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2022年3月

2022年3月31日 (木)

諸外国のテレワークとハラスメントの法制

年度末ということで、JILPTでもどっと山のような報告書がアップされています。そのうち、わたくしも1章を執筆したものとして、テレワークとハラスメントに関する諸外国の法制に関する報告書があります。

Covertelework まず、『労働政策研究報告書No.219 諸外国における雇用型テレワークに関する法制度等の調査研究』は、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、EU/ILOが対象です。

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2022/documents/0219.pdf

執筆は以下の通り

アメリカ:池添 弘邦労働政策研究・研修機構 副統括研究員
ドイツ:山本 陽大労働政策研究・研修機構 副主任研究員
フランス:河野 奈月明治学院大学法学部 准教授
イギリス:滝原 啓允労働政策研究・研修機構 研究員
EU/ILO:濱口 桂一郎労働政策研究・研修機構 研究所長 

Coverharass 次に『労働政策研究報告書No.216 諸外国におけるハラスメントに係る法制』も、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、EUが対象です。

イギリス:滝原 啓允 労働政策研究・研修機構 労使関係部門 研究員
アメリカ:藤木 貴史 帝京大学 法学部 助教
ドイツ:原 俊之 明治大学 法学部 講師
フランス:細川 良 青山学院大学 法学部 教授
EU:濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長

その他、労働の各分野にわたって膨大な数の報告書が一気にアップされていますので、気長に少しずつ読んでいただければ、と。

 

「年齢上がれば能力も向上」は建前 ジョブ型専門家が企業の本音分析@朝日新聞

As20220330002560_comm 本日の朝日新聞は1面と3面で「ジョブ型」を取り上げていまして、その最後の方で私もちょびっとだけ喋っていますが、

https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z6TX2Q3ZULFA019.html

https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z6W1YQ3ZULFA01D.html

紙版ではこれだけですが、ネット版ではわたくしのかなり詳しいインタビュー記事が載っています。

https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z6VR6Q3ZULFA00K.html

 「ジョブ型雇用」が国内の大企業を中心に広まっている。年功序列型賃金といったこれまでの雇用慣行を見直そうとするものだ。ジョブ型雇用という言葉の生みの親とされる労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎所長に、企業側のねらいや労働者への影響などについて聞いた。

 ――多くの企業がジョブ型雇用に注目しています。

 「いま導入されようとしているのは『ジョブ型っぽいもの』だ。海外で一般的な本来のジョブ型は、まずジョブ(職務)があり、そこに遂行できるスキル(技能)をもったヒトをはめ込む。賃金はジョブに基づいて決める。例えるなら、あらかじめ椅子に値札が貼ってあって、そこにヒトが採用されて座る。採用は基本的に椅子が空く時の欠員募集で、椅子そのものがなくなればやめてもらうことになる」

 「これに対し、日本特有のメンバーシップ型雇用は、採用時にジョブが特定されていない。会員・成員(メンバーシップ)は何にでもなれるiPS細胞のようなもので、会社の命令によってジョブがその都度決まる。賃金はジョブと切り離した『ヒト基準』で、勤続年数や年齢、能力によって評価される。ここで言う能力とは、会社の命令に従って柔軟に対応できる力だ。あるジョブがなくなったとしても異動させて雇用が維持される」

 ――導入されようとしているのはジョブ型ではないのですか。

 「新卒一括採用という入り口は変えず、ジョブ型っぽい人事制度のレールを敷く。いわば社内ジョブ型で・・・・・・・

中身は拙著で繰り返し語っていることですが、改めて読んでいただければ、いくつか新しい言い回しもしております。

 

2022年3月30日 (水)

クラウドワーカーの労働者性に関する海外の動向@『労働法律旬報』2022年3月下旬号

603259 下の日本CSR普及協会の研修セミナーのテーマとも重なりますが、 『労働法律旬報』2022年3月下旬号が「クラウドワーカーの労働者性に関する海外の動向」という特集を組んでいて、大変勉強になります。

https://www.junposha.com/book/b603259.html

[特集]クラウドワーカーの労働者性に関する海外の動向
プラットフォーム労働に従事する就労者の労働者性―欧米の動向との比較を中心に=沼田雅之…………06
フランスにおけるプラットフォーム型就労と労働契約性=小林大祐…………17
アメリカ法におけるプラットフォームワーカーの被用者性の素描=藤木貴史…………27
イギリスにおけるクラウドワーカーの労働者性に係る政策動向=滝原啓允…………40

このうち、とりわけ勉強になるのは、藤木さんのアメリカの論考です。ヨーロッパのことはEUである程度まとめてくれるので、大体の見取り図が頭の中に描けるのですが、アメリカという国はまことに複雑怪奇で、正直今までも、カリフォルニア州のどたばたについて断片的な情報を齧っているだけで、全体像というのはよく分かっていませんでした。よく分かっていなかったということを思い知らされたのがこの藤木さんの論文によってです。

これに限りませんが、アメリカというのは戦後日本にとってもっとも密接な政治経済関係を有する国であるにもかかわらず、法体系の違いからなかなかその姿がきちんと伝わらない国ですね。

例えば労働法という分野をとってみても、(ジェンダーとか障害といった特殊領域を除けば)アメリカの労働法制の全体像をきちんと描ける人は、もう老境に入りかけている大御所を除けば、若手にはほとんどいないのが実情です。その数少ないアメリカ労働法の専門家がこの藤木さんで、素人にはよく分からない世界をとてもクリアに示してくれる大変得がたい人材の一人です。

 

 

 

 

日本CSR普及協会2022年度第1回研修セミナー「ギグワーカーの現状と労働法制の今後について」のご案内

日本CSR普及協会2022年度第1回研修セミナー「ギグワーカーの現状と労働法制の今後について」のご案内です。

https://jcsr-labor-gigworker.peatix.com/

 多様な働き方を提供するプラットフォームの拡大に伴って、従来の『自営』ではなく『労働者』と同様に自己の労働力を提供して収入を確保する『ギグワーカー』または『フリーランス』と呼ばれる個人が増加しています。雇用される労働者のなかにも、自己の能力の活用や発展を目指す、あるいは賃金収入の不足を補うなど様々なニーズから兼業副業としてギグワーカーやフリーランスを選択する人が出ています。
 この様な多様な働き方に現在の労働法制は適合しているのか、労働側からも企業側からもその再検討が求められているところです。
 本セミナーでは、労使それぞれの立場でギグワーカーの現状等に詳しい弁護士2名と労働政策研究の第一人者であり、多数の情報発信を行われている濱口桂一郎氏をお招きして最先端の議論を展開していただきます。

日時  2022年4月6日(水)午後2時~午後5時
場所  ZOOMによるオンライン開催
内容  1)「労働側から見るギグワーカー・フリーランスの現状と問題点」
     【講師】 川上 資人(弁護士・早稲田リーガルコモンズ法律事務所)
    2)「企業側から見るギグワーカー・フリーランスの活用と法的課題」
     【講師】 倉重 公太朗(弁護士・倉重・近衛・森田法律事務所)
    3)「EUから見るギグワーカー・フリーランスの法政策」
     【講師】 濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)
    4) パネルディスカッション 「多様な働き方に望ましい労働法制を検討する」
     【司会】 木下潮音(弁護士・日本CSR普及協会理事) 
     【パネリスト】濱口 桂一郎、倉重 公太朗、川上 資人

お申し込みは4月1日までです。

 

2022年3月29日 (火)

『労働関係法規集 2022年版』の特徴

Houkishu2022_20220329230201 JILPTの『労働関係法規集 2022年版』が刊行されました。例年通り3月末の刊行ですが、今回は利用者の利便のためにある工夫をしています。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/houkishu.html

それは、本日参議院厚生労働委員会で可決され、明日の本会議で成立することが見込まれる雇用保険法改正案による改正後の雇用保険法、職業安定法及び職業能力開発促進法の条文を載せていることです。今回の改正案は、特に労働法上重要な職業安定法の改正の相当部分が今週金曜日の4月1日の施行となっており、来月早々から新条文を参照する必要も出てくることが予想されることから、そういう工夫をしております。

その他、同じく4月1日から施行される労災保険の特別加入にあんまマッサージ師を追加する省令改正など、重要な最新の改正までを盛り込んでいますので、是非ご活用いただければと思います。

 

 

 

ブックレット『フリーランスの労働法政策』

Booklet03220315 JILPTからブックレット『フリーランスの労働法政策』を刊行しました。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/booklet/03.html

その「はじめに」のところを引用しておきます。

 2020年からのコロナ禍では、雇用調整助成金など雇用維持措置や非正規労働者への保護拡大の問題とともに、新たな働き方としてのテレワークとフリーランスが注目を集めました。労働政策研究・研修機構(JILPT)では、同年820日に東京労働大学特別講座「新型コロナウイルスと労働政策の未来」を開催し、それらの問題を概観的に解説するとともに、その内容を同年12月に同題のブックレットとして刊行しました。さらに翌202133日と同月17日には、そのうちフリーランスとテレワークについて対象を絞った形で東京労働大学特別講座を開催し、テレワークの回については同年6月に、JILPTのテレワークに関する調査結果と併せてブックレットとして刊行しています。

 フリーランスについてすぐにブックレットにしなかったのは、ちょうど政府のフリーランス対策が大きく動いているところであったためであり、また諸外国のフリーランス政策も変化のさなかで、しばらく様子を見た方がいいと考えたからです。2021年にもさまざまな新たな政策が登場し、また年末にはEUのプラットフォーム労働指令案が提案されるに至り、そこまでを昨年の講演内容に書き加えた上で、今回遅ればせながらブックレットとして刊行することとしました。ベースは特別講座の講演記録ですので、労働法学の観点から本格的に論じるというよりは、今進んでいる事態の全貌をできるだけ分かりやすく伝えるということに焦点を当てています。

 議論がやや突っ込み不足になっている点を補うために、関係資料をできるだけ多くまとまった形で巻末に収録してありますので、それらを照らし合わせながら読んでいただけると幸いです。

内容は以下の通りです。

Ⅰ フリーランス問題の概観
1 フリーランス問題の経緯
2 家内労働法
3 自営型テレワークガイドライン
4 労働者性の判断基準
5 雇用類似就業への政策
6 フリーランスガイドライン
7 新たなフリーランス保護法制の立法
8 労災保険の特別加入
9 一人親方の安全衛生対策
10 小学校休業等対応支援金
11 持続化給付金
12 税法上の労働者性
13 フリーランスの失業給付
14 フリーランスの職業紹介
15 高齢者・障害者の非雇用型就業政策
16 フリーランスの労働組合・団体交渉
Ⅱ JILPTのフリーランス関係調査
1 JILPTの雇用類似就業者調査
2 コロナ禍でのフリーランスの実情
3 労働者性スコア
4 労働者性に係る監督復命書等の内容分析
(1) 全体的状況
(2) 職種別の特徴
5 雇用類似就業者へのヒアリング
Ⅲ 諸外国におけるフリーランス労働政策
1 イギリス
2 ドイツ
3 フランス
4 アメリカ
5 韓国
6 中国
7 EU
(1) オンライン仲介サービス規則
(2) プラットフォーム労働条件指令案
(3) 自営業者の団体交渉権 

【資料編】
【資料1】家内労働法(昭和45年5月16日法律第60号)
【資料2】自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン(平成30年2月2日雇均発0202第1号)
【資料3】労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)
【資料4】働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)
【資料5】雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会中間整理(令和元年6月28日)
【資料6】フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)
【資料7】新しい資本主義実現会議緊急提言「未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて」(令和3年11月8日)
【資料8】労働者災害補償保険法(昭和22年4月7日法律第50号)
【資料9】労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年9月1日労働省令第22号)
【資料10】建設アスベスト事件(神奈川一陣)最高裁判決(令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷判決)
【資料11】労働安全衛生規則(2022年1月31日労政審安全衛生分科会で了承された省令案要綱)
【資料12】建設業の一人親方問題に関する検討会 中間取りまとめ(令和3年3月19日)
【資料13】新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金(委託を受けて個人で仕事をする方向け)支給要領
【資料14】第201回国会衆議院予算委員会(令和2年5月11日)会議録
【資料15】持続化給付金申請規程(主たる収入を雑所得・給与所得で確定申告した個人事業者等向け)(2021年1月15日)
【資料16】グループ社員による持続化給付金の不適切な申請および受給について(2020年6月18日)
【資料17】所得税法(昭和40年3月31日法律第33号)
【資料18】所得税基本通達(昭和45年7月1日国税庁長官)
【資料19】欧州先進国における自営業者向けの 失業・労災給付の整備状況(令和3年4月13日経済財政諮問会義資料1-2「ヒューマン・ニューディールの実現に向けて(参考資料)(有識者議員提出資料)」)
【資料20】雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱(令和4年1月13日労働政策審議会に諮問答申)
【資料21】個人請負型就業者に関する研究会報告書(平成22年4月28日)
【資料22】募集情報等提供事業等の適正な運営について(令和元年9月6日職発0906第3号)
【資料23】労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会報告書(令和3年7月13日)
【資料24】高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年5月25日法律第68号)
【資料25】高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年5月25日法律第68号)
【資料26】障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年7月25日法律第123号)
【資料27】障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年11月7日法律第123号)
【資料28】労使関係法研究会報告(平成23年7月25日)
【資料29】中小企業等協同組合法(昭和24年6月1日法律第181号)
【資料30】ウーバーイーツユニオン「労災保険制度の見直しに関する要望書」(2020年8月13日)
【資料31】ドイツ民法典
【資料32】労働協約法(TVG)
【資料33】オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性を促進する欧州議会と理事会の規則(Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services)(2019/1150)
【資料34】プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」(Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on improving working conditions in platform work)(COM(2021)762)

最後のEU規則とEU指令案についても全文和訳を掲載しておりますので、何かのお役に立つかもしれません。

なお、このブックレットに関して、JILPTのホームページにリサーチアイを書いております。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/072_220328.html

さらっと読んでいただければと思います。

 

2022年3月28日 (月)

冷戦思想を「脱陣営化」すべき時@ソーシャル・ヨーロッパ

Pics1115x115 例によって欧州左派の集まりであるソーシャル・ヨーロッパからですが、このシェリ・バーマンさんのエッセイは、今の日本にもちらちらと見え隠れする連中と同じようなのがヨーロッパにもやはりちらちらといるんだな、というのがよく分かって、大変面白い。

題して「Time to decamp from cold-war ideas」。なかなか訳すのが難しいですが、冷戦思想を「decamp」するときだ、と言っているんですが、この「decamp」、辞書を引くと戦場で野営を引き払うという意味なんですが、文中に出てくる「campism」(陣営主義)から脱却しろよ、という意味にもなっていて、しかも今現前のウクライナの戦場のイメージと重ね焼きされるような絶妙な用語の選定になっていて、それだけでじわじわ味わえます。

https://socialeurope.eu/time-to-decamp-from-cold-war-ideas

 The Russian invasion of Ukraine presents the greatest threat to peace in Europe since the end of the cold war and the wars in former Yugoslavia. Maintaining peace throughout the globe is one of the left’s primary goals, so its responses to this crisis are critical. Unfortunately, parts of the left remain mired in a pathology which weakened it morally and politically during the cold war—‘campism’.

