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2022年3月19日 (土)

誤解だらけの「能力」不足解雇@『ジョブ型雇用社会とは何か』

発想の基本がメンバーシップ型のまま、局部的に「ジョブ型」を論じると、おかしな議論がいっぱい湧いてきますが、その一つの典型がツイッター上に見受けられたので、そのまま使える『ジョブ型雇用社会とは何か』の一節をもって説明に代えておきます。

https://twitter.com/zalgo3/status/1504729499522715648

総合職採用だと,「その会社が扱うあらゆる職種に適正がないこと」を立証しないと無能を解雇することができないが,ジョブ型雇用だと,「その職種に適正がないこと」だけを立証すれば解雇できるので,ジョブ型への移行は実質的に解雇規制の緩和につながるって見解を見て,ほえーとなった

https://www.iwanami.co.jp/book/b589310.html

71cahqvlel_20220319111901 ジョブ型社会では能力不足で解雇し放題?
 もう少し複雑で、慎重な手つきで分析する必要があるのが、序章で述べた東京新聞の記事に見られるような、ジョブ型では「能力不足でも解雇」されるという議論です。これも、雇用契約でジョブが特定されている以上、そのジョブのスキルが求められる水準に達していなければ解雇の正当な理由になるのは間違いありません。ただ、ここでも、基礎の基礎に立ち返って、ジョブ型ではどのように採用され、どのように就労していくのかということをしっかりとわきまえた上で議論をしないといけません。極めて多くの人々は、ジョブ型社会ではありえないメンバーシップ型社会の常識を無意識裡に平然と混入させて、日本的な「能力」不足を理由に解雇し放題であるかのように思いなしていますが、それは全く間違っています。
 まずもって、何のスキルもない白紙同然の若者を、入社してから上司や先輩がびしびし鍛えていくことを前提に、新卒採用する日本の常識を捨てなければなりません。メンバーシップ型社会における「能力」不足とは、いかなる意味でも特定のジョブのスキルが足りないという意味ではありません。上司や先輩が鍛えても「能力」が上がらない、あるいはやる気がないといった、まさに能力考課、情意考課で低く評価されるような意味での、極めて特殊な、日本以外の社会では到底通じないような「能力」不足を意味します。そういう「能力」不足に対しては、日本の裁判所は、丁寧に教育訓練を施し、能力を開花させ、発揮できるようにしろと要求しています。しかしそれは、メンバーシップ型自体の中に既に含まれている規範です。それゆえに、正当な理由のない解雇はダメという普遍的な規範が、メンバーシップ型の下でそのように解釈されざるを得ないのです。

ジョブ型社会のスキル不足解雇
 これに対して、再度基礎の基礎に立ち返って考えれば、ジョブ型社会においては、あらかじめその具体的内容と価格が設定されたジョブという枠に、そのジョブを遂行する能力がある人間をはめ込むのですから、能力不足か否かが問題になりうるのは、採用後の一定期間に限られます。採用面接では「私はその仕事ができます」と言っていたのに、実際に採用してやらしてみたら全然できないじゃないか、というような場合です。そして、そういうときに解雇できるようにするために、前述した試用期間という制度があるのです。逆に、試用期間を超えて、長年そのジョブをやらせていて、言い換えればそのジョブのスキルに文句をつけないでずっと労務を受領し続けておいて、5年も10年も経ってから能力不足だなどと言いがかりをつけて認められる可能性はほとんどないのです。
 こういう話をすると、多くの日本人は、「いやいや、5年も10年も経っていたら、もっと上の難しい仕事をしているはずだから、その仕事に「能力不足」ということはありうるんじゃないか」と言いたがります。それがメンバーシップ型の常識にどっぷり浸かって、ジョブ型を本当には理解していないということなのです。5年後、10年後に採用されたジョブとは別のジョブに就いているとしたら、それはそのジョブの社内外に対する公募に応募して採用されたからでしょう。ジョブ型社会においては、社外から社内のジョブに採用されるのも、社内から別の社内のジョブに採用されるのも、本質的には同じことです。今までのジョブはこなせていた人が、新たなジョブでは能力不足と判断されることは十分ありえます。その場合、もちろん解雇の正当性はありますが、元のより低いジョブに戻ってもらうのが一般的でしょう。なぜならそちらは十分こなせることは実証済みなのですから。

 

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