお茶くみと雑用しかできない。男性より能力が劣る」と固く信じて疑わない封建的で頑迷固陋な人々が女性の企画的管理的ポストへの昇進を妨げている大きな障害であることは言うまでもありませんが、また、使用者の立場に立って考えてみるとそのいい分にも多少無理のないところもあります。たとえば使用者は女性を将来の幹部の卵として採用しない、または企業内訓練に参加させない理由として「女性は結婚すれば退職するから」といいますが、結婚して退職する女性の多いことはたしかです。一つの企業に一生勤めている終身雇用制度があたりまえのわが国では、途中で退職する可能性のある人は重大な欠点を持っていると考えられ、また女性が一般的に退職の可能性が大きいからという理由で「女性は採用しません」といって就職のチャンスさえ与えない傾向があります。ところがアメリカでは男性も女性も一つの企業に一生つとめている訳ではありません。・・・企業が人を採用するにあたって長く勤めているか否かを問題にしないのです。これは女性にとって非常に有利な環境です。将来の幹部の卵として採用した女性が、家事上の都合で退職することになったとしても使用者は別に気にかけないでしょう。同じ時期に入社したB君も、ついさきごろ退職したばかりなのですから。

 

小宮文人『イングランド雇用関係法史』

602974 小宮文人さんより『イングランド雇用関係法史 制定法とコモン・ローの役割の変遷』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b602974.html

 イギリス労働法をより深く理解するために、イギリス中世の雇用関係立法の時代から、
コモン・ロー契約法がほぼ完成した1875年までの雇用関係法、とりわけ労働契約法をとりあげる。
しばしば重層、対立または相補するコモン・ローと立法というイギリス独特の法的環境の中で、
雇用契約法がどのように形成されてきたのかを明らかにする。

イギリス労働法の歴史は、わたしも『団結と参加』をまとめるときに若干勉強したのですが、基本的には団結禁止から放任へという集団的労使関係法の歴史が主旋律で、それとコモンローとか主従法とか雇用契約に関わる法制との関係がなかなか複雑怪奇だなあ、と思っていましたが、そこのところを中心に掘り下げた本書を通読して、ますますわからなくなったというのが正直なところです。

はしがき
序 論
第1章 封建制期の雇用関係立法
 第1節 労働者規制法の時代的背景
 第2節 労働者規制法の概要と意義
 1 強制就労条項
 2 契約条項(職場放棄禁止条項)
 3 賃金条項・価格条項
 4 喜捨禁止条項
 5 治安判事(Justice of Peace)による規制
 6 同法違反に見られる雇用事情
 7 同時代の救貧法
 第3節 本章のまとめ
第2章 絶対王政期の雇用関係立法
 第1節 時代的背景
 第2節 職人規制法の概要
 1 同法の序文
 2 強制的契約条件・就労条項
 3 職場放棄・解雇規制条項
 4 地域移動制限条項
 5 賃金(報酬)額の決定条項
 6 徒弟に関する規定
 第3節 職人規制法とエリザベス救貧法の意義
 第4節 同時代の救貧法
 1 健常浮浪者に対する厳罰
 2 労働不能者に対する救貧策
 3 乞食に対する施しの規制
 4 怠惰な児童の強制奉公
 5 貧困者援護費用の資金調達
 6 1601 年エリザベス救貧法
 第5節 本章のまとめ
第3章 封建制・絶対王政期の雇用関係立法とコモン・ロー
 序 説 本章の研究課題
 第1節 労働者規制法と中世コモン・ロー契約法
 1 コモン・ロー裁判所と契約法
 2 労働者規制法とコモン・ロー契約法の接点
 3 引受訴訟の出現
 4 約因の起源
 第2節 職人・徒弟規制法とコモン・ロー裁判所の対応
 1 本節の課題
 2 同法の賃金条項
 3 同法の徒弟制条項
 第3節 本章のまとめ 74
 第4章 近代コモン・ロー契約法の形成
 序 説 本章の研究課題
 第1節 中世以降の財産の移転と契約
 1 土地不動産
 2 動産の移転
 第2節 契約の自由と意思理論の台頭
 1 契約の観念
 2 契約の位置づけ
 3 近代契約法
 第3節 一般契約法理の展開
 1 本節の考察対象
 2 コモン・ローと衡平法
 3 コモン・ロー裁判所
 4 衡平法裁判所
第5章 主従法立法
 序 説 本章の研究課題
 第1節 時代的背景
 第2節 主従法立法の目的と仕組み
 1 基本的仕組み
 2 目的と特徴
 3 各立法相互の関係
 第3節 主従法の適用対象者
 1 特定職種の労働者
 2 「その他の労務者」、「その他の者」
 3 「労務に服することを約して」
 4 請負人的労働者
 第4節 治安判事の収監命令
 1 収監命令
 2 収監命令は上訴できない
 第5節 主従法の廃止
 1 廃止の背景
 2 1867 年法の内容
 3 1867 年法の特徴
 4 1867 年から1875 年まで
 第6節 本章のまとめ
 付録資料 主要な主従法立法及び団結禁止立法の条文(邦語訳)
 1 主従立法
 2 職業別団結禁止立法
 3 一般的団結禁止法
第6章 近代コモン・ロー雇傭契約法の形成
 序 説 本章の研究課題
 第1節 雇傭契約該当性の判断基準
 第2節 雇傭契約法理の生成
 1 エリザベス職人規制法の時代
 2 コモン・ロー上の雇用終了と指揮命令権
 第3節 近代雇傭契約法理の生成と展開(1875 年まで)
 1 考察対象期間
 2 コモン・ロー上の雇傭契約の終了
 3 1 年雇用の推定
 4 解雇予告期間
 5 違法解雇
 6 雇傭契約の履行強制―特定履行と差止めの命令
 7 雇傭契約の成立・効力要件
 8 雇傭契約上の権利と義務
 第4節 本章のまとめ
第7章 1875 年以降の変化と現代における相互関係
 序 説 本章における研究課題
 第1節 1875 年から1970 年までの雇用関係立法
 第2節 1970 年以降の雇用関係立法
 第3節 現代における雇用関係立法とコモン・ローの相互関係
 1 コモン・ロー裁判所と雇用審判所
 2 雇用関係立法及び契約条項の解釈とコモン・ロー
 3 雇用関係立法のコモン・ローへの反映(相互信頼義務)
 4 雇用関係立法とコモン・ローの救済の共存
 5 労働立法とコモン・ローの救済の分担―雇用契約条件変更
 第4節 本章のまとめ
結 論
事項索引
判例索引 