ロシアのウクライナ侵略は冷戦終結と旧ユーゴスラビア戦争以来の欧州の平和への大きな脅威となっている。全地球上に平和を維持することは左翼の第一の目標であり、だからこの危機に対するその対応は重要だ。不幸なことに、左翼の一部は、冷戦期に左翼を道徳的にも政治的にも弱体化させた病理-「陣営主義」の泥沼に未だにぬかるんでいる。

Campism views the world as divided into two hostile camps: an aggressive, imperialist one led by the United States and an anti-imperialist one composed of America’s ‘opponents’. During the cold war, this Manichean worldview led parts of the left to rationalise or ignore crimes committed by the Soviet Union, China and other adversaries of the US.

陣営主義は世界を2つの対立する陣営に分かれているとみる。アメリカに率いられる攻撃的で帝国主義的な陣営と、アメリカの「敵」から構成される反帝国主義の陣営だ。冷戦の間、このマニ教的な世界像は左翼の一部をして、ソ連、中国その他のアメリカの敵国によって行われた犯罪を合理化し、無視するように導いた。

Although the cold war ended, parts of the left remain mired in this worldview, allowing its responses to world events to be driven by what it opposes (the US), rather than what it stands for—progressive principles. This has led parts of the left to blame the US for the invasion of Ukraine, it having purportedly threatened Russia via the ‘expansionist drive’ of the North Atlantic Treaty Organization.

冷戦は終わったにも関わらず、左翼の一部はなおこの世界像の泥沼にぬかるみ、世界の出来事へのその反応を、その立場に立つべき進歩主義的原則よりも、その敵対する者が誰か(アメリカ)によって駆動されることを許している。これが左翼の一部をしてウクライナ侵略について、NATOの拡大を通じてロシアを意図的に脅かしたのだとアメリカを責め立てることをもたらしている。

 ふむ、というわけで、日本にもちらちらといますね。こういう「陣営主義」の泥沼に未だにぬかるんでいる連中が。

  

 

『現代ドイツ労働法令集』

Dehoureishu 山本陽大[編著] 井川志郎,植村新,榊原嘉明[著]『現代ドイツ労働法令集』が刊行されました。値段のついた一般販売書籍として出版されました、といった方がいいかもしれません。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/de-houreishu.html

ドイツにおける主要な労働関係法令を邦語訳
各法令に関して簡単に解説

わが国における労働法政策は、その立案・形成過程において、諸外国の労働法制が参照されるのが通例ですが、なかでも伝統的に日本の労働法の形成に大きな影響を与えてきたドイツに関しては、当該立法政策上のテーマをめぐり、かの国の労働法制がいかなる規制を行っているのかについて、調査研究が実施されることが少なくありません。本書は、このような状況に鑑み、ドイツにおける主要な労働関係法令についての邦語訳を提供するものです。また、各法令の邦語訳の冒頭では、当該法令に関する簡単な解説を行なっています。

資料シリーズ所収の法令に加えて、労働者発明法、賃金透明化法、母性保護法、労働者裁判所法の邦語訳が追加されるとともに、各法令ごとに簡単な解説(といってもこれがなかなかよくできている)がついています。

手元に置いて便利な一冊というだけではなく、各解説を拾い読みするだけで現代ドイツ労働法のエスキースが頭に染み渡ります。

雇用調整助成金支給実績累計5兆円@『労務事情』2022年4月1日号

Image0_20220328132701 産労総研から出ている『労務事情』に、また「数字から読む日本の雇用」という連載を始めました。5年前の「気になる数字」と同様、労働に関わる数字をタイトルに掲げてあれこれ論ずるという趣向です。

新生第1回の今回は「雇用調整助成金支給実績累計5兆円」です。先日も都内某所でちらりと喋りましたが、今回のコロナ禍で緊急に雇用維持政策を採ったという点でヨーロッパ諸国と日本は軌を一にしていた・・・はずなんですが、2年経ってみるとなんとも異なる様相を呈するに至っています。

 タイトルは分かりやすく丸めましたが、正確に言えば2020年4月以来のコロナ禍の特例措置による雇用保険被保険者向けの雇用調整助成金と非被保険者向けの緊急雇用安定助成金の合計の金額であり、3月4日現在では5兆4163億円です。ちなみに支給決定件数は累計592万件です。・・・・

 

 

障害とスキルと『能力』の関係

こういうツイートが話題になっていたようですが、

https://twitter.com/KojimaTakeshi1/status/1507571545727967233

おれ、スゲー勉強して、京大行って、博士号とって、研究員として雇用もされてたんだよ。でも、精神障害者になったとたん、就労支援作業所でやる作業が、大量の布おむつカバーを畳む、なんだよな(埼玉県中央部)。
 
日本スゲー、よな
‼

71ttguu0eal_20220328092301 これに「ホントスゲーおかしい! 」とか「これをシュールと言わずして何をシュールと言おう 」という反応がされていますが、いやいや日本社会のソシオグラマーからすれば何もおかしいことはないのです。そこのところを、『ジョブ型雇用社会とは何か』の「メンバーシップ型になじまない障害者雇用」から一節引用しておきましょう。

障害とスキルと「能力」の関係
 改めて、雇用における障害とは何かを考えてみましょう。障害とは日常生活や社会生活における行動を制約する心身の特徴ですが、職業生活との関係で考えれば、その障害が遂行するべき仕事にとって不可欠な部分に関わることもあれば、そうでないこともあります。障害者は全て何らかの特定の部分についての障害を有する者なのであって、他の部分では必ずしも障害を有しているわけではありません。肢体不自由な身体障害者であっても事務作業は抜群にできるかもしれませんし、知的障害者であっても辛抱強く単純作業をこなせるかもしれませんし、精神障害者であってもマイペースでやれる仕事には向いているかもしれません。
 ジョブ型社会においては、採用とはそのジョブに最もふさわしいスキルを有するヒトを当てはめることです。健常者であっても障害者であってもその点に変わりはありません。違うのは、そのジョブにふさわしいスキル以外の点です。そのジョブをこなすスキルは十分持っているけれども、そのスキルとは直接関係のない部分で障害があり、その障害に対応するためには余計なコストがかかるので、例えば車椅子で作業してもらおうとすると職場を改造しなくてはならないので、その障害者を採用しないというケースが典型的です。個々のジョブレベルではそれは不合理な決定です。しかし企業の採算というレベルでは合理的な判断です。とはいえマクロ社会的な観点からはスキルのある障害者を有効に活用できないのでやはり不合理な決定と言わざるを得ません。この不整合を是正し、ミクロなジョブレベルでもマクロな社会レベルでも合理的な決定に企業を持って行くためのロジックが合理的配慮という発想です。差別禁止と合理的配慮という組み合わせは、ジョブ型社会の基本理念に基づくものなのです。
 ところがメンバーシップ型社会では、その全ての基本になるべきジョブやスキルの概念が存在しません。その代わりにあるのは無限定正社員とその不可視の「能力」です。そういう社会の中に、特定のジョブのスキルは十分あるけれどもそれ以外の部分で就労を困難にする要因がある障害者をうまくはめ込むのは至難の業になります。障害者には日本的な意味での「能力」があると言えるのか。考えれば考えるほど答えが出ない領域です。これまでの日本の障害者雇用政策がもっぱら雇用率制度により、別枠として一定数の障害者を雇用させる手法に頼り、とりわけ特例子会社というような形で人事労務管理も完全別立てにすることが多かった理由はそこにあります。

 

 

 

 

2022年3月25日 (金)

『Japan Labor Issues』3・4月号

Jli2204 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』の3・4月号が発行されました。こちらは一足先に電子版オンリーになっております。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2022/037-00.pdf

Trends
The Impact of COVID-19 on Employment and Labor MHLW's White Paper on the Labor Economy 2021 
Research
Remote Work and Job Satisfaction that Depends on Personality Traits: Evidence from Japan TAKAMI Tomohiro
Judgments and Orders
Claim for Unpaid Overtime by a Public School Teacher The Saitama Prefecture Case HAMAGUCHI Keiichiro
Special Feature on Research Papers (II)
The Future of the Japanese Long-Term Employment Society: The Consequences of Post-Industrialization and Increase of Unmarried Workers IKEDA Shingou, TAGAMI Kota, SAKAI Kazufumi (JILPT)
Why Do Firms Concentrate in Tokyo? An Economic Geography Perspective MIZUNO Masahiko (Osaka Prefecture University)
Trends in Task Distribution in Japan, 1990-2015: Evidence from the Occupational Information Network of Japan and the Population Census Data KOMATSU Kyoko (JILPT)MUGIYAMA Ryota (Gakushuin University) 

判例解説は、わたくしが埼玉県事件(公立学校教師の残業代請求事件)を取り上げております。

III. Commentary
 While this case has also attracted public attention, it must be said that the judgment itself is extremely poor. Firstly, the part in which Y’s claims regarding the unique character of teachers’ work are directly accepted does not stand up to logical analysis. It is certainly true that teachers’ work is unique in comparison with the work of typical workers, in the sense that teachers may receive relatively little directions and orders and be allowed scope for independent decisions. Given such unique aspects, it can be suggested that the approach of establishing a special exemption for regulating teachers’ working hours is to some extent rational. However, the unique characteristics of teachers’ work that are referred to are the unique aspects of teachers as an occupation, which are entirely consistent across all types of schools, whether they be national, public, or private schools. At present, it is only public school teachers who are exempt from the application of Article 37 of the LSA and to whom the EPSA is applied. In the case of both national school teachers and private school teachers, the provisions of the LSA are applied in full. Is this to suggest that such teachers’ work does not involve the scope for independence and individual discretion that public school teachers are allowed? 

Ⅲ 解説
 本件は社会的にも注目された事案であるが、判決自体としては極めて出来の悪いものと言わざるを得ない。まず、Y側の主張をそのまま受け入れている教員の職務の特殊性の部分は論理的に破綻している。教員の職務に指揮命令性の希薄さ、自律的判断の可能性など、一般労働者の職務と比べて特殊性があることは確かである。その特殊性にかんがみて、教員の労働時間規制について特例を設けること自体には一定の合理性があると考えられる。しかしながら、そこで言われている教員の特殊性は、国立学校でも公立学校でも、私立学校でも全く変わりのない職種としての教員の特殊性である。現時点において、労基法37条が適用除外され、給特法が適用されているのは公立学校の教員のみであり、国立学校教員も私立学校教員も労基法の規定がフルに適用されている。彼らには公立学校教員が有する裁量性や自律性がないのであろうか?

 

『新しい労働社会』が第13刷

Image0-10 『ジョブ型雇用社会とは何か』の余波で、2009年に出した『新しい労働社会』も第13刷目に到達しました。

今度は「編集長がすすめる岩波新書」という企画向けらしい新しい帯が付けられています。「<働く>の未来定番!」だそうです。

 

『ビジネス・レーバー・トレンド』2022年4月号

202204 紙媒体としての発行としては最後になる『ビジネス・レーバー・トレンド』2022年4月号は、昨年11月の労働政策フォーラム「同一労働同一賃金をめぐる課題」が特集です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2022/04/index.html

労働政策フォーラム 多様な働き方を考える――「同一労働同一賃金」ルールをめぐる現状と課題
【基調講演】「同一労働同一賃金」ルールについて 牧野 利香 厚生労働省雇用環境・均等局有期・短時間労働課長
【研究報告1】同一労働同一賃金ルールに企業はどう対応しているのか 「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」結果より 渡邊 木綿子 JILPT主任調査員
【研究報告2】判例から考える公正な待遇の確保に関する課題 原 昌登 成蹊大学法学部教授
【事例報告1】均衡・均等待遇化の運動の到達点 三橋 沙織 UAゼンセンイオングループ労働組合連合会 イオンリテールワーカーズユニオン中央執行書記次長
【事例報告2】多様な働き方を考える――「同一労働同一賃金」ルールをめぐる実態と課題 伊藤 秀紀 エフコープ生協労働組合中央執行委員長
【事例報告3】多様な働き方を考える――「同一労働同一賃金」ルールをめぐる実態と課題 松崎 宏則 公益社団法人全日本トラック協会常務理事
【パネルディスカッション】コーディネーター:濱口桂一郎JILPT研究所長 

Trend2204

ちなみに次号(5月号)から電子媒体のみとなりますが、その特集はやはり今年1月にやった労働政策フォーラムで、テーマは兼業・副業です。

 

 

 

玄田有史・萩原牧子編『仕事から見た「2020年」』

28060 玄田有史・萩原牧子編『仕事から見た「2020年」結局、働き方は変わらなかったのか? 』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428063/

◆ データによる「歴史証言」 ◆
テレワーク、おうち時間、仕事満足度など、地球規模で席巻したコロナ・パンデミックは人々の暮らしと働き方に大きな影響を与えた。この変化は一時的なものか、それとも旧弊を払拭する転機となったのか。
リクルートワークス研究所が実施した全国就業実態パネル調査と臨時追跡調査のデータを用いて同一個人の働き方の変容などを多角的に分析し、わが国の労働市場にはどんな構造変化が起きたのかを検証する貴重な「歴史証言」書。
▼コロナショックによる働き方の変化は、社会と働き手にどんな影響をもたらしたのか。
▼「2020年に起こったこと」を正しく理解するための画期的な一書。
・ リクルートワークス研究所が2016年より継続して行ってきた、約5万人を対象とする、  生活や働き方に関する貴重な大規模パネル調査をもとに、日本史のなかでも一つの分岐点になるであろう「2020年」がどういう年であったのかを、仕事の観点から詳らかにしていく。
・ このパネル調査は現在も継続中であり、感染拡大する前後における同一個人の働き方の変化を明らかにできる、唯一無二の統計情報となっている。近視眼的な読み解きではなく、「歴史証言」として長く読まれることを想定し編まれた稀有な作品。 

内容は以下の通りですが、

序 章 調査の概要と各章共通で使用する図表(リクルートワークス研究所)
第1章 働き方の柔軟性と新たな格差(山本)
第2章 雇用の二極化を検証する(照山)
第3章 都会の仕事、田舎の仕事――感染による地域間格差への影響(阿部)
第4章 感染拡大と「働きがい」の変化と格差――ワーク・エンゲージメントの視点(久米)
第5章 感染拡大が引き起こした企業規模間格差――「規模」から浮かび上がる格差の実態(茂木)
第6章 キャリアを通した階層移動の機会(三輪)
第7章 テレワークへの移行と定着、そして効果(萩原)
第8章 テレワークの普及に必要となる労働者代表――孤立を防ぐための集団交渉(玄田)
第9章 休業が在職者にもたらした帰結とは――収入・満足度等への影響(太田)
第10章 休業手当は就業継続につながったのか――手当支給の影響と効果(久米)
第11章 子どもを持つ就業者のワーク・ライフ・バランスは変化したのか(大谷)
第12章 社会人にとって「学び」の持つ意味とは――2020年は学習を変えたのか(孫)
終 章 総括――結局、何が変わり、何が変わらなかったのか?(玄田)

最後の終章で玄田さんは、「三重の格差の出現」という苦い認識を示しています。これまでは所得と安定の代わりに柔軟性の欠けた正社員と非正規の二重の格差が存在していたが、コロナ禍で正規の一部が所得と安定に加えて柔軟性も手に入れて、このいずれにも恵まれた上層部とそうでない人々の間で三重の格差が出現しているというのです。

これ、玄田さん流行らせようとしているな、と思いましたが、でも確かに今回、毎日出勤せざるを得ない人とほとんど出社していない人がいるな、というのは感じましたね。

 

 

 

2022年3月24日 (木)

海老原さんが来月刊行の本の宣伝でちらりと

Face 海老原嗣生さんがネット上で連載している「人事の企み」の最終回で、この連載を来月本にして出すと宣伝していて、そのついでにちらりとこんなことまで明かしちゃっています。

https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00058/032300037/?P=2

・・・・この連載は書籍化され、来月発行の予定です。本書の解説をしてくださる濱口桂一郎・・・・・

おっとっと、わたしが海老原さんの本の巻末解説を書いているということを明かしちゃってますよ。

本人が明かしちゃってるので、私も安心して宣伝しておきます。来月刊行予定の海老原嗣生『人事の企み』(日経BP)をどうぞよろしく。

 

 

 

EUのデューディリジェンス指令案がついに提案@『労基旬報』2022年3月25日号

『労基旬報』2022年3月25日号に「EUのデューディリジェンス指令案がついに提案」を寄稿しました。

 本紙の昨年5月25日号で「EUのデューディリジェンス指令案への動き」について解説しましたが、その時文末で「欧州委員会の方は、上記一般協議を終了し、現在具体的な指令案を検討中です。2021年第2四半期には提出すると予告されているので、おそらく今年6月に公表されると思われます」と述べていました。ところがこれがずるずると遅れ、同年第4四半期になっても提出されませんでした。
 これに業を煮やした諸市民社会団体や欧州労連は、2021年12月8日に共同してフォン・デア・ライエン委員長宛の公開状を公表し、理由も明らかにされないまま延期が繰り返されていることに疑念を呈し、このままではグローバルサプライチェーンにおける強制労働が野放しになると懸念を表明しました。明けて2022年2月8日には、ダノンはじめ100以上の主要企業等が、デューディリジェンス指令案の早急な提出を求める公開状を公表し、その中で指令案の公表の深刻な遅延を深く懸念すると述べています。
 こうして、同年2月23日、欧州委員会はようやく「企業の持続可能なデューディリジェンスに関しかつ公益通報者保護指令を改正する欧州議会と理事会の指令案」(Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on Corporate Sustainability Due Diligence and amending Directive (EU) 2019/1937)(COM(2022)71)を正式に提案するに至りました。半年以上も遅れたのは、企業サイドから相当なロビイングがあったからだと思われますが、内容的にも適用対象企業から中小企業が除外されるなど、企業サイドに相当配慮した内容になっています。
・主題(第1条)
 本指令案は、①潜在的な人権への悪影響(human rights adverse impacts)と環境への悪影響(environmental adverse impacts)に関して、企業自身の運営、その子会社の運営、当該企業が取引関係を樹立した(established)主体によって遂行されるバリューチェーンの運営に関する企業の義務、②上記義務の違反に対する責任(liability)について定めています。この「樹立した」取引関係の性質については、少なくとも12か月おきに再審査されます。
・適用範囲(第2条)
 本指令案が最も注目されたのはその適用範囲でした。まず原則として、従業員500人超かつ全世界での売上高が直近年度で1億5千万ユーロ超の大企業が対象となります。
 ただし、とりわけバリューチェーンの人権侵害が問題とされる業種についてはその対象がやや中規模企業にも拡大されています。すなわち、①繊維、皮革とその関連の製造業、これらの卸売業、②農林漁業、食品製造業とこれらの卸売業、③石油、ガス、石炭、金属その他の鉱山採掘業、金属・鉱物の製造業とこれらの卸売業の3業種については、従業員250人超かつ全世界での売上高が直近年度で4千万ユーロ超の企業まで対象となります。
 さらに、非EU企業、つまり第三国の法律によって設立された企業であっても、EU域内で直近年度で1億5千万ユーロ超の売上があるか、売上の半分以上が上記3業種に属して4千万ユーロ超である場合には適用されます。
・デューディリジェンスの義務
 本指令案は第4条以下で具体的なデューディリジェンスの義務を規定していますが、それぞれについてかなり詳しい規定がされています。
①デューディリジェンスの企業政策への統合(第5条)
②現実の及び潜在的な悪影響の確定(identification)(第6条)
③潜在的な悪影響の予防(第7条)
④現実の悪影響の解消(第8条)
⑤苦情処理手続(第9条)
⑥モニタリング(第10条)
⑦情報公開(第11条)
 これら義務の遵守のために、欧州委員会はモデル契約条項を作成するとともに、ガイドラインを示すことにしています(第12,13条)。
・その他の規定
 本指令が適用される非EU企業は権限ある代表者を指名しなければなりません(第16条)。
 加盟国は企業がデューディリジェンスの義務の遵守に係る監督機関を設置し(第17条)、当該機関が任務を果たせるよう適切な権限と資源を確保しなければなりません(第18条)。
 ある企業が本指令の義務を遵守していないと考える者がその旨(裏付けのある懸念(substantiated concerns))を監督機関に訴えることを確保するとともに(第19条)、本指令に基づく国内法の違反に対する罰則を定めなければなりません(第20条)。
 欧州委員会は欧州監督機関ネットワークを設置し(第21条)、ここが監督や制裁に関する調整を行います。
 加盟国はデューディリジェンスの義務を遵守しない企業に対する民事責任(civil liability)を規定し、同条に規定する責任が当該訴えに適用される法律が当該加盟国の法律でないというだけの理由によっては否定されない旨を定めなければなりません(第22条)。
 なお本指令上の全ての違反は公益通報者保護指令の対象であり、これに伴い同指令(2019/1937)も一部改正されています。

 

2022年3月23日 (水)

『近江絹糸争議斡旋経過―中央労働委員会による―』

Booklet04220322 JILPTからブックレットという形で、『近江絹糸争議斡旋経過―中央労働委員会による―』が刊行されました。ややマニアックな分野に見えますが、戦後日本労働運動史において数少ない労働側が勝利を収めた大争議の歴史を、当時中央労働委員会に勤務していた人のメモをもとにした本として、なかなか興味深い資料になっています。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/booklet/04.html

「近江絹糸争議」の斡旋作業の経過に関わる貴重資料!
―戦後の労使関係の形成過程の研究にとって有益な情報を提供―

1954年に発生した「近江絹糸争議」。人権争議とも称され、労使間の激しい対立だけでなく、解決に向けて政府・財界を巻き込み、海外からも注目を集めたことから、その影響は大きく、最終的に解決に導いたのは第三者の立場から調停を行った中央労働委員会でした。

本資料は、同争議を担当した中央労働委員会の職員が斡旋作業に携わる中でメモとして残して保存していた資料をもとに、解題や争議経過などを追加して取りまとめたものです。

 

 

公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係@『試験と研修』64号

Image0_20220323152701 公務人材開発協会というところが出している『試験と研修』の第64号に、「公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係」というまことにひねた文章を寄稿しております。

2020年には突如として「ジョブ型」という言葉が流行し、2年後の今になっても「ジョブ型」を売り込もうとする経営コンサルたちの駄文が紙媒体でも電子媒体でも続々と湧いてきている。十数年前に日本とそれ以外の諸国との雇用システムの違いを表す学術的概念として筆者が作ったこの言葉が、インチキな成果主義を売り込む薄っぺらな商売ネタにされているのを見るのは、いささか辛いものがある。本来の「ジョブ型」がいかなるものであり、そしていかなるものではないのかは、昨年9月に上梓した『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)に詳述したので、是非そちらを見ていただきたい。本稿はそれを前提にして、公務員制度とジョブ型雇用とのねじれにねじれた関係について述べていく。本誌の主たる読者層は公務員人事にかかわる人々であろうから、思い当たる節は山のようにあるはずである。

1 純粋ジョブ型で作られた(はずの)公務員制度
 
 本稿の執筆依頼には「ジョブ型雇用を日本、特に公務に導入する際の課題」云々という表現があった。現代日本の公務員の世界がほぼ完全なメンバーシップ型で動いており、ジョブ型とは対極的な有り様であるというのは、誰もが同意する判断であろう。それゆえ、かくも対極的な「ジョブ型」を日本の公務員制度に導入するにはどうしたらいいのか、というのが最大の問いになるのも、これまた極めて常識的な認識と言えよう。さはさりながら、普通に公務員として日々働いているだけの者であれば格別、その職務上公務員制度に関わりを持つ者であれば、そこになにがしかのわだかまりを感じるはずである。いや感じてくれなければ困る。なぜなら、日本国の国家公務員法は今から75年前に、アメリカ直輸入の純粋ジョブ型の制度として作られたものだからだ。そして、2007年改正で条文として消えるまでの60年間、国家公務員法は(少なくともその条文上は)職階制というジョブ型の見本のような仕組みを中核とし、それに基づく任用制度と給与制度によって組み立てられてい(ることになってい)たはずだからだ。実際の運用とは真逆の看板を掲げ続ける後ろめたさからは解放されたとはいえ、現在の国家公務員法の基本構造はなお生誕時のジョブ型の母斑を残している。公務員制度とジョブ型雇用というテーマは、今なおねじれにねじれたものであり続けているのである。・・・・
 
2 「能力主義」を掲げてジョブ型制度を廃止した2007年改正
 
・・・徹底したジョブ型の制度を法律上に規定していながら、それをまったく実施せず、完全にメンバーシップ型の運用を半世紀以上にわたって続けてきた挙げ句に、それが生み出した問題の責任を(実施されてこなかった)職階制に押しつけてそれを廃止しようという、まことに意味不明の「改革」である。
 今日、後述の非正規公務員問題を始めとして、公務員制度をめぐる諸問題の根源には、さまざまな公務需要に対応すべき公務員のモデルとして、徹底的にメンバーシップ型の「何でもできるが、何もできない」総合職モデルしか用意されていないことがあるが、それを見直す際の基盤となり得るはずであった徹底的にジョブ型に立脚した職階制を、半世紀間の脳死状態の挙げ句に21世紀になってからわざわざ成仏させてしまった日本政府の公務員制度改革には、二重三重の皮肉が渦巻いている。
 
3 公務員定年延長のパラドックス
 
・・・民間企業が高齢者雇用を迫られる中で年功制の見直しを余儀なくされつつある時期に、もともと純粋のジョブ型で設計されていたはずの国家公務員法が、メンバーシップ型の民間企業を見習って年齢差別的な規定を法律の条文に堂々と掲げるというのは、公務員法の歴史を知る者からするとこれ以上ない痛烈な皮肉と感じられるが、恐らく今ではそのような認識を有している者自体、きわめて少数派なのであろう。
 
4 非正規公務員というねじれの極み

・・・今日、「ジョブ型雇用を日本、特に公務に導入する際の課題」を論じる必要があると考える人々が一体いかなる「ジョブ型」を想定しているのかは、なかなか興味深い論点である。「ジョブ型」を本来の意味で理解している限り、上述のような議論以外にはあり得ないはずであるが、上記拙著で批判した経営コンサル流のインチキ「ジョブ型」を真に受けていると、またぞろ「成果主義」を掲げて本来ジョブ型の公務員制度を叩くという意味不明の「改革」を繰り返す虞なしとしない。読者諸氏がそのような落とし穴に嵌まらないよう、本稿が一服の清涼剤の役割を果たせるならば、これに過ぎる喜びはない。

 

 

2022年3月22日 (火)

カスタマーハラスメント対策@WEB労政時報

WEB労政時報に「カスタマーハラスメント対策」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

去る2月25日、厚生労働省雇用環境・均等局 雇用機会均等課ハラスメント防止対策室は、『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』やリーフレット、ポスターを公表しました。カスタマーハラスメントとは、いわゆるパワハラ指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)により取り組むことが望ましいとされている顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為をいいます。・・・・・

 

 

産労総合研究所編『2022年版人事・労務の手帖』

86326322 産労総合研究所編『2022年版人事・労務の手帖―コロナネクストに向けた実践ガイド―』(経営書院)をお送りいただきました。

https://www.e-sanro.net/books/books_jinji/romukanri/86326-322.html

コロナ禍を経たいま、すべてが感染拡大の前の状況に戻るということはないでしょう。全体の基調として、大きな変化の時代を迎えたことは間違いありません。
本書は、2021年に改正された法令のほか、今後1年の検討課題となりそうなテーマを選び、第一人者の方々に実務的に解説いただきました。アフターコロナに求められる変化のあり方は、各社各様だと思われます。人事担当者が自社の組織・職場を能動的に変えていくために役立つ情報を網羅しています。

ということで、北岡大介、荻野登、溝上憲文といったおなじみの面々が登場していますが、冒頭の「日本経済の行方」を飯田泰之さんが書いていまして、その中で、薄利多売型の「リストラモデルからの脱却を」ということを言っているのが目につきました。

 

 

 

2022年3月21日 (月)

左翼の名残というより正義への冷笑?