今プラットフォーム労働をめぐって世界的に問題となっている労働者性についても、イギリスはエンプロイー概念とワーカー概念があって云々という説明がされますが、私も誤解していましたが、これって1990年代になってできてきた概念じゃなかったんですね。

そもそもの淵源を遡ると、1831年のトラック法(現物支給禁止法)に遡り、1875年の使用者・労働者法において奉公人(サーバント)よりも広い概念として労働者(ワークマン)が導入されたことにあり、それが1971年の保守党政権による労使関係法に労働者(ワーカー)として入り込み、さらに有為転変を経て今日に至っているようです。

いや、イギリスはとても複雑怪奇で一読してもまだ頭の中が全然整理されません。

 

2022年4月 2日 (土)

JILPTの第4期プロジェクト研究シリーズ

年度末の3月31日、JILPTの第4期プロジェクト研究シリーズの第1弾として3冊の本が刊行されました。

Cover_no1 第4期プロジェクト研究シリーズNo.1『70歳就業時代における高年齢者雇用』 

年金の支給開始年齢の引き上げや高年齢者雇用安定法の改正に伴い、65歳までの雇用・労働が社会的に定着、普及し、70歳までの就業機会の確保に向けた制度設計が議論されています。高年齢者雇用の促進という社会的な要請に対応するため、企業がどのような人事管理施策を実施し、またそれが個人の働き方にどう影響しているかに注目した研究成果を収録しています。 

Cover_no2 第4期プロジェクト研究シリーズNo.2『全員参加型の社会実現に向けたキャリア支援』 

 年齢、性別を問わず多くの人が生涯を通して長く働くことが想定されるなかで、職業情報を「見える化」し、求職者等の就職活動や企業の採用活動等を支援する「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」が、2020年3月に創設されました。本書では、日本版O-NETに搭載されている職業情報の開発やその内容、どのようなことができるかについて紹介するとともに、今後搭載を予定しているWeb提供型ツールの開発過程を説明しています。また、労働者やキャリアコンサルタントに対する調査結果等を分析し、日本のキャリア支援の現状や、その支援がいつ誰にどのような効果をもたらしているのか等について明らかにしています。

Cover_no3 第4期プロジェクト研究シリーズNo.3『第四次産業革命と労働法政策─“労働4.0”をめぐるドイツ法の動向からみた日本法の課題』 

 "第四次産業革命(Industrie 4.0)"の淵源であり、これに対応するための法政策的議論の蓄積や立法動向(いわゆる"労働4.0")がみられるドイツを分析対象として採り上げ、日本との比較法的考察を行うことで、わが国における労働法政策の現状にかかる評価と今後の課題を提示しています。

この三冊目の本は、ここにきてどどっと本を出している山本陽大さんの単著で、昨年の労働政策研究報告書をベースにさらに最新の情報も加え、この分野における必読の書に仕上がっています。

 

2022年4月 1日 (金)

須網隆夫・21世紀政策研究所編『EUと新しい国際秩序』

08671 須網隆夫・21世紀政策研究所編『EUと新しい国際秩序』(日本評論社)を、その21世紀政策研究所からお送りいただきました。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8671.html