今回のロシアによるウクライナ侵略に対して、なぜか極東の日本で侵略者のロシアを擁護し、被侵略者のウクライナを非難したり揶揄したりする論者が結構湧いてくるのはなぜなのか。

一見、かつての左翼のアメリカといえば悪玉、ソ連や中国といえば善玉という冷戦時代のイデオロギー的信念が硬直的に固定化し化石化したものが露呈しているだけのようにも見える。そして、例えば消滅寸前の社民党の機関紙でプーチン擁護論をぶった社説の筆者の場合のように、そういう面もまだ間違いなくあるのだろう。

でも、それが今の日本で、ロシア擁護論というよりはむしろ専ら抗戦するウクライナを「無駄な抵抗しやがって、この馬鹿が」とけなしつけるたぐいの議論が他の先進諸国と比べて異様にたくさん湧いてきている理由をうまく説明できるようにも思われまい。

そういう議論、というかむしろ「気分」の源泉は、過去数十年にもわたって日本社会の隅々に広まってきたように思われる正義への冷笑感ではなかろうかと思われる。侵略者を侵略者として非難するという正義感を、何か愚かしくカッコ悪いことであるかのようにからかい揶揄するという冷笑しぐさが、現代日本人のある部分に定着してきてしまったことをあらわしているのではなかろうか。

ある種の日本人は、かつての左翼への熱狂から醒めて冷静に物事を判断できるようになることと、正義と不正義を分別する能力すら放擲して冷笑主義に逃げ込むことの区別もつかないまま、数十年の時を過ごしてきてしまったのではないのか、という疑いをぬぐい切れない。

2022年3月19日 (土)

拙著の帯が変わりました

昨年9月に出た『ジョブ型雇用社会とは何か』ですが、今般第6刷となるに際し、帯のデザインがかなり変わりました。

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おかげさまでこの間、中央公論の新書大賞第6位、東洋経済のベスト経済・経営書第2位、日経新聞の経済図書ベスト第4位という評価をいただき、それがオビに載っています。

ただ、今までの帯の名文句も捨てがたいものがあったので、お願いしてそのセリフも載せてもらいました。

間違いだらけのジョブ型論を 一刀両断!

 

早津裕貴『公務員の法的地位に関する日独比較法研究』

08735 早津裕貴『公務員の法的地位に関する日独比較法研究』(日本評論社)をお送りいただきました。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8735.html

雇用の不安や処遇格差が問題となっている公務員の非正規化について、日本とドイツの比較を通じてあるべき公務員の地位を探求する。

日本の公務員制度は複雑怪奇にして矛盾だらけですが、それをドイツの法制度を補助線にして切り込んでいく本です。ドイツがいい補助線になるのは、公法上の任用による官吏と、私法上の契約による公務被用者(かつては職員のアンゲシュテルテと労務者アルバイターに分かれていましたが、今は統一した扱いのようです)に分かれていて、それをめぐる議論がいっぱいあるため、末端の非正規に至るまですべて公法上の任用による公務員だという建前で運用しているために、私法上の非正規労働者に適用される最低限の雇止め法理や均衡処遇すらも奪われてしまうというようなさまざまな矛盾が噴出している日本の姿と比較すると、いろんなことが見えてくるからです。

 はしがき
序 章
第1編 ドイツ法
 序
 第1章 基本法下における「複線型」公務員制度の意義
 第2章 基本法下における職業官吏制度の基本理念と官吏の法的地位
 第3章 基本法下における公務被用者の法的地位
 第4章 「統一的」公勤務法と公務従事者の法的地位
 第5章 ドイツ法の整理・分析
第2編 日本法
 序
 第1章 日本法の検討に際して必要となる基本的視点
 第2章 雇用保障――「非正規」公務員を題材とした検討
 第3章 労働条件決定
終章 残された課題と今後の展望

早津さんは、昨年11月の労働法学会のワークショップ「『非正規』公務員をめぐる現代的課題」 で報告兼司会をされていました。私も出席してちらりと発言しましたが、公務員の労働問題というめんどくさい問題に真摯に取り組む方として貴重です。

ちなみに、今月出る予定の『試験と研修』64号で、「公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係」という小文を寄稿して、その最後のところで「非正規公務員というねじれの極み」にもちらりと触れております。

 

誤解だらけの「能力」不足解雇@『ジョブ型雇用社会とは何か』

発想の基本がメンバーシップ型のまま、局部的に「ジョブ型」を論じると、おかしな議論がいっぱい湧いてきますが、その一つの典型がツイッター上に見受けられたので、そのまま使える『ジョブ型雇用社会とは何か』の一節をもって説明に代えておきます。

https://twitter.com/zalgo3/status/1504729499522715648

総合職採用だと,「その会社が扱うあらゆる職種に適正がないこと」を立証しないと無能を解雇することができないが,ジョブ型雇用だと,「その職種に適正がないこと」だけを立証すれば解雇できるので,ジョブ型への移行は実質的に解雇規制の緩和につながるって見解を見て,ほえーとなった

https://www.iwanami.co.jp/book/b589310.html

71cahqvlel_20220319111901 ジョブ型社会では能力不足で解雇し放題?
 もう少し複雑で、慎重な手つきで分析する必要があるのが、序章で述べた東京新聞の記事に見られるような、ジョブ型では「能力不足でも解雇」されるという議論です。これも、雇用契約でジョブが特定されている以上、そのジョブのスキルが求められる水準に達していなければ解雇の正当な理由になるのは間違いありません。ただ、ここでも、基礎の基礎に立ち返って、ジョブ型ではどのように採用され、どのように就労していくのかということをしっかりとわきまえた上で議論をしないといけません。極めて多くの人々は、ジョブ型社会ではありえないメンバーシップ型社会の常識を無意識裡に平然と混入させて、日本的な「能力」不足を理由に解雇し放題であるかのように思いなしていますが、それは全く間違っています。
 まずもって、何のスキルもない白紙同然の若者を、入社してから上司や先輩がびしびし鍛えていくことを前提に、新卒採用する日本の常識を捨てなければなりません。メンバーシップ型社会における「能力」不足とは、いかなる意味でも特定のジョブのスキルが足りないという意味ではありません。上司や先輩が鍛えても「能力」が上がらない、あるいはやる気がないといった、まさに能力考課、情意考課で低く評価されるような意味での、極めて特殊な、日本以外の社会では到底通じないような「能力」不足を意味します。そういう「能力」不足に対しては、日本の裁判所は、丁寧に教育訓練を施し、能力を開花させ、発揮できるようにしろと要求しています。しかしそれは、メンバーシップ型自体の中に既に含まれている規範です。それゆえに、正当な理由のない解雇はダメという普遍的な規範が、メンバーシップ型の下でそのように解釈されざるを得ないのです。

ジョブ型社会のスキル不足解雇
 これに対して、再度基礎の基礎に立ち返って考えれば、ジョブ型社会においては、あらかじめその具体的内容と価格が設定されたジョブという枠に、そのジョブを遂行する能力がある人間をはめ込むのですから、能力不足か否かが問題になりうるのは、採用後の一定期間に限られます。採用面接では「私はその仕事ができます」と言っていたのに、実際に採用してやらしてみたら全然できないじゃないか、というような場合です。そして、そういうときに解雇できるようにするために、前述した試用期間という制度があるのです。逆に、試用期間を超えて、長年そのジョブをやらせていて、言い換えればそのジョブのスキルに文句をつけないでずっと労務を受領し続けておいて、5年も10年も経ってから能力不足だなどと言いがかりをつけて認められる可能性はほとんどないのです。
 こういう話をすると、多くの日本人は、「いやいや、5年も10年も経っていたら、もっと上の難しい仕事をしているはずだから、その仕事に「能力不足」ということはありうるんじゃないか」と言いたがります。それがメンバーシップ型の常識にどっぷり浸かって、ジョブ型を本当には理解していないということなのです。5年後、10年後に採用されたジョブとは別のジョブに就いているとしたら、それはそのジョブの社内外に対する公募に応募して採用されたからでしょう。ジョブ型社会においては、社外から社内のジョブに採用されるのも、社内から別の社内のジョブに採用されるのも、本質的には同じことです。今までのジョブはこなせていた人が、新たなジョブでは能力不足と判断されることは十分ありえます。その場合、もちろん解雇の正当性はありますが、元のより低いジョブに戻ってもらうのが一般的でしょう。なぜならそちらは十分こなせることは実証済みなのですから。

 

2022年3月18日 (金)

ハラスメントの現状と対応の要点@『ビジネス法務』2022年5月号

402205_430 『ビジネス法務』2022年5月号が「4月から中小企業のパワハラ防止措置義務化!総まとめ ハラスメントの調査・対応実務」という特集を組んでおりまして、

https://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

そこにわたくしも「「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」にみるハラスメントの現状と対応の要点」を寄稿しております。

「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」にみるハラスメントの現状と対応の要点 濱口桂一郎
 JILPT(労働政策研究・研修機構)では厚生労働省の要請を受け,パワハラに関するヒアリン グ調査の結果をまとめるとともに,それに基づく労働政策フォーラムを行った。そこでは,円卓 会議の6類型に沿ってさまざまな事例が示されている。また,世界的にもハラスメントに関する 法制が確立されつつある。

ほかには、峰隆之、向井蘭、真下陽子、小鍛冶広道・西頭英明・湊祐樹・小山博章といったそうそうたる実務家の方々が登場しています。

なお、本誌は私は初めてで、特集以外にもいろんな実務的な記事が満載で、なかなか興味をそそられますすが、その中でもこの記事は、今現在のこの事態にあまりにもどんぴしゃなので、誰かの差し金なのかと思わず思ってしまいました。

企業法務のための経済安全保障
第4回 経済安全保障を読み解く主要11分野――経済制裁編
大川信太郎

 本連載では,先日まで行政官として経済安全保障分野の第一線で政策立案・審査に従事し ていた弁護士が経済安全保障分野の法令について体系的に解説する。連載の第4回目では, 経済安全保障を読み解く主要11分野のうち経済制裁について解説する。

この記事の最後のところには、こう書かれています。

・・・米国・ロシア・ウクライナとのビジネス上の関係がある日本企業は、各国で強化される経済制裁の内容を正確に理解した上で、自社のサプライチェーン等への影響を評価することが必要となる。・・・

 

 

 

 

 

 

オーディオブック『ジョブ型雇用社会とは何か』

41uibcwsugl 『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)のオーディオブック版が出ました。

ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機

約5分ほどのサンプル音声が聞けます。

ナレーターは市川和也さんです。

 

『労働関係法規集 2022年版』

Houkishu2022 JILPTが毎年刊行している『労働関係法規集』の2022年版が来週刊行されます。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/houkishu.html

こういうポケット版のコンパクトな法令集にどういう法令をどれだけ載せてどれは載せないかというのは毎年頭を悩ますところですが、今年は、いくつか新機軸を試みています。

さっそく4月から使い始める皆様方にとって便利になるような工夫を凝らしていますので、是非ご愛用いただければ幸いです。

 

2022年3月14日 (月)

異見交論「ジョブ型雇用は大学教育を変えるか」@『文部科学 教育通信 』No.527

Cover_20220314215401 『文部科学 教育通信 』No.527に、異見交論「ジョブ型雇用は大学教育を変えるか」というインタビュー記事が載りました。インタビュワは松本美奈さんです。

「ジョブ型雇用」に注目が集まっている。自分の仕事の範囲が明示され、長時間残業とも無関係、他社にも転職可能、年功序列ではなく、適正に能力を評価される…。どんな大学に入ったかではなく、ジョブに適合できる力を身につけたかどうかが問われる、そういう日本になるのだろうか。閉塞的な空気の漂う時代を打開できるのだろうか。「ジョブ型雇用」の名付け親でもある労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏に聞いた。

と、インタビューしに来た松本さんの先入観をことごとく叩き潰しております。

教育と職業の密接な無関係
--2021年9月に上梓された『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)を読みました。日本で主流のメンバーシップ型雇用が日本社会にどのような影響を及ぼしているか、を書かれていました。中でも大学教育と企業との関係を「教育と職業の密接な無関係」と表現している一節に、衝撃を受けました。なるほど、こう見えるのか、と。
濱口 教育と職業は密接につながっていると思われていますが、実際はそうではない。つながっているのは、大学の入り口の偏差値と、採用面接でしょう。大学で何を学んだか、どんな成績を取ったかは、二の次、三の次。
-- 機関としてはつながっているけれど、教育と職業はつながっていません。
濱口 そもそも日本の社会は職業がキー概念ではありません。「あなたの仕事は何ですか?」と問われると、「私は○○株式会社に勤めています」とは答えるけれど、「私はシステムの技術者です」「事務員です」とは答えない。
-- まず所属が大事ということですね。
濱口 会社に所属している--これを私はメンバーシップと呼んでいます。日本は、職業、職種というものの存在価値が乏しいのです。労働者はジョブローテーションでいろんな仕事をさせられるので、この職業であるとはいえない状態です。
 だとすると「教育と職業の密接な無関係」という言い方自体、ミスリーディングかもしれないですね。社会人は「職業人」ではなく「会社人」で、大学の教育内容と会社人であることに何のつながりもないというべきでしょう。
 逆に「教育と職業の密接な関係」とは、大学で学んでいる中身と仕事をしている中身、その両者がつながっていること。欧米のジョブ型社会の典型的な教育と職業の関係です。
 
 
リターンマッチができない日本
-- 単刀直入に聞きます。雇用をジョブ型に切り替えたら、閉塞的な日本の状況を打破できるのでしょうか。
濱口 物事にはすべて裏表があり、ジョブ型も同じです。こういう勉強をして、こういうスキルを身に付けた人を採用し、ずっとその仕事をさせるというやり方は合理的に見えるけれど、マイナス面もある。ある職業を見据えた勉強がきちんとできて、その仕事がきちんとできるというコースに乗った人間がいい人生コースを歩み、それに乗れなかった人間は、逆転人生が難しいのが現実です。
-- リベンジができない。それがマイナス面ということですね。
濱口 ジョブ型社会は、ジョブのスキルで人間の価値が決まる。そのスキルは、基本的には教育訓練機関である課程を修了したことで決まります。そういうクオリフィケーション(職業資格)が大事です。ディプロマというのは、最大のクオリフィケーションです。ある大学のある学部を卒業できたから、あなたはこの仕事ができます、と見られます。
 逆にそれを持たないことは「あなたはこの仕事ができない人です」と見られる。そう位置付けられた人間が、非正規で採用されて、その仕事をできるようになったとしても「クオリファイドされた人」として処遇されない。
 ところが日本は違う。日本では大学の卒業証書は、医学部などを除き、職業的なクオリフィケーションと思われていない。だから、企業は採用後にいろんな仕事をさせて、できるようになったら認める。
-- ジョブ型は結構硬直的なものですね。日本企業の現行システムの方が柔軟でいいような気すらします。
濱口 実際、30年くらい前までは日本の方がいいという見方が流行っていました。今はそうじゃない。まず経済状況の変化です。大卒者全員がどこかに正社員として入れる状況であれば、そこでいろんな仕事をするうちに、評価されて上がっていくことも可能だった。ところが、90年代半ばの就職氷河期以降、大学入学時の偏差値と「人間力」で値打ちが決められると、リターンマッチが難しくなってしまったのです。
 ジョブ型では、会社の入り口ではねられたとしても、どこかで一生懸命頑張って「私はこんなスキルを身に付けました、その証拠がこれです」と「クオリフィケーションペーパー」を獲得することでリターンマッチが可能になります。ところが判断基準が「人間力」では、リターンマッチは原理的に不可能です。
-- しかも年齢主義もありますからね。18歳になったら大学に入り、22歳で就職という年齢主義。
濱口 年齢主義というより、エイジコンシャス、年齢差別意識の強い社会です。例えば卒業後何年か経っていたら、「この年になるまで何してたの?」と必ずいわれる。今の日本社会は、18歳の段階でこぼれ落ちてしまうと、リベンジの機会が乏しい。かつて「Japan as No.1」と言われていた時代の仕組みが逆機能し始め、こぼれ落ちたらジョブ型社会よりも厳しい状況になってしまいました。
 景気の変動によってある世代に損得が生じるっていうのは、世界中どこでも起きる現象ですが、日本以外では徐々に解消していきます。不景気でひどい目にあった世代も、景気が回復したら、その時代の新卒と競い「何ができるか」で判断される。
 日本はそうではない。就職氷河期にぶち当たってしまうと、30代になっても40代になっても「氷河期世代」。だからいまだにその世代が就職できると、「40代の男性が初めて正規雇用された」と報道されたりします。四半世紀前の問題を未解決のまま残しているなんて、ジョブ型社会ではあり得ない。
 日本も21世紀になってから2008年のリーマンショックまでの間、徐々に景気回復しました。けれどもその利益を得たのは、もっぱらそのときの新卒だけです。好景気なら正社員で入れた人間が、突如としてハードルが上がったために、入れなかった。いったん人間力がないとされたら、「私はこれができます」と言ったところで認められない。
 
 
「オンリーワン」は不要
-- 「密接な無関係」には、教育の側の問題もあれば、雇用する側、社会全体の問題もある。さてどこから手をつけたものか。
濱口 社会システムは、相互に適応して進化していくものです。仕方ない面もあります。
 会社も教育機関も無数にあります。ただ、自社、自校は1つだけです。つまり「無数対1」です。これはすごく重要です。経済学でプライスメーカーとプライステイカーという言葉があります。無数のプレイヤーがいる中で、あるプレイヤーだけが違う行動をとると、それは間違いなく損します。なぜか。無数の会社が全て「人間力で採用しています」という中で、ある会社だけが「うちはそうじゃない。その大学でどんな専門分野をどれだけきちんと身に付けたかということだけで判断します」と行動したとすると、その会社は間違いなく損します。
-- そうですか? 立派な会社だと思いますが。
濱口 間違いなく損します。大学側は無数の会社の中からその1社だけを目指した教育をするわけがないからです。同じように、ある1大学だけが「人間力などという変なもので就活をさせるのではなく、専門分野を身に付けたということだけを売りにします」と言ったとします。その大学が専属の会社を持っていて、卒業生が全員そこで働くのならいいですが。
 どちらから見ても「1対多」であるときに、ある1大学は、1社ではなく、たくさんの会社に対応した行動を取るのが最も合理的です。大勢に迎合するのが一番合理的です。
-- 教育改革でさかんに言われている「オンリーワンの教育」「オンリーワンを育てる」というのは、その原理から外れているんですね。
濱口 外れています。マーケットはオンリーワンを選ばないんです。マーケットは、すべてのプレイヤーを匿名化し、計量化します。そこにナンバー1、2、3…と並べる形でしか行動のしようがない。ジョブ型も同じです。実はジョブ型もオンリーワンじゃない。日本人が誤解しがちですが、セグメント(区分)化されているだけです。そのセグメント化された中でナンバー1、2、3とあり、同じように市場原理で行動している。
-- ジョブ型であってもなくても、市場はオンリーワンを選ばない…。大事なのは順位なのですね。
濱口 セグメントの中身ごとに、ナンバー1、2、3というふうに会社側も大学側も存在し、それでマッチングし、下のほうはこぼれ落ちてしまう。ただ、ジョブ型マーケットの指標は「この仕事がこれくらいできる」ということで、その帳票がディプロマだという前提で社会が動いているということです。
 
 
入り口はジョブ型、実体はメンバーシップ型
-- ジョブの帳票がディプロマ、という考え方は日本の大学文化には受け入れがたいかもしれません。大学は就職予備校ではない、とよく耳にするので。
濱口 日本の大学人の大半を占める文化的エリートにとっての大学とは、世間で言う職業教育とは違う意味での職業教育機関の側面を持っています。東大や京大のような大学の文学部は、全国のさまざまな大学の先生を輩出しています。例えば、なんで東大哲学科というものが存在し得ているかというと、いろんな大学が哲学の授業をする人を募集しているからです。
-- ジョブ型雇用が成り立っているように見えます。
濱口 自分たちでは意識していないけど、ジョブ型です。医療の世界もジョブ型です。
-- 確かにそうです。医学部で規定のカリキュラムを学んだ人が、国家試験を受けて医師になる。看護師も薬剤師もそうですね。
濱口 そうです。看護師として10年病院で働いた後、「君も看護師としてベテランになったから、今度は医者やってみるか」なんてことはないですね。いやいや、これを言うと笑うけれども、日本の会社ではこういうことをやっているんですよ。
-- たしかにそうですね(笑)。
濱口 ただ、医療の世界は、雇用は完全にジョブ型ではあるけれど、病院の賃金表を見ると、処遇はメンバーシップ型で年功制なのです。
-- 手術の技術が優れているとかではないわけですね。
濱口 関係ない。学校教員の世界も似ています。こちらも教員免許が原則必須なので、ジョブ型であるように見えます。ところが、仕事の内容はメンバーシップ型です。
 昔は、教員は教えるのが仕事で、学校には事務職員もきちんと配置されていた。その仕事がどんどん教員の仕事になってしまいました。その結果、学校の中の仕事は全部教員の仕事です。処遇もほぼ完璧な年功制です。
--入り口と中身の乖離ということですね。
濱口 医師免許とか教員免許というものがないと当該業務ができないと法律で定められているために、法律に基づいたジョブ型があるわけです。
-- 働きにくいし、働きがいのない社会であるようにも感じます。
濱口 いや、働きやすいと思っているから、こういうふうに回っているのではないでしょうか。
 
 
ジョブ型雇用と社会的格差
-- 欧米のジョブ型雇用の話をもう少し聞かせてください。このところ、欧米で格差の広がりを示す「ジニ係数」が大きくなっている、格差が広がっていると報じられています。ジョブ型雇用の方が、年功型よりも人を適正に評価し、格差もそれほど広がらないのではないかと考えておりました。
濱口 それは違います。ジョブ型は人の能力を適正に把握して配分していないでしょうし、仮に適正に把握して配分したとしても、それが格差を小さくする保証はどこにもありません。「職業に貴賎なし」は偽善に満ちた言い方で、どの社会も職業に貴賎はあるわけです。ジョブ型社会は、ジョブによってその人間の貴賤を張り付ける社会です。
-- 究極の階級社会ですね。
濱口 そうです。ジョブ型社会は、ジョブによって格差が作られ、しかもそのジョブの垣根を越えることが難しい。どこかの学校に行って、ディプロマを得なければ、そのジョブの垣根を越えることはできない社会です。それで違うジョブを選び、階級を上がるのですね。
それに対し、30年以上前の日本は、現場で一生懸命頑張っていれば、資格がなくても評価されて、社会の階段を上がっていくことのできる、流動性の高い社会だと言われていたのです。
-- ところがそれもできなくなった。かつて賞賛されたことが、今はマイナスを増幅させる要因になっている。こうした状況を変えるために、日本の大学はどうすべきでしょうか。
濱口 一番困るのは、「どうしたらいいか」という素朴な質問です。同じような質問を、企業もぶつけてきますよ。我が社はどうしたらいいんですか、と。 
-- 思考を相手に丸投げの質問でしたね(笑)。失礼しました。で、そう尋ねてきた企業の方にどう答えるのですか。
濱口 我が社だけができることなんかありません、としか言いようがないです。「1対多」の関係になっている以上、1社があるべき姿を追い求めて撃沈するよりは、みんなに並んでいくほうが安全です。大学も同じです。
-- 困りましたね。今、日本社会全体が沈没しかかっている中で、みんなと違うことをしたら…。
濱口 1対多の関係ではみんなと同じ行動をとって、その中でナンバー1を目指すというのが、唯一可能な、あり得る可能な行動でしょう。どんな社会でも共通です。
 今の日本は1つの均衡点なんですよ。会社側も大学側もお互いにメンバーシップ型に基づいて行動するという意味で、均衡点に達している。どこか1社、1校が違う行動を取ると、マーケットで損をする。すべてのプレイヤーが一斉にジョブ型に変わるのならば、もっと望ましい均衡に移るかもしれません。誰が最初にするのかという話です。
 
 
日立のジョブ型とは?
-- そんな中で、日立製作所や三菱ケミカルがジョブ型に切り替えを始めたと報道されています。ご著書に書かれているジョブ型とはだいぶ違うように見えます。
濱口 私は全く違うと思います。雇用は完全にメンバーシップ型だけど、処遇はジョブ型に近いものにするのかもしれない。
 ただ、処遇をジョブ型にすると、メンバーシップ型の最も重要な特徴である「ジョブに拘らずに人を異動させることができる」に、一定の制約がかかる可能性があります。これは日本の企業にとっては最大のマイナスのはずです。
-- 社員の転勤、出向は「一人前にする」という個人の能力アップと、会社の都合の両面があるわけですからね。どうするのでしょうね。
濱口 あえて推測すると、大学はメンバーシップ型を前提とした教育しかしていないから、全面的なジョブ型採用ができるはずがない。当分はメンバーシップ型で採用し、異動させ、その間は年齢階層別の年功制賃金制をとる。その中で、厳密な意味でのジョブ型とは違うけれども、「君の仕事はこれだ」を意識的に作っていき、それに応じた処遇を決める方式ではないでしょうか。OSはメンバーシップ型で、その上でジョブ型っぽいアプリを走らせるようなイメージです。
--- OSを入れ替えることができないのなら、そうなりますね。1人の設計者がOSからアプリまで開発するのならば、整合性が担保できるでしょうが、現実はそうではない。設計者が途中で交代することはよくあります。そうするとこれまでの経緯もわからないまま、とりあえずアプリ作ってしまえ、となったら不具合を起こすのではないでしょうか。
濱口 起こします。ただ、今の日本でジョブ型と称するものを始めようと考えたら、唯一あり得る道だろうと思います。
 