ブレクジット後の英国とEUの政治、経済、法律などの国際秩序はどうなるのか。米国、中国、日本も射程に国際的諸論点を分析。

この本をお送りいただいたいきさつを述べると、先日、この21世紀政策研究会に呼ばれて「EUの労使関係と労働法」についてお話しさせていただく機会があり、その時に、こういう本があるので送りますよと言われていたのです。

21世紀政策研究所は経団連の関係団体ですが、いろんなテーマについて研究している中に「欧州」というのもあります。本書の執筆者の一人である渡邊頼純さんは、わたくしとほぼ同じ頃ブリュッセルのEU日本政府代表部におられて、親しくさせていただきました。今回もその渡邊さんからのお声掛かりで出かけたのですが、大変活発な意見交換をさせていただきました。

Jileu_20220401164101 日本のEU研究はどうしても政治と経済に集中して、労働方面はやや辺疆化しているきらいはありますが、今月には『新・EUの労働法政策』も刊行しますので、少しでもその動向が伝わればと思います。

 

 

神戸大学海事科学研究科海事法規研究会編著『海事法規の解説』

9784425261444 神戸大学海事科学研究科海事法規研究会編著『海事法規の解説』(成山堂書店)を、執筆者の一人である根本到さんよりお送りいただきました。

https://www.seizando.co.jp/book/10466/

海事法規解説の定番書。
海事の理解と運用に必須の16法令を丁寧に解説。商法の改正など最新の法令改正に対応。初学者から海技士・海事代理士の勉強にも役立つ海事法規の入門書。

改題前の『解説 海事法規』の時にも、根本さんから改訂のたびにお送りいただいており、恐縮です。

根本さんが執筆担当されている「第4編 船員法」も、陸上労働法を追いかけていろいろと改正があり、追いかけていくのは大変だろうなと思います。

第4編 船員法
 第1章 序説
  第1節 船員法の意義
  第2節 船員法の構成
  第3節 船員法の沿革
  第4節 船員法の性格
  第5節 他の労働法規との関係
  第6節 船員法の最近の改正
 第2章 総則
  第1節 船員法の適用範囲
  第2節 船員法の基本原則
 第3章 船長の職務権限及び船内紀律
  第1節 船長の権限
  第2節 船長の義務
  第3節 船長の職務の代行
  第4節 争議行為の制限
 第4章 雇入契約及び雇用契約
  第1節 雇入契約の当事者
  第2節 雇入契約に対する船員法の効力
  第3節 雇入契約の締結に関する保護
  第4節 雇入契約の届出
  第5節 雇入契約の終了
  第6節 雇入契約の終了に伴う保護
  第7節 予備船員の雇用契約
  第8節 船員手帳
  第9節 勤務成績証明書
 第5章 労働条件
  第1節 給料その他の報酬
  第2節 労働時間,休日及び定員
  第3節 有給休暇
  第4節 食料並びに安全及び衛生
  第5節 年少船員
  第6節 女子船員
  第7節 災害補償
  第8節 就業規則
  第9節 船員の労働条件等の検査等
 第6章 監督
 第7章 雑則
 第8章 罰則
 第9章 ILO 海上労働条約

 

『生活経済政策』4月号の劉佳さんの書評

Img_month_20220401115601 『生活経済政策』4月号は「分断されるコロナ禍の人々〜社会を紡ぎ直すために何が必要か」が特集で、中には興味深い論考もありますが、ここでは巻末の劉佳さんによる拙著への書評を。

http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/index.html

書評
濱口桂一郎 著『ジョブ型雇用社会とは何か—正社員体制の矛盾と転換』/劉佳 

この書評が面白いのは、「本書は刊行されてから半年も経ち、既に読まれた方も多くいると思われるため、内容に関する紹介を割愛」し、その代わりに本書の中ではどちらかといえば周辺的な外国人に関する記述について、私もそこまで気が付かなかったある指摘をしている点です。

それは、特定技能や「技人国」よりもさらにハイエンドに位置するはずの高度人材について、

・・・その在留資格が所属機関との契約に基づいて発給されるものであるため、著者が言う「就社」の性格が強く、離職や転職する場合には即時失効になる。つまり、高度人材として日本に滞在している限り、離転職の自由がなく、一般的就労ビザより不利な立場に立たされる。この点に関しては離転職ができない技能実習生と似ている。・・・ハイエンド人材を優遇するために作られた制度だが、皮肉な矛盾が露呈している。・・・

と語っている点で、これは私もそこまで頭が回っていませんでした。かくも、外国人労働問題というのは奥が深いのです。

最後に劉佳さんは本書について、

・・・筆者の母国ではジョブ型雇用が主流であり、それなりの問題点もある中でメンバーシップ型より確実に優れているとは言い難い。ただし、雇用においても日本だけがガラパゴス化しているのは事実である。著者が指摘したように、「ジョブ型に転換すべき」と称える前に、ジョブ型という概念を正しく理解する必要がある。・・・

と述べており、中国というまさに正真正銘のジョブ型の社会から日本にやってきた方による評語であるだけにしみじみと沁みります。

 

 

 

 

 

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