 
「15の春を泣かせるな」の一方で
-- 日本のメンバーシップ型が根を張っていったのはいつ頃でしょうか。
濱口 戦時体制で基礎が作られ、終戦直後に労働運動で膨らみ、高度成長期にそれがほぼ全域に広まっていきました。同時に、教育システムもそれに応じる形で進化を遂げてきています。この現実は重要です。特に大学との関係で。
 日本だけでなく、世界的にも教育水準が上がっていった時代です。初等教育修了者が多数を占めていた時代が終わり、中等教育へ、やがて高等教育修了者が多数派となる。
 初等教育では、職業教育とアカデミックな教育は分かれようがない。徒弟制の時代です。中等教育修了者が多数派の時代になると、そこである程度の基本的職業教育を行うのが一般的になる。面白いのは、多数派が中等教育から高等教育に移っていくプロセスで、欧米のジョブ型社会ではジョブ型社会に適応する形で、教育水準の引き上げが進んでいきました。
 日本でも高度成長期の文部省は、そういう政策を取ろうとしていたんです。高校で普通科ばかりではなくて、職業教育も増やせという時期がありました。特に富山などでは大論争が起きたという話も伝わっています。「15の春を泣かせるな」を標語に、みんな普通科に行きたのだから普通科を増やせ、と。文部省は財界しか見ていないから、職業高校ばかり作らせてけしからんと言った、革新勢力が主張していた時代がありました。
-- 高校全入時代、昭和30年台後半でしたね。ジョブ型社会ならば、就職を見越して、それに合った内容の教育を受けられた方がいいという発想でしょうが、日本は違った。
濱口 そう、少なくとも国民はそう思っていなかったので、この論争は文部省が負けた。当時は普通科3、職業7の割合で展開していく政策だったが、今は多くても2割程度でしょう。
 1970年代以降は、世界的に中等教育が普遍化し、高等教育の進学率が上がっていきます。これで大学というものの社会の中の位置づけが大きく変わっていった。日本でも、ごく一部のエリートだけの大学ではないことが法律に書き込まれました。
 世界的に見ると、アカデミックなものはそのまま残しつつ、高等教育機関のマジョリティは、言葉の正確な意味での高等専門学校として残しています。ドイツのホッホシューレは「専門大学」と訳されていますが、厳密に直訳すると高等専門学校です。
-- 日本の高等専門学校に当たるわけですね。
濱口 日本の高等専門学校はもともと「専修大学」という名前で、固有名詞の専修大学ではなく、普通名詞としての専修大学という名で、法案が何回も出されました。短大側の反発で、最終的に高等専門学校という名前になりました。発想は同じだと思います。
 半世紀以上前の日本の文部省は、一方で旧帝大のようなものを残しつつ、多くの大学はそういった高等専門学校のようなものになっていくというイメージを持っていたのではないでしょうか。世界中そうですから。
-- 結果的にはそうならなかった。
濱口 そうです。そうして増えた大学を出ても「入ったときの偏差値が47なの?」といった話にしかならない。増えた大卒者は、高卒者の仕事を奪った。それは世界的に見ても変わらない。違うのは、日本の社会の在り方はリターンマッチが極めて難しいこと。最も大きな違いです。それが日本の閉塞感のもとになっているのはたしかでしょうが、社会全体の仕組みがそうなっているから、誰も変えようがないでしょう。
-- 2008年に義務化されたキャリア教育は、こういう状況下で何か意味を持たないでしょうか。
濱口 キャリア教育も、もとはOECDあたりから流れ込んできたものです。ヨーロッパでも、ジョブを意識しない教育機関がたくさんあり、問題視されていました。そこの卒業生たちは企業に評価されないから、非正規で入り、仕事をしながら資格を身に付けていた。教育機関はもっとジョブを意識しろ、そういう文脈で問題視されていました。
 問題意識自体は共通ですが、日本では独自の文脈に適合する形で適応してしまった。メンバーシップ型社会に合うよう、「人間力」に行き着く教育になったということです。先生や親たちがメンバーシップ型にどっぷり漬かっている中でキャリア教育を進めれば、いい会社に入れるように人間力を磨きましょうね、に帰結してしまうのは当然だと思います。
-- 教育が社会を変える起爆剤になっていないのですね。
濱口 そうですね。ついでにいうと、キャリアコンサルタントも、もとは欧米で流行っていたんです。2000年代に日本で始まって、あっちでもこっちでもキャリコンの導入が進んだものの、今、日本のキャリコンの大部分は社内キャリコンです。
-- 社内でキャリアコンサルタントなんて、人事部みたいですね。
濱口 人事部そのものですよ、もはや。あなたにはこういう仕事が向いているから、こういうふうに勉強しなさい、働きなさいって。こうして考えていくと、いろいろな小道具が海外から輸入され、日本の独自の文脈の中で定着していく。
-- 大学の教育改革でも、アメリカで使われた小道具や概念がたくさん入り込んでいます。労働の世界も一緒なんですね。
濱口 ジョブ型社会で作られたものが、メンバーシップ型にピタッとはまる形で定着していく。気が付くとそうなっているのです。
 
 
ジョブディスクリプションがなぜ必要か
-- 最後に、ジョブディスクリプションについてお尋ねします。職務記述書と訳されていますね。何をする仕事かが事細かに書かれていると聞いています。ひょっといたらそれは、大学側の教育改革の指針になるのではないでしょうか。
濱口 いや、そもそもジョブディスクリプションなんて、ジョブ型雇用にとってほとんど意味のないものです。ここ2年間の日本のジョブ型論は、ジョブディスクリプションを作ることが一番大事と言っているようですが、私に言わせればナンセンス。
 ジョブディスクリプションは、ほかの人の仕事との線引きを明確にすることが目的です。歴史的に見れば、欧米ではもともと企業を超えたジョブという大きな共通観念があったので、各社でジョブディスクリプションを作る必要はないのです。
-- そうですね。組合もあるし。
濱口 組合ということで言えば、ヨーロッパの組合は産業別です。産業別で団体交渉して、産業別で協約を結びます。そこにはこの仕事はいくらと書かれています。それで十分です。
 ジョブディスクリプションが問題になるのは、もっとミクロな場、このジョブとこのジョブはどこで線引きするの、という時です。
-- なるほど。複数のジョブが密接しているので、誰がどう担当しているのか明確にしましょうというケースを想定しているのですね。
濱口 そうです。どちらも私の仕事だということもあるし、どちらも私の仕事じゃないということもある。そういうことを避けるためであって、そういうことが起こらないなら、ジョブディスクリプションは不要です。
 ジョブディスクリプションが最も事細かに作られたのは、アメリカの自動車産業です。新たな技術が導入されるたびに、書き換えなくてはいけない。それにかかるコストが大変だったそうです。一方、ホワイトカラーになると、そんなに事細かなことは書かないのが一般的のようです。
-- なぜジョブディスクリプションが日本で問題視されることになったのでしょうか。
濱口 基本的にメンバーシップ型ですから、ジョブディスクリプションを書かなければ会社の中のすべての仕事が「お前の仕事」になり得るんです。もともとメンバーシップはそういう契約なのですよ。
 例えば、たまたまある部署に配属されたとします。その部署にあるどの仕事を担当するかというのは、結局は上司次第のところがあります。「濱口くん、あそこのチームが手を焼いているみたいだから、これやってよ」なんてことがいくらでもある。
 日本社会は量子力学的にできています。原子論的ではなくて、量子力学的にできている。どんな仕事も潜在的には「お前の仕事」であり得て、上司が「あれやって」と言ったら、その瞬間に「あれ」が自分の仕事になるという世界です。日本人から見るとそれが当たり前の姿でしょうね。
-- メンバーシップ型の文化が生み出したジョブディスクリプション必須論ということですね。
濱口 日本でジョブディスクリプションを書いたら、減点法でしか書けないでしょうね。もとはその部署の仕事全部が「お前の仕事」なんですよ。○○課の仕事という線引きは一応あるから、その仕事を全部書き出し、ここからここまではAさん、これはBさんというイメージでしょう。
 基本的にジョブ型社会の出発点は、全部区切られています。その区切られた箱の中に人をはめる。そのポストの人がやっていた仕事が、ジョブディスクリプションなのです。
-- そういうことでしたか。そうなると、メンバーシップ型社会をジョブ型に変えるのは、本当に難しいということもよくわかりました。
 最後に一つ。日本社会はリターンマッチが極めて厳しいと繰り返されていました。誰がどうやって設計したら、リターンマッチができるようになるのか、これは宿題ですか。
濱口 そう、宿題です。

 

 

 

 

 

 

 

水町勇一郎『労働法第9版』

L24352 水町さんの中くらいの教科書、有斐閣の『労働法』も、はや第9版です。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243521

理論的な道筋を明確に示しながら,労働法の全体像とエッセンスをあざやかに描き出す。著しい動きをみせる法令改正やガイドラインの策定・改定,重要な判例の展開に幅広く目を配り,好評の事例には働く現場の実情を反映した。待望の最新第9版。

 

 

『季刊労働法』2022年春号の読みどころ

276_h1_20220314165901 『季刊労働法』2022年春号が届きました。

特集の「労働と人権」、あるいはデューディリジェンスについて、いろんな観点から文章が書かれています。このうち、

EU におけるデューディリジェンスの義務化に関する政策動向 在欧日系ビジネス協議会(JBCE)CSR委員会委員長 木下 由香子

は、残念ながら先月23日に提案された欧州委員会のDD指令案は時間切れで盛り込めなかったようですが、そこに至る過去10年以上にわたる動向を細かく解説してくれており、大変参考になります。

ちなみに、そのEUのDD指令案については、もうすぐ『労基旬報』3月25日号に「EUのデューディリジェンス指令案がついに提案」を載せます。

特別加入の特集では、

フリーランス・トラブル110番(厚労省委託)の意義 森・濱田松本法律事務所 シニア・アソシエイト弁護士 森田 茉莉子

が、具体的な相談事例なども取り上げつつその意義と限界を論じています。

 

 

 

 

 

須田敏子・森田充『持続的成長をもたらす戦略人事』

1937_jizokutekiseichojinjisenryakuthumb1 須田敏子・森田充『持続的成長をもたらす戦略人事 人的資本の構築とサステナビリティ経営の実現』(経団連出版)をお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat2/decef6f1c2b283dc9b542b992df77d0e66f605c9.html

ESG、SDGsへの対応を進める企業が増えているように、サステナビリティ重視の経営環境が急速に進展している。そのようななか、企業と社会の持続的成長を実現する人的資本の構築や、ダイバーシティ&インクルージョンの実現などは重要な対応項目とされ、これらの領域を主管する人事部門にとって、それは喫緊の課題となっている。
賃上げ、ジョブ型への転換に対する関心も高まっている。賃金停滞の原因として、転職の少なさや解雇規制の強さなどを指摘する声はあるが、人材流動化が進むと具体的にどのような変化が起こるのかは、明確になっていない。
そこで本書では、英米のデータをもとに、日本の賃金停滞問題を解決する人事のあり方として、ジョブ型・マーケット型人事(賃金決定)の実態を紹介するとともに、SHRM (Strategic Human Resource Management;戦略人事)研究に基づき、社会と企業の持続的成長を実現する人的資本の構築に関して、その具体的方策を提示する。
付ける調査とは? 調査票作成から集計・分析、測定結果の活用までを具体的に詳述しています。

 

2022年3月13日 (日)

シンポジウム「検証・日本の移民政策」

シンポジウム「検証・日本の移民政策」の案内がアップされたようなので、ご紹介。

http://blog.livedoor.jp/socialmovements/archives/52598365.html

 この数年間、日本の移民政策は大きく揺れ動いている。2019年には特定技能制度が開始され、2021年には難民申請者・非正規滞在者の排除を目論んだ入管法案が廃案になった。特定技能2号の拡充や技能実習制度の見直しに向けた議論も始まっている。こうした動きは、過去30年の移民政策(の不在)の転換を意味するのだろうか?このシンポジウムでは、関係者にインタビューを重ねた知見に加えて、与党政治のなかの外国人労働者政策、労働政策論からみた評価、ベトナムの経験にもとづく分析を加えて、日本の移民政策を多角的に検証する。

日時:2022年4月16日(土)14:30-18:00 
場所:上智大学6号館307号室(オンライン同時配信)
プログラム:

14:30-14:35 趣旨説明
14:35-15:05 「自民党の外国人労働者政策――回顧と展望」
木村義雄(自由民主党外国人労働者等特別委員会特別相談役) 
15:05-15:25 「日本の外国人労働者法政策――失われた30年」
濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)
15:25-15:45 「移民政策をめぐる連立方程式――特定技能に至る経路から考える」
樋口直人(早稲田大学)

休憩

15:55-16:15 「2021年入管法廃案と仮放免者――『存在しない人たち』が動かした社会運動」
稲葉奈々子(上智大学)
16:15-16:35 「『搾取のインフラ』は特定技能で解体されるのか――ベトナム人移住労働者の事例から」
巣内尚子(東京学芸大学)
16:35-16:55 「『ゾンビ・カテゴリー』としての『単純労働者』」
髙谷幸(東京大学)

休憩

17:00-18:00 質疑応答・パネルディスカッション

 

 

2022年3月12日 (土)

堀川祐里『戦時期日本の働く女たち』

600555 堀川祐里さんの『戦時期日本の働く女たち ジェンダー平等な労働環境を目指して』(晃洋書房)をお送りいただきました。奇しくも、昨日紹介した『女性自衛官』とは、戦争と女性というトピックでつながりがあるとはいえ、現代ではなく戦時体制下、前線で戦う軍人ではなく銃後で戦う産業戦士たる女性であり、全く対極的なテーマとも言えます。

http://www.koyoshobo.co.jp/book/b600555.html

「第49回赤松賞」を受賞した著者が、戦時期の女性労務動員についての歴史的・実証的研究から、現代にも通じる女性労働者の稼得労働と妊娠、出産、育児に関する課題を照射する。

「総力戦」が強調された戦時期における女性労務動員の展開は、グローバル経済下で競争力の維持を目指す現代日本の労働政策と相通ずる点があるのではないだろうか。赤松常子は敗戦直後に「日本女性の戦ひはこれからである」と残した。現代を生き抜くために今知っておきたい戦時期日本の働く女たちの姿がここにある。

赤松賞の赤松って、本書を通じた主人公である赤松常子のことです。

日本労働総同盟婦人部を率いて戦前期女性労働運動のリーダーであった彼女は、戦時体制下では産業報国会の中で、女性の労務動員下での労働者保護に奮闘します。そして終戦直後の労働基準法制定時には生理休暇の導入に力を尽くしました。

戦時体制が女性労働に対して持つ意味は二重です。世界共通に、男性が徴兵されて労働力不足となった産業界に女性労働力を導入することが行われ、これが戦後の女性の権利につながっていきます。と同時に、これは日本独特の傾向ですが、戦時体制下で賃金制度における家族主義が強調され、それが戦後の生活給につながっていくという面もあります。

わたしが『働く女子の運命』でそのあたりにも触れたのはもう7年前になりますが、拙著ではちらりとしか触れられなかった戦時下の様々な女性群像が、本書ではたっぷりと描かれています。

はしがき

序 章  戦時期日本の働く女たちに関する研究のこれまでとこれから
1 戦時期日本の働く女たちに関する研究の到達点
2 女性労働者の労務動員が生じさせた摩擦

第一章  一九二〇年代から一九三〇年代の女性の就業状態
      ――労働運動の指導者と研究者の視点から見た働く女たち
1 一九二〇年代から一九三〇年代の女性労働者の就業状態
   ――稼得労働と妊娠、出産、育児との両立
2 稼得の必要性から働かざるを得ない未婚の女性労働者
   ――赤松常子の問題意識
3 労働環境が及ぼす健康への影響
   ――研究者たちの視点から見た女性労働者

第二章  未婚女性の労務動員のための「戦時女子労務管理研究」
      ――労働科学研究所の古沢嘉夫の視点から
1 戦争の開始と「戦時女子労務管理研究」の必要性
2 労働科学研究所の「戦時女子労務管理研究」
   ――古沢嘉夫が訴えた女性労働者の健康
3 女性労働者の出身階層と健康状態
   ――月経に関する調査研究
4 生き抜くために働く既婚女性と研究者の制約

第三章  既婚女性労働者の困難
      ――妊娠、出産、育児期の女性たち
1 既婚女性は労働力の対象ではなかったのか
2 救貧対策としての母子保護法の制定
3 貧困家庭の母親たちに向けられた政府の二重の期待
4 働く母親たちと保育環境

第四章  女性たちの労務動員に対する態度の多様性と政府の対応策
1 階層格差から生まれた女女格差
2 職場における男女格差
   ――男女同一労働同一賃金の議論のゆくえ
3 女性の労務動員の最終手段
   ――女子挺身隊から現員徴用へ

第五章  赤松常子の主張と産業報国会の取り組みとの齟齬
      ――既婚女性の労働環境をめぐって
1 使用者たちに抵抗する産業報国会女性指導者
2 女子挺身隊に対する未婚女性の母親たちの心配
   ――産業報国会に求められた未婚女性への「生活指導」
3 働かざるを得ない既婚女性を守ろうとした赤松常子
   ――言説に見られる制約
   
第六章  戦時体制が残した女性労働者の健康への視点
      ――生理休暇の現代的意義
1 戦時期がもたらした敗戦直後の女性労働への影響
2 生理休暇制定を主張した赤松常子
3 消えかけた生理休暇
4 生理休暇が本当に〈消える〉ために必要なこと

終 章  戦時期日本を生き抜いた働く女たち

 あとがき
 参考文献

ところで、本書でもちらりと触れられていますが、赤松常子のお兄さんは、赤松克麿なんですね。東大で宮崎龍介と一緒に新人会を立ち上げ、社会主義運動をリードした後、国家社会主義に向かっていった、これまた近代日本を象徴する一人です。

 

 

 

 

 

日本の公務員法制はジョブ型だったんだが(再三再四)

人事院自らがこんなことを口走っているようなので、

https://www.saga-s.co.jp/articles/-/823555(「ジョブ型雇用」公務員に)

 国家公務員の働き方改革を検討する若手官僚のチームが11日、二之湯智国家公務員制度担当相、川本裕子人事院総裁と東京都内で意見交換した。検討チームは若年層の離職が増える現状を踏まえ、あらかじめ職務内容を明確にする「ジョブ型雇用」導入など、公務員の未来像の試案を提示。意見交換を踏まえて近く提言をまとめる方針だ。・・・・・

もうなんだか本ブログでも何回も繰り返してきたような気がするんですが、終戦直後に作られた国家公務員法というのは徹頭徹尾ジョブ型で作られた法律だったんですよ。

先日財務総研で喋ったときのスライドを揚げておきますが、

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2022年3月11日 (金)

上野友子・武石恵美子『女性自衛官』

41yhltht1gl 上野友子・武石恵美子『女性自衛官 キャリア、自分らしさと任務遂行』(光文社新書)をお送りいただきました。

圧倒的に男性が多く、「男性的」な構造が色濃く反映された組織に生きる「女性自衛官」。著者が自らの防衛省勤務経験を活かし、未だ全体の8%未満と超マイノリティである女性自衛官、中でも子育て経験のある幹部自衛官を対象にインタビューを実施。任務を遂行する上で抱える課題、出産や子育てでぶつかる壁、それをどう乗り越え壊してきたのか――そして、自分の仕事をどのようにとらえてキャリアを形成してきたのかを通じて、日本社会で働く女性が共通して直面する葛藤やキャリア形成の問題点をより鋭角的にあぶり出す。有事には「命を懸けてでもこの国を守る」と誓う母親たちが見出した、究極のワークライフバランスとは? 女性自衛官の生の声という資料を基に描いた、新・女性キャリア論。

これはなかなかいいところを衝いてきた本です。帯の「戦う女のWLB」とか「国を守って家族も守る」という惹き句はたぶん編集者がつけたのでしょうけど、もともとほぼ完全な男性職域であった軍人の世界に、子供を育てる母親として生きていく彼女らの姿は、女性活躍とかWLBを論ずる上でとても有用な補助線になります。

著者の一人は防衛省の事務官、男性なら制服組に対して背広組と言われるところですが、もう一人の著者である研究者の下で社会人大学院生として修士論文を書き、それが本書に結実したというわけです。

いろんな観点から面白さを見つけることができる本だろうと思いますが、一つ注目しておきたいのは、軍隊というのが徹底した階級社会であることが、彼女ら女性自衛官にとってある面でメリットになっているという指摘でした。

・・・・たぶん階級があるからこそ、私たちは女性であることを意識せずに仕事ができるのだと思います。幹部自衛官としての仕事のやりがいについて考えてみると、女性だから男性だからということではなく、階級に応じて仕事が与えられていると思います。例えば、一佐としてのあなたに命じているのです、というのが通じる社会なのです。だからやりやすいところもあるのだろうなと思っています。

これはなかなか皮肉なところで、日本の普通のメンバーシップ型の組織はむしろあまり階級社会ではないがゆえに、かえって女性が活躍しにくいという面もありそうです。

 

 

 

2022年3月10日 (木)

『季刊労働法』2022年春号

276_h1 『季刊労働法』2022年春号(276号)の予告が労働開発研究会のサイトに出ています。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/9951/

今号では、「ビジネスと人権」の“今”を展望します。児童労働撤廃年とされた2021年の回顧、ヨーロッパにおけるビジネスと人権に関する最新動向の紹介などをし、もちろん国内の民間企業における動向、弁護士の取り組みについても言及します。
第2特集では「特別加入制度の在り方と今後の課題」を取り上げます。同制度の適用範囲と補償内容の拡充、また、芸能従事者の労災補償と安全衛生や、厚労省委託事業の「フリーランス・トラブル110番」の意義について、掘り下げます。

というわけで、ついに季労もデューディリジェンスを取り上げました。

ちょうど、去る2月23日に、欧州委員会が待たれていたデューディリジェンス指令案を提案したこともあり、まことに時宜に適した特集と言えましょう。

労働と人権をめぐる新たな動き

労働法と「ビジネスと人権」―「ビジネスと人権」は労働法の当事者にどのような意義があるか 岡山大学准教授 土岐 将仁

児童労働撤廃国際年を回顧する中央大学講師・前ILO(国際労働機関)駐日代表 田口 晶子

EU におけるデューディリジェンスの義務化に関する政策動向 在欧日系ビジネス協議会(JBCE)CSR委員会委員長 木下 由香子

ビジネスと人権―これからの労働法務に求められる取り組み 日本貿易振興機構アジア経済研究所 新領域研究センター法・制度研究グループ長 山田 美和

「ビジネスと人権」~企業へのインパクトとILO の役割ILO 駐日代表 高﨑 真一

「ビジネスと人権」に関する弁護士の役割 弁護士・ニューヨーク州弁護士 大村 恵実 

以下、このような論文が並びますが、

【第2特集】特別加入制度のあり方と今後の課題

特別加入制度のあり方について―フリーランスの特別加入と補償を中心として 東洋大学講師 田中 建一

芸能従事者の労災補償と安全衛生(一社)日本芸能従事者協会 代表理事 全国芸能従事者労災保険センター 理事長 俳優 森崎 めぐみ

フリーランス・トラブル110番(厚労省委託)の意義 森・濱田松本法律事務所 シニア・アソシエイト弁護士 森田 茉莉子

■論説■
不当労働行為意思の論じ方北海道大学名誉教授 道幸 哲也

ILO100号条約第3条の成立:1951年同一報酬委員会の審議(下)明治大学名誉教授 遠藤 公嗣

■労働法の立法学 第63回■
個人情報保護の労働法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

■イギリス労働法研究会 第39回■
トイレの使用制限から見る性自認差別の課題―イギリス法を手掛かりに 久留米大学教授 龔敏

■アジアの労働法と労働問題 第47回■
インダストリオール・グローバルユニオンの地域活動について―東南アジア地域事務所の活動 インダストリオール・グローバルユニオン東南アジア地域事務所所長 岩井 伸哉

■判例研究■
コース別雇用管理と採用差別・職種転換上の差別の存否 巴機械サービス事件・横浜地判令和3・3・23労働判例1243号5頁 上智大学教授 富永 晃一

事業所閉鎖に伴う不更新合意と更新の合理的期待 日本通運事件・東京地判令和2・10・1労働判例1236号16頁 琉球大学准教授 戸谷 義治

■重要労働判例解説■
労働者の原職場復帰に関する使用者の配慮義務と業務命令の相当性 東京福祉バス事件・東京地判令和3・6・17LEX/DB25590527 常葉大学講師 植田 達

退職願の退職の意思表示が意思無能力で無効とされた事例 長崎市事件・長崎地判令和3・3・9労経速2456号27頁 弁護士 松岡 太一郎 

わたくしの労働法の立法学は、今回は個人情報保護の労働法政策です。

 

 

 

EUの女性に対する暴力と戦う指令案

一昨日は国際女性デーだったわけですが、ちょうどその日に合わせてか、欧州委員会が女性に対する暴力と戦う指令案(Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on combating violence against women and domestic violence)というのを公表しています。

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=COM:2022:105:FIN&from=EN

マスコミの関心は、第5条の同意なき強姦の定義とか、女性器切除の第6条とか、同意なき写真やビデオの公開(第7条)やサイバーストーキング、サイバーハラスメントなどいろいろありますが、先の方まで読んでいくと、ちらりと労働法に関わる規定も出てきます。第30条の職場のセクシャルハラスメントの被害者に対する専門家の支援という規定で、職場から加害者を除去する法益救済などというのもでてきます。

来月刊行予定の『新・EUの労働法政策』にもちらりとでも盛りこめれれば盛り込みます。

 

ヴァレリー・ハンセン『西暦一○○○年 グローバリゼーションの誕生』@『労働新聞』

9784163913704_1_3273x400 『労働新聞』に月1回寄稿している「本棚を探索」。今回はヴァレリー・ハンセン『西暦一○○○年 グローバリゼーションの誕生』のご紹介です。

https://www.rodo.co.jp/column/123075/

 「グローバリゼーション」をタイトルに謳う本は汗牛充棟である。試しにamazonで「グローバリゼーション」を検索すると、826件ヒットする。「グローバル化」だと1000件を超える。それらのほとんどは、今日ただいま我われの面前で進行中のグローバリゼーションを経済学、社会学、政治学等々の観点から分析したものだ。とはいえ、時代を遡れば、開国をもたらした19世紀の黒船到来、さらには戦国に鉄砲をもたらした15世紀の南蛮人も当時のグローバリゼーションの現れだった。そこまでは分かる。

 ところが本書のタイトルは、なんと西暦1000年がグローバリゼーションの誕生だというのだ。日本でいえば清少納言や紫式部が活躍していた時代、遣唐使は廃止され、清盛の日宋貿易もないまるでドメスチックな時代ではないか。どこがグローバルなんだ、と思う人が多かろう。

 本書が説き起こすのはアイスランドから北米大陸に渡ったバイキングたちの足跡だ。その足跡は中米マヤ遺跡にも及ぶ。一方スカンジナビアから東に向かい、その地にロシアの名を与えたルーシたちは、現地のスラブ人たちをその名の通りスレイブ(奴隷)として中東イスラム圏に輸出した。当時、奴隷という労働力は最大の輸出品目だったのだ。

 アフリカのマリ王国のマンサ・ムーサ王は世界一の富豪王と呼ばれたが、近代以降の大西洋をまたぐ黒人奴隷貿易の原点は、イスラム圏を中心にした奴隷貿易ネットワークだった。だが、当時の奴隷は近代以降とだいぶ趣が違う。捕獲したり購入した奴隷でもって作られた奴隷軍団が、やがて支配者を殺してスルタンに成り上がっていく。そういえば、かつて高校の世界史で「奴隷王朝」という不思議な言葉を覚えたっけ。労働者が首相になる時代の遥か昔に、奴隷が王様になる時代があったのだ。

 欧米人がグローバリゼーションの始まりだと思っている大航海時代とは、実のところアフリカから中東、インド、東南アジアを経て中国に至る既存の交易ルートを乗っ取っただけというのが最後のトピックだ。そこを読んでいくと、高校の世界史で大航海時代をもたらしたのは東南アジアの「香料」だったと教わった時のイメージが、食品用の香辛料に偏っていたことが分かる。西欧人がやって来るずっと前から東南アジアの「香料」はグローバル商品であり、それは日本にも大量に輸入されていたのだ。え? 平安時代の女官がスパイシーなカレーを食べていたって? そうじゃない。食べる香料じゃなくて嗅ぐ香料、「お香」だ。

 そういわれてみると、まるでドメスチックに見えた平安貴族の世界が、東南アジアから宋を経て輸入されたさまざまな香料に満ち満ちていたことが浮かび上がってくる。本書では、源氏物語の香をめぐる多くの描写が引用されて、それが当時のグローバリゼーションの証しとされるのだから、何とも複雑な気分になる。

 いや、食べる方の香料も宋代に発達した。漢方薬は、多様なハーブや香料を臼で挽いて粉末状にしたもの。それを煎じて薬湯として服用する。宋では世界初の公立薬局が開業した。漢方薬も古のグローバリゼーションの証しだったとは。

 

 

 

 

2022年3月 8日 (火)

国際女性デーで拙著も紹介されました

31bfqedepsl_sx311_bo1204203200__20220308212601 本日(3月8日)は国際女性デーということで、文春新書の中の人が、関係する文春新書をいくつか紹介していて、その中に拙著も含まれていました。

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1500985442828972032

3月8日は国際女性デー👭1908年ニューヨークで女性労働者が労働条件改善を求めデモを起こしたのが始まり。ロシア革命最中には、この日決行された女性たちによるデモが男性労働者、兵士を巻き込んだ大蜂起につながり、帝政ロシアを崩壊に追い込んだ。75年に国連により「国際女性の日」と定められた。

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1500987811603750913

以来、3月8日は女性の平等な社会参加環境を世界的に呼びかける「国際女性の日」として広がりを見せてきました。2022年のテーマは「持続可能な明日に向けて、ジェンダー平等をいま」。文春新書からも何冊か、このテーマを考える本をピックアップしてご紹介してみます📚

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1500990611700154371

1冊目は上野千鶴子さん『女たちのサバイバル作戦』(2013)。働く女性は以前より生きやすくなったでしょうか? 答えはイエス&ノー。ネオリベ改革、自己責任の時代……男女雇用機会均等法から今日までの、雇用と労働を中心に女性たちを取り巻く30年間の変化を論じた一冊です。

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1500992456879337475

2冊目は濱口桂一郎さん『働く女子の運命』(2015)。日本のジェンダーギャップ指数が改善しない理由は雇用システムにある。〈ジョブ型社会〉の欧米諸国と違い〈メンバーシップ型社会〉である日本型雇用の持つ限界。豊富な資料をもとに日本型雇用と女性の歴史を描き出します。

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1500994696486653953

3冊目は今月発売の秋山千佳さん『東大女子という生き方』。東大に初めて女性が入学して75年。孤独、挫折、ハラスメント……誰もがぶつかる「人生の壁」をどう乗り越えたのか。「東大女子」を通して、日本社会の影と未来をあぶり出す。前向きな読後感を残す開かれた1冊です!

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1501051840838119432

4冊目は週刊文春編『少女漫画家「家」の履歴書』。

トキワ荘に暮らした唯一の女性である水野英子さんを皮切りに、一条ゆかりさん、美内すずえさん、山岸涼子さんら1970年代までにデビューした12人の少女漫画家。その人生の軌跡と作品誕生秘話は読みどころ満載です。

https://twitter.com/bunshunshinsho/status/1501055247661559808

5冊目は内田也哉子さんと中野信子さんの対談集『なんで家族を続けるの?』。

私たちは"普通じゃない家族"の子だったーー。血のつながりは大事なのか? 貞操概念はたかだか150年、イエ制度と姓をめぐって。家族のかたちと女としていきることの不自由さ、楽しさも語られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左派」とは帝政ロシアを崇めボリシェビキを非難する人々のことであったか

H676ufd7_400x400 佐々木俊尚さんがあきれ顔でこう呟いていますが、

https://twitter.com/sasakitoshinao/status/1501089448209100801

私の書いたこの記事に、左派系陰謀論者の人たちが執拗にからんできてますね……。あの人たちは「自分は無知な大衆よりも知的優位に立っている」と思い込んでるから右派系陰謀論よりさらに面倒。/ウクライナ侵攻「正しい情報」見抜くプロの読む力 ">私の書いたこの記事に、左派系陰謀論者の人たちが執拗にからんできてますね……。あの人たちは「自分は無知な大衆よりも知的優位に立っている」と思い込んでるから右派系陰謀論よりさらに面倒。/ウクライナ侵攻「正しい情報」見抜くプロの読む力

陰謀論者は似たようなものといえばそれまでですが、そういうたぐいの人々が自分を「左派」と自己認識しているらしいことに、今さらながら驚かされます。世に倦む日々のおっさんとか、かつて民族の牢獄といわれたロシア帝国時代を崇め奉り、それを分断したといってレーニンやボリシェビキを非難しているプーチン閣下を断固支持するというのは立派な「左派」なんですね、彼らの脳内では。

 

 

2022年3月 6日 (日)

非武装中立のなれの果て

かつて20世紀の反戦平和運動ってのは、それでも侵略者に対して侵略を止めろと叫ぶものだったはずだが、時経て人の心も遷り行き、21世紀のこの時代には、偉大なる侵略者さまに対してはその大御心を最大限に斟酌し、下賤な被侵略者どもめに対しては無駄な抵抗をせずにさっさと降参して命じられた通り非武装中立になれと居丈高にお説教するものになっているようだね。

侵略者が市民に猛爆撃をしながら非武装化だの中立化だのを要求しているのを有難がっているのを見ると、なるほど、非武装中立ってもののなれの果てはこういうものだったかと得心する。

 

2022年3月 5日 (土)

香川孝三編著『アジア労働法入門』

601072 香川孝三編著『アジア労働法入門』(晃洋書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.koyoshobo.co.jp/book/b601072.html

多くの日本企業が,アジア諸国に進出している.企業は現地の労働者を雇用して,彼らとの良好な労使関係を構築することで,生産性の向上を目指している.そのためには,各地の労働法を知ることが不可欠である.
歴史や現状など,アジア各国の労働法の基本事項をまとめた概説書. 

全15章のうち半分強の8章を香川さんが執筆し、それ以外はそれぞれの国の専門家が執筆するという作りです。

第1章 「アジア労働法」への誘い (香川 孝三)

第Ⅰ部 東アジア
 第2章 韓 国 (新谷 眞人)
 第3章 台 湾 (根岸 忠)

第Ⅱ部 東南アジア
 第4章 フィリピン (神尾 真知子)
 第5章 タ イ (吉田 美喜夫)
 第6章 カンボジア (香川 孝三)
 第7章 マレーシア (香川 孝三)
 第8章 シンガポール (香川 孝三)
 第9章 インドネシア (イク ファリーダ/鬼 正一)
 第10章 ミャンマー (香川 孝三)
  コラム1 アセアンにおける労働にかかわる活動 (香川 孝三)

第Ⅲ部 南アジア
 第11章 インド (香川 孝三)
 第12章 バングラデシュ (香川 孝三)

第Ⅳ部 社会主義市場経済国
 第13章 中 国 (烏蘭格日楽)
 第14章 ベトナム (斉藤 善久)
 第15章 ラオス (香川 孝三)
  コラム2 アジア労働法とILO (香川 孝三)

04021351_6066a2d0a83c9_20220305150101 本書の対象領域については、私も昨年刊行した『団結と参加』で(中国については数え方によりますが)14か国等の労使関係法制についてまとめた経験があります。労働法の中でも特に労使関係に関わる領域は、民主主義と密接なかかわりがあるので、社会体制によって極めてさまざまな姿を示すところから、突っ込めば突っ込むほど面白い領域だと思います。

ところで、本書における国の並べ方を見ると、地域別3つプラス社会主義経済国となっていて、それはわかるのですが、ラオスは中国、ベトナムと一緒に社会主義国に放り込まれ、カンボジアはタイやマレーシアと一緒にそうじゃない区分というのは、ちょっとよくわからないところがあります。中国やベトナムも社会主義といったってむかしのソ連型社会主義体制なんかじゃなく、資本主義市場経済に共産党の独裁体制が載っているだけなんじゃないかと思うのですが、その辺の基準はどうなっているのでしょうか。

 

 

 

それは文系と理系というよりも、純メンバーシップ型とややジョブ型のイメージ

Eega8pxf_400x400 こういうツイートが話題になっていましたが、

https://twitter.com/yuritako/status/1499182720580153345

なんか最近新卒の面談で、理数系が得意だった文系の優秀な女の子を良くみる。
なんで文系に?と聞くとみんな、まだ何やりたいかわからないなら、理系だと将来の選択肢が狭まってしまうので文系にしなさいと言われました、と。
日本の高校の進路相談にこそ、癌がありそうね。。。

https://twitter.com/yuritako/status/1499183226371272704

理系から普通に文系就職はできるけど、逆はできないので、むしろ理系の方が幅が広がるよ!と話すと、はい、確かに就活始めてみて、初めてそれに気付きました、と。
高校の先生がしっかりとしたキャリア教育できてれば、この国にもっと優秀な研究者、技術者は増えるんじゃないかしらね。 

これって、なまじ文系と理系という言葉になっているのでわかりにくいですが、教育と職業の関係という意味で言えば、

教育と職業が密接な無関係である純メンバーシップ型コースの文科系(事務系)と、

教育と職業がまあそこそこ密接な関係があるややジョブ型っぽい理科系(技術系)の対比と考えた方がいいでしょう。

そういう意味では、この高校の先生の進路指導とは、まさに戦後日本社会が作り上げてきた牢固たる発想の発露であって、それこそが生徒のためだという信念に何の変りもないのでしょう。

(参考)

71cahqvlel_20220305094401 『ジョブ型雇用社会とは何か』

 日本の企業はメンバーシップ型で、このジョブのこのスキルがある人ということは全く考えずに、ただ、素人として入ってから上司や先輩に鍛えられて、どんどん成長していきます。その仕組みを前提として、学校の方も、今このジョブができる人を育てるのではなく、何でもできる可能性のある素材を育てて企業に提供していくという教育の在り方に特化してきました。これはいい悪いということではなく、日本の雇用システムを前提とした教育システムの進化として最適化したのです。
 そうなると、逆に企業のほうも、このジョブのこのスキルを持った人はいませんかという求人を出しても、レベルの低い人しか応募してこなくなります。なぜなら、優秀な人間ほど何でもできる可能性のある一般教育の方向に行くからです。このジョブのこのスキルを身に着けるという教育コースをたどった人間は、相対的にレベルの低い人間と評価されることになることがほぼ確実に予想されます。ですから、ジョブ型の採用をしようとすると、レベルの低い学生をつかんでしまうことになるのです。
 比喩的に言うと、日本のメンバーシップ型の教育と採用の在り方はiPS細胞方式です。iPS細胞は何にでもなります。今は何でもないけれども何にでもなりえます。iPS細胞を手にくっ付けたら手になりますし、足にくっ付けたら足になりますし、頭にくっ付けたら頭の細胞になります。そういう何にでもなりうる潜在力を持ったものとして、日本の教育システムは育ててきました。その中で、これしかできませんという形で育てられた人間は、レベルの低い素材だということになってしまいます。お互いに企業の側も、学校の側も、そのシステムの中で最適化しようとすればするほど、よりメンバーシップ型に特化した形になってしまうのです。・・・・

 

 

2022年3月 4日 (金)

HRイブニングセッション講演録「ジョブ型」論の誤解を正す@『労政時報』4031号

Rouseijiho 毎月WEB労政時報にコラムを載せていますが、今回は紙媒体の『労政時報』です。

昨年8月のHRイブニングセッション「 「ジョブ型」論の誤解を正す」で、わたくしと三菱UFJリサーチ&コンサルティングの石黒太郎さんによる講演とディスカッションをしましたが、それが同誌4031号に掲載されています。

https://www.rosei.jp/common/data/backnumber/pdf/4032.pdf

https://www.rosei.jp/readers/article.php?entry_no=81698





 

 

『労働法における最高裁判例の再検討』

600714 沼田雅之・浜村彰・細川良・深谷信夫編著『労働法における最高裁判例の再検討』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b600714.html

裁判実務上確立したとされる重要な労働法に関する最高裁判例法理を再検討する。
判決の正確な理解と意義づけ、さらに学説による従来の理解や意義づけを見直し、理論的な検討を行う。
新たな理論的可能性を探り、労働法研究だけではなく、裁判実務にも有益な示唆を与える! 

『労働法律旬報』に一昨年から昨年にかけて断続的に連載されていたもので、わりと若手の研究者による論考が載っています。

第1章 個別的労働関係における労働者/第2章 集団的労働関係における労働者/第3章 集団的労働関係における使用者/第4章 労働基本権の制限/第5章 採用の自由/第6章 就業規則の法的性質/第7章 就業規則の不利益変更・変更就業規則(1)/第8章 就業規則の不利益変更(2)/第9章 全額払いの原則と合意による相殺/第10章 時間外労働義務/第11章 使用者の懲戒権/第12章 配転/第13章 労働者派遣と偽装請負/第14章 チェック・オフ/第15章 ビラ貼り/第16章 ピケッティング 

 

 

 

 

2022年3月 3日 (木)

川人博・高橋幸美『過労死・ハラスメントのない社会を』

08739 川人博・高橋幸美『過労死・ハラスメントのない社会を』(日本評論社)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8739.html

コロナ禍の今も、過労・パワハラ被害は続いている。
あのとき何があったのか、これから何ができるのかをわかりやすく解説。

 

 

 

2022年3月 1日 (火)

ウラジミール・プーチン 欧州を団結させた男

2a3cfac9218882008e23415a47597a51800x EUobserver紙に載ったデニス・マシェーンさんの「Vladimir Putin – the man who just united Europe」(ウラジミール・プーチン 欧州を団結させた男)というエッセイが、なかなか皮肉が効いていて大変面白い。

https://euobserver.com/opinion/154453

War is famous throughout history as the midwife of revolution. But no-one could have imagined just a short week ago when Vladimir Putin launched his invasion of a European democracy, Ukraine, that in just a few days there would be a revolutionary change not seen in Europe, since — well — the days of the Bolshevik upheavals of 1917.

In short, Putin has united Europe as never before.

 

戦争は歴史を通じて革命の産婆として有名である。しかし、ウラジミール・プーチンが欧州民主主義-ウクライナへの侵略を始めたほんの数週間前まで誰も想像しなかったような革命的変化が、そう1917年のボルシェビキ蜂起以来欧州に見られなかったようなことがここ数日間で起こったのだ。

一言で言えば、プーチンは未だかつてなく欧州を団結させた。

で、スウェーデンとフィンランドがNATOに入ろうとしているとか、ドイツが大軍拡に乗り出し緑の党も賛成しているとか、いろいろ並べて「コペルニクス的革命」だといい、こういう皮肉を噛ませます。

When the crisis is over, Brussels should erect a statue to Vladimir Putin as the man who woke Europe from a long sleep as its leaders decided to accept responsibilities they had long shunned.

危機が終わったら、ブリュッセルは欧州を長い眠りから覚醒させた男としてウラジミール・プーチンの銅像を建てるべきだろう。

この記事の皮肉の矢はイギリス政府に向かいます。

Europe appears to have decided to do defence of freedom and to no longer tolerate Putin oligarchs. That leaves Britain and its capital city now known as Londongrad in a delicate position.

欧州は自由を守りもはやプーチンのオルガルヒを許容しないと決めた。これはイギリスといまやロンドングラードとして知られるその首都を微妙な位置に置くことになろう。

ロンドングラードなんて言葉は初耳でしたが、この記事によるとプーチンのオルガルヒにとってロンドンは「home-from-home 」(自分の家みたいに気楽な場所)なんだそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